- 35話 -
アイリス
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目次
~それぞれの…~
特務棟の中でも 直接的な戦闘処理を担う 実動班の待機室に……。
ある 1人の青年が用足しを済ませて戻った。
…………。
その青年は……。
普段通りに生真面目な空気を漂わせて、両手で持っている 陶器製のポットを長机の上に置く。
陶器製のポットは……。独特で歪な形状をしているが、玉サボテンは馴染んでいるようだ。
玉サボテンは被元に しっかりと水分が行き届いているらしく……。
用土は湿り気を保ち 土の色が黒っぽく、それでいて 微細な水分が煌めかせる。
…………。
ちょうど、別の青年も待機室に姿を見せた。
…………。
別の青年は温和な表情だったが、そこはかとなく 引き締まった色も残っているようで……。
連日の日程も照らし合わせるならば……。
実動班の班員の錬成業務に当たっていたのだろう。
…………。
この日の 錬成内容の記録が手持ちのバインダーに挟み込まれていた。
…………。
……。
生真面目な青年 荒井一志(アライ カズシ)と……。
温和な青年 大代大(オオシロ マサル)が顔を合わせたのと同時に簡単な挨拶を交わす。
…………。
……。
これに数秒程 遅れるようにして……。
更に別の 青年が 待機室に到着した。
…………。
青年 有馬要人(アリマ カナト)は……。
大代大とは 今さっきも一緒だったようで……。まだ鮮度の高い記憶を言葉にする。
…………。
「 お疲れ様です 大 さん。先に戻ってたんですね。
今日の戦闘錬成も 手応え有りそうで 俺も嬉しいですよ。 」
…………。
待機室に着いたばかりの 青年は 明るく……。
つい先ほどまでの 業務内容が良好だったのだと 思える言動だ。
…………。
生真面目な青年 荒井一志は、自身のデスクに置いてある 湯呑み茶わん を口元に運んで……。
湯気の立っている 緑茶を飲み干すと……。
有馬要人や 大代大の業務内容について思い起こしたらしい。
連日に渡って継続されるようになった 新しい取り組みについての話題を広げる。
…………。
これは、ここ最近になって考案された 光の試練への対抗策の 1つだった。
…………。
「 今日は……。有馬 さん の アルバチャスと……。
現在の彼誰五班 総員……。
第二班と第四班 合一編成の 20人のレヴル・ロウとでの 集団戦の練度向上でしたね。
自分は 今回 不参加なので……。厳密には 大代 さん の丸七型も交えての……。
21人 対 code-0-DAATとの模擬戦。
有馬 さん の分身は、何人にしたんですか ? 」
「 3人だ。今回は乱戦形式で……。
僕の相手に 1人……。第二班 10人に 1人……。第四班 10人に 1人の想定で実施したよ。
有馬 君 に手加減を頼んでいるとはいえ……。
今の規模で レヴル・ロウが、エヌ・ゼルプトとの戦いを考えるには まだ遠いね。
僕も もっと強くならなくては……。 」
「 自分も次は 一緒に集団戦闘錬成に参加します。
今日は別件が……。 」
…………。
生真面目な青年に……。
温和な青年 大代大も応答する。
…………。
最近の彼誰五班は……。
現在の特務棟が持ちうる手段を活かして、全体的な戦力の向上を目指しており……。
大代大が、第二班と第四班 合一編成を主に取りまとめては、熱心に戦闘訓練を行っていた。
…………。
青年 有馬要人も、これには全面的に協力し……。
戦闘訓練が予定に組み込まれている日に限っては、午前中の大部分を 当てて一緒になって汗を流す。
…………。
丸七型として戦う 荒井一志も また、戦闘訓練に参加する日は あるのだが……。
時折……。この日のように 別件として 異なる業務をこなしていた。
…………。
青年 有馬要人は……。その別件を 話題の中へと引き上げる。
…………。
「 一志が最近やってるのって……。丸七型 改良案のデータ試験だったっけ。 」
…………。
アルバチャスの量産型を 念頭に 今も導入されている system……。レヴル・ロウ……。
最初期に導入された際には……。
100人分の 人員と装備をもってして 動き出した計画だったが、今は数も すっかり減ってしまっていた。
…………。
……。
これまでの多くの戦いによって 人員も装備も減退させていき……。
今現在は……。専用の装備の都合もあって 23人分である。
…………。
内訳としては……。第二班班長を務める 大代大と……。第四班班長 荒井一志とでの 2人分の丸七型……。
C.E.O代理 仁科十希子の一六型改 1人分を除けば……。
実質 20人分しか存在しない。
…………。
……。
一般的な班員の 20人分のレヴル・ロウは 最初期型の型式で……。
班長用の 試作改良型に該当する 2人分は 丸七型だ。
丸七型は……。
愚者のアルバチャス code-0- と……。戦馬車のアルバチャス code-7- の一部の特徴が併合されており……。
