- 41話 -
これまでの審判
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目次
~当時の変化と後の悔恨~
街全体を見渡せる 高台の公園で……。女性が 青年に近づいた。
…………。
2人の顔の距離は 近く……。互いの視界に入る 世界は限定されている。
…………。
「 ねぇ。要人さん て……。大切な人とか いるの ? 」
「 えっと……。俺は その……。
悲しんでほしくない人なら……。ずっと その……。前から……。 」
…………。
青年は バツの悪そうな面持ちで 言葉を 即座に絞り出す。
青年 有馬要人(アリマ カナト)と……。女性 天瀬真尋(アマセ マヒロ)の周りには 他に人影は見えない。
…………。
「 そうなんだ……。なら 良かった。 」
…………。
女性は ほほ笑んで……。少しだけ 潤んだ瞳を 瞼で隠す。
線になった 瞳と……。口角の上がった口元だった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
気がつけば いつも 後回しだった。……けど それで良かったのかもしれない。
…………。
今までの自分の判断に 違う何かがあると……。これから先の 最初の 1歩に迷う。つま先の角度も異なる。
…………。
時間は 何にも囚われず 進んで行く……。
…………。
迷ってる間も……。迷わないで 決意した人の間でも……。必ず進んで行く。
迷う時間は きっと少ない方が良いのかもしれない。
今までも……。これから先も……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
6歳の誕生日が来るよりも先に 母は亡くなった。
調度……。22災害……。怪人エイオス達が出現する きっかけになった 大災害の発生から 2年足らずの頃だった。
災害があったのは 今よりも もう 約 19年以上は 前になる……。
…………。
あの大災害の以前は……。父も母も 楽しそうで……。年の離れた 5つ上の兄とも よく遊んでもらっていた。
家族 4人で カードを使った ボードゲームを楽しんだ事も それなりに あった気がする。
…………。
当時の私は ルールを きちんと把握できず……。父か 母からの サポートをされていたのだろう。
楽しかった記憶は残っているが……。細かいルールを覚え始めたのは ずっと後だった。
…………。
ボードゲームの殆どは トランプを使ったものだったが……。
母は よくタロットカードでの 占いもしてくれた……。いろんな 方法があるようで……。
それによって 並べ方や 必要なカードの枚数は 異なっていたのを 覚えている。
…………。
何度も遊んだのは……。3枚のカードを使った方法。
並列に並べた 3枚を 左から順に 過去 現在 未来を読み解いていく。
…………。
子供の頃は細かい ルールを知らなくても、楽しそうにしている 両親の姿が 心地よくて……。
考えるまでも無く そんなオトナになるのだと……。感じていたんだと思う。
…………。
……。
母が亡くなってからは……。
3人で支え合って生きるのに必死で……。ボードゲームで遊ぶ回数も めっきり減っていった。
…………。
……。
この頃は 日々の生活に必死で……。家事を手伝うようになった。
22災害以降に 街を離れる人は多く……。引っ越していく友達を 何度も見送ったのを覚えている。
…………。
……。
後になって知った事だが……。
当時は 受け入れ先での 生活の援助が 望める自治体も 少なくは無かったらしく……。
これを 生活の向上や立て直しも兼ねて 選択肢の 1つにする世帯が一般的だったらしい。
各自治体の 頑張りも大きいが……。
その裏側からの下支えとして、世界的に著名な グループ W.E.Bからの資金援助もあったのだとか。
…………。
母が亡くなってからは……。家の中での事は 兄妹で 分担しながらの毎日だった。
父は ある時期から 昔の知り合いと共に 新しく仕事をするようになり……。生活資金は少しずつ安定していく。
…………。
家族全員での時間は減っていくが……。
父にも 不満は無かった……。子供ながらに 何かに気がついていたのか……。頑張っている姿を 理解していた。
…………。
……。
月日が流れて……。
私が 中学生になる頃には、料理は 私の 一番得意な事の 1つにまで なっていた。
別に これは嫌では無かったし……。むしろ当時からも楽しんでいた自覚はあった。
…………。
……。
その時の食材や、月々の食費を気にしながら メニューを考えて……。いろいろな バランスの配分に迫っていくのだ。
日々の栄養価の差異……。味付けやボリュームでの満足感……。
1食あたりの 合計金額……。新しい料理や 仕込みの方法の模索……。触れる時間が多い程 見えるものも増えて 楽しみも増えていく。
…………。
そして 何よりも……。自分自身が 家族を支えられている 感覚には 凄く嬉しさを覚えるのだ。
…………。
……。
兄は 地元の高校を経て自宅から通学可能な範囲での大学に進んだ。
この頃には 父の仕事も、かなり安定し始めているようで……。月々の生活費に困る事も無くなった。
…………。
街全体の 活気も戻り始め……。
いろんな店や企業も増えていき……。地元産の食材も増えていくと……。
父の収入の向上もあって 食費も増額され エンゲル係数が少し増えて 料理が更に楽しくなる。
…………。
……。
調度 それくらいから……。兄の友達が 家に遊びに来るようにもなった。
基本的に 友人を家に連れてこない兄が 唯一 連れてくるのが……。その人物で……。
兄とは真逆そうな印象が強い人物だった……。
それが 丹内空護(タンナイ クウゴ)だったのだ。
