- 27話 -
深い結びつきと戦いと
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目次
~選択~
空の太陽に、幾つかの雲が引っかかる日の昼頃……。
…………。
……。
E-07 地区……。
2個班合一編成の 総員 22名で、第三班と第四班を率いて戦う 2人の青年は……。
最優先 行動目標に該当する、
ピップコート群の掃討に奔走しており……。ある出来事に葛藤していた……。
記憶にも新しい……。不確定自称が……。戦意を鈍らせる……。
血の日食において 行方不明になった者の、レッドコート化……。これが、確実に起こるものなのか……。
今も判然としていない。
だからこそ、たった 1度の実証パターンが……。
2人にとって身近な人物に重なり、平常心の支柱を根底から揺さぶった。
第三班長 伊世伝次は……。小銃型武装デバイス R,R,Gを手に戦い……。
第四班長 荒井一志は……。小剣型武装デバイス L,L,Eを振るい……。
既に 何体ものピップコートを爆散させているものの……。
レッドコート種……。
RCソード・ペイジ 1体、RCカップ・クイーン 1体を前にすると……。揺さぶりが強くなってしまう。
…………。
……。
第三班にしても、第四班にしても……。今回における 人的被害こそは出ていないが……。
一言で言えば……、釈然としない。
…………。
……。
レッドコート化が確認されて……。これに ある人物が直接的な対処を行って……。
事の顛末を知らされてから、約 1週間。
適当な青年 伊世伝次からすれば、
この出来事を知らされる前も後も 見知った親友 恵花界には 何の変化も無い。
……釈然としない。
…………。
……。
第三班は、予め決められたオペレーション通りに立ち回る。
小銃型武装デバイス R,R,Gを所持した 10名のレヴル・ロウが、弾幕を厚くした。
第三班長の伊世伝次は、自身の管轄班の 撃ち漏らしを 小銃型武装デバイス R,R,Gを交えた格闘戦で 対処する。
数体の ワンド・ペイジが爆散した。
……釈然としない。
…………。
……。
この日まで 一緒に 肩を並べてきた友人が……。怪人に姿を変えてしまうかもしれないなんて……。
……納得できるわけが無い。
納得して、それを相手に戦うなんて……。常軌を逸している……。
この場で共に戦う もう 1人の友人が視界に入った。
彼誰五班の班長を担う人物……。
荒井一志は 何を考えているのか、少しも覗かせずに 数体のピップコートを爆散させている。
……釈然としない。
…………。
……。
荒井一志が まとめる第四班は、小銃型 R,R,Gと 小剣型 L,L,E保持者の 5名ずつ……。
合計 10名で 些細な戦況の変化にも対応しているようだ。
ホバー滑走で 格闘戦を こなしつつ駆け抜けている。
……釈然としない。
…………。
……。
まず……。
前提として レッドコート種への向き合い方については……。
なんとしても助けたい……。これが 平時は適当な青年 伊世伝次が行きついた考えだった。
平時の適当な面が 全く出ていないなんて事は自覚している。自覚はしているが……。
行動指針を合理的にすればするほど、それは凄く薄情だ。
そう簡単に切り捨てられるものではない。
荒井一志も これに関して 似た部分があるのは鑑みる事が出来た。
端的に思い出せば……。
…………。
……。
個人の自我が無いのなら倒すべき……。丹内空護、大代大……。
必要なら問答無用で倒すべき……。有馬要人……。
極力 打開策を探したい……。天瀬十一、荒井一志……。
無条件で 何としても助けたい……。伊世伝次……。
…………。
……。
荒井一志からしても、簡単に切り捨てるような考え方は持っていないようだった。
E-07 地区で戦う、今日この日の 少し前……。
レッドコートと 恵花界の事を 踏まえてなのか、荒井一志が示した事……。
…………。
倒すのではなく、打開策を探す為の情報収集に務める。
足止め主体の防戦 なら、今の自分達にも出来る筈だ。
…………。
幸い この地区で確認できるのは レッドコート種は 2体のみだが……。今回も都合よく撤退してくれるものか……。
確証の無い あらゆる出来事に、不安だけ積み重なっていく。
自分の中で 安心できる絶対条件を 欲しているのか。……自分でも気持ちが悪い。
不安を全て 手放して……。安心材料だけを集めたくなる。
なのに、生真面目な友人……。荒井一志は、取り乱しているようには見えない。
考えれば考えるほどに、釈然としないのだ。
最悪の場合……。今まで倒してきた……。今 目の前で爆散した 只のピップコートですらも……。
……そんな可能性を想定して 気構える優しさは 持ち合わせていないものなのか。
…………。
……。
伊世伝次が、荒井一志に向けて 個人間だけでのボイスチャットを繋ぐ。
依然として、戦いは続く……。そんな中での……。
繋ぎたい可能性への……。
……全ての ちょっとした断片。
…………。
「 一志、どう思う。 」
「 何がですか ?
