- 36話 -
訳がわからない 元凶
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目次
~暴れる力~
仄暗い洞の中……。
極彩色の光を発する ある存在の中の奥底で……。
混濁し錯綜する渦に 埋もれた ある戦士は、あらゆる情動と五感を 今の現実のように感じる。
…………。
これは……。
約 19年前の 大災害よりも遥か昔……。紀元前 400年前後の とある頃の物語……。
正史にすら残らない ささやかな過去が、戦士の中で断片的な経験として蘇っていく。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
何年かに 1度の間隔で オレ達は 聖地を目指す。
改めて考えると面倒な生まれなのかもしれないし……。アイツが言う通り 興味深い所があるのかもしれない。
古い古い……。昔の戦士だったか 何かの名前を引き継いだ名前が、オレ達の民の名前だ。
アルベギ族……。
…………。
族長をやっている アホ親父も、呪い師長の婆 さん も……。
何かが あるついでに 格式高い伝統や慣習を口にする。
オレからすれば、小難しい小言なんてどうでも良い。
…………。
日常的に 今日とか明日の食い物を追いかける 一瞬の方が最高だ。
…………。
「 お前ら !!アレを逃がすな !!今日こそ仕留めるぞ !!
あの 巨大トカゲで 当面の食料問題は解決する。 」
…………。
部族の荒々しい青年は……。
鬱蒼とした 密林の中を走りながら、周囲の数人に檄を飛ばす。
片手には 狩猟用の剣を持ち……。
眼前に足場の悪そうな藪が迫ると 軽々と飛び越えて、
剣を持っていない空いた方の片手だけで 枝から枝へと迅速に飛び移って進んだ。
…………。
幹を蹴り……。枝を掴み……。立体的な起動を 樹林の中で体現する。
…………。
只々 走るだけでは進めない木々の中を 自在に移動する様は……。
同行する 他の戦士からみても 異常な俊敏性だった。
…………。
「 ……まてまて !早すぎるぞ カシュマト !
後続が どんどん遅れてる。……本当に お前 俺らと同じ食事で それかよ ? 」
「 待ってられるかよ。
あのトカゲは オレ達よりも障害物が多い地面だけで あの速さなんだ。
今なら、追いつける。 それに……。お前だって、まだまだ余裕だろ ?ヘノウ ! 」
…………。
いつの間にか……。片腕だけで 枝から枝へ飛び移る戦士は 2人にまで減っていたが……。
地上の草藪にさえ 納まらない大きさのトカゲの背中に、狩猟用の剣が叩きつけられた。
…………。
脳天に重い一撃が 決まり……。トカゲの動きが鈍ると……。
トカゲの頭頂部を、狩猟用の 木製の矢じりが貫く。
成人が馬乗りになれるような 大きさのトカゲが、仕留められた瞬間だった。
…………。
アルベギ族にとって、狩猟には槍を使うのが 一般的ではあるが……。
カシュマトは 動物の歯牙が差し込まれた木剣を……。
ヘノウは 樹脂で固めた鋭利な先端の木製の矢じりを 丈の短い半弓で 使いこなす。
2人の青年は 相互に腕前を認め合い……。1秒先を任せ合える間柄だった。
…………。
巨大トカゲを仕留めた この日……。
アルベギ族の 駐留地に、古くから交流を持つ来客が招かれる。
調度、半日 程度 歩いた距離の浜に……。船が停泊していたのだ。
…………。
アルベギ族が 地上を移動する放浪民族であるように……。
来客達は 海を移ろう放浪民族であった。
…………。
名は……。ワシルディシュカ族。
補給も兼ねて 立ち寄ったついでに、再開を祝い……。
2つの民族間の友好の慣習にならって記念の交易を行う。
アルベギ族の駐留地や浜では、連日のように 宴が催された。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
アルベギ族にとっては稀な 来客達が、船を出して旅立ってから数日……。
荒々しい青年の眼には、未だに見慣れない 顔だちと肌の色をした 同年代程度の男が映った。
…………。
海を放浪する友人達から 押し付けられるように置いて行かれた 交易品だ。
なんでも……。海の部族達が 浜に到着する前に襲った商船の生き残りらしく……。
海の部族達の見立てでは、商戦で働く人間でも無いらしい。
…………。
ミッコウシャ……。そういった名前の人種なのだとか。
確かに……。目鼻立ちも自分達とも 異なるし、肌の色も白い。
多少 骨ばって背丈もあるが、筋肉は瘦せていて貧相だ。
交易品として柵の中に 入れてはいるが……。
辛うじて 会話は出来るようで、男から語られる外の世界の話が注目を集めている。
…………。
「 お前 名を……。ウィーリッツと言ったか。
部族の名前はミッコウシャ……。たまに聞く名前だが……。
他にも仲間はいるようだな。
外の世界の話は、否定はしないが帰れると思わない事だ。
親父達から聞いている通りで、オレ達は外との交流は 一部を除いて許してはいない。
食事は用意してやるが、生涯 柵の中で過ごしてもらう。 」
…………。
荒々しい青年は……。
頑丈そうな 木製の柵 越しに しゃがみ込んで、威圧的な物言いをしてみせる。
ミッコウシャの眼窩(がんか)の奥に 眼光の全てを送り込むような圧力で 視線を合わせた。
…………。
だというのに……。柵の中のミッコウシャと、ミッコウシャとは異なる 柵の外にいる先客は……。
カシュマトとは 真逆の雰囲気を漂わせる。
…………。
「 僕は構いません。
生かされているだけでも ありがたい。
お礼では ありませんが……。体験談等でよければ いつでも お話しますよ。
調度、タナラダ さん にも海の話や……。
極寒の雪原の話をしていた所です。 」
「 うんうん。……それでそれで さっきの続きは ?
えっとぉ……。
ユキ ?触ると冷たい解ける粒 ?
そんなのが 一面に広がって 空から降ってくるんだよね ?
真っ白で まぶしくて寒い景色の中で 大きな動物に追いかけられたんだっけ。
カシュマトは、こういうのたぶん興味ないからぁ……。
お話 再開しよ ウィーリッツ。 」
「 僕は構いませんが……。
族長の御子息を ないがしろにしては……。 」
「 大丈夫。前の族長はワタシの お爺ちゃん だし……。
カシュマトは 幼馴染だから……。うん 問題ない ! 」
…………。
荒々しい青年は、どうにも調子が狂う。
柵の中で 行動が制限されている筈の相手にだ……。
調子が狂う原因は ミッコウシャだけでは無いが……。
…………。
「 おい。タナラダ……。聞こえてるんだよそれ。
問題ない !……じゃ無いんだよ。
……あのな オレは ! 」
「 ……あの日 仕留めた獲物が 交易品として持ってかれて へそ曲げてるんでしょ ?
未来の族長が そんな小さい事 気にしたらダメだよ ?
大丈夫 大丈夫。
カシュマトは、ワタシの許嫁なんでしょ ?
