- 46話 -
道
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目次
~最後に~
ニューヒキダの N 地区……。
地底深くまで伸びる 大きな開口の大穴から……。漆黒の鎧の戦士が 黒馬型戦車で 飛び出し……。
近隣への 避難範囲の拡大と……。情報の統制を 行った。
…………。
地底湖へと繋がる 進入路からは……。数名のレヴル・ロウや……。獅子の意匠が印象的な戦士が 退避行動を取る。
…………。
それから しばらくした後だ。
…………。
地底湖の方では……。2人の青年からの情報通りに……。激しい戦いが……。人知の及ばない戦いが 続いているのか……。
地鳴りが何度も起こり……。開口の奥底から……。爆発的な光の放流が 立ち昇る。
…………。
この時に観測された アルカナの光の粒子は……。APCの特務が誇る 計測器さえも破壊した。
誰が見ても 間違い用の無い 計測不能の過度な 光が……。大きな柱となって 大穴の奥底から立ち昇ったのだ。
…………。
これは 後に……。世界的なニュースとして……。22災害と同等か それ以上の注目を集める。
それ程の影響を 瞬間的にも……。継続的にも 及ぼした 大きな光の放流だった。
…………。
周囲の人々が 光の放流を 視界に納めた その時……。
洞の奥底で 何が起こっているのか おおよその 理解が 及んでいる 2人の青年は……。特に表情を険しくする。
…………。
1つの戦いが……。一定の結果に近づいていく 瞬間だった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
洞の中では……。闇の化身と 真紅の愚者が……。激しくぶつかる。
日樹田地底湖の上方……。宙空の 物理的に足場も存在しない 範囲の中で……。
真紅の愚者は……。あたかも 地表を滑走する ホバー移動のように……。スラローム移動で駆けていき……。闇の化身に相対した。
…………。
苛烈な戦いが……。臨界点を超えたのか……。青年は……。最後の手段に手を伸ばす。
…………。
この瞬間の青年が選べる最大の……。最も強く……。最もリスクを伴う……。切り札だ。
『 Change !! re:code !! mode 0N !!
( チェンジ !! リ・コード !! モード・オン !! ) 』
…………。
真紅の愚者は 大杖を 光の粒子に変えて……。自身の身体に取り込むと……。更に別の姿へと自身を変化させる。
…………。
「 今時代の愚者の戦士よ……。忘れるな……。
お前が……。オレの心の内の後悔を知っているように……。オレも それを見ている。
最後まで……。それを捨てるな。
……さらばだ。 」
…………。
青年にとって……。未知の連続の中で 何度も戦い……。最後には共にあった 戦士の声が 離別の言葉を残す。
同時に……。戦神の気配は消え失せて……。
真紅の大杖さえも……。両親から貰った かつての御守りも 完全に消え去った。
…………。
既に真紅の愚者では 無くなった 青年の姿に……。
闇の化身が 反応を示す。
…………。
「 闇を払う 馬鹿な愚者だと…… ?
くだらぬ……。人間としての身体を捨てた貴様も……。人間の範疇から抜け出せない先程の 2人も……。
絶対なる 唯一の闇の我に 敵う筈もないのだ。
我は……。底亡き深淵……。何をもってしても……。完成された完全なる 闇は……。打ち払えぬ。
今の貴様の行いは……。自ら未来を捨てたのだ。
貴様も……。不完全なエヌ・ゼルプトと同じくして……。いずれ単独崩壊を起こすだろう。
我の……。偉大なる闇の勝利だ。 」
…………。
闇の化身が 地底湖から 溢れる 神秘の光を全身へと吸い上げて……。
むき出しの圧力を……。凶悪で 底なしの 覇気へと変えた。
…………。
真紅の愚者では無くなった 青年の 意思も 揺るがない。
…………。
「 俺はさっき……。全てを冗談にすると言ったんだ。
因果律への干渉は……。今の俺にも出来る……。全てを ひっくり返してでも……。お前を消す。
皆が繋いだ今を……。必ず過去にする。
いつの日か必ず来る 未来での 笑い話し にして見せる !! 」
…………。
青年の 新たな姿は……。全身の至る所で 神秘の光が 吹き出し……。
不定形の……。1つの形状には納まりきらない 力の放流が……。辛うじて 人の形をしているような印象させ漂わせる。
特に……。掌や……。肩からは 絶えず放流が溢れ……。不定形の光の噴出が 大きく弧を描いた。
…………。
re:code-0000- mode 0N……。
( リ・コード エイプリルフール モード・オン )
…………。
青年が得意とする 護符の恩恵とも比べ物にならない 破格の光の放流が……。
あらゆる 可能性を引き寄せる 因果の光が 暴れ狂う。
…………。
……。
因果の光を 暴れさせる 愚者は……。闇の化身が扱う武器を 殴り砕き……。
両肩からの噴流を 推進力に変えて……。一気に懐まで飛び込み……。極まった打撃を叩き込む。
…………。
予備動作も無く……。
重力さえも完全に無視した 迅速な前方への回転から繰り出される、強力な踵落とし(かかとおとし)が……。
闇の化身の翼を切り裂く。
…………。
荒ぶる愚者の拳が……。即座に振り下ろされ……。闇の化身を 地底湖の水面へと叩き落とした。
…………。
闇の化身は……。翼を失い 片翼のまま……。水面を蹴り……。洞内の地面の上へと 飛び退く。
片手では……。地底湖を揺蕩う(たゆたう)アルカナの光を吸い寄せて……。
消耗した 身体へと 取り込んでいる。
…………。
「 我は……。負けぬ……。
絶対なる 闇が……。世界を飲み込むのだ……。
世界は……。再生亡き永劫の 不完全へと……。輪廻亡き……。破滅へと向かうのだ。
偉大なる闇の……。成せる創造が……。世界を手中に納める。
貴様は……。一過性の力で……。何も掴めぬのだ……。 」
…………。
愚者は……。宙空から……。両肩の放流を利用し……。急激な速度で接近し……。拳鉄を 闇の化身の腹部に めり込ませた。
…………。
「 手放すかよ……。俺には……。俺にとっての未来を揺らす 1つの底力は…… !!
