- 23話 -
黒と白の門柱
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目次
~聖域への道で立ちはだかる~
…………。
………………。
ニューヒキダの全域に 怪人エイオスの出現を知らせる警報が立て続けに鳴った。
…………。
『 緊急速報です。 F-15 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 F-15 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。 』
『 緊急速報です。 B-01 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 B-01 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。 』
『 緊急速報です。 G-03 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 G-03 地区に エイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。 』
…………。
久しぶりの 演習とは異なる空気が 辺りに広がる。
直近の 過去 3ヵ月程の間は ピップコートすらも姿を見せていなかったのだ……。
各地で警邏(けいら)を行う 実動班の班員や、避難誘導を担う後方支援班も 特務棟から動き出す。
現在 判明している中で 特に 急を要する事項がある……。
それは、特定の地区でのみ 何者かが 既に交戦中である という事だった……。
逆に 他の 2つの地区では 別段 特記事項は無く……。
通常通りに 怪人の侵攻を妨げる意味合いの 戦闘処理が求められるようだった……。
戦闘処理を 引き受ける彼誰五班は 複数の編成に 分かれて 各地の地区に向かう……。
…………。
……。
F-15 担当……。
総指揮長 丹内空護と、第四班長 荒井一志 を筆頭に第四班班員 10名 1個班編成の 計 12名……。
装備の内訳は……、code-7- 1名。丸七型 R,R,G携行 1名……。
第四班班員は 小剣型 L,L,E携行と 小銃型 R,R,G携行を 5名ずつ……。
第一段階 行動目標は エイオスと交戦中の 彼我不明(ひがふめい)の存在の特定。
状況によっては、第二段階 行動目標として 対象の援護または 保護へと移行する……。
…………。
……。
B-01 担当……。
第三班長 伊世伝次 を筆頭に第三班班員 10名 1個班編成の 計 11名……。
装備の内訳は……、丸七型 R,R,G携行 1名……。
第三班班員は 小銃型 R,R,G携行を 10名……。
第一段階 行動目標は エイオスの侵攻を 停止させる事、及び 戦況の変化へ向けた情報収集を優先……。
…………。
……。
G-03 担当……。
第五班長 有馬要人 は 1名の単独班 編成で赴く……。
これは code-0-による 遊撃と陽動を 行動目標の主とする為だ。
途中までは 伊世伝次 や第三班と同じ方向に進路を取り……、
B-01 地区を経由する形で 北上して進む……。
あえて複数の怪人の中に 第三班よりも先に先行して 切り込み、
程度を見極めて 更に攻め込むようにして通過。
G-03 地区の怪人達を目指す……。
…………。
code-7-と同様に DEFによる 突出した戦力を期待できるからこその、強襲と遊撃を単独でまかなう流れだ。
…………。
……。
A 地区には 丸七型を起動した 大代大が、20名の レヴル・ロウと共に待機し 今後の変化に備えた。
装備の内訳は……、丸七型 L,L,E携行 1名……。
第二班班員は 小剣型 L,L,E携行と 小銃型 R,R,G携行を 5名ずつ……。
これに合わせて 第一班の 班員が、小剣型 L,L,Eを携行し 10名……。
特務棟内部で全体を注視する 天瀬十一の指揮下で 警戒を強める。
…………。
……。
彼誰五班は これまでの 実証試験以上の結果を出そうと、1人 1人が 強く意気込んだ。
持ち場によって 段階毎の行動目標は異なるが……。唯一の共通する段階……。
全員に共通する 最終行動目標は……。
ニューヒキダにとって 等しく脅威となりうる エイオスを 掃討する事……。
………………。
…………。
……。
B-01 地区……。
アルバチャス code-0- ストゥピッド……。
有馬要人が、ホバー滑走で 颯爽と 怪人の 群れの中に 割り込む……。
どうやら 視界に納まる範囲に いる怪人は……。
ワンド・ペイジ……。 杖の特性を持った 斥候兵が大多数で……。
ペンタクル・ペイジ……。 護符の特性を持った 大柄な斥候兵も混じっている……。
ピップコートの数体は A2鹵獲装置 改によって 足元を拘束され、動きを制限されているらしい。
有馬要人は 伊勢班が 現着する前に、自身に割り当てられた 行動目標を実行する……。
遊撃 強襲……。そして、陽動を行いつつ 更に奥へ切り込む事……。
派手な色のアルバチャス ストゥピッドが、武装機能と滑走機能で 立ち回る。
B.A.Wandを軽やかに振り回し、時には 大胆なタイミングで 先端から 火球を発射し……。
足元を拘束されていない ワンド・ペイジを重点的に狙って、周囲の怪人達の足並みを乱した。
10体程の エイオスが爆散する。
…………。
「 こんな所か……。
よし 次だ…… !!
code-0- ストゥピッド。G-03へ移動する ! 」
…………。
愚者の青年は 想定されていた時間を確認し、次の行動目標へと速やかに移った。
情報武装アルカナ・サーチを解して現状を報告すると、
ホバー滑走を加速させてて疾走していく……。
進路上に立ちふさがる数体の ワンド・ペイジ や ペンタクル・ペイジは、
B.A.Wandを振るい 薙ぎ払った。
…………。
残された 怪人達が、愚者の青年を 追いかけようと 条件反射で動き出すが……。
背後から 伊勢班の銃撃が届き 不意を突かれるようにして 足止めをされる……。
…………。
『 Rebel Function !! Pentacle !!
