- 25話 -
揺るぎない軸
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目次
~生きる戦い~
数十秒前までは 穏やかだった、ある日の事……。
怪人エイオスの出現を警報が知らせた……。
…………。
『 緊急速報です。 N-04 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 N-04 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。 』
…………。
出現区域は 1箇所……。
あらわれた怪人の数は……。とびきりに多い……。
定点カメラの少ない地域だったが、即座に飛ばした 諜報用のカメラ付きドローンが これを映す。
N-04 地区に出現した エイオスの中には、最近の ニューヒキダ全域で 散発的に目撃されている新手の姿も確認できた。
赤眼の巨怪……。ポメグラネト……。
赤熱したピップコート種……。レッドコート……。
レッドコートは、ソード・キング型のみが 1体……。
他には、クイーン型も ペイジ型も ソードとカップの いずれかに相当する武器を携行し 疎らにいるようだ……。
多岐にわたる 新手を囲むようにして、通常のピップコートまでもが 大量に現れている。
通常のピップコート種は、ワンド・ナイト、ペンタクル・ペイジの 2種類のみのようであった。
これほどの、大量のエイオスが大挙したのは マーへレスとの最後の戦いを彷彿とさせる……。
…………。
復興が進む N 地区に、執拗に表れる怪人達に……。
多くの仲間の敵(かたき)に当たる怪人達に……。
……それぞれが、戦意を燃やして 戦闘処理に赴いた。
…………。
N-04 地区に急行したのは、彼誰五班 総指揮長……丹内空護……。
第三班長……。伊世伝次と、第三班の総員 10名 1個班編成の 計 11名……。
第四班長……。荒井一志と、第四班の総員 10名 1個班編成の 計 11名……。
そして、復帰してから数日が経過した 元四班長 恵花界……。
…………。
装備の内訳としては……、code-7- 1名。
丸七型については……、伊世伝次は 小銃型 R,R,G携行……。荒井一志は 小剣型 L,L,E……。
班長以外の各班員は、既存の編成のままで 現地への早急な到着を目指した……。
恵花界に関しては、本人が強く熱望している事と 過去の実績を加味して、丸七型の予備分が支給され……。
今回の戦闘処理に置いては、小剣型 L,L,E を携行している……。
…………。
……。
特務棟では、戦況の分析と 更なる新手の出現等……。
考えられる 不確定 要因への備えとして、戦力を残した……。
特務開発部の フロア用 モニターの前では、天瀬十一と 残りの 2人の彼誰五班班長が言葉を交わす……。
1人は、第二班長……。大代大……。
1人は、第五班長……。有馬要人 である……。
白衣の青年が、今回の戦闘処理における 事柄について 話し始めた……。
…………。
「 有馬 君も、大代さんも……。
残ってくれて ありがとう。
エイオスの数は確かに多いし……。
新手のエヌ・ゼルプトと レッドコートも確認できているんだけど……。
逆に 地域が偏り過ぎている。
万が一に備えたい。 」
…………。
白衣の青年の 言葉に 青年が 応答する。
温和な青年、大代大もまた 異議の無い旨を口にした……。
…………。
「 気にしないでください。
俺も 理解しているつもりです。
レッドコートもポメグラネトも未知数ですからね……。
空護さん よりも、俺を残したのは間違っていませんよ。 」
「 そうだね……。
指揮系統は 現場での経験が 多い方が安定はするし……。
逆に、丹内さんを 残していた場合、急なイレギュラーへの対応に遅れる可能性が高い。
機動力の高い code-0-で戦える 有馬 君の方が、遊撃や急な対処には向いている。
僕の場合は……。
必要に応じて 増援として戦う……。
もしくは、防御用の 補備戦力って感じだろうね。
期待には答えるよ。天瀬さん。
それに 今回の現場の方も、同期 3人の共闘……。少し肩に力が入ってそうだけど……。
丹内さんが いれば 良い塩梅に、引き締まるでしょ。 」
…………。
温和な青年 大代大の、俯瞰的で 緩んだ 口調が 緊張感を適度に和ませた……。
青年 有馬要人は、ただ一点の 気がかりな出来事に触れた。
これには、天瀬十一も 気になっていたようで 返答を返す……。
…………。
「 ですね……。
空護さん の実力もそうですけど……。
チャリオットにも、DEFが搭載されてるので 余程の事が無ければ問題は無いと 俺も思います。
気になる事が有るとすれば、code-7-の systemが誤作動 ?ですかね……。
不可解な動作をしているんですよね ?
原因は判明しているんですか ?
十一さん。 」
「 アレの事か……。
確かに、俺も気に成ってはいるんだけど……。
DEFも、アルバチャスの根幹部分も複雑でね……。
未だに それらしい要因の目星は付いていないんだ。
現状では、code-0-と比較しても 別段 差異は見当たらない。
解析が進んでいない 部分は とても、デリケートな回路で 慎重に、
そして迅速には今も 演算が進んでいるよ。
現段階では、これまでに code-7-のsystemで 不可解な状況が発生した回数は、
姿が変わった時の 1度……。
DEFが 強制的に解除された時の 1度……。
合計 2度だね。
それ以外では、DEFも何の障害も無く発動できているようだ……。
けど、万が一の時は……。 」
…………。
青年が抱く 懸念は、天瀬十一も抱えていたが……。
今 直接 取りうる抜本的な解決策が無い事、それでも尚、後手の対策手段が全くない訳では無い事を口にした。
これを聞いて、後手の解決手段を賄う 青年 有馬要人が、力強く応答する。
そして、これを きっかけにして 白衣の青年を気遣った。
温和な青年は、一連の やり取りを耳にして 賛同する……。
…………。
「 万が一があれば、
俺が DEF をノッけから 使ってでも跳んでいきますよ。
特務用の通路から、B.A.Wandと B.A.Pentacleも併せれば 直ぐですから。
大丈夫です。
だから、十一さんは……。
もっとオペレーションとかに専念しても良いんですよ ? 」
「 確かに、有馬 君の言う事も一理あるね。
天瀬さんは、無理に戦う必要は無いかもしれないね。
やる事が多すぎるんじゃない ?