……負けない !! 」
…………。
闇の化身が吹き飛ぶよりも……。更に速く……。後方へと回り込み……。
回し蹴りで……。闇の化身の頭部を 地面に叩き落とす。
…………。
青年の猛襲は……。一切合切の隙を与えない。
…………。
……。
闇の化身が……。反撃に移り……。拳を繰り出すが……。青年は……。自身の腹で これを受けたまま……。
相手の頭部を 殴り上げた。
…………。
「 この世界の営みの全ては……。絶対に無意味にさせない。
人間に マルクトは 必要なかったんだ。
世界の因果律を 揺らし続ける 数多くの答えは 今も既にあるからだ……。
無理矢理 決定づける必要なんてない。世界を闇の中に 押し込める必要だってない。 」
…………。
更なる 追撃の殴打で……。闇の化身に拳を打ち付けると……。拳が触れた瞬間に……。両肩からの光の噴流が 上がる。
…………。
闇の化身は……。宙へと吹き飛ばされ……。青年は両肩からの放流で……。膨大な光の中へと 飛び込んだ。
…………。
「 俺だって 生きる……。
俺は…… !!まだ…… !!……真尋ちゃん に 気持ちを伝えていないんだ !! 」
『 re:code !! Function !! F0000l Pentacle !!
( リ・コード !! ファンクション !! フール・フール・フール・フール・ペンタクル !! ) 』
…………。
煌めく愚者の 両肩からは……。荒ぶる光が螺旋を描き……。強靭な力の高まりを 光の柱に変える。
…………。
日樹田地底湖から湧き出る 全ての光さえも 吸い上げて……。
…………。
青年は……。ありったけの力の全てを……。吐き出して……。宙に向けて跳び上がり……。
中空で 身動きさえ取れない 闇の化身に……。跳び蹴りを 叩き込む。
…………。
愚者の蹴りは……。闇の化身を飛び蹴りのまま 引き連れて……。洞の天へと ぶつかった。
幾層もの岩盤を……。闇の化身 越しに蹴り進み……。
…………。
両肩からの光の放流を より強く……。噴出させる。
…………。
闇の化身は 青年の片足を腹で受け……。両手で コレを離さずに……。引力の光を生み出していった。
…………。
「 くだらぬ……。くだらぬ……。
輪廻を回す あらゆる全てが……。くだらぬ……。
貴様は逃さん……。
我と共に……。貴様も この世界から消え去るのだ……。
永劫の闇に……。永劫の闇の我と共に……。貴様も……。エヌ・ゼルプトとして……。消えさるのだ。
既に貴様が 歩き進む道は……。在りはしない……。 」
…………。
地底湖を中心に……。人知の及ばない戦いが 続き……。
地鳴りが何度も起こると……。開口の奥底から……。爆発的な光の放流が 立ち昇る。
…………。
この時に観測された アルカナの光の粒子は……。APCの特務が誇る 計測器さえも破壊した。
誰が見ても 間違い用の無い 計測不能の過度な 光が……。大きな柱となって 大穴の奥底から立ち昇ったのだ。
…………。
これは 後に……。世界的なニュースとして……。22災害と同等か それ以上の注目を集める。
…………。
1つの戦いが……。一定の結果に近づいていく 瞬間だった。
…………。
……。
度重なる地鳴りの末に……。地面を突き抜けた何かが……。地上へと飛び出し……。爆発が起こった。
…………。
その爆風の中から……。ふわりと……。光を まとった 何者かが……。地表に着地する。
…………。
警戒を続けていた 特務の多くの面々の前に 着地した者の姿は……。あまりにも……。凄まじく……。
…………。
丹内空護(タンナイ クウゴ)、天瀬十一(アマセ トオイチ)……。
荒井一志(アライ カズシ)、大代大(オオシロ マサル)……。仁科十希子(ニシナ トキコ)らでさえも……。
驚愕を隠せなかった。
………………。
…………。
……。
~変わらない奥底~
ある日の特務棟では……。実動班の班員が集う待機室で……。
お馴染みの面々が揃い……。ちょっとした話題で 賑わっていた。
…………。
部屋の中は 普段の日常として 多くの班員で 盛り上がっている。
…………。
既に……。
日樹田地底湖が 22災害以降に 公になってから……。半年程が経過していた。
…………。
中でも……。生真面目だった青年 荒井一志は……。
待機室の長いテーブルの上で 古新聞を広げ……。玉サボテンの植え替えに勤しんでいるようだ。
しっかりと 根の状態を見極めて……。
古い土を落とし……。今までのポットよりも 一回り程大きい器に 堆肥を混ぜた専用の土を 用意している。
…………。
荒井一志の目には……。あるものが 飛び込む。
…………。
「 ああ……。やっぱり……。 」
…………。
何かに気がついたのか……。独り言を零すと……。温和な青年が これを拾った。
…………。
「 荒井 君……。何を見てるの ?
