- 28話 -
体力無限大の節理
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目次
~援軍と~
N-06 地区……。
度重なる戦いの後が残る地区……。
赤眼の巨怪……。ポメグラネイト……。
赤熱するピップコート……。レッドコート種のソード・キング……。
2体の強敵を相手に、戦馬車のアルバチャス 丹内空護(タンナイ クウゴ)が奮闘するが……。
過去の心残りが原因なのか、度重なる 幻覚や幻聴によって 戦闘中にも関わらず 隙を作り、
2体の強敵からの 攻撃を 避けそこねてしまう。
…………。
ホバー滑走で、次の状況に備えるが 脇腹の辺りからは 血が流れていた……。
レッドコート種……。RCソード・キングが扱う 長剣から伸びた 炎の牙突を受けた 傷口が痛む。
形勢逆転を狙うにしても、心身共に万全ではない……。
…………。
最大の切り札に該当する DEFも、先程までの幻聴や幻覚を 連想してしまい 気が引けてしまう。
先程の幻聴が記憶として思い起こされた。
…………。
「 全てを……。貴方が殺してください。
この世界の平和の象徴……。戦馬車のアルバチャス……。 」
…………。
幻聴と知っていても……。夢川結衣(ユメカワ ユイ)の声が あらゆる行動を鈍らせる。
とても無感情な声だった。
…………。
自身の状態は 二の次にしなくては……。他の地区への負担が増えてしまう。
たった数秒の 思案の最中でも 2体の強敵からの攻撃は激しく……。
ホバー滑走による 回避も、戦馬車 code-7-の片腕に付属している 盾での防御も怠る暇はない。
DEF は使わずとも 標準武装の バラージ・アームドを起動すれば……。
…………。
……。
確実に判断能力が乱れていた。
原因は、外傷からくる焦りなのか……。何度も悩まされる幻によるものなのか……。
戦馬車のアルバチャスは、普段通りの 戦いを 手放していた。
そして、攻める姿勢を後ろ倒しにした しっぺ返しが迫ってくる。
…………。
……。
赤眼の巨怪……。ポメグラネイトの片腕から……。光の短槍が 発射された。
…………。
……。
光の短槍が、戦馬車のアルバチャスに届きそうな目前で……。
何者かが放った 小銃型武装デバイス R,R,Gによる 炸裂弾が 相殺させる。
…………。
「 丹内 総指揮長 !!……危ない !! 」
『 Rebel Function !! Pentacle !!
( レヴル ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
何者かが、ホバー滑走で 戦馬車のアルバチャスに接近した。
丸七型……。小銃型武装デバイス R,R,Gを携行した、彼誰五班の 現在の班長ではない人物……。
丹内空護も この何者かに気がついて、自身の気の緩みを 引き締めなおす。
…………。
「 恵花 ?どうしてここに ? 」
「 有馬さんの 変わりに来ました。僕も ここで戦います。 」
…………。
丹内空護の加勢に現れたのは、恵花界(エハナ カイ)だった。
激しさを増す 戦いの中に 1人の青年が加わる。
ポメグラネイトと RCソード・キングの攻撃を 各々に対処しつつも、少しずつ時間は流れる。
code-7-にしても、丸七型にしても ホバー滑走での回避行動は怠らない。
…………。
戦馬車の青年に とっては 加勢はありがたいが……。ある 気がかりな事が思い浮かぶ。
…………。
「 有馬の変わりだと ?
L-05 での戦いはどうした ?
ここの 2体は、丸七型が連戦 出来る 相手ではないぞ。 」
「 大丈夫です。
僕の丸七型は まだまだ、戦えますから ! 」
「 一度は補給を済ませてきたのか。
気をつけろよ 恵花……。無駄弾を撃てば、丸七型には痛手だ。 」
「 ……はい。 」
…………。
丹内空護は、即座に浮かんだ 心配事を確認した。
杞憂だったようで、今後 起こりかねない問題だけを念押しに沿える。
単独での戦いから解放されたせいか……。少しばかり 普段通りの頭の冴えが戻ったような気がした。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
「 恵花……。感謝する。 」
…………。
戦馬車のアルバチャスが、自身の両手に 使い慣れた武器を握りなおした。
B.A.Cupでは 銃射撃を、B.A.Swordでは剣撃を……。
丹内空護の得意な 2種類の武装を起点にして、反撃に移ろうと 動き出す その時……。
…………。
無数の火球と共に、別の来訪者が到着する。
…………。
……。
来訪者の片手に握られているのは B.A.Cupだった……。
外見は 赤色が目立つ アルバチャスである。
背面には、太陽を彷彿とさせる円環型の ジェネレーターが目立っていた。
かつては 英雄としての顔を持っていた人物であり、APCの 元 C.E.O……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)……。
…………。
太陽のアルバチャス code-19-は、何を目的にしているのか 広範囲に火球を発射し、戦線に混ざり込む。
大量の火球には、ポメグラネイトも RCソード・キングも 防戦の姿勢を取っているようだ。
…………。
「 やあ。君達……。太陽の降臨だ。
私が誰か……忘れていないだろう ? 」
…………。
無数の火球によって土埃が 灰燼となって 煙幕のように舞い上がる。
舞い上がった煙幕が 落ち着くと……。
先程まで確かに存在していた 2体のエイオスは姿をくらませていた。
…………。
神地聖正の存在に 強く反応を示したのは、丹内空護ではなかった。
…………。
「 神地聖正……。
……貴方は何故。こんなにも 奔放にしているんだ !! 」
「 んん ?
君は……。太陽神である 私に、何を言いたいのかな ? 」
「 僕が、実動班を志したのは……。神地聖正……。
貴方が名実共に、何が何でも 英雄として在り続けてもらう為でした。
偶像の英雄でも この街には必要な顔だったのに !! 」
…………。
如実に 感情が波立ったのは、恵花界である。
鬱積した感情が爆発したのか、並々ならぬ怒気が混じっていた。
…………。
丹内空護が、感情を逆立てる青年の 意図を引き出そうと試みる。
…………。
「 どういう事だ…… ?恵花……。 」
…………。
太陽のアルバチャスは、荒ぶり始める感情の 矛先に成っている原因に心当たりが有るのか無いのか……。
B.A.Cupを握っている方の腕を 銃口が下に向くように、だらり と降ろす。
反対側の掌は腰に当てて……。呆れたような様相で 一応は出方を伺っているようだった。
…………。
恵花界の感情は、これによって更に燃え上がる。
小銃型武装デバイス R,R,Gの銃口を、太陽のアルバチャスに向けると、言葉の勢いすらも増していく。
…………。
「 神地聖正は英雄でなければ ならなかった !!父と母の死に意味を持たせる為に…… !!