…………。
……。
いつの間にか 私も 混じって 3人で話すようになり……。一緒に映画や ゲームを楽しむ事も有った。
食べ物に好き嫌いの有る 兄とは違って、どんな料理でも無言で 完食する その人物は……。
家族以外でも 始めて気になった人物だったと……。当時の目線でなら そう見えていたのだと思う。
身近で……。家族以外の 頼れそうな……。
…………。
只……。どんな料理も 完食はするが……。何か特別に好きな好物なんかは わからず……。
少しだけ その距離が気になった。
…………。
気になった筈なのだが……。その部分には 目を背け……。年相応の気分を楽しみたかっただけなのかもしれない。
…………。
時間は 何にも囚われず 進んで行く……。
…………。
迷ってる間も……。迷わないで 決意した人の間でも……。必ず進んで行く。
迷う時間は きっと少ない方が良いのかもしれない。これから先も……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
そして 約 1年前……。
私は……。自宅で見つけた 誰かの忘れ物を……。当時の私が そう思っていた物を、父か兄に届けようと 思い立って……。
父と兄の職場がある APCの 特務棟に向かったのだ。
…………。
今 思い返すと……。何も見えていない自分の愚かしさが恥ずかしい。
その日……。怪人に襲われるなんて思いもせず……。
只……。兄の友人との……。きっかけにならないものかと 空回りを していた。
身近で なんとなく頼りになりそうな、相手への空回りでしかない。
…………。
兄と父は 研究職を……。気になる人物は 実動班での職務についているのだと……。これだけは知っていたからか……。
それだけしか見えていなかったからか……。自分の動きも見えずに空回りをしていたのだろう。
…………。
実際に 怪人に 襲われた時……。
手を引いて助けてくれたのは、見た事も無い 青年だった。
2人で 階段を昇り……。高台の公園の端に停車させてあった キッチンカーに乗り込んで 避難したが……。
怪人には追いつかれ キッチンカーが横転すると、私は そこで意識を失ったのである。
この後に怪人を退けたのは、この日から 導入された新型のアルバチャス。
…………。
赤色と黄色の派手な色彩の新型……。
当時は まだ、その新型についても……。元々 街を護っていた 白色のアルバチャスについても……。
私は その正体を知らず……。
勝手に 気になる人物が 新型として 助けてくれたのかもしれないと……。思い込みをしていたのだ。
…………。
今までの自分の判断に 違う何かがあると……。これから先の 最初の 1歩に迷う。つま先の角度も異なる。
時間は 何にも囚われず 進んで行く……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
思い込みからの空回りで 私は進み続ける……。
…………。
うってつけだった。
APCが 所有する 医療施設で、治療を受ける中での ある人物からの 打診は……。
何も見えていない私には うってつけだったのだ。
…………。
この時は既に、私は 大学を卒業し……。念願の管理栄養士の資格は無事に取得……。進路だけを決めないまま卒業していた。
…………。
大学の卒業後には 空回りの延長で、APCの関係企業で 働こうと考えていたのだが、兄には猛反対されてしまい……。
特務棟とは異なる、APCの 庶務棟での勤務を希望していたにも関わらず……。
兄からの賛同を得られず、かといって説得にも至らず……。
父からの反応も あまり 良さそうではないのを 今も覚えている。
…………。
……。
どちらにせよ……。家族からの顔色を跳ねのけられなかった 私は……。空回りのまま 卒業してしまった。
だからこそ、うってつけだったのだ。
怪人に襲われた後の 限られた 入院生活の中で、直接 受けた打診である。
…………。
当時の APCの C.E.O 神地聖正(カミチ キヨマサ)から……。特務棟の社内食堂で働かないかと 声をかけられたのだ。
父とも近しく……。ニューヒキダの象徴となっている 企業の代表からの誘いなら……。
兄や父の 反対意見も跳ねのけるには 充分だろうと。
…………。
今 思えば……。とても短絡的だったと……。自分でも そう思う。
…………。
……。
APCの 特務棟の社内食堂で 働く前に……。最初に助けてくれた 名前も知らない青年に……。
せめて 言葉だけでも礼を言いたかったのだが……。
兄によれば……。怪人に絡んだ事象での 被害者 通しは……。
基本的に もともとの知り合いでなければ 面会できないようになっているらしい。
…………。
少し……。ひっかかった。
どういった意味合いが 原点なのか 自分でもわからなかったが……。その青年には 何か……。
…………。
この時は……。自分を助けてくれた 恩人に、感謝の言葉だけでも言えなかった事への ひっかかりだと……。
自分では そんな風に感じていた。
…………。
なんとなく……。青年の言動や 兄の立ち振る舞いから APCの人間では無い事は 予測はつくし……。
そうなれば、今後 特務棟の中で働く毎日で……。外部の人間と 合う事は減っていくだろう。
…………。
特務棟の社員食堂での 勤務が決まれば、気になる人物との 接点も増える……。
ならば……。何を気にする必要が有るのか。
…………。
間に合わせの 理由で納得し、この ひっかかりを先送りにした。
…………。
……。
しかし……。ひっかかりの渦中にいる青年とは、その食堂での勤務中に再開する。
件の青年の名前は 有馬要人……。
…………。
偶然は重なり、同日中には 気になる人物 丹内空護とも 遭遇し……。久しぶりに 時間も気にせずに話をした。
