- 34話 -
螺旋の中のペイルライダー
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目次
~風前の灯火~
悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトの出現によって……。
良くない転機を迎えてしまう。
…………。
赤眼の巨怪……。ポメグラネイトと、複数の ペンタクル・ペイジが脅威をもたらす中での増援。
悪魔のエヌ・ゼルプトが 5体出現し……。
死地に身を置く 彼誰五班の面々の緊張感を研ぎ澄ましたようだった。
…………。
丸七型で戦う 2人の青年……。大代大(オオシロ マサル)と、荒井一志(アライ カズシ)……。
彼誰五班への増援に駆け付けた 一六型改を駆る人物……。仁科十希子(ニシナ トキコ)。
3人の統率者と 20人レヴル・ロウが、いよいよ戦力差を 気にせずには いられないような頃合い。
…………。
5体にも及ぶ、悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトの分身に 白群色の雷が走ると……。
そのまま消え失せたのだ。
…………。
白群色の雷を操った……。何者かは……。身の丈程の大剣を握る 新たな戦士だった。
新たな戦士は……。
…………。
獅子のような意匠が頭部に目立ち……。赤い外装甲で身を包んでいる。
その人物は……。天瀬十一(アマセ トオイチ)であった。
かつては、塔のアルバチャスとしても戦った 水のマルクトを扱う人物。
…………。
天瀬十一が扱う新たな 戦う力……。戦士の名前は……。
JUSTI-F0R-CE……。
(ジャスティフォース)
…………。
極光の力を武器に戦う戦士が、5体の悪魔の分身と 赤眼の巨怪を両断すると……。
迫っていた筈の脅威は、先送りにされる。
…………。
……。
程なくして……。
仄暗い洞の中では……。
複数の名を持つ存在が、これまでに起こった最近の出来事を整理する。
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプト……。レヴル・ウィステリア……。レト……。恵花界(エハナ カイ)……。
これらの名は全て、同一の その存在を意味しているのだ。
レトは……。自分以外の相手に、さっきの出来事を愛でるようにして、感想を告げる。
…………。
「 聞いてます先輩 ?
そんな感じで、俺ボクの悪魔分身 5体と、ポメグラネイトを撃破しちゃったんですよ ?
しかも英雄のマルクト無しで……。
ニンゲンて本当に怖くないですか ? 」
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトが話しかけている相手は、黒翼の怪人……。ドゥークラである。
…………。
「 ポメグラネイトは、試練においても微細な影響も持たない。捨て置け……。
汝……。エスネトと共に愚者の戦士と戦っていたのだろう ?
愚者の真似をしても、倒しきれないとはな……。
どうせならば、そちらの方を気にするのだな。 」
「 まあ、確かに !
ポメは……。3体のエヌ・ゼルプトの混ざりもの……。
ノーカウントですからねぇ。
実質、エヌ・ゼルプト並みの強さの ピップコートだぁ。
それよりも、分身達だなんて……。味気ない。
deviL Trick Ster……。です !
( デヴィル・トリック・スター )
強度は本物の 俺ボクには到底 及ばない。
……作ったばかりなんで これから改善しましょう。
マルクトが有れば 難しくない。
けど……。本当に良いんです ?英雄のマルクトは僕ワタシが持ってて。 」
…………。
レトにとっては、何やら譲れない こだわりが有るようで……。
自慢気に、訂正の意味での正式名称を述べる。
それでも、黒翼の怪人からすれば……。どうでも良い内容らしく……。
淡々と応答する。
…………。
「 規定通りだ……。 」
「 エスネトと……。英雄が風のマルクトを取り合っている以上は……。
完全に、マルクトを未所持としては見ないって感じですね。了解。
……ちなみにですけど。
試練においての残りの討伐目標数は、どのエヌ・ゼルプトでも 1体倒されたらニンゲンの勝ち。
君主型が 1体、天使型が 2体、遺物型が 1体の合計 4体落とされてますもんね ?