情報が少なすぎて ちょっと 意図が わからないんですが……。 」
…………。
戦いを継続させる中で、器用に意見交流できるまでには 2人の実力は、向上しているようだった……。
適当な青年の心の中は今も 平静ではない。
…………。
「 レッドコートだよ。
こんな状況なんだ わかるだろ !
本当に人間が怪人に成るなんて……。あり得るのか ? 」
「 …………。 」
…………。
荒井一志は、小剣型武装デバイス L,L,Eで ペンタクル・ペイジを刺突によって爆散させる。
生真面目な青年が 無言なせいか、適当な青年が話を先に推し進めた。
これに対して……。反応が帰ると……。2人の内面がぶつかっていく……。
…………。
「 俺達が今 戦っている こいつらも……。実動班の誰かだってのか ?
それを 有馬さんは 五班長は……。
だとしたら俺は……。 」
「 ……伝次。それ以上はダメですよ。
自分達は少なくとも、彼誰五班の班員を 取りまとめる班長を任されているんです。
有馬さんだって……。
好きで そうした訳じゃないでしょう。 」
「 知ってるよ それくらい !!
けど……。それじゃ お前は !!お前は納得できるのか !?
もし、界が……。界が 同じような事に成っても !!
理屈で納得できるのかよ !! 」
「 ……自分は。 」
…………。
沈黙だった……。
伊世伝次の 言い分が、具体的な形を成していなくても 伝わったのか……。数秒の沈黙が発生する……。
周囲の戦いの音に埋もれてしまいそうな 数秒……。
適当な青年は、自分の正統性を押し込もうと ダメ押しの感情を吐露する。
…………。
「 納得できないんだろ !?
お前だって俺と同じで……。割り切れないんだよな ?なら……。 」
「 ……それなら、伝次は 界を人殺しにしてでも 近くで肩を並べられますか ? 」
「 ……なんて……言った !? 」
…………。
何気ない瞬間に、身体をどこかしらに 強くぶつけたような……。言葉だった。
そして、主導権は 荒井一志へと切り替わる。
…………。
「 見知った人物が、本人の意図に関わらず人殺しになっても……。
平気か どうかを聞いたんです。
関 さんは 生前……。
自分達みたいな新米にも面倒見が良くて、当時 多忙だった丹内 さん に変わって、格闘訓練に付き合ってくれました。
その時の しごきは、
今も行方不明の 木田郷太 旧一班長とも変わらない厳しいメニューの連続でしたね。
関 さんは、22災害で家族を亡くしたから強くありたいと……。
生まれ育った街の平和を自分も護りたいのだと……。
そう、話していました。
伝次も覚えていますよね ?
界 と 3人で ボロボロになって、その後にカレーを食べながら話した日の事です。 」
「 …………忘れる訳ないだろ ?
