- 33話 -
反逆者を照らす極光
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目次
~忍耐か徒労か~
何処かに存在する 仄暗い洞の中……。
神秘の光が照らす洞内の一点で 空間が裂ける。
光り輝く切れ込みの合間からは、似つかわしくない 3体の影が這い出てきた。
…………。
真っ先に這い出てきた 1体は……。
暗色と藤色の外殻装甲に身を包み、黄色の光を各所から放っている。
背面からは、枝のような 節足動物の脚のような何かが複数本飛び出していた。
…………。
「 さて 到着か……。
懐かしいのは この純然に満ちるアルカナだけだ。
俺ボクにも すっごく極上……。
この 新入りは奥底に静めておこうか。 」
…………。
軽快な口調で、ある 存在を 光溜まりの中へと蹴り落とす。
黒色の死神のような鎧姿の何者かは、無抵抗のまま アルカナの光に沈んでいった。
…………。
光の切れ込みが、空間から消え去る頃……。
この洞の中で 待ち構えていたのか、黒翼の怪人が来訪者に話しかける。
来訪者は、赤眼の大柄な怪人と 暗色と藤色の異形の 2体だったが……。
受け答えに応じたのは、異形の方だけだった。
…………。
「 汝、悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトだな…… ?
随分と時間を要した。 」
「 貴方様は、試練最後のエヌ・ゼルプト……。ドゥークラ !
希少な もう 1人の先輩 !
予定通り、俺ボクの目覚めに合わせて ポメグラネトを寄こしてくれた。
ただいま戻りました。お待たせしました。連れてきました。 」
「 相も変わらず騒々しいな。意味不明の体現者……。
連れてきた とは……。さっきのアレか。 」
「 まもなく でしょう。
今回の試練では、文明が ある程度進んでいたからか……。
試練の英雄が小賢しく準備していたからか……。
飛躍的に高められたアルカナの影響で、エスネトまで出てこられる。
それを利用しようと狙っているのが、今回の英雄みたいですけど。
……まだ再起不能の判定外です ?先輩 ? 」
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプト レトの口ぶりは 板についていない 軽々しさだった。
レヴル・ロウの変異型……。レヴル・ウィステリアの禍々しい姿のまま……。
身振りで手ぶりで、光の試練の果てに焦点を当てる。
感情が乗っているようで、どこか冷たい淡々とした物言いで……。念押しのように続けた。
…………。
「 再起不能……。やっちゃいましょうよ 先輩……。
2回の 目こぼしは、消化済み でしょう ?
ほらほらぁ。
英雄のマルクトも、風のマルクトも こっち側……。
ニンゲンには何も出来ない。
こっからの逆転なんて もう無理ムリの無理。
今時代の試練の失敗からの 大崩壊も直ぐそこ !ねっ ?
律儀にカシュマトアトルの 妨害分を差し引かなくても……。 」
「 ……ダメだ。試練の規律は絶対遵守されねばならない。
汝……。エテルチョと並んで単独崩壊が無いものと奢るなかれ。
規律を ないがしろにしなくとも……。太陽の英雄は潰える。
……ポメグラネト。
アレを光溜まりから引き上げるのだ。
試練の英雄には、再三の最後までは 機会が与えられる。 」
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラが、命令を下達すると 赤眼の巨怪が動き出す。
歪な片腕から延びる黒色の鞭で……。
先程 突き落とされたばかりの 死神のような黒色の鎧姿の存在を引き上げた。
…………。
死神のような存在は、意思が無い人形同然に 無感情な様子だが……。
一層にアルカナの光を吸収しているようだった。
時折 脈動するように、直立したまま 身体を揺らしている。
…………。
レトは、人間らしさが消えていく死神の姿に機嫌を良くした。
…………。
「 再三の機会ですかぁ……。
逆に言えば……。後 1回の敗北で 試練の英雄は、完全に失敗……。 ……ですよね ?
先に エスネトが復活出来たら ? 」
「 規定通りだ。 」
「 なら……。それなら……。
今度、ポメグラネトと 死神暫定とで 仕掛けても ? 」
「 規定通りだ。
汝……。水と土を回収するつもりか ? 」
…………。
黒翼の怪人は、静かに腕を組んだ。
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプトは、両手の人差し指を 緩く突き立てて……。
両腕の肘を L字に曲げると、中空に 適当な円を描くように 手首から先の方だけを 気だるそうに動かす。
…………。
穿った意味が有るのか無いのか……。
ドゥークラからの質問に返答をした。
…………。
「 まあ……。そんな感じでしょうか……。
ルールは護りつつ 残りのシーズンを楽しむだけですよ 俺僕私は……。フフフ……。
茶番でもニンゲンの ヒーローには戦ってもらわなくちゃ。 」
…………。
レトは、黒色の鎧の死神の方へと向き直って……。肩を何度も叩く。
死神のエヌ・ゼルプト……。エスネトの復活は近づいていた。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
悪魔のエヌ・ゼルプトが暴れ始めた日の翌日……。
早朝……。APCの特務棟……。
…………。
白衣の青年 天瀬十一(アマセ トオイチ)を、忙しくさせる。
…………。
たった 1日で積み重なった、軽視できない被害状況は……。
早急な対応が求められるものばかりだった。
…………。
……。
人的被害を出してしまった事実は腹立たしく、悲しみも尽きないが……。
ゆっくり感傷に浸ってられる程の余裕は無いように思えた。
現状の APCは、今以上の惨事を招きかねない理由が出来てしまったのだ。
…………。
というのも……。戦力面の低下が特に著しいからである。
レトによって、多数のデバイスやメンテナンス設備も破壊されていたのだ……。
戦える戦力が限られている。
…………。
現在稼働可能な 汎用型 及び 丸七型 レヴル・ロウは 合計 22人分。
内訳としては……。
小銃型武装デバイス R,R,G、小剣型武装デバイス L,L,E 共に同数の 11人分ずつである。
レトが猛威を振るった当時。
大代大が指揮する 彼誰五班の第二班 10人と……。
荒井一志が長を務める 第四班 10人は、特務棟の近隣を 二手に分かれて 警邏(けいら)していたのだが……。
これが幸運だった。
…………。
大代大と荒井一志の両班は、ポメグラネイトの出現後に……。
即座に対応を迫られるが、お陰で レトによる破壊工作の対象から 外れられたのだ。
…………。