全体的に 最初期型のレヴル・ロウよりも 身体能力の向上や、耐久性能の向上が計られている。
…………。
丸七型からの更なる 改良は、特務 全体が 一丸となって推し進めている 業務の中の 1つなのだ。
…………。
生真面目な青年 荒井一志は……。
この日の戦闘訓練に参加できなかった旨と背景を肯定する。
…………。
「 そうです。まだ形になるのは先みたいですが……。
丸七型同様に 新たな試作品は、自分と 大代 二班長の 2人分が考えられています。 」
「 悪いね 荒井 君……。僕の分も多めに肩代わりしてもらって。
丸七型の改良案件には 僕だって関係しているのに……。 」
「 何を言うんです。
大代 さん の方が 陣頭指揮が円滑ですから。
改良案件に向けたデータの収集や 実施試験は 主に自分が……。
彼誰五班の練度向上は、大代 さん が……。
適切な分担だと思っていますよ。不満は無いです。
自分の方は 常に あるわけでもないですし。
今日みたいに 少しだけ速めに終わる日は、他に時間も使えますから。 」
…………。
3人の青年の朗らかな時間だった。
青年 有馬要人は、口の中に 冷たい水を含んで のどを潤すと……。小さく口角を上げる。
…………。
「 皆で助け合いながら か……。俺も 一志や 大 さん に負けてられないな。
昼 しっかり食べて 午後も頑張るか。 」
…………。
だんらん は続くが、昼食の時間に成ると、3人は ひとときの休息に入った。
………………。
…………。
……。
~日の出を目指して~
ある日の 午後……。
APCの特務棟の中の ラウンジでは……。
…………。
2人の青年が、ニューヒキダを取り巻く情報についての 認識を整えていた。
それぞれの手には マグカップが握られており……。淹れたての珈琲が 湯気を立てている。
2人の青年は……。有馬要人と 天瀬十一(アマセ トオイチ)だった。
…………。
午後の息抜きで偶発的に 顔を合わせると……。
話は 自然な流れで、最近 共有が進む ある話題に向かっていく。
…………。
これは 今後の激しさを増す戦いに向けた備えの 1つとして あらかじめ通達されていたものだ。
…………。
今までに起きた出来事や、いたる経路から集められた情報を 精査、もしくは 共有し……。
猛威を振るう脅威へと立ち向かう狙いの情報である。
…………。
具体的には……。主に 3つ……。
光の試練、特定のエヌ・ゼルプト、新型のレヴル・ロウ 二三型についてだった。
…………。
手始めに……。ニューヒキダを脅かす渦中にあるとされる 4つの脅威に焦点が当たった。
…………。
……。
真紅の戦士 カシュマトアトル……。
黒翼の怪人 ドゥークラ……。
悪魔のエヌ・ゼルプト レト……。
死神のエヌ・ゼルプト 兼 アルバチャス……。エスネトと -A-13-。
…………。
……。
特筆すべき おおよその驚異の名前を列挙すると……。
口元へと適度に珈琲を運びながら 話 始める。
…………。
「 いつも お疲れ様です。十一さん。
光の試練……。まだまだ厄介そうですね。
仮に 神地 さん が……。なりふり構わない程度の恩恵があったとしても……。
倒すべき エヌ・ゼルプトの数も含めて、今も脅威は少なくない。
やつらの目的や行動原理も不明で……。
光の試練を終えると何が起こるのかさえも わからない。 」
…………。
淹れたての珈琲は どちらの方も まだまだ熱がこもっており……。湯気からも温度が感じられる。
青年にとって……。
暖かな香りは 頭の奥を覚ましていくようだった。
…………。
白衣の青年 天瀬十一は、一呼吸の間を置いてから応答する。
…………。
「 そうだね……。
古い記録だけど、アルベギ族の民話によれば……。
5体のエヌ・ゼルプトが、試練を成し遂げるまでに打破されたのだそうだ。 」
「 カシュマトアトルの英雄譚……。でしたね。
これまでに俺達が戦って倒した数も そうですけど、気になるところが多すぎます。 」
…………。
有馬要人の頭の奥では ある戦士の姿が連想された……。
……その怪人の戦士とは何度も戦った。
民族的な井出達で、片手には木製にも見える剣を……。
反対側の手には 木製の盾を携行した 怪人で……。22災害でも目撃されたとされるエイオスである。
…………。
また……。
エイオスの中でも、複数体での出現が常態化している 兵のような怪人達 ピップコートと……。
ピップコートとは 比較にならない強さと固有能力を持つ 統率者と思われる怪人達……。エヌ・ゼルプト。
青年がアルバチャスとして戦うように成ってから、
間も無く 1年程が経過するが、エヌ・ゼルプトに該当すると思われる怪人達とは 何度も戦って来たのだ。
…………。
「 有馬 君 が気に成っているのは……。
カシュマトアトルの名前が 真紅の戦士と共通する点と……。
エヌ・ゼルプトの打倒数に ついてだよね ?