( レヴル ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
よどみのない動きで 集弾率の高い 炸裂弾が 飛び交う……。
…………。
「 第三班 !気を引き締めて行くぞ…… !
予定通り ここで仕留める。
各員 撃ち漏らすなよ。
接近される前提で 距離に囚われるな。 」
…………。
三班長 伊世伝次は 周囲を鼓舞すると、丸七型 としての性能を活かして 果敢に戦った。
片手の小型の盾では殴打を……。
小銃型の武装デバイス R,R,Gでは 近接射撃を……。
三班 全体の 動きを加味して 動き回る……。
…………。
ワンド・ペイジからの反撃の 火球が飛び交う戦いの中で……。
伊世伝次の目が 何かを 見つけた……。
………………。
…………。
……。
F-15 地区……。
何者かが エイオスと交戦していると 事前の情報が上がった地区……。
アルバチャス code-7- チャリオット 丹内空護と……、
レヴル・ロウ 丸七型 荒井一志が現着する……。
総指揮長と 第四班長の 後方には 第四班の班員が 随行し それぞれに身構えていた……。
全員の視界に、戦塵に紛れて エイオスと戦う者の姿が 入り込む。
エイオスの方は ピップコートの ソード・キングのような井出達だったが……。
これまでに確認されていない 外見的 特徴を持っていた。
その姿は 燃えるような赤色が目立つ……。
片手には 身の丈ほどの大剣を握っており、掌からは 炎を発生させていた……。
それとは 逆に、炎を操る大剣士のエイオスと交戦してる 者には既視感が有った。
既にかなり 消耗はしているようだったが……。
エイオスと戦っている者は 間違いなく レヴル・ロウの姿をしている。
所持している武装は R,R,G……。
情報武装による 識別シグナルは……。3ヵ月程前 彼誰五班に在籍していた人物と同一だった……。
当時の所属は 彼誰五班 第四班……。
荒井一志は 驚愕のあまり 意図せず 感情が漏れる……。現 第四班長は 嬉しい誤算に 虚を突かれた……。
総指揮長の丹内空護が 危機感を感じ取ったのか、緊張感を 取り戻させる……。
…………。
「 まさか…… !
けど 今まで どうやって……。 」
「 荒井 !! 気を散らすな……。
今の お前は 現在の四班長として……。
目の前の 仲間を救援するんだ !!
新手のピップコートは俺が抑える……。
四班全員への命令下達も怠るな……。
やれる筈だ……。お前なら !! 」
「 すみません。総指揮長……。
浮ついていました。
彼誰五班 第四班…… !
これより 我々は 仲間の救援を行う !
救援対象は、彼我不明のエイオスと交戦しているレヴル・ロウ……。 恵花界だ !!……掛かれ !! 」
…………。
現 第四班長 荒井一志の号令を皮切りに それぞれが大きく動き出す。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
code-7- チャリオット。丹内空護は……。
満身創痍のレヴル・ロウ。恵花界と 謎のエイオスとの間に割って入った。
赤色の外骨格を持つ エイオスの 大剣は 炎熱を帯びている……。
その剣圧は どっしりと重く……。
護符の恩恵を込めた 歴戦の戦馬車の刀剣型武装にも 引けを取らない。
…………。
丹内空護が 目の前のソード・キングにも似たエイオスに、得体のしれない既視感を感じ取っていると……。
アルカナ・サーチを解して、G-03地区で戦っている人物から 音声通信が入る。
音声通信を入れてきた人物、有馬要人の発言は より一層……。
既視感を嫌なものへと 強めていく。
…………。
「 空護さん 聞こえますか ?