どうやら 2人は……。実動班に所属しているらしいが、どちらも アルバチャスでは無いらしい。
…………。
この日も 程なくして 怪人が出現し……。特務棟の中に用意されている 屋内シェルターへの避難が促される。
噂では……。アルバチャスは 2人がかりで、かつてない強力な怪人と戦い……。勝利したのだとか……。
どうにも 信じ難い。
街全体に流れた ニュースでは、いつも通りに怪人を退けたとされているのだ。
…………。
ニューヒキダで 広報活動の象徴にもなっている 街のヒーローが……。
最新鋭の 英雄 アルバチャスが……。それも 新型との 2人がかりで……。苦戦する訳がない。
…………。
噂には 裏付ける理由なんて必要が無いものだ。
ちょっとした意外性が 尾ひれをつける。
…………。
それでも……。意外性の尾ひれ だと思っていたものに 裏付けが成されるまで……。さほど時間は掛からなかった。
四目の皇帝と 呼ばれる 蒼い怪人との戦いは、幾度も行われ……。
K-02 地区、N-01 地区、E 地区の全域と……。複数の箇所で 猛威を振るったのだ。
…………。
今にして思えば……。この辺りからだろうか……。
有馬要人と 丹内空護の 2人は、傷を作って顔を出す日も増えたように思う。
いつの日かの 丹内空護からの口ぶりでは、実動班ではあるが……。
アルバチャスでもないし……。戦闘も殆ど行わないらしく……。傷は 訓練によるものだと……。
…………。
私は まだ……。都合のいい思い込みで……。見える世界を区切っていた。
相手の言葉を そのままの意味でしか……。受け取らない。
…………。
……。
過去の大災害で 災禍の中心にいた 皇帝のような怪人との戦いが 終息すると……。平和な毎日が 戻って来た。
…………。
……。
やはり、街の平和の象徴は……。最新の英雄 アルバチャスは 負けはしない。
戦闘処理に関わる 唯一の企業 特務棟といえども、穏やかな毎日が これからは続くのだろう。
その 1つの証明として……。特務側の職員を労う 棟内限定の 食事会が 開かれる事が決まった。
…………。
実動班からは、今回の件についての打ち合わせに、気になる人物……。丹内空護が訪れる……。
社内食堂と隣接する 事務室で、幾度か 打ち合わせを行った。
腑に落ちないのは、何故か 殆ど 同じ頃合いで 兄も顔を出す事だ。
…………。
英結食事会(エイケツショクジカイ)……。
指示書にによれば、英気を養い結束を強める意味合いを持っているのだとか。
気になる人も含めて、沢山の人に 自分自身の出来る得意分野で 元気づけられるのなら……。
そんな きっかけを作れるのなら……。これ程、気持ちが引き締まる 仕事は無い。
…………。
……。
当日は……。気になる人物 丹内空護との 距離を縮める チャンスを 上手く作り出せたと思ったが……。
昔の 話から先に進む前に 切り上げられてしまった。
…………。
どうもに、忙しそうで……。楽しんで貰えていないのか……。料理にも あまり手を付けていないらしい。
日常的には誠実な人間だと 知ってはいるが……。食に興味は薄いのか……。
こういった所は昔から 変わっていないようだ。
…………。
……。
その後には……。例の青年 有馬要人ととも少しだけ 挨拶 程度に言葉を交わして、仕事に戻った。
アルコールも食事も楽しんでいるのか……。普段とは 少し 気持ちが上がっているように見える。
酔っぱらっているのか、何を言っているのか いまいち わからなかったが……。
野菜スティックに かじりついて 満面の笑みを見せていた。
…………。
どれも、美味しく食べられるように 鮮度の維持や 切り方や ソース作りに気を付けたメニューだ。
……少し 嬉しかった。
…………。
……。
何事も無い日々が 今度こそ続くと……。私も そう思っていた。
たとえ 怪人が出現しても 街で自慢の英雄 アルバチャスが、当たり前のように戦ってくれるのだと……。
何があっても アルバチャスは 無条件で 街を護る ヒーローなのだと、都合のいい思い込みを する人は 増え始めていたのだ。
…………。
そんな中……。特務棟の 社屋は、謎の存在から 爆撃を受けて倒壊する。
私は……。偶然にも 同僚からの 誘いを受けて これを逃れた。
…………。
食堂で 同時期に働き始めた 壮年の男 巻健司(マキ ケンジ)が、修理に出していた キッチンカーの納車日だったらしく……。
納車後 初のドライブと ちょっとした買い出しも兼ねて、調度 特務棟から離れていた頃、事が起きたようだったのだ。
…………。
この日 以降……。
私は 自分が見ていた世界が とても不安定な 嘘の上にあった事と……。
愚かにも……。私 自信が 都合のいい 補正を 自覚の有無に関わらず行っていたのだと 思い知らされる。
…………。
人知れず戦っていた アルバチャスは、身近になりつつあった 2人で……。
それどころか、自分の身の回りの 殆どが 何かしらの形で、街を取り巻く負の面と 戦っていたのだと……。
只……。何気なく過ぎていった 日々が 幸せだったのだと……。思い知らされていく。
…………。
ある時期から 生前の 母の言葉を思い出すようになる。
…………。
……。
時間は 何にも囚われず 進んで行く……。
…………。
迷ってる間も……。迷わないで 決意した人の間でも……。必ず進んで行く。
迷う時間は きっと少ない方が良いのかもしれない。
今までも……。これから先も……。
………………。
…………。
……。
~漂う暗雲~
赤色と黄色の アルバチャスとして 戦う青年 有馬要人と……。
白色の鎧の アルバチャスとして 街の象徴になっていた 青年 丹内空護……。