皆 成長している。
こないだ だって、伊世 君が 関さんを救助 出来てたんだし。 」
…………。
ちょっとした タスク整理の提案だった。
本人は何食わぬような顔をしているが、
天瀬十一が 激務の中に身を置いている事は誰が見ても明確だったからだ……。
何かの きっかけや、時期が有れば 何を理由にしてでも……。
これに、一石を投じたいと考える人は少なくない……。
有馬要人と 大代大は、今回の流れが 上手く転換すると淡い望みを抱いて、投げ込んでみたのだが……。
…………。
「 すまない……。けど心配には及ばない。
俺は 大丈夫さ。
今は、多くの問題を抱えていたとしても、その全ての優先順位を変える訳にはいかないよ。
……それに、今でも充分 戦いからは離れている。
だから、非常時くらいは 戦える力を持っていたいんだ。
俺の事よりも……。
そうそう……。関あかり さんの事なんだけど……。
今も意識が戻らなくてね。
全身のメディカルチェックは全て クリアできる水準なんだけど……。
どうして、意識が回復しないのか……。
脳波にも異常は見当たらないし……。
どこかしらの、臓器を患っている訳でもないのに……。 」
…………。
青年は 大代大と 軽く顔を見合わせて、先程の意見具申が不発に終わった事を認識し合った。
温和な青年は、少しだけ 間を置いて 会話の流れに合わせる。
…………。
「 関さん……。
今も回復しないのか……。
不思議だね……。
あんなに 格闘戦でも優秀な成績を残す人だ……。
体力は 人一倍ありそうな もんだけど……。 」
「 確か……。
旧 木田一班の エース・ファイターでしたね。
俺は、接点が 少なかったんですけど……。
伝次や 界は、格闘戦では模擬でも 油断できない相手だって 言ってましたよ。
武具の扱いも上手く、いつ戦っても見習う点が多かったと……。 」
…………。
青年も、大代大の言葉に続けるようにして 自身が知りうる事を思い起こした。
関あかり……。
彼誰五班 旧 一班所属……。一班長 木田郷太の優秀な片腕を任される 女性班員だ……。
特別体格が優れているなどの アドバンテージが無くとも、器用に立ち回り 重い攻撃を繰り出す技巧派の人物である……。
血の日食の仲での行方不明者に含まれていたが、
恵花界が 救助された同日……。伊世伝次が 発見し 救助を成功させた。
その時には既に、意識は無く……。どういった経緯で 生還したのかも わかっていない……。
判明している事と……。
恵花界の実体験を 基にするのであれば……。
日樹田地底湖と思われる洞の中に 連れ去られていた人物の 1人であったという事だ。
関あかり の件と紐づいて、今も行方不明の 多くの仲間達の安否が 気遣われる……。
…………。
……。
空から地表を照らす太陽は、暖かい光の恩恵を振りまく傍ら、
誰にも気がつかれないような所で 葉を焼き、黒く焦がしていく……。
…………。
……。
特務開発部の中に設置されている あるデータの母体が、静かに動き出していた……。
天瀬十一の 業務用のパソコンにも、進捗状況だけが転送されているようで……。
ディスプレイには、不穏な文字列が映し出されている。
Absolute 13 standby...
( アブソリュート サーティーン・スタンバイ )
白色の バックスクリーンに対して、不釣り合いな 文字の羅列だった。
赤色の太陽のロゴが 裏帰り、黒い鎌のロゴに変わる……。
…………。
……。
ニューヒキダの どこかの一角では、
code-19-に類似の物陰が熱を漂わせては、周囲の大気を揺らした……。
………………。
…………。
……。
~防御~
N-04 地区では……。
彼誰五班の面々と、複数の新手を混じえた怪人達が……。
激しい乱戦を 勃発させていた……。
…………。
乱戦の中心には、赤眼の巨怪……。ポメグラネトが、特異な形状の片腕で 広範囲に影響を及ぼしている。
刺突武器型の先端からは、光の短槍を 散弾銃の弾丸のように 一定の時間差で乱発させて……。
その反対側から伸びる 黒い闇色の触手では、後方や側面を薙ぎ払うように打ち据える……。
今回 現着してる彼誰五班の主要編成は、銃射撃型のレヴル・ロウが 多く……。
怪人の射程外……。つまり、アウトレンジからの掃射が主要動作となっているのだが……。
弾幕の殆どが、ポメグラネトの 5枚の片翼によって防がれてしまっていた……。
…………。
ピップコート種の変異型と思われる レッドコートにしても、高い攻撃力や素早い身のこなしが驚異的で……。
レッドコートの ソード・キング型は、ずば抜けた近接戦闘能力が……。
レッドコートの カップ・クイーン型と ソード・クイーン型は、独自の液化する身体による 変則的な行動が猛威を振るう……。
通常のピップコート種は……。ワンド・ナイト、ペンタクル・ペイジの 2種は……。
耐久力こそ、さほど高くはない為……。1体 1体の処理に要する 時間は少ないが……。
物量による行動阻害能力は、彼誰五班の 個々の動きを ジワジワと乱していく。
…………。
彼誰五班の総指揮長……。丹内空護は、次々と ピップコート種を爆散させていた。
勇猛な奮戦を繰り広げるのは、丹内空護だけではない。
この場で戦う 各班長や、班長と同程度の実力を持つ人物も含めた、丸七型の 3人も 各々の戦い方で 複数の戦果を上げている……。
これによる お陰なのか……。日々の訓練の賜物か……。
今のところ、彼誰五班の面々に死傷者は 1人も出ていない。
…………。
『 Rebel Function !! Pentacle !!
( レヴル ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
第三班長……。伊世伝次が、小銃型武装 R,R,Gによって 炸裂弾を撃ち込む。
何度目かの 炸裂弾が、ワンド・ナイトが密集する区域を吹き飛ばし……。
この群れの直下に紛れている、レッドコート種の カップ・クイーンをも爆風に巻き込んだ……。
…………。
『 Law's Function !! Pentacle !!