俺です。有馬です。
今 G-03地区で 交戦中ですが……。
新手のエイオスが どうも怪しいです。
見た感じは ピップコートの女王型……。
だと思うんですが……。
外見は赤色で……。
攻撃手段も熱に関連した能力みたいです……。
今も交戦中ですが 耐久力も恐らく段違いです。
ピンチって程では無いですけど、念の為 共有しておきます……。
十一さんには 映像で 送信しておきました。
そっちも気を付けてください。 」
「 了解した……。
だが、残念ながら こっちにも そういうのがいる。
要人 お前も気をつけろよ。
解析は このまま特務に任せる……。 」
…………。
突如 現れた 炎熱を操る 赤色の ピップコート達……。
不穏な 揺らぎが 大気を揺らす……。
………………。
…………。
……。
~赤の怪異と…~
G-03 地区……。
平時は 自然林や 農業施設が 散見される 水や緑が豊かな 地区の ほんの一角……。
青年 有馬要人が 周囲を見渡すと……。
エイオスが 群を成して大挙していた……。
7日間の旱魃(かんばつ)以降の 約 3ヵ月の間、一切 出現する兆しも見えなかったにも拘わらずだ……。
様々な色の ポピーの花弁が、青年の近くにまで 跳んできていた……。
その中には あまり見た事のない 濃い黒色の花弁も混じっている……。
生花を生育していた ビニールハウスの幾つかが 破壊されているようで、出荷前の花が 風に舞った……。
…………。
code-0- のアルバチャス。
有馬要人は 到着して早々に、武装 systemを起動し B.A.Cupと B.A.Wandを握った。
速やかな立ち回りで ホバー滑走も行い、容赦なく 複数の ピップコートを爆散させる……。
大量の怪人が跋扈(ばっこ)する 戦いの渦中で、
見た事の無い、新手の 女王型がいる事に気がついた……。
…………。
通常の女王型 のような外見に 赤色の燃えるような 外骨格を併せ持つ新手……。
すかさず B.A.Cupと B.A.Wandによる射撃で 牽制攻撃を仕掛けたが、
通常の女王型と同様に 身体を液状に変化させる特性を持っているようだった……。
これまでに 確認された 女王型と異なる点としては、
液状に変異すると、まるで 溶け出したマグマのように 高熱を帯びた 流動体に変化する事……。
流動体に変化した 赤い女王型の身体は、
広範囲にまで、影響を及ぼせるようで、周囲の建物や ワンド・ペイジすらも巻き込んで燃焼させている。
実体を捉えるのも難しく……。
攻撃能力も高い相手……。非常に厄介な能力の新手だった。
片手には銃のような武器も握られており、
中距離程度の射程には マグマのような弾丸を射出し 反撃を狙ってくる。
聖杯銃を扱う 女王型とは以前も交戦した事が有った……。
あの時の ストゥピッドは、連携を取るエイオスとは まともに戦えてすらいなかったが……。
……青年 有馬要人は 静かに見極める。
心を静め……。
ホバー滑走で 絶えず 回避行動を取っては、ダメ押しの 銃射撃も試みた……。
厄介な新手に 必要な対処は……。
優位な情報を増やす為の行動か、猛攻撃による早期決着……。
青年が 現在行っているのは 前者側……。
相手の特性を見極めて 新手の情報を増やす行動……。
…………。
速やかに 音声通信を 起動し、情報の共有や 特務開発部への簡易 映像データの送信も行った。
どうやら F-15地区側にも 類似の新手が出現しているらしい…………。
類似の外見や 炎熱に由来する特色を持つのであれば、こちらで得た情報を 役立てられる可能性もある…………。
理想は 新手の情報を 収集し、その上で 撃破を目指す事……。しかし……。
…………。
「 戦いが長引けば……。
この地区の 被害も大きくなるだけか……。
なら…… !! 」
…………。
青年が 最優先する 方向性が決まった……。
以前の 女王型を 打破した記録によれば…………。
バベルとアポロンが 広範囲攻撃によって 流動体に変化する 身体諸共 吹き飛ばし……。
受け流せない程の 熱量や出力で攻撃を行い 霧散させたようだ…………。
今回も 同様の手段で 対抗したいが……。
code-0-で 当時と似た条件を試すには 手段が限られている……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
…………。
青年は DEFによって 攻撃を複製できる 星の恩恵を 起動した。
例えば……。
バベルや アポロンには、自己を中心にしてドーム状に広がるような 広範囲 攻撃が 搭載されているが……。
code-0-には 同様の行動は取れない……。その代替の手段を考えるならば……。
DEF を上手く 使う……。これしか無い……。
DEFの 星の恩恵は 点や線でしかない 普段の攻撃手段を 複製し、面の攻撃に する事が出来る……。
これはつまり、仮に 複製された攻撃が たった 一振りの斬撃だった場合……。
実際に 降りぬく斬撃の周りに、複製された残像が 並行し 重複し 何重にもなって、攻撃範囲を増やす事が可能になる……。
複製される攻撃手段が、殴打や蹴りならば 打撃の一撃が 何十発もの 流星群の群れのように影響範囲を増やすのだ……。
青年は この効果を理解して、流星群のような 怒涛の攻撃を狙う……。
周囲への無駄な破壊を増やさない 位置取りを しっかりと 見定めて……。
B.A.Cupと B.A.Wandによる 射撃を 時間差で 交互に送り込んだ。
大量の火球と 光弾が、遠目からは 2枚の壁が移動しているように見える 密度で 跳んでいく……。
最初は B.A.Cupの光弾が 赤熱している女王型に届いた。
文字通り ハチの巣のような複数の穴が空くが 有効打には まだまだ足りない……。
そこへ B.A.Wandの火球が 無数に飛来する……。
無数の火球は 赤熱した女王型の 全身を、
強引に後方へ吹き飛ばして 身体の大部分を、後方の中空へと連れて行った……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
code-0-の 活動時間軸が 変化する。