その為、悪魔のエヌ・ゼルプトが行った、破壊工作の大部分は 当時稼働していなかった班が対象となった。
第一班、第三班の殆どの 汎用型 レヴル・ロウ起動端末は、破壊しつくされて……。
L,L,Eも……。R,R,Gにしても……。1人分ずつしか、こちらは残っていない。
…………。
他には、丸七型用……。小銃型武装デバイス R,R,Gが 2人分。
一六型用の 小剣型武装デバイス L,L,Eは 1人分……。
code-0-が 1人分。
…………。
今の状態で エヌ・ゼルプトが出現した場合、どうなるのかは火を見るよりも明らかだ。
青年 有馬要人は、伊世伝次をかばって 普段以上に怪我も多い。
code-0-DAATの 性能に頼るにしても、全力での戦いは出来ないだろう。
…………。
天瀬十一が、大代大、荒井一志と共に 前線に出るべきか……。
判断を急ぐ必要がある。
…………。
2つに 1つ……。
もしかしたら、既に選べる選択肢も無いのかもしれない……。
…………。
白衣の青年は、C.E.O代理の女性 仁科十希子(ニシナ トキコ)に相談を持ち掛ける。
半ば、事後承諾を仰ぐ 形だけの相談だった。
…………。
「 天瀬十一 入ります。
仁科 C.E.O代理……。人的被害の概算は出ました。
データの方は 後ほど ご覧ください。
急ぎの相談ですが……。
現存する 実動班の戦力は、大きく減退しています。
つきましては……。
次の戦闘処理は、私も前線に出て戦うつもりです。
承諾を お願い出来ますでしょうか。 」
「 否定するつもりは無いけど……。
ちゃんと休んでない顔ね。天瀬 君。
判断能力が散漫になっている。 」
…………。
事後承諾は 留保されてしまう。
天瀬十一の表情や、乾き気味の両目は それだけの背景を漂わせる……。
その行き急いだ様は 誰が見てもわかる濃淡で、止めずにはいられない。
…………。
自分だけが 気がついていないのか……。
白衣の青年は 不服そうだった。
…………。
「 ですが……。他に打開策は……。
それに、休んでいないのは お互いさまでは無いですか ? 」
「 決断を急いだら 必ず大きなヒューマンエラーを招く。
選択肢が限定されてしまったとしても、平静を無くしたら 意味が無い。
1時間でいいから……。
自分の部屋で仮眠でもしなさい。社長代理命令よ。
戦闘処理についての承諾は その後。 」
…………。
太陽も昇る前の 早朝……。
未明から僅かに過ぎたばかりで、東雲すらも見えない。
白んでいく前の静けさが、何かを含む暗闇の時間……。
水面下で交わされた短いやりとりだった。
…………。
天瀬十一が、自身のパソコンから ある手がかりを見つける瞬間まで……。
……後少し。
………………。
…………。
……。
~直観が向かう先へ~
実動班の待機室……。
室内の照明は消えており……。人の気配は微量だった。
待機室の中でも唯一の人物は、長椅子の上で横に成っている。
仰向けのまま、天井を ぼんやりと視界に入れて 何も考えてすらいない。
…………。
考えてすらいなくとも……。馴染みの人物達が すり抜けていく光景が目に焼き付いてた……。
…………。
青年 有馬要人は、全身の生傷の痛みで 今の自分の実力を実感する。
止血はされているが、幾つかの傷口は 力むと簡単に開いてしまいそうだ。
…………。
窓の外は少しだけ 白んでいる。
部屋の中が少しだけ明るくなったせいなのか……。
待機室の中で育っている 玉サボテンの緑色が判別できるように成っている。
…………。
確か……。伊世伝次が不慣れながらも面倒を見ていた。
…………。
薄暗い部屋の中で、隅の方に置かれている 1冊の本に目が移る。
多肉植物の手入れ入門書……。安価な値段の小さめな本だった。
伊世伝次が用意した物だろう。
…………。
考えなしに手に取って、中の頁をめくる……。
玉サボンの項目や、水やり、植え替え等の細部にわたって 付箋やマーカーペンで印がつけられていた。
水やりと植え替えの項目は、特に注意深く見ていたのか……。
他の頁よりも 少しだけ、開きやすく癖がついている。
…………。
……。
青年は、多肉植物の入門書を サボテンの近くに置いて……。
特務棟内の屋内運動場に向かった。
…………。
……。
軽く流す程度の 持久走を時間も気にせずに行う。
走りながら、脳みそに血流を送り込んで 思案する。
…………。
天瀬十一からは、気負わないように言われたが……。
仲間を信じないわけではないが……。
自分にしか出来ない事……。
今以上の被害は見過ごせない。
…………。
汗の粒が、一部で血を滲ませて 零れ落ちる。
シャワールームで 汗を流して、実動班の待機室の長椅子の上で再び横になった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
特務開発部の部長室……。
白衣の青年 天瀬十一が、1時間にも満たない程度の頃合いに目を覚ます。
自身の机に突っ伏している上体を起こした。
…………。
外には東雲が見え始めており 日差しが眩しい。
特務開発部内に設置されれている コーヒーメーカーで濃くて熱い珈琲を 1杯淹れる。
ココナッツ味と、スモモ味のカロリーバー型 プロティンレーションを 1本ずつ掴みとって口に運んだ。
…………。
簡単に栄養を取ると、自身のパソコンのディスプレイ上で ある発見をする。
…………。
……。
パソコンのディスプレイには、見慣れない 2つの新規データが展開されていたのだ。
1つは死神 -A-13-について……。
1つは アルバチャスですらない system。-JFC-の略称を持つようだ……。
…………。
死神は、神地データの方に……。-JFC-はカムナ・ボックス側の解析データに……。
それぞれが表示されている。
…………。
-Absolute-13-
(アブソリュート サーティーン)
太陽神を再臨させる 逆位置の死神……。
死神に相当するエヌ・ゼルプトを利用した 神地聖正の最後の切り札のようだ。
肉体を変えてでも 蘇る 狭域完全制御……。つまるところの、特定条件下での肉体の乗っ取りである。
…………。
対して……。カムナ・ボックス側の方には……。限られた情報だけが映し出されていた。
JUSTI-F0R-CE……。
(ジャスティフォース)
何かしらの情報の転送履歴が残っており、追跡をかけると……。転送先は……。
天瀬十一が持つ アルバチャスのデバイス……。code-16-の起動端末だった。
何かしらの systemが既に組み込まれているが、肝心の主要回路が未形成に成っている。
…………。
組み込まれていた それを起動したからか……。
code-16-の端末と カムナ・ボックス側の解析データの両方で、主要回路形成用の 記述ソフトが立ち上がった。
…………。
「 これは……。なんだ……。
アルバチャスとも異なる system ?