( ロウズ ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
第四班長……。荒井一志が、小剣型武装 L,L,Eによって 光の刃で刺突を放った。
光線のように 鋭く伸びる刺突が、複数の ペンタクル・ペイジ種を 次々と貫いていく……。
ありったけの突きで、ずんぐりした図体の怪人達を爆散させていった……。
刺突による猛撃は……。レッドコート種の ソード・クイーンの直剣にも迫る……。
…………。
混戦が続く中。
第一班班長補佐として……。
新手の怪人達への知見を買われて……。
特例の元、今回の戦闘処理に随行し 戦う人物は……。
戦塵に囲まれ……。レッドコート種 2体を相手取って 奮闘した。
相対する レッドコート種は、ソード・ペイジ型 1体と、カップ・ペイジ型 1体……。
レッドコート種の カップ・ペイジ型は、火炎放射器のような 銃撃で、その人物の 隙を狙う……。
レッドコート種の ソード・ペイジ型と 巧みに連携し 追い詰めるような 動きだった。
その人物は、丸七型の片腕に併設されている小型の盾で、火炎放射を 潜り抜けると 一気に反撃を繰り出す。
…………。
『 Law's Function !! Pentacle !!
( ロウズ ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
その人物……。恵花界による 小剣の閃きが、2体の レッドコート種に確実に刻み込まれた……。
植物好きの青年は、自身の攻撃の手応えの度合いを実感したようだ……。
…………。
「 ダメだ……。
……………………浅すぎるか ? 」
…………。
渾身の攻撃だったが、まだ届かない……。
往々にして、攻め込んだ後には……。大なり小なりの、隙が生じてしまう……。
植物好きの青年に……。ポメグラネトが放つ 光の短槍が迫った……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
光の短槍に、アルバチャスの銃撃が命中し……。中空で爆散した……。
アルバチャスの銃射撃は、恵花界が戦っていた 2体のレッドコート種にも命中し、後方へと吹き飛ばす……。
銃射撃を行った射手は、武装機能を速やかに切り替えると、B.A.Swordと B.A.Cupを両手に携えて乱戦に戻る……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
数秒の突風が、この場の半数以上の ピップコート種を爆散させた……。
……これと同時に、レッドコート種と ポメグラネトにも強打が 叩き込まれていたようだった……。
白い鎧のアルバチャスは、レッドコート種のソード・キング型……。
そして、赤眼の巨怪 ポメグラネトとの戦いに 主要な戦場を戻す……。
丹内空護が 周囲の班員を鼓舞した……。
…………。
「 怯むな !!
俺達は 戦う力を持っている !!
相互に背中を預けろ !!
落ち着いて 死角を潰していくんだ !! 」
…………。
戦馬車……。
タロットカードにおいては、7の数を関する 大アルカナであり……。
図柄に描かれた存在は、戦闘用の馬車に騎乗した 勝利の王……。
戦場の行く末を左右する 切り札である……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
最早、歴戦の強者とも言える人物 丹内空護の活躍は……。
特務棟からも確認できた……。
攻防 入り乱れる戦線ではあるが……。現地で戦う彼誰五班の勢いは衰えを見せない……。
この場にいない仲間達に捧ぐ 強く高い志と熱意は、炎熱を操るだけの怪人達に負ける筈がない……。
……そんな風にも見えた。
通常のピップコート種は その殆どが爆散しており……。戦いの中心は より一層……。
未だに しぶとく戦い続ける、レッドコート種達と ポメグラネトに向いていく。
…………。
白衣の青年 天瀬十一は、レッドコート種よりも 赤眼の巨怪や、エヌ・ゼルプトの存在が気になっていた……。
…………。
……。
ポメグラネト……。
…………。
……。
至る所には、とある 3体のエヌ・ゼルプト達の特徴が 散らばっている……。
節制 エリアイズ……。吊るし人 ウロド……。運命の輪 セドネッツァ……。
これらは、7日間の旱魃(かんばつ)において、大きな被害を出した 3体のエヌ・ゼルプトである……。
この 3体は、いずれにしても 特異な能力を操る 厄介な怪人達だったのだが……。
激闘の末に その存在の消滅を見届けられたのは、たった1体……。エリアイズのみだった……。
残りの 2体は どこに消えてしまったのか……。
そもそも、真紅の戦士や 黒翼の怪人も含めて、あらゆるエイオスが 姿を見せていない時には どこに潜伏しているのか……。
恵花界の実体験や、父 天瀬慎一や 神地聖正の過去の体験でも、エイオスとの強い関連を示唆する場所……。
…………。
……。
日樹田地底湖……。
…………。
……。
元々は、当時 強い影響力を持った土着の企業……。日樹田建設が関わった都市開発で その場所を見つけた事に成っている。
22災害の後には、そこへ至る出入り口も完全に埋もれており……。
遺跡の存在が認められた後の調査で、多数の人的被害を出した事も相まって……。
多くの記録が既に 抹消されてしまったようだ。
日樹田建設を仕切る 立木家は今では衰退しており、当時の分家筋……。
丹内七郎太の元へ 養子として迎え入れられた人物……。丹内空護ですらも……。殆どの情報を掘り起こせないらしい。
もし、仮に エイオス側にとっての本拠地に該当する場所が有るのであれば……。
白衣の青年は、これまでの出来事と得られた情報から予測を立てた。
…………。
……。
そこへ辿り着ければ……。
謎に満ちた、光の試練についても 生きた情報を得られる可能性が高い。
そんな風に思えた……。
…………。
……。
天瀬十一が……。
特務開発部の フロア用 モニターの前で……。
有馬要人や 大代大と共に、戦況を見守っていた……。
…………。
そんな折……。ある緊急の警報が、特務開発部の内線によって飛び込んでくる。
意識不明の女性班員……。関あかり の容体が 急変したようなのだ。
医療チームによれば、彼女の意識が戻ったのか……。寝台から起き上がったのだとか……。
これには 問題があった……。
天瀬十一は、急いで 手近なパソコンのディスプレイの映像を切り替えて、集中治療室の様子を確認する。
どういう訳か……。既に幾つかの 室内用の監視カメラが 破損しているらしく、映像を映していないコマも有った……。
関あかり が 移っている場所の映像は、ノイズが混じっているが 確かに異常事態が発生している事を確認できる。
有馬要人と 大代大は、急いで集中治療室から伸びる通路を目指した。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
APC 特務棟 屋内倉庫フロア……。
戦闘処理用の武装や携行食、他にも 多くの備品が 種類別に格納されているフロアである。
異常事態を呼びこむ 関あかり は、呻き声をあげ……。ふらつきながら……。
レヴル・ロウの武装型デバイスが 格納されている武器庫エリアに 近づいていく。
異常な様子への対抗手段として、至る所で 隔壁が起動していたのだが、それらに隔てられる事なく 関あかり は 辿り着いていた。
彼女の全身は、一切の怪我も無い……。
ある点を覗いては、健康にも見える喜ばしい状態。
関あかり は……。武器庫エリアに近づくまでの最短距離で……。全ての隔壁を破壊し……。辿り着いていた……。
生身の人間では あり得ない結果だ。これを成したというのに 外傷も見当たらないようなのだ。
そして ついに、武器庫の中に侵入していくと……。
レヴル・ロウの武装型起動用デバイス……。小剣型武装 L,L,Eを 手に取った。
…………。
「 …………アアァ……アゥ……。
……………………………………………起……動……。 」
『 Rebel Law !! Error !! Non Function..
