- 20話 -
4つの中の火
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目次
~悪い報せ~
青年 有馬要人(アリマ カナト)は、節制のエヌ・ゼルプト エリアイズ達が作り出した仮想未来で奮戦した。
…………。
仮想未来では……。
自身の我欲の為に行動する 神地聖正(カミチ キヨマサ)からの執拗な妨害に晒されて、戦いは乱戦へと発展しまう。
…………。
天瀬十一(アマセ トオイチ)をも 巻き込んだ混戦は……。
苦戦の末に 仮想未来からの脱出条件を最良の形で満たす事に成功する。
…………。
愚者のアルバチャスが 灰翼の天使 エリアイズに最後の攻撃を浴びせると、3人のアルバチャスを 光が包んでいった。
エヌ・ゼルプトが消滅する際の爆発が、膨大な光の放流を巻き起こしたのだ。
仮想未来に転送された時と同様に 3人の視界は暗転する。
…………。
……。
青年は、灰色の砂地が見当たらない 見慣れた景色に立っている事に気がついた。
意識しなくても視界に入る空は、濁った黄色では無く 綺麗な青色をしている。
…………。
度重なる戦傷のよるものなのか、辺りでは 至る所から黒煙が立ち昇っているが、間違いないく戻ってきたのだ。
…………。
不意な調子で巻き上がる陣旋風を感じ取っては、まだ猶予が残されている筈の今を確かめさせる。
仮想未来に送られた時とは異なり アルバチャスは解除されていない。
…………。
……。
有馬要人の本能が、数秒間で いくつかの現状を確定させた。
…………。
思考を切り替えるまでも無く 周囲の様子を目視で探る。
視線だけでの散策は、赤い色のアルバチャスで止まった。……太陽のアルバチャス code-19-だ。
…………。
「 やあ 有馬 君。……共に強敵を倒したな。
君と 十一 君の活躍がなければ……。私が ここに立っている事は無かっただろう。
感謝するよ。……ありがとう。 」
「 神地聖正……。
白々しいな……。俺は 忘れちゃいないぞ。
貴方の言動は そんな言葉じゃ誤魔化せない。 」
…………。
青年は 直ぐに臨戦態勢を取った。
自分自身も いつ強制解除になるかわからない狭間にいるが、相手も同じだろう。
先程までの仮想未来での戦いでの 消耗が 残っている筈なのだ。
…………。
有馬要人は……。即座に 託された切り札 DEFを動作させた。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
…………。
なによりも……。
DEFは 相手の広域ハック能力……。元に強制制御機能にハッタリを 効かせられる。
もちろん、神地聖正の性格を考えれば ハッタリ程度では まだ足りない。
ならば……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
こちらが そうなる前に……。
相手を強制解除に追い込む……。全ては その後に !!
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスが、B.A.Wandの先端から 無数の火球を発射した。
太陽のアルバチャスを 目掛けて 撃ち出された 火球は、星の恩恵を乗せて複数に分裂して 流星群のように変わる。
…………。
神地聖正は、B.A.Cupに護符の恩恵を乗せて即座に撃ち返す。
愚者が仕掛けた流星群と、太陽から撃ち込まれた中規模な火球は衝突し 爆炎と閃光を発生させた。
…………。
神地聖正は 自身が放った弾丸を囮にして踏み込む。
太陽の赤熱した拳と、愚者の B.A.Wandがぶつかった。
…………。
「 なあ、有馬 君……。
私からの老婆心なのだが……。物忘れは激しい方が 幸せだと思わないか ?
君が少しだけ……。そう、ほんの少しだけ 忘れっぽい人間なら……。私達は 上手くやっていける。
君は……。私の下で 何も考えずに、只 言われた事だけを する。
なあに、生きる分には 困らせやしないさ。
根無し草の君には 好待遇だろう ?
付き合う友人は 全て……。こちらで選ばせてもらうがね !! 」
「 ふざけてるのか ?
見損なうなよ……。俺が そんな取引に 乗る訳が無いだろう !!
神地……。本当に過去の大災害を 起こしたんだな。
慎一さん は 止めたんじゃないのか ?……どれ程の理由が有って そんな事が出来る ? 」
「 フフフ……。あれ程の被害が出たのは驚いたよ……。
がしかし……。私には何の罪も無い。
私は 光の試練を始めただけで、直接 勝手に暴れたのは エイオスという名の怪人どもだよ。
仮に……。
そうなる事を 事前に知っていたとしても……。私は怪人どもに 命令したわけでもないのさ。
だが……。お陰で この街は生まれ変わった !!……喜ばしい事じゃあないか !!
私の頭の中には まだまだ先も有る……。これからが始まりなのだよ。 」
「 こんな 暴力にまみれた 始まりが……。あって たまるか !!
沢山の人達が 生きているんだぞ…… ?
もう充分だ……。俺は何も 考えちゃいない……。
もう わかってるんだ……。
貴方を倒す事……。それさえ出来れば、もう充分だってな !! 」
…………。
愚者は 太陽の赤熱した拳を B.A.Wandで受け流し、太陽の後方へと入れ違う。
回転扉を回して通り抜けるように……。最小の動きで 背後へと回り込んだのだ。
…………。
太陽の背を、B.A.Wandの柄頭で突いて 軽く牽制すると、メイス側の頭を振り下ろして殴りかかった。
…………。
太陽のアルバチャス 神地聖正は、背を B.A.Wandの柄頭で 小突かれて直ぐ……。前方に跳躍した。
有馬要人が行った本命の攻撃から遠のいて距離を取ったのだ。
…………。
神地聖正が 幾度か跳躍し、途中で身体の向きを反転させる。
愚者のアルバチャスを狙い B.A.Cupからの炎熱弾で反撃した。
…………。
「 私からの慈悲を無下に扱うのか ?これだから馬鹿なのさ。
馬鹿は これだから……。
馬鹿は これだから……。これだから馬鹿は 嫌いなんだよ !!
今の選択を悔やむがいい……。有馬要人 !! 」
太陽からの炎熱弾は 語気を強めるほどに苛烈に……。より激しく 弾数も増える。
……………。
愚者のアルバチャスは、この炎熱弾へと対処する。
魔道杖型武装 B.A.Wandで叩き落とし……。時には 杖の先端から発生させた火球で撃ち壊した……。
……………。
防戦を強いられる愚者に 太陽は余裕を見せる。
……………。
圧倒的に優位な状況は 未だに揺るがないのだと……。
距離を取っては、B.A.Cupを連続で撃ち……。炎熱弾を飛ばした。
……………。
そんな中で、太陽のアルバチャスに向けて 雷の弾丸が放たれる。
この 特殊な弾丸を扱う人物も 戦線に加わる。
……………。
「 俺も いるって事……。忘れてませんよね ?
神地さん……。貴方に 有馬 君は やらせない。code-16- バベルは、アポロンと同系なんだ。
出来る事は 限りなく近い !! 」
…………。
雷の弾丸は 電荷を走らせて 銃口の直径以上に影響力をもたらすが、神地聖正は冷静に これを避け続ける。
…………。
「 知っているさ……。
私は C.E.Oだぞ……。英雄である前に 組織の長でもあるのだ。
塔 が 太陽に届くと思うな。
君も 馬鹿になって 私は残念だよ……。十一 君。 」
…………。
神地聖正は 相変わらず余裕が有るようで……。
愚者を相手にしても 塔を相手にしても、基本的な武装は B.A.Cupだけを使い……。ホバー滑走すら使用しない。
…………。
真なるアルバチャス code-19- Apollon……。
…………。
太陽の力を意識して 設計された その能力は確かに高く……。他のアルバチャスを 遥かに凌駕しているのだろう。
…………。
愚者と 塔が 滑走機能を駆使して ホバー移動で立ち回っているにもかかわらず 対等以上の戦況を組み立てている。
太陽は 跳躍や足さばき のみ で……。同等以上なのだ。
…………。
乱戦時のホバー移動は 本来の使い方ではないのだと……。
…………。
人類が辿り着いた武器の最前線の象徴……。銃さえ扱えれば……。真なるアルバチャスに 死角は無いのだと……。
独自の主義主張を 体現するようにして 戦った。
…………。
「 全ては太陽を中心に回っているのだ……。それこそが真理。
君達も所詮は 微々たる宇宙ゴミに過ぎない……。教えてくれたまえ……。どうすれば…… ?
何を どうのようにすれば 良いと言うのだ…… ?
いつ いかなる時 !!どこの誰が !!どのように…… !!何を…… !!どういった考えの元で…… !!
……太陽に勝れると 思えるのだ ?
宇宙を漂い 重力に惹かれるだけの不純物共め……。わきまえろ……。 」
…………。
太陽の英雄からは、これまで以上に激しい猛襲が繰り出される。
…………。
適度に跳躍し 距離を調整してからの打撃や銃射撃……。
まるで、灰翼の天使が見せた動きにも似ている戦い方である。
…………。
太陽は 自慢の独自武装でもある -Twins And Sun-すらも使用せずに、自身の アルバチャスの高い性能を示し続けた。
赤熱した殴打や蹴り……。
そして B.A.Cupからの銃撃は 加速度的に 愚者と塔を追い詰めていく……。
…………。
愚者と塔のアルバチャスは 強力な攻撃を受け続けるが 強い意志で踏み止まった。
…………。
「 さっきまで……。確かに消耗していた筈だ……。
この出力は どういう事だ……。十一さん 大丈夫 ですか ? 」
…………。
共に戦う仲間が居るのは心強い……。
その反面……。仲間の状態は 状況が悪化すると どうしても気にかかり始める。
…………。
有馬要人からの呼びかけに 簡単に応答する 天瀬十一だったが……。脳内には最悪の状況が見え隠れしていた。
…………。
確実な方を……。
出来るだけ犠牲の少ない方を選びたい。
…………。
神地聖正は -TAS-を扱えるはずだが 温存しているのだろうか。
…………。
強制制御の Preceptsにしろ、擬似高速化の Accelerateにしろ……。膨大なエネルギーを必要とする。
この両者を 少ない負担で安定的に運用する為、大型のジェネレーターが存在している筈なのだ。
…………。
見たところ……。DEFよりも負荷は少ない筈だが……。仮想未来から帰還してからは、その使用を抑えられている。
…………。
有馬要人が使用している DEFを警戒しているのか…… ?
-TAS-を起動すれば、確実に DEFで 仕掛けられるだろう……。そうなれば -TAS- Accelerateで対処するしかない。
…………。
負担を 和らげる設計になっているとはいえ……。
-TAS-においても 時間の引き延ばしの方が、もう片方の機能よりも多くのエネルギーを必要とする。
…………。
もしかすると 太陽のアルバチャスには 追い打ちを する余力は無いのかもしれない。
…………。
旧型のアルバチャスに……。有馬要人に これ以上強い負荷を掛けては 命の危険も考えられる。
code-16- ならば、code-19-のように -TAS-を使用できなくても、少しは対抗できるだろうか。
…………。
天瀬十一は……。戦いの中で 手早く熟慮を終える。
熟慮を終えて得た 結論からの 発案を 共に戦う青年に 開示した。
…………。
「 俺の心配よりも……。君はもう 限界だろう ?