もっと大きい獲物 直ぐに取れるよ !
信じてる。ファイト !
あ……。それとも……。
ヤキモチ ?ちょっとぉ……。
大丈夫。大丈夫。大丈夫だから。
もう少し 話聞いていったら また収穫行ってくるから。ね ?
それとも……。ワタシを信じられないの ? 」
「 ぐぅ……。
……狩りに行ってくる。今日こそ大物 食べられるようにするから。
その……。待っててくれ タナラダ。 」
「 うん。いってらっしゃい カシュマト。 」
…………。
この日の狩りは いつも以上に上手くいった。
近隣の収穫も上場で、蜂の巣が格別に美味しかったのを覚えている。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
以降……。
ミッコウシャのウィーリッツは……。柵の奥から話をするだけだったが……。
部族の中でも 独自の立ち位置で馴染み始める。
…………。
よくよく考えても 不満があった訳でもないが……。何処か落ち着かないような気分だった。
呪い師長の孫の ヘノウに 話してみたが……。
聖地巡礼の合間には よくあるのだと……。昔 似たような話を 聞いた事が有ったらしい。
確かに……。自分達の世代は 聖地に向かうのは今回が初めてだ。
…………。
緊張しているのだろうか……。
…………。
日に日に次の 駐留地へと向かう準備は進み……。
一定の貯えも 充分になると、月の形の変わり方や風の匂いで時期を見計らって荷物をまとめた。
…………。
次の駐留地に到着しては……。
また、これまでと同じように 獲物を探して、その日の分と 先の分の食料を確保して……。
備蓄が充分に成れば、更に次の駐留地へと向かう。
何度も 繰り返しながら 聖地アストラを目指すのである。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
そんな日々の ある日……。荒々しい青年 カシュマトは……。
先祖の魂が宿るとされる 石……。黒宙石(コクチュウセキ)の中の 1つが嫌に気になった。
祭壇に置かれた 黒宙石の前で 先祖の魂に誓いを立てる……。何度も行った儀礼だったにもかかわらずだ。
…………。
「 おい。カシュマト ?
大丈夫か ?これから俺ら 狩りだぞ ? 」
「 ん ?……ああ ヘノウか。
……大丈夫だ。すまん。
所で……。あの石が そうだったか……。 」
…………。
祭壇の一点に 新たに置かれた 装飾としての石だが……。
妙に目立って見えた……。そんな気がした。
…………。
「 そうそう……。
ワシルディシュカ族から譲り受けた 交易品の 1つがアレだ。
婆ちゃん の話だと……。他の石とは違うらしいから、触ったら怒られるぞ。
俺は未遂でも そうだったからな。
うし !それじゃ 今日も狩り行こうぜ。 」
…………。
この日 以降……。狩りの時でも 例の石が何故か気がかりで……。
食い物を追いかける日常的な最高が 曇ったようになってしまう。
…………。
連日の これには 思っていた以上に嫌気がさしていたが……。また次を目指す準備が整い……。
荷物を まとめ……。移動する途中で……。
例の石が 偶然 祭具の積み荷から 零れ落ちてしまう。
…………。
足場が悪い 峠道の影響だ。
…………。
反射的に 中空に飛びだした 石を……。握った。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
その後は散々だった。
…………。
アホ親父には、ホルタ婆さんの仕事だと……。やたらと𠮟りつけられたが……。
こんなのは 最悪には入らない。
…………。
石に触れた瞬間……。背筋に寒気を感じたが……。何故か これを忘れてしまい……。
何を忘れていたのか、その日の夕刻に思い知らされる。
…………。
見た事も無い 人型の化け物達に 襲撃を受けたのだ。
…………。
戦える戦士を アホ親父が統率し……。どうにか退路を確保する。
地形を活かして 全滅を避けようと動き回った。
偶然 1日前に……。
ヘノウの奴と暇つぶしに先行して、道の状態を見に行ったのが 上手く噛み合ったのかもしれない。
散り散りに成った仲間を 出来るだけ集めて……。進んだ。
アホ親父と ヘノウは……。どちらも殿を務める戦士の 1人として 別行動を取ったが……。
……翌日の集合場所には現れなかった。ホルタ婆さん も 泣いていた。
…………。
この日を境に……。
謎の化け物達は まばらに襲撃してくるようになる。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
ウィーリッツの話によれば……。例の石は 既に荒廃した遺跡から出土した物のようだった。
石の名前は……。マルクト……。オレ達が直面しているのは……。光の試練……。
どうして 名前を知っているのか……。
自分でも わからない。
…………。
わかっているのは……。もっと単純な事だ。
オレが何かのヘマをしたんだ。
親父も ヘノウも……。他の戦士達も……。その尻ぬぐいをして 命を落とした。
タナラダも ホルタ婆さんも 偉大な先代達の元へと旅だっただけだと……。そう話していたが……。
…………。
オレがした アホは……。オレが取り返さないと……。
いつか アイツらの元に旅立つ日が来ても 恥ずかしくて仕方がない。
…………。
婆さん達によれば、聖地までは 後 何日も歩かないでも辿り着ける距離なのだとか……。
なら……。
それなら オレは !オレは……。
…………。
何日か……。自分でも珍しく悩み続けたと思う……。
……ガラにもない事だってした。
…………。
この時 既に、柵からは出されて 何人かの戦士に護られながら歩くのが 日常に成っていた ある男とも……。
人払いをして 話をしたんだ。
…………。
……。
ウィーリッツは……。ミッコウシャと呼ばれる前は チョウサダンの 1人だったらしい。
本人も この辺は曖昧で……。自身が無いそうだ。
最初に乗っていた船は、嵐に巻き込まれ海上で船は沈み……。
打ち上げられた 浜には……。虫の息の仲間が何人かいたが……。長くは持たず……。
ウィーリッツの記憶が 飛んでいた事実だけを知ったそうだ。
…………。
飛んでしまった記憶は、浜に打ち上げられる以前の殆どで……。仕方なしに 周辺を探索した。
そして 見つけたのが……。荒廃した遺跡と、その奥で見つかった 例の石 マルクトらしい。
たまに……。タナラダ達を相手に話す旅の経験は 今も断片的な記憶で……。
鮮明に思い出す日もあれば……。
他人から 指摘されるまで忘れた事にさえ 気が付けない時も有るのだとか。
…………。
マルクトを 手にしてからは、偶然にも補給に訪れた 商船に潜り込んだものの……。
商戦は襲撃され……。混乱の中で 襲撃してきた船に隠れたが 見つかってしまったそうだ。
調度……。海の部族が 新たな補給を目的にして、
当時の オレ達が駐留する陸地に 近づいた頃合いが そうなのだろう。
…………。
……。
オレは……。残された仲間を護り抜く為に戦うだけだ。
ウィーリッツの話に何かの影響を受けたつもりでは無いが……。生きなくちゃならないと……。
強く実感したのは この時 以降だった。
…………。
オレは見張り役の戦士達や 仲間に……。何があっても生き残るようにと呼びかけて……。