何が やっぱりな……。この頃の新聞は懐かしいな。この日は……。大変だったね。
あの穴の中での……。もう半年は前なのか……。
どんな事も……。時間が過ぎれば ちょっとした昔話だな。
この記事が古新聞になるなんて……。特務も変わるわけだよ。 」
…………。
温和な青年 大代大は……。淹れたての珈琲を片手に持ちながら……。その一口よりも先に……。
玉サボテンの用土が広げられた 古新聞の記事について 口にした。
…………。
何かを含ませたように目を細めて……。過去になった戦いを振り返っているようだ。
…………。
しばしの沈黙が 続くが……。これに……。デスクで書類仕事 等を行っている人物が 呼びかける。
坊主頭の青年は……。昨今の慣れない種類の仕事に手を焼いているのだ。
…………。
「 荒井 大代……。お前らは 上に出す案件は どのくらい進んでいる ?
これから特務は変わる。
俺達 現場組の声なんぞ 本格的な影響は弱いかもしれんが……。そろそろ固めて置いた方が良いだろう ? 」
…………。
慣れない仕事に埋もれているのは……。丹内空護である。
命のやり取りでもしているのかのように 眉間の溝を深くして……。書類や パソコンのディスプレイに 視神経を集中させているらしい。
呼びかけてはいるが……。相手の方すらも見てはいない。
…………。
生真面目だった青年 荒井一志は……。ややマイペース気味に……。玉サボテンの植え替えを進めていく。
その傍らで……。
前まで 玉サボンが 植わっていたポットの中も、綺麗に土を払い 別の何かに使えるように 掃除していった。
…………。
「 これは……。やっぱり……。 」
…………。
熱中しているのを察したのか……。
荒井一志の 呟きをよそに……。大代大が 丹内空護に応答した。
…………。
「 僕の方は 既に班員からの 声も拾ってますよ ?
共有が まだでしたっけ ?すみません。
警備とか……。イベント関係とか……。製品開発の試作試験なんてのも ありましたね。
詳細については……。後ほど データで まとめた物を 送っておきます。
けど……。僕ら合一編成の 22人と、丹内さん を合わせての 23人ですからね。
ちなみに……。丹内さん は どんな風に考えてますか ? 」
…………。
先程の 丹内空護の 発言にもあったように……。特務は変わっていく……。
特に……。実動班の面々は 今後のニューヒキダで どう活動していくか……。天瀬十一を通じて……。現 副社長へと提出されるのだ。
当事者たちからの 参考資料として……。
…………。
丹内空護と 大代大が……。締め切りの近い 業務についての話題を 繰り広げていると……。
荒井一志が 玉サボテンの 植え替えを終えて……。綺麗に手入れされた古いポットを ある場所に置く。
…………。
歴代の 実動班の 関係者達が 映る写真の近くだ……。
…………。
ここまでを 終えて……。荒井一志も 早々と 取りまとめたデータに目を通す。
…………。
「 自分の方も 意見は収集済みですね。
丹内さん……。もしかると……。データの受取先と 今見てる情報とで 思い違いをしているじゃ ?