有馬 君……。1人で逃げろ。
君は……。父さん や 真尋の居場所も知ってるんだろ ?
時間稼ぎは 俺にも出来る……。あの状況で エヌ・ゼルプトを撃破出来ただけでも 上々だ。
今の戦いの情報を持って 再起を図るべきだ。 」
「 そんなの……。断るに決まってるでしょ。俺は 戦います…… !!
慎一さん から託された 力で……。まだ……。全然やれます。 」
…………。
愚者のアルバチャスは 未だに DEFの 星の恩恵を 動作させたまま拳を握っている。
愚者と塔の会話を聞いていたのか、太陽が わざとらしく話しかけてきた。
…………。
「 酷い話だよ 本当に。
この馬鹿には 何を言っても意味は無い……。どんな慈悲も すり抜ける……。
ネコに小判、馬の耳に念仏、豚に真珠……。馬鹿に友愛、全ては無駄な事だ。
安心しなさい 十一 君……。太陽神の神たる所以を見せてやろう。
私が 神で 英雄である。 」
…………。
太陽の英雄が、いよいよ切り札に手を出した。日輪型のジェネレーターが輝き出す。
…………。
『 -Twins And Sun- !! event !! Accelerate !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! アクセラレータ !! ) 』
…………。
愚者の青年は ジェネレーターの配色の変化に即座に気がつくと、殆ど同時に DEFを切り替えた。
-TAS-の動作音がなるのと 変わらない頃合いで、青年が 仕掛ける。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
ホバー滑走で 前進する 愚者のアルバチャスの挙動は、通常の時間軸では 目視で追いかけるのも難しくなっていく。
…………。
「 ダメだ !!有馬 君 !!
君の身体が 耐えられなくなってしまう !! 」
…………。
天瀬十一の声を 置き去りにして、引き延ばされた時間流の中で 2つの影が戦う。
…………。
愚者の動きは仮想未来の頃に比べると、かなり散漫で 大味な動作も増えていた。
太陽は これを見逃さない。
…………。
殴る !!蹴る !!
銃で撃つ !!銃でも殴る !!
オーソドックスで トラディショナルな指導を 叩き込んでいく。
…………。
「 どうした 有馬要人 !!随分 隙だらけだぞ ?
所詮は流れ物……。間に合わせの 試作型じゃあ……。希少なマルクトも !!
腐らせるだけだなあ !!
マルクトは 試練に挑む英雄の持ち物……。そろそろ 返してもらうぞ !! 」
…………。
青年は……。言葉も発さずに 目の前に迫る数々の攻撃に対処した。
…………。
B.A.Wandを振るい 僅かな合間にも 反撃しながら……。神経を研ぎ澄ます。
…………。
……。
塔の青年 天瀬十一が体感した、通常の時間軸での数秒が経過すると……。
愚者のアルバチャスが、引き延ばされた時間軸から弾き出されて戻ってきてしまう。
…………。
ハッタリ程度の DEFの 星を 起動しなおしているが、今にも倒れてしまいそうで 臨戦態勢は 崩れているのと変わらない。
その直ぐ後には、太陽のアルバチャスもまた -TAS-を解除して 通常の時間軸に 姿を見せた。
…………。
天瀬十一は考える……。
確かに激しく消耗していた筈の状況で……。
何故……。何故 1人だけが 急に余力を 見せられているのか。
見た所では……。その余力には 行動も伴っており、やせ我慢や ハッタリには見えない。
…………。
Arbachasの 基礎機能として 治癒能力の強化があったとしても、異常に早いのは何故なのか。
…………。
-TAS-の 使用頻度を見ても……。
完全に回復している訳では 無いのだろうが……。仮想未来で消耗した分が かなり 和らいでいる ようなのだ。
この カラクリを明かさない事には……。こちらが 消耗するばかりだろう。
…………。
愚者と 塔が 変わらず警戒を強める中で、太陽が ある提案を持ち掛ける。
ますます 口達者な様子で、既に 勝利の美酒に酔っているかのうようだった。
…………。
「 フフフ……。DEFも この程度という事だ……。私は 自分が怖い。
またしても、またしても……。
またしても……。慎一に勝ってしまった !!
十一 君。君も もう諦めろ。
まだ間に合うぞ……。マルクトは どちらも返してもらうが……。
今なら無料で ついでに火葬もしてやろう じゃあないか。出血大サービスさ これぞ慈悲の心。
英雄であり 太陽神の慈愛に満ちた所業だ。
明日から ニューヒキダも平穏な 日常に戻れるというものだ。 」
…………。
独自の倫理観と理論……。これに対して、有馬要人が 怒りを露わにした。
…………。
「 誰が 英雄だ !!
神地、お前は 英雄でも神でもない……。
何が 光の試練の英雄……。
エイオスとの戦いの陰で 人々の営みを壊してきたんだろう !?
自分自身の目的の為に !!
アンタは 英雄じゃない !!アンタのマルクトの方が 強かったとしても !!
俺が 諦める理由にはならない !! 」
…………。
有馬要人が 啖呵を切ると、天瀬十一の脳内で聞き流せない違和感が閃きに結びつく。
…………。
これまでに 何度か会話の中で出てきた名前が……。
今の 神地聖正を 取り巻く……。異常な 継続戦闘能力の維持の 謎を明らかにする 答え なのだろう。
…………。
天瀬十一は、その証拠を確認してしまい 心臓が抉られるような不快感を覚えた。
…………。
「 強いマルクト……。まさか そういう事なのか !?
有馬 君 !!
今 わかったぞ……。僅かだが、反応が有った……。アポロンから 反応が有ったんだ。
空護のデバイスを !!
恐らく 空護のデバイスを使って……。消耗した エネルギーの補給に当てている !!
太陽のアルバチャスは、最も強い出力を出せる 特殊なマルクトを使用しているが、大きく消耗していた。
仮想未来での戦いの影響が 間違いなく 出ていた筈なんだ。
それ程 code-19-独自の system -TAS-も、エネルギーを要するからね。
だから……。俺は -TAS-を頻繁に使わない理由が 気になっていたんだ。
理由はわかった。……まだ 俺達は勝てる。
今は Apollonとは 適合率の低いマルクトで 辛うじて戦えてるだけなんだ…… !! 」
「 空護さん の ?……なら それを奪えれば !!……神地を倒せる !! 」
…………。
愚者と 塔の 目指す方向性が定まり出していた。
…………。
太陽の英雄が、種明かしに動じる様子は見られない。
…………。
「 それが わかっても……。達成できなければ 同じことだ。
現に 今にも倒れそうなのは 君達 2人の方だろう ?
だが 種が割れたのなら、確実に仕留めねば ならなくなってしまった。
非常に残念だ……。終わらせてやる……。 」
『 -Twins And Sun- !! event !! Accelerate !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! アクセラレータ !! ) 』
…………。
太陽のジェネレーターが 輝く直前に 言葉尻から先読みした行動で妨害が入った。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
「 させるものか !! 」
…………。
天瀬十一は 護符の恩恵を載せて雷の弾丸を注ぐ。
数発の弾丸は ジェネレーターの動きを 一瞬だけ狂わせて 太陽に隙を作り出した。
…………。
「 七光りめ…… !!この私に何を…… !! 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
神地聖正も また 反撃の手に移り……。地面を吹き飛ばしては 巻き上げた焦土を目くらましに使った。
炎熱の弾丸で、周囲の地面を吹き飛ばしたのだ。
…………。
有馬要人は 無言で DEFの切り替えを行う……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
神地聖正も 再度 引き延ばされた時間軸に飛び込んだ……。
…………。
『 -Twins And Sun- !! event !! Accelerate !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! アクセラレータ !! ) 』
…………。
中空に巻き上げられた焦土の動きが 遅くなっていく。
引き延ばされた時間軸で、愚者と太陽が殴りあった。
小細工の無い正面からの衝突が始まる。
…………。
「 そうまでして……。そうまでして 私の邪魔をしたいのか ?
只の余所者が !!
私の長年の研鑽に土足で 踏み込んで来るな !! 」
「 多くの人を 巻き込んだアンタに、被害者の仮面は被らせない !!
俺は余所者だ !!
だけど……。この街で食べた全ての料理が 美味しいのは知ってる !!
今を生きてる人達だって見てきた !!
献花台に増える花すらも !!見てきたんだんだ !!
誰かの日常を 踏み荒らす奴は俺が倒す !!空護さん の デバイスは返してもらうぞ神地 !! 」
…………。
スローモーションの世界での激闘は……。
激しさに比例して、互いの体力を大幅に削った。
…………。
これにより 愚者と 太陽は 共に通常の時間軸に引き戻される。
3人のアルバチャスは、本来の全力を出せなくとも 拳や脚をぶつけて 武器を弾かせて 戦いを続けた。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
太陽が護符の恩恵を起動し 出力を高める。
赤熱した拳は 愚者へと伸びた……。
…………。
「 有馬 君 !!今だ…… !! 」
…………。
太陽の炎熱の強打を、塔の補助アームが 巨大な拳をぶつけて妨害する。
…………。
塔のアルバチャスは、力を使い果たしたのか 直ぐに 強制解除させてしまい、生身の姿に戻ってしまう。
しかし、アポロンは これによって片方の腕が伸びきった状態で 数秒の隙をみせていた。
…………。
青年は 無心で身体を動かすと、護符の恩恵を動作させて 深く踏み込む。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
愚者の上段蹴りが 太陽の胸の真ん中を蹴とばす。
…………。
アポロンが 後方へと吹き飛ばされていくのと同じ頃合いには、青年のアルバチャスも 強制解除に陥っていた。
…………。
神地聖正も アルバチャスを強制解除させられて、同時に とあるデバイスを落下させる。
…………。
「 ……フフフ。そんなに欲しいのなら くれてやる。
所詮は 弱体化した 風のマルクトだ……。私が持つ 火のマルクトには遠く及ばない……。 」
「 負け惜しみか ?この状況で……。
アンタが 知ってる事 教えてもらうぞ……。光の試練について……。 」
…………。
青年 有馬要人が 光の試練について言及する。
…………。
力ずくの 最果てに持ち出せる 唯一の駆け引きだが……。これでも まだ 足りないようだった。
…………。
「 誰が 教えるものか。私は これからも 試練を成すのだ……。
言葉や 力で脅そうとも私は折れない……。折れないからこそ……。今も 先の未来に踏み出せるのだよ。
これを見ろ code-19-のデバイスの アルカナ残量だ。
時間さえ稼げば……。幾らでも 機運は 私の側に傾く。 」
…………。
神地聖正の片手に 握られている専用の A-deviceは、活性化しており エネルギーの充填が進んでいる事を示す。
…………。
愚者や 塔が 戦馬車の A-device奪還に注力している間に、充填タスクのみを優先させていたのだ。
本命のデバイスの出力排出を温存し……。時間の経過による充填率の回復を待っていたのである。
…………。
つまり……。
先程までの戦い方は、アポロンの機能を 完全に復活させる為の時間稼ぎだったのだ。
…………。
要所でのみ アポロンのマルクトで -TAS-を起動し……。それ以外では、戦馬車のデバイスを 常用していた。
本来の設計で 推奨された使い方ではないが……。強引な荒業で時間を稼いだのだ。
…………。
2つの A-deviceを リンクさせて 1つの Arbachasを動作させる……。危険な荒業である。
…………。
「 見誤ったな 馬鹿どもが。私は負けない……。
この光の 力の全てで……。私は世界を統べる !!