これまでに得た情報によれば……。
試練の英雄が属する知的生命体 つまり人間の側が、マルクトを使用して撃破した数……。
これが、集計対象になるらしい。
つまり……。
皇帝 マーへレス、白翼 ナティファー……。
灰翼 エリアイズ、太陽 アポロダイス、赤眼 ポメグラネト。
後半の 2つが 明確な撃破数に数えられるのかは、個人的に怪しいとは思っているけど……。
本当に 5体の条件を満たしているとすれば、
次に現れる エヌ・ゼルプトは、審判と世界に該当するんだろう。 」
「 神地データから 新たに得た情報での予測ですよね。
但し、条件を満たしていない場合は……。
更なる何体かのエヌ・ゼルプトとの戦いは避けられない。
万が一……。
2体の撃破が必要なら……。その相手は……。
悪魔と死神ってところでしょうか。 」
「 悪魔のエヌ・ゼルプト レト。
そして、死神のエヌ・ゼルプト エスネトか。
知っての通り、レトは 恵花界(エハナ カイ)として擬態し……。
死神は 空護の身体を乗っ取る形を取った。
……レトの動向は 今後も気をつけないとならないな。 」
…………。
2人の青年は 沈黙した。
話題に上がったばかりのエヌ・ゼルプトは、これまでに戦った どのエヌ・ゼルプトとも特殊だったのだ。
どちらが相手だったとしても……。大なり小なりの感情は動くのが見えている。
いい気分はしない。
特に……。死神のエヌ・ゼルプト エスネトは……。
…………。
戦馬車のアルバチャス……。
丹内空護(タンナイ クウゴ)の肉体を元にして 変異しつつあるようなのだ。
極 最近までは、頼れる仲間として 共に肩を並べ、背中を預け合った人物が 思わぬ形で敵対したのである。
…………。
……。
過去にも 仲間だった相手や、アルバチャスから エヌ・ゼルプトに変異した存在との戦いはあった。
…………。
しかし エスネトについては……。
当人の意思とは無関係な敵対で……。現在も 目ぼしい打開策は見当たらない。
これに加えて……。愚者のアルバチャスの 不活性化をもってしても 目ぼしい結果は見えていないのだ。
…………。
レッドコートの対処に迫られていた頃も、今回のように打開策の当てがあった訳では無いが……。
幸運だった当時のイレギュラーを 計算に入れられるわけが無い。
決断は極力 先に回したとしても、最悪な局面の想定は必要だ。
…………。
今の苦境を急速に作り出した 存在も侮れない。
その存在は……。
現状では 恐らく、どの エヌ・ゼルプトよりも 能動的に狡猾に立ち回っているようにも見えた。
悪魔は……。密かに……。そして 大胆不敵に行動する。
…………。
「 ……俺と十一 さん が 模擬戦をした日の件も ありますからね。
館内の警邏(けいら)で 一志が、遭遇したとか。
誰にも気づかれずに特務棟の中にまで侵入できるなんて……。
せめて行動の意図が 読めれば良いんですが……。 」
「 悪魔は……。他のエヌ・ゼルプトよりも 行動原理が特殊で逸脱しているようにも見える。
皆の総合力で 地道に対応していこう。
焦りで 普段通りの能力を見失えば、どこまで状況を変えられるか わからない。 」
…………。
死神と悪魔……。
タロットカードの 大アルカナにも在る、負を連想するスートだ。
どちらも 簡単な相手では無いだろう。
…………。
青年 有馬要人は、思い出したように珈琲を口に含む。
少量を口腔内に行き渡らせるようにして ゆっくりと飲み込んで 考えた……。
死神のエヌ・ゼルプトも厄介ではあるが……。これを知っていながら 利用したと思われるのが神地聖正である。
人体を浸食する 怪人の性質と並行して、その systemもまた……。稼働率と浸食域を増やすのだそうだ。
…………。
「 英雄のマルクトも 悪魔に奪われて、死神には空護 さん が……。
死神と言えば……。
神地 は元々、死神のエヌ・ゼルプトについても知っていて、
それを利用した保険として 死神のアルバチャスを用意したんですよね。
まさか、太陽のアルバチャスの切り札が 身体の乗っ取りを前提にしてたなんて……。 」
「 広域掌握能力、広範囲制圧能力に特化した……。太陽のアルバチャスと……。
境域掌握能力、境域制圧能力に特化した……。死神のアルバチャス。
まさに、正位置地と逆位置……。もしくは……。
表と裏のような 構造だ。
神地データには 死神のアルバチャス……。
-Absolute-13- の情報が詳細に残っていたけど 外的な手段での対抗は不可能に近い。
(アブソリュート サーティーン)
こんな物を密かに用意できるなんてね……。
父 さん が、DAATや -JFC-を用意していなかったら 何も打つ手がなかっただろう。
こればっかりは 俺も情けないよ。
恐らく今は……。
奇跡的な均衡で釣り合って、どちらにも なり切れない状態なんだと思う。
空護の肉体の支配権を 取り合ってるんだろうね。 」
「 次にエヌ・ゼルプトが どう動くかで……。
おおよその 全容に当たりがつけられるって感じですね。
今回も俺達は後手で回るしか無いんでしょうか。 」
…………。
2人の珈琲からは既に微細な湯気も立っていない。
青年は 片手に持った マグカップから僅かな熱を感じ取る。
…………。
白衣の青年が 続きを少しだけ飲み込んでから 口を開く……。
…………。
「 光の試練のルールは……。
全てが明らかにはなっていないからね。
ルールの全容は 未だに わからないけど……。
なんらかの条件下で、22災害以上の破滅が 世界規模で発生するらしい。
とはいえ……。
有馬 君 が……。アポロダイスとの戦いの際に知った通り……。
22災害は 試練の実演で、今の俺達が 直面している状況こそが 試練の本筋なら 必ず次の段階はある。
どんな状況にも対応できるように 萎縮せずに 準備を進めるしかないね。
俺は今も 空護の救助だって諦めてないよ。
エヌ・ゼルプトの影響を上手く弱体化させて……。同時に -A-13-の進捗率を停止させる。
この 2つが可能になれば、不可能では無い筈だ。 」
「 つまり……。
空護 さん を助けたいなら、2つの浸食を同時に止めなくてはならないんですね。
必要なら俺も DAATの月の恩恵で……。
Dawn Moon Purge でも なんでも使って協力します。
(ドーン・ムーン・パージ)
レトは、エヌ・ゼルプトに不活性化は意味が無いと話してたし、
神地 も マルクトの能力か何かで 退けてるようでしたが……。
犠牲が減らせるなら 協力しない手は無いですから。戦って勝ち得る何かが今も有るなら…… !