身近になりつつあった 2人の青年が、今までの 当たり前の日々の裏で戦っていたのだ。
…………。
私は その事実を知ってから……。迷いに囚われるようになった。
何故か 子供の頃の記憶に残っている、朧げな 母の言葉を思い出し……。感覚的な 要因になってしまったのかもしれない。
…………。
おかしな話だ……。命をかけて戦っているのは 自分では無いし……。
特務棟の社屋の倒壊からも 運よく避難し……。
父が 秘密裏に用意した 隠れ家で保護され、身体を休めるにしても 困らない。
…………。
当時の 私は まだ愚かだった。
…………。
平和ボケだった 自分を心の中で切り離して、手っ取り早く 戦いを知る 1人に成ろうとしていたのだろう。
何も知らない 愚かな人間の 1人ではないのだと……。知った顔をしたかったのかもしれない。
…………。
記憶の中には……。当時の ある青年との やりとりが 今も残っている。
…………。
「 覚えてますか ?
要人 さん、キッチンカーから降りて 直ぐに治療を受けて……。 」
「 覚えてるよ。けど驚いた。
真尋 ちゃん のお父さんが、山の中の 秘密の隠れ家に居たなんて……。
医療用の設備も有るし、医療従事者も常駐しているんだもんね。 」
「 そうですよね。
私も知らなかったから……。
巻 さん は、どうして知ってたんだろ。
お父さん も、教えてくれたって良いのに。
あっ !1つくらいは知ってるよ ?
ここは、カムナ・ベースって名前なんだって。 」
…………。
出来る限り……。何事も無いように 明るく振る舞った。
…………。
……。
心も身体も……。まともでいられるのが 奇跡的な 激しさの中で ずっと戦ってきたんだと……。
それでも、多くの辛さを裏に押し込んで 今も笑っているんだろうと……。
あの日 自分の命を助けた青年が、裏側に伏せてしまっている 部分は 深く考えなくても 想像できてしまった。
…………。
……。
だから……。両手を後ろに組んで……。振るえる自分の手を隠したんだと 思う。
何をすればいいのか……。何が出来るのか 全くわからない。
何かしなきゃと……。焦りは膨れていくが、それだけでも恥ずかしくて 申し訳なくて……。
隠しながら……。普段通りを思い出して装うしか 出来なかった。
…………。
その青年は……。準備が整うと あまり長居せずに 自ら カムナ・ベースを出ていってしまう。
誰の前でも 瞳を潤ませる事もしないで……。
何かを見据えた 瞳で……。早朝の 白んだばかりの 山林の暗闇に姿を消したのだ。
…………。
この時の後姿は、とても 恐ろしかった。
あっという間に 闇に溶けていったからなのか……。本当に いつでも 消え失せてしまいそうな……。
……理由のない 説得力が あった。
…………。
……。
特定の日を境に……。誰かに合えなくなる恐怖は 知っているのに……。
この瞬間まで 頭の中で、避けていたのだ。
…………。
家事を 覚えたのも 料理を覚えたのも……。子供の頃から 生きるのに必死だったから……。
これも 大きな理由になっているが、別の理由もあった。
帰る場所があれば……。帰る場所に楽しみがあれば……。少しでも気持ちが向けば……。
何か 違う結果に 辿り着けるかもしれないと 思いたかったのだ。
…………。
だから……。その青年を 見送った日、精一杯の笑顔で 伝えた。
上手く伝わったのかも、伝えられたのかも わからないまま……。時間が過ぎた。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
時間が過ぎると……。家族は 兄と自分とで 2人になってしまていた。
何日も泣いたと思う。
…………。
現実が 見えていなかった自分への罰なのではないかと 考えもした。
兄は 今まで以上に仕事に打ち込んだ。
…………。
APCの特務棟も スポンサー企業からの援助があったとかで、早い段階で 新しい社屋が 用意され……。
不足した分の人材も 新たに派遣される。
少しずつ 日常を取り戻そうと 多くの動きがあった。
…………。
兄は 何日も 特務棟に籠って、偶に帰ってきても 直ぐに仕事へと戻っていく。
父の死も……。当時の APCの社内情勢の影響も 大きく……。それを 埋められるのは 自分しかいないと……。
この時の事態には 自分にも責任が あるのだと……。そんな風に捉えていたのだろう。子供の頃から 責任感は強い自慢の兄だ。
…………。
だが……。そんな兄も このままでは ふとした瞬間に いなくなってしまうのではないか……。
そうならないように……。
仕事へ向かう背中には笑顔で見送って……。美味しい食事を用意なければいけないのに……。気持ちが追いつかない。
…………。
情けなくて……。無力で……。だらしがない自分が嫌になる。
…………。
……。
父の死から……。3ヵ月近くが 過ぎる頃には……。前のように仕事にも復帰できるようになった。
それでも、時折 有休を使っては 高台の公園に向かう。
父の件 以降……。その人も責任を感じているのか……。食堂には顔を出さなくなってしまった。
…………。
その人 有馬要人にしても……。何の責任も無いし 恨むはずもない。
実際に 直接 顔を合わせて 何を話せるのかも イメージすら湧かないが、もしかしたら……。
もしかしたら……。その人が いるかもしれない……。
僅かな期待でも 平日の 高台の公園に通った。
…………。
街を見渡せる 高台の公園に 店を出す キッチンカーに……。その人が 来るのを期待してしまう。
店主は 数か月前までは 食堂で働いていた 人物 巻健司だ。
有馬要人とも 近しい 様子の 壮年の男である。
…………。
「 所で 真尋ちゃん よぉ……。
新メニューの相談なんだけど……。梅干しと熊肉とか 組み合わせ的に どう思う ?