( レヴル・ロウ !! エラー !! ノン・ファンクション.. ) 』
…………。
確かに、動作音は鳴り響くが……。誤作動を意味するもので……。
小剣型武装に充填されていた アルカナの光が……。妖しく輝く……。
関あかり は、異常な動作の 小剣型武装の剣先を、自身の胸中に深く突き刺した。
これに呼応するようにして、身体中からも赤色の光りが 噴出する。
眼窩や口腔からは、溶岩のような熱流が溢れていき……。全身を包んでいった……。
小剣型武装 L,L,Eは、胸中から引き抜くと
纏わりつく溶岩が形を錬成しなおすようにして、赤熱した色の直剣へと変質する。
…………。
……。
屋内倉庫フロアの武器庫に、2人の人物が辿り着く。
青年 有馬要人も、温和な青年 大代大も……、自身の目を疑った……。
数秒前まで、自分達の仲間だった者の形が……。今 戦いの場で 注目度を高めている怪人と同様な形に変わったのだ。
…………。
「 ……そんな馬鹿な事が。
あの赤い怪人達は……。嘘だろ。 」
「 僕も……。
信じたくないよ。冗談には キツいな……。
有馬 君……。ここは……。 」
「 そうですね。こちらも 相応の準備を すませましょう……。
いきますよ……。大さん……。 」
…………。
レッドコート種の ソード・クイーンと視線が かち合う……。
その動きは、まだ 緩慢だが……。危険な状況には変わらない……。
有馬要人と 大代大は、それぞれに 戦いに赴く手段を動作させる。
…………。
「「 起動 !! 」」
『 Arbachas code-0- !! The Stupid Function !!
( アルバチャス コード アイン !! ストゥピッド ファンクション !! ) 』
『 Rebel Law !! -07-Custom !! Function !!
( レヴル・ロウ !! ゼロセブン カスタム !! ファンクション !! ) 』
…………。
青年 有馬要人は、B.A.Swordを展開して 逆手持ちで構える……。
大代大は、小銃型武装 R,R,G を握り……。抗戦の準備を整えた。
…………。
関あかり だった、赤熱の女王型は……。
熱流に変化する足元で滑るように 移動する……。まるで、ホバー・チェイサーのような柔軟な 滑走だった。
鋭く強い殺意を尖らせて、赤い直剣で切り込んで来る。
直接的な 斬撃には、有馬要人が 防御を担い……。大代大は、銃撃と打撃で武器の破壊を試みる……。
しかし……。
…………。
「 やはり硬いな……。簡単じゃない……。
有馬 君 どう思う……。 」
「 強い殺意や破壊衝動みたいなものが感じられます……。
ですが……。
さっきのアレを見てしまったら、いつも通りに戦うにしても……。 」
「 僕も、同感だ……。
だが こんな状態だ……。野放しにも出来ないぞ。 」
…………。
青年 有馬要人の 心の中で……。葛藤が生まれてしまう……。
自分は どうするべきか……。
彼誰五班に属していた、行方不明だった班員の 1人……。関あかり……。
人間だった筈だ……。戦う必要など……。無かった……。
code-19-アポロンを駆る 神地聖正とも今回の状況は大きく異なる。
エイオスには 強制的な解除等……。ありはしない……。
その暴挙を止める場合……。
対象を爆散させる事しか……。少なくとも、アルバチャスの systemには、戦う手段しか無い。
屋内倉庫の至る所で、天井や 壁が 損傷し、炎熱によって火災も発生している。
防戦だけでは……。
スプリンクラーが動作し、2人の戦士を水浸しにしていく。
レッドコート種の 女王型と戦う、2人が葛藤を重ねる中……。鈍った判断力が隙を作っていた。
…………。
2人は 少しだけ、挙動が遅れて 対処した。
致命傷等の外傷には至らなかったものの、大きな失点をしてしまう……。
レッドコート種の 女王型を眼前から 逃してしまったのだ。
…………。
有馬要人と 大代大は、直ぐに落ち度の重大さに気がついて 後を追いかけた。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
APC 特務棟……。
職員専用 食堂 付近の 通路……。
このフロアに設置されている シェルターの隔壁を破って、レッドコート種の ソード・クイーンが 現れる。
赤熱した直剣の剣先を 進行方向に付き出して、シェルターの中の職員達に迫っていく。
シェルターの中に避難していた 1人……。天瀬真尋は……。
逃げ場のない 空間で……。
……身体を 大の字にして、立ちはだかった。
…………。
「 …………もう 嫌。
…………身近な誰かが傷つくなんて……。
お願い…… !来ないで……。 」
…………。
悲鳴すら 息を殺すような凍り付くシェルターの中で……。
赤熱した 女王型の怪人の接近を、女性が 遮ろうと 奮起するが……。
声も。身体も。震えが止まらない。
……それでも、自身の行動を止めたくなかった。
赤熱した女王型の怪人が、刻々と近づいていく……。
…………。
直剣の剣先が……。後少しで……。女性の胸元に届きそうな距離だった……。
…………。
……。
戦う為の姿をした 何者かが、ここに駆け付ける。
…………。
……。
その人物は、天瀬真尋と近しい人物の 1人……。
切り札の動作音が鳴ると、赤熱した 女王型の怪人を 進行方向とは真逆の壁に吹き飛ばす。
…………。
『 Law's Function !! Pentacle !!