アルバチャス……。起動 !! 」
…………。
愚者の A-deviceも 塔の A-deviceも、Arbachasの再起動には、まだ時間も充填率も足りない。
…………。
青年 有馬要人は……。鈍らせながらも判断を下そうとしていた。
…………。
ダメ元で 突っ込むか……!?
…………。
……。
青年が 野生の勘で走りだそうとした頃、エンジン音と銃声が鳴り響く。
…………。
謎のエンジン音が 轟々と鳴るの方角から、既視感の有る銃弾が 何十発も跳んできた。
その銃弾は 有馬要人や 天瀬十一と相対する 神地聖正との間の地面に、境界線を引くように被弾する。
…………。
これには 流石の神地聖正も、デバイスの起動を寸前で留まらせてしまったようだ。
…………。
銃弾が この場の誰かに被弾する事は無かったが、その主犯がいる方角に自然と視線が引き込まれていく。
その人物は 少し離れた位置から、こちら側に銃口を向けている。
…………。
握られているのは、特殊小銃 W.C.P.S……。
特殊小銃を握っているのは、フルフェイスマスクで顔を隠し、オフロード対応型の バイクに跨る謎の人物……。
…………。
謎の人物は W.C.P.Sを立ち乗りの騎乗で 乱射したまま、バイク走らせて接近してきた。
………………。
…………。
……。
~物陰のリコリス~
ニューヒキダの 郊外……。
N-01 地区……。
各地では……。以前の マーへレスの凱旋による影響で 監視カメラも 未だに新設されていない。
そんな中での 一角……。廃れきった地下街では……。
…………。
荒廃した街の 物陰に、複数のエヌ・ゼルプトの姿があった。
静けさの中で 怪人達の 話し声が反響する。
…………。
1体は 吊るし人 ウロド……。
1体は 運命の輪 セドネッツァ……。
…………。
つい先ほどまでは、エリアイズが生成した 異空間への出入り口を 絶えず安定させ 守護していた 2体だ。
…………。
「 エリアイズ サマ……。エリアイズ サマ……。
エリアイズ サマ……。エリアイズ サマ……。 」
「 静まれ ウロド……。何度 言えば わかる。
朕も 悲しいのじゃ……。まさか、エリアイズ様が消滅するとは 信じられぬ……。 」
…………。
獣頭の怪人が、何度 鎮めても 最も知性を欠いた エヌ・ゼルプトの嘆きは止まらない。
…………。
それは、エヌ・ゼルプトでも指折りの 頑強な外殻を持つ反面 持ち合わせた 特色……。
もしくは 持たずに と表現するべきか。
どちらにせよ……。それが 吊るし人の エヌ・ゼルプトなのである。
…………。
セドネッツァが、儚い感情に押しつぶされそうに なっていると、後方から 近づいて来る気配に気がついた。
暗闇の奥底から 黒い翼の持ち主が歩みより、2体のエヌ・ゼルプトに語りかける。
…………。
「 まさか 汝ら 使命を放棄するつもりか……。
それ を 早々と持ち去ったのは、どういった意図だ…… ?
エリアイズは 曲がりなりにも使命を果たした……。再三の復活も有りはしない……。 」
…………。
ウロドと セドネッツァの背後に 降臨したのは ドゥークラである……。
暗闇の奥底から にじみ出るように 黒い翼の大天使が 姿を見せた。
…………。
2体の エヌ・ゼルプトは 黒翼の怪人の出現には 不意を突かれてしまい 空気が張りつめていった。
…………。
天使型の中でも 最上級のエヌ・ゼルプト……。
全ての エヌ・ゼルプトと比較しても あらゆる面で異質な 最強格の 1体……。
エリアイズが 仕掛けた異空間への幽閉も、その気に成れば簡単に脱出できる実力を持つ。
…………。
ドゥークラが 何者かを知る 同胞ならば、如何に恐れるべき相手なのか考えるまでも無い。
セドネッツァは ドゥークラが口にする言葉の意味を 理解し戦慄した。
…………。
「 こ、これは……。
頼む 後生じゃ……。エリアイズ様にも復活の加護を…… !!
再三の顕現を…… !!
英雄如き これから何度でも相手をしよう。
奴らは 朕と ウロドがいれば、簡単に根絶やしにできる…… !!
後生じゃ ドゥークラ……。このアルカナには エリアイズ様の欠片が残っているのじゃ…… !! 」
…………。
セドネッツァの両手には 黄色と銀灰色に輝く砂のような アルカナ粒子が納められている。
…………。
それは 灰翼の怪人の残滓……。
異空間の出入り口に成っていた 光の球に亀裂が入った 直後に 飛散し飛び出したものだ。
飛散し飛び出したものを セドネッツァが光の波で 絡め捕り 保持しているのである。
…………。
セドネッツァからの 熱のこもった願いに ドゥークラは沈黙した。
底の見えない夜の海面のように、負の感情が増幅されるような、不安定な暗さが静かな威圧感を漂わせる。
…………。
数秒程 間を置くと、黒翼の怪人は応答した。
…………。
「 汝……。エヌ・ゼルプトとしての 在り方を反故にするつもりか ?
過ぎれば 虚無を呼ぶぞ……。だが……。
……良いだろう。
復活と覚醒を授けよう……。 」
「 ほ、本当か…… ?
エリアイズ様が 蘇る……。これ程 嬉しい事は無い……。 」
…………。
セドネッツァの望みが 受理されたらしい。
了承を意味する言葉の後に 条件を付けて……。
…………。
「 但し……。先の言葉……。現実に変えてもらおう……。 」
…………。
エヌ・ゼルプトにかかれば 簡単な条件だった。
単純に戦うだけならば 負けるはずがない。
…………。
「 任せるがよい。
朕と ウロドがいれば……。今の試練の英雄なぞ 取るに足らん。
良からぬ 算段を企てる無法者は……。全て根絶やしにしてくれる !
なあ ウロドよ ! 」
「 ザイニン ウロドガ シバル……。ツルス……。
ザイニン ウロドガ シバル……。ツルス……。
ザイニン ウロドガ シバル……。ツルス……。 」
…………。
交渉は成立したようだった……。
黒翼の怪人が 赤い双眼を光らせて、固有能力でもある 暗雲を片方の掌から出現させる。
…………。
「 では……。こちらへ来るのだ。
エリアイズの残滓を……。全て と 練り直してやろう。
我は 番人であり審判……。復活と覚醒 そして三位一体をも司る 試練の導き手……。 」
…………。
セドネッツァや ウロドが、暗雲の中に 飲み込まれていった。
…………。
それぞれの身に迫った 再起不能や 行き詰まりに 気がつく頃には、存在の殆どが 飲み込まれていたのだ。
2体の エヌ・ゼルプトだった 形は アルカナ粒子に再分解されて 暗雲に吸い込まれていく。
…………。
試練を狂わせる自我は不要なのだ……。
…………。
暗雲には エリアイズの微細な残滓すらも吸い込まれていく。
2体のエヌ・ゼルプトが完全に分解されると、1体の 怪人が顕現していた。
…………。
これまでの粒子の流れが 逆再生されるように 吐き出されていき それが 姿を現したのだ。
…………。
……。
周囲は依然として薄暗く……。
どういった エヌ・ゼルプトが出現したのかも、そもそも エヌ・ゼルプトなのか どうなのかすらも判別がつかない。
…………。
……。
物陰から 1人……。
この場に居合わせてしまった人物は 目を疑い 一度身を隠した。
…………。
自分達が苦戦した エヌ・ゼルプトが 2体とも 容易く姿を消してしまったのだ。
…………。
恵花界(エハナ カイ)は 静かに考える。
エヌ・ゼルプトとは……。光の試練とは……。ニューヒキダ復興の 立役者 神地聖正は何を知っているのか。
…………。
別段 嫌な汗を流す事も無いが 冷静に思案し続ける。
…………。
ここから 少し離れると、近隣には自分と同じように 周囲の哨戒を行っている第四班の面々がいるのだ。
恵花界は どこか心を決めて 隠れるのをやめた。
武装デバイスを握り ドゥークラの方へと歩き始める……。
………………。
…………。
……。
~覚醒~
愚者、塔、太陽の 3人のアルバチャスが 死線を潜るような戦いの果てで……。
太陽のアルバチャス 神地聖正の目論見が、軌道に乗り始める。
それは 隠し持っていた 戦馬車の A-deviceを 利用した本命の温存。
…………。
「 見誤ったな 馬鹿どもが。私は負けない……。
この光の 力の全てで……。私は世界を統べる !!
アルバチャス……。起動 !! 」
…………。
愚者の A-deviceも 塔の A-deviceも、Arbachasの再起動には、まだ時間も充填率も足りない。
…………。
青年 有馬要人は……。鈍らせながらも判断を下そうとしていた。
…………。
ダメ元で 突っ込むか……!?
…………。
……。
青年が 野生の勘で走りだそうとした頃、エンジン音と銃声が鳴り響いた。
…………。
その人物は 少し離れた位置から、こちら側に銃口を向けている。
…………。
握られているのは、特殊小銃 W.C.P.S……。
特殊小銃を握っているのは、フルフェイスマスクで顔を隠し、オフロード対応型の バイクに跨る謎の人物……。
…………。
謎の人物が W.C.P.Sを騎乗乱射したまま、バイク走らせて接近して来る……。
また 一巡り、新たな局面に向けての 変化が訪れていた。
…………。
……。
フルフェイスマスクの人物は 器用にも騎乗射撃を繰り返し、直ぐ 近くまで迫った。
度重なる戦いで 荒れた道にも 臆する 様子はない。
…………。
特殊小銃 W.C.P.Sによる 射撃では 神地聖正が 狙われているようで……。
本人も これを自覚し、直ぐに自身の Arbachasを 起動し直した。
…………。
「 ふん。誰が 立ちはだかろうが 私は進む だけだ。
アルバチャス 起動……。 」
『 Arbachas code-19- !! Function !!
( アルバチャス コード ナインティーン !! ファンクション !! ) 』
『 Over The World !! Apollon !!