だから俺は…… ! 」
…………。
伊世伝次の反論は……。反論には弱い……。さっきまでの不定形な言い分が……。勢いを弱める。
…………。
「 ……だからこそです。
伝次の知っている 関あかり さんは……。
人に手を かけようとする弱い人間じゃ無かったでしょう !
だからこそ……。
自分は 全力で戦います。戦わなければ……。ならない。
打開策を探したい気持ちに 嘘は有りませんが……。
今までを生きた人達が 護った全てを、当人達に壊させたくはない。
そんな悲しい事が起きないように、ギリギリの所で見極めたいと思っています。
だからこそ、自分は 今 戦っています。 」
「 …………なんだよそれ。
俺が……馬鹿みたいじゃないか……。 」
「 良いんですよ。戦いましょう伝次 !!
一緒に……。戦いましょう !! 」
…………。
拳と拳をぶつける事も……。握手する事も出来ない距離で……。
確かに形を実感させる……。頼もしさ。
同期 通しの 目線が……。確かに並んだ……。
………………。
…………。
……。
~天使型~
特務棟……。
特務開発部の 一角にある 部長室では……。
白衣の青年 天瀬十一が、つい先程の出来事を思い出し 早速の作業を進めていた。
つい気程の出来事だった……。
太陽のアルバチャスが、突如出現した。
どうやら、神地聖正に知らされた 解錠コードを 使えば、神地データの開放領域を増やす事が出来る……。
そんな口ぶりだったのだ。
…………。
……。
天瀬十一は、大代大との相談の上 特務棟周辺の安全性を確かめると……。
一度 特務棟の屋内に戻って来たのだった。
今のところ……。
どの戦闘処理も、不利な状況には成っていないようだ……。
…………。
……。
試練の英雄にしか開示されない 多くの知識……。これは、現在において唯一無二の価値を持つ。
現在の APCを直接的に管理している、世界的な企業……。
World-Exchange's-Bay。
(ワールド・エクスチェンジズ・ベイ)
World-Exchange's-Bayは、アルベギ族民話を元に 光の試練に関する情報を持ち合わせているようで、
22災害が発生する以前から、長い間 活動している事も判明してはいるが……。
カシュマトアトルの英雄譚等を元に残された記録も、全てを知るには 情報が足りない。
W.E.Bをもってしても、得られない情報が……。神地データの中に……。有る筈なのだ……。
白衣の青年は、今の状況を打開したい 一心で……。
解錠コードを入力した。
…………。
……。
一瞬……。パソコンのディスプレイが 処理落ちをしたのか、僅かに暗転してデータが展開される。
白色のカラーが特徴的な 神地データのウィンドウが開く。
…………。
……。
到達できなかった深度の、多くの項目が解錠されたようだった。
今までは表示すらされていない 選択項目まで 増えている……。その全てが選択できる訳ではないし……。
中には、見出しタイトルすら暗転して伏せられている項目もあるが……。
…………。
「 これが……。神地さんの記録……。 」
…………。
数々の項目の中から……。
……マルクトの素養や、エヌ・ゼルプトに関するレポートを見つける。
簡略化された概略や、リンク先が紐づけられた目次に目を通す……。
…………。
「 現在に置いて最も危惧すべきエヌ・ゼルプト……。 」
…………。
1つの項目が視線を離さなかった。
白衣の青年は、心を静めて この項目について読み進めていくと、2種類の怪人についての記述があった……。
恋人のエヌ・ゼルプト、ナティファー……。記憶の移送を行う。
悪魔のエヌ・ゼルプト、レト……。生命体への完全なる擬態を行う。
…………。
「 恋人と……。悪魔……。 」
…………。