熊の油淋鶏 梅干しゼリー和え……。ナツメグも入れちゃう !!
名づけて……。
梅の森の熊さんMAKI☆巻き !! 」
「 定番メニューには 負ける気がするかな……。
今の 新メニューと同じ路線じゃない ?
そもそも、鶏肉じゃないなら……。
油淋鶏でも無くなっちゃうし。熊って事は……。ユーリンシィォン ? 」
「 名前は まあ 適当で……。
……やっぱ ジビエ浸透率 上がらないか…… ?
ニッチで栄養面も良好だと思うんだけど……。
蜂の子とか イナゴ文化も有るなら イケそうな気がするんだけどなぁ……。 」
…………。
いつものように 持ち帰り用のブリトーと、この場で 食べるように 商品を選ぶ。
キッチンカーに顔を出すたびに、いろいろな話題が飛び出した。
…………。
少しずつ 気持ちは紛れるが……。
心の奥の ひっかかりが 気になる。
…………。
こんな 感情は……。今までで 初めてだったと 思う。
時期も時期で 不謹慎だが……。振り返ってみれば……。この時すでに 私は ひっかかりの正体に 気が向き始めていた。
…………。
それから何日かが経過した……。ある日の 午後……。
…………。
この日は 仕事が速めに終わり、この頃の行きつけに成っていた ある場所に向かった。
高台の公園で 営業しているキッチンカーに 近づくと……。人通りは 無く 静まり返っていたが……。
静まり返っていたからこそ……。耳に届いた 声と音が 強調された事に気がつく。
…………。
聞き覚えのある 2人の人物の声だったが……。
声に籠っている 感情は、聞くのも辛く……。たぶん 初めて聞く声だった。
…………。
私は 並々ならぬ その喧噪に 身を潜め……。直接 目にするのも 戸惑い……。聞き入ってしまう。
…………。
「 馬鹿な奴だ……。知ってるよ。
本当は いつ街に 怪人が出ても動けるように……。
もし、次に 自分のミスで どっかの区画の 今 が無くならないように……。
もし、無くなったとしても……。自分の記憶の中に焼き付けられるように……。
護れなかった 街を戒めに 忘れないように……。
そうやって いつも、街を見てたんだろ……。 」
「 ……巻さん。どうして。 」
「 まさか 本気で言ってるのか ?
バレバレだ……。
お前は馬鹿だが……。良い馬鹿だ。
始めて この公園の近くで 俺と合った日を覚えてるだろ…… ?
お前が 食事してたら エイオスが 少し離れた近くに現れた……。
ありえねぇぞ 普通……。
どんなに打算が合っても……。
本気で 人を助けたいって気持ちが 無い奴は、あんなに直ぐに動けやしない。
わざわざ 自分が向かわなくても良い距離で……。
ましてや あの時は 実動班の人間ですらないんだ。
アルバチャスに変身する為の 端末も 持ってたわけじゃない……。
お前は 俺に言ったよな ?