規定数の試練に打ち勝った考えの元で、最後の試練……。
イェルクス様との戦いが始まる。 」
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプトは 口を走らせつつも、足元の小石を拾い上げる。
幾つかの小石を掌に並べて……。適当な大きさの 幾つかを見繕う。
…………。
見繕った、選りすぐり小石を握ると……。
洞内を妖しく照らす、光溜まりの中に 1つずつ放り投げていった。
…………。
レトは話を続けたまま……。
青春の一幕を満喫するかのように、石を光溜まりの中に放り投げ続ける。
…………。
「 君主型も、天使型も、遺物型も 1体以上は落とされてるなら……。
後は頭数分だけを揃えて終わり……。実際問題 可能性の話……。
俺ボクか……。先輩の どっちかがニンゲンにやられたら……。
ゲームセットですよね ?
まあ、猶予は エスネトが完全復活するまで……。
試練の英雄……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)の復活の可能性が完全に途絶えた時……。
今回の試練は失敗になる。 」
「 規定通りだ……。汝も知っているだろう。 」
…………。
掌の上の小石の残りが少なくなっていく……。
…………。
「 知ってる知ってる。
我、俺ボクも知ってるに決まってるじゃないですか。
エスネトの浸食も日に日に進んでいる。
今時代の世界の終わり……。楽しみですねぇ。アハハハハハハ !! 」
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプトは、何を思い浮かべているのか……。何の琴線に触れたのか……。
空洞の中で 高笑いを響かせる。
この笑い声には、感情が乗っているのかどうかも曖昧な様子だった。
………………。
…………。
……。
~〇〇のコンテニュー~
悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトとの 2度目の戦いから……。
数日が経過していた。
ある日の午後……。
…………。
……。
特務棟の屋内運動場の中では……。
独りの青年が 自主的な訓練に励んでいる。
…………。
この日も、緩やかな持久走から始まり……。
徐々に 身体を追い込んで筋量を育てているようだった。
…………。
タータントラックを、力強く蹴とばすように 走り……。
持久走の後も 短い時間で呼吸を整えると、懸垂……。腕宛て……。上体起こし腹筋 など……。
次々と、全身に 負荷を与えて行く。
…………。
以前の 悪魔のエヌ・ゼルプトとの戦いでの戦傷は癒え始めていたが……。
身体中に しっかりと乳酸が溜まっていく程度の運動を 連日にわたって継続しており……。
連日の日課の 始めと終わりには 射撃場での訓練も欠かさない。
…………。
まるで……。疲労感を残したままでも、機敏に動けるようにと……。鋭い動きが出来るようにと……。
自らを追い込んでいく ようだった。
…………。
……。
青年 有馬要人(アリマ カナト)が……。
芝生の上で仰向けになって 少しだけ休んでいると……。見知った人物が訪れて声をかけた。
白衣の青年……。天瀬十一(アマセ トオイチ)である。
…………。
「 全力で身体を動かすとさ……。喉の奥の方で血の味がするんだよね。
今日は それくらいにしたらどうだい ?
まだ 傷に響くだろ ? 」
「 ……十一さん。俺は大丈夫ですよ。
前は、救援ありがとうございました。 」
…………。
この日も……。まるで何もなかったかのように、太陽は西側に傾きだす。
屋内運動場の屋根の一部が 開放されているからか……。
青空に橙色が少しずつ混じっていくのが わかるようだった。
…………。
白衣の青年は 立ったまま……。近くで仰向けに成っている青年と話を続ける。
…………。
「 良いさ……。間に合ってよかった。 」
…………。
少しばかりの間を置いて……。
青年 有馬要人に 1つの提案を持ち掛けた。
…………。
「 なあ、有馬 君……。俺と模擬戦でもするかい ?
俺も君も、互いに出来る事が変わってきた。
お互いに 新しい創意工夫を、今なら ぶつけあえる……。そう思うんだ。 」
「 ……良いんですか ?