ナティファーは 自己から他者、他者から自己へ 生きた記憶の移送が可能なようだ。
これは、効果が未知数で 精神干渉を行える、危険な特性だと思われる。
どこまで自由の効くものか 定かではないが、場合によっては肉体の死を超越する用途も可能なのかもしれない。
…………。
……。
一方で 悪魔のレトは……。
自己の記憶、経験、外見、あらゆる面において擬態を完遂させる。
その非常な能力は、自分自身でさえ擬態後の自覚は消え失せ、試練を行う生命体の群に溶け込むに至る……。
口伝による伝承では、かつて光の試練を成し遂げた部族の戦士すらも、これを最も嫌悪し危惧したようだ。
気がついた時にはもう 遅い……と。
このエヌ・ゼルプトは、完全擬態を行った後、少しずつ 元の残忍な性質を表層化させるらしい。
確かに、知古の間柄でも 自覚の無い状態の怪物が紛れていては 恐ろしくてしょうがない。
まるで、試練に挑む 全体の調和を乱す為だけに存在するかのような、不和のエヌ・ゼルプトである……。
この変化は時間によるものか……。それとも別の要因によるものか幻視においても記されていない。警戒する必要が有る。
…………。
「 悪魔とは……。
最も不可解で……。まるで意味不明を形にした不条理の象徴……。
有馬 君が、聞いた言葉の意味か……。
記憶を操る 恋人のエヌ・ゼルプト……。
そして、偽りの姿をした悪魔のエヌ・ゼルプト……。
神地さんが 警戒していた怪人達……。 」
…………。
白衣の青年 天瀬十一は、2つのエヌ・ゼルプトの異質さに改めて 驚愕する。
他に現在の自分達に役立つ情報が無いか……。読み進めていく……。
以前に聞いた 悪魔への警戒を促す 何かがあったように思えたが どうにも うろ覚えで……。この時は思い出せなかった……。
………………。
…………。
……。
~試練~
天瀬十一は他に現在に相応しい情報は無いか急いで探した……。
戦いは……。信頼のおける仲間に任せられる……。
自分にしかできない事を……。
…………。
……。
一六型での情報管理は、自室からでも出来る。
それならば、実際の戦闘処理の場に出るのは 意固地な自分のわがままだ……。
仲間達が 各々の戦いに集中できるように……。
それが、今の自分にできる戦い。
…………。
……。
天瀬十一の パソコンのディスプレイには、黒のデータウィンドウと 白のデータウィンドウが展開されていた。
今起動してる ディスプレイは 3つ……。全てで別々の作業を進められている……。
パソコンのキーボードを叩く音が……。強く……。そして、一定の速度で継続され続けた。
…………。
白衣の青年は、一六型の情報武装の操作の合間にも 並行して幾つかの作業を進めた。
…………。
1つは……。神地データの中で 他に有益な情報が無いか……。出来れば……。レッドコート種に関するもの……。
天瀬十一にとっても、かつての仲間が どうにかなるような事象は避けたい。
神地データにおいては……。他のエヌ・ゼルプトについての情報も……。有益な精査対象に該当する。
…………。
別の 1つ……。父 天瀬慎一(アマセ シンイチ)が残したカムナ・ボックスの追加の解析……。
code-16-と レヴル・ロウは、神地聖正と共に 白衣の青年が作り上げた systemだが……。
code-0-や code-7-は違う……。
DEF にしても そうだ……。
アルバチャスに眠る可能性が 必ず 残されている筈……。
2人の 身近な偉人が残した 物の中に……。今の打開策を、探した……。
…………。
白衣の青年の両の目が……。多くの情報を 追いかける……。
…………。
「 神地さんと 父さんは 元々一緒に 高め合った仲だった……。
そして、2人の残した データの アルゴリズムの癖の一部は、ほんの少しだけど 似ている。
……元々の癖か ?