直ぐに戻ります……。だから、その時に出発できるように車を準備してください……。ってな。
あの時から 俺は、お前が 何かをやらかしてくれる……。
そんな風に思った。良い意味でだ……。
なあ、要人……。自身を持っていいんだ。囚われるな。 」
…………。
普段は とても盗み聞きなんて する性分ではない。
この時は只……。2人の やりとりから あふれ出る迫力に 息をのみ……。身体を萎縮させるだけしか出来なかったのだ。
…………。
弱気な 有馬要人と……。時に露悪的な物言いをする 巻健司……。
私の知らない 2人の 姿を……。意図せず 知ってしまったのである。
…………。
自分の有り方に 悩み迷う 1人と……。どうにか元気づけようと 正面から 受け止めようとする 1人の様子に圧倒されて……。
……頭の奥で 考えも感情も まとまらない。
…………。
自分の周りだけが 知らない間に 傷ついていくようで……。どうすればいいのか……。
最適な 行き先を見つけ出せない……。
つま先を向ける方角を……。決められず……。私は 物陰で 小さくなった。
…………。
せめて……。その人が隠し通そうとするであろう 裏側を 知っておこうと……。聞き耳を立てる事にしたのだ。
始めてあった日から……。手を引いて助けてくれた日から、何でも無い顔の 後ろにしまっている弱い部分を……。
こっそり 受け取ろうと……。聞き耳を立てた。
…………。
何ができるのか……。何かできないか……。前よりも強く考えるようになる。
…………。
……。
更に 数日が過ぎると……。特務棟内に 見た事のない 赤色の怪人が表れた。
特務棟内で 警報が鳴り 直ぐに、近場の屋内シェルターに避難したが……。その怪人は 壁を壊して 近づいてくる。
逃げ場のない 空間で……。私は……。
……身体を 大の字にして、立ちはだかった。
…………。
「 …………もう 嫌。
…………身近な誰かが傷つくなんて……。
お願い…… !来ないで……。 」
…………。
悲鳴すら 息を殺すような凍り付くシェルターの中で……。声も。身体も。震えが止まらない。
怪人の 進行は止まらずに……。少しずつ 目の前に近づいてくるが……。
私は 自分の行動を止められなかった。
自暴自棄では無く……。完全な部外者ではない 1人として 自分にできる最善だと……。そう信じたのだ。
…………。
結局 この時も……。瀬戸際の状況で……。私は 兄に助けられた。
兄は 強引に 赤色の怪人を 屋外に連れ出して、それから程なくして 別の避難場所への誘導員が 駆け付け……。危機から遠ざけられる。
特務棟の屋外で 戦っていた兄が、少し遅れてから 新しい避難場所に顔を出し……。
私達は 自然と涙を 零していた。
…………。
この日 以降……。
兄が 自宅に帰る回数も 仕事に打ち込む時間も変わりだす。
仕事が やっと 一段落付き始めたのだと……。そう話していたが……。なんだか気になった。
…………。
兄との 家族の時間が 増える嬉しさとは別に……。何かが 気になった……。
…………。
……。
今の自分に何ができるのか……。毎日のように 目を凝らす。
この頃は 特に 母の言葉が 頭に浮かんでいたと思う。
…………。
……。
時間は 何にも囚われず 進んで行く……。
…………。
迷ってる間も……。迷わないで 決意した人の間でも……。必ず進んで行く。
迷う時間は きっと少ない方が良いのかもしれない。
今までも……。これから先も……。
………………。
…………。
……。
~それは行き詰まりか…~
街全体を見渡せる 高台の公園で……。女性が 青年に近づいた。
…………。
2人の顔の距離は 近く……。互いの視界に入る 世界は限定されている。
調度……。青年と女性が 知り合った日から 数えて……。1年以上が経過していた 現在の ある日の 出来事だ。
…………。
事の次第は……。この日の内の 1時間程前まで遡る。
…………。
高台の公園で 営業するキッチンカーに 2人の人物が 殆ど同時に顔を出したのだ。
時間を合わせたでもなしに 珍しい頃合いだった。有馬要人と……。天瀬真尋が……。キッチンカーに訪れたのである。
…………。
キッチンカーの店主 巻健司は、一瞬だけ あまり良く無さそうな 表情で 口角を上げるが……。
直ぐに 小気味いい 清々しさの焼き付いた面持ちで 2人を出迎えた。
…………。
「 いらっしゃいま……。わぁお !!
要人に 真尋ちゃん !!お 2人さん 元気 ?
調度良いところに……。
実は 俺、これから テイクアウトの 配達があるから、少しの間、店 見ててくれないかな ?
大丈夫 !!客足は落ち着いてるし……。
普段通りなら この時間帯は お客さん 完全にゼロだから……。じゃあ……。へへッ頼んだよ !! 」
…………。
そして、簡単に 言い結んで 立ち去ってしまったのだ。
確かに……。最初の 10分程は 客足は無く……。どうやって 場を持たせるか……。
妙に 気を使ってしまった。
…………。
しかし……。その後に 約 30分間にも及ぶ 客足が 押し寄せたのである……。
青年 有馬要人は 即座に店主に 電話での連絡を取るが……。直ぐに戻るから レシピを見ながら 提供しててくれと……。
予想の外を行く 返答がきてしまった。
…………。
いい加減なのか……。大胆なのか……。店主からの判断に従い……。
なし崩し的に 2人は、ブリトーとスムージーの提供を始める事にする。
…………。
レシピがあるとはいえ……。普段は 一切使わない 設備での調理は……。どこに何をしまってあるのかも 手探りで探し……。
最初は特に 時間が存在しない錯覚を覚えるほど、忙しさに飲まれてしまった。
…………。
少しずつ……。2人の分担が 決まり始め……。調理は 天瀬真尋が……。
キッチンカー周辺の テーブル席への提供……。すなわち ホール業務は 有馬要人が主になって 運営した。
…………。
客足が 盛んになってからの 最初の 5から 10分を過ぎる頃には……。2人の呼吸は合い……。
キッチンカーの営業は 流れを掴みだしていたようだ。
…………。
何故……。混み合い始めたのかもわからない 30分が過ぎ去って……。
客足の波の 最後を見送ると……。やっと さっきまでの静かな 公園の景色が 戻って来た。
…………。
「 乗り切った……。真尋ちゃん がいて助かったよ 本当に……。
俺って いつも食べる専門だし 料理なんて全然。
巻さん に バイト代 請求しないとな……。2人分……。 」
「 料理なら 任せて。好きだし 得意だから !