青年は スローモーションの景色の中で 更なる行動に移行した。
DEF 星の恩恵は 赤熱した女王型の動きを 確かに制限しているようだ……。
また、DEF 星による銃撃は、この場にいる 他のピップコートの大部分を巻き込み爆散させていた……。
ならば、残りの ワンド・ペイジやペンタクル・ペイジと……、
新手の女王型への最後のダメ押しを 今の加速した世界で 行えば G-03 地区の戦いを収束させる事が出来る筈だ……。
愚者のアルバチャスが、今行うべき最適解を導き出した。
両手に握った Barrage Armed による殴打や射撃で、次々と ピップコートを爆散させる。
そして、いよいよ……。G-03 地区に残存する 最後の エイオスに狙いを付ける……。
赤熱した女王型の 液体化した 身体に、追撃を開始した……。
先程の DEF 星で行った 銃射撃の影響によって、
捉えようのない厄介な身体が 中空に巻き上げられている間に 決着を……。
…………。
愚者のアルバチャスは 攻撃対象が 留まる中域の外周を、なぞるようにして ホバー滑走で疾走した……。
外周の円を 疾走している間には、
赤熱した女王型が 円の中心の中空近辺に スローモーションで 漂っている事を視認した……。
両手に握った武装での射撃を 継続し続ける……。
B.A.Cupと B.A.Wandによる 射撃を継続している間、
青年は身体の正面を 攻撃対象の方角に向けて、怒涛の射撃を 浴びせた。
愚者のアルバチャスからの 銃射撃は あらゆる方角から撃ち込まれる……。
赤熱した女王型の 液化した身体は、瞬く間に 液体の塊を 細かくされていった……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
F-15 地区……。
丹内空護と 荒井一志が 現在の第四班を 伴って 急行した地区……。
そこで 複数のエイオスを相手取って戦っていたのは 行方不明だった旧 四班長の 恵花界だった……。
恵花界は 乱戦によって 消耗しており、今にも 強制解除に陥りそうな 厳しい状況に立たされている……。
孤軍奮闘しいたのか、乱戦によるものか……。疲弊した様子は 予断を許さない……。
この場で猛威を振るう 新手のエイオスは、豪快な太刀捌きで 恵花界を 追い詰めていく……。
赤熱した ソード・キングのような エイオスの大剣が、恵花界のレヴル・ロウに迫る……。
炎熱を 噴出させる大剣を受け止めたのは、code-7-……。
戦馬車のアルバチャス……。丹内空護だった。
戦馬車のアルバチャスが B.A.Swordで 足止めを行い……。
四班の班員が 周囲のワンド・ペイジや ペンタクル・ペイジを迎撃し……。
丸七型の 荒井一志が 恵花界の元に ホバー滑走で救援に駆け付けた……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
丹内空護が 僅かな隙に 護符の恩恵を上乗せして 刀剣型武装の B.A.Swordを 再度強化する。
荒井一志や 恵花界のいる場所から、少しでも 謎の新手を遠ざけようと 戦いの温度を上げていく……。
前に戦った事の有る ソード・キング種と 外見は似ているが……、
剣の王(ツルギノオウ)と呼称されていた ピップコートよりも 剣筋が異なる……。
こちらの方が 一太刀が 重く、
良手持ちの大剣の特性を 理解し 上手く利用ているような 動きが目立つ……。
具体的には…………。
剣の王と 呼称されていた ピップコートは、大剣を軽々と振り回していたが 若年の剣士のような 青さが見えた……。
例えるならば、大剣を 片手で扱うのも辞さないような……。
時に強引で 型にはまったような 力技が、以前戦った 剣の王の 主な剣筋だったのである……。
…………。
それに引き換え、赤熱した異形の ソード・キングは
大剣の重さに囚われていないように見えた……。
炎熱を発生させる大剣の 唐竹割りが、丹内空護に受け流されて 大剣の大部分が地面に深く 潜り込んだとしても……。
code-7-による B.A.Swordへの反撃や、対処が間に合わないと 理解した途端に……。
必要に応じて 直ぐに 大剣の柄を手放して 距離を取り直し、
徒手空拳による格闘戦に切り替えては、身のこなしの軽さで戦況に対応する……。
大剣を使用せずとも 規模を抑えた炎熱は 掌からも発生させられるようだった……。
殴打の衝撃にしても、code-7-の片腕の盾や篭手を解して尚、しっかりと感じられる重さが響く……。
赤熱した異形の ソード・キングは、身のこなしの軽さを活かして 一度手放した 大剣に最接近する。
そして、大剣に炎を纏った一閃で 横一文字に切り払った。
ピップコート種は エヌ・ゼルプトの指揮下以外では 考えて戦うような動きを 殆ど行わないのが通例だ……。
例外が 全くないわけでもないが……。
丹内空護が 今交戦している 異形種の動きは、戦い方を組み立てられている 前提のような熟達した動きに見えた……。
…………。
丹内空護が切り結ぶ 合間に ある人物が反応を示す。
それは 荒井一志に 今 肩を借りる人物……。
……恵花界である。
…………。
「 丹内班長……。
恐らく、新手のピップコートを 先導している エヌ・ゼルプトは近くにいます……。
前に、見たんです……。
まるで悪魔のように 恐ろしい奴を……。
僕が言うのも変ですが、
気を付けてください……。 」
…………。
恵花界は 知りうる事を 端的に話す。
言葉から汲み取れる 情報は多くはないが、何かしらの 説得材料で 鬼気迫る様子が にじみ出ていた。
簡単な 言葉のやり取りの 合間にも 異形のソード・キングの攻撃は 激しく、 戦馬車のアルバチャスに 何度目かの つば競り合いを仕掛ける……。
丹内空護は 戦いながらも応答した……。
…………。
「 恵花……。
そいつの特徴は わかるか…… ? 」
「 複数のエヌ・ゼルプトが 混じり合ったような化け物でした……。
アレには……。多くの仲間が強襲され……。
気がつけば 皆 散り散りに……。
……すみません。僕のミスです。 」
「 混じり合った化け物だと…… ?