そんな物を……。
父さんが用意していたのか ?
にしても……。 」
…………。
カムナ・ボックス側の解析データに立ち上がった、-JFC-記述ソフト用の物だろうか……。
設計の叩き台に成る コードの記録は複雑で難度が高いのだと、直ぐに理解できた。
同時に……。
これが適用 可能なのは、死神 -A-13-が稼働していないデバイスだけのようだ。
…………。
……。
どうやら、神地聖正の保険として……。
code-7-と code-16-には、死神 -A-13-の起動用 systemが隠されていた可能性が高いらしい。
…………。
……。
どちらか片方の使用者が、死神のエヌ・ゼルプトの素体として片鱗を見せると 人知れず起動して……。
起動されなった方は、アルバチャスとしての能力が低下……。
もしくは、再起動を不可能にさせるらしい。
…………。
つまり、神地聖正と敵対した何者かの身体を乗っ取り……。
人格を書き換える systemが -A-13-であり……。
これが動作した時、敵対している可能性のある もう片方の余った方の保険を 動作不全させる。
…………。
完全に修復が済んでも、code-16- バベルが再起動出来なかった理由が、これだったのだろう。
…………。
-JFC-は、そんな状況下の アルバチャスを更に上から補強して、異なる systemで対抗する……。
天瀬慎一が どこまで見越していたのか 知りえないが、隠者の遺産が 白衣の青年を今一度 試す。
…………。
……。
天瀬十一は、即座に作業を始めるが……。
E-11 地区に 怪人エイオスが出現する。
…………。
パソコンのディスプレイの 3つ ある中での 1つを、件の映像に切り替えると……。
その様子は 白衣の青年を絶句させる。
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプト レト……。
赤眼の巨怪 ポメグラネイト……。
死神 -A-13-……。
ピップコートの数も多く……。ワンド・ナイト、ペンタクル・ペイジが合計 1000体以上はいるのだろうか……。
多くの脅威が無数に ひしめいていた。
………………。
…………。
……。
~〇の為のやせ我慢~
E-11 地区……。
…………。
上位型を起動した 愚者のアルバチャスが、次々と動作音を鳴らす。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Defender's Ability And Tactics !!
( ディフェンダーズ アビリティ アンド タクティクス !! ) 』
『 Extend !! Trick Ster ter !!
( エクステンド !! トリック・スター・ター !! ) 』
…………。
複数の ワンド・ナイトが 埋めつくす空に……。10人の愚者が飛び込む。
…………。
code-0-DAATは、引き延ばされた時間軸で 護符の恩恵を杖に かけ合わせており……。
杖に立ち乗りしたまま……。空を飛翔していた。
…………。
10機の戦闘機と、10人のエースパイロットによる ドッグファイトのように……。
空を埋めつくす ピップコート達の数を、瞬く間に減らしていく。
通常の時間軸からは 完全に全ての行動を 視認出来る戦いでは無かったが……。
鮮やかなまでに、ワンド・ナイトが爆散さしていった。
…………。
複数の機能を同時に使用している負荷もあり……。この光景は長くは続かない。
10人の愚者は……。
その全てが 多少の時間差こそ あれど、頃合いを見極めては行動を変えて消滅した。
…………。
B.A.Wandを中空で乗り捨てて、新たに武装機能を起動する。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
…………。
上空からの広範囲 高出力掃射だ。
…………。
DEF を切り替えている為、活動時間軸は 通常の時間に戻ってしまうが……。
射撃の直前に切り替えて、隙を最小限に留めてからの 一手である。
…………。
10人の愚者の中でも……。
高度の低い何人かは、地上の ペンタクル・ペイジを巻き込める方角を見極めて発砲した。
…………。
上空と地上の各所で、青白い光りが爆散していく。
愚者の分身が 10人分 消え去ると、ピップコートの数は 5割近くは減ったのだろうか……。
まだまだ、数は多く……。大物も残っている。
…………。
地上の ペンタクル・ペイジの合間を、何者かが ホバー機能で疾駆した。
すれ違い様には、杖型武装 B.A.Wandを振り回し……。
棒術の打撃と 杖の先端からの火球を見舞い、道中のピップコートを 爆散させて進む。
…………。
怪人達が 蠢く 戦地をくまなく探し……。
何者かが……。目当ての存在の近くに辿り着いた。
…………。
青年 有馬要人は、目の前の 言葉を話せる方の相手に 宣戦布告を叩きつける……。
…………。
「 見つけたぞ。界……。 」
…………。
暗色と藤色が目立つ 変異したレヴル・ロウ……。当人が名付けた名は……。
レヴル・ウィステリア……。悪魔のエヌ・ゼルプト レトが 凶悪な惨事を呼び込む姿である。
隣には、戦馬車のアルバチャスが 丹内空護の肉体 諸共 巻き込んで変異した存在も立っていた。
黒色の鎧と赤色の刃を特徴に持つ……。蝕む鎧の死神……。
死神は 何かに拘束されている訳では無いが、自発的に動くような そぶりは無い。
…………。
悪魔は、喜びの感情を表しているのか……。両手を広げて……。
過剰に明るく、声は冷たく淡々と話す。
…………。
「 有馬五班長 !……そうです。俺ボクの名前は恵花界でした。
……現在進行形にしますか ?