戦わないと失うのなら……。俺だって諦めません。
俺達 アルバチャスや レヴル・ロウにしか抵抗できないのなら……。
最後まで抗いますよ ! 」
…………。
戦友を取り戻せるかも 不明瞭な 砂粒程度の可能性だった。
予測が大部分の理論は……。未だに確実な手段に結びついてはいない。
…………。
「 そうだね。
その時は、遠慮なく頼らせてもらうよ。ありがとう 有馬 君。 」
…………。
確実な手段が 今は見えなくても……。
選択を先に延ばして 選べる間は、新たな手段や機会が巡る可能性を残し続ける。
決めつけて……。諦めない事……。
それこそが 今できる最善手の 1つなのだ。
…………。
青年 有馬要人は……。別の最善手を 思い起こし、これに触れる。
日々、激しさを増す戦いと……。
悪魔のエヌ・ゼルプトによって 大きく削がれてしまった戦力の補強も兼ねた 1つ。
レヴル・ロウ丸七型の改良案の推進……。
最近では 荒井一志が協力し……。稼働試験や データ収集が 日々 進んでいるのだ。
…………。
「 任せてください。十一さん !
俺も日々の錬成で 地力の向上を目指してますから。
仮に今は無理でも、明日や明後日 今選べない手段を掴めるように……。
そう言えば……。丸七型の後継型も準備しているんですよね ? 」
「 二三型(フタサンガタ)の件か。
マルクトの無い システムの到達点として 進めている。
安直な型式名だけど、0と 7と 16を合算して 23……。
過去の災害や、エヌ・ゼルプトが関連する
大アルカナを連想する 22の数字に……。1を加えた意味も込めてるんだ。
多くの苦難を乗り越える為に 1歩を踏み出す戦士名前だよ。
大代 さん や、荒井 君 が試作として使う前提だけど……。
皆の大きな助けになるように 導入を急ぐつもりさ。 」
「 相変わらず……。忙しそうですね 十一さんは。
また、今日みたいな感じで特務の方にも 邪魔しに行きます。 」
「 それさ。無理矢理 休憩させる為の善意だろ ?
何も そんな 露悪的な言い方しなくても……。
けど、ありがとう。
俺も同じ理由と 地力の向上も兼ねて……。
実動班の集団戦闘 錬成訓練に顔を出すよ。
たまにだけどね。 」
…………。
2人の青年のマグカップは すっかり空に成り……。
容器にすら 熱は残っていないが、これから先の道へと向き合う熱意は揺らぐ そぶりもない。
…………。
この日以降も……。これまでのように 幾度か ピップコートの出現が 確認されるが……。
有馬要人と 天瀬十一が 中心に成って、特務棟は回っていき……。エイオスに対する抵抗戦力は向上していく。
………………。
…………。
……。
~相反する要素~
4人の青年……。有馬要人、天瀬十一、大代大、荒井一志が、個々に励むように成ってから数日が経過する。
散発的に ピップコートのみが出現する 日々を潜り抜けると……。
まるで 時期を見越したようにして……。エヌ・ゼルプトの出現を知らせる警報が鳴った。
…………。
定点カメラの情報によれば 警報の元は 2体。
青年達が それぞれの デバイスを起動させて、エヌ・ゼルプトが確認された地区へと急行する。
…………。
……。
I-14 地区……。
隣接する C 地区との境界を流れる枝川沿いの 拡幅のある散歩道。
平時なら荒事とは無縁の景色の中に、似つかわしくない 2つの影が立っていた。
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプト レト……。
そして、死神のエヌ・ゼルプト兼 アルバチャス……。エスネト。
…………。
大アルカナの中でも 直観的に負のイメージを連想させる 2体である。
悪魔 レトは、周囲の人々には目もくれず、単身で近隣の施設だけを幾つか崩壊させたようだった。
青年達が駆け付けるのを促す為なのか、途中からは ベンチの上で横になり……。
近くで控える 死神と一方通行の雑談を楽しんでいる。
青年達の到着を待っているようで、わざとらしくも見える有様だ。
…………。
……。
そこへ……。
特務用通路を通り抜けた 数人の青年達が現着する。
青年達の数は 3人……。
…………。
愚者のアルバチャス code-0-DAAT……。有馬要人……。
正義と剛克の発展型 ジャスティフォース……。天瀬十一……。
レヴル・ロウ 丸七型 小銃型武装デバイス R.R.G 携行……。荒井一志……。
…………。
他に誰かが随伴している様子はなく、2体のエヌ・ゼルプトの前には 3人の戦士が立ち並ぶ。
…………。
3人の戦士の耳や視界には 定期的に、ここにはいない人物達の行動が 端的に届けられれていた。
I-14 地区 からの避難誘導や……。
同時進行で行われている 周辺区域の哨戒結果の異常の有無である。
…………。
大代大は 第二班第四班合一編成を指揮し……。
周辺区域の安全の確保や、哨戒行動を軸に 3人の戦士の外側を補助しており……。
仁科十希子が、天瀬十一に変わって全体の状況整理を APCの特務棟からモニター越しに行っている。
…………。
……。
過去の戦いを振りかえり、照らし合わせると、この日は 異様で……。
エヌ・ゼルプトが 引き連れる筈の ピップコートの姿は確認されていない。
…………。
悪魔と死神の脅威が 和らぐわけではないが……。
何かしらの狙いがあるのだろう。
誰の目から見ても不気味に思える 状況は、エヌ・ゼルプトと対峙する 各々の警戒心を尖らせる。
…………。
悪魔は 3人の戦士に気がつくと……。
ベンチの上で横にしていた身体を起こし 立ち上がった。
拡幅のある散歩道 からも見渡せる 枝川の方を向いて、
演義ぶるようにして 両腕を上に持ち上げて 伸びをすると……。
ゆっくりと 振り返り、3人の戦士と視線を順番に合わせる。
…………。
「 ようこそ 皆さん !