……けど、正直言うとね ?
キッチンカーの使いやすい設備とか レシピが残されてたのが大きいかな。
要人さん も お客さんの 誘導とか 人の流れの 動線確保 上手だったし……。実動班勤務は 伊達じゃないね ! 」
…………。
私は……。自分が どうすればいいか……。わからなかった。
…………。
「 ハハハ……。アレくらい。
たぶん、俺よりも うまい人 沢山いるし。
そうだ……。
さっき 巻さん に電話した時に 話してたんだけど、ピーク落ち着いたら今日はもう閉めても良いって。
戻ってきてから 細かい所は 巻さん 自分でやるらしいから……。
火の元だけは 気を付けてくれってさ。 」
「 そっか……。
なら 私は 調理器具の片付けを、もう少し 進めとくね。 」
「 了解…… !
俺は 看板とか椅子とか 集めてくる。……後 のぼり旗か。 」
「 うん。お願いします。 」
…………。
なんとなく……。答えがわかっていても それを 強引に持ってくる勇気もない。
過去の自分と 今とを 比べてしまい……。一番 良いと思える 答えまで ほど遠く感じてしまう。
…………。
……。
これを 見透かしているからか……。
年の離れた 友人は……。ここのキッチンカーの店主は、機会を作ろうとしてくれる時がある。
…………。
つい最近も そうだった。
…………。
その日も 偶然に……。ここで その人と 顔を合わせたのだが、友人は 直ぐに出せる食事と飲み物を持たせて 私に促す。
後日 友人とは その日の 事を話し、簡単な お礼と謝罪の言葉を 伝えたが、本人も少し 急いで用意したのだろう……。
…………。
……。
ごめん !結構 強引だったな !
…………。
……。
……と、簡単な言葉で まとめて 笑っていた。
…………。
この友人が レシピまで 残して、今日は 時間を使っているのだ。
配達は 嘘ではないのだろうが……。今日も そうなのだろう。徒歩で回れる距離にしては 時間が釣り合っていない。
だというのに……。私は……。
…………。
……。
速い話……。腰が引けているのだ。
私は 変な所だけが 冷静で、先の行動に 腰が引けている。
つま先を 向けるのさえも 変に気にしてしまい……。簡単な 1歩も踏み出せない。
こんな事は 今までは無かった。
…………。
とても 不純だ。その人は 今も 私のような汚さもなく 片付けを行っている。
怪人が 出現すれば、自らの命の危険も顧みず 戦い……。
そうじゃない時も……。嫌な所が無い。
たまたま 得意分野だけに 打ち込める 私が 恥ずかしい。
…………。
「 真尋ちゃん。
これ あそこの自販機から買って来たから 選んで。
お茶か、スポーツドリンクか、フルーツ系の炭酸。3本あるから 余った分は 巻さんに。
そこの ベンチからなら キッチンカーとも近いから、座って休もうよ。 」
「 えっ そんな……。ありがとう。
それじゃあ 私は お茶で……。ごちそうになります。 」
…………。
本当に その人は……。少しも嫌なところが無い。
自分自身を比べてしまい ずるく感じてしまう……。そんな私が 恥ずかしい。
…………。
……。
買ってもらった お茶を たまに口に含んで 会話の回数を誤魔化す。
当たり障りのない話しを……。何でもない顔と言葉で 並べた。
…………。
……。
前みたいに話しかけてくれたら……。今なら もっと楽しく話せるかもしれない……。そう思っていた。
でも 共通の話題を 相手から 投げかけられて 返すだけで……。新しく進められない。
その人は 今も 共通の友人の話題を 広げて 場を持たせてくれている。
…………。
「 ……本当に 最初は 混乱したよね。
丁度良く 電話かかってきて レシピはどことか、今のクーポンは どれとか……。言うだけ言って 電話切るんだもんな。
メッセージには ピーク済んだら 閉めていいよ !とか……。本当に 巻さん は自由っていうか。
あ……。電話じゃなくて メッセージで来たのか。
俺さっき 電話で 話したとか 言ってたかな ?
ハハハ……。俺 まだ混乱してたかも。 」
…………。
それではダメだ……。相手に頼ってばかりでは……。
私も共通の話題を……。
…………。
「 ……あのさ ?
その……。前に話してた ご両親からの御守りって……。 」
「 これ…… ?結構 年季が入ってるし……。
くたびれてるだろ ?