もし、同様の思想や 癖があるのなら……。
父さんの残した データボックスにも、表示されていないだけの 暗号化された領域がある。
もしくは、それに近い 形式の隠されたデータが……。
……そうじゃなきゃ、あそこまで丁寧に 移設用の 手順を残しはしない。
なら……。同様に何かしらの 解錠方法が……。
……有る筈だ。 」
…………。
膨大な量の データに目を通した……。
これまでに 閲覧した ものの 再確認と……。新たな領域での 暗号化されている文章の洗い出し……。
神地データの中には……。意味のない 文字の羅列も混じっているようで……。見極めには神経を注ぐ……。
そして……。
先程の 2体のエヌ・ゼルプトの情報に次いで 有益そうな情報の断片を見つけて……。解析が終わった。
…………。
……。
エヌ・ゼルプトの傀儡の上位種について……。
…………。
……。
これが……。この項目のタイトルだった。
白衣の青年は この項目に記されている文字を 視線で追いかける……。
…………。
……。
エヌ・ゼルプトの傀儡の上位種について……。
試練が進むと マルクトの活性状況やエヌ・ゼルプトの撃破数等 に応じて、傀儡の上位種が出現する。
傀儡の上位種は英雄のマルクトの素養に近い性質を持つようになるらしい。
例えば、火のマルクトを選択していれば全ての傀儡が火の性質を……。
水のマルクトを選択していれば 水の性質を……。
これは 試練が苛烈を極めるほどに顕著になるようで、とどのつまり……。
同質の相手に 苦戦する事は 自身の能力に かまけ、地力が伴っていない事を示唆するのかもしれない。
…………。
この段階で傀儡に付与される マルクトの性質は……。
付与される以前にも、似たような性質を 元来の性質として持つ者はいる……。
例えば……。土の性質を持ち地上を徘徊する斥候……。ペイジ型。
風の性質を持ち空を掛ける騎士……。ナイト型。
水の性質を持ち液体化の性質を持つ女王……。クイーン型。
火の性質を持ち高い破壊力を体現する王……。キング型。
…………。
傀儡の上位種は、これを より強く……。顕著にして……。
元々の性質の上に重ね合わせたような もののようだ……。
例えば……。
太陽のアルバチャスの製作を想定して、火のマルクトを選んだわけだが……。この場合……。
エヌ・ゼルプトを数体倒した段階等で……。傀儡が火や熱の能力を持つようになる という事だろう。
具体的に想定するのであれば……。
…………。
ペイジ型は……。無数の数で侵攻する 焼夷弾のような火種となり……。
ナイト型は……。空から 地上を焼き払う 驚異の強襲兵へとなるのだろう……。
杖の特性に拍車をかけたような破壊力を持つのは厄介だ……。
クイーン型は……。液体化の性質と 熱の性質を両立出来るのなら マグマとでも戦うようなものだろうか……。
キング型は……。元々の素体として保持する 火の性質が どこまで乗算されるものなのか……。
杖と王……。そして上位種としての火の特性が重なった場合……。極まった 焱(エン)による危険性は 未知数である……。
…………。
ならば、これらが現れる前に 何らかの対策が必要だ。
例えば、自分が扱う以外のマルクトを 戦力として、転用は出来ないだろうか……。
マルクトから抽出した アルカナの光を貯えて、
四代元素とは異なる、ニュートラルな戦力を生み出す事は出来ないのだろうか……。
概ね 21年の猶予が過ぎ去るまでに、間に合わせなくてはならない。
…………。
……。
白衣の青年は、神地聖正が残した記録の 1つを読み終える……。
…………。
……。
傀儡とは……。ピップコートの事のようだ……。
エヌ・ゼルプトから見た場合の、自在に扱える 戦力としての名前なのだろう……。
上位種……。
これに該当するのは、レッドコート種だ……。
確かに、従来のピップコートとは比較に成らない 厄介な相手……。炎熱を操る様は、太陽のアルバチャスを彷彿とさせる。
code-19-は 火のマルクトを使用し設計されているのなら、レッドコート種が 同様の……。
または 類似の能力を持つ事は、想定されていた事のようだ。
…………。
……。
光の試練に ついての情報は 今も乏しく……。
人間が レッドコート種に変異した理由と 結びつくような内容も、この中では見当たらない。
…………。
白衣の青年 天瀬十一は、3つのディスプレイに注ぐ意識を 途切れさせず……。
情報の精査を継続した。
………………。
…………。
……。
~戦馬車の逆位置へ~
謎の仄暗い洞……。
光り溜まりの淵……。
…………。
……。
青白い光りが洞内を照らす 景色の 1点に光りが集まると……。
その光りは、真紅の戦士の形となって 顕現する。
真紅の戦士には……。先程の戦いでの 影響が残っているようだった。
独特の体表に傷こそ見当たらないが……。何かしらの消耗をしているようで、様子が いつもとは異なっている。
その声にしても 普段の仄暗い 声とも異なる、猛々しい声だった……。
…………。
「 ここは……。どこだ……。
……アストラでも 無いのか ?