えっと……。これですよ。自分の分も 大代さん のも無事に来てますね。 」
…………。
荒井一志から直接のレクチャーで……。丹内空護は 探していた情報に辿り着く。
坊主頭の青年は、たどたどしいタイピングで……。パソコンのキーボードを叩き……。
総括した内容を 記述していった。
…………。
ふと……。先程の 大代大からの 言葉への返事を返し忘れている事に気がついたのか……。丹内空護が 答えを返す。
一度 聞き流されたにしろ……。タイミングがズレた話題だった事もあって……。
この答えの内容は……。部屋の中で 僅かな沈黙を呼ぶ。
…………。
「 俺達で パーティ用のサプライズ 企画とかどうだ ?例えば ほら……。結婚式とかの……。 」
…………。
実動班の各班員達は……。殆どが 視線を反らし……。肩を揺らしている。
いかつい 凄みのある顔の 坊主頭が 口にする言葉には 温度差が強すぎたのだ。
…………。
大代大は……。班員達の総意を 出来る限り まろやかにアレンジして……。率直な反応を示す。
…………。
「 フフフ……。丹内さん にしては……。かなり俗っぽい ジョークですね。
僕らじゃ無理ですよ。そんなの。
華やかな 業界に赴くには 毛色が違うというか……。フフ……。
まあ、決めるのは 天瀬さん 仁科さん……。それから 木曽根さん での話し合い次第ですから……。
これから……。まな板に 乗る者 通しで、楽しみに待ちましょうか。 」
「 俺は別に 冗談を言ってるわけじゃ……。まあいいか。 」
…………。
すっかり 古新聞に なった ある日の 戦い以降……。物々しさは 和らいでいったのだ。
…………。
砕けた笑いに包まれる 実動班の待機室の中で……。
生真面目だった青年が……。新しいポットに植え替えた 玉サボテンと……。古いポットに視線を送った。
…………。
荒井一志は……。他の班員のように 大きくは砕けていないが……。小さく ほほ笑んで 呟く。
…………。
「 丹内さん の案……。意外と 有りかもしれませんよ……。 」
…………。
生真面目だった青年の視線は……。歴代の 実動班 関係者の写真と 古いサボテンのポットの方に向いている。
…………。
古いポットの中には……。
今までは土で隠れていた 内側の底の方が 覗き込めるようになっており……。
そこには ある想いが 込められていた。
…………。
「 isao to minori 」
…………。
綺麗な字では無かったが……。手作りならではの 形が しっかりと残っているのだ。
…………。
藤崎悳(フジサキ イサオ)……。
かつて……。実動班の基礎を作った人物であり……。現在の班員達にとっても 尊敬される名だ。
…………。
古いポットに残っていた その想いには……。作成されたと思われる日付も残されており……。
その人物が……。かなり若い頃に 送った特別な物だと……。容易に想像できた。
…………。
これから先は……。怪人との戦いは 必要ないのだ。
………………。
…………。
……。
~変化の兆し~
ある日の 昼下がり……。高台の公園に停車する キッチンカーの近くで……。
3人の人影が 集う。
…………。
1人は……。キッチンカーの店主……。巻健司(マキ ケンジ)。
1人は……。ショートヘアが似合う 女性……。仁科十希子である。
…………。
そんな 2人を相手に……。白衣の青年 天瀬十一が、ブリトーを齧りながら 言葉を交わしていた。
…………。
「 まさか……。前に食堂にも出入りしていた 貴方も……。W.E.Bの……。
World-Exchange's-Bay の人間だったとはね……。驚きませんよ もう……。
( ワールド・エクスチェンジズ・ベイ )
真尋が 頻繁に買ってくるから、俺も ブリトー好きになってますし……。いろいろと……。寂しいですね。
W.E.Bが APCの立て直しから 手を引く時期も決まってしまった。 」
…………。
天瀬十一からの言葉に……。キッチンカーの店主は 簡単な言葉で応答し……。洗い物を片付け始める。
…………。
少しばかりの間を置いて……。ショートヘアの似合う女性 仁科十希子が……。白衣の青年に話しかけた。
これまでと……。これからが……。大きく変わっていく日は近いのだ。
…………。
「 寂しいのは……。別の方じゃないの ?
天瀬 君……。貴方 これから 寂しくなるものね。
私達 W.E.Bからの スポンサー契約は 少しだけ変わるけど……。これからも続くのよ ?
ニューヒキダは 晴れて 本当の意味で 復興の道を進んで行くのだから。 」
「 そう……。ですね……。今思えば いろいろな事が有って、その影響は計り知れないものでした。
けど だからこそ……。今も感慨深いんだと思います。
多くの人に 後押しをされて……。これからは ニューヒキダが しっかりと 前に進み続ける。
ご存じだと思いますが……。
APCは 現在の副社長 木曽根さん が……。次の C.E.Oに就任するでしょう。
今後は……。社の母体も庶務棟の方に変わっていく。
そうなれば……。特務も これまでとは違う形になるでしょうね。確実に。 」
「 そうね……。
私も……。元の部署に戻る辞令が来てるし……。遠くないうちに ここを離れると思う。 」
…………。
この日も……。天候は落ち着き……。熱すぎず……。寒すぎない 穏やかな空気が 過ごしやすい。
…………。
「 最初は……。
古い知り合いの……。結衣もいないし……。あの天瀬慎一(アマセ シンイチ)も 不在なら……。
優秀な人材はいないと思ってたけど……。貴方はとても優秀で 立派だったわ。
自身を持ちなさい。
きっと御父様にも負けない素敵な人生を作っていける。 」
「 夢川さん と知り合いだったなんて……。初耳だ……。 」
「 前に何度か……。地方の研究会とかで 面識があってね。馬が合ったから……。
ここに 出向が決まった時は、物のついででも 友達に会えると思って 楽しみにしてたのよ。
他に共通の知り合いはいないから……。初耳でも仕方ないわね。
けど今は……。これから先……。貴方が どんな人間になるのか 楽しみが出来た。
もし……。貴方が望むなら……。こっちに来ても良いんじゃない ?