( ロウズ ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
小剣型武装 L,L,Eの ナックルガードで、極まった殴打を叩き込んだ。
光の力が 充填された、小剣型武装による 反撃の打撃。
その人物は……。レヴル・ロウの姿をしてはいるが……。
既存型とも、丸七型とも……。異なる外見をしている。
両肩には 塔を彷彿とさせる、護る為の大型の装甲が目立っていた……。
…………。
「 怪我はないね ?
危ないから下がっているんだ。
俺が護る……。 」
…………。
その人物の 優しい呼びかけに、女性は安堵し……。後方へ下がった……。
塔のような特徴のレヴル・ロウは、しっかりと 小剣型武装 L,L,Eを握って、更に前方へ踏み出す。
周囲への影響を鑑みているのか……。
ホバー・チェイサーすらも使わず、レッドコート種の女性との距離を詰めた。
…………。
「 こんな所で、真尋まで 失ってたまるか ! 」
…………。
塔のようなレヴル・ロウを駆る人物……。
その人物の名前は……。
天瀬十一。
彼誰五班 副指揮長であり……。
天瀬真尋の兄である。
………………。
…………。
……。
~責任感と独断~
特務棟の屋外 駐車場では……。
天瀬十一が、レッドコート種の女王型と交戦していた。
つい先程……。
白衣の青年は、妹の命を……。
そして、その場にいた 仲間達の為を助ける為に戦う力を起動したのだった。
相手は……。かつての仲間だったが……。
シェルターの中にまで侵入していたのだ。背に腹は変えられない 差し迫った状況。
強引に 戦地を屋外に移して 今に至る……。
…………。
「 関 さん、すまない……。
俺には 貴女を助ける 手段は思いつきそうにない。 」
…………。
白衣の青年 天瀬十一は、今の自分自身が行使できる最大限度の力で 戦う。
赤熱した直剣も、炎熱の波動にも……。両肩の堅牢な 装甲で 対処する……。
…………。
……。
Rebel Law 一六型。
(レヴル・ロウ ヒトロク ガタ)
従来のレヴル・ロウに、code-0-と code-7-の特色を組み込んだ発展型の試作に当たるのが 丸七型である……。
これに対して……。
類似の発想で設計され、天瀬十一のみが使用する前提で……。
マルクトを組み込んだのが……。一六型である。
本来であれば、code-16-。
バベルの復旧が謀られていたのだが、どうにも アルバチャスの systemは暗号化されている領域も多く……。
system内で 破損個所が浮かび上がらないにも関わらず、バベルが実際に起動するまでに至らない。
現在も調査や再設定も進められているが、この間にも取りうる手段としての……。代案が用意された……。
天瀬十一が、直接の戦闘処理に 出られるようにする為の手段。
それこそが……。
Rebel Law 一六型。
(レヴル・ロウ ヒトロク ガタ)
起動方法は 既存の レヴル・ロウや 丸七型と同様。
専用の systemが組み込まれている 対応デバイスを、
その時に使用する武装機器に 装着して ロックを解錠する形式で起動する。
小剣型武装 L,L,E……。小銃型武装 R,R,G……。武装機器の選択肢は 同様に 2つ……。
この時の 天瀬十一は、code-16-と同一のマルクトを 対応デバイスに組み変えて……。
小剣型武装 L,L,E に装着して 一六型を使用していた。
…………。
理由としては、レッドコート種のソード・クイーンとの接近戦を想定した事と……。
バベルとは異なる 一六型の特色を上手く使いこなす事。
…………。
一六型の特色とは……。
まず、前提として 補助アームや 雷撃の操作で攻防に富んだのがバベルなのだが……。
一六型には エネルギー効率の悪い 補助アームは採用されておらず、
マルクトの不調からか実戦レベルでの 雷撃の操作も出来ない。
その為、長期戦や厳しい状況下での 継続戦闘能力を優先し 高い耐久性能を実現する方針が取られる。
一六型の両肩に目立つ それこそが……。それを実現する手段の現れ……。
……塔型補助装甲なのだ。
…………。
……。
一六型を駆る 天瀬十一が……。小剣型武装 L,L,Eと 両肩の装甲を使いこなして戦う……。
レッドコート種のソード・クイーンからの 猛襲にも 巧みに対処した。
白衣の青年の 堅牢な肩装甲が、赤熱した女王の直剣を 受け止める。
天瀬十一は、間髪入れず 小剣型武装 L,L,Eを 反対側の手に放り投げるように持ち変えた。
そして、直剣による攻撃を受け止める肩とは、反対側の手で 強く小剣型武装を握り込む……。
…………。
「 俺には貴女を助けられない。
……だから 言葉だけででも、罪の意識を表明させてもらう。 」
…………。
レヴル・ロウに共通で備え付けられている 必殺の一撃……。アルバチャスならば……。
アルバチャスならば……。出力強化を可能にする 護符の恩恵……。B.A.Pentacle……。
これと同質の、レヴル・ロウ専用の 大技を起動する。
…………。
『 Law's Function !! Pentacle !!