一志から 伝言は聞いてくれたんですね !
俺ボクを信じてくれて ありがとうございます。 」
…………。
言葉だけは丁寧で……。お辞儀もせずに、両腕を広げて出迎えているようだ。
悪魔の言動は 極めて明るい。
これに反して、死神は項垂れるように隣に立ち 視線の先は虚空を見ている。
…………。
真っ先に 返答したのは、生真面目な青年 荒井一志だった。
…………。
「 自分は 手放しで信じたつもりはありません。
事前に何を言われていたとしても……。
エイオスが暴れる可能性があるのなら 駆け付けます。
それが実動班の役割ですから ! 」
「 荒井 君 の言葉の通りだ。
……例え どんなエヌ・ゼルプトが現れたとしても、俺達は負けない。
空護だって 必ず取り戻して見せるさ。 」
…………。
生真面目な青年が、腰討ちの高さで R.R.Gを構えると……。
白衣の青年 天瀬十一も揺るがない意思を示す。
ここまでの道中で 既に起動していたのか……。
ジャスティフォースの 片手にも 専用の武装が展開されており、
身の丈ほどの諸刃の大剣が 白群色の光の刃を輝かせていた。
…………。
相互に出方を うかがっている筈の緊迫した景色の中でも、悪魔の調子は狂わない。
悪魔のエヌ・ゼルプト レトは、頭を上下させて 何かに納得してるような様を見せる。
…………。
「 素晴しいな……。卸したての正義の新型も……。
天瀬 さん らしいですよね。
雷を操って 力任せに戦う。
インテリぶっても中身の戦術はゴリゴリのゴリ押しなんだもんな。
有馬 さん の code-0-も 相変わらずだ。
前は お世話に成りましたね。
お陰様で……。良い技を身に着けられました。
俺ボクも……。今は分身出来るんです。
フェアですよね ?アンフェアは良くない。だって不公平ですから。
でも 変だな……。大代先輩は どうしました ?
お留守番なんて可哀そうでは ?
まあ、主要な戦力が集まってるなら良いのかな……。
今日は きっと、記念すべき日に成ります。 」
…………。
勝手に自分だけで先を見越している口ぶりだった。
この言葉が言い終わる頃には……。ある変化が 3人の戦士の目視でも確認できるようになる。
…………。
2体のエヌ・ゼルプトと対峙する 3人の戦士を 取り囲むように……。
10体程の 悪魔のエヌ・ゼルプトの分身が出現していたのだ。
青年達が 到着する前に 忍ばせていたのか……。能力を発動させた瞬間は確認できなかった。
…………。
deviL Trick Ster……。
( デヴィル・トリック・スター )
悪魔のエヌ・ゼルプトが持つ 擬態能力の応用で……。code-0-DAATの星の恩恵を模倣したものである。
…………。
レトが口にした感謝の言葉の意味に、青年は静かに苛立つ……。
…………。
「 何がだよ……。どうしても記念が欲しいなら……。
俺達が お前を 倒してやる。
お前は いつでも戦う気でいるんだ。
前みたいに 思い通りに成ると思うなよ ?
どんなに卑怯な手段を隠していても……。俺達が阻んでやる !! 」
…………。
各々の感情が乱高下しているのだと……。外側から見ても 予測が付く状況だが……。
辺りの音は静かで、決壊の頃合いが隣り合わせになっていく。
…………。
「 ハハハ……。3人とも やる気満々ですね。
先に断っておきます。
俺ボクは 今回、ピップコートを呼ぶつもりも……。エヌ・ゼルプトらしい破壊活動もするつもりは無い。
まあ……。さっきのは呼び鈴だと思ってくださいよ。
そんなに被害は無いでしょ ?
で……。ここから……。本題の前置きです。
薄々気がついているでしょう ?