最近も 社長室と 開発の行ったり来たりで忙しそうなのに……。 」
「 もちろんさ。
よし !話は決まったね。少し待ってて……。
俺も汗を流して、フェアな状態で戦おう。 」
…………。
天瀬十一は 白衣を脱いで、適当なベンチに置くと……。
軽く準備運動を行い、息の上がる運動を行おうとして行動に移る。
…………。
しかし、青年 有馬要人は その行動に待ったをかけた。
…………。
「 いえ……。十一さん。今のまま 模擬戦に移りましょう。
いつもフェアな状況とは限らない……。 」
「 ……わかった。
なら……。俺も 有馬 君も 互いに怪我をしない程度に全力で……。
無手でやろうか。準備は良いかい ? 」
「 いつでも大丈夫です。
……お願いします。 」
…………。
2人の青年が 50m程の距離を置いて向き合い……。
互いの視線に嘘が無いと確認すると、デバイスを動作させる。
…………。
「「 起動 !! 」」
…………。
有馬要人は速やかに code-0-DAATに姿を変えて……。
JUSTI-F0R-CE(ジャスティフォース)の姿に変わった 天瀬十一と肉薄した戦いを繰り広げた。
…………。
愚者のアルバチャスは……。DAAT 星の機能と……。DEF 月の機能を かけ合わせて……。
通常の時間軸から見れば……。まるで高速で動き回っているかのような複数の分身で……。
全方位からの猛攻を時間差で仕掛ける。
…………。
地上をホバー滑走によって スラローム移動する複数の愚者たちや……。
中空に飛び出した愚者たちが……。
蹴りを主体にして 一点に飛び込んでいく。
…………。
獅子の意匠を持つ戦士……。-JFC-も これに押し切られまいとして立ち回った。
頑強な赤い鎧で、無数の蹴りや殴打を受け止めて……。
周囲に向けて、雷をドーム状に発生させる。
僅かに愚者のアルバチャスの動きに淀みが現れると……。
本体の有馬要人を絞り出し……。打撃を繰り出す。
…………。
天瀬十一からの反撃によって、数体の分身が消滅するが……。
有馬要人は 気押されずに、追加の分身を作り出し 攻めの手を緩めない。
…………。
……。
有馬要人と 天瀬十一の模擬戦は互いに激しく ぶつかり合って……。
限界を少しずつ押し上げていった。
………………。
…………。
……。
~調和を乱した未知数~
有馬要人と 天瀬十一の模擬戦を 物陰から観戦している者がいた。
屋内運動場に繋がる、ある通路の 少し奥まった所から様子を うかがっている。
…………。
天井から床までの一面張りになっている大窓の ガラス越しから……。
楽しそうに口角を上げて……。立ったまま……。片方の掌を腰に当てていた。
…………。
口角を上げた怪しい人影に……。
ある人物が 気がついて警戒心を強める。
怪しい人影は……。恵花界の姿をしており……。
警戒心を強めた人物は……。荒井一志(アライ カズシ)であった。
…………。
……。
2人は 元々、実動班の同期として近しい間柄だったのだが……。今は違う。
怪しい人影も、もう 1人の存在に気がついて……。ゆっくりと話し始める。
…………。
「 今日も平和だ。夜ごはんは何にしようか……。
ロールキャベツ なんかも良いかなぁ。ね !一志 ! 」
「 界……。いいえ 違いますね……。今は 悪魔のエヌ・ゼルプト。
特務の屋内でも警報が鳴らないのは……。
何かしらの潜伏能力か……。
以前 見せた分身体だからこそ、感知される域を出ないからないのか……。
……理由が有りそうですね。
何をしに来たんです ? 」
…………。
この通路は 運動場から見て西側に位置しており……。
逆光の陰に隠れているからか 少しばかり薄暗かった。
…………。
生真面目な青年 荒井一志は、少しの隙も見せまいとしているのか……。
小銃型武装 R,R,Gの握把(あくは)を握り、銃口の向きもブレさせない。
銃の照準の目安となる照星は、荒井一志の側から見ると しっかりと恵花界に重なっている。
…………。
怪しげな人影……。悪魔のレトは……。
人間としての恵花界の姿のままに 調子を狂わせない。
…………。
「 久しぶりだね 一志……。
ニューヒキダ全域の索敵装置なんて、そんなに信頼できないよ ?
エヌ・ゼルプトが その気に成れば 闇討ちなんて簡単なんだからさ……。
それをしない理由を……。
教えるかどうかは、僕の気分に よりけりなんだけどね。
そんなことよりも……。用事がなきゃ ここに来たらダメなの ?
なら用事は……。昔馴染みに会いに来た……。
これで良い。
友達だったろ ?つれないじゃないか。
1週間は過ぎたかな…… ?そこまでじゃないか……。天瀬十一の切り札は凄まじいね。 」
「 自分が手に持っているコレが見えませんか ?