特務の今後の方向性は まだ決まってないでしょう ? 」
「 俺が……。W.E.Bの日本 支局で 超自然技術研究部門に…… ? 」
…………。
白衣の青年は……。ベーコンの はみ出た ブリトーを齧る動きを止める。
思わぬ 人物 夢川結衣(ユメカワ ユイ)の名前や……。考えの外にある 打診に 気持ちの準備が間に合わない。
ショートヘアの似合う女性は……。桃味のスムージーで 適度に のどを潤して……。話を続けた。
…………。
「 推薦はするけど……。私と全く同じ 所かは 保証しかねるけどね……。
時期を改めてでも 歓迎はするつもりよ。
悪くないんじゃない ?
貴方が必要なら……。実動班からの何人か 連れて行っても喜ばれそうね。 」
「 そうですね。悪いとは思わないですし……。とても魅力的だと思います。
俺も……。個人的に 十希子さん とは これからも近しい人間でありたい。
けど……。1つ 気になってる事あります。
もちろん 真尋の……。妹の事 以外で です。 」
…………。
白衣の青年が 語り始める 合間にも……。キッチンカーの店主 巻健司は……。ある日の事を思い出す。
かつて……。若かりし頃に……。友人の忘れ物を受け取りに立ちよった ある日の夜。
青年だった 巻健司は……。一件の食事処のカウンター席で食事を取っていたのだが……。
店内の雑踏の中から……。何故か……。その人達の声が気になり……。職業柄 聞き耳を立てたのだ。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
この日……。巻健司は……。あまり食事が進まなかった……。
…………。
少し前までは 別の場所で仕事をしていたのだが……。急遽……。知人の遺品を受け取りに来たのだ。
22災害 直後の調査の合間に 亡くなった 仲間の忘れ物である。
どうやら……。知人は 戦災孤児を保護し……。
親元も わからない 子供を W.E.Bの日本 支局を通じて 然るべき場所に 預けた後……。追加の調査を行ったらしい。
…………。
その追加の調査で……。恐らくは……。例の怪人達に 命を奪われたのだろう。
知人の遺品……。護身用に持っていた 拳銃は グリップの部分 以外 残っていない。
…………。
銃身が有った筈の部分が……。不自然な形状で 曲げられたのか……。ねじ切られたように無くなっているのだ。
元の形状を知る 自分達で無ければ、コレが 元々は拳銃だったのだと 知りえないだろう。
…………。
少し焦げた友人の欠片と……。これだけが 発見されたようで……。
不可解な遺品の情報と定期連絡の遅延を理由に……。本部からの指示が 青年だった 当時の 巻健司へと 降りたのだ。
…………。
知人の死は……。まだ若い巻健司には 重く……。
…………。
当時の 巻健司は……。
知人が助けた 孤児の 里親にでも なるつもりだったのか……。後に……。気が動転したまま 本部に掛け合う程だった。
当然……。この頃の 精神状態も見透かされており……。
何よりも……。
既に特定の施設へと送られていた為……。件の孤児の名前さえ、巻健司に流れる情報は厳正に精査されていたらしい。
…………。
それ程に 沈む 当時の……。青年だった巻健司が、その夜……。形だけの食事に訪れた店で……。聞き耳を立てたのだ。
…………。
大いに盛り上がっている そちらの席は……。3人の男が何かしらの成功を祝っているようだった。
更に意識を向けて……。口元に運ぶ アルコールの頻度を増やす。
…………。
意識を向ける直前に 軽く視線をやると……。
大柄な老人 1人と、この時の巻健司よりも いささか 年上程度の 2人の男が 話をしている姿が見える。
…………。
……。
入道のような老人の声は 格別に大きい。
…………。
「 しかし……。本っ当に ぶったまげたぜ !!
あの化け物を、俺達が退治 出来ちまったんだ。
聖正も慎一も、只もんじゃねぇぞ。お前らは すげぇ !!
じゃんじゃん 実験しようや。
荒事は全部 俺に任せんだぞ ?アレは面白れぇ !!
酒が うめぇな !!ガハハハハハハハハハハハハ !! 」
よし……。便所 行ってくるわ !!! 」
「 丹内 七郎太……。なんて化け物だ。
慎一、立木家との絡みが あったとはいえ……。俺は今更 気が引けてるよ。
こんな 化け入道みたいな 人間だ……。俺達との相性は良くないかもしれない。 」
「 まあ、気にするなよ 聖正。
七郎太さん じゃなければ……。
こんな突拍子のない事は 進められない。
僕らと似てる人を選ぶ方が……。あの化け物達への対策は遅れるとさえ 思うよ。
そういえば……。前から気になってる事が有るんだが……。 」
…………。
嵐のような 轟音の 入道が 店の外へと 消えていくと……。残された 2人の男が 何やら話をしている。
飛び出す 言葉の組み合わせは どうにも……。聞き流すには 惜しい内容だった。
…………。
「 たぶんね……。僕の見立てでは……。あの光は……。
人間と触れると 何かしらの反応を示すだろ ?
あの光は……。不規則な波のようだけど……。人から人へと 反応を繰り返しながら打ち合う事が出来れば……。
もしかすると より大きな効果を狙えるのかもしれない。
用途はまだ 思いつかないけど……。例えば……。人と人を繋ぐ機器に上手く掛け合わせれば……。
通信機器とかは凄く理想に近いかな。 」
「 通信機器か……。情報は武器になるが……。
直接的に 化け物達を どうにか出来る武器の方が 今は見栄えが良いからな。
けど……。慎一の 見立てだ。俺も覚えておこう。
ところで……。七郎太さん は何処に行った ?