今は、光の試練において 英雄のマルクトを扱う 僕が中心に試練が進んでいるって。
知らない事だらけでしょうから……。親切心です。
見ての通り 俺ボク私は天使型のエヌ・ゼルプトで……。レヴル・ロウですからね。
平和の為に……。試練を終わらせる為に……。動こうと思いまして。
まさにヒーローでしょう ? 」
「 何がヒーロー…… !!自分達が悪魔の言動を信頼する筈が……。 」
「 一志……。前も言ったろ ?
知らないなら……。手がかりが欲しいだろ ?
信じる信じないの段階じゃないんだ。誰かの気まぐれの善意を拾うしかない。
脱線させちゃだめだよ 時間がもったいない。
警戒しないで聞いて欲しいかな。今日は君達ニンゲン側を攻撃するつもりは無い……。
言語で理解を深め合い……。俺ボク私の善意を示すだけさ。
まずは そうそう…… !4体……。これだ。
天瀬 さん なら何の数字なのか 簡単に わかるよね ? 」
…………。
悪魔は 飄々とした言い回しで要件を伝えていく。
話を進めながらも、手持無沙汰で 暇だったのか……。適当に ゆっくりと歩きまわり……。
気まぐれに立ち止まっては、両方の手で 意味の無いジェスチャーを混ぜ込む。
…………。
話の合間には、わかりやすく 上向きに開いた片手で 返答を促し……。
流れを衰えさせずに 進めていく。
…………。
「 まさか……。 」
「 そう……。その通り。
たぶん、今考えているのが正解なのかな。
天瀬 さん は察しが良いね。天才 !
答え合わせと 察しの悪い 誰かが いるかもしれないから……。
もう少し丁寧に続きを話そうか。
光の試練は……。破壊的な実演から始まって……。
その後に 実演を許可した英雄の判断で、試練を続けるかどうかが委ねられる。
拒否すれば……。そこでゲームオーバー。
試練の継続を望んだ時にだけ、21年の猶予が与えられるんだ。
英雄には 4つのマルクトの選別権と、知恵の幻視を許可され……。
これらを元にして、規定数のエヌ・ゼルプトとの戦いが始まるんだねぇ。
試練の英雄は……。
4つのマルクトの中から 英雄が使用する 1つを選び……。
アルカナの光の恩恵を、上手に使う必要が有る。
猶予期間と 試練を始めた地域でのみの限定的な 恩恵を使って試練を成就させるんだ。
殆どの奴は 2~3年以内に 戦い方を間違えるとか……。
インフレに ついてこれなくなって命を落す……。とかで試練は失敗。ゲームオーバー……。
そりゃ そうだよね。
全ての エヌ・ゼルプトの強度は……。
英雄のマルクトの活性状況と比例するし……。
ゴリ押しだけじゃ頓挫するような仕掛けも少なくない。
例えば……。
英雄のマルクトと同じ資質をもつ ピップコートの上位種、レッドコートとか…… ?
アルカナ適性の高い肉体を 依り代にするエヌ・ゼルプト……。死神の存在とか とか……。
神地聖正は その辺の対策として……。小賢しく 手を回していたっけ。
他の 3つのマルクトを使用したのは エヌ・ゼルプトが強力に成るのを避ける為……。
死神への保険には、エスネトを利用した方法で他者の身体を奪い取る……。とかね。
結構これ……。逆転の発想じゃないかな ?
まあ……。
同じ ニンゲンとしては、横暴で独善的 過ぎてドン引きものだけど……。ハハハ。
そうそう……。ゲームオーバーは 世界の滅亡ね。当然だよね。
根本的に生命のいない状態まで徹底されるからね。
ああ……。もしかしたら……。
天瀬 さん とか 有馬 さん は、仮想未来とかで 見てるのかな ?
エリアイズは……。そういう事 するし 出来るから。
折りたたまれた高次元の中に、なんか作るんだっけ……。ごめん。ちょっと忘れた。 」
…………。
悪魔の言動は、楽しそうに話しているようで……。
どことなく、時間や言葉の 1つ1つに 一切の未練が無いような……。
相反する不気味さが 湧き出ているようだった。
…………。
「 回りくどいな……。界……。本題があるんだろ ?
俺達に何を聞かせたいんだ ? 」
「 焦らしてゴメン。有馬 さん……。
俺ボクが言いたいのは この後だから。
ニンゲン側の言葉で例えるなら 無理難題の塊なんだよね光の試練って。
だからさ !後押しを しようと思ってるんだ。
最後には、審判と世界の使途……。
ドゥークラと イェルクスとの戦いが待っているんだけどね、そこまで導いてあげるよ。
規定数のエヌ・ゼルプトの打倒……。これが終われば 辿り着けるんだ。
現在の打倒数はね……。4体……。
皇帝 マーへレス、恋人 ナティファー……。
節制 エリアイズ、太陽 アポロダイス……。ここまでが ニンゲン側の成果だね。
残念ながら ポメグラネイトはエヌ・ゼルプトじゃない。
罰を受けた ウロドとセドネッツァの成れの果て……。
ちょっとだけ強い レッドコートみたいな物だと思ってよ。
……ここまで来れば、もう わかったよね ?
残り 1体を……。ここにいるエスネトを 俺ボク私が 消滅させれば……。
試練は最終段階に進む……。おめでとう 皆……。
全部 任せて !上手くやるからさ。 」
「 ……ふざけるな !
俺達が そんなの只 見てるわけないだろ !