丸七型用の R.R.Gです。 」
「 よせよ……。本気なら、既に発砲してるだろ ?
威嚇ですらも 撃つ気は無いんだ。
……それとも、僕たちも互いに全力を出して 爽やかに ぶつかってみるか ?
まあ、その場合は模擬戦じゃなくて、実戦だね……。
一志も伝次と同じように穴だらけの成るのかな……。どちらにしろ……。
撃ったら どうなるか、予想できるから 撃たないで様子を見ているんだろ ?
弱いって辛いね 一志……。わかるよ。
僕も 本当の自分になる前は そうだった。 」
…………。
恵花界の姿をした悪魔の表情は……。
センシティブな悩みに寄り添うかのようで、憂いを帯びている。
…………。
生真面目な青年 荒井一志は、目頭を持ち上げる形で目を細めると……。
短い言葉で否定した。
…………。
「 黙れ 悪魔め……。自分はいつでも撃てます。 」
「 強がるなよ。生真面目ってのは損しかしない。
思いもよらない相手から……。気構えもないタイミングで足元をすくわれるんだ。
なあ 一志……。
こっち側に来たって良いんだぞ ?例えば、エヌ・ゼルプトにでも成ってさ……。
フフフ……。いい方法がある。 」
「 自分が そんな出任せに乗る訳がなでしょう。 」
…………。
かつての関係を説得材料の呼び水にしているのか……。
仄暗い囁きが 躍り出る。
悪魔の口角は上がっており……。穏やかな口調に反して妖しい。
…………。
「 ハハハハハ。冗談さ……。
今日の目的は済んだから そろそろ帰るよ。
そうそう、今度さあ。
俺ボクが出現する時には、諸悪の根源を連れてくるからね ?
どうせ、何の話かわからないだろうけど……。
有馬さんも、天瀬さんも、大代さんも 皆でおいでよ。
強い人を沢山連れてきて欲しいな。 」
「 ……自分が 信じると思いますか ? 」
…………。
悪魔が大口を開けて笑い出す。
身体を揺らして笑う その様は……。本当に何かしらに可笑しさを感じている風にも見える。
…………。
それでもわざとらしく……。どこか腹立たしく……。
逆なで されている感覚だからなのか……。
荒井一志は静かに苛立った。
…………。
諸悪の根源……。
…………。
荒井一志からすれば、この提案の中の言葉が 明確に何を断定するか不明瞭だったが……。
仮にも、特務棟内で多くの人的被害を出した存在が口にする提案だ。
手放しで喜べるものでは無いのだろうと予測するのも難しくない。
…………。
だというのに……。
恵花界の姿で話を続ける 悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトは予定調和の様子である。
…………。
生真面目な青年との交流を飄々とした調子で進めていく。
…………。
「 別に ?……思ってないけど。
そっちには試練の英雄がいないし……。
誰もルールの全容を知らない。
ならさ……。少しでも手がかりは欲しいだろ ?
今の提案は、ニンゲンにも旨味は有る話だよ…… ?
当日に成れば、きっと そう思うだろうね。
今は亡き……。太陽の英雄の代わりに、ガイドラインを用意してあげる。
終点と……。最後の 1体に合える筈だから……。
選りすぐりの戦力で来なよ。
上手くいけば……。光の試練は その時に終わるかも ? 」
「 あれ程の事をしたのに……。
何を……。考えているんですか……。界……。 」
…………。
多くの人々を振り回し続ける事象……。光の試練。
これまでにも、謎の怪人エイオスが出現し……。戦いの中で多くの人々が命を落とし……。
各々の人生に小さくない影響を及ぼした。
…………。
そんな謎に満ちた事象が 本当に言葉通りに終わるのか……。
…………。
生真面目な青年も、その他の多くの人達と同様にして……。
日々、戦いの終結を目指している筈なのだか、悪魔の言葉は引っかかりを感じさせる。
…………。
「 だから 界じゃ無いって……。
けど……。
この先を見極めたいなら……。やる事は決まってるだろ ?