恵花……。
自分を責めるな……。
お前の せい じゃない。 」
…………。
code-7-のアルバチャスが 力強く 赤いソード・キングを押し飛ばした。
機を逃さずに 流れるような動きで 腰部に設置されている 3種類の起動センサーに触れる。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
…………。
丹内空護の活動時間が 引き延ばされていき、
通常の時間軸から 見れば音速に相当する速さで 周囲のエイオスに猛攻を仕掛る用意を整えた。
…………。
「 このまま速やかに この地区の ピップコートを掃討する……。 」
…………。
戦馬車のアルバチャスが 縦横無尽に滑走した。
左右の手に握った B.A.Cupと B.A.Swordを 巧みに使い分けては 異形の新手に斬撃と銃撃を叩き込む。
異形のソード・キングが、仰け反り始めたのを視認する。
即座に 距離を取って、周囲に目を向けた……。
周囲には 未だに大量の ワンド・ペイジや ペンタクル・ペイジが 群を成しており、
第四班の班員だけの 総力では 手に余る数だった。
戦馬車のアルバチャスが 疾走し、エイオスの斥候兵を 爆散させていく……。
両の手に携えた 銃型武装と 刀剣型武装による攻撃の組み合わせは、距離に関係なく標的を仕留める。
異形のソード・キングを覗けば……、見渡せる範囲の全ての ピップコートを 爆散させる事に成功した。
恵花界 掌握後の撤退が 容易な状況が 無事に仕上がったのだ……。
DEF 月の恩恵が まだ持続できる事を 視界に表示された データから改めて認識する。
体勢を崩しつつある、新手のソード・キングを 仕留めようと 最接近を試みた……。
…………。
銃型武装 B.A.Cupによる銃撃が 異形のソード・キングの頭部に数発命中し、
刀剣型武装 B.A.Swordによる斬撃が 擦れ違いざまに、一閃の斬撃を 煌めかせた……。
ホバー滑走によって 足を動かすことなく 身体の向きを半回転させて、更に次の 斬撃を 叩き込もうとした 矢先……。
…………。
『 Device Error Factor !! Non Function !! Error !!
( デバイス エラー ファクター !! ノン・ファンクション !! エラー !! ) 』
…………。
code-7-の DEFが 強制的に解除されてしまう……。
この動作音は 前にも聞いた事が有り……。
現在の所 原因がわかっていない ものだった……。
活動時間が 急激に変化した事で 戦馬車のアルバチャスの反応は遅れた……。
上空から 何本もの光の短槍が 降り注ぐ。
…………。
光の短槍は 僅かな間 戦塵を発生させ 周囲の視界を阻害した……。
戦塵が納まると 先程まで 存在していた 赤い異形のソード・キングの姿は無く……。
その変わりに 更に大柄の 別の影が 現れていた。
…………。
背中には 片側だけに伸びる 5枚の翼……。
片腕と一体化した 巨大な刺突武器と うねる鞭のような触手……。
天使型のエヌ・ゼルプトとは対照的な 黒色のローブ……。
赤々と輝く単眼のような 顔……。
7日間の旱魃で 新たに出現した 3体のエヌ・ゼルプトにも似た特徴を併せ持つ存在……。
…………。
丹内空護は アルバチャスの頭部を覆うマスクの中で、眉間に溝を作るように目を細める。
恵花界が先程 口にしていた 特徴が連想された。
それは、悪魔のように……。
…………。
「 ……混じり合った特徴を持つ化け物。
まさか コイツか…… ? 」
…………。
丹内空護の言葉に遅れて 荒井一志が疑問をこぼすと、恵花界が応答する……。
…………。
「 エイオスが タロットカードに関連しているなら……。
こんな姿の 大アルカナは いったい……。 」
「 コイツが……。
このエヌ・ゼルプトが 多くの仲間を…… !!