( ロウズ ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
小剣型武装の ナックルガードと、光の刃が 青白く輝く……。
一六型が レッドコート種のソード・クイーンを殴り飛ばした。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
そして更に……。追撃の一閃……。ホバー滑走による、疾駆の中での一振りを切り込んだ。
天瀬十一が 考えうる最善種。現在の systemで出せる 最大火力である。
…………。
「 クソッ……。
やはり、今の 一六型じゃ…………。
及ばないのか…… ? 」
…………。
レッドコート種のソード・クイーンは、身体を液体化させて 致命傷を避けていた。
多少の時間稼ぎこそ出来ても……。
相手を倒せなければ、力に意味は無く……。無力に等しい……。
白衣の青年にとっての今の限界。
最悪の事態は防げたが、そこから先には進めない。
これを見透かされているのか、レッドコート種のソード・クイーンが 攻勢を強める。
失点は無くとも……。加点が望めない戦い……。
そんな中、何者かが乱入する。
…………。
……。
赤と黄色の装甲に身を包んだ……。愚者のアルバチャス……。
…………。
……。
アルバチャス code-0-……。ストゥピッド……。有馬要人……。
…………。
「 ごめんなさい 十一さん。
俺 迷ってました。
頭で わかってても、ずっと 身体を動かせなかった。
けど、今なら口も身体も動く……。
俺を頼ってください。
もっと周りに甘えたって 良いじゃないですか !!
十一さんだって……。真尋ちゃんだって……。
……俺にとっては 大切な 友達なんです !! 」
…………。
青年 有馬要人が B.A.Wandを携えて 飛来したのだった。
code-0-の全身には 護符の恩恵が 循環しているようで、高まった出力で……。
レッドコート種のソード・クイーンを 吹き飛ばす。
…………。
「 有馬 君……。 」
…………。
白衣の青年 天瀬十一が 言葉をこぼすと……。
青年が、杖を自身の肩に乗せて 思いのたけ を吐き出した。
…………。
「 なんでもかんでも 背負い過ぎですよ。
俺だって……。
空護さんだって……。実動班の他の皆だって そうです。
十一さんが 背負わなくても良い 荷物は、俺達が皆で担げる !!
真尋ちゃんも、シェルターの中に いた人達も、
大さんと 二班の皆が別の場所に護送してます……。
実戦は全て 俺達が引き受けます !!
十一さん は、俺達が出来ない事に専念してくれて良いんです。 」
「 けど……。そうもいかない……。
俺だって 一緒に戦わなくちゃ……。 」
…………。
愚者の青年の言い分に、白衣の青年が異を唱える。
父 天瀬慎一からの全てを……。かつての神地聖正の表の顔を……。
これらを 引き継ぐ人物が必要なのだと……。まるでそんな風な 取り止めの無い渦が……。
ここ最近の 天瀬十一の行動に潜んでいる。
青年は思った。
確かに多くの出来事が変わっていくが……。たった 1人で何もかもを一息に出来るものではない。
これは……。青年自身が ある人物から 教えられた事。
有馬要人が、天瀬十一の重荷を 消し去ろうと 切り込む。
…………。
「 慎一さん の事だって そうです。
もっと ちゃんと、ゆっくり悲しんだって良いんじゃないですか !?
感情を抑えたって 良い事なんて ないんです。
真尋ちゃん と 一緒に いてあげて くださいよ……。
全力で 家族との時間を過ごして くださいよ。
その後に どうしても 戦いたくなったら、また 隣で一緒に戦いましょう。
喜んで肩 並べますから……。 」
…………。
青年の気持ちが……。白衣の青年の根底に届いた……。
…………。
「 有馬 君の 言いたい事は わかった……。
いつも すまない……。 」
「 ああ、それもです。
謝らないでください。
ありがとう。
こっちにしてくださいよ。
謝られるような 事もしてないし……。
十一さんが 後ろめたく思う事だって 無いんですから。 」
「 有馬 君……。
それも、そうだね。いつも ありがとう。 」
…………。
レッドコート種のソード・クイーンが 無感情に 戦闘態勢を整えて……。
……再戦が間近に迫る。
愚者の青年が、B.A.Wandを握りなおした。
…………。
「 とんでもないです 十一さん。
それじゃあ……。
俺 今から暴れるんで……。
真尋ちゃんの所……。いってください。
慎一さんが 作ったアルバチャスの底力……。
存分に 発揮して見せますから。 」
「 あえて言葉にするけど……。
覚悟は出来てるんだね。
気を付けるんだよ……。武運を祈る。 」
「 ありがとうございます。 」
…………。
青年は、白衣の青年がホバー滑走で撤退するのを見届ける……。
そして、自分にしか聞こえない程度の 小さな息を吐き出す。
呼吸を整えて……。切り札を切った……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
DEF 月の恩恵によって、時間が引き延ばされていき……。
青年が知覚できる世界の速度が 遅く見えるようになる。
愚者のアルバチャスが……。レッドコード種のソード・クイーンに急接近していく……。
アルカナの光りが高い密度で 充填された杖型の武装を、勢いよく地面に差し込んだ。
駐車場の アスファルトをめくりあげて……。レッドコード種のソード・クイーンを空中に浮かせる……。
…………。
「 ごめんなさい……。
関さん、俺が貴女を命を……。奪います……。 」
…………。
逃げ場を奪い……。
限界まで貯えた エネルギー放射を、杖型武装 B.A.Wandから放つ……。
空中に巻き上げられた アスファルトすらも、跡形も無く 消え去っていた。
青年は……。
静かに目を瞑り、黙祷をささげる。
引き延ばされた時間軸の中に、戦いが終わった後も しばらく留まった。
どれ程の時間が経過したのか……。青年は厳密に計測していた訳では無いが……。
…………。
……。
しばらくの静寂を、意外な声が終わらせた。
この声の主には、青年も即座に気がついて 警戒を強める。
…………。
「 やあ。有馬 君……。元気だったかな ?
私が誰か……。わかるかね ? 」
「 お前は…… !!
神地…… ?生きていたのか…… ?