( オーバー・ザ・ワールド !! アポロン !! ) 』
…………。
太陽の英雄は 嫌悪感を覚えていた。
湧きあがる嫌悪感を 感じ取りながらも……。自身の心の奥で 状況を見つめなおし 奮い立たせる。
…………。
……。
何が有っても……。気にする事は無い……。
…………。
最も優れた Arbachasは……。太陽の切り札は 何物にも勝るのだ……。
仮に相手が 光の試練の最終目標 イェルクスだったとしても、アポロンの能力ならば通用するだろう。
…………。
他の Arbachas codeには 実装されていない機能は まだ有る。
その中の 1つは……。最悪の事態を必ず覆す。
…………。
彼我不明(ひがふめい)の乱入者の 銃弾など取るに足らない。
軽く……。礼だけ は してやろうか。私の行動を 数秒阻害した 礼だ……。時間は 有限 なのだからな。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Cup !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! カップ !! ) 』
…………。
この時の 神地聖正は……。
少しだけ、本人でも 気がつかない程度に 躍起になっていた。
…………。
それが、謎の人物に向けた射撃の初動を 普段よりも遅れさせる……。
僅かな時間差での隙が……。更なる 強襲者が つけ入る 隙になっていたのだ。
…………。
紺色の Arbachasが 太陽の初動の遅れで 入り込む。
…………。
……。
Arbachas code-less-……。
( アルバチャス コード・レス )
…………。
あくまでも 素体としての役割しかない 最弱の汎用型 code である。
各 アルバチャスの専有コードを 適用する前の、基礎に該当する systemだ。
…………。
そのまま 戦闘行動を取るには 限りなく不向きな 紺色のアルバチャスが、太陽の英雄に 立ちはだかった。
紺色のアルバチャスからは……。青年 有馬要人の 声が発せられる。
…………。
太陽のアルバチャスが B.A.Cupの引き金を 握るよりも先に、有馬要人が code-less-で強襲したのだ。
…………。
「 誰を狙っているんだ !!相手は生身だぞ !!
アンタの相手は、今だって 俺がする !! 」
「 有馬 君…… !!空護の……。戦馬車の A-deviceは回収した !!
無理はするな。
-less-は 確かに負担もコストも 最小だが、今 それで 戦うのは危険すぎる…… !!
無謀な事を……。
にしても バイクに乗っているのは誰だ ?
あんな命知らず どこから……。そこのバイク 止まるんだ !!怪我じゃすまないぞ !! 」
…………。
青年 有馬要人は、久しぶりの感覚に気がついていた。
普段なら 殴打や蹴りを繰り出した時に伝わる、自分自身に帰ってくる衝撃が、ぼやけたような感覚だ。
…………。
天瀬十一には これがバレているのかもしれない……。
紺色のアルバチャス……。-less-は 戦いにおいては、負荷が弱い分 それだけに留まる程、性能は控えめである。
…………。
だが……。ここで踏み止まれば……。きっと 後少しで 相手にも底が見える……。
今は 自身の身体の……。こんな違和感は無視だ……。とにかく出来る事を !!
…………。
……。
-less-の アルバチャスが、更に 攻勢に出ようと動き出すと、青年の方にも 射撃が向けられた。
フルフェイスマスクの人物からの騎乗射撃である。
…………。
青年の足元に着弾した無数の弾丸は 数秒間 進路を妨害してしまう。
…………。
謎の人物は更に近づいていき、ついには アルバチャス通しの戦いに 直接乱入していた。
騎乗射撃で 主に狙うのは 神地聖正ではあるが、しばらくすると残弾が切れたのか 今度は流れるようにバイクを乗りこなす。
擦れ違いざまに 銃剣部分での刺突や斬撃を 器用に繰り出して……。騎乗したままの 格闘戦を仕掛けていたのだ。
…………。
神地聖正からの 反撃の火球の被弾は 避け続けるものの……。
いつの間にか、爆風から燃え移ったのだろうか……。謎の人物の上衣は 燃え始めている。
…………。
謎の人物は……。W.C.P.Sを放り投げた。
…………。
バイクのスロットルを 回して加速させると、荒々しく戦う有馬要人と 神地聖正に急接近していく。
フルフェイスマスクの人物が、倒れている電柱の傾斜の上を バイクで走り抜けて 空中に飛び出した。
バイクの前輪を持ち上げて 勢いよく乗り出したのだ。
…………。
謎の人物が……。空中へ飛び出して……。声を発した……。
…………。
「 ……隙ありだぞ !!有馬 !! 」
…………。
謎の人物の声が マスク越しにも聞こえる声量で響く。
その声は 2度と聞く事は無いと、この場の 3人が思っていた声だった。
…………。
……。
太陽の英雄は……。この声に 誰よりも先に反応して B.A.Cupの銃口を向けると、引き金を引く。
…………。
「 貴様 !!……あの状況から どうやって !?
デバイスは回収した……。Arbachasの自己治癒 は望めなかった筈だ !!
それに アレは……。自己治癒如きで 治るような状態でもない……。 」
…………。
太陽の英雄が 放った火球が、バイクを爆発させる。
しかし……。その人物は既に バイクを乗り捨てて、天瀬十一の近くに 着地していた。
…………。
謎の人物は 燃え広がる上衣を破り捨てて、フルフェイスマスクすらも投げ捨てる。
…………。
謎だった人物の上半身は 生々しい傷跡が 今も残っており、その中の 幾つかは まだ新しい。
筋骨隆々の 大柄な体躯と 坊主頭が特徴的な人物が、その素顔をあらわにした。
…………。
天瀬十一は……。気持ちに準備が出来ていなかったものの……。男の名を口にする。
…………。
「 まさか……。空護か……? 」
…………。
謎の人物は……。これまでに 生死が不明だったと思われていた 丹内空護(タンナイ クウゴ)だったのだ。
…………。
「 久しぶりだな 十一……。大まかな事情は俺も知っている……。
デバイスを貰ってもいいか ?
それから……。有馬 !!待たせたな。 」
…………。
丹内空護が 力強い口調で再会の言葉を口にした。
…………。
「 空護さん……。本当に…… !?
良かった……。 」
…………。
青年は 思いもよらない形で意表を突かれた。
隙だらけになった自身の状態を自覚して……。無意識に 太陽のアルバチャスから 距離を置く。
…………。
code-less-からの 太陽への攻勢は一時的に緩んでいたが、皆がペースを 乱されていた。
神地聖正も この動揺を誘う 人物の登場には 気を動転させている。
…………。
天瀬十一は そんな中でも 冷静そうな口ぶりで 友人に応答した。
…………。
「 デバイスを渡す分には 構わないけど……。
君の デバイスも、専有 codeを起動できる 残量はまだ無い。
俺や 有馬 君の Arbachasも、まだまだ ギリギリ足りない くらいだ。 」
「 大丈夫だ 十一。親父さんから コイツを受け取ってある……。
使ってくれ。3人分のデバイス用 予備バッテリーツールだ。 」
…………。
丹内空護は 天瀬十一に 2人分のツールを渡すと、少し離れた所にいる有馬要人にも放り投げる。
青年は 即座に -less-を解除し 放られたものを受け取った。
…………。
神地聖正は、現在 発生している状況の背景について着目する。
…………。
「 予備だと ?……慎一が アルカナの粒子を 用意したというのか ?
極最近まで、マルクトは全て 私の管理下にあった……。
仮に そこの 愚者のデバイスから集めるにしても、間に合うはずが無い。
……アルバチャス 3体分もだぞ !?
出力が抑えられた 量産型のレヴル・ロウとは違う……。
レヴル・ロウ……。馬鹿な…… !? 」
…………。
神地聖正の予測が ある方法に辿り着くが、これを成す為には 半端な人物では到底 無しえない……。
逆に言ってしまえば、その人物ならば 成しえる 打開策だった。
…………。
丹内空護は 神地聖正が辿り着いたと考えられる予測への 答え合わせを始める。
…………。
「 そのまさかだ……。俺は ここまで来る途中で 大代大(オオシロ マサル)や 彼誰五班の 何人かと合流できた。
その時に 大体の事情は知って、ありったけ 集めてもらったんだ。
まだ 充分な 残量が残っている レヴル・ロウのデバイスをな。
そして そこまで同行していた 十一の 親父さんが……。
独自に用意していたツールで デバイス間のエネルギーを再調整し移動させた。
量産型とじゃ……。必要な密度も かなり違うみたいだが……。
code-less-以上の能力を発揮できる 専有 codeを 起動するには問題の無い量は確保できた。
アルバチャスは……。一度でも再起動できれば こっちのもんだ。
ついでだ 聖正……。教えてやる。
俺は お前と戦い敗れた……。だが、俺は 戦馬車のアルバチャス……。勝利を呼ぶ為なら 必ず蘇る。
それが 俺のアルバチャスに込められた 願いだからだ !! 」
…………。
丹内空護は、強い言葉で揺るがない意思を示す。
…………。
正直な所……。
何故 自分自身が助かったのかも わからないし……。間違いなく命に危険が迫るような重傷だった。
…………。
実際 自分でも死を覚悟する暇も無く 意識が途切れていたのだ。
…………。
だが……。どれ程 時間が経過したかも わからない頃には山の中を彷徨っており……。
その後には、幸運な事に 荒井一志(アライ カズシ)と合流し……。カムナ・ベースで治療を受けた。
…………。
気がかりな事に……。この時……。
致命傷に至ると判断されるような規模の傷は、殆どが小康状態にまで回復していたのが、特に今も問題は無い。
…………。
ならば………。
いつかの資料で 確認した タロットカードの意味合いと同じ事が 出来るように全力で戦うだけだ。
…………。
戦馬車に 込められた カードの意味は 勝利 そして 援軍…… !!
…………。
アルバチャスは ニューヒキダを護る為に戦う……。
この戦士を 現実にする為に、ここまで強くする為に、義父も 藤崎班長も 夢川結衣も……。
…………。
多くの人々が 次代へと託してきたのだ。仲間の命を 捨てさせはしない。
…………。
丹内空護の瞳の奥には確かな強い意思が宿っていた。
神地聖正は、大方の背景を理解したからなのか……。これにも気圧されはしない。
…………。
「 フフフ……。何が願いだ……。戯言を言うように成ったか……。
誰の影響か知らないが、慎一が裏で糸を引くのなら その糸を燃やしてやろう。
私が 全力でな……。
3人で来てみろ……。証明してやるさ。私の計画は狂わない。
私が手にすべき 新たな世界は 必ず訪れるのだ……。
過去の大災害とは 比較に成らない規模で、全てを飲み込んでやろうじゃあないか。 」
…………。
愚者、戦馬車、塔……。
それぞれの専有 codeを持つ 3人の青年達は、互いに視線で合図を送り合い 頷いた。
…………。
丹内空護が 万全な状態の A-deviceを受け取る。
天瀬十一が、手際よく 予備バッテリーと DEFの アップデートツールの適用を済ませたのだ。
…………。
3人は 互いに鼓舞しあい 意思を固める。
…………。
「 空護……。君の身体は 少し馬鹿 過ぎる……。後日 精密な検査をした方が良い。
けど、また 一緒に戦える事を俺は誇りに思う。
どんな 災難にでも立ち向かえる 気がしてくるんだ……。俺を信じてくれて ありがとう。 」
「 お前が 普段通りに振る舞えるって事は……。
あの日の 俺達の意思疎通は しっかり取れてたって事だな。
保険の効かない作戦が 上手くいって良かった。
親父さん も 真尋ちゃん も安心だろう。
有馬……。お前も本当に強くなった。だがもう 好きに暴れろ。お前の隙は 俺達が埋める。
勝つぞ……。 」
「 これだもんな……。
健気にも 涙とか鼻水とかで 枕を汚した時間を返してくださいよ。まったく。
けど、そういうのでも……。
きっちり返す努力をしそうな 空護さん に 安心する 自分が、馬鹿みたいで 清々しいんですけどね。
空護さん その DEF……。
初めてでも上手い事 使ってくださいよ ?