僕は 黒翼の怪人と コイツが何かを話していた場に 居合わせたんです……。
確か その時に 呼称されていた名前は……。
ポメグラネイト……。 」
…………。
重苦しい空気の中で 謎のエイオスに注目が集まる……。
この場にいた 全ての人間が 充分に警戒はしていた。
だというのに、謎の怪人は 片腕の鞭を 予備動作も無く動かし 圧倒する……。
うねる鞭が、意思を持った 生物のように鎌首を持ち上げて 広範囲を 打ち据える……。
生物のような 挙動の 鞭による攻撃は、数秒足らずだった。
この 数秒足らずは、周囲の状況を 存分に混乱させて、焦燥感を生み出す。
焦燥感に 飲まれる大多数が どうにか警戒を強めるが、
攻撃が止んで 場が静かになると、謎のエイオスも 姿をくらませていた……。
…………。
意図の見えない 襲撃に困惑する者も出始める中、全員の情報武装に 撤退命令が届く。
これに合わせて 現場を預かる 丹内空護には 天瀬十一から音声通信が入った。
…………。
「 空護 そっち側は皆 無事か…… ?
ひとまず ニューヒキダ全域に エイオスの反応は無くなった……。
周辺の状況に気を付けながら 撤退してくれ。
後で今回得られた情報を元に話がある……。
概要としては……、4種類の新種のエイオスと……。
今回 救援として掌握できた 2名の行方不明者についてだ……。 」
「 了解だ 十一……。 」
…………。
丹内空護に送られた 音声通信と同様の内容は、残りの 2つの地区で行動する 各最上級統率者の元にも伝えられる……。
B-01 地区は 伊世伝次が、G-03 地区は 有馬要人が これに該当した。
新たな怪人の存在は 軽視できないが、実動班の中で 人的損害が起こらなかった事……。
既に望みは薄いと思われていた 行方不明者の救助が叶った事……。
2つの朗報が それぞれの気持ちを安堵させた。
………………。
…………。
……。
~その意味は~
新たな怪人との交戦があった日から 数日が経過していた……。
情報の整理や 救助者のメディカルチェック等も 無事に終わり……。
この日は 特務開発部部長室で 天瀬十一を相手に、
恵花界が知りうる事や これまでの足取り等の 最終的な確認が 口頭だけで進む……。
最終的な確認の後には、正規の情報として 整理され、実動班にも共有が成される予定だ。
…………。
「 これで最後だ 恵花 君……。
初日のメディカルチェックから 今日の最終調書まで長くてすまない……。お疲れ様。
無事で戻ってきてくれて嬉しいよ。
君も 関(セキ)さん もね……。
恵花 君が命がけで持ち帰った情報は、
きっと役立てて見せる……。 」
「 とんでもないです……。
天瀬 副指揮長。
僕は 戦線に復帰しても よろしいのでしょうか……。
彼誰五班の役職は 現行のままで 不満はありませんが……。
木田さん を含めた多数の行方不明者出した責任は、
自覚しているつもりです。 」
…………。
どこか落ち着いている青年の表情は真剣だった。
白衣の青年 天瀬十一は、真剣な気持ちを汲み取るが……。
…………。
「 恵花 君。俺も気持ちは理解できる……。
けど、もう少しだけ 身体を休めて欲しい。
マルクトの無い systemで戦う班員に 過度な無理はさせられない……。
後 数日だけでも 療養してから 復帰してほしいんだ。
約束するよ。悪いようにはしない……。
すまない……。 」
「 ……わかりました。
こちらの方こそ 無理を言って すみません……。 」
…………。
しばらくして……。
どこか落ち着いている青年が、特務開発部部長室を後にする。
恵花界は 特務棟の中でも、ゆったりとした時間を過ごせるラウンジに移動した。
…………。
……。
ラウンジでは、暖色の間接照明が 程よい 光度で 薄暗さを出している場所も有り……。
室内用の園芸装飾として、いくつかのプランターも 設置されている。
プランターや ツタ性の装飾には フェイクも混じっているようで、造花やガーランドも確認できた……。
午後の時間の中頃なせいか 人は疎らで……。
どこか落ち着いた青年は、植物の生育を趣味にしている影響で、何気なく ドラセナ属の多年草が目立つ 一角に赴く。
冷たい ミックスフルーツ ラテを 飲みながら、何か考えを巡らせた。
…………。
数分程の時間が経過すると、実動班の ある人物が 訪れる。
ある人物の 片方の手には、湯気が立ち昇る マグカップが握られていた。
恵花界の存在に気がついて、軽く手で 挨拶を送ると 多年草が目立つ一角に向けて歩き始める。
植物が好きな青年が 適当な距離で 先に声を掛けると、そのまま会話が始まった。
…………。
「 有馬さん……。
いえ、今は有馬 第五班長でしたね。
すみません。
まだ 前の感覚が完全に残ってしまって……。 」
「 前みたいな感じで良いよ……。
俺も まだ慣れないんだ。
ここ凄いよな……。
前のラウンジは もう少し シンプルだったのに……。
いろんな所に 植物とか造花とか……。
スポンサー企業の Worldナンチャラ の趣味なのかもな……。 」
…………。
青年は うろ覚えの 企業名で ラウンジの変化の由来に触れる。
湯気が昇る マグカップからは、淹れたての珈琲の香りが漂った。
…………。
「 World-Exchange's-Bay です 有馬さん……。
……僕も驚きました。
前の社屋が破壊された事は知っていたので……。
まさか こんなに早く
特務棟の機能が復活するなんて 思いませんでした……。
有馬さんは ラウンジ 結構使うんですか ?