父さん と 母さん が大切にしてた 物らしくて 手作りなんだってさ。
昔 中身を見せてもらった事が 有るんだけど……。
なんかの木の枝 ?みたいな。
小袋も 紐も 父さんが 用意して作ったんだって。
少し 変だろ ?俺の家は 何か信仰してるわけでもないのに。 」
…………。
冷静さを失って 放り込んだ話しは、思いの外 広がりを見せる。
…………。
「 そんな事ない。
身近な 誰かが不幸にならないように……。無事に帰ってきますように……。
そんな風に祈るのは 誰だってすると思うし……。
本当に何も出来る事がなくなった時も、行動を起こす前にだって 願いは大切だと思うから。 」
…………。
広がりを見せるが……。少し 唐突すぎたのかもしれない。
その人は……。
唐突な 話題にも嫌な顔をせず 首から下がった 御守りを、首から外して 話し続けている。
…………。
「 真尋ちゃん 大げさだよ。
ハハハ……。でも ありがとう。
さっきは あんな感じで話したけど、なんだかんだで 大切にしてるんだ。
どうしようもないかも……。とか、これから 頑張るぞ……。とか。
いつも土壇場に立つ前とか 立ちそうなとき この 御守りで 自分を 奮い立たせるんだ。
自分が どうしたいか……。なんで そうなのかとか 思い浮かべながらさ。
だから いつも 肌身離さず 首から下げ……。あっ……。
この紐……。また千切れちゃったか。 」
「 まって 要人さん。
たぶん 紐の部分 新しくしないと 結び直しても 別の所が千切れちゃうかも。 」
「 そうなんだけどさ。
新しく 紐 用意するの 毎回 忘れちゃって。 」
…………。
きっと罪悪感が あったのだ。
変な所で冷めた 感覚を持っているからか、何かしらの打算で この後の流れを想定し……。提案をする。
…………。
「 もし……。嫌じゃなかったら、同じくらいの長さの紐 持ってるかも。
今までの 紐も 捨てるのは 嫌だったりするんじゃない ? 」
「 ハハハ……。それもあるかな。
もしかして わかる ?ちょっと恥ずかしいかも。 」
「 恥ずかしくないよ 良いと思う。
私も 家族からの 贈り物なら 大切にしたいから。 」
…………。
特別な事は何も出来ない 私が 出来る事を……。
日常的に持ち歩いている ソーイングセットの中の物で出来る 得意分野の 1つを……。提案した。
…………。
「 じゃあ……。頼んでも良い ? 」
「 もちろん まかせて !
御守り 少し借りるね。 」
…………。
なんでもない顔で ベンチに座ったまま……。集中だけに務める。
集中だけに務めて 手を動かすが……。やっている事は そんなに難しい事でもない。
…………。
何分も経たずに 先程の提案した物は 完成した。
…………。
「 ……どうかな ?
同じくらいの長さの紐で 頑丈そうなの選んだんだけど。
後……。今までの紐は 簡単に編み込んで ストラップ用の金具もつけたから これからは別の使い方 出来るよ。 」
…………。
仕上がった物に説明を付け加えて 先にストラップの方を手渡す。
少し 話した内容が 大げさすぎたかもしれない。
なんだか その人に 悪いような 気がしてしまった。私は自分が卑しいのではないかと……。
…………。
「 凄いよ 本当に助かる !ありがとう。真尋ちゃん。
ストラップは何つけようかな 部屋の鍵とか……。デバイスに……。
いや、そっちだとボロボロ成っちゃうか。やっぱ 部屋の鍵に……。 」
…………。
街全体を見渡せる 高台の公園で……。私は その人に近づいた。
…………。
「 御守り 首から下げてあげるね。 」
「 え……。そんな……。いや うん。折角だし……。
お願いしま……。
いやいや 今のは 変な意味じゃなくて。あ……。 」
「 ねぇ。要人さん て……。大切な人とか いるの ? 」
…………。
顔の距離は 近く……。互いの視界に入る 世界は限定されている。
…………。
「 えっと……。俺は その……。
悲しんでほしくない人なら……。ずっと その……。前から……。 」
…………。
その人は バツの悪そうな面持ちで 言葉を 即座に絞り出す。
周りには 他に人影は見えない。
少しだけ……。スポーツドリンクの香りがする。
…………。
「 そうなんだ……。なら 良かった。
大切な人と お幸せに……。 」
…………。
好きな物、好きな時間……。楽しいと思える事……。
待ち遠しい何かを いつまでも大切にして欲しい。この御守りみたいに。
…………。
何処に行っても……。きっとそれは有ると思うから。きっと そんな事の積み重ねが 助けてくれる。
…………。
母の言葉を思い出す。
タロットカードで遊んでいた頃の 神秘的な台詞が、特別な感じをさせて 蘇る時がある。
…………。
……。
時間は 何にも囚われず 進んで行く……。
…………。
迷ってる間も……。迷わないで 決意した人の間でも……。必ず進んで行く。
迷う時間は きっと少ない方が良いのかもしれない。
今までも……。これから先も……。
…………。
私は 気がつけば いつも 後回しだった。……けど それで良かったのかもしれない。
今までの自分の判断に 違う何かがあると……。これから先の 最初の 1歩に迷う。つま先の角度も異なる。
…………。
……。
けど たぶん……。それで良い。
母の言葉に 自分なりに 答えを付け足して……。私は 私を納得させた。
…………。
「 あ……。ごめんなさい 要人さん。
私 そろそろ お兄ちゃんの 夜ごはん作らなくちゃ……。
巻さん には、よろしく伝えておいて。 」
…………。
とても ずるく……。卑しい 私が その人に気持ちを持ってしまっては きっと迷惑だ。
その人は 街の外から 颯爽と表れて、誰よりも 危険の中に飛び込んでいく。
そんな 人物のそばに 卑しい私は 釣り合わない。
………………。
…………。
……。
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