今から ぶっつけ本番の繫忙期研修……。激レア OJTですからね。
十一さん の バベルだって有るんだ。前みたいに きっと上手くいく。 」
…………。
ある局面が 近づいている筈だった。どちらに転ぶか どうかの瀬戸際である。
瀬戸際の状況でも、1人の人物の登場が 緊張感の弦を ほぐして、余裕をもって張りなおさせたのだ。
…………。
一気に 普段の空気感を取り戻しているようで……。
以前にも増して強固で しなやかな……。強さが 光り輝いているようだった。
…………。
……。
この光景を目の当たりにして、思う所を感じる人物が 内心で 苛立つ。
…………。
強固でしなやかな……。そんな光が煩わしい………。
群れなくては 何も出来ない 尻すぼみの群集心理に 憤りが湧きあがる。
…………。
太陽は より熱く燻ぶった。
…………。
「 随分のんき なものだ……。
こうしている間にも、私の真なるアルバチャスは……。粒子の密度を高めているというのに。
何かが変わるものか。
DEFを 扱える者が 1人増えたところで……。
私に敵わなかった者が 1人増えたところで 何かが変わるものか。
慎一の DEFよりも 私が仕上げた -TAS-の方が上だ。……かかってこい。 」
…………。
太陽の英雄からは、まとわりつくような怒りが にじみ出る。
…………。
青年 有馬要人が 明日を見据えたような口ぶりで 拳を握った。
…………。
「 神地……。ここから先は 何が有ってもアンタの思い通りにはさせない !!
俺達が何度でも ひっくり返してやる !!
それが……。アルバチャスだ !! 」
…………。
3人の青年達は……。過信も 焦りもせずに デバイスを動作させた。
…………。
「「「 Arbachas 起動 !!! 」」」
…………。
有馬要人、丹内空護、天瀬十一……。それぞれの専有 codeが 起動する。
…………。
『 Arbachas code-16- !! Function !!
( アルバチャス コード シックスティーン !! ファンクション !! ) 』
『 Destruct All !! Babel !!
( デストラクト・オール !! バベル !! ) 』
『 Arbachas code-7- !! The Chariot Function !!
( アルバチャス コード セブン !! チャリオット ファンクション !! ) 』
『 Arbachas code-0- !! The Stupid Function !!
( アルバチャス コード アイン !! ストゥピッド ファンクション !! ) 』
…………。
愚者、戦馬車、塔のアルバチャスが 並び立った。
4人のアルバチャスが 激しく 戦い始める……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
激戦が繰り広げられるのと同じ頃、少しだけ離れた外周側に 数人の人影があった。
先程、丹内空護が オフロード対応型のバイクに乗って現れた付近の物陰には、ちょっとした集まりが出来ている。
戦いの行先を託し……。行く末を見守る 集まりだ。
…………。
集まりは 全員が 今 戦っている アルバチャスと見知った人物達……。
…………。
その中の 2人は、巻健司(マキ ケンジ)と 天瀬真尋(アマセ マヒロ)である。
…………。
「 始まっちまったな……。これから先は アイツら次第だ。
直接 見てて 怖くないか ?……真尋ちゃん。 」
「 最初は、身近な人達が 私の知らない所で戦ってるって知った時は……。
それだけで 凄く怖かった……。
けど、誰かが正体を知らなくても……。アルバチャスはずっと戦って 最後には勝ってきた。
それなら……。そのアルバチャスが、私の知ってる人達なら……。
何があったって 絶対に なんとかできる。
今は本気で そう思ってる。
だって、お兄ちゃんも……。空護も……。要人さん も……。今も押しつぶされてない。
命がけで戦ってるのに まだまだ負けてない !
それって……。頭で わかってたとしても 簡単に出来る事じゃないよね ?
だから……。きっと 大丈夫……。 」
…………。
集まりの中の別の 2人……。荒井一志と 大代大もまた 表情に険しさは無い。
…………。
「 自分も 班長達なら どうにか出来る気がしてます。
知りたくないような事も 多かったですが、皆で協力すれば 何が有っても進めるのだと……。
むしろ……。この後の方が、やるべき事が山積みでしょうね。
自分も 彼誰五班に転籍するべきかと 考えずにはいられませんよ。 」
「 荒井 君、僕は何気に君が生存していた事にも 驚いてるよ。
流石に 丹内 班長のインパクトには見劣りするけど……。
君が 彼誰五班の選抜を辞退して、特務棟 周辺の襲撃が発生するまでが 立て続けに起こり過ぎた。
まあ、それでも…… ?
彼誰五班の人員が増えるなら 先輩としては嬉しいんだけどね。
木田さん からの 風当たりは 少しだけ強いかもしれないけど……。僕は大歓迎さ。
恵花 君 や 伊世 君も……。同期の君を見ればきっと喜ぶだろうね。
人手は幾らあっても困らない。
当初の予定通りの班長候補が 揃うなら、願ったり叶ったりって もんさ。 」
…………。
集まりの中の最後の 1人……。天瀬慎一(アマセ シンイチ)は、自分以外には聞こえない程度の声で呟く……。
…………。
「 こんな日が 本当に来るとは思わなかった。
間違え続けた選択の巻き返しが、本当に出来るのかもしれない。
私と聖正は……。償いきれない事をしてしまったのだ。
今は 彼らの 戦いを……。この眼で見届け……。全てを託そう。
その先の間違いを、旧友に歩かせない為に……。彼らの可能性に……。全てを……。
聖正、私達は 間違い過ぎたんだ。
残りの人生で……。共に償っていこう……。 」
…………。
天瀬真尋は、少しだけ離れた所に 1人でいる父……。天瀬慎一に気がついて呼びかける。
すると、大代大も この呼びかけと同様に促した。
…………。
「 お父さん ?……そんなに 離れた所にいないで こっちにおいでよ。 」
「 そうですよ 天瀬 特務開発部 部長。
警戒しなくても大丈夫です。今は エイオスの気配は 有りませんし……。
活動可能な 彼誰五班が近隣の哨戒活動も行っています。
C.E.Oの アルバチャスとの通信範囲外に居るので、強制制御の心配も有りません。
もう少しで、他の班長も戻る筈ですから 安心してください。 」
…………。
4人のアルバチャスの戦いは 激しさを増していく……。
…………。
太陽の英雄は、既に何度か -TAS-を起動しており……。数の不利を 簡単に埋めてしまおうとしている。
…………。
神地聖正からすれば……。強制制御機能のプリーセプトゥが ある限り、DEF等は 脅威には含まれないのだろう。
たった 1回でも、愚者、戦馬車、塔の 3体を同時に掌握できれば 不戦勝を達成できるのだ。
…………。
ならば、これを執拗に狙っていけば……。愚者も 戦馬車も後手の対処に回らざるを得ない……。
その対処にしても、負担の大きい月の恩恵……。DEF MOONに頼るしかないのである。
…………。
光の試練を始めた 英雄が選別したマルクトは、他の 3つとは比べ物に成らない量のエネルギー充填率を持つ。
…………。
飼いならせない イレギュラーな エヌ・ゼルプトさえいなければ ペースを乱されずに戦えるのだろう。
持久戦に持ち込んだ時点で、太陽の英雄の勝利は 揺るがないのだと……。
…………。
そんな風にも見える 余力が、太陽のアルバチャスからは 漂っている。
…………。
……。
有馬要人と 丹内空護は 強制制御を危惧して、DEFによる月の恩恵で何度目かの攻撃を仕掛けていた。
…………。
そんな中……。愚者の身体に残る 長期戦の影響が 足を引っ張り始める……。
code-0-を起動は出来たが、流石に 自己治癒力の向上も……。体力の消耗に追いつかれそうに成っていたようだ。
…………。
有馬要人が先に DEF MOONを解除し、通常の時間軸へと弾き戻される。
…………。
……。
丹内空護は 単身……。DEF MOONを継続し、神地聖正と攻防を繰り広げた。
不思議な事に……。ここにきて始めて……。DEFを 以前にも使用していたような既視感を感じ取る。
…………。
そのせいなのか 別の要因なのか……。星の恩恵 DEF STARを 使用した時よりも 身体が楽なように思えたのだ。
月の恩恵の方が幾分か 馴染んでいるのだろうか。
…………。
理由こそ わからないが……。DEF MOONは 太陽のアルバチャスとの戦いでは必要不可欠……。
これを逃さない手は無い……。
…………。
……。
戦馬車は B.A.Swordと B.A.Cupで果敢に挑んだ。
太陽も 今の流れを飲み込もうと B.A.Cupでの銃撃や殴打で戦う。
…………。
……。
高速化能力を 駆使しても、戦馬車は挙動や反応速度で押され始める。
元々の性能が高水準な太陽による 簡単には埋められない差異が 備蓄されていった。
…………。
愚者が 太陽に近い敏捷性や反応速度で、これを補おうと割り込む。
短時間に分けた DEF MOONでの局所的な 使用方法だ。
…………。
塔は DEFこそ使用できないが、引き延ばされた時間軸でも動きを制限するような ギミックを作り続ける。
まばらに 雷の柱を発生させて……。神地聖正の行動可能範囲を制限しているのだ。
…………。
愚者も……。戦馬車も……。このギミックは ホバー滑走を駆使して器用に回避して見せる。
塔のアルバチャスから、情報を共有されて 雷の柱が発生している座標を 認識しているのだ。
…………。
雷の柱が生み出す林の中で……。野戦でも行っているような戦いが、2種類の時間軸で繰り広げられる。
…………。
……。
通常の時間軸から ギミックの操作に注力する雷の塔……。
音速の世界で猛攻を仕掛けて離さない戦馬車……。
2種類の時間を 行き来しては 相手の攪乱と強襲に徹する愚者……。
…………。
……。
太陽は、音速の世界に長く滞在し B.A.Cupによる炎熱の弾丸で雷の木々を霧散させる。
それでいて、戦馬車とも愚者とも互角以上に渡り合った。
…………。
神地聖正は……。戦況の変化に乏しくなって来た現状に、強引な突破口を見つけてしまう……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
太陽のアルバチャスが もう 何度目かにもなる大技を撃ち出す準備を済ませた。
…………。
今までは その度に 戦馬車も 愚者も 塔のアルバチャスさえも……。それぞれに対処を行ってきたが……。
銃口の向いている方角は……。どの アルバチャスとも異なっている。
…………。
太陽は わざとらしく……。通常の時間軸に戻ってから引き金を握った……。
…………。
「 避けるか ?……それとも コレを壊せるか ?
太陽が生み出す秘蔵の熱の御子を……。どうにか出来るかな ?
隠遁者は 蒸発するがいい !!……見つけたぞ 慎一 !! 」
…………。
太陽が持つ B.A.Cupから極熱の火球を射出された。
極熱の火球弾は、雷の林を 瞬く間に なぎ倒し……。離れた位置にいる 数人の方角へと跳んでいく。
…………。
愚者は直ぐにでも DEFの 3つ目の機能に手を出そうとするが、動作させられなかった。
青年 有馬要人の身体が、既に これを使用できるような状態では無かったのだ。
…………。
思考を巡らせる程度の猶予も無い危機だった。
戦馬車が DEF SUNに全てを掛ける。
…………。
『 Device Error Factor !! Non Function !! Error !!