なのに !!どうして、それを揺るがすような 手段ばかりを 取ったんだ !! 」
「 そうか……。
……お前も 可愛そうな奴なのか ?江原 君……。だったかな ? 」
…………。
事情の全ては、まだまだ見えないが……。
太陽のアルバチャスが、わざとらしく 恵花界の名前を間違えて見せた。綺麗な発音で名前を間違える……。
丸七型からの 銃撃が数発 飛び……。小銃型武装デバイス R,R,Gを使用して打撃が繰り出された。
太陽からしてみれば、肩慣らしにも成らないのか 簡単に 流される……。
…………。
「 僕の名前は……。恵花界……。
旧姓で 言えば、藤崎界(フジサキ カイ)だ。
両親は この街の復興を願って、離婚しました。
父が ある仕事に全身全霊で挑む為に……。
僕の父の名前は……。藤崎悳(フジサキ イサオ)……。
忘れたなんて 言わせない !!
神地聖正…… !!貴方が この街で英雄で ある為に 支え続けた人物の名前だ !! 」
…………。
恵花界の 中に潜んでいた 戦いの理由が 語られる。
…………。
……。
実動班の旧 班長……。それが恵花界の実父だったのだ。
まだ、丹内七郎太(タンナイ シチロウタ)が実動班の前進となる 集まり をまとめていた頃……。
恵花界の両親は家を失ったばかりだったらしい。
土地開発の立ち退きで……。
母方の実家の花屋を手放した後の 転居先を、22災害で無くしてしまったのだ。
…………。
立ち退きの際に 仲介した人物の伝手で、仕事には ありつけたようなのだが……。
家族の時間を賄うのも難しい 過酷なものだった。
藤崎悳が若い頃の……。当時の業務は 生身での戦いも多く 今以上に危険が伴うもので……。
……ある決断を下した。
…………。
……。
続きを話す 恵花界の言葉には、あらゆる感情が混じっている。
…………。
「 ……父は、まだ小さい僕と 家業すら無くした母の為に、
仕事だけに 全てを捧げる事にしたんです。
両親は円満の離婚をしました。
それから何年か後……。父は班長として 役職について……。
母は その間に急病で亡くなりました。
僕が全てに確信したのは……。実動班に入った後だった。
母が急死して 遺品を整理するまでは……。
違和感はあっても 決定的な 繋がりを 知る事も出来なかった。
そして 僕は、父も退職後には他界していた事を知ったんです。
何も出来なかった。
だから、神地さんには……。
偶像としてでも英雄であって欲しかった。
両親の人生の全てが意味のあるものだったと……。なのに !!
なのに !!どうしてこんなにも強引な事を !! 」
…………。
丹内空護から見ても、この言葉に少しの嘘も無いように思えた。
班内の過去の記録を記憶の中で照らし合わせても 合致する箇所が殆どだろう。
…………。
太陽のアルバチャスは……。
…………。
……。
少しの沈黙の後 口を開く。
…………。
「 ……雑魚が。全ては私の為の礎さ。
本人は その生き方に全てを捧げたのだろう ?
円満で その道を選んだのなら……。何を不満に思う ?
私の為の礎が、その延長線上で 世界を救う事に成る。
ご両親は立派だったな ?
藤崎悳……。確かに頑張っていたよ。調度良い繋ぎのような奴だったさ。
アルバチャスとしての適性も無く……。
七郎太のような並外れた 体力も 体格もあった訳でもない。
凡庸な実務を こなすだけの男だったかな ?
それは違う奴だったか……。
まあ、どちらでも良い。お陰で……。
そこに立っている code-7-の導入までは実動班の維持が出来た。
恵花 君 わかるかい ?
維持だ。維持。
発展ではなく、君の御父上が全身全霊で やっと 行ったのは、維持だったんだ。
……なら、私からすれば どちらでも良い。
その辺の雑草と変わらないんだよ。
少しだけ空気を綺麗には、してくれた……。のかも しれないな ?
雑草らしい 至極、ささやかな人生じゃあないか。 」
…………。
丸七型が、感情のままに動き出したのか……。太陽のアルバチャスに格闘戦を仕掛ける。
太陽のアルバチャスは、何に困る事も無く徒手空拳だけで 応対した。
…………。
「 父を 馬鹿にするのか……。 」
「 お花畑め……。父も だ。
満開で良かったじゃあないか。君は 年中 春だな。 」
「 ……何だと !! 」
「 ほらな ?
……安い挑発を買い叩くんだ。馬鹿な貧民が見ごろを迎える。
花も草も、太陽の下で こそ 育つものさ……。 」
…………。
丸七型が繰り出す打撃の全てが、動きを読まれているのか……。
太陽のアルバチャスには、一切通じない。
…………。
「 草は草らしく……。
光合成の 1つでもして見せろ !!恵花界 !! 」
…………。
code-19-からの 赤熱した拳が、恵花界に向けて打ち出される。
炎熱をまとった拳鉄は、戦馬車のアルバチャスが 片腕の盾で受け止めた。
…………。
「 聖正……。
お前は 知らないだろう ? 」
「 早いな……。七郎太の息子め……。
太陽神とも同等の私が ?知らない事など無いさ……。
あったとしても知る必要のない事だ。 」
「 藤崎さん は……。実動班の下地を根幹から整えたんだよ。
俺の義父 以上にな !!
そして、退職までの間に……。
俺や……。木田や 大代に……。実戦経験で得た戦い方をも残した……。 」
「 それがどうした ?
フワついた 付加価値など、無に等しい。 」
…………。
太陽のアルバチャスは、B.A.Cupによって 至近距離射撃を行った。……これによって丹内空護の脇腹を狙う。
戦馬車のアルバチャスは、完全に 歴戦の動きを取り戻しているようだった。
至近距離からの射撃を予測していたのか……。
自身の身体の体軸を 正中線を基準に 90度程 回転させるようにして、
片方の肩を 前方に潜り込ませる。
…………。
太陽のアルバチャスからの至近距離射撃を 最低限の動作で回避し……。
前方に潜り込ませた肩を、元の位置に戻すようにして再度 身体を逆方向に回転させる。
さっきまでは 後方に下げていた方の腕で、正拳突きを繰り出した。
…………。
負傷しているとは思えない 力強い一撃。
丹内空護が 自身の身体に馴染ませた 正拳突きは……。
……かつての 藤崎悳から教わった 基本的な、身体だけで繰り出せる人体に潜む武器である。
…………。
「 藤崎さんが残した全ては……。
今も この街を護る 礎として生きている。
自分の事しか見れない お前には 出来ない 偉業だ。
後進の育成は、お前には出来やしないぞ。聖正……。 」
…………。
戦馬車のアルバチャスの拳が、太陽のアルバチャスを確かに 後退させた。
丹内空護は、恵花界に呼びかける……。
前方への警戒心を緩めずに……。
…………。
「 恵花、立てるか ?