聖地へと 向かうように促し……。ウィーリッツの拘束も解く。
…………。
この頃には 執拗に追いかけてくる化け物は……。特に厄介そうなのが 4体……。
夜の闇のように真っ黒な奴……。巨大な剣を振り回す奴……。太陽のような熱を思わせる奴と……。
どこまでも変な奴と……。
4体とも手強く……。只 逃げ続けるには限界が近づいていたように思えた。
…………。
……。
ホルタ婆さんから ありったけの赤土を貰って 身体を清めて……。
親父から受け継いだ族長の木剣と木盾を握った。
ついでに……。ホルタ婆さん からは……。幾つかの黒宙石と マルクトを受け取る。
次に 奴らが現れた時に 殿(しんがり)として戦い抜こうと考えていたが……。
見透かされていたのかもしれない。
最も偉大な戦いを行う戦士には 戦いの中で先祖達が導いてくれるのだと……。
……そんな風に話していた。
…………。
……。
空が白んでくると……。奴らが現れ……。若い戦士の殆どを 仲間の護衛につけて……。
聖地アストラに向かわせる。
…………。
タナラダは 別れ際に わざとらしく笑顔を見せていたと思う。
オレは 必ず生きて追いかけると 誓い……。4体の化け物達と戦い続けた。
…………。
一緒に殿をした 戦士達は次々と 先祖の元へ向かう……。
……なんのことはない。1人でも戦い抜く。
…………。
……。
最後の 1体を確かに 消滅させる間際……。変な奴が……。もう 1体の存在を仄めかしてしまう。
オレは急いだ。
アストラに向かわせた 皆が危ないと……。知ってしまったのだ。
…………。
……。
傷を負った タナラダを見つけて……。事情を簡単に確認すると……。
オレは 更に進もうと走りだすが……。背中を 何者かが刺し貫こうとしている気配に気がつく……。
振り向くと……。タナラダが 片方の手を鋭利な何かに変容させて踏み込んでいる。
視野が狭くなっていたのだろう。
…………。
近くの物陰には ウィーリッツも横たわっており……。既に生気も無いと気がついた。
…………。
……。
タナラダのような外見の 化け物は……。自身を悪魔なのだと……。
最初に……。親父とも対峙し……。命を奪ったのだと……。高笑いをして見せた。
タナラダは……。ヘノウに 護られていたが……。この時に 2人揃って絶命し……。
親父は タナラダの外見の悪魔に 不意を突かれたらしい。
何が目的なのか……。高笑いの合間 合間に 悪魔が語り出す。
…………。
あらゆる感情が爆発したと思う。
…………。
……。
タナラダの姿をした 化け物を 消滅させて……。そのまま別の化け物と連戦していたらしい。
黒い翼を持つ化け物と 激しく戦っていた頃に 勝機に戻って、
オレは 今の今まで暴れていたのだと気がついた。
レト……。ドゥークラ……。戦いの最中で知ったのか……。奴らの名前は頭の中に残っている。
黒い翼の化け物 ドゥークラにも打ち勝って、最後の 1体とも そのまま戦った。
…………。
……。
極彩色の光を放つ 石造りの鎧に……。
ありったけの力で 木剣を振るい……。木盾で殴りつける。
赤土で清めた身体は……。裂傷や何やらで 血だらけだったのかもしれない……。
時折、石造りの鎧の化け物 イェルクスに、飛沫が飛んでいるようだった。
…………。
……。
最後の一撃を叩き込んで……。
生きている実感も何もない 身体を引きづり歩く……。
…………。
護衛として先行させた 若い戦士と合流する。
激しい音が静かになったとかで 様子を見に来たようだった……。
数は減ってしまったが 聖地に辿り着いた者も居るのだと……。そう知らされて……。意識が遠のくと……。
オレは アストラに担ぎ込まれたらしい。
…………。
この日の戦いで旅だった 仲間達も弔って……。
しばらく 聖地に定住した。
オレは族長として……。光の試練と呼ばれる忌まわしい記録を 部族の中に残し……。
ある時期に試練最大の恩恵を手にした。
…………。
願わくば……。忌まわしい光の試練が 二度と行われないようにと……。
アルベギ族が 発展し続けるようにと……。思わずにはいられない。
…………。
……。
荒々しい青年の 全ては……。再び……。混濁し錯綜する渦に埋もれていく。
あらゆる情動と五感を 幾度か呼び覚ましても……。その都度 それらは沈んでいく。
…………。
粉々にバラけて 霧散し 吸い込まれていく……。
オレは……。オレの形は 崩されていく……。
………………。
…………。
……。
~制御不能の悪循環~
現代 I-14 地区……。
枝川沿いの 拡幅のある散歩道 付近では……。
…………。
激しい乱戦が続いており……。
3人の青年……。有馬要人(アリマ カナト)、天瀬十一(アマセ トオイチ)、荒井一志(アライ カズシ)は……。
複数体の悪魔と死神とを相手に戦い続けていた。
…………。
そんな中……。
愚者のアルバチャス 有馬要人が……。
悪魔の分身の 1体と鋭い蹴りを ぶつけあって、相互に姿勢を崩す。
青年は背面の方に小さく跳躍しながら 体勢を 素早く整えなおして 次の動きを見越すが……。
この区画に 新たな変化の兆しが現れる。
…………。
辺りには……。青年も見覚えのある 黒色の羽根が舞い下りて……。
何者が現れたのかを 直観的に知らしめた。
黒翼の怪人 ドゥークラ……。幾度なくアルバチャスとも戦った異質な強さの怪人の 1体だ。
…………。
「 汝……。レトよ。
試練の英雄 復活の有無は、既に依り代の中で進行している。
全ては エスネトと試練の英雄との問題……。
真っ当な形式で、試練の失敗を果たすのだ。汝の意向で歪めるつもりか ? 」
…………。
ドゥークラは 悪魔のエヌ・ゼルプトに呼びかけているらしく……。
その言動は……。聞き流せない事象と大きく関わっている何かを示唆した。
…………。
「 こんにちは 先輩……。
俺ボクを助けに来た感じでは 無さそうですね。 」
…………。
常に 10体近くの複数体の悪魔が存在するが……。どの悪魔が本体なのか……。
判断に困る状況の中 1体が応答し……。乱戦から抜け出して黒翼に向き合う。
この 1体の悪魔を除くと、周囲では肉薄した戦いも激しさを増した。
…………。
複数体の悪魔が、同様に分身を操る愚者のアルバチャスと拳をぶつけ……。
何体かは、ジャスティフォースの白群色の雷鳴を浴びる……。丸七型からの銃射撃も飛び交っており……。
既に 元々出現していた分の 10体以上の悪魔が 消滅していた。
それでも、常に継続して 新たな分身が 補填されているらしく……。本体の悪魔が健在だと示唆する。
…………。
仁科十希子(ニシナ トキコ)からの 情報によれば……。
現在も、大代大(オオシロ マサル)が指揮する 第二班第四班合一編成によって、
I-14 地区 周辺の避難誘導や 哨戒行動が継続されているようだ。
緊急時への備えとしては……。
3人の青年達が奮起する 交戦区域での状況の悪化も 1つの可能性として検討し……。
段階的に 避難と警護の範囲を拡大する方向性も用意されている。
…………。
黒翼の怪人と ある 1体の悪魔は……。周囲の戦いに目もくれず 会話を続けた。
…………。
「 全ては規定通りだと……。汝も知っているはずだ。
考えなしに振る舞うのも 度が過ぎるのならば……。 」
「 俺ボクも粛清ですか ?