( デバイス エラー ファクター !! ノン・ファンクション !! エラー !! ) 』
…………。
しかし動作音は……。愚者の青年が知っている ものでは無い。
太陽の恩恵 DEF SUNは動作しなかった。
…………。
にもかかわらず、青年が気がつくと……。極熱の火球弾は 遥か上空で爆発している。
先程まで視界に広がっていた熱の塊が……。爆発していたのだ。
…………。
青年は 瞬きなどしていなかった。
…………。
情報を欲して視界の中に ヒントを探す。
離れた位置から 密かに こちらの戦いを見届けていた 5人の無事が確認出来たが、見慣れない 存在にも気がついた。
…………。
その存在は 白い鎧が特徴的な……。戦馬車のアルバチャスにも似た何か……。
有馬要人は……。思わず……。連想された人物の名を口にする。
…………。
「 空護さん…… ? 」
…………。
近くで戦っていた筈の その人物が、入れ違うように見当たらなかったのだ……。
この不可解な現象を起こしたのは……。
白色の鎧の見た事も無い アルバチャス なのだろう。
………………。
…………。
……。
~愚者~
太陽のアルバチャスが もう 何度目かにもなる大技を撃ち出す準備を済ませた。
銃口の向いている方角は……。どの アルバチャスとも異なっている。
…………。
太陽が持つ射撃用武装 B.A.Cupから、極熱の火球を射出された。
極熱の火球弾は、雷の林を 瞬く間に なぎ倒し……。離れた位置にいる 数人の方角へと跳んでいく。
…………。
弾丸は、天瀬慎一を含む……。離れた位置から戦いを見守る者達に向けられたのだ。
…………。
愚者は直ぐにでも DEFの 3つ目の機能に手を出そうとするが、動作させられなかった。
青年 有馬要人の身体が、既に これを使用できるような状態では無かったのだ。
…………。
太陽の恩恵 DEF SUNは 思うように起動せず……。
気がついた頃には予想していたものとは異なる景色が あらわになった。
…………。
青年の目には 遥か上空で爆発する熱の塊と、この状況を作り上げたと思われる 白色の鎧が映る。
その存在は、戦馬車のアルバチャスと類似の特徴を持ちながらも、見た事のない外見をしていた。
白い鎧が特徴的な 未知の戦士……。
…………。
「 空護さん…… ? 」
…………。
有馬要人は……。思わず……。連想された人物の名を口にする。
近くで戦っていた筈の その人物が、入れ違うように見当たらなかったのだ。
…………。
……。
4人のアルバチャスの戦いを、離れた外周から見守っていた人々の中で……。
この状況に明るい人物が反応を示した。
…………。
その人物……。天瀬慎一は どうにも腑に落ちない部分があるようで、事象の原因を思案し始める。
…………。
この様子には 巻健司も気がついたのか、自身にしか聞こえない声量で静かに着目した内容を口にした。
…………。
「 アレは……。DAAT か ?
条件は 満たしていない。……ならば何故 ? 」
「 ……条件 ?
ダアト とは……。深淵 アビスに隠された 神の真意を意味するが……。 」
…………。
謎の白色の鎧は……。愚者の青年からの呼びかけに 少しの間を置いて応答した。
…………。
「 有馬……。お前も これを使って戦っていたのか ?
凄まじい力を感じる……。これが DEFの 3つ目の機能……。そういう事だな ? 」
…………。
丹内空護にも 有馬要人にも 天瀬慎一にも、それぞれに謎が残る状況だった。
天瀬慎一の 言葉を借りて……。DAAT……。そう呼称される事象が発生した直後まで遡る。
…………。
『 Device Error Factor !! Non Function !! Error !!
( デバイス エラー ファクター !! ノン・ファンクション !! エラー !! ) 』
…………。
しかし動作音は……。愚者の青年が知っている ものでは無い。
太陽の恩恵 DEF SUNは動作しなかった。
…………。
……。
このままでは……。
戦馬車の青年 丹内空護の頭の中に、最悪の事態が想定される。
…………。
そう考えるよりも早く DEF MOONを動作させていたのだろうか。
巨大な熱の塊の進行速度は 通常の時間軸らしく飛翔速度が鈍化し遅くなっているように感じられる。
…………。
この機を逃さずに 滑走機能で接近しようと思った矢先 それは起こった。
…………。
『 Unlock Grant !!
( アンロック グラント !! ) 』
『 Arbachas code-7- DAAT !!
( アルバチャス コード セブン ダート!! ) 』
『 The Chariot Extend !!
( ザ・チャリオット エクステンド !! ) 』
…………。
先程は 動作しなかったと思われた 何かが起動したのだと……。知らせる音が鳴る。
丹内空護にとって まだ使い慣れない何かが動作した。
…………。
ほんの一瞬……。僅かに赤と黒の粒子が噴き出す。
直ぐ後には、青と白の綺麗な光りが 戦馬車の全身から噴出して、全身の姿を変化させた。
…………。
左右非対称だった 両足の装甲が新たに形を変え……。
片方の腕部に取り付けられていた備え付けの盾は肩に移動する。
…………。
装甲が これまで以上に強固になり、それでいて 普段よりも身体が軽くなった気にさえ させた。
…………。
身体中を駆け巡る アルカナ粒子は、より密度を高めている。
端的に言い表すのならば……。code-7-よりも 上位の形態への強化変身……。だろうか。
…………。
……。
丹内空護は、急激な変化に面を食らう。
だが それよりも……。今は 太陽のアルバチャスが放った 熱の塊を、なんとかしなくてはならない。
…………。
きっと なんとか 出来る…… !!
…………。
自身の身に起きた変化が 大きな確信を裏付けた。
…………。
……。
今の戦馬車ならば…… !!
明確な根拠は無くとも、膨大な力に 身を包んだ感覚が 自身に直結する。
…………。
丹内空護は……。新たな姿に変わった 自身のアルバチャスの 頭部マスクの内側で 多くのデータに触れた。
現在の状況……。今の自分自身だけが可能な手段……。あらゆるデータが 先の行動の指針になっていく。
…………。
今 現在における 最適な 手段を選び出し……。考えを まとめ上げる。
…………。
……。
まず、この場合の最適な対処は、熱の塊を上空へ打ち上げる事。
進路上の遠方に見える市街地も含めて 護るには それが最も最善だろう。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
以前の code-7-と 同じような要領で、滑走機能を動作させて 熱の塊の真下よりも やや前方を目指すべきだ。
大型火球弾の下部……。前方側へ 回り込み……。
そこから迎撃態勢を取れば、大型火球弾の推進力を弱体化させながら 目的を達成できるだろう。
…………。
新たな姿の 戦馬車が……。考えを巡らせる合間にも 目的の地点を目指して 疾駆した。
…………。
この間にも、視覚データに 今 出せる最大出力の手段と その概算を探る。
どうやら、全身の装甲が強化されただけではなく、滑走速度も含めて全ての性能が向上しているようだ。
…………。
目的の地点に到着する直後……。使い慣れた恩恵を動作させる。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
更に滑走速度を上昇させて、早々に規定位置まで辿り着いた。
大火球弾は……。今も進路を変えずに中空を飛翔している。
…………。
丹内空護は、護符の恩恵と B.A.Wandを組み合わせる。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
出力を上乗せした杖の頭頂部のメイス側を下向きにして 片手でしっかりと握る。
同側側の片足を B.A.Wandのメイス部分の首元に引っかけた。
…………。
例えるならば……。
救助用のヘリコプターから ぶら下がる縄梯子に、片足と片手だけで 姿勢を作るような 2点支持だ。
…………。
ガラにもなく……。戦馬車が空を飛翔した。
…………。
「 戦馬車が 空を跳ぶなんてな……。まるで特攻野郎だ……。
俺も 有馬に似てきたのかもな。 」
…………。
魔道杖型武装は、重々しくも 強力な出力で 高度を上げていく。
丹内空護は、いよいよ 熱の塊に 近づいていた。
…………。
概ね 予定通りの、下から突き上げる軌道での接近だ。
このまま B.A.Wandで ぶつかっても、1本の杖では 押し上げるには 推進力が足りないだろう。
…………。
別の切り札が必要なのだ。
…………。
丹内空護は、今の姿に成ってから追加された、systemの起動センサーに手を伸ばす。
腰部に新たに追加されたセンサーが感知し……。
今の姿でだけ 使用可能な 新たな武装 systemが立ち上がった。
…………。
『 Defender's Ability And Tactics !!
( ディフェンダーズ アビリティ アンド タクティクス !! ) 』
『 Extend !! Bishop Ring Tank !!
( エクステンド !! ビショップ・リング・タンク !! ) 』
…………。
今の戦馬車が出せる最も強い大技を意味する 動作音だ。
…………。
動作音と共に B.A.Wandが、巨大な砲身へと姿を変えていく。
山のような砲台の口が……。大空に向けて 咆哮を上げた。
…………。
膨大な勢いで発せられた エネルギー弾は、太陽のアルバチャスが生成した渾身の大火球を空へと吹き飛ばす。
…………。
この時の余波は code-7-DAATを地表へと帰還させた。
そして 引き延ばされた時間軸での行動は、一旦の終わりを迎える。
…………。
遥か上空では 大火球が爆発していた。
上空で巻き起こった 爆風の周りには、光の輪が出来ている。
…………。
火山の噴火の後に見られると言われる、魔法使いの輪……。いわゆる ビショップリングが発生していた。
…………。
……。
この威力は 神地聖正さえも予想外だったようだ。
太陽の英雄は 驚きによる内面の起伏を、表には出さずに 思案する。
…………。
DEFの機能は 愚者のアルバチャスが 見せたもので全てではないのか…… ?
ひとまずは……。予期せぬ自称を排除する為には早急に 全力を尽くす事……。これが先決か……。
…………。
……。
太陽の英雄は 強く踏み込んで、戦馬車に急接近した。
…………。
赤熱した太陽の拳と 白色の戦馬車の篭手が 真っ向から荒々しく衝突する。
…………。
戦馬車と 太陽の戦いの最中で 愚者と塔も動き出した。
…………。
有馬要人と 天瀬十一は、先程と同じ轍を踏まないようにと……。
外周に留まる人達と 太陽の間に割り込んで、乱戦の中でも 非道な行動を再発させないように立ち回る。
…………。
白熱する乱戦でも……。太陽は執拗に 天瀬慎一を狙い、大小様々な火球を撃ち出していた。
神地聖正は大幅に取り乱しているようで……。3人のアルバチャスにも 機運が巡り始めているらしい。
…………。
丹内空護を戦いの中心軸にすえて……。
有馬要人と 天瀬十一は、不意に飛び交う無数の火球への対処に 集中する。
先のような 卑劣な蛮行から 全力で後方を死守し続けた。
…………。
大幅に取り乱しているが……。それでも 神地聖正は……。鋭く執拗な攻撃を繰り出し続ける。
攻撃の矛先は、姿を新たにした 戦馬車のアルバチャスと……。後方の 天瀬慎一のようだ。
…………。
「 どんな奥の手を隠している……。既存 codeの上位型だと ?