じゃあね 一志。僕は伝えたから……。またね……。 」
…………。
悪魔は……。奔放に振る舞うと……。
隙だらけの背中を向けて どこかに去っていった。
…………。
荒井一志は、気がついてしまう……。
自分自身でも知らない間に 小銃型武装の銃口を床の方に向けていたのだ。
…………。
生真面目な青年が 膝から崩れて……。
眉間の しわが深まる中……。
頬を 一粒の水滴が流れて言った。
………………。
…………。
……。
~アンフェア~
愚者の戦士 code-0-DAATと……。
獅子の意匠を頭部に持つ戦士 -JFC-による模擬戦は 終わり……。
…………。
code-0-DAATとして戦っていた 青年 有馬要人と……。
-JFC-として拳を振るった 青年 天瀬十一は、それぞれに 芝生の上に座り込んでいる。
…………。
模擬戦とはいえ……。無手での格闘は激しく……。
肉薄した戦いの余韻が、この時も 両者に残っているようだった。
適度な加減を していたからか……。目に見える手傷などは、どちらにも見当たらないが……。
先程よりも更に 西側に傾く太陽の中で、しばらく座り込んだ。
…………。
「 本当に強くなったね……。有馬 君。 」
「 ありがとうございます。けど……。
俺は まだまだですよ。 」
「 code-0-の DAATに備え付けられた星の切り札……。
Trick Ster ter……。
( トリック・スター・ター )
質量を持った分身での 物量を活かした戦い方だけでも かなりのものだけど……。
それだけじゃない。
DEFの月の恩恵で、活動時間領域を引き延ばして 擬似的な高速戦闘をも仕掛ける。
DEF 月 と DAAT 星 の合わせ技か……。
俊敏に動き回る多数での攻撃は なかなか退けられるものじゃないだろう。
本当に強くなったよ。 」
「 ……設計した人と 作った人が凄いんです。
俺は 自分にできる範囲で 作られた物を使ってるだけですから。
それに……。十一 さん の新型の方が かなりのもの だと思いますよ。
俺の方は只の分身ですけど……。
数の不利に負けない スペックの高さは充分な強さでしょ ?
頑丈で硬い装甲に、バベルの頃よりも精度も威力も高い広範囲攻撃の雷……。
無手でも徒手空拳に それを付与できるって事は……。
例の最大の切り札の 大剣を使った威力は想像したくない。
もし、俺が エヌ・ゼルプトなら……。
手の内を知りたくて 密かに偵察しに来ますね。 」
…………。
芝生の上に座り込んだまま……。2人の青年は語らい始める。
話の中身は もっぱら、今しがた終えたばかりの 模擬戦についてだった。
…………。
相互に 相手の特筆する戦い方に触れているようで……。
青年 有馬要人は、これを フィードバックの材料にした。
…………。
「 有馬 君が そうなら……。
俺も 父さんが残した物を形にして それを出来る限り使っただけさ。
俺 1人じゃ何も出来ていない。
……実はね 少しだけ心配していたんだ。
有馬 君は……。元々、日樹田とは所縁の無い身の上なのに 多くに関わって……。
今日まで過ごしてきた。
個人としても……。この地に住む多数の中の意見としても……。
君には感謝しかない。
だから、悪魔のエヌ・ゼルプトが しでかした件を 深刻に受け止め過ぎていたら……。
あまり気に病んで欲しくないと……。そう思ってたんだ。 」
…………。
天瀬十一が……。この場に現れた本題だろう。
落ち着いた言葉で……。真面目な調子で話す。
…………。
白衣の青年の眼差しは真剣だったが、それでいて威圧的な様子はない。
この後に どんな言動が飛び出しても 対応できるような……。そんな状態だった。
…………。
この合間にも僅かに太陽は西に傾いており……。
青年は……。汗を解して身体の温度が少しずつ変化していくの感じ取る。
両目を僅かに細めて……。口角を上げると 天瀬十一に返答した。
…………。
「 ありがとうございます。