……なら、やってみましょうか 折角ですし。 」
「 汝 勝算など あると思うな。
試練を歪める気概は変わらないと……。そう見て良いのだな ? 」
「 ハハハ。……それじゃ 俺ボクも 抵抗はしますよ ?先輩。
悪魔は いつも笑うんです。
先輩が相手か……。ならエスネトは頼れないな。
でも……。もっともっと楽しい事 やってみたいんだよね !ハハハ。 」
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラと、悪魔 レトとの間で 何かしらが決裂したのか……。
レトの笑い声が 響いた後……。更に分身が増えていき……。合計 20体に届く悪魔が 動き回る。
その中の 6体の悪魔は……。黒翼の怪人を取り囲み、時間差での波状攻撃を仕掛けていく。
ドゥークラも 焦る様子を微塵も見せずに徒手格闘と 黒色の羽根での爆撃で応戦した。
…………。
悪魔は次々と 殴り飛ばされ……。爆散するが……。今も周囲に蠢く 全体数に変化はない。
それどころか……。時間を追うごとに 増えているのか、悪魔の分身体は 30体近くにまで増えているようだった。
…………。
分身体の悪魔は それぞれに 小剣型武装を握り……。
背面の枝のような脚のような ギミックからは 中規模な火球を生み出して混戦させる。
…………。
戦塵が舞う中……。
3人の青年は。ボイスチャットによって 意思疎通を取り、戦いながらも足並みを揃える。
青年 有馬要人……。天瀬十一……。荒井一志は……。互いを鼓舞した。
…………。
「 レトの分身が……。さっきよりも増えてる……。
これが 英雄のマルクトの実力……。
レトは 俺達やドゥークラとも並行して戦えるのか ?
けど…… !! 」
「 そうだね 有馬 君。俺達も引く訳にはいかない。
それに……。今の状況なら アレを利用できるかもしれない。
荒井 君も聞こえているね ?
今の混戦で……。死神のエヌ・ゼルプトを 格納シェルターに鹵獲しよう。 」
「 ……試験的に作られた 旧型のシェルターを改造したアレですね。
位置は把握済みなので……。自分も援護します。
問題は……。相応の隙と 不完全とはいえ エスネト自身の抵抗も考えられる点でしょうか……。
それから、他 2体のエヌ・ゼルプトの妨害も考えられますね。 」
…………。
励まし合いながらも……。新たな起死回生を探す。
…………。
「 大丈夫……。混戦には混戦だ。
数には数で対抗する。俺が出せるだけの分身で、あの 2体の目をごまかす。 」
「 了解だ 有馬 君。
エスネトの抵抗は 俺が引き受けよう。 」
「 自分は 俯瞰した立ち位置から 逐一の補助と援護に務めましょう。
丸七型での 全力を…… ! 」
…………。
新たな手段を取る為に用意した……。鹵獲用のシェルター。
本来は……。
各地の被害を減らす目的での有事の戦場として 利用できないものかと 考えられた……。
埋め立て式の旧式の戦闘用区域だった。
ニューヒキダ全域に まばらに残っている 数ある骨董品の 1つ。
アルバチャスが導入される以前に作られたのだが……。
突発的な使い道を 可能性として残す目的で、天瀬十一が これを改修したのである。
…………。
内外からの衝撃に耐えうる構造に成っており……。
上手く誘導や搬送が出来れば、限定的な間の鹵獲用格納庫としての用途も不可能ではない。
その中へ確保 出来れば……。
愚者のアルバチャスでの不活性化も……。今後も新たに見つかるかもしれない 他の手段も……。
これまで以上に可能性として見えてくる。
…………。
3人の青年は……。
情報武装を解して 仁科十希子にも共有を済ませると、それぞれに動き出す。
…………。
『 Defender's Ability And Tactics !!
( ディフェンダーズ アビリティ アンド タクティクス !! ) 』
『 Extend !! Trick Ster ter !!
( エクステンド !! トリック・スター・ター !! ) 』
…………。
青年 有馬要人は、改めて 17体の分身を作り出し……。戦況を塗り替えようと試みる。
白衣の青年 天瀬十一もまた、死神の確保を狙って ホバー滑走で疾駆した。
悪魔のエヌ・ゼルプトの分身は 30体超……。
出し惜しみをしてられない。
…………。
しかし……。
黒翼の怪人は 今の変化に気がついたのか……。
周囲を取り囲む 6体の悪魔の包囲から脱して、中空へと羽ばたくと……。片手にラッパを握り構える。
…………。
「 謀(はかりごと)か……。
奔放な悪魔だけに 留まらず 規定の試練を歪める行いを看過するつもりはない。
我の前で そのような事が 上手く進む訳がないのだ。 」
…………。
黒翼の怪人は、中空で翼を大きく広げ……。黒色の羽根を大量に 振りまく。
…………。
「 ハハハ……。やっぱダメ ?
先輩って本当に 硬いんだ。……けど それだけの強さが有るんだよねぇ。 」
…………。
悪魔の 小さい笑い声が差し込まれるも……。
程なくして……。ドゥークラは 音波と 黒色の羽根での 広範囲爆撃を行った。
黒翼の怪人と至近距離で交戦していた 6体の悪魔は全てが霧散して消え去り……。
離れた位置で戦っていた 他の悪魔の分身も……。それらと相対していた 3人の青年達も 例外なく爆撃を受ける。
…………。
周辺区域で蠢いていた 悪魔は全てが 消え去り……。
…………。
3人の青年達にも 黒色の羽根の爆撃が猛威を振るった。
…………。
「 自分達が戦っていた全部が……。分身 !?
悪魔は何を狙って……。
それに……。今日の分身は全てが前よりも強くなっていた……。 」
「 何を狙っていたって 俺達の狙いだって変わらない !
一志 !気圧されるなよ ?