空護 さん を助ける機会を 完全に失ってたまるか !! 」
「 だからですよ 有馬 さん。
分身達にギャラリーからの妨害を防がせるんです。
御心配なく !
だって妙案でしょ ?
試練は進むし……。エヌ・ゼルプトは数は勝手に減る。
戦わずしての勝利は絶対 美味しいですよ ?
俺ボク私のオススメです。
エヌ・ゼルプトは その強さから行動に制約がありますが……。
それを逃れられるのも、幾つか存在します。
悪魔は その中の希少な 1柱なんですね。
ありがたい事に 人間の心も健在ですからね。善意のお手伝いです。
正義の為の勇気ある 1歩じゃなですか !誇ります !
全ては ニンゲンの為に ! 」
…………。
悪魔の片手には いつの間にか、変異した小剣型武装が握られており……。
黄色の光を妖しく光らせていた。
レトは、これを順手で握り……。小剣の剣先を 死神の方へと向ける。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
即座に動き出したのは……。天瀬十一だった。
諸刃の大剣……。Evil Buster( エビル・バスター )を輝かせて 悪魔に仕掛けた。
…………。
「 善意の押しつけは 嫌いじゃないけど……。
俺は、そんな無慈悲な暴挙を 正義とも善意とも認めない。
空護を 助ける手段は まだまだ試していない方法がある筈だ……。 」
「 正義の戦士は強いですよね……。
破格の性能なんじゃないですか ?
だから……。俺ボクは 天瀬 さん とは直接戦わない。
エスネトが 俺ボク以外の全てと戦ってくれるので任せます。 」
…………。
死神が、悪魔を庇うように 前の方へ躍り出る。
黒色の影だけが動き出している風にも見える迅速な動きだった。
死神の片腕から伸びる 禍々しい曲刃が、ジャスティフォースの大剣とぶつかり 激しい火花を飛ばす。
…………。
「 空護……。俺だ !十一だ !
……ダメか。やはり今は……。自我は無いのか ? 」
「 強いし硬いでしょ ?再生力も一線級ですから。
だから……。俺ボク私は エスネトを痛めつけ続けます……。乱戦に次ぐ乱戦での連携プレー最高でしょ ?
マルクトとエヌ・ゼルプトの総合力と創意工夫で 突破しなくちゃね !
だって今の試練の英雄は 俺ボク私なんだ。やれるはずだ !
頑張れ 俺ボク私 ! 」
…………。
悪魔は、死神に護られているにも かかわらず……。
死神の 背面に、小剣の剣先を突き刺そうと 動き出す。
…………。
英雄のマルクトによるものなのか……。
エヌ・ゼルプト故の 何かしらの能力なのか……。
悪魔が握る小剣からは、おびただしい量のアルカナの光が溢れていた。
…………。
そんな小剣が 死神の背中に届きそうになる最中……。ある 2人が これを阻む。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
悪魔からすれば 異次元の速さで動いているように見える何者かが……。
強烈な打撃を叩き込み、死神から引きはがして 空中へと蹴り飛ばした。
…………。
『 Rebel Function !! Pentacle !!
( レヴル ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
悪魔が蹴り飛ばされた中空には、丸七型の小銃型武装によって 炸裂弾が撃ち込まれており……。
炸裂弾は 命中と同時に 爆発する。
…………。
「 自分は……。確かに弱いです。
ですが、親友から引き継いだ全てが 今も残っている……。
戦う理由には充分です ! 」
「 界……。いや レト…… !!
俺達は 試練の中でも 脇道を行く存在なのかもしれない。
それでも……。そんなの どうでもいいんだ !!
お前が どこまで本当の事を話していたとしても……。
試練の終わりが近づく要因に、
まだ助けられるかもしれない仲間の命がかけられてるなら……。
別の道を探す為に否定してやる !! 」
…………。
中空に蹴り上げられた方は 分身だったのか……。跡形もなく消滅していた。
それでも……。未だに 周囲の 悪魔の数に変化はなく……。
レトは 余裕を残した 口調で、続きを話す。
…………。
「 なあんだ……。皆クレバーじゃないんだ。
感情論でチャンスを見送るのも 選択なのかな……。
まあ、次の段階を見たいのは変わらないからね。
俺ボクの全力を持って、妨害もするし邪魔はさせないよ ?
エスネトには悪いけど……。最後の 1体として倒させて貰うよね。 」
「 エヌ・ゼルプトを 5体倒せばいいんだろう ?