俺は 大丈夫です。むしろ今ので尚更 安心しました。
本当にヤバく成ったら 確実に頼れる相手がいる。
例えば それは……。
考えなしに 空に向かって投げたボールが、誰かに掴んでもらえるようなラッキーじゃなくて……。
投げ返してくれる相手がいる キャッチボールみたいな。
上手く言えないですけどね。
今……。少しだけ わかった気がしますよ。
空護 さん が……。どんな選択にも物怖じしない理由というか……。
十一 さん の お陰で得られる心強さなんでしょうね。
……。俺には出来ない事を出来る頼れる相手だ……。前に そう 言ってましたから。 」
「 そうか……。
空護が俺を そんな風に……。 」
「 十一さん。俺は大丈夫です。
それよりも、大代 さん や 一志が気になります。
界は 大代 さん にとっては 後輩で……。
一志からすれば、伝次との 3人ぐるみでの同期だった。
空護 さん にしても そうだ。
ここまで来て、死神のエヌ・ゼルプトだなんて……。 」
…………。
青年 有馬要人が……。
現在 考えうる 懸念事項に辿り着く。
これまでの多くの出来事を思い出しては、何が重要か……。青年なりに優先順位を付けた。
…………。
青年が触れた懸念事項には 白衣の青年も思う所が有るようで……。
真剣そうな表情を変えずに頷く。
…………。
「 厄介な出来事は次から次へと 立て続けに起きるものなんだろうね。
どんなに俺達が足掻いても……。光の試練の全容が掴めなければ……。
後手に回って対処するしかない。 」
「 これまでにも 他に手段や、時間が無い時は……。
覚悟を決めて 行動に移しました。
けど もしかすると……。その 3人目は……。
空護 さん かもしれないし……。界なのかもしれない。
俺の独断で 直接 手にかけてしまった しっぺ返し かもしれませんが……。 」
「 有馬 君……。
君は やはり……。 」
…………。
有馬要人の表情が少しだけ変わる……。
それは 太陽が西側に傾く影響で、空の色の配分が変わるような……。微細な変化だった。
時間の変化で大きさや形を変える 芝生の影の一部が、深みを増していく。
…………。
「 ……すみません。忘れてください。
次に戦った時には、今 自分で言った言葉にも 打ち勝って見せます。
死神にも悪魔にも……。
アルバチャスが負けてられない。
戦える人間が限られてるなら 俺が誰よりも……。 」
「 君は……。さっきから嘘をついているな ?
それも、かなり下手くそな嘘だ。 」
「 ……俺は嘘なんて。 」
…………。
青年 有馬要人が自身の言葉の意味に不意を突かれて我に返るが……。
この不意は……。白衣の青年 天瀬十一に気づかれてしまったようだった。
…………。
先程の模擬戦では……。攻守が入り混じる拮抗した戦いで……。
明確な勝ち負けは 存在しない線引きの中で現在に至っている。
どちらも、戦い方は変わっていき……。立ち回りが異なるのだが……。実戦だろうが模擬戦だろうが……。
それで何か大きく困るようなものではない。
…………。
だがしかし……。模擬戦を終えた今になって 言葉を交わすだけの 今頃になって……。
青年 有馬要人は 重大な失点をしてしまったような 錯覚に陥る。
…………。
白衣の青年 天瀬十一は……。青年の心情を知ってか知らずか……。
更に深く切り進んで行った。
…………。
「 なあ、有馬 君……。
君は……。本当に 強くなったよ。
始めて code-0-として戦うようになった日と比べたら、比べ物にならない程だろうね。隙も少ない。
あの日も、今みたいな西日が見える時間帯だったかな。
もう少しで……。1年が経つ。
だけど……。今の君は あの頃よりも危うい。
さっきの君の言葉を借りるなら……。
あの頃は、空護や俺が助けに入る隙を残して……。空にボールを投げていただけなのに……。
今は……。誰にもボールを投げない気でいるようだ。
パスをしないで独りで抱え続ける気なのか ?
仲間を頼れと……。俺に言ったのは君だろう ?