ドゥークラは強い……。
こうなったら 俺が足止めをする。 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャス code-0- DAATは……。杖型武装を 足元に納めて空中へと飛び出していく……。
中空を勢いよく飛翔し……。
その合間には DEF 月の恩恵も起動させて、引き延ばされた時間軸で 一気に 黒翼の怪人に迫った。
青年 有馬要人の跳び蹴りが 確かに命中し……。中空を羽ばたく黒翼の怪人を蹴り飛ばす……。
瞬時に追撃の準備にも移行した。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
『 Defender's Ability And Tactics !!
( ディフェンダーズ アビリティ アンド タクティクス !! ) 』
『 Extend !! Dawn Moon Purge !!
( エクステンド !! ドーン・ムーン・パージ !! ) 』
「 不活性化は エイオスの弱体化にも使える筈だ……。
このまま切り込む ! 」
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
…………。
刀剣型武装 B.A.Swordに、護符の恩恵……。DAAT 月の恩恵を 組みあわせ……。
B.A.Swordを振るう直前……。
引き延ばされた時間軸での行動と入れ違うようにして DEF 星の恩恵も起動した。
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラは……。極まった 不活性化の光刃の閃光を 幾度も浴びせられる。
…………。
……。
青年 有馬要人が 加速したかのように飛び出したのと 同じ頃合い。
白衣の青年 天瀬十一は……。
離れた位置の中空で発生した閃く刃の雨に目もくれず……。ホバー機能で 走り抜けた。
目指す先には 死神のエヌ・ゼルプト兼アルバチャスが 立っている。
…………。
「 このまま……。さっきの狙いを継続する。
状況は変わったが……。有馬 君には 俺も 同感だ。
あと少しで……。空護を…… !! 」
…………。
ジャスティフォースの片手が……。立ち尽くしている死神に近づいていくが……。
…………。
これを遮るように 黒色の羽根が飛来し爆風を起こす。
…………。
「 手ぬるいな。
汝ら……。我を……。試練を見誤るな……。容易いものではない。 」
…………。
黒翼の怪人は……。依然として勢いを残しており……。
有馬要人とも、地上で徒手格闘で交戦したままに……。黒色の羽根でのみ遠隔からの攻撃もして見せた。
…………。
大量の 黒色の羽根を撃ち落そうと、荒井一志と 天瀬十一も応戦しているが……。
防戦だけが続いてしまう。
…………。
「 ……丸七型の 銃射撃じゃ 太刀打ちできない。 」
「 これが……。黒翼の怪人 ドゥークラの強さか……。
過去のデータよりも 遥かに上回っている ?
マルクトの活性状況との……。共振の結果なのか……。 」
…………。
3人の青年は 只の 1体のエヌ・ゼルプトに 追い込まれていく。
…………。
有馬要人さえも 強烈な殴打で 殴り飛ばされ……。反撃に 武装の切り替えの隙すらも作り出せない様子だ。
ドゥークラは、大量の黒色の羽根を 打ち出して、3人の青年を爆風に包む。
…………。
黒翼の怪人が ゆっくりと歩き……。死神と 3人の青年の間に割って入った。
…………。
「 試練の英雄は 今も エスネトと争っているだろう……。
汝らを 我が滅しても 試練に差し響く筈も無い。
贋作のマルクトを 我が回収しても 良いのだ。 」
…………。
黒色の羽根による爆風は 羽根の数も相まって激しく……。長い間 土煙が 上がり続けた。
ドゥークラは、アルカナの光で 何処かへと通ずる通路を作り出し……。
死神を その中へと促した。死神も これに応じているのか、抵抗する風でもなく歩き出す。
光の通路が少しずつ閉じていくが……。ある人物が動き出した。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
粉塵を切り裂いて……。その人物が爆風の中から飛び出す。
有馬要人は、黒翼の怪人に阻まれるが……。組みついたまま 声を荒げた。
…………。
「 空護 さん !!聞こえますよね ?
俺も 十一 さん も !!皆だって まだ諦めてない !!
負けたらダメですよ !?
俺達が元に戻す方法を……。探して見せる !!
また誰かを 救えないなんて 俺は嫌ですからね !!
戦馬車が勝利を呼ぶ切り札なら……。空護 さん が負けたらダメだ !! 」
…………。
光の通路は すっかり消え去り……。死神は この場から姿を消す。
ドゥークラは、愚者のアルバチャスを振り払い……。重い打撃で殴り伏せた。
…………。
「 啓示だ。エスネトの復活は 覆らないだろう。
その時こそ……。試練の英雄 神地聖正(カミチ キヨマサ)の復活も潰え……。
今時代の光の試練は あらゆる可能性を失い……。
試練の再起不能が 現実のものとなる。
エスネトは連れていく。
是れの中では、敗者復活が成しえるか試されているのだ。
尚も足掻いて見せるか ?人間の戦士達よ。
試練を歪めるのであれば……。
我は 汝らに再三の再起不能を与えても構わない。 」
「 ドゥークラ……。当たり前の事を聞くなよ。
人間は……。どんな状況でも足掻くんだ !!
どんな現実とも戦うんだよ……。何度だって !! 」
…………。
先程 殴り伏せられて 地面に突っ伏させられたが……。
有馬要人は 力強く反論する。声には怯えも迷いも無く……。強い意志が宿っていた。
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラが、これを 1つの返答としたのか……。
あらゆるものを 無に帰す暗雲を 漂わせ始める。
…………。
青年 有馬要人が ゆっくりと立ち上がるが……。次に繋がる動きは速くは無かった
天瀬十一と 荒井一志も 体勢を立て直し……。加勢しようと動き出すものの……。
黒色の羽根が 執拗に邪魔をして……。今一歩の距離で届かない。
…………。
辺りの空気が緩急を失う 一触即発の中……。新たな来訪者が 訪れる。
中空の一点に アルカナの光が集約し、石鎧で全身を包む新手が 姿を見せた。
…………。
「 ……戦いの意思が 聞こえる。
オレを引き寄せるのは……。何だ…… ?
果てに至ろうと進む歩みは 誰だ…… ? 」
「 イェルクス様……。何故 こちらに……。 」
…………。
突如 中空に現れた存在は……。極彩色の光を放ち……。
月桂樹のような緑色の翼ではためき……。中空に停滞した。
黒翼の怪人 ドゥークラからしても 想定の外にあるのか……。
事態の把握を催促するような様子を感じさせている。
…………。
石鎧に身を包む極彩色の 何者かは……。異彩を放ち……。これまでにない変化を予感させた。
………………。
…………。
……。
~憎悪~
I-14 地区……。枝川沿いの 拡幅のある散歩道 付近……。
3人の青年達が……。
以前よりも強力に成っていた 黒翼の怪人に圧倒され窮地に陥る中……。新たな変化が 姿を見せる。
…………。
中空の一点に アルカナの光が集約し、石鎧で全身を包む新手が 姿を見せたのだ。
突如 中空に現れた存在は……。極彩色の光を放ち……。
月桂樹のような緑色の翼ではためき……。中空に停滞した。
…………。
「 ……戦いの意思が 聞こえる。
オレを引き寄せるは……。何だ…… ?