……げぇ !店の外で 殴り合いしてないか ?ほら あそこ !!
と……。止めるぞ !!慎一 !! 」
…………。
件の化け物の……。22災害の怪物を物理的に排除するかどうかの 話なのだろうか……。
本来なら 秘匿性の高い話を……。偶然でも口にする 民間人が ここに いる筈もない。
酒の提供される店での 戯言だろう。
…………。
当時の巻健司は……。そんな風に 聞き流した。
…………。
外では 先程の大男が 乱闘を行っている。
…………。
「 確か……。無関係な 酔っぱらいの仲裁に入った筈が……。
誰かが 激情して 3つ巴の殴り合いをしているんだったか。
職業柄 多くの出来事を 聞き分けて しまうが……。こんな日の 気分転換には調度良い。 」
…………。
まだ……。年若い青年の頃の 巻健司は……。この日の嫌な気分を 乱闘騒ぎで 誤魔化して もうしばらく酒を煽ったのだ。
…………。
……。
そして……。記憶巡りから意識を戻して……。今現在……。
当時の そのせいで……。今にして思えば……。有力な情報源との接触を 僅かに遅くしてしまったと……。気がつかされる。
…………。
言い訳をするなら 未熟な若造の油断だ。
よりにもよって……。あの日 聞き耳を立てた相手が……。
日樹田建設を取り仕切る 立木家の分家の 地上げ屋 丹内七郎太(タンナイ シチロウタ)と……。
後に APCを立ち上げて C.E.Oにまで昇り詰める 神地聖正(カミチ キヨマサ)……。そして……。
着装型の 強化スーツ アルバチャスや……。触れるロゴ型の ホログラム……。ロゴグラム等を 作り上げる天才……。
天瀬慎一だったのだと……。誰が 気づけると言うのか……。
…………。
若さゆえの 詰めの甘さと……。
都合のいい思い込みで、記憶にも止めなかった 過去が 今頃になって 思い起こされたのだ。
…………。
現在の 壮年の男……。巻健司は……。キッチンカーの中で 洗い物を 着々と進めていく。
…………。
しかし……。
…………。
あの日 食べた 揚げ出し豆腐も 度数の強い 土地の酒も……。
有力な情報を 引き換えにするだけの気晴らしにはなったのも事実だ。
…………。
巻健司は……。ベンチで 話を弾ませる 2人を 見ながら……。人知れず笑った。
…………。
仁科十希子によれば……。N 地区の大穴から……。光を身に まとった あの青年が 生還した後……。
…………。
闇の化身や それと類する存在と戦った 多数の 関係者 通しで 情報の整理を行ったらしい。
多角的に情報を精査し……。そこから更に 地底湖を中心に 数か月にも及ぶ調査を行い……。
光の試練にしても……。怪人達にしても……。この地で 猛威を振るい続けた 脅威が 限りなく 退けられたのだと発覚する。
…………。
現在の あの地の底は……。只の神秘的な 地底湖と 古い遺跡が残るだけの場所なのだ。
神秘の光は 昔のように 観測されてはいない。
…………。
World-Exchange's-Bay の理念は……。
( ワールド・エクスチェンジズ・ベイ )
…………。
オーパーツや ロストテクノロジーによる 世界への影響を精査し……。
必要に応じて、その影響範囲へと 介入し……。現地の独力での自立を促す事。
…………。
広い意味の混乱への対処だ。
不意に現れる 現在の文明では 太刀打ちできない 脅威への対処なのである。
…………。
闇の化身との戦いの終結は……。アルベギ族の末裔からの伝承が 情報元だった、不確定から 始まったが……。
大きな意義を持って、良い結末を迎えたと言えるだろう。
…………。
人知れず脅威と戦い続けた 全ての人々が……。総力で成しえたのだ。
…………。
青年の予後も 順調で……。大きな怪我など 一切ないが……。生還したての瞬間は……。多くの人間を驚愕させたようだ。
…………。
「 フフ……。あの馬鹿が……。
まさか……。あの馬鹿が そうだったとはな……。 」
…………。
それから……。
これは 違和感を感じて 執拗に 追及して 本部から聞き出した事だが……。今頃になって これについても 知る事が出来た。
…………。
いくら、秘匿性の高い役回りといえど……。
現地調査員である 自分にまで 当時の 22災害 に関連する情報の一部を 隠匿されるとは……。
…………。
本部の 年寄り連中は まだまだ 侮れない。
…………。
遺品だけを残して、命を落とした 知人が……。最後に保護した 孤児についてだ。
親元が 不明だった その孤児こそが……。あの青年だったのである。
…………。
青年は……。今頃 どうしている事か……。なんとなく 想像は出来た。
弱い所も あったが……。あんな状態でも 生還は選べたのなら……。これからも大丈夫だろう。
…………。
……。
巻健司は……。ブリトーと スムージーを 口にしていた ある 男女の 様子を見て……。歩み寄る。
こっちは こっちで 勝手に 盛り上がって くれれば 何よりだなのだが……。
自分でも珍しく 上がった気分で……。お節介をしてしまう。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