驚いた……。お前が 藤崎さん の子供だったとはな……。 」
「 父も母も 念入りに隠していたようです。
驚かせて すみません……。 」
「 いいさ。
お前は、これから どうしたい ?
ポメグラネイトも RCソード・キングも 姿を消したようだが……。 」
「 さっきまでは 頭に血が上っていたました……。
今は……。やるべき事が わかった気がします。
光の試練を終わらせたいです……。
多くの仲間が、両親が残した全てを実らせる為に……。
その為に、今度こそ code-19-を停止させます。 」
「 力ずくで 聖正を 止めて……。知っている事を話させる。
これで 良いんだな ? 」
…………。
丸七型……。恵花界も、戦闘態勢を整えなおす……。
戦馬車と丸七型が 並び立つ様に、太陽が応戦の意思を見せた。
…………。
「 馬鹿は 直ぐ、力に頼る……。
武力行使とは……。極まった計画の最後に沿える執行品だ。
食後のティータイムのようなものだと言うのに……。
野蛮だよ……。君達は。
雑味の強い紅茶は美味しくないぞ ? 」
「 戦馬車は 勝利を呼び込む切り札だ……。
聖正……。何を考えているのか知らないが、何もかも思い通りになるとは思うなよ。
俺達は……。
この街の為なら お前が相手でも負けはしない。 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
…………。
丹内空護が、武装機能を展開して 2種類の武器を両手に握りなおす。
神地聖正が握るのは……。B.A.Cupのみである……。
…………。
「 ……口は達者だな。太陽が 戦馬車に負けると思うのか ?
与えてやろうじゃあないか……。2度目の敗北を……。
今回は、そこの おまけ付きでなあ。 」
…………。
三者三様の 思いが……。火花を散らし始める。
………………。
…………。
……。
~独断力~
N-06 地区……。
瓦礫だらけの 荒れ地で……。
3つの人影が 出方を伺っていた。
戦馬車のアルバチャス……。丹内空護……。
2種類の武装を展開した……。
B.A.Swordの剣先を身体の側面側に向くように構え、B.A.Cupの銃口を相手に向けている。
銃口の先は、太陽を関する存在を狙っていた。
…………。
太陽のアルバチャス……。神地聖正……。
B.A.Cupを片手に携えてはいるが、銃口の向きは 地面の方を向いており 余裕を崩さない。
背面の円環型のジェネレーターは 静かに稼働しているようで、いつ何が有っても問題が無いとでも 行った具合だ。
…………。
レヴル・ロウ 丸七型……。恵花界……。
小銃型武装デバイス R,R,Gを 両手で保持し、格闘戦にも銃撃戦にも対応できるように 適度に力を抜いているのだろう。
R,R,Gの銃口は 身体の前方中央の下方に向いて、自然な姿勢を保っている。
必要に応じて、射撃姿勢を取れるようにする為の 待機用の構え方だ。
…………。
各々が……。
転機を探り……。殆どが一斉に動き出す……。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
丹内空護が、B.A.Cupによる 牽制射撃を行う。
これと同時に B.A.Swordの塚頭で、ホバー滑走機能を動作させた。
…………。
太陽のアルバチャスも、これに合わせるように火球を射出したようで……。
火球は、戦馬車のアルバチャスからの光弾と衝突して小さな爆発を起こす。
…………。
恵花界は、ある事を想定して動いた。
それは、自分自身の身体の一部が、神地聖正の視点では 爆発の閃光に隠れているかどうか。
想定の上で R,R,Gによる定点射撃を 試みる。
アルバチャスの B.A.Cupとは異なる 自動連続射撃だ。
数十発の光弾が 短い時間間隔と、距離感覚で爆風の 奥にいる太陽のアルバチャス目掛けて撃ち込まれる。
…………。
爆風の向こう側には既に、太陽のアルバチャスの姿は無かった……。
赤熱した拳が、恵花界の丸七型を背後から殴り飛ばす。
…………。
太陽のアルバチャスもまた、ホバー滑走を起動してたのだ。
大きな弧を描くような軌道で疾駆して奇襲を行った。
…………。
code-19-の喉元に……。戦馬車のアルバチャスが振るう B.A.Swordが迫る……。
太陽のアルバチャスは B.A.Cupによる至近距離射撃の火球を、B.A.Swordの刀剣部分の腹に命中させた。
丹内空護の B.A.Swordが、少しだけズレた位置へと誘導される。
…………。
神地聖正は、戦馬車のアルバチャスからの攻撃を逃れて、ホバー滑走で後退した。
今度は、これを見越した恵花界の 銃射撃が数発 太陽のアルバチャスに命中する……。
…………。
……。
一進一退の攻防が入り乱れる。
そして……。
…………。
……。
太陽のアルバチャスが……。
何度目かの、射程距離の調整を行い……。3者が同程度の距離に成る具合の局面が訪れた。
…………。
「 甘いな。甘い甘い。
私も まだまだだ……。つい出し惜しみをしてしまう。 」
…………。
神地聖正は、何を意図しての事か……。自身の行いを顧みる。
code-19-に備え付けられている DEF同等の機能の事を刺すのか……。それとも……。
丹内空護が警戒を強めて 思案する中で、太陽のアルバチャスは自身の波長を乱さずに新たな奥の手を見せた。
…………。
「 これまでは準備運動さ。見せてあげよう……。
名前だけではなく、姿さえも真の意味で太陽神である所以をな……。 」
『 Over The Error !! Non Function..
( オーバー・ザ・エラー !! ノン・ファンクション.. ) 』
…………。
謎の動作音が鳴ると、アポロンの背面のジェネレーターが 妖しく輝きだす。
太陽のアルバチャスは、全身から 多量のアルカナの光を噴出させて それを再吸収する。
アルバチャス code-19-の姿は 変異し……。炎の中で形を変えた。
…………。
丹内空護ですらも、これを目の当たりにして 驚きを隠せなかった……。
…………。
「 その姿は……。まるで……。 」
「 神々しいだろう…… ?