果てに至ろうと進む歩みは 何者だ…… ? 」
「 イェルクス様……。何故 こちらに……。
否(いな)……。この気配は……。 」
「 黒い羽根……。お前は…… !!
ドゥークラ !!光の……魔物…… !!覚えているぞ……。
何度でも消してやる……。オレが お前達を !! 」
「 ……そういう事か。
だが……。これは いったい……。独力では ありえん。
なれば、原因は……。 」
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラからしても 想定の外にある事態なのか……。
事態の把握を催促するような様子を感じさせている。
…………。
恐らく……。この場にいる全員が原因と 今後の影響力に困惑していた。
個々における 予測も まとまり様がない 短い時間が過ぎると……。
如何にも この事態に影響している口ぶりで ある存在が乱入する。
…………。
乱入者は 英雄のマルクトを所持している 奔放な エヌ・ゼルプトであった。
…………。
「 ワタシ僕からのプレゼントですよ ?先輩。
戦神カシュマトアトルの 復活……。
ね ?面白いでしょ ?
やあっぱ 転がして転がして 楽しい事しなくちゃ……。いろいろとね。
それから……。先輩 今日 初体験あるかも ? 」
…………。
イェルクスと呼ばれる 新手の存在の出現は……。悪魔が何かを知っているらしく……。
レトが 荒井一志に宣言した言葉通りの状況が仕上がっていた。
…………。
断定はできないが……。光の試練とは 何かが異なるように感じられる歪な状況は……。
荒井一志だけではなく……。
天瀬十一の口からも 怪訝そうな言葉を引き出す。
…………。
「 アレは いったい……。新手でしょうか。
自分達が知っている、どのエヌ・ゼルプトとも一致しない。 」
「 イェルクス……。
今 そう言っていたと思うけど 本当にそうなら……。
神地データでも その名前は出てきている。
アレは……。もしかすると……。
光の試練の最後に 戦う筈の 存在なのかもしれない。
大アルカナなら……。世界に相当する 最後の切り札だ。
世界のカードは、月桂樹の円環を背面に持ち……。あらゆる 節理が一巡する……。
世界を新たな局面に導く終わりと始まりの象徴としての意味も持つ。 」
…………。
誰もが面を食らったような 反応を示すせいなのか……。
悪魔は 上機嫌気味な声色で 言葉を並た。
…………。
「 天瀬さん……。相変わらずですねぇ。博識で……。
俺ボク私でも 聞くだけで楽しい。
あっちは あっちで楽しんでるんで……。
こっちは こっちで楽しみましょうか ?
増える悪魔が ニンゲン 3人の相手をしてあげますよ。
さっきは全員 偽物だったんで その お詫びです。
今回は本物……。さっきは改良した程度の偽物……。
俺ボクらも 楽しい事しましょう !!ね !?
有馬 さん だって そう 思いますよね ?楽しまなきゃ 損でしょう ? 」
…………。
青年 有馬要人に……。悪魔からの同意の有無が放り投げられる。
…………。
「 俺が思うのは……。俺達が願うのは……。
お前ら みたいに誰かの日常を踏みにじる奴が いない世界だ。
何が楽しいんだ ?ふざけるな ! 」
「 ふざけなきゃ 勿体ない。
俺ボクも 皆さん も、もっともっと 遊び心 持たなきゃ !!
理由なんて無くても良いんですよ ?
言葉で固めても苦しいでしょう ?
一瞬 一瞬 大切にしなくちゃ !!ねぇ ? 」
…………。
悪魔 レトが独自の倫理観で同意を求めるように返答し……。
変容した 小剣型武装 L.L.Eの剣先を、青年に向けて突き出した。
…………。
天瀬十一が 割り込んで……。身の丈ほどの大剣で悪魔を弾き飛ばす。
ジャスティフォースは……。流れるような大胆な動きで 大剣を振るい……。レトと ドゥークラの両方に切り込む。
…………。
「 大切にしているから……。俺は 父さんが残した全てを正しく使いたい。
この力は それを実現する為に今ここにあるんだ !!
悪魔のエヌ・ゼルプト レト……。
お前がを倒せば 試練の段階は次に進む。
それなら…… !! 」
「 ……仮に俺ボクを倒せたとしても 丹内さん は今のままですよ ?
じわじわと エスネトに変わっていくだけだ。
助かる奴は助かるし……。何をしたって 助からない奴もいる。
そういうもんでしょ。
あっ……。今の俺ボク……。良い事言いましたね ?
覚えといてくださいね ?
助からない奴は助からない。出来ない事を望むなんて馬鹿ですよ。
哀れな嘘吐きの言葉ですね。
無謀な嘘吐きは血だまりに沈むもんでしょう。
伊世伝次(イセ デンジ)なんて特に秀逸な愚か者だった。
今も大好きですよ……。ハハハ。 」
…………。
悪魔の暴論の直後……。もう 1人の青年すらも 有馬要人の近くに辿り着く。
荒井一志が、小銃型武装で レトに打撃を叩き込み……。
2人の青年を背にして至近距離からの定点射撃を 悪魔に注ぎ込む。
…………。
「 伝次は……。誰よりも 界を助けようとしていたんです。
孤独の中に 沈まないように……。
言動が悪目立ちする時だって……。自覚をもって手段として選んでいた。
心底 悩んだ答えだったんです。
……自分は 伝次の行いを端だとは思いません。
もし、それを笑うなら 自分は 絶対に許さない……。 」
「 ハハハ……。
誰が相手でも……。感情の高ぶりを見るのは楽しい事でしょ。
喜び 怒り 哀しみ 楽しさ……。
ニンゲンを簡単に振り回す 4つの波……。
どれか 1つでも深堀りしていけば 露骨になるんだ !
ニンゲン ニンゲン ニンゲン ニンゲン……。
もっと見せてよ。
俺も僕も私も !!波の高さに合わせちゃうからさ !!
ハハハハハハハハハハ !!!!!!
ニンゲン 3人がさ…… !!まだ何かを諦められないでいるんだ。
頑張れ頑張れ !! 」
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラも……。
悪魔 レトに至っても 3人の青年達の結束で 有馬要人から距離を取らざるを得ず……。
3人の青年達、ドゥークラ、レトは それぞれが……。
まるで 正三角形の角に 立っているような位置取りで、互いの出方を伺った。
…………。
「 レトめ……。汝、只で済むと思うな ?