レッドコード……。
いや、今 出現しているエイオス達は アンタが仕掛けているのか ? 」
…………。
code-19- アポロン……。
引き延ばされた時間軸に姿を現したのは、青年も良く知る 姿だった……。
太陽のアルバチャスにも 時間軸を移動できる機能が備わっている。
-Twins And Sun- Accelerate……。
( ツインズ・アンド・サン アクセラレータ )
code-19-に備えられている DEF 月と類似の system。
共通点は 同程度までの 活動時間軸の変遷が出来る事……。
そして DEF と同様に、別の機能との択一選択で切り替える前提の機能であるという事。
これとは異なる択一選択可能な機能は……。アルバチャスの情報武装を応用した強制制御能力……。
あらゆる アルバチャスやレヴル・ロウの systemに干渉が 可能な 独裁的な奥の手の 1つ……。
-Twins And Sun- Precepts……。
( ツインズ・アンド・サン プリーセプトゥ )
いずれの機能にしても、code-19-の破格の基礎能力を 一層に凶悪にする。
不穏な空気の中、そんな存在との交流が進んでいく。
…………。
「 レッドコードか……。
成程な。私も その名前を使わせて もらおうか。
第二段階の傀儡では 味気が無い……。
しかし、どうだ ?流れ者の愚者。
私だけではなく……。人を殺めた気分は…… ?
……フフフ。
まあ、噛みしめるんだな。本題は別にある。 」
「 何を しにきた……。
わざわざ こんな 状況に 顔を出す理由は なんだ……。
只の 奇襲では無いだろう ?
何を狙っている ? 」
…………。
青年は 相手の意図が掴めない……。
強襲であれば……。既に何かしらの攻撃手段を取る事が出来た筈だからだ……。
愚者のアルバチャスが静かに身構えるが……。
…………。
「 怖い怖い……。
私は常に、世界にとっての最善手を……。善意で選び誘導するだけさ……。
光の試練……。アルベギ族……。
エヌ・ゼルプト……。
どうせ アイツらの事だ。
既に APCは、WEBの直接的な管理下にあるのだろう ?
ならば……。知りたいんじゃないか ?
悪魔の……。エヌ・ゼルプトについて……。 」
「 悪魔のエヌ・ゼルプト……。
英雄に与えられる 知識の幻視って奴か……。 」
…………。
エヌ・ゼルプト……。
話によれば、タロットカードの大アルカナに相当する特徴を持つらしい存在達。
青年は 最近も目を通した資料の情報を 思い起こして漁った……。
確か……。悪魔は……。15の数字を冠する図柄だ。
…………。
要領を得ない青年を 気にするでもなく、話は進んで行く。
…………。
「 凡人は やはり不甲斐ない。
やはり 英雄が導かなくてはな……。
簡単に教えてやろう……。
お前たちは 踊らされている……。悪魔のエヌ・ゼルプトに。 」
「 なんだと ?
そいつが既に 出現しているとでも 言いたいのか ? 」
「 調度、あちら側に出現しているだろう ?
かつての戦神カシュマトアトルが、最も恐れ嫌った存在……。
極まった未知は、恐怖を生み出すものだ……。 」
…………。
愚者の青年は、目の前の太陽が どこまで信じられる話をしているのか、判別がつかない……。
多くの可能性に、意識を向けたいが、判断材料が足りなさすぎる。
…………。
「 何の話だ……。 」
「 人間にとって 悪魔とは……。
最も不可解で……。まるで意味不明を形にした不条理の象徴……。
それが悪魔のエヌ・ゼルプト……。悪魔のアルカナ……。 」
…………。
青年は 静かに警戒心を強める。口数は 気がつくまでも無く減っていた。
太陽が……。愚者を相手に語り続ける……。
…………。
「 そもそも、アルバチャスは……。
星……。月……。太陽……。そして……。悪魔……。
多くの大アルカナの、意匠、意味、願い、を組み込んだ思想で設計されている。
これらの特色は -less-の段階で既に織り込まれている ものだが……。
全ては最後のエヌ・ゼルプト……。審判に打ち勝ち……。
世界に相当するイェルクスと相対する為だ。
それが、天瀬慎一と見た夢であり……。
多くの犠牲の上で磨かれた力の原点……。 」
…………。
太陽の口ぶりは、調子を狂わせる事無く 最後まで辿り着く……。
…………。
「 信じるつもりは無いだろうが、気を付けるんだな。
悪魔のエヌ・ゼルプトは……。
戦う力を高める程に 脅威を強める……。
……ついでに 言ってしまえば、
あの日、一度でも行方不明になった者は 既に人間ではない。 」
…………。
太陽のアルバチャスは、多くの情報を残して 立ち去った。
青年は追いかけて拘束しようと 思い立つが、B.A.Cupによる爆炎の弾丸が目くらましに使われてしまう……。
数秒程……。DEF 月の 状態で周囲を警戒するが……。静寂なだけが知覚される。
青年が DEF を解除すると……。
N-04 地区に出現した エイオスが、全て撤退したとの情報が入っていた。
この情報が入った時間は……。
調度、青年が レッドコート種のソード・クイーンを消滅させたのと、殆ど同時だったようだ。
…………。
……。
少しばかり後の時間……。特務棟の別の一角……。
大代大と 彼誰五班の第二班が 警護している、あるシェルターの中で……。
ある兄妹が抱きしめ合っている。
互いの身の安全を実感し、白衣の青年の頬にも涙が流れていた……。
………………。
…………。
……。
~旧秩序の影響~
翌日……。
…………。
……。
N-04 地区での激しい戦いと……。
ある人物が レッドコート種の姿へと変わり……。青年が 対処に当たった日より……。
1日が経過していた……。
…………。
……。
関あかり が変異した件は、これを知った者 全てに大きな衝撃を与えた。
幸いな事に……。直接の変異の瞬間を見知った人達は限られているが……。
この情報の共有は限定されて、必要以上の混乱が起こらないように対策された。
また……。
有馬要人が 見知った出来事も 視覚データ等や音声データを元に天瀬十一に引き渡される……。
こちらに関しては……。
より切り分けが成され……。一旦、天瀬十一が 精査する事に成った。
…………。
……。
関あかり の件については……。
特務開発部の全域……。