残りが 1体なら……。俺達が お前を最後の 1体にしてやる !! 」
…………。
青年 有馬要人が啖呵を切ると、激しい乱戦へと移行していく。
3人の青年は 数体の分身を消滅させるが、悪魔の総数は常に 10体程を維持し……。
平行線の戦況が続いた。
…………。
……。
天瀬十一は、ジャスティフォースの能力をもってして、白群色の雷で複数体を相手に戦い……。
荒井一志は、ホバー滑走によって 死線を潜り抜けながらも、銃射撃と格闘戦を交えて応戦。
…………。
青年 有馬要人は、自身のDAAT で分身を出して立ち回り数の不利を覆そうと試みる。
…………。
丹内空護を 元の状態に戻す為……。狙う流れは決まっていた。
悪魔のエヌ・ゼルプトを 打開し……。死神に再三の 不活性化を注ぎ込み続ける……。
仮にも、この場で これを行うには、悪魔を打破する必要が有るのだ。
…………。
有馬要人は、強烈な蹴りを レトに叩き込む。
レトもまた これに合わせるように 鏡像のような動きで 蹴りを繰り出した。
…………。
「 ……んん ?ついに来たか。
ねえ皆……。落ち着いて聞いてね。
たぶん俺ボクよりも面倒なのが来たよ……。ちょっと誤算かな。 」
…………。
愚者と悪魔の 1体ずつが 相互の蹴りの影響で体勢崩し、それを整え直していると……。
乱戦が繰り広げられる 一角に、新たな来訪者が現れる。
…………。
来訪者が訪れた周囲には 黒色の羽根が舞っており……。
誰もが見覚えのある 相手だと、反射的に知覚できた。
…………。
「 汝……。レトよ。
試練の英雄 復活の有無は、既に依り代の中で進行している。
全ては エスネトと試練の英雄との問題……。
真っ当な形式で、試練の失敗を果たすのだ。汝の意向で歪めるつもりか ? 」
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラ……。
恐らく……。審判のエヌゼルプト だとされる存在である。
…………。
「 こんにちは 先輩……。
俺ボクを助けに来た感じでは 無さそうですね。 」
…………。
悪魔と大天使の会話は 穏やかそうなものではなく……。
先へと続く流れを 不透明にさせた。
………………。
…………。
……。
~繋がる鎖~
仄暗い洞では……。
イェルクスの元に、悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトが姿を見せる。
…………。
「 まさか……。ここまで上手くいくなんて……。
今頃 ボク私達が 頑張ってるのかな。えらいえらい。 」
…………。
調度……。
I-14 地区、枝川沿いの 拡幅のある散歩道 付近では、少し前に乱戦が始まった所だった。
…………。
「 さてと……。楽しい事しなくちゃな。
先輩が戻ってくる前に……。世界に アプローチを仕掛けようか。
試練の終局まで審判に保護される……。アルカナ光 究極の結晶にして試練の果てに得られる最大の恩恵。
世界のマルクト……。ヘキソットの最高傑作……。
生命に応える究極の存在……。イェルクス。そして……。 」
…………。
仄暗い洞の中の 光溜まりの淵を なぞるように歩いて……。
悪魔は、ある遺跡の一角に 辿り着く。
祭壇にも見える 特異な作りの区画で、光溜まりと同質の輝きを帯びる それの前に立つ。
…………。
それから発せられる 煌めきは安定しており、極彩色の綺麗な輝きを発していた。
…………。
悪魔は それの真ん前で、何かを思い出しているのか 静かに話 始める。
…………。
「 カシュマト……。久しぶり。
たいしたもんだよ……。
俺ボク私は 貴方のせいで今も 特技の組成が変わったままなんだから。
約 19年ぶりかな……。
貴方の頑張りで、俺ボクは 危うく復活できずに、ニンゲンとして消滅してたかもしれない。
22災害……。
本来なら只の実演戦闘……。
アルカナの使い方の 一例を見せるデモンストレーション。
……なのに、それを後から覆したんだ。
只の人間にしては破格の成果だった……。
そりゃあそうだよね。
執念 ?豪運 ?
理由はどうあれ……。
アルカナの光の本質を理解して 自力でマルクトを使いこなした……。
アルベギ族 最強の戦士であり……。
戦神としての名で語り継がれるようになる伝説だもん。
かつての自分の仲間が殺された試練を……。無理矢理 終わらせようとしたんだよね ? 」
…………。
レトが 話しかける相手は沈黙し……。応答は無い。
…………。
「 ……でもさ、今の時代は 貴方が戦った時代とは違う。
今の時代は既に別の試練なんだ。
貴方が全ての エヌ・ゼルプトを倒しても、数の内に含まれない。
デモンストレーションが少しだけ 早く終わっただけだ。
懐かしいね。
ウィーリッツは タナラダに どこまでも気を許していたから……。
仕方ないだろ ?
そうそう……。お義父様のマシュマトも……。簡単に仕留められたよ。
競い合った戦友も、思いを寄せあった許嫁も……。
尊敬する族長も……。
全部 ワタシ僕が仕留めたんだんだったね。
けど……。結局、イェルクス様の素体は……。
知的生命体じゃなくなった貴方が、意のままに操るには限界があった。
かつての許嫁に擬態した、オレ私を仕留め切れず仕舞い……。
悲しいね。嬉しいね。愛してる。 」
…………。
悪魔の所作は どことなく 女性的で……。
アルカナの光を発する それの、指が僅かに動く。
…………。
「 ワタシ僕は、傷を癒す為に適当に見繕ったニンゲンに擬態したんだよ。
イェルクス様の身体……。主導権を取れるように手伝ってやろうか ?
運命的だよね ?
君とは逆だけど身体を取られそうになっている戦士が今の時代にはいるんだ。
似たもの通しで……。仲良くやろうよ。 」
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプトは……。分身を複数体 作り出すと、絶えず 何処かへと贈り出し続ける。
発光する神々しい存在は……。時折 揺れ動き……。
赤色の体表が見え隠れしていた。
…………。
洞内には、いつになく不気味で妖しい空気が立ち込めていく。
………………。
…………。
……。
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