これが、太陽の神の姿だ……。英雄のマルクトを最大限に活用すれば造作もない。
太陽のエヌ・ゼルプト……。オーダイスの力を完全に取り込んだのだ。
人間をも超えた姿……。
フフフ……。
火のマルクトの波動を感じるな……。
今の私は、英雄アポロンであり……。
同時に太陽のエヌ・ゼルプト オーダイスでもある。
折角だ。名を新たにしようか。
アポロダイス……。コレだ。自分の名前は自分で付けたって良い……。
太陽英雄神 !!アポロダイス !!
光の試練を打破する唯一無二のエヌ・ゼルプトの名だ !! 」
…………。
1つの到達点でもある アルバチャスは……。
力を際限なく高めて、人の領域すらも超越した。禍々しく強大な炎熱の頂きへ昇り詰めていく。
…………。
「 諸君……。ここからが私の本番だ。
全力で 日焼けをさせて上げよう。
馬と草は どれだけ耐えられるのか……。
見せてくれたまえ。 」
…………。
炎熱にって災いを成す その化身は、回禄(かいろく)の象徴である……。
凶神(まがつかみ)。
……悪心を持った太陽の化身には、この名前が相応しい。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
E-07 地区……。
2個班合一編成の 総員 22名で戦う、2人の班長は……。
順調に一帯の ピップコートの数を減らし、ついに残す怪人は レッドコート種のみとなった。
相対するレッドコート種は……。
RCカップ・クイーン 1体。
RCソード・ペイジ 1体。
もしかしたら このどちらか……。もしくは、両方が自分達の仲間だった誰かかもしれない……。
この 1点のみが 戦い方に露骨に影響を及ぼす。
第三班を率いる長……。伊世伝次(イセ デンジ)にしても……。
第四班を率いる長……。荒井一志(アライ カズシ)にしても……。この 1点には 良い気分がしないようだった。
2人は それぞれが管轄する班員に命令を下達する。
目的は 2つ……。
…………。
……。
レッドコート種の情報を集める為……。
自分達以外の 班員が負傷しないようにする為……。
…………。
……。
これらの 2つの条件を満たす為に、丸七型の 2人と レッドコート種 2体から一定の距離を置いて……。
……射程距離外へと退避し、周囲への警戒を最優先にする事。
…………。
……。
第三班と第四班の 班長を除いた総員 20名が 指示に従い、この地域の激戦区から離れていく。
伊世伝次は 小銃型 R,R,Gを……。
荒井一志は 小剣型 L,L,Eを……。……構える。
…………。
伊世伝次は緊張していた。生唾を飲み込む事にすら 思い切りが必要な程に……。
…………。
「 一志……。
さっきはすまん。俺も戦ってみる。
ここのピップコートは掃討した。その後は……。 」
「 レッドコート種の情報を集めましょう。
自分も一緒ですよ。伝次。 」
…………。
2人は ボイスチャットで 互いに連携する意思を確認し……。足並みを揃える。
先程までの戦いにおいては、班全体での総合力も加味した戦い方だった。
自分達が そうだったように。今もそうであるように……。実戦での経験を培う回数は多い程……。
自己の力が熟練されていき、緊急時に己を助ける最大の守りにも成る。経験を安全な状態で与える事……。
…………。
手に余る 分野を自分達が引き受けて……。そうやって、ピップコートの掃討に当たった。
ならば、後は……。
嫌な仕事も、危険を伴う事も……。自分達の取り分だ。
互いに残りの活動時間を確認したが、まだまだ問題は無い。大技換算なら 約 2発ずつ程度。
……余力はある筈だ。
…………。
……。
レッドコート種に限った事ではないが……。
基本的にエイオスの行動は 何を考えているのか読めやしない。
…………。
言語を操る エヌ・ゼルプトならば まだしも、ピップコート種は特に わからない……。
もっとも……。エヌ・ゼルプトなんて大物の相手は 丸七型がするものでもないのだが……。
案の定……。レッドコート種は ピップコートのように無感情で、エヌ・ゼルプト程では無くとも手強い。
…………。
……。
RCソード・ペイジの 剣撃や刺突には、荒井一志が L,L,Eによって対処し……。
RCカップ・クイーンの 銃撃には、伊世伝次が R,R,Gを用いた射撃で陽動した。
時には、相互に相対する相手を切り替えて乱戦ならではの連携で立ち回る。
…………。
どれ程の時間を粘れば、何かしらのヒントが得られるのかも わからない賭けだ。
まだ 戦える……。
まだまだ 継続できる……。
…………。
……。
僅かに レッドコート種 2体の動きが 鈍っているように思えてきた。
伊世伝次の心の中では、どうしても……。考えてしまう事があった。
…………。
……。
あわよくば 情報だけを残して……。この日は撤退してくれないだろうか……。
…………。
未だに、非常な選択は 選べそうにない……。かと言って誰かに これを投げるのも嫌だ。
根性が無い自覚はあるが……。それでも譲れない葛藤。
…………。
そんな迷いのせいか……。コレを誰かに見透かされたのか……。新手のレッドコート種が 増えてしまう。
…………。
……。
光りが集まり 形を成し、現れたのは……。RCソード・キングだった。
この日の戦いにおいては、
別の地区に出ていた筈の、下手をしたら ちょっとした エヌ・ゼルプト級の大物。
…………。
「 そんな……。
丹内 総指揮長が戦っても 決め手を逃す化け物じゃないか……。
こんな奴の相手は……。流石に俺には。 」
「 伝次 !?……呆けたらダメですよ !?
聞こえていない……。
……伝次 !!シャンとしないと !!
助けに行きたいのに…… !!……レッドコート種 2体の相手で !!
伝次 !! 」
…………。
RCソード・キングが 伊世伝次の元に迫っていく……。
伊世伝次の丸七型も ホバー滑走で攪乱を行って入るが、状況に飲み込まれているのか 動きが単純になっている。
心なしか R,R,Gによる銃射撃も、散漫で牽制にも成っていない。
…………。
RCソード・キングは 炎熱を這わせた大剣を、振りかぶって 剣の重量と接近時の速度を載せて……。
背負い投げのような動きで、脳天を叩き割るかのように 大剣を振り下ろす。
…………。
……。
RCソード・キングが……。何者かに吹き飛ばされた。
炎熱の大剣と RCソード・キングに、
何かしらが ぶつかって爆発すると、伊世伝次から遠ざかるように吹き飛ばされる。
…………。
「 第二班。射撃編成は そのまま次の炸裂弾の準備だ。
目標 RCソード・キング……。撃て……。
近接編成は、ホバーでRCソード・ペイジと RCカップ・クイーンに
Law's Functionを用意……。掛かれ……。 」
…………。
伊世伝次の窮地を救ったのは彼誰五班 第二班長……。大代大(オオシロ マサル)だった。
大代大が陣頭指揮を取る 第二班は、
5名ずつに分かれた 近接編成と 銃撃編成で、攻撃対象を予め決めていたのか 円滑に大技を叩き込んだ。
それでも レッドコート種 3体は 健在だったが、確実に 2人の若者の命を救った。
…………。
「 伊世 君も、荒井 君も……。
何やってたの ?