ある男女の 片方……。
白衣の青年は……。ベーコンの はみ出た ブリトーを齧る動きを止める。
…………。
ある男女の 片方……。
ショートヘアの似合う女性は……。桃味のスムージーで 適度に のどを潤して……。話を続けた。
…………。
「 推薦はするけど……。私と全く同じ 所かは 保証しかねるけどね……。
時期を改めてでも 歓迎はするつもりよ。
悪くないんじゃない ?貴方が必要なら……。実動班からの何人か 連れて行っても喜ばれそうね。 」
「 そうですね。悪いとは思わないですし……。とても魅力的だと思います。
俺も……。個人的に 十希子さん とは これからも近しい人間でありたい。
けど……。1つ 気になってる事あります。
もちろん 真尋の……。妹の事 以外で です。 」
…………。
少しの間を置いて……。白衣の青年が 続きを話す。
僅かに砕けた言葉で 精巧な本心を 裏打ちしながら……。
…………。
「 妹に進められて ここの食事を 味わい続けたから……。かもしれないけど。
俺は……。どうも食べ物に興味が出てきたみたいで。
これから この街も 前以上に 観光客の出入りが 望める筈だと……。そう思うんです。
美味しい店は 沢山有っても困らない。
神秘の光も消えた 地底湖も……。
日樹田建設がいれば また 別の……。例えば 観光資源としてシンボルになっていく。
俺も空護 達も まだまだ ニューヒキダを離れられないよ。 」
…………。
白衣の青年 天瀬十一の瞳は……。いつになく真剣で……。
ショートヘアの似合う女性も これを 汲み取ったようだ。
…………。
「 ……そんな 所だろうと 思ってたわ。
残念ね。天瀬 君と 正真正銘の同僚に成るのは 楽しそうだったんだけど……。
私……。貴方の やりたい事を 邪魔するつもりもないの。
それなら 後腐れなく……。 」
「 ここは まだ 離れるつもりは無いけど……。
十希子さん との繋がりも 手放す つもりは無い。
日本支局なら……。頻繁には無理でも 連絡を取り合えば 無理じゃないでしょ ?
お互いの場所で……。でも……。いつか 必ず 同じ場所に……。 」
…………。
切り上げようとした 仁科十希子の言葉を、最後まで 吐き出させずに……。真剣な表情の天瀬十一が 更なる本心を添える。
…………。
2人の距離は これから 何処に行っても 離れはしない。
…………。
「 なるほど……。ひとまずは それぞれの場所で……。そうしましょうか。
これからも よろしくね。 」
…………。
巻健司は……。2人に向かって 簡単に呼びかけて……。
…………。
「 十一 君 !C.E.O代理 !
こっち見てみ ? 」
…………。
2人に向かって 簡単に呼びかけて……。スマートフォンのカメラを動作させた。
少しばかり 困惑した 変な表情だが……。どちらも 柔らかい 良い表情をしている。
…………。
壮年の男は そそくさと デジタル写真を 2人に 送って キッチンカーの中に戻っていく。
…………。
調度……。別の 新しい客が キッチンカーで 待っているようだった。
………………。
…………。
……。
~そして 始まるのは~
ニューヒキダ からは 離れた何処かの別れ道で……。
2人が どちらから進むか 悩んでいる。
…………。
女性の方は……。軽装で……。荷物は少しだけ少なめで……。
青年の方は……。軽装どころか ボロをまとい 荷物は多い。背負っている背嚢(はいのう)は 沢山の荷物が入っているようだ。
…………。
「 分かれ道か……。こっちが海側で こっちは山の方の……。
よし……。任せて 真尋ちゃん。
こういう時は……。さっき拾った 杖代わりの……。この木の枝で……。 」
「 もしかして……。地面に突き立てて 倒れた方に進むの ? 」
「 その通り…… !Let's try it ! 」
…………。
青年は……。頑丈そうな長めの枝を 地面に突き立てて しばらくして 手を放す。
枝は……。重心のせいか……。直ぐに 青年の方に倒れた。
…………。
「 あ。どうしよう 俺の方に倒れてきた。この場合は 今の無しで……。 」
「 この場合は……。私が決めます。
こっちにしよ。さっきまで 海沿いだったから 昇りだけど 山沿いの道の方が 見渡せて綺麗だと思うし。
それに……。どっちの道も 次の目的地までの距離は同じくらいだもんね。さあ行こう ! 」
…………。
女性は意気揚々と 坂道に向かい……。青年を牽引する。
…………。
「 真尋ちゃん……。意外と こういうの大丈夫だよね。
こう見ても 俺 結構 驚いてるんだよ ? 」
「 んん ?……だって 凄く楽しいよ。
身体 動かすのも好きだし……。一緒なら どこにでも行けるかも。 」
…………。
坂道になっている歩道の 脇から 階段を上って 一本隣の 上の道を目指す。
…………。
この日の目的地は……。ニューヒキダと似た特徴の……。海と山が両方ある のどかな宿場町だ。
先程の分かれ道で どちらを 選んでも……。景色と道は異なるが 辿り着けるらしく……。2人の脚は 今も軽い。
…………。
……。