それとも、藤崎悳(フジサキ イサオ)の息子として……。
恵花実(エハナ ミノリ)の息子として……。
可哀そうで格好いい 大義名分を持った ダークヒーローぶっても…… ?
……良いんですかね ?
成り行きは 違いますが、丹内空護も……。
今の ボク私のように、エヌ・ゼルプトに変異する。
仲間が増えるのは良い事です。 」
「 黙れ……。
俺が そうはさせない。 」
「 ムリだと思いますよ ?
レッドコートとは違う……。
エヌ・ゼルプトをニンゲンに戻すなんて不可能なんです。
俺ボクも、この死神も……。マルクトと一体化しつつある。
アポロダイスとなった、神地聖正 以上にね。
常に供給され続けるアルカナは、エヌ・ゼルプトにとっては……。
例えば そう、極上の御馳走だ。
英雄のマルクトですらない 有馬五班長の DAATなんて焼け石にミミズでしょ。
干からびて終わり……。美味しそ……。 」
…………。
レトの声と言葉が途中で途切れた。
愚者のアルバチャスが、引き延ばされた時間軸に活動域を移して……。
即座にスラーローム移動による、回し蹴りを叩き込んだのだ。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプト……。レヴル・ウィステリアの頭部に強烈な一撃が入る。
回し蹴りの後には、下腹部を目掛けて 中断蹴りが放たれた。
引き延ばされた時間軸での 重い二発の蹴りである。
…………。
青年 有馬要人は、二発の蹴りを繰り出した後に……。
DEF 月の恩恵を解除した。
…………。
「 黙れと……。俺は言ったんだ。レト !! 」
「 嗚呼……。有馬五班長の憤慨は……。
ちょっとだけ、レアリティ高いですね。
……けど。ムリしてるでしょう ?
こっちは数の有利が有るんですよ ?
ポメグラネイトも そろそろ、特務棟の近くに現れる頃ですし……。
土も水も、マルクトは ボク私が貰う。
エスネトが復活するまでに……。英雄が完全に消滅する前に……。コレクトしたい。
それが……。俺ボク私のゲームだ。 」
…………。
愚者のアルバチャスは、いつになく静かに 拳を硬くした。
…………。
死神が幽かに 動き出す。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
有馬要人が、単身で 悪魔のエヌ・ゼルプトと相対しているのと同じくして……。
大代大と荒井一志もまた……。
第二班と 第四班を統率して ポメグラネイトとの戦いを白熱させる。
交戦ケ所は 特務棟からも近い……。E 地区と、A 地区の境界の辺りであった。
…………。
赤眼の巨怪 ポメグラネイトは……。
丸七型 2人が伴っていても、レヴル・ロウが対処するには手強い。
歪な片腕に備えられた刺突武器からの 光の短槍の乱射も……。
闇色の触手のような幾本にも枝分かれした鞭も……。
広い範囲に影響を及ぼす。
…………。
彼誰五班が 集団での陣形を交えた戦いを仕掛けても、ものともしない。
むしろ……。
光の短槍にしても、闇色の鞭の 一振りにしても……。
一撃でも被弾してしまえば、戦線を崩されかねないような破壊力を見せつけているのだ。
雑多な行動で、強引な攻勢には出られない。
…………。
……。
天瀬十一は……。
特務開発部の 部長室のパソコンのディスプレイから 現在の戦況を俯瞰的に汲み取る。
ポメグラネイトとの交戦区域は……。特務棟からも近い。
…………。
直ぐにでも 加わるべきか……。
…………。
思うように捗らない、目の前の工程に……。
焦りと……。判断の選びなおしが、常にチラつく。
あらゆる想定を頭の中に残し……。
選択肢の 1つとして、室内には ある物を用意していた。
一六型用の 小剣型武装 L,L,Eだ……。
緊急時には、マルクトを組み込んだ自分専用の端末回路を組み込むだけで いつでも出られる。
…………。
「 ……-JFC-の構築までには、まだ時間が要る。
けど……。間に合わないか……。 」
…………。
白衣の青年は、気がつかない間に 心の内を溢れさせた。
いよいよ……。今行っている構築作業を中断しようと……。指が止まりそうになる……。
…………。
部長室の扉を開けて何者かが、部屋の中に入ってきたのは この直後の事だ。
その人物は……。ショートヘアが似合う……。現在の APCを最上部で取りまとめる人物……。
C.E.O代理……。仁科十希子である。
…………。
「 先程……。打開策の可能性については 内線で共有を受けたわね。
まだ、時間は必要なんでしょう ?
天瀬 君。貴方は まだ戦地に出るべきではない。
ポメグラネイトの方は、私が加勢します。 」
「 仁科 C.E.O代理…… !?