大方の予想はつくから、その辺は飛ばすけど……。
死にたかった訳じゃないよね ?
戦いにくいのは理解できる。
僕も、さっき醜態 晒したばっかりだからね。そこまで大きな事は言えないけど。
僕達が しっかりしないと……。今 生きてる 皆の命も危うい。
もう、割り切るしかないんだよ。
けど……。それでも……。
それでも、馬鹿をやりたいんなら 同じ事情を知ってる他人を頼ってよ。
今からは、3 対 3 だ。
君達 2人の戦い方は 天瀬さんも知ってるし……。もしかしたら……。
何かチャンスが有るかもしれない。
ギリギリまで自分の命の面倒ぐらい見られるなら。僕も一緒に馬鹿やらせてもらう。 」
…………。
大代大は、何かしらの宛てが有るのか……。只のハッタリなのか……。
伊世伝次には わからなかったが、これを拒む理由も権利も無い。
独力の不甲斐なさが……。周りに悪循環を及ぼしている自覚だけは 認識できた。
伊世伝次の心情を、どこまで察しているのか……。大代大が更に現状の共有を行った。
…………。
「 伊世 君も 荒井 君も、よく聞いて……。
一六型……。天瀬さん からの情報では、N-06 地区に code-19-が出現した……。
恐らく、前 C.E.O当人だ。
太陽のアルバチャスは、エヌ・ゼルプトに変異したようだよ。
何かしらの能力を持っていたのか……。
手に入れたのか わからないけど……。その姿はレッドコート種にも似ていた。
今 そこで戦っているのは、丹内さんと 恵花 君の 2人。
天瀬さんは、特務棟で全体の情報整理や解析を主に戦っている。
てことで 今から……。
第二班、第三班、第四班の 班長を除外した総員の指揮権を、天瀬さん に譲渡する。
本人が直接戦えない分の戦力を 総力で補うんだ。
ここにいる レッドコート種は 僕達 3人で相手をする……。
最悪の場合は、覚悟を決めなくちゃならない。 」
…………。
大代大からの 具体的な情報群に 2人は圧倒されるが……。
各々が 個別に気になる点に着目する。
…………。
「 丹内総指揮長と共闘してるのは……。界 ?
大丈夫か あいつ ? 」
「 界は強いですよ。伝次。
自分達も負けてられません。
ポメグラネトはロストしたようですね。
ところで、自分の情報武装では閲覧できませんが有馬さんは……。
大代 二班長は何か御存じですか ? 」
…………。
温和な青年 大代大は、落ち着き払って 2人の疑問に回答を示す。
…………。
「 有馬 君は……。詳細がわからない……。
少し前から 情報武装にノイズが酷くてね。健在ではあるみたいだ。
恵花 君と 誰かが合流できれば 途中までは何があったのか、
わかるかもしれないんだけどね。
彼も 直接、丹内さん と合流したようだ。
だから正直、誰かしらが 両方に向かえたら良いんだけど……。
ある程度の まとまった戦力が無いと 危険だろう。
もしかしたら、こっちにRCソード・キングが来たのと同じように……。
有馬 君の所にも、ポメグラネトや それに近い相手が いるのかもしれない。
只……。 天瀬さんの予想では、有馬 君なら大丈夫だと。そう言っていた。
僕も 同意見だ。一番危ないのは こっちだと思った。 」
…………。
大代大が、先程 猛襲を仕掛けた レッドコート種 3体の様子を確認する。
第二班の総力で、大打撃を与えたつもりだったが……。
そろそろ こちらも戦う体勢を整えた方が良さそうに思えた。
…………。
「 そうですか。わかりました。
自分も その流れに乗ります。四班の総員を特務棟に……。 」
「 わかった。俺も一志や 二班長と同じ流れを組む。
三班の総員を 特務棟 周辺の警護に……。 」
…………。
荒井一志が第四班の総員を……。
伊世伝次も第三班の総員を 特務棟の防衛、予備戦力に回す。
…………。
「 よし。まとまったね。
2人共、自分の命を粗末にしないようにね。
特に 伊世 君。後列からの援護 よろしく。
三馬鹿ギリギリ作戦開始だ。 」
…………。
丸七型 3人 対……。レッドコート種 3体の持久戦が始まる。
大代大が内に秘める狙い……。
それは、天瀬十一(アマセ トオイチ)が現在進行形で行っているレッドコート種への調査の延長線にあるもの。
太陽のエヌ・ゼルプト との 関連も含めて、解析が進む 奇跡の糸口だった。
………………。
…………。
……。
~火と戦車と~
N-06 地区……。
戦いの後が残る 荒れ地……。
太陽のアルバチャスだった者は、何かしらの手段で 禍々しく 姿を変異させた。
血の日食による行方不明者が変異した レッドコート種のような外見的特徴も垣間見える……。
禍々しい その存在が自己の名を名乗った。
…………。
「 神々しいだろう…… ?
今の私は、英雄アポロンであり……。
同時に太陽のエヌ・ゼルプト オーダイスでもある。
折角だ。名を新たにしようか。
アポロダイス……。コレだ。自分の名前は自分で付けたって良い……。
太陽英雄神 !!アポロダイス !!