弱体化したマルクトで…… !!その能力はなんだ !! 」
「 お前には わからないだろう ?
聖正 さっきも言った筈だ。俺達は勝って見せると……。
多くの願いが……。今の俺達を突き動かす !!
野心だけの お前に負ける訳にはいかないんだ……。アルバチャスは !! 」
…………。
丹内空護が 使い馴染んだ武装 systemと……。新たな武装 systemを流れるように動作させた。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
『 Defender's Ability And Tactics !!
( ディフェンダーズ アビリティ アンド タクティクス !! ) 』
『 Extend !! Meteor Assault !!
( エクステンド !! ミーティア・アサルト !! ) 』
…………。
星の名を彷彿とする 新たな武装が B.A.Cupの出力を強化し……。拳銃型武装が 2丁に増幅される。
戦馬車の両手に握られた B.A.Cupは 一発一発が 彗星のように強い推進力で跳んでいった。
…………。
元々 射撃を得意とする アルバチャスからの 彗星のような弾丸である。
太陽が操る 無数の火球弾にも 充分に通用した。
…………。
綺麗な水色の彗星が、神地聖正を着実に消耗させていく。
……………。
丹内空護は……。銃撃戦と格闘戦の合間に……。別の新たな武装を 起動する。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
『 Defender's Ability And Tactics !!
( ディフェンダーズ アビリティ アンド タクティクス !! ) 』
『 Extend !! Crescent Fighter !!
( エクステンド !! クレッセント・ファイター !! ) 』
…………。
三日月の名を冠する武装が動作した……。今度は B.A.Swordを強化し、刀剣型武装を 2本 出現させる。
…………。
戦馬車のアルバチャスは、ホバー滑走をも巧みに活用して……。
鎌風のように疾走しては 青色の斬撃で太陽を切りつける。
…………。
丹内空護は、先程の巨大な大砲の 絶大な威力にも驚かされたが、他の武装を 使用しても同様に感じていた。
今 現在使用した 星と 月の名を関する 武装は、より使いやすく強力に 引き上げられているのだ。
…………。
普段使いの 得意な 2種の武装が……。より扱いやすく……。威力も強力に向上している。
逆に……。魔道杖型武装の方は つい先ほど……。奥の手に相応しい 絶大すぎる威力を実現させた。
ひたすらに……。戦いやすいのである。
…………。
DAATとなってから向上した、滑走速度の速さも 2本の 刀剣を振るう上でも うってつけだ。
…………。
「 このまま 勝利へと……。
太陽のアルバチャス code-19-の 継続戦闘 時間を削りきる…… !! 」
…………。
丹内空護が ますます奮起するが……。原因不明の機運は その効力を 静かに終えてしまう。
…………。
それもその筈だ……。
この systemについて 最も詳しく知っている人物でさえ、突発的に動作したのか不明だったのだ。
…………。
どういった条件で 巻き起こされたのか不明確な 奇跡の上位型は……。
同様の理由で 機能不全を起こして奇跡を終えた。
…………。
例え……。この奇跡の終わりが 偶然でも、これを待ち望んだ人物は この時を見逃さない。
太陽の英雄……。神地聖正は 歓喜したようだった。
…………。
「 やはり 私は選ばれた英雄……。これで ガス欠という事かな ?
丹内空護……。
今度は……。こちらの番だな。 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
太陽のアルバチャスは、火球弾を数発 撃ち込んだ。
火球弾の大きさは……。極大とまではいかないが、胴体を覆う程度は有る……。
…………。
これまでを 巻き戻すように……。神地聖正が、次の行動に出た。
…………。
「 無理が たたったなあ……。試練の英雄は あらゆる機会を無駄にはしない……。
躊躇は無いのだ……。 」
『 -Twins And Sun- !! event !! Accelerate !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! アクセラレータ !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
DAATが 切れた瞬間から こじ開けられた隙は、立て続けに状況を狂わせてしまう。
…………。
太陽のアルバチャスが、戦馬車のアルバチャスの 身体越しに隠れた位置から 数発の火球を発射させる。
これにより、丹内空護の後方で援護していた 愚者と塔の初動にも遅れが出た。
…………。
神地聖正は 隙から隙へと飛び移って、音速の世界に時間軸を移す。
…………。
そして……。愚者 戦馬車 塔 のアルバチャスに 赤熱した拳による乱打を叩き込んだ。
愚者と戦馬車も DEF MOONで反撃に出ようとしたが、数秒 後手に回っただけで大きな痛手になってしまう。
…………。
長期戦による疲労は 最悪の形で現れていた。
短い時間だった……。愚者と 戦馬車の両方が同時に DEFを解除させてしまったのだ。
…………。
太陽のアルバチャスが……。ほくそ笑む。
…………。
「 フフフ……。やはりな……。最後に笑うのは馬鹿どもではない。
太陽の英雄である 私なのだ……。私を崇めるがいい !! 」
『 -Twins And Sun- !! event !! Precepts !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! プリーセプトゥ !! ) 』
…………。
アルバチャス強制制御が付与される……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
そんな……。寸前の間隙だった。
雷の弾丸が 護符の恩恵を乗せて……。数発 太陽のアルバチャスの ジェネレーターに届く。
…………。
天瀬十一が……。窮地からの反撃を行ったのだ。
太陽のアルバチャスが 強制制御機能を作動させようとして……。コレを切り替える 僅かな時間を……。
通常の時間軸に戻って来た 僅かな瞬間を 狙い……。隙を突いたのだった。
…………。
「 バベルを見くびるな !!俺だって……。まだ 動ける !!
消耗しているのは 貴方も同じだ……。ジェネレーターさえ万全じゃなければ……。
アポロンは まともに戦えなくなる。 」
「 七光り……。仮に -TAS-が まともに使えなくとも !!
私は まだ 戦闘不能には成らない……。基礎能力も 真なるアルバチャスは 頂点に立っているのだ。
ならば……。こんな攻撃……。勝機になど ならん !! 」
…………。
太陽の赤熱した拳がバベルの 補助アームの片腕を完全に破壊し吹き飛ばす。
…………。
この時の爆発が空気を揺らすが、天瀬十一も怯まない。
少しでも隙を与えたら それこそ巻き返せなくなってしまう……。まるで そう考えているかのように……。
手負いのまま……。力強く 攻勢に出た。
…………。
「 ならば……。俺が太陽にすらも 凶事を呼び込むだけだ !!
補助アームだって もう 1本 残っている !! 」
…………。
隻腕になった 残りの 補助アームを押し込んで、神地聖正を地面に叩きつけた。
…………。
天瀬十一が知る 残りの自身の稼働時間などを参考にすれば……。
…………。
既に……。code-16- の制御も 瀬戸際で、重量が乱雑に伝わり地鳴りを響かせる。
あまりにも重い一撃だった。
…………。
この時の振動も衝撃も……。天瀬十一 自身に 伝播させてしまう。
天瀬十一は……。血の味が 口の中に広がるのを感じているが……。踏み止まり続けた。
…………。
ここで引けば……。本当に全てが台無しになる……。そんな気がしていたのだ。
深く 考えるまでも無く……。武装 systemを起動する。
…………。
相手が直ぐには身動きが取れない 今だからこそ 会心の一撃を…… !
太陽のアルバチャスを 補助アームで 地面に押し付けている今だからこそ……。最大の機を 無駄にできない。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
補助アームで地面に押し付けた状態の 太陽のアルバチャスに 雷鳴が轟く剣を向けた。
剣の矛先で ジェネレーターを狙う。
…………。
B.A.Swordの剣先や 剣の腹が電荷を光らせて、ジェネレーターに過剰な負荷を掛けた。
…………。
おびただしい電荷は……。code-16-にとっても、いよいよ 自傷行為同然の域にまで達している。
バベルの最後の補助アーム は……。火花を散らして爆風を起こし 自壊してしまう。
…………。
この瞬間……。紅炎が立ち昇って 凶事の塔を吹き飛ばした。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
「 私の邪魔を するな !!……只の七光りが !! 」
…………。
太陽のアルバチャスが、刀剣型の武装を手にして 見境も無く反撃したのだ。
…………。
バベルは 顔面の塔の意匠が 完全に破壊される程の強い外傷を受けていた。
code-16-は 激しく消耗し、Arbachasを強制的に解除すると、デバイスすらも致命的に破損させてしまう。
…………。
……。
仰向けで 呼吸をするのも やっとの天瀬十一に 2人の人物が駆け寄った。
天瀬慎一と 天瀬真尋は 家族の奮闘を称えて寄り添う……。
…………。
「 お兄ちゃん……。ねぇ 聞こえてる…… ? 」
「 本当に 無茶をさせたな 十一……。
だが よく頑張った。今の数秒は お前にしか作り出せなかった。
お前は、私には過ぎた 自慢の息子だ ! 」
…………。
天瀬慎一は……。意識も朧げな 天瀬十一の手を強く握った。
天瀬真尋もまた その場を離れない。
…………。
太陽のアルバチャスは……。これを嘲り笑った。
…………。
片手には 未だに炎熱が燃え盛る B.A.Swordが握られており、熱を 溢れさせている。
神地聖正からは……。手段を選ばずに 望む未来を手繰ろうとしている強い念が 発せられていた。
…………。
「 無様だな……。英雄の邪魔をするから こうなる……。
無駄な行いで、命を危険にさらすなんて 愚かな行為だ。
そこの馬鹿な 七光りは確かに間違いなく……。慎一 お前の息子だよ。
せっかく こうして親子が揃っているんだ。
私が仲良く焼却してやろうじゃあないか。まとめて 三尋の所へ送ってやろう。 」
…………。
太陽のアルバチャスが B.A.Swordを振り下ろし 灼熱の斬撃を飛ばした。
天瀬慎一は自身を盾にして、息子と娘を 護ろうとしたのか……。身を乗り出して 斬撃に背を向けた。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
何者かが 灼熱の斬撃の目の前に滑り込んだ。
護符の恩恵でエネルギーを噴出する B.A.Wandと、ホバー滑走の両方を 推進力にしたのだろう。
…………。
「 十一の行動は 無駄な事じゃないさ……。愚かでも無い。 」
…………。
灼熱の斬撃を 塞き止めているのは 戦馬車のアルバチャスである……。
しかし、気に成る事に 丹内空護が 灼熱の斬撃を止める為に握っているのは 魔道杖型武装ではない。
護符の恩恵が乗った 刀剣型武装 B.A.Swordだったのだ。
…………。
戦馬車のアルバチャスが、灼熱の斬撃を押し返し 霧散させるようにして吹き飛ばした瞬間。
先程の動作音と、戦馬車のアルバチャスとの 不一致の正体が姿を見せる。
…………。
不一致の正体……。愚者のアルバチャスだ……。
…………。
「 神地…… !! 」
…………。
護符の恩恵を組み合わせた B.A.Wandを推進力にしたのは……。やはり 愚者のアルバチャスだったのだ。
有馬要人が、電光石火の 俊敏な移動からの蹴りで、太陽のアルバチャスに強襲した。
…………。
……。
少しばかり視点を広げて遡る。
…………。
愚者と戦馬車の DEFが 途切れた後の ほころびの連続から……。
これを埋めるように……。天瀬十一が奮起して、神地聖正と 激しく戦った。
…………。
天瀬十一が 戦闘不能に陥る 少しばかり前……。この瞬間から……。
太陽のアルバチャスが、追い打ちも必要ないと認識していた 愚者と戦馬車が動き出していたのだ。
…………。
愚者のアルバチャス 有馬要人も……。
戦馬車のアルバチャス 丹内空護も……。
既に DEFが使用不可な程に 等しく摩耗しており、この事は 神地聖正にも気づかれてはいた。
…………。
だからこそ……。愚者と戦馬車は アルバチャスに残された基本武装で 奮起して 立ち向かったのだ。
天瀬十一が作り出した 隙で 体勢を立て直し……。即座に反撃に移ったのである。
…………。
……。
愚者と戦馬車から見て 前方には太陽が……。
そしての その奥の方には、天瀬慎一……。天瀬十一……。天瀬真尋の 3人の姿が見えている。
…………。
3人に 命の危機が迫っている中で……。
太陽のアルバチャスが B.A.Swordを振り下ろし 灼熱の斬撃を飛ばしたのだ。
…………。
有馬要人と 丹内空護は、それぞれに 得意とする武装を起動し 飛び出す。
…………。
……。
愚者は 護符の恩恵を乗せた B.A.Wandを推進力に 滑走も交えて 戦馬車を運び……。
前方の太陽を 大きく回り込むようにして、半円型の軌道で 仲間の窮地を覆そうと滑り込む。
…………。
戦馬車は 灼熱の斬撃を受け止める役割として、弧を描く軌道の途中で 愚者と行動を別にした。
丹内空護が、神地聖正の正面に 姿を見せて 注目が集まっている間に……。
…………。
有馬要人は、更に半周進んで 緩やかな渦巻きを描くような軌道で 太陽に強襲を仕掛ける。
…………。
青年からの攻撃に 神地聖正は間違いなく不意を突かれたようだった。
愚者から繰り出される 鋭い跳び蹴りには 対処が遅れてしまったのか、太陽を大きく吹き飛ばされる。
…………。
……。
利便性に富んだ 多くの 新技術が無くとも……。
これまでに積み上げた、技能と武装で 状況を覆そうと……。愚者と戦馬車が 最後の 反撃に出る。
…………。
……。
太陽のアルバチャスは、背面の日輪型のジェネレーター にも不調をきたし……。
長期戦での 負荷が 完全に無視できないまでに成っていた。
…………。
継続戦闘能力の低下と……。反して 怒りが湧きあがっているようだった。
太陽の怒りの熱は膨れ上がっていく。
…………。
「 ホバー移動から跳び蹴りとはな……。愚者め……。ふざけた真似を !!