起動用の回路は……。ご自分で ? 」
「 指も脳ミソも止めないで。
天瀬 君が、構築している systemの起動には……。
レヴル・ロウの武装は必要ない……。そういう内容だったわね ?
万が一に備えて……。
一六型の改良案から、有用なデータを拾い上げて改良したの。
貴方が使ってた L.L.E を使わせてもらう。
30分は確実に持たせるから、その間に完成させなさい。
大丈夫……。貴方なら きっと出来る。 」
「 ……わかりました。15分だけ持たせてください。
必ず成し遂げます。 」
…………。
仁科十希子は……。既存の端末回路とは異なるデバイスを握っており……。
一六型用 唯一の L,L,Eを、持ち出した。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
C.E.O代理の女性は、特務用通路に到着すると……。
一六型用の 小剣型武装 L,L,Eに、あらかじめ用意した起動用の回路を組み込んだ。
ロックを解錠して、一六型改を起動させる。
…………。
「 ……起動 ! 」
『 Rebel Law !! -16-Custom !!
( レヴル・ロウ !! シックスティーン カスタム !! ) 』
『 T Plus !! Function !!
( ティー プラス !! ファンクション !! ) 』
…………。
塔のアルバチャスに酷似した 小ぶりな補助アームを携えた レヴル・ロウだった……。
仁科十希子は、L.L.Eを握っていない方の片手で、滑走機能を起動する。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
細身の塔が、赤眼の巨怪を目指して疾走した。
…………。
E 地区への出入り口にも繋がる車道を駆け抜けて……。
C.E.O代理が戦線に加わる。
継続戦闘時間が限られている変わりに、丸七型よりも耐久性が高く……。
小型とはいえ 補助アームと、手持ちの 小剣型武装デバイスによって近接戦闘での適性が高い。
…………。
「 C.E.O代理 仁科です……。
これより、この区域での戦いの陣頭指揮を引き受けます。
丸七型の 2名は、ポメグラネイトとの交戦に注力してください。 」
…………。
白色の塔が 補助アームによって、ペンタクル・ペイジを殴り飛ばす。
正面側の相手には、順手持ちにした小剣で 鋭い刺突を繰り出した。
同時に 2体のペンタクル・ペイジが 爆散する。
…………。
思わぬ援軍に、大代大が驚きの声を上げた。
…………。
「 天瀬 さん……。じゃないな……。
仁科 C.E.O代理 ?
僕ら みたいに戦いの場に出なくても……。危険ですよ ? 」
「 私は、切り札が来るまでの 時間稼ぎの念押しです。
これ以上……。人的損害も出させない為の 一押しをしに来ました。
私の一六型は、活動時間が限られていますが、
情報面の補助と ピップコートの処理なら出来ます。 」
…………。
仁科十希子は、突発的な戦況の変化によって 発生した混乱の波を鎮めようと試みる。
大代大への応答を返すと、会話の流れを維持したままに……。
荒井一志にも、再度 呼びかけた。
…………。
「 ですので……。
丸七型の 2名は、ポメグラネイトの方を お願いします。 」
「 承知 致しました。
自分と 大代 二班長で 攻勢に出ます。 」
…………。
温和な青年 大代大と……。
生真面目な青年 荒井一志は……。
小銃型武装デバイス R.R.Gを落ち着き払って構えなおす。
…………。
白色の塔からの 情報面での補佐が、僅かに戦況を変えたのだった。
………………。
…………。
……。
~終局での再スタート~
E 地区と A 地区を結ぶ車道の上で……。
2人の丸七型が、赤眼の巨怪 ポメグラネトを相手に奮闘していた。
…………。
丸七型は、大代大と 荒井一志だったが……。所持している武装は……。
どちらとも 小銃型武装デバイス R.R.Gであり、射撃と打撃による戦いが組み立てられている。
R.R.Gの大技に該当する 炸裂弾は、既に 4発は撃ち込んでいるのだが……。
巨大な翼での防御や、歪な武器での反撃によって 防がれてしまい、直撃させられては いない。
…………。
……。
周囲を跋扈する数えきれないペンタクル・ペイジは……。
第二班と第四班 合一編成の 20人のレヴル・ロウによって、各個撃破が計られている。
合一班の指揮系統は、仁科十希子によるものだ。
約 10分以上前に 現着した、白色の塔を思わせる一六型を操り……。
戦況の判断と、白兵戦の両方を器用にこなしている。
…………。
ポメグラネトの挙動には 微細な変化も無く……。
歪な片腕の刺突武器を用いた、重量のある横薙ぎや振り下ろし……。
鋭い突きと、その直後に放たれる光の短槍に隙は無く、2人がかりでも 手こずらせる。
…………。
……。
仁科十希子、大代大、荒井一志の 3人は膠着(こうちゃく)している現状に……。
大なり小なりの焦りを感じていた。
…………。
こんな状況でも 新たな変化が起こる。
…………。
奮起する 3人が視認出来る距離に……。5つの影が近づく……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
少しばかり前の事だ……。
E-11 地区では……。
DAATを起動している 愚者のアルバチャス……。有馬要人が、死神と悪魔を相手に……。
3 対 2 の戦いを行っていた。
…………。
青年は 昨日からの怪我と……。
この日の戦いの早々の猛襲が原因で 消耗していたが、何度も死線を潜り続ける。