光の試練を打破する唯一無二のエヌ・ゼルプトの名だ !! 」
…………。
1つの到達点でもある アルバチャスは……。エヌ・ゼルプトとも同質の姿を持つようになった。
極まった熱の波動を放つ炎熱の化身……。
アポロダイス……。
…………。
「 ささやかながら、過去の大災害と……。
……同じような事をしてやろう。
馬と草が相手では 少々物足りないが……。
付き合ってくれたまえよ。 」
…………。
この場で 太陽の化身と戦う 2つの人影……。
戦馬車のアルバチャス 丹内空護の視界からも……。
丸七型のレヴル・ロウ 恵花界の視界からも……。アポロダイスの姿が 一瞬だけ消えた。
…………。
視界から消えた その太陽が、何をしたのか……。直ぐに痛覚として知る。
戦馬車のアルバチャス code-7-の片腕の盾が 粉微塵に破壊されており……。
丹内空護も、恵花界も爆炎のような 打撃で吹き飛ばされていた。
…………。
……。
太陽のアルバチャス code-19-は……。
現存するアルバチャスの中でも 最も完成された能力を持っていた。
耐久性能は 塔のアルバチャス バベルと同等……。攻撃性能や継続戦闘能力の高さは それ以上……。
瞬発力や 機動性も随一の ある種の到達点である。
その時点でも、現存するアルバチャスよりも優れた能力を持っていたのだが……。
…………。
……。
アポロダイスの攻撃能力は……。……これを大幅に上回っていた。
…………。
……。
太陽の化身は、戦馬車のアルバチャスの真横へと瞬時に移動し……。只の殴打を繰り出す。
戦馬車のアルバチャスは……。
まるで、水面に小石を飛ばす 水切りの石にでもなったかのように、吹き飛ばされる。
…………。
余りにも強力な 只の殴打……。
水面を跳ねる小石のように 地面と幾度か接触しながら、離れた位置の瓦礫の塊まで 吹き飛ばされていた。
…………。
丹内空護が 立ち上がる……。
この時に どれ程の 威力の打撃だったのかを知った。
…………。
丸七型の 恵花界も同様に 吹き飛ばされたらしい。
直ぐには戦えそうにも無いが 強制解除に至らないように 踏み止まっているのだろう……。
うつぶせの状態だが……。どうにか起き上がろうと 足掻いているようだった。
…………。
たった 一撃ずつの殴打だったが……。その威力は 飛びぬけている。
…………。
「 すまないね。2人共……。
私も まだ手加減が 難しい。
エヌ・ゼルプトの力とは 本当に規格外だ。
アルバチャスなんかは、比較に成らないなぁ……。
だが……。
まだ生きてるだろう ?そうじゃなきゃ困る。
22災害と同様に、今のはデモンストレーションでしかないんだ。 」
…………。
アポロダイスは、自身の掌を 何度も開いては閉じて……。退屈そうに話した。
丹内空護は、言葉の最後に添えられた部分について言及する。
…………。
「 デモンストレーションだと…… ?
あれ程の 大災害が……。何かを実演していると ?
そういう意味で話したのか ? 」
「 ……つい、口が滑ったなぁ。
だが、その通りだ……。アレは全てが単純な実演。
アルカナの光が可能にする 1つの可能性を、模擬として行っただけなのさ。
この力を手に入れた今……。幾つかの情報に優位性は無い……。
話してやろう。
私にはマーへレスのように 単独崩壊も起こりはしない……。
何を開示しても、影響が及ぶ事は無い。 」
…………。
神地聖正だった 太陽の化身が……。
ゆったりと 一定の範囲を歩きながら 続きを話し始める。
まるで、講演会の壇上に立つ 講師のように 落ち着いた様子だ。
…………。
「 光の試練とは、アルカナの光を扱えるかどうか……。
それを、見極める為に行われる。
力が解放された時……。
最も その素性に相応しい知的生命体こそが、試練の履行の有無を問われる。
手厚く……。多くの条件によって保護された偉大なる神秘の力……。
それが アルカナだ……。
条件の網の目を抜け出した者だけが決定権を与えられるのだ……。
少しでも、これを満たせない者が 触れてしまった場合……。
世界はエヌ・ゼルプト達によって終わりを迎える。
奴らの力は、常に その時代を統べる文明水準の上を行く。
そういう仕掛けに成っているんだ……。どんな兵器も通用しない。
これを打破するには、同質の力を……。アルカナの光を扱いこなすしか無いのさ……。
偉大なる絶対のエネルギーだ。
これの 全てを 扱う為には、相応のものが問われる。
光の試練……。
これを成す事が出来るのか……。挑む気概が有るのか……。
絶対強者の軍勢を相手に 戦い続けられるのか……。
これを試す為に行われた結果が 22災害だ。
光の試練に挑む者が 受ける最初の洗礼……。
それこそが、同属を大量に虐殺される 只のデモンストレーションなのさ。 」
「 かつての日樹田が 壊滅したんだぞ ?
聖正……。お前は 始めから それを知っていたのか ? 」
…………。
この地で起こった最大規模の大災害……。22災害。
その正体が 少しずつ 輪郭を表す。
丹内空護ですらも 驚愕するが……。神地聖正の声には同様の色は無い。
…………。
「 知っていたさ。当たり前じゃあないか。
最低限……。利益と損失の想定を知らないと……。何も出来んよ。
私は現実主義者なんでね。
自分への採算が見込めない事に 時間を使うなんて考えられるわけがない。
既に知っていると思うが……。
光の試練を始めたのも私だ。
ならば……。
只のデモンストレーションが 始まるかどうか……。
それがどういったものなのか……。
これについても、もちろん 知っていたさ。当然だろう ?
当たり前の事を聞くんじゃあない。
馬鹿な奴だ。
常に世界は、私に向かって風が吹き……。
豊かな水が、大地が実らせ……。
平々凡々な馬鹿共が……。
何も知らずに、私の為に文明を回して火を起こす。
どんなに歴史が進もうと、下層の中の 下々が取る行動は変わらない。
私のように優れた人間を 頼り……。
英雄を祀る その営みは、神を崇める信仰へと変わっていくだろう。
古来より、人の手が及ばない 天の遺物……。
太陽を絶対の神として 生きた 時代と、なんら変わらないのだ。
私の事は、崇めても 損はないぞ ? 」
…………。
ひとしきり、話し終えて 満足したのか……。
太陽の化身は、中空にアルカナの光を集約させて B.A.Cupのような面影を残す 何かを取り出す。
B.A.Cupとも……。エイオスが扱う武具とも似た特徴の何か……。
それを握り……。末節骨(まつせっこつ)のような部分の先端に熱を集め始める。
…………。
「 本来ならば……。
今の話は、奴ら エヌ・ゼルプトすらも教える事は不可能だ。
知ってはいても、これについては話せない……。
誰だって単独崩壊を起こしたくは無いからな。
講演料は、馬と草の丸焼きで勘弁してやるさ。
安いだろ ?