そうか 少し時間が……。進んでいるのか……。イェルクス……。レト……。ドゥークラ……。
あいつら また…… !!……グゥ !!……またか。
身体が…… !! 」
…………。
光り溜まりに満たされている アルカナの光が……。真紅の戦士に集約される……。
……その後には、猛々しい声は聞こえなくなった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
N-06 地区……。
復興地区の荒れ地で 戦馬車が疾走する。
戦馬車のアルバチャス……。code-7-……。丹内空護は……。
すっかり見慣れた瓦礫の中で、2体のエイオスと激しい戦いを継続させていた。
先程の幻覚や幻聴で、調子を狂わせて 攻勢を許してしまったのだが……。どうにか 戦況を覆した……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
既に、幾度となく 護符の恩恵を乗せた 刀剣型武装を振るっているが……。
相手のエイオスも手強い……。
レッドコート種……。RCソード・キングは、剣の扱いに心得があるのか……。
もう 1体の怪人への攻撃を 巧みに防いでくる。
RCソード・キングの赤熱する大剣と、戦馬車の刀剣型武装 B.A.Swordが ぶつかり合う。
両者の剣の重さは同程度で……。拮抗する……。
だが、つば競り合いが長引けば……。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
…………。
もう 1体の怪人……。赤眼の巨怪……。ポメグラネイトからの奇襲を許してしまう。
丹内空護は、ホバー滑走で後方に下がり……。つば競り合いを中断させる。
すると、調度 今ほど 戦馬車のアルバチャスが 陣取っていた位置には、光の短槍が飛来していた……。
…………。
……。
赤眼の巨怪……。ポメグラネイト……。
レッドコート種と殆ど同時期に確認されるようになった、謎の多いエヌ・ゼルプト……。
片翼 5枚の翼を持ち……。片腕の形状は歪で 未曽有の驚異となっている。
現在の段階では、特務開発部においても 調査が進まず……。
エヌ・ゼルプトに共通項として上げられる特徴、タロットカードの特徴も何が該当するのかも不明だ。
今のところ、言語も発する事が無い為……。
不気味な空気を 濃くする存在でもある……。
…………。
明確なのは、片翼 5枚の翼での 見た目以上の迅速な飛翔速度を持つ事……。
また、この翼による耐久性も高いようで 生半可な攻撃では、翼を盾にして防がれてしまう。
片翼 5枚の翼では……。機動性と耐久性を賄っているのだろう。
…………。
この怪人の 攻撃手段としては……。
…………。
歪な形状の片腕が 大部分を担っている。
この片腕は、単純に振り回す鈍器としても充分な硬度と重さを持っているようだ。
刺突武器のような先端部分は、刺し貫く大きな突撃槍のようでもあり……。同時に……。
遠距離攻撃を可能にする 飛び道具のような役割をも持っている。
先端からは、光の短槍を 射出するのだ。
この本数も 限度が無いのか……。同時に 5~10本以上を撃ち出してくる事も有る……。
アルカナの光が 圧縮された 杭 にも見える短槍……。
例えるのなら、半実弾とでも いうような……。その時 限りでは実体の有る 飛び道具だ。
直線状の相手には これを使用してくる事が多いようで……。
…………。
それならば……。
…………。
ホバー滑走によって、絶えず 回遊すれば……。側面からの攻撃を狙えば……。
そう考えたくもなるが……。そうもいかない。
…………。
何故なら……。
赤眼の巨怪……。ポメグラネイトの もう 1種類の攻撃手段にも警戒する必要があるからだ。
歪な片腕の 肘鉄から延びる 黒色の闇のような鞭……。