…………。
この時も例外ではない。
DAAT 星の恩恵によって 質量の有る分身を作り出すと……。
分身の全てを 死神の相手に向かわせて……。自分自身は 悪魔のエヌ・ゼルプトと直接 向き合った。
…………。
……。
死神は よどみなく優勢に戦っている。
DAATによって作り出した 分身とはいえども、身体能力に遜色のない愚者の 2人を相手にである。
実を言うと 当初の分身の数は、3人で……。愚者の青年達が 優勢になっても変ではない筈なのだ。
乱戦は続いたが、分身の 1人が途中で仕留められてしまった……。
…………。
青年 有馬要人 本人は、悪魔のエヌ・ゼルプトが駆る レヴル・ウィステリアと単身で戦い続けていたが……。
連戦や怪我による 体力と集中力の摩耗は、軽んじられない段階に入っている。
刀剣型武装 B.A.Swordと、拳銃型武装 B.A.Cupの両方を扱い……。
悪魔 レトの得意とする 小剣型武装デバイス L.L.Eと、複数の触腕から繰り出される猛襲に対抗する。
…………。
……。
レトの動きは軽くて 素早い。
…………。
変異した L.L.Eの影響範囲は狭いが、その分素早く……。
背面から伸びている枝か 脚のような触腕も、狡猾に 抜け目のない間隙から攻撃を仕掛けてくる。
…………。
火のマルクトによる影響か、元来のものなのか……。
触腕の先端からは、小規模でも高熱の火球を打ち出せるようだ。
単純な刺突武器としても、死角からの攻撃を防ぐ 篭手としても取りまわしている。
…………。
……。
愚者のアルバチャスが得意な蹴りには、わざとらしく同じ挙動を鏡返しに ぶつけてくる。
…………。
青年 有馬要人は……。
かつての仲間と、悪魔のエヌ・ゼルプトを この場から 離さないだけでも 精一杯だった。
…………。
死闘が どれ程 続くのか 目算を立てる余裕も無い……。
譲る訳にはいかない 限界点に立っているのだ。
…………。
……。
これを覆したのは……。悪魔のエヌ・ゼルプト……。レトだった。
…………。
「 有馬五班長ぉ……。
悪魔のエヌ・ゼルプトの固有能力……。知ってますか ?
……完全なる擬態です。 」
…………。
愚者のアルバチャス……。有馬要人が、無言で応答する。
B.A.Cupで至近距離射撃を撃ち込んだのだ。
瞬時に B.A.Swordを振るって、斜め下から 上方に向けて切り上げを繰り出した。
…………。
……。
レトは、後方に倒れ込むように 銃撃も一閃も回避してみせる。
実際に片足だけを曲げて倒れ込んでいたようで……。
その勢いを利用した蹴り上げを、もう片方の脚で繰り出す。
…………。
青年が握る刀剣型武装は弾き飛ばされてしまう。
…………。
悪魔のエヌ・ゼルプトは 背面に倒れ込んだ途中で、自身の身体を背面から延びる触腕で支える。
仰向けのまま……。触腕で歩き……。
一定の距離を取った後に、人間離れした迅速な挙動で直立しなおす。
…………。
「 俺ボクは 親切ですよ ?
有馬五班長って本当に、容赦なくて えげつない攻撃しますよね。
けど お陰で、面白い遊びを思いつきました。
ボク私も、やってみます。
感想 楽しみにしてますよ ?
コレの名前はどうしよう……。んん……。そうだ !
deviL Trick Ster……。
( デヴィル・トリック・スター )
この世界の悪魔の象徴……。逆五芒星です……。 」
…………。
レトが 何かしらを発動させた……。すると……。
悪魔のエヌ・ゼルプト……。レヴル・ウィステリアは、6体の分身を作り出す。
悪魔が作り出した 3体の分身は……。愚者のアルバチャスの前に立ちはだかった。
…………。
「 擬態が 悪魔の能力なんですよ……。
完全なる擬態は……。
いつになったら復活できるか わからないタイムカプセル。
デメリットも大きい。
今 不完全な擬態をしました。
ようは……。有馬五班長のアルバチャスの真似をしてみたんです。
出来るかどうか わからなかったけど出来た !!
きっと、英雄のマルクトが ワタシ僕の能力を高めてくれた お陰でしょう。
面白いでしょう ?
まだまだ、増やせそうだ……。安心してください。
大多数はここに残します。
余った分だけ、ポメグラネトの お手伝いに向かわせますから。 」
…………。
レヴル・ウィステリアは、黄色のアルカナの光を煌めかせる……。
15体まで増えた悪魔の分身は……。
10体の分身を残して、残りの 5体は ポメグラネトの元へと向かった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
E 地区と A 地区の狭間の車道では……。
赤眼の巨怪 ポメグラネトと、未だに尽きる様子も見えない ペンタクル・ペイジが猛威を振るっている。
…………。
多数の怪人への脅威に対抗する 20人のレヴル・ロウと……。
2人の丸七型……。大代大に荒井一志……。そして……。
白色の塔のレヴル・ロウ……。仁科十希子だったが……。新たに現れた 5つの影が戦況を傾けてしまう。
…………。
影とは、5体の レヴル・ウィステリアである。
この場で戦う 23人にとっては、誰も予想していなかっただろう……。
…………。
5体の悪魔による介入は 1分も経過しないうちに、戦線の崩れた防戦へと変化させていく。
悪魔は、それぞれが 気ままに動き回っているだけなのだが……。
マルクトを持たない systemにとっては 余りある脅威だった。
…………。
「 特務の皆 !ごきげんよう !増える悪魔だよ !
俺ボクが ここに来れたって事は…… ?
そっ !有馬五班長は どうなってるかな ?