さらばだ……。 」
…………。
太陽の化身 アポロダイスが……。
引き金を握る……。極まった熱を内包する 2つの火球が……。発射された。
…………。
発射された 2つの火球は、この場に新たに乱入した何者かによって撃ち落とされる……。
飛び交う火球を、乱入者の放った数発の火球が相殺したようだった。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
新たな乱入者は……。引き延ばされた時間から 通常の時間軸に戻ると……。
太陽のエヌ・ゼルプトの 背後から、回し蹴りを繰り出す。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
アポロダイスは、この乱入者に気がつくと、即座に拳をぶつけて 回し蹴りの直撃を防いだ。
太陽が繰り出す 炎熱の拳と、乱入者の愚者が繰り出した 大量の蹴りが 激しく ぶつかった。
…………。
「 太陽英雄神 である、この私に……。
背後からの奇襲か。
ようこそ。有馬 君。
巻き込まれただけの 放浪者……。君は……。神を信じるかい ? 」
「 自分勝手な奴が 人の心の拠り所に成れるわけが無い ! 」
「 ……そうか。なら 天罰だ。 」
…………。
愚者のアルバチャスの、星と護符の恩恵が乗った 強力な連脚の全てを……。
アポロダイスが、只の殴打で渡り合う。
…………。
愚者のアルバチャス……。有馬要人は、一定の距離を取って 拳を硬く握った。
…………。
「 空護さん。お待たせしました。
界も……。まさか、こっちに来てると思わなかった。
アレ……。神地ですね。
太陽のエヌ・ゼルプトが 出現する……。
どうするかは、人間次第……。
ドゥークラが、そんな風に話していました。
何を意味するのか わかりませんけど……。それだけ言うと奴は消えたんです。
間に合ってよかった。 」
「 ……すみません。有馬さん。
僕は あまり役に立てていない。 」
「 そんなことは無いぞ 恵花。
お前が来なかったら、俺は今の状況まで持ちこたえられなかっただろう。
恵花が 転機を作ったからこそ、有馬とも こうして合流出来ている。
自分を卑下するな。
有馬……。アレに対抗するなら長期戦は避けた方が良い……。 」
「 了解です 空護さん。
DEF……。2人で仕掛けましょう。界は……。 」
…………。
2人のアルバチャスと 1人の丸七型が、簡単に足並みと方向性を揃える。
目の前の凶神に 相対する 最善を目指して。
…………。
植物好きの青年は、端的な 意見交流の中で 自身の力量が足枷に成っている事を察した。
…………。
「 僕は……。もう足手まといですね。
悔しいですけど、離脱します。
そして、伝次や一志の所へ合流しますよ。
アルバチャスが、勝利を呼び込んで どこまでも進んで行く……。
僕は そう信じます。ご武運を ! 」
…………。
丸七型が ホバー滑走で、離脱を始める。
目指す進路は、E-07 地区……。恵花界の 同期達が戦う 区域だ。
…………。
太陽の化身は、これを見逃さなかった。
…………。
「 これから 戦う相手の前で、作戦会議か……。
この馬鹿共が……。
蒸発するがいい……。
雑草は 野焼きにしてやろう !逃げられると思うな !? 」
…………。
アポロダイスが、銃のような武具で 火球を放とうと 力を込める。
火球が放たれる直前……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスが、迅速に動き出し……。もう一度 蹴りを加えた。
戦馬車のアルバチャスも、これに続いて 連携での攻撃に移行する。
…………。
2人のアルバチャスによる、ホバー滑走からの 打撃だ……。愚者の青年は スラローム移動からの中断蹴りを……。
戦馬車の青年も 同様に疾駆して、拳による殴打の猛襲を叩き込む。
…………。
「 お前の方こそ……。よそ見できると……。思うな !
エヌ・ゼルプトの相手は !!
俺達 アルバチャスなんだよ !!
神地…… !! 」
「 有馬の言う通りだ…… !!
逃げられるか どうかじゃない。
俺達が確実に 恵花を離脱させるんだ !! 」
…………。
アポロダイスが、愚者と戦馬車の攻撃に応戦した。
2人のアルバチャスがDEF を起動するのと、殆ど同じ 頃合いに……。時間軸への干渉を行ったようで……。
武具を持っていない片手で、愚者の蹴りを掴み……。銃のような武具の打撃で、戦馬車の拳に かち合わせる
…………。
「 馬鹿と……。馬め……。
よろしい。
ならば、先に焼くのは……。
お前達 からだ !!神の力の領域を見せてやろう !! 」
…………。
激しい攻防の 始まりを表すように……。
……接戦が繰り広げられる。
………………。
…………。
……。
~隣り合う力と支配の象徴~
N-06 地区の荒れ地で……。
爆発音が鳴り……。3つの影が渡り合う。
愚者のアルバチャス 有馬要人と……。
戦馬車のアルバチャス 丹内空護が……。ある 1体のエヌ・ゼルプトと戦っている。
…………。
1体のエヌ・ゼルプトは、かつて 太陽のアルバチャスとしての姿を持っていた者……。
日樹田を立て直し……。英雄として この地を牽引してきた者……。
神地聖正だった。
現在の その人物は怪人としての能力も手に入れており 名を新たにしている……。
アポロダイス。
これが、太陽の化身の名前だ。
…………。
しかし、その かつての英雄は 日樹田を壊滅させた大災害を意図的に発生させた人物でもあったのだった。
愚者、戦馬車、太陽の 三者が……。激しい戦いを繰り広げる。
…………。
アポロダイスは殆どの能力が、遥かに高く まるで黒翼の怪人や 真紅の戦士を彷彿とさせる。
…………。
2人のアルバチャスは、幾度か……。DEFによる攻撃も行っているが……。
太陽の化身もまた……。アルバチャスであった時と 変わらずに類似の能力を 保持しているようだった。
引き延ばされた時間での 戦いにも 対抗できる驚異の太陽なのである。
…………。
そして……。愚者と戦馬車が 転機を掴むため……。DEF を今一度、動作させる。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
時間軸が引き延ばされていく……。
…………。
ホバー滑走で 位置取りに注意を払い……。相互に得意とする武器を呼び出す。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
…………。
戦馬車のアルバチャスは……。
射撃用の武装 B.A.Cupと 刀剣型武装 B.A.Swordを手に……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Wand !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ワンド !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスは……。
刀剣型武装 B.A.Swordと 杖型武装 B.A.Wandを携えて……。
太陽の化身に前後から 挟撃を仕掛ける。
…………。
アポロダイスは……。
護符の恩恵に相当する能力を発揮しているのか……。背面の円環を妖しく輝かせる。
名前すらも無い、銃のような武具が 赤く明滅した。
愚者と戦馬車の挟撃を見越していたのか……。高く跳躍する……。
…………。
軽く 20mを超える跳躍であった。
高度を更に上げる途中で、先程まで 立っていた場所に目掛けて 数発の火球を撃ち込んだ。
火球は 地面を焦土に変える。
爆炎が上がって、噴煙のような戦塵が立ち昇っていく。
…………。
アポロダイスは、上空で 爆炎に乗ったのか……。先程よりも少し離れた位置に着地した。
黒煙の上がる爆心地に向き直ると……。
……何かが飛来した。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
恐らく……。
爆心地の中から行われた……。
2人のアルバチャスによる 反撃だった……。
…………。
杖型武装から放たれる 極まった火球と……。
銃型武装から撃ち込まれる 高密度の光弾……。この 2つの直撃を……。太陽の化身は寸での所で免れる。
…………。
驚異的な反射神経によって、発揮された芸当であった。完全に被弾を避けたのだ。
だが、これによって 一瞬だけ姿勢を崩し無防備な 様を露呈させる。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
爆心地から……。戦馬車のアルバチャスが急接近する……。
ホバー滑走による 疾駆した 戦馬の……。一閃の斬撃……。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスもまた……。これに続く……。
B.A.Wandに 立ち乗りして、粉塵を切り裂くように 上空から 飛来する。
隕石のように急接近すると、跳び蹴りを叩き込んだ。
…………。
この瞬間を持って……。
愚者、戦馬車、太陽の 3者は……。引き延ばされた時間から、通常の時間軸へと戻る……。
青年 有馬要人にしても、坊主頭の青年 丹内空護にしても……。流石に疲れが見え始めていた。
2人のアルバチャスの呼吸は やや荒い……。
…………。
「 空護さん……。まだ、大丈夫ですか ?