実動班においては、彼誰五班の総指揮長と副指揮長……。そして各班長にのみ共有がなされる……。
突発的な事象だった為……。
件の出来事が勃発した日に、簡易的にまとめられた 第一次データが 共有時の たたき台に成った。
この出来事から 誰もが付けられる予測……。
レッドコート種の正体は……。
もしかしたら、恵花界も……。遅かれ早かれ 変異するのではないのか……。
この考えは大多数の考えの中に潜んでいた。
…………。
……。
表向きの情報としては、関あかり は容体が変化し 帰らぬ人に……。
各 特務棟内部の破損は、ピップコートによる不意な襲撃……。
対処に当たったのは、有馬要人 大代大を中心に行われた。
事が事だけに……。迅速な事態の収束が優先された結果であった。
…………。
……。
彼誰五班の各班長への説明が 終わる……。
あまりにも予想を超える事象に、それぞれが受け止めるには 時間を要するようで……。
大なり小なりの戦意は削がれ、士気が下がってしまう。
特に、直近の N-04 地区で戦闘した者の心情は荒れた。
今回の大規模な奮戦でも、N-04 地区では レッドコートを 1体も打倒できなかったが……。
もしかすると……。知古の仲間だった成れの果てを 殺めていたかもしれない……。
気構えしていなかった分野への唐突な恐怖であった。
あらましを知った 各々の反応は 4つの分かれる。
…………。
……。
個人の自我が無いのなら倒すべき……。丹内空護、大代大……。
必要なら問答無用で倒すべき……。有馬要人……。
極力 打開策を探したい……。天瀬十一、荒井一志……。
無条件で 何としても助けたい……。伊世伝次……。
もちろん……。今回の件の詳細は、恵花界には知らされない。
少しずつ、誰にも気取られない所の 何かが噛み合っていく。
…………。
……。
特務開発部の中にある天瀬十一の自室では……。
部屋の主である……。白衣の青年 と共に……。ある人物が言葉を交わす……。
愚者の青年 有馬要人が、悪魔のエヌ・ゼルプト等について 話題に上げていた。
記憶に新しい見聞を 改めて共有する。
一通りの 話が終わると……。白衣の青年 天瀬十一が、言葉ばかりの 礼を述べた……。
…………。
「 有馬 君の お陰だ……。昨日は ありがとう。
悪魔のエヌ・ゼルプトについては……。俺も気にはなっていたんだ。
只、アルベギ族の残した情報にも これに該当するような断定づける情報が少なくてね……。
俺の方で少し預かっておくよ……。
code-0-の視覚データも聴覚データも残してくれて本当に助かる。
よく冷静に動いてくれた……。 」
「 良いんですよ。
俺に出来る事は俺がやりますから。
……にしても。厄介ですね。
英雄にしか知る事が出来ない幻視……。
神地とエイオスは……。
何かしらの結託をしていた……。そういう事なんでしょうか。 」
「 確かに、その線も無くはないのかも知れないけど……。
少し……。調べてみるよ……。
上手く 引き出せるか未知数では有るけど……。
仁科 C.E.O代理も、独自の考えを持っているかもしれない。 」
…………。
取り巻く未知は 不穏ではあるが……。
漂う何かに 囚われない 強さは……。底力に成っているようだった……。
…………。
「 十一さん……。
昨日の今日ですけど……。 」
「 ん ?ああ……。
大丈夫。わかってるよ……。
有馬 君に言われてから、少し自分のスケジュールを見直したんだ。
それでね、必要なタスクも多いんだけど……。
リスケしたら、今までみたいに残業詰めにしなくてもよさそうだった。
だから……。
これからは 極力 真尋と 過ごす時間を増やせると思う。
本当に……。すまな…………。
……ありがとう。有馬 君……。 」
…………。
両者の表情は どちらも ほぐれている……。
互いに手を握りあうような 強い団結の芽が育ち始めていた。
…………。
「 まあ 良いんじゃないですか…… ?
これからも よろしくお願いしますよ ?副指揮長。 」
…………。
…………。
……。
青年 有馬要人は、しばらくして ラウンジでホット珈琲を飲んだ……。
この日……。
観葉植物の近くの座席には 誰も見当たらない……。
青年は静かに考える……。
昨日のレッドコートに取った手段に、今更 後悔がある訳ではないし……。他に取りうる手段も思い当たらない。
恐らく 今後 似たような事が起こっても、同様の手段を取るのだろう。
只……。もし、他に何か手段が有れば……。それに越した事は……。無い……。
自分に出来うる事が無いか……。後ろ向きはならずに 思案を続けた。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
特務棟の 屋外運動場では……。
坊主頭の青年 丹内空護が……。
……かなりの長い時間 身体を動かし続けている。
既に、運動量は 通常の何倍にも達しており、
筋肉痛や 疲労骨折等……。自分には無関係とでも言うかのような運動量を継続していた……。
早い時間 間隔での懸垂を行い……。やっと 水分補給をする。
首から下げたスポーツタオルで 汗を拭った。
…………。
「 ……さん……。……な………………。
………………つ…………………………。 」
…………。
背後から……。何か聞こえたような気がして振り返る……。誰もいなかった……。
坊主頭の青年は 小首を傾げて 身体の向きを戻す。
丹内空護が 自身の目を疑った……。
両目を見開き……。ガラにもなく……。驚愕する……。
白衣の似合う……。ある女性の姿が……。視界に映っている……。
…………。
「 ………………な……。
…………夢……川。………なのか…………… ? 」
…………。
坊主頭の青年は、自身でも 納得できない程に口も頭も回らない……。
驚きで……。思考が追いつかない中……。
両目が渇き……。思わず……。瞬きをする……。
…………。
「 ……見間違いか。
少し 自主錬成を……。やり過ぎたか……。 」
…………。
瞬きの後には……。先程の自分を驚愕させた 人影は消え失せていた……。
疲れが溜まっているのかもしれない。
この日は、これを境に 自主練性を終える事にした。
………………。
…………。
……。
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