これは 常時、5本以上には枝分かれするようで……。
その 1本 1本が、別々に のたうち回っては 光の短槍とは異なる広範囲へと脅威を成す。
単純に 鞭の先端での 突き……。薙ぎ払い……。締め付けや捕縛……。
枝分かれの本数が増えるほど、可能な手数は増大する……。そういった具合だ……。
中途半端な 接近戦は、簡単に足元を救われるだろう。
僅かな隙を狙って、会心の一撃を狙うしか有効打を与える事には成らない……。
…………。
……。
自由に暴れる ポメグラネイトを、RCソード・キングが 補填するように立ち回っている。
片方を真っ先に倒そうにも……。簡単ではない……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
丹内空護は 意を決して……。
DEF 星の恩恵と 護符の恩恵を乗せた 杖型武装を振りかざす……。
杖型武装 B.A.Wandの先端から 火球を飛ばして、これを星の恩恵で 複製した……。
護符の恩恵で高められた高密度の火球が、大量に飛んでいく。
しかし……。
…………。
「 ……足りないか。それなら。 」
…………。
火球の 幾つかは、RCソード・キングの大剣に防がれてしまい……。
ポメグラネイトも、5枚の翼で防いだようだった。
…………。
……。
戦馬車のアルバチャスが、別の恩恵を動作させようとして DEFを起動する。
DEF を動作させると、自身の側面 中空に現れる 3つのホログラムのロゴから……。
太陽の ロゴを選ぼうと、手の甲を近づけた。
…………。
……。
手の甲が 太陽のロゴに触れるよりも 前に……。
ある出来事が……。再発する……。
DEF の各種機能とは異なる 出来事。
幻覚と……。
幻聴が……。
丹内空護に、ある人物を感じさせる。
…………。
……。
夢川結衣(ユメカワ ユイ)……。
…………。
……。
その人物の声が 直接 耳の奥に届く……。まるで、息づかいさえも 感じられるように……。
…………。
「 ……そうです。殺してください。
相手を……。
全てを……。
世界でさえも……。貴方が殺してください。
この世界の平和の象徴……。戦馬車のアルバチャス……。 」
…………。
code-7-の頭部を覆うマスクの中で……。
丹内空護の目は見開かれて、心の奥底での恐怖が膨らむ……。
DEF を起動しようとしていた手は止まり……。
またしても、2体のエイオスにとっての転機を作ってしまう。
…………。
闇色の鞭が、戦馬車のアルバチャスを上空へと 打ち上げて……。
RCソード・キングの大剣から炎が伸びる……。赤熱した鋭い刺突が 丹内空護の脇腹を刺し貫いた。
鈍い音が鳴った。
戦馬車のアルバチャスは、地面への着地を失敗したようだった……。
本来ならば 体勢を立て直して、即座に反撃の機会を伺う所なのだが……。それどころでは無かった……。
精神が揺らぎ……。本来なら受ける筈のない攻撃を、貰ってしまったのが 今の結果だったのだ。
…………。
丹内空護が……。
再び 劣勢に陥っていた……。
脇腹から 血を流し……。立ちあがるが……。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
滑走機能によって、機動力を取り戻すが……。
戦いの場で勝利を呼び込む 戦馬車のアルバチャスとしての 戦いは、未だに取り戻せない……。
…………。
……。
そんな錯綜(さくそう)した状況の……。N-06 地区に……。
ある人影が近づく……。戦馬車のアルバチャスのいるエリアまで……。後少しだ……。
その人影は……。
丸七型……。小銃型武装デバイス R,R,G携行……。恵花界である……。
………………。
…………。
……。
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