俺は……。まだまだ……。戦えますけど…… ? 」
「 有馬……。息が上がっているぞ……。
手応えはあったが……。
これで……。終わるとも思えん。気を緩めるなよ ? 」
…………。
丹内空護は……。疲労感の中で違和感に気がつく……。
先程の戦いで……。ポメグラネトと RCソード・キングとの戦いでの傷が……。完治しているのだ……。
また 幾度となく発生している幻覚も 幻聴も発生しなくなっている……。
疑問を感じるが、この件については 後回しにした。
…………。
……。
愚者のアルバチャスも……。
戦馬車のアルバチャスも……。限界は近づいている……。
だというのに……。丹内空護の読みは的中する。
…………。
「 やるじゃあないか。馬鹿と馬の分際で……。
今のは 少しだけ驚いた。 」
…………。
太陽の化身 アポロダイスは……。まだまだ余力が あるようだった……。
ゆっくりとした足取りで、にじりよりながら……。
今 失った ばかりの片腕を 撫でまわす。
…………。
「 見ろ……。腕が 1本無くなってしまった……。
戦馬車の近接戦闘能力は流石だねぇ。
だが……。 可愛そうに……。更に絶望を知る事に成るんだ。
エヌ・ゼルプトの素性と 英雄のマルクトを組み合わせれば……。 こんなもの簡単に修復できる。
何故なら、エヌ・ゼルプトには高い再生能力が標準規格で備わっているからだ。
……ほらね ?元通り。
双六ならば、ふりだしに戻る。……そんな所か。
そうだ……。仕切り直しならば……。
もう少し 賑やかにしよう。 」
…………。
アポロダイスは、両手を広げて 更なる戦況の変化を呼び込んだ。
周囲の中空に赤い光が収束し……。
RCソード・ペイジと RCカップ・ペイジが 入り混じって 21体 現れる。
太陽の化身の片方の手には、名前の無い銃のような武具が 握りなおされた。
これと呼応するように 背面の円環が 妖しく輝く。
…………。
「 さあ、諸君。共に行こう。
私には仲間もいる。
レッドコートの兵隊さ。何を意味するか わかるだろう ?
こいつらは 今現存する 行方不明者の残りの総数だよ。
天瀬のバカ息子が……。アルバチャスに対策をしたようだが……。
太陽の尖兵も、今の私なら 意のままに操れるのさ。
code-19-の system名で言うのならば……。
-Twins And Sun- Precepts……。
( ツインズ・アンド・サン プリーセプトゥ )
凡人を導く太陽の暖かい陽光だよ。
君達は かつての仲間を相手に 上手く戦えるかな ? 」
…………。
赤い尖兵達が、愚者のアルバチャスと、戦馬車のアルバチャスを取り囲んだ……。
青年 有馬要人の中で、怒りの感情が湧きあがる。
…………。
「 神地……。
お前は、何をしてでも 自分の目的を達成させるつもりか。 」
「 当然だろう ?
他人と並び立って、どうなると言うのだ ?
足並みを そろえた所で、失うものもある。
ならば……。
私は、独りでも構わない。
高みに上れば、並び立つ者が いなくなるのは自然の節理……。
英雄とは……。神とは……。
常に高いところから、愚衆を先導するものさ。
駒のように動く それを見て 1つの娯楽とする……。
勝者に 許される ゲームだよ。
さて、このレッドコート達をどうするのか……。
見せてくれたまえ。
ちなみに……。
ここにいない 連中の元にいる レッドコートも同様に暴れさせられる。
私の意のままにね……。
戦う事しか出来ない systemに何が出来る ?
アルバチャス !!
まずは、肩慣らしだ。
お手並み 拝見といこうか……。 」
…………。
RCソード・ペイジと RCカップ・ペイジが……。
ゆっくりと 緩慢な足取りで 2人のアルバチャスに 迫っていく。
…………。
2人のアルバチャスは、それぞれに身構えるが……。
青年 有馬要人の怒りは噴出する。
…………。
「 神地 !!自分で戦おうともしないのか !!お前は !!
何が 神だ !!
これの何処が 英雄だって言うんだ !!
……ふざけるな。……皆 護りたい物の為に戦っていたのに !!
世界は…… !!
お前が勝手に思い通りにしても良いものじゃない !! 」
…………。
愚者のアルバチャスから……。微細な……。ほんの少しだけの少量……。
極彩色の光りが……。零れだしていた……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
特務棟……。
特務開発部内の 部長室……。
3つのディスプレイで、個別に作業を進める人物のパソコンに変化が発生した。
…………。
バックスクリーンが黒色のデータ……。
天瀬十一の父 天瀬慎一(アマセ シンイチ)が残したデータ……。
カムナ・ボックスのデータが、何かを作動させたようだった。
ディスプレイには……。ある表示が展開される。
…………。
Unlock Grant DAAT Extend……。
( アンロック グラント ダート エクステンド )
Arbachas code-0-……。
( アルバチャス コード アイン )
Arbachas code-7-……。
( アルバチャス コード セブン )
…………。
白衣の青年 天瀬十一が、これに気がつく……。
専用の解析 systemが立ち上がる。
………………。
…………。
……。
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