試練を歪める 気狂いめ……。 」
…………。
事態の混乱とは裏腹に……。悪魔は 分身を作り出し……。高笑いを続ける。
黒翼の怪人も 新たな今の事態に対応する為か……。再び 空へと羽ばたき高度を上げて ラッパを構えた。
…………。
……。
地上では既に 30体程の悪魔を相手に 3人の青年達が 応戦しており、攻防が入り乱れている。
…………。
有馬要人は 悪魔の数の半数程度の分身を展開しては、数での対抗に務め……。
他の 2人にとって有利な状況を作り出そうと立ち回り……。
…………。
天瀬十一は 主要な攻めの起点としての役回りを引き受けているのか……。
大剣で次から次へと 悪魔の分身を切り払った。
…………。
荒井一志は 丸七型での継続戦闘時間の 確保を念頭に格闘戦を軸に置いているらしく……。
code-0-DAATの分身に混じっては、悪魔の立ち回りを妨害しようと 堅実に 戦っている。
…………。
……。
ドゥークラは……。地上の様子を把握するも……。珍しく 気を取られていたのだろう。
極彩色の光を放つ 石鎧の新手の 拳鉄が背後から打ち込まれた。
…………。
「 ドゥークラ !!オレが お前を !!
なんだ ?地上にも……。光の化け物共が ?
そうか……。なら……。
ここで まとめて 仕留めてやる !!オレが 全てを終わらせるんだ !! 」
…………。
緑翼の石鎧が……。ドゥークラと肉薄した空中戦を行う中で……。
地上にも 極彩色の光の光線を放つ。
狙っているのか 狙っていないのか……。
光線の対象は、3人の青年と 悪魔のエヌ・ゼルプトも含めての全体に向けられていた。
…………。
青年 有馬要人は……。極彩色の光を操る 新手に反撃の一手を加える。
…………。
「 あの緑羽根…… !!
無差別に 暴れて……。誰が 光の化け物だよ。
俺達は…… !!護るために戦ってるんだ !!
急に出てきて……。これ以上 邪魔をさせるかよ……。 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
code-0-DAATの 分身も含めた 3体が……。射撃用武装 B.A.Cupを それぞれに手にして……。
DEF 月の恩恵の 引き延ばされた時間軸の中から、断続的な光弾を注ぎ込む。
…………。
緑翼の石鎧は 瞬時に撃ち込まれた弾丸に気がついた。
この時の銃射撃が 特筆して大きな効果を発揮した様子では無いが……。
イェルクスは大きく よろめき……。地上へと落下する。
…………。
「 お前……は…… !?
ぐあ……。がぁ……。 」
…………。
外見からは、大きな外傷や欠損も無く……。一切の致命打も無い筈だった。
だというのに……。イェルクスの様子は これまでと異なっている……。
…………。
片手で頭を抑えては うめき……。周囲から アルカナの光を集め吸収すると……。
極彩色の光に包まれたまま 姿を変えていく。
変容した後の 姿は……。
青年 有馬要人にとっても……。誰から見ても……。既視感の有るものに変わっていた。
…………。
緑翼の石鎧は……。いつの間にか……。
真紅の体表を持つ 筋骨隆々とした 部族の戦士に変異していく。
…………。
「 オレは……。今まで何を…… ?
ここは……。この身体は……。オレは何を……。 」
…………。
その井出達は……。22災害でも大きな影響力を残した ある エイオスとしか言いようが無かった。
そこに立っていたのは……。真紅の戦士だったのである。
…………。
真紅の戦士……。これまでにも幾度も現れて アルバチャスらとも戦った謎の多い戦士……。
ログ……。カシュマトアトル……。
複数の名前を持ち、いずれの大アルカナとも関りの予測がつかない存在。
…………。
これを 肯定する意味合いなのか……。悪魔が高笑いを上げる。
…………。
「 ハハハ……。ねえカシュマト。
ワタシ僕の事 覚えてるよね ?
ウィーリッツもヘノウも……。お義父様も 覚えてるでしょう ? 」
「 汝 レト……。何を考えている……。
これは 許されるものではないぞ。試練を どこまでも歪めるつもりか……。
汝 イェルクス様に何を……。 」
「 何を言うんです 先輩……。
試練なんて 大筋の外枠でしょう。
俺ボク私の全てが本当に否定されるなら……。悪魔が いる意味が無い。
ヘキソットは こうなるのも知ってて、イェルクスの中に 種を残したんだ。
エヌ・ゼルプトの種を……。
ああ……。でも 先輩 2人は 俺ボク達と成り立ち違うんでしたっけ。まあいいや……。
結局……。イェルクスだって所詮は 貯蔵量が馬鹿みたいなだけで……。
がんじがらめで 能動的には動けない事には変わらない。
……だから エヌ・ゼルプトも顕現させるんだ。
だから 歴代の試練を利用して今回からログを作った。
試練に干渉する為の もう 1つの姿……。
先輩はアレが 今もイェルクス様とは別だと思ってたんですよね ?
まあ、確かに別だったんですけどね……。
イェルクス様の中に沈む 戦神を元にした、便利で喋れるピップコートみたいな。
けど……。少し前……。
ニンゲンの頃の 俺ボクと戦ったせいなのか、壊れ気味だったんで……。
もっと壊れる前に 完全に壊して 戻しといたんですよ。
……イェルクス様の中に。 」
「 汝……。何をしたのか わかっているのか ? 」
「 俺ボクは試練を歪めていないよ 先輩。
フェアとアンフェアと好奇心と善意……。
最高の ミックスジューチュを飲みたいんです。
ね !?カシュマト !!久しぶり !! 」
…………。
悪魔 レトは 黒翼の怪人 ドゥークラにすらも タガが外れた言動で応対し……。
それとも無関係そうな様相で、真紅の戦士に手を降った。
…………。
手を振りながら……。悪魔の数は更に増えていき……。既に 50体 程度にまで届く域である。
…………。
これは……。エヌ・ゼルプトとして 英雄のマルクトを扱う、アルカナの光の相乗効果なのか……。
あまりの 急な変化で……。有馬要人も 天瀬十一も 荒井一志も 度肝を抜かれてしまっていた。
…………。
前傾姿勢の猫背で立つ者……。その場に座り込んでしまう者……。退屈そうに片足を 折り曲げている者……。
増え続ける悪魔の 1体 1体が 個々に時間を持て余す。
それでも、全ての悪魔は 一切の戦闘行動を中断して……。真紅の戦士に注目しているらしい。
…………。
真紅の戦士は……。我に返ったような口ぶりで……。怒りを引きずり出す。
…………。
「 ……オレは。そうか 思い出したぞ。
レト !!ドゥークラ !!
お前達は オレが消滅させる !!
光の試練など…… !! 」
…………。
両の手にアルカナの光を集めると……。
マクアウィトルに酷似した木剣と、民族的な木盾を取り出し……。
激昂を表面化させた強い語気で……。カシュマトアトルは暴れまわる。
悪魔の 10体を一振りで 消し飛ばし……。絶えず増え続ける悪魔の分身の中へと 飛び込んで行った。
…………。
「 汝……。気狂いの悪魔 レト……。本当に歪めるつもりが無いのなら手伝え……。
アレを今一度 止める必要が有る。
イェルクス様に万が一があれば……。汝を暗雲に溶かしてやろう。 」
「 先輩からの お願いですか ?