ちょっとした軽食も 取れますよね……。 」
「 いや……。
今は 殆ど 外で済ませてるよ。
……風とか太陽とか気持ちが良いし。
そういえば……。
植物 好きなんだっけ ?
このラウンジにも いろいろ在る感じだけど……。
詳しかったりする…… ? 」
「 ハハハ……。
伝次ですね それ広めたの。
僕も 何でも知ってわけじゃないですよ ?
そうですね……。
直ぐ近くのコイツ……。
ドラセナっていう植物の仲間 なんですけど……。
室内でも育てやすいんです。
水やりも 頻繁には必要なくて、自然光に晒す頻度も神経質に考えなくていい。
学名とかは違いますけど、サンスベリアって呼ばれるのが一般的ですかね。
和名は 厚葉千歳蘭(あつばちとせらん)……。
実は コイツ……。地上に出てるのは葉っぱだけで……。
茎は 殆ど地中の中に隠れているんです。
たぶん、水を摂取するのが難しい環境に適応してるから……。ですかね。
渇きから身を護っている意味合い もあるんでしょう。
乾燥地帯が 主な原産なので、光合成にしても CAM型光合成を行うんです。
……強くて賢いですよ コイツは。
エネルギーを余計に消費しますけど、水分の消費を最小限に抑える為に 夜間に二酸化炭素を 水和して貯える……。
貯えた分は……。 日中に ピルビン酸を経て デンプンに変える……。
その分……。
葉の面積は 見た感じ 広いのに、空気清浄能力は高いとは言えませんが……。
生きる強さは 本物ですね……。
時期が来るまで しっかりと耐え続けますから……。
花言葉にしても……。永久、不滅……。
コイツには うってつけの言葉です……。 」
…………。
植物好きの青年が 饒舌に話した……。
愚者の青年は 耳から入った情報を 整理しながら、口元に珈琲を運ぶ……。
数秒の間 反芻してみるが、得意ではない分野の情報群に 圧倒され、頭の中での作業を手放したようだ……。
その引き換えに、情報の詳細 以上に別の部分が印象的で……。
無意識のうちに 気苦労の 1つが 弱まっていたのか、青年の表情が 緩んでいた。
…………。
「 なるほどぉ…………。……ごめん。
途中から ちょっと 追いつけなかった。
歳も近いのに……。
そこまで詳しい 分野が あるって凄いよ。
けど……。
思ってたより元気そうだな。 」
「 すみません……。
つい 熱が入り過ぎました……。
趣味というか 執着というか……。
あの……。 有馬さん は……。
自分よりも 確実に強い相手と戦う時……。遭遇した時は……。
……どんな風に考えてるんですか ?
……どう行動してるんですか ? 」
「 格上との戦いとか緊急時って事か……。
そうだな……。
常に意識して考え続けてる訳でもないけど……。
その時に直ぐ 起こりそうな 嫌な事とか……。
想像しうる 最悪の 結果を 全力で 遠ざける……。
……たぶん これかな。
自分の中で ヤバそうな直観ていうか……。
優先度のイメージ ?みたいな感じの奴が 強調される時は 特に そうだと思う……。
俺の場合は……。後から、空護さんとか 十一さんに 詰められたりするけど……。
怒られるだけなら、どうにでも成るかも ?……なんて。
けど、真似は しない方が 良いかな……。ハハハッ。
B.A.Wandで 初めて空飛んだ時は 両方から かなり怒られたし。
……もう少しで 復帰 出来るんだろ ?