青年は……。階段を昇る途中で……。あの日の戦いを思い出す。
年季の入った 土と木で出来た 山道で見かけるような 階段の端の方に、小さな 穴が空いていたのだ。
小さな穴は……。小動物が 通り道に作り出した物なのだろうが……。大穴の闇の中での戦いが 呼び起される。
…………。
あの日……。確かに……。青年の身体は 人間とは大きく異なる別の何かに変わり果てていた。
…………。
辛うじて実体が有るようで、その実……。神秘の光が 人型を成しただけのような……。
膨大な光の集まりに 自分自身の意思が 引っ付いただけの……。そんな風に表現しても差支えの無い 状態だった筈なのだ。
…………。
……。
地底湖から 洞内の天を……。文字通りに突き抜ける 勢いで……。盛大に強力な最後の一撃を……。
あの日の闇の化身に 注ぎ込んだ。
…………。
闇の化身は おびただしい量の光の推進力を扱った蹴りでも、存在を踏み止まらせ……。反撃に移っていた。
強い引力を生み出す 暗い光を 発生させて……。道連れなのか……。
あちらからすれば 起死回生の 一手だったのかもしれない。
…………。
その時の一手は……。あの日の戦いの中でも 段違いに強力で……。
青年の中から……。実体化している 唯一の部分を削り取り……。益々 身体のエヌ・ゼルプト化……。もしかしたら……。
闇の化身とは似て非なる……。正反対の光の塊に 尚更 変化していったのかもしれない。
…………。
当時は そこまでの 考えは回らなかったが……。
…………。
もしかすると……。既に 当時の自分は人間では無かったのだ。
…………。
膨大に膨れ上がった光は……。多量のエネルギーを高めていき……。
闇の化身を 地の底から引き連れるほどの 破壊力を生んで……。地面を突き破り 空高い 上空まで進んで爆発した。
…………。
上空で巻き起こった爆風の中で……。光の大渦が 巻き起こり……。闇の化身は……。ここに来て 始めて崩れ去ったのである。
…………。
このまま……。身体の形も無くした自分自身が 消え去るものかと 思っていたが……。
何故か……。神秘の光の中から 人間としての 自分自身だけが抽出され……。地表へと ゆっくりと戻っていく。
…………。
上空で爆散したのは……。どうやら 闇の化身と……。光の化身となった 自分自身だけだったらしい。
…………。
地上へと無事に生還は出来たが……。特務の 皆の前で……。自分が どんな姿か……。
少し遅れて 知覚した。
…………。
完全に裸だったのだ。
…………。
いわゆる 産まれたままの姿で……。多くの人々の前に 降り立ってしまったらしい。
気がついて……。前だけでも隠したが……。既に 手遅れで……。
後々……。特務の 殆どからは 当時の事を 冷やかされる。
…………。
しかし……。
…………。
戦神カシュマトアトルや……。闇の化身をもってしても……。その認識の通り……。
しっかりとエヌ・ゼルプト化した 自分が 何故……。痴態を晒した痛手程度で 生還できたのか……。完全にはわからない。
…………。
……。
確実なのは……。痴態を晒した 当時……。デバイスさえも 消え失せた あの瞬間……。
唯一 片方の掌の中に 残っていた あの御守りが……。それに込められた 願いが……。アルカナの光と呼応したのかもしれない。
…………。
両親から貰った 御守りの紐が 千切れた時に……。新しく編みなおされて作られた ストラップだ。
…………。
これは……。mehaloとは 当然 異なるし 特別な 何かを持っていないのかもしれないが……。
今の 自分にとっては……。何よりも特別だ。
…………。
大切な人から貰った……。何よりも特別な 御守りなのだ。
…………。
命の重さが軽くなっていく 場所で……。最後の最後に……。沢山の人達から 鳴らされた警笛に……。
自分が蔑ろにしようとしていた 気持ちに気が付けた。
…………。
もしかしたら……。それがきっかけで……。今 こうしていられるのかもしれない。
…………。
……。
青年は……。女性と手を取り合い……。途中から少しだけ 急になった階段を 昇り切る。
目的地への道は まだまだ あるが……。
高さが出てきたからか 海の方には 見渡す限りの水平線が 空との境界線を 曖昧にしている。
…………。
ぼんやりとした 幽かな 藍色で……。一息に線を引いたような……。
2枚のカードの淵のようにも見える。
…………。
「 次のパーキングは……。この上かな ?
行こう。真尋ちゃん。次で お昼休憩だ。 」
「 もう 急に元気になって……。
でも 私も お腹空いてきたから がんばる !がんばろ !あ……。お水は 含むだけだからね。 」
…………。
愚者は あらゆる経験を 自身の力へと変えて……。歩き始める。
果ての無い道を どこまでも……。歩き続ける。
何気なしに見渡すだけだった 過去の いつの日かならば、遠くから見ていただけの境界すらも 超えて。
………………。
…………。
……。
ご愛読ありがとうございました。
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