希少価値 高めのそれ……。良いですねぇ。
もちろんですよ !
どっちにしろ 僕ワタシも、カシュマトとは また戦うつもりなので。 」
…………。
悪魔は更に数を増やし……。分身の数は 70にまで迫っていく。
戦神カシュマトアトルは、それでも圧倒される様子も無かった……。
増え続ける悪魔にも拮抗する勢いで、鬼気迫る圧力をを解き放つ。
…………。
黒翼の怪人は 中空から 悪魔 諸共、緩慢なく爆撃するが……。
70体近くの悪魔の分身達と……。黒翼の怪人を相手にしても……。真紅の戦士は 怯まない。
あまりにも人知を超えた次元の異なる戦いが 繰り広げられていた。
…………。
3人の青年……。有馬要人、天瀬十一、荒井一志は……。すっかり蚊帳の外に追いやられ……。
困惑と戦いながらも、現状のあらましと向きあう。
…………。
「 どういうことだ ?
真紅の戦士が 黒翼と悪魔に……。 」
「 ……これが 22災害での戦神の戦い ?
だけど、神地データの記録にも 父さん が残した情報群にも こんな事象は……。 」
「 試練の途中での実演……。そういう風でも無さそうな 気迫です。
自分でも それくらいは 感じ取れる。 」
…………。
辺りには カシュマトアトルの影響なのか……。アルカナの光が満ち満ちていき……。
あらゆる色の 光の粒子が漂っていく。
…………。
真紅の戦士の背後には、黒色の羽根が無数に降りかかるが……。
木盾で振り払うと、殆どが爆散して消え去った。
…………。
「 皆の無念は オレが晴らす !!
光の魔物ども……。何度だって潰してやる !! 」
…………。
真紅の戦士は、自身の気迫を 全身鎧として身にまとっているようで……。
威圧的な気配を 垂れ流し続ける。
…………。
戦神の名に恥じない猛々しさで 奮戦した。
複数体の分身を繰り出す悪魔も……。強靭な強さの黒翼の怪人すらも……。圧倒されているのか……。
戦神カシュマトアトルは、一方的な 猛攻を衰えさせない。
………………。
…………。
……。
~緊迫~
明確な数の不利を体現しているにもかかわらず……。
真紅の戦士 カシュマトアトルの猛攻は 1秒も衰えない。
圧倒的な 数の有利を持つ悪魔も……。制空権を取り立体起動での多角的な攻勢を強みにする 黒翼でさえも……。
只の 1体の戦神には 押され始めていた。
…………。
「 皆の無念は オレが晴らす !!
光の魔物ども……。何度だって潰してやるぞ !! 」
…………。
最初の方でこそ 拮抗していたかに見えた 悪魔の分身は……。既に 20体程度まで減らされ……。
分身が減るたびに 新たな分身を出したとしても、カシュマトアトルの猛攻の方が激しい。
…………。
ドゥークラや レトの攻勢にも、一切の隙を見せず……。
戦神 カシュマトアトルは 極めて短時間で圧倒していく。
そしてついに……。
新たな転機へと 繋がり出す。
…………。
「 イェルクスは……。オレを使った つもりだろうが……。
自由に動ければ こっちのもんだ。
赤い蛇の河を見せてやる……。カルバアトナイ !! 」
…………。
カシュマトアトルが握る木剣からは 赤い霧が吹き出し……。
赤い霧は……。残存する全ての 悪魔と、中空を飛ぶ黒翼さえも捉えて捕縛する。
赤い霧の中を何かが のたうち……。泳いでいく。
真紅の蜜蝋の大蛇が 2匹動き出して……。悪魔と黒翼 目掛けて進み 大口を開けた。
…………。
「 これで…… !!終わりだ !! 」
…………。
蜜蝋の大蛇が途中で静止する……。
赤い霧は薄れ……。2匹の大蛇も 硬化して崩れ……。
その破片は アルカナの光へと戻り霧散していった。
戦神カシュマトアトルは……。突如として 苦しみだし、両手に持った武器すらも落下させてしまう。
…………。
「 また…… !!なのか…… !?グ……。イェルクス !!
オレは……。カシュマトだ…… !!
アルベギ族の戦士……。絶対に お前らは……。
グウ……ア……。……。 」
…………。
戦神カシュマトアトルの うなり声が静まる。
極彩色の光が 集まり……。真紅の戦士の姿は再び、緑翼の石鎧へと 巻き戻されていた。
…………。
「 ……。 」
「 イェルクス様……。
御生還されたようで何よりで御座います……。一度引きましょう。
レト……。わかっているだろうが 汝も来るのだ。 」
…………。
イェルクスは沈黙しており……。顔面部にある 11個の目のようなものだけが 明滅する。
中空にアルカナの光で 通路を作り出すと……。
四肢の 1つも動かさないで浮かび上がり……。光の通路の先へと消えていった。
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラは、悪魔 レトにも 3人の青年達にも 撤退の意思表示を行う。
…………。
「 贋作の戦士らよ……。
身内の不手際での混乱は詫びよう……。
神罰もマルクトの剥奪も 見送らせてもらう……。 」
「 先輩。本当に律儀なんだ……。そろそろ帰るんだし……。
長々話しても仕方ないでしょう。 」
「 黙るがいい 気狂いの悪魔め。
汝に再起不能が付与されるまでは 後 1度も無い……。今回の件は 汝を助ける最後だと思え。 」
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプトが 不要な 言葉を挟むと……。
ドゥークラはこれに釘を刺して 話を進める。
…………。
「 贋作の戦士らよ……。
我からの贈り物を残そう……。進むのならば 乗り越えて見せよ。
杖の王と……。護符の騎士だ……。 」
…………。
今度こそ 完全に ドゥークラとレトが姿をくらませた。
これとは同じ頃合いである……。入れ違うようにして……。光が中空に集まり……。
新手のピップコートが 形を成す。
…………。
ピップコートは……。キング型が 1体、ナイト型が 20体だった。
いずれも新手の怪人とはいえ……。3人の青年達にとっては 敵ではなく……。
…………。
この後の戦いは 長引きはしなかった。
…………。
愚者のアルバチャス code-0-DAAT……。有馬要人は……。
杖型武装 B.A.Wandのみで ワンド・キングと戦い抜き……。
…………。
正義と剛克の発展型 ジャスティフォース……。天瀬十一は……。
極光の大剣 エビル・バスターで ペンタクル・ナイトの 16体を切り伏せる。
…………。
レヴル・ロウ 丸七型……。荒井一志は……。
小銃型武装デバイス R.R.G によって、4体のペンタクル・ナイトを 撃ち落した。
…………。
先程までの 戦いと比べれば……。苦戦する筈も無かったのだ。
むしろ……。
この日の戦いの中で知った 多くの情報の中に……。これからを左右する 手がかりが隠れている可能性を睨み……。
思い思いに 先を見据えた。
………………。
…………。
……。
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