リハビリの相手なら いつでもするよ。 」
「 ありがとうございます……。
僕も 絶対に 強くなって見せます。 」
…………。
時間の経過からか 窓から入り込む 自然光の角度が 変わり始める。
青年は 片手に持った マグカップの中身を 一気に飲み干して ラウンジを立ち去った。
植物好きの青年は 衣服の懐から スマートフォンを取り出し 数秒程 画面を確認する。
それから 少し時間を置いて ラウンジを後にした……。
………………。
…………。
……。
~狭間の期待~
ニューヒキダの A 地区……。
街全体を見渡せる 高台の公園の近くには……。
累計 営業日数 3ヵ月を目指す MAKI☆MAKIの キッチンカーが停車していた。
愚者の青年が 植物好きの青年と 語らう頃……。
店主のミドルは、テイクアウトを終えて 夕方のピークまでに 気楽に準備を続けている。
これまでに使用した 食材や、この日に売れた メニューの記録に目を通し 今日の全体像を把握した。
…………。
「 ヤバいな コレ……。
中々 コレは…… 中々だぞ……。
いい感じだ……。
ブリトーの波が なみなみしてんじゃないの ? 」
…………。
定番メニューが よく出ている……。
春巻き生地で 春雨と キクラゲ入りの、プチプチ触感 海老チリMAKI☆巻き……。
アボガド ベーコンに バジル入りのマヨネーズを使った、ガドコンMAKI☆巻き……。
ライスペーパーを使った 出汁漬け魚介の、和めよMAKI☆巻き……。
厚揚げと地鶏入りの 金平ゴボウを使った、昨日の夜の晩御飯風MAKI☆巻き……。
自称 ニヒルなミドル 巻健司 にとっても、表の顔の好調は 嫌な気分はしない。
新緑濃厚セットが 未だ伸び悩んでいる事は 気がかりだが……。
これは そこまで問題ではない。
問題は 表の顔の経営状況より別にある……。
…………。
「 美味しかった……。
ごちそうさまでした。
1本でも 結構ボリューム あったのに 全然 食べれた。
ん ?……巻さん 今 何か話してた ? 」
…………。
天瀬真尋(アマセ マヒロ)……。
いくつか存在する 別にある問題の 1人……。天瀬慎一(アマセ シンイチ)の娘であり、天瀬十一(アマセ トオイチ)の妹でもある……。
普段は APCの特務棟の 食堂で 管理栄養士として勤務しているが……。
この日に限っては 有休を消化しているらしく、息抜きに時間を当てているようだ。
ありがたい事に、キッチンカー MAKI☆MAKI再開の 味を 休日の 楽しみにしてくれたらしい……。
昨日の夜の晩御飯風MAKI☆巻き と、兄への 土産に ガドコンMAKI☆巻き を注文してくれた。
新緑濃厚セットも 取り急ぎ 進めてみたが、要らないとの事……。
…………。
「 あぁ……。
今のは大した話じゃないんだ……。
アレだ……。今日の売上 いい感じ なのよ。
ニューヒキダで ブリトー 認知度上がってるでしょ コレ。 」
「 へぇ そうなんだ。
バイト 生活 脱出 おめでとう。……まだ気が早いか。
けど確かに ブリトーって、普段は あんまり身近じゃないもんね。
流行り過ぎたら ライバル店が増えるかもよ ? 」
「 それは……。困る。
認知度は上がっても……。
同業の数は現状維持で お願いしたいね。 」
…………。
少し前までは ぎこちなさが 所々で漂っていたが……。今はこの通り。
思いの外 砕けた空気感が日常的には成っていた。
天瀬慎一の件を考えれば これも仕方がない……。
兄の天瀬十一も 忙しく、孤独への免疫の有無は色濃く現れる。
自分の分しか 作らなくて良い 料理は、
心身の疲れが 溜まっている時ほど 億劫で仕方が無いのだろう。
思えば、キッチンカーの営業を再開してから 1ヵ月程が経過する頃から 顔を出すように成り……。
天瀬十一が 仕事で泊りがけの時には たまに ブリトーを買いに来るようになった。
注文する数は 毎回 兄の分も含めて 2人分……。
自分の分を店先で 食べて、残りの 1本は 持ち帰りだ。
その都度 世間話を繰り返し……。今に至る。
この日も 少しずつ太陽が西側に傾き始めていた……。
…………。
「 所で 真尋ちゃん よぉ……。
新メニューの相談なんだけど……。梅干しと熊肉とか 組み合わせ的に どう思う ?
熊の油淋鶏 梅干しゼリー和え……。ナツメグも入れちゃう !!
名づけて……。
梅の森の熊さんMAKI☆巻き !! 」
「 定番メニューには 負ける気がするかな……。
今の 新メニューと同じ路線じゃない ?
そもそも、鶏肉じゃないなら……。
油淋鶏でも無くなっちゃうし。熊って事は……。ユーリンシィォン ? 」
「 名前は まあ 適当で……。
……やっぱ ジビエ浸透率 上がらないか…… ?
ニッチで栄養面も良好だと思うんだけど……。
蜂の子とか イナゴ文化も有るなら イケそうな気がするんだけどなぁ……。 」
…………。
天瀬真尋が ここに顔を出すようになった理由は、
先程 上げた ものと別の理由も あるのだろう……。
だが これを 本人が言葉にする事は 恐らく無い……。
もしかしたら 自覚していない場合も有るのかもしれない。
こちらも 重症だ。
…………。
どちらにせよ、上手く 環境が整うには 時間や きっかけの嚙み合いが必要な事が大半だ……。
多くの人間に 今も引っかかる それぞれの しこりは、
無作為の誰かが 気がついたからと言って 簡単に 取り除けるものでもない……。
時間の流れの後に きっかけが噛み合い……。
最も適した 立ち位置の人間に こそ、これが出来るのだろう。
無作為な誰かに出来る事は……。
今 以上に 複雑に転がらないように 見守る事……。
………………。
…………。
……。
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