戦馬車のアルバチャスの次は……。愚者かな ? 」
…………。
ふらふらと、おぼつかない足取りで……。
5体の中でも、3体のレヴル・ウィステリアが呼びかける。
大げさに 両手を広げて……。
丸七型や 一六型を使用している人物達に 心を込めて囁くようだった。
…………。
荒井一志の丸七型が、R.R.Gによって打撃を叩き込むと、数体のペンタクル・ペイジが爆散する。
…………。
「 自分は 有馬さん が どんな人なのか、知っているつもりです。
どうもこうも無い……。きっと今だって戦っている。
自分達の戦意を削ごうとしても無駄ですよ。……レト ! 」
「 一志ぃ……。本名を読んでくれて ありがとう。
嬉しいな。
けど……。伝次みたいに 界って呼んでも良いんだぞ ? ボク私との中だろう ? 」
「 自分は まだ悲しさを実感できない。
あっけない形で親友を 2人も失ってしまったというのに……。
ですが、間違いでした。
最初から伝次が心身をかけて育もうとした友情は届いていなかったんです。
悪魔のエヌ・ゼルプト……。自分は お前を軽蔑します。 」
…………。
生真面目な青年 荒井一志の、憤りを表すように……。
悪魔のエヌ・ゼルプトには、R.R.Gの銃口が向けられる。
…………。
大代大は、蹴りも交えた格闘戦と 定点射撃を組み合わせて ペンタクル・ペイジを爆散させた。
…………。
「 悪魔のエヌ・ゼルプトか……。
こんなにも、恵花 君でしかない声だなんてね。
僕も、伊世 君じゃないけど調子が狂いそうだ……。 」
「 大代さぁん。僕ですよ ?私ですよ ?俺ボクは恵花界です。
今も、貴方に学んだ俯瞰的な状況判断は活き活きしてます。
嗚呼。美しい師弟愛……。
弟子側からの気持ちに Re くださいよ。 」
「 悲しいね。
僕が知ってる 恵花界は……。既にいないのか。
木田さん達の無念は、僕が晴らさないとな。 」
…………。
温和な青年 大代大は渦巻く情動を体現しているのか……。
悪魔のエヌ・ゼルプトを しっかりと見据える。
…………。
レトは……。理解に苦しんでいるのか……。
はたまた、異なる別の何かしらが あるのか……。
まるで、腑に落ちていない心情を公言すると、別の もう 1人に声をかけた。
…………。
「 ニンゲンのくせに……。大きな口を叩くんだね。
だって 丸七型は、英雄のマルクトの贋作の贋作だぁ……。
英雄のマルクトは、俺ボクと一体化している 究極の結晶さ。
エヌ・ゼルプトを相手に、頭数でも負けてたら……。
何で勝てるんだい ?
代理の年増さん なら……。
私オレの言葉の意味 ご理解ですよねぇ ? 」
…………。
聞き心地の良くない言葉も混じっている。
同意を求めるような口ぶりでも、言葉選びが適切ではない……。
…………。
「 アレ ?聞こえなかったのかな ?
代理役の……。年増オバさん ?聞こえてます ?
ていうか……。始めてみる systemだ。戦えたんですねぇ ? 」
…………。
ひたすらに疑問符を織り込んだ言葉を投げたが、反応は無い。
…………。
やたらと、飛び込んで来る言葉の数々に……。
ようやくの反応を、ある人物が見せた。
白色の塔 仁科十希子は、補助アームと 小剣 L.L.Eで……。
複数のペンタクル・ペイジを爆散させてから 応対する。
…………。
「 私に……。今……。話しかけていたのですか ?
いけませんね。
人と話をする時は……。相手の名前を きちんと呼ばなくては。 」
「 かしこまり。了解です。
お名前なんでしたっけ ?オバサン。 」
「 生憎ですが……。
有象無象に名乗る名前は 持ち合わせていません。 」
…………。
荒井一志も……。大代大も……。
仁科十希子でさえも、悪魔と考えを交わらせる筈も無かったのだ。
それどころか、20人のレヴル・ロウですらも、レヴル・ウィステリアには敵意を向ける。
…………。
5人の悪魔は いつの間にか、レヴル・ロウを取り囲むように布陣しており……。
ポメグラネトやペンタクル・ペイジらと共に、立ち並んでいた。
…………。
「 ……へえ。
あわよくば、新しいレッドコートでも作って あげようと思ったんだ。
素養はあるからね。接ぎ木してあげたかった。
ニンゲンのまま殺すのは、僕が大好きな奴だけにしたいから……。
君達は ポメグラネトにやってもらおう。
オレ僕は お手伝いだ。仕方がないね。 」
…………。
どういった感情で 提案していたのか……。
どういった考えの物差しで吐露していたのか……。
共感しえない言葉だった。
漂う 不気味さは増して……。気持ちは言葉の強さに合わせて高まっているらしい。
…………。
「 さあ、殺るよ。ポメグラネト !
5人の名付け親と共に お片付けをしよう……。遊びは もう終わりだ……。 」
…………。
レヴル・ロウを取り囲む、怪人達が その 1歩を踏み出そうとすると……。
突如 淡い群青色の 稲光が光った。
…………。
何があったのか……。ペンタクル・ペイジは複数体が爆発して消えさる。
ポメグラネトも吹き飛ばされ……。
誰しもが見慣れない 何者かが……。現れていた。
…………。
何者かの声は、白衣の青年 天瀬十一である。
…………。
「 その通りだ。
悪魔のエヌ・ゼルプト……。 」
「 ……はぁ ?