DEFも 使えない 今の貴様らに……。
太陽の英雄である……。太陽の神である私が…… !! 」
…………。
青年 有馬要人が 神地聖正に 語りかけた……。
…………。
「 人間だ 神じゃない……。
この街で生きてきた 1人の人間だろ……。
どうして 復興の先頭に立てるような人間が、こんな事を出来るんだ ?
光の試練にどうして そこまで執着したんだ……。神地さん……。
生まれ育った故郷で、心を許せる友人もいた筈なのに……。どうして…… !? 」
…………。
愚者からの言葉に、太陽は 人知れず目頭を 細める……。
…………。
「 光の試練 以前に……。アルカナの光は 莫大なエネルギー資源として戦いの火種になるだろう。
私と こうして戦う君達ならば わかる筈だ。
これ程の力は誰もが欲しがる……。
空気や土壌も汚さず……。水や火も使わない。理想のクリーンエネルギーなのだと……。
ならば この力は見つけた私が護らねば……。
何も知らない 私欲にまみれた輩に 悪用される前に……。この私が !! 」
「 アンタが……。今も争いを広げているのに……。そんな事 言えるのか ?
今までに犠牲になった人達を 考えた事は 有るのか ? 」
…………。
太陽は愚者とは相容れない……。
アルバチャスの頭部マスクに 隠された神地聖正の 瞳は人知れず何かを見通していた。
…………。
神地聖正の語気は 強くなっていく。
…………。
「 犠牲になった者など、知ったことではない。
そんな人間は 遅かれ早かれ零れ出るさ……。豊かな未来の礎ならば 本望だろう。
それに……。戦いを起こしているのは怪人共だと 先程から 言っている。
私が行っているのは専守防衛さ。
逆に君は……。既に いない人間達に何が出来ると言うんだ ?
ロマンチストめ……。
私は君のような ペテン師とは違う……。人類に偉大なる反映を もたらす事が出来る !!
光の試練を解して……。これまでにない 新時代を生み出せるのだ !!
新たな世界の象徴として !!
太陽として !!……愚衆を導く 新たな世界で 神話の頂きに昇るのだ !!
研究しか能の無い 慎一の近くに 身を置く事が出来たのは、最大の幸運だったよ。
私は神だ……。 」
…………。
太陽のアルバチャスが 武装 systemを起動しなおして B.A.Cupを握った。
B.A.Cupからは 愚者に向けて複数の火球が吐き出される。
…………。
「 太陽神の邪魔をするな……。愚か者共め…… !! 」
…………。
太陽の火球を 戦馬車の白色の盾が受け止める……。
…………。
「 お前は 神でも英雄でもない。俺達が お前を倒す……。 」
…………。
戦馬車からの反撃を皮切りに、戦いは 長いトンネルの先へ向けて進んで行く。
…………。
愚者と戦馬車のアルバチャスは……。
たったの コンマ 1秒すらも DEFを 使用するエネルギーも体力も 残ってはいない。
…………。
太陽のアルバチャスもまた、背面のジェネレーターが 既に機能不全を起こしていた。
塔のアルバチャスから受けた 最後の猛襲によって、こちらもまた……。全力では戦えないのだ。
…………。
そんな小細工が一切 投げ捨てられた 今の戦況は……。
思考回路を 置き去りにして 過ぎ去っていく。
…………。
……。
B.A.Swordを 振るう 戦馬車も……。
B.A.Cupを 使いこなす 太陽も……。
B.A.Wandを 握る 愚者も……。
…………。
ついには Dual Functionすらも 使用不可な程 互いに削りあっていく。
…………。
……。
白熱する中で……。太陽が B.A.Cupによる 近距離射撃を数発バラまいた。
これによって 愚者は B.A.Wandを吹き飛ばされて 爆炎に飲み込まれてしまう。
…………。
爆炎に飲まれた 愚者を念入りに 追い詰めようとしているのだろうか……。
太陽のアルバチャスは B.A.Cupの銃口を向けて引き金を握った。
…………。
戦馬車は、これに気がついて B.A.Swordの切っ先を B.A.Cupの銃口目掛けて投げつける。
両者の武装は 爆炎の暴発で消滅した。
…………。
戦馬車が太陽に 何発かの打撃を叩き込んで……。そのまま組みつくと合図を送る……。
…………。
「 有馬…… !!後を……。頼む !! 」
…………。
神地聖正は、直ぐに 丹内空護を蹴り飛ばして 戦馬車を強制解除に追いやった。
そのまま、爆炎に包まれている 愚者の方に視線を合わせる。
…………。
「 愚者は……。バカは……。上だけを見ていればいい。
誰よりも下を歩き……。神を仰いで歩いていれば良いんだ……。
有馬要人…… !!
お前は 只の観光客だった……。偶然 居合わせただけの 巻き込まれただけの……。 」
…………。
神地聖正の 中には……。許容しきれない 全ての感情が渦巻いているのだろう。
怨嗟の言葉は 止まらない。
…………。
「 いつでも切り捨てられる駒の……。1つだった……。
靴底の裏の溝に挟まった 小石や土の塊に過ぎない なんでもない お前が !!
私が 負けるのか !?
私が……。だが 私は……。あああああああああああ…… !!!!!! 」
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
太陽のアルバチャスが、ありったけのアルカナ粒子を 循環させて 全身を赤熱させた。
赤熱した太陽が……。愚者を包んだ先程の爆炎の方角に走りだす。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
「 神地……。 」
…………。
護符の恩恵を全身に巡らせた愚者の姿が、爆炎の熱の中で揺れた。
…………。
愚者のアルバチャスは……。
頭部に アルカナ粒子の円環を作り出して、太陽のアルバチャスが 向かってくる方角を 目視する。
…………。
全身が赤熱した太陽と、爆炎の中でも 腹を決めた愚者が衝突した。
…………。
……。
愚者は……。太陽の赤熱した拳を、身体を半回転させるように回避する。
その動きの延長戦にある 回転から、勢いをつけた 踵落とし(かかとおとし)を叩き込んだ。
…………。
今度は蹴り上げた脚を下ろして、小さなステップで これを軸足に変える。
さっきまでは 軸足だった方の足で、力強く蹴り上げた。
…………。
太陽のアルバチャス code-19-は……。
立て続けに打ち込まれた連脚に怯んで、無防備な体制のまま上空に飛ばされてしまう。
…………。
愚者のアルバチャスが、今 蹴り上げたばかりの足を 振り下ろして、地面を力の限り蹴り飛ばす。
有馬要人は……。この動作で 上空 目掛けて跳躍した。
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中空で逃げ場を失った 神地聖正に、護符の恩恵の残りの全て注ぎ込んだ連脚を浴びせる。
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太陽のアルバチャスの 背面のジェネレーターは 粉々に砕け散った。
まるで ガラス瓶を 地面に落としたかのように……。細やかな光を煌めかせて……。粉砕されてのだ。
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程なくして、地面に叩きつけられた 太陽のアルバチャスも また、systemを完全に強制解除させていた。
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神地聖正が 気を失って、アルバチャスを解除させたのと 殆ど同時だった。
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有馬要人 自身も、中空から地表に帰還して直ぐに アルバチャスを強制解除させてしまう。
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しばらくの間……。
誰もが 沈黙し、耳が勝手に音を出すような静けさに包まれた。
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緊張が途切れて、有馬要人と丹内空護も 膝から姿勢を崩す。
それぞれの戦士に、担架を持って駆け付けたのは 数人の実動班を 引き連れた、荒井一志と大代大だった。
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愚者のアルバチャス code-0- 有馬要人……。
戦馬車のアルバチャス code-7- 丹内空護……。
2人は、ある人物が 辛うじて意識を取り戻している事に気がいて その人物の方を目視する。
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その人物は……。
塔のアルバチャス code-16- 天瀬十一 だ。
3人は ボロボロの拳を ふらつかせながら、それぞれに突き合わせて 互いに称えあった。
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救護班も駆け付けて……。
外傷の概算込みで 簡易的なトリアージを進めている横で、天瀬慎一が 旧友の元に駆け寄る。
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天瀬慎一は、気を失って倒れている 神地聖正に 優しく呼びかけた。
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「 聖正、私達は大きく道を間違えたんだ。
これから 一緒に歩き直して行こう。今の時代は 今を生きるものが作ってくれる……。 」
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隠者になった 過去の愚者が……。太陽を目指した友に寄り添った。
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