辛いのは 君だって一緒だ。
俺が手にした新たな切り札は……。仲間を助ける為にある。
頼りないとは言わせないぞ ! 」
「 別に頼りないだなんて思っては……。 」
…………。
青年は内心で、大きく切り込まれて……。姿勢を崩した。
触れさせない気でいた。
だというのに これには 自分でも自覚していなかった……。
だからこそ……。先程の自分自身の失言を 先駆けにして 受け身や対処が遅れていく。
…………。
……。
例えば……。
…………。
実際に転倒したとして……。
些細な瞬間の 考えてからの行動では反応が遅れて間に合わない。無用な怪我に繋がってしまう。
…………。
これを防ぐ目的で……。武道の習熟の初歩には あらゆる方向への受け身の練習を繰り返し……。
どんな状況からでも、怪我を防止する上手な転び方を身に着ける。
身体で覚えた 転び方は……。怪我を小規模な域にしてくれるのだ。
…………。
頭で考えなくても、自然な動きで 身を護れるようになるのである。
…………。
青年 有馬要人は……。どんな状況にも揺るがないものだと思い込んでいた。
それが、連鎖的に 思いもよらない……。気持ちの準備が追い付かない方角へと流れを作ってしまう。
…………。
天瀬十一は……。攻撃的ではない 言葉の猛襲を継続する。
…………。
「 なら、俺を頼ってくれ。
大代 さん や、荒井 君……。彼誰五班の皆もいる。
1人 1人では とても敵わない状況でも……。
皆でなら きっと 違う道を見つけられる筈だ。
木田 さん 達の事は残念だけど……。
限られた時間 だったとしても、レッドコード化した皆が 元の姿に戻れたのは……。
誰か 1人だけで得られる ものでは無かった。
あの日の結果は、誰か 1人だけじゃ成しえなかったんだ。
皆だからこそ辿り着けた 結果が確かに あるじゃないか…… !
それに……。
今 決断したくない問題が有るなら……。ギリギリまで悩み続けるのも 立派な答えの 1つだ。
俺も……。ある人に そう教わって、未だに考え続けている事だってある。
有馬 君 が後ろめたく思う必要はないんだ。
俺達は……。肩を並べて 一緒に戦えるだろ ?
そうじゃないなら……。空護だって きっと悲しむ。
独りにならないでくれ。
0と 1の差は 限りなく大きいぞ。 」
…………。
青年 有馬要人は……。
以前に 自分が思っていた感情を 覚えていた。
…………。
それは……。
…………。
白衣の青年 天瀬十一や……。天瀬真尋に 自分は何を出来るのか……。
知らず知らずのうちに 悩み過ぎていた時期の感情だ。
…………。
……。
当時は……。
その悩みを 年の離れた友人に指摘され……。以来……。自分では振り切った気でいた。
…………。
振り切ったつもりで……。状況に合わせて強くあろうと思う傍らで……。
当時と同じような渦に引き寄せられていたのだろう。
間違いなく……。視界が悪くなっていたようだ。
…………。
辺りは……。刻々と夜の時間に近づき明るさが減退していく。
これに反して……。青年の目から見る視界は良好になっていった。
…………。
有馬要人が静かに目を瞑り……。ゆっくりと深呼吸をする。
鼻腔から 新しい酸素を吸い込んで 脳が活性化したような感覚を実感し……。
しっかりと目を開いて、天瀬十一に答えた。
…………。
「 ……そう ですね。
すみません。悩み続ける選択を 最初から捨てていました。
馬鹿ですね。……本当に。 」
「 そうじゃない人間は 1人もいないさ。
だから俺達は助け合えるんだ。
恐らくだけど……。
空護の件は まだ 望みはある。完全に姿が変異していないのが その証拠だ。
時間は限られていても……。ギリギリまで手段を見極めよう。
必要なら……。格納シェルターだって なんだって使ってやるさ……。 」
「 思えば 今までも……。そうやってきた事ばかりでしたね。
悩まなくなったら、それは何かを諦めるのと同じだ。
俺……。もっと強くなります。
これから先……。今は選べない選択肢を見つけても諦めなくても良いように。 」
…………。
2人の青年の視線は 同じ高さに並ぶ。
辺りは薄暗くなり始めていたが……。どちらの表情も明るい。
…………。
有馬要人と……。天瀬十一が 殆ど同じ頃合いに立ち上がる。
どっしりと肝が据わった眼差しを輝かせて、いくつかの言葉を交わすと……。
もう一度だけ……。
両者は デバイスを握り……。起動させる。
…………。
この後の模擬戦は……。先程よりも鋭く 激しく ぶつかって……。
互いの自力を着実に向上させた。
………………。
…………。
……。
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