この……力は……。……極光の……。 」
…………。
白群色の雷鳴が……。5体の悪魔にも 既に浴びせられていたらしく……。
電荷の余剰分が、大気中に はみ出して 音を鳴らした。
悪魔の分身は 5体全てが 消え失せてしまう。
…………。
天瀬十一の声を発っする存在は、頭部にライオンの意匠を持ち……。
胴体には赤い鎧……。各所には黄金の装甲を……。
両肩には 塔のアルバチャスを連想させる特徴が目立つ。
…………。
両腕の周りには 白群色の雷が輝いていた。
片手には、身の丈以上の 諸刃の大剣が 軽々と握られている……。
…………。
「 皆……。今まで ありがとう。
俺が アイツを引き受ける。 」
「 天瀬 君……。それが新しい貴方の力……。
JUSTI-F0R-CE ……。
( ジャスティフォース )
正義と力を体現する……。残された切り札。 」
「 仁科さん……。
お陰様で 形に出来ました。
本当に ありがとうございます。
これから この場を納めて、有馬 君の救援にも向かいます。
ですので……。後は任せてください。 」
…………。
白衣の青年は、これまでの感謝の気持ちを伝えたのだろう。
…………。
白色の塔を駆る女性も、満更でもないように提案を受け入れた。
…………。
「 貴方の判断と実力を信じましょう。
レヴル・ロウの何人かを借りて、下がります。頼むわね。 」
…………。
いつの間にか確保されていた、特務棟に続く 撤退用の動線を……。
仁科十希子の 一六型と 4人のレヴル・ロウが、ホバー滑走で走り抜ける。
…………。
吹き飛ばされたばかりの 赤眼の巨怪が、静かに起き上がり……。
撤退していく人影の方を向いた。
ペンタクル・ペイジは、今も 多くの数を残している。
…………。
ライオンの意匠を持つ戦士は……。ポメグラネトの正面に立ちはだかった。
天瀬十一が、諸刃の大剣を両手で握り 身構える。
…………。
「 大代 さん……。荒井 君……。
この辺の ペンタクル・ペイジは残り……。約200体……。 」
…………。
彼誰五班の副指揮長が、周囲の怪人の数を洗いなおす。
…………。
丸七型の 2人は、白衣の青年が 言わんとしている内容を 汲み取っているようだ。
…………。
大代大が 短めな言葉で、直近に班単位で行う 職務を口にすると……。
荒井一志も 同様の内容を、意思表示として 表明する。
…………。
「 第二班の総力で……。
左側の 100体程は引き受けます。 」
「 自分達 第四班は 右側ですね……。
100体程度 問題ないでしょう。 」
…………。
天瀬十一……。大代大……。荒井一志……。
この場で戦う 3人の統率者が、方針を すり合わせ終えた。
…………。
第二班と第四班の レヴル・ロウ達も、意図を飲み込んで……。
各々の班長の、初動に注目する。
…………。
ポメグラネトは……。おもむろに、刺突武器のような片腕を前方に向けて……。
正面に立ってる、-JFC-に光の短槍を 撃ち込もうとしているようだった。
…………。
天瀬十一が、全体の意思を確認し、ある準備を行き渡らせると……。
一斉攻撃の合図を出す。
…………。
「 ありがとう 皆 !
俺は 今からポメグラネトを仕留める。
その後は、有馬 君の救援と 近郊の哨戒に それぞれの行動は分けてある……。
詳細のオペレーション案は 各員に転送済みだ。
総員の健闘を祈る !!掛かれ ! 」
…………。
第二班と第四班は、大代大と荒井一志に牽引されて……。
左右のペンタクル・ペイジの群れに飛び込んでいく。
光弾が飛び交い……。光の刃での大技の動作音も 幾度となく 鳴り始めた。
…………。
……。
赤眼の巨怪 ポメグラネトは、無言のまま 光の短槍を 散弾のように 放ち続ける。
…………。
赤い鎧の戦士 天瀬十一の元にも、散弾のような光の短槍が飛来するが……。
赤色の大剣を 振るって、中空に ×印を描くように 極光の衝撃波を放った。
…………。
衝撃波は、光の短槍を 霧散させたまま 飛んでいき……。ポメグラネトに命中する。
…………。
赤眼の巨怪は、この衝撃波から身を護ろうとしたのか……。
いつものように、5枚の大きな片翼を盾の代わり正面へと回り込ませているが、始めて後ずさりをした。
…………。
天瀬十一は、この瞬間を見逃さない。
自身の腰部側面の ある機能の武装センサーに触れて……。
滑走機能と、大剣の出力を高める機能を同時に動作させた。
…………。
「 -JFC-に備えられた 2つの必殺技の 1つを……。使う !! 」
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Extend !! Force of Bastard !!
( エクステンド !! フォース オブ バスタード !! ) 』
…………。
ライオンの意匠を持つ戦士が ホバー機能と、別の何かを起動した。
腰を落として、身構えたまま 滑走し……。
両手で保持する 諸刃の大剣を……。一本背負いのような流れからの袈裟斬りで振り下ろす。
…………。
-JFC-が、赤眼の巨怪に接近するまでの合間に……。
赤色の大剣には、並々ならぬ量の アルカナの光が充填されていたようだ。
…………。
白群色の雷が、一閃の軌道を 短時間だけ可視化させた……。
結果が出るまでには、それほどの時間を要しない。
ポメグラネトを 真っ二つに両断され……。天瀬十一の背後で 爆散する。
…………。
……。
程なくして……。
周囲のペンタクル・ペイジの掃討も終えると……。
白衣の青年は、有馬要人の救援に向かおうと 動き出すが……。
ニューヒキダ全域から、エイオスの気配は消え去ってしまう。
…………。
ポメグラネトが打倒された気配を察したのだろうか……。
悪魔も死神も 姿をくらましてしまった らしい。
…………。
……。
有馬要人は、怪我の影響も大きい中……。
只の 1人で、死神や 分身も含めた 10体の悪魔と 渡り合っていたのだ。
白衣の青年 天瀬十一らと合流を果たすまで、膝もつかずに戦い抜いていた……。
…………。
無事に合流が済むと……。
天瀬十一によって、早急に医療班の元へと搬送される。
…………。
昨日と この日の間で……。
悪魔の出現と……。死神の兆しに……。暗雲が漂い始めるが……。
1つの揺るがない 正義の為の極光の力が、それらと にらみ合い……。咆哮を上げたのだ。
…………。
全てが、次の局面へと 向かっていた……。
………………。
…………。
……。
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