- 19話 -
対立する力
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目次
~… 可能性 …~
青年 有馬要人(アリマ カナト)の視界には、先程までとは異なる景色が広がっていた。
見渡す限り 広がる灰色の砂地。くすんだ黄金色の空。
…………。
四方の遠方には さっきまで いた場所からも見えていた、遠くの街並みが幽かに見える。
…………。
「 一瞬だけ……。意識が……。ここは さっきと同じ場所か ?
けど 空も地面も……。さっきは こんなんじゃ……。
ニューヒキダの中心部が……。砂漠に 変わったのか !?……いったい何が !? 」
…………。
先程の光の球が……。それ程の影響を及ぼしたのだろうか……。
これ程の範囲を 砂漠に変える 影響は……。直ぐには 思い当たらない……。
まるで街の都市の中心部が 砂地に変わったような 殺風景な景色。
…………。
どうやら この場には……。天瀬十一(アマセ トオイチ)と 神地聖正(カミチ キヨマサ)も 存在しているようで……。
等しく アルバチャスを解除されているようだ。
…………。
青年の身体も よく見れば 生身に戻っており、アルバチャスが解除されている。
何が有ったのかを、捉えようと思案を続けて 身構えた。
…………。
灰色の砂地に 同様の色の羽根が降り注ぎ、この件の首謀者が舞い降りる。
…………。
「 俺様の固有空間に ようこそ。
ここは、仮想未来。光の試練が最悪の形で成された未来……。そう解釈してくれていい。
遅かれ早かれ てめぇらはこの未来を辿るわけだ。
どうにかしてぇなら……。この空間から出るしかねぇ。
条件有り、時間制限有りの単純な お手軽 試練だ……。もちろん。やるよな ? 」
…………。
灰翼の天使が、中空から現状についての情報を開示する。
…………。
節制のエヌ・ゼルプト……。エリアイズ によれば……。
仮想未来に相当するのが この世界らしい。
…………。
未だに謎の多い光の試練だが……。
言葉通りに受け取れば……。試練の最果てに、待っている先の未来は この景色なのだとか。
…………。
命の気配が 微塵も感じられない この有様は、とても信じがたい。
だが……。エリアイズの人間離れした業と、これまでに知らなかった多くを繋げる情報の数々は、得体のしれない説得力を持つ。
…………。
灰翼の天使 エリアイズ。
節制を司る エヌ・ゼルプトであり 今 直近の件を 実行した 首謀者。
この怪人が……。吊るし人と 運命の輪の怪人を伴って 現在の状況を作り出したのだ。
…………。
軽く……。辺りの様子をうかがっても……。仲間と思われる 2体の怪人は見当たらない。
愚者の青年は 状況を静かに洗い出して 警戒した。
…………。
……。
太陽の英雄 神地聖正は 何かしらの余裕があるのか それが表情に出ている。
塔の青年 天瀬十一の方は、未だに目の焦点が定まっておらず 呆然としているようだ。
…………。
灰翼の天使が、個々の反応も気にすることなく、独特な調子で続きを話し始めた。
…………。
「 おい。そこのクソガキ……。俺様の顔面に傷を付けた……。そう お前だ。
疑ってるんだろ…… ?
本当に 仮想未来なんてもんの中に 自分達がいるのが信じられねぇ……。そういう 感じだよな ?
疑うのは良い事だ……。けど、これは本物さぁ 仮の未来だが、俺様の力で一時的に再現したんだ。
試しに、好きな 思い出の場所まで満遍無く見て回っても良いんだぜ ?
ハハハ……。行ってみるか ?
だが……。どこに行っても 全ての文明が等しく終わってる。
生き物なんて当面 発生しない、静かで平等な死の世界さ。
そこの英雄 様が何を仕出かすのか……。俺様は 知らねぇが 今のままじゃ こうなるらしい。
英雄 様も不服なんだろ ?
さっきも話したが……。これは あくまでも お手軽な 光の試練でもある……。
てめぇらに選択を与えてやる。
今から話す どちらかを満たせば、この仮想世界から出してやるよ。
目指すべき条件は 2通り……。
てめぇら 3人で俺様だけを倒す、もしくは てめぇらの中で 1人だけが生き残って俺様をも倒す。
1人で全員を倒すか……。3人で仲良く 俺様だけを倒すか だ……。
失敗は てめえら全員の全滅か時間切れ……。
この世界は 仮想で作ってる だけ だからな……。維持するにも有限なんだわ。
ちなみに だが……。失敗した時は この世界が即座に現実に成る。
ハハハ……。まあ 楽しもうぜ !!有機物共 !! 」
…………。
エリアイズの話しが終わると、神地聖正が わざとらしく拍手を送って デバイスを起動した。
…………。
「 ……説明ご苦労。
では……。こちらも遠慮なく やらせてもらおう……。アルバチャス 起動……。 」
『 Arbachas code-19- !! Function !!
( アルバチャス コード ナインティーン !! ファンクション !! ) 』
『 Over The World !! Apollon !!
( オーバー・ザ・ワールド !! アポロン !! ) 』
…………。
神地聖正が握る真紅のデバイスは、赤々とした光の粒子を放ち、太陽の英雄に相応しい姿を形作る。
この様子を 対角線上から視認した青年 有馬要人も デバイスを動作させた。
…………。
「 起動…… !! 」
『 Arbachas code-0- !! The Stupid Function !!
( アルバチャス コード アイン !! ストゥピッド ファンクション !!) 』
「 十一さん……。 」
…………。
青年が心配そうに その人物を気にかける。
塔のアルバチャスの人物は、友人の身に降りかかった事態を 受け止めきれないのだろう。
沈黙を貫き 沈んだ表情から抜け出せないでいるようだった。
…………。
節制を相手に、愚者と太陽と塔が それぞれに思惑を交錯させる。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
つい先程まで、エリアイズと 3人の アルバチャスが 交戦していた ニューヒキダの D 地区では……。
3体の エヌ・ゼルプトが作り出した光の球を 取り巻くように、2体の エヌ・ゼルプトが立っていた。
…………。
1体は、吊るし人 ウロド。片翼の天使型で、4つ又の鞭を振り回す エヌ・ゼルプトである。
1体は、運命の輪 セドネッツァ。獣頭の遺物型で、大針を武器に持つ エヌ・ゼルプトだ。
…………。
どちらも、エリアイズからは 舎弟として呼称されており、最近現れた新手のエイオスに該当する。
…………。
……。
ほんの少し前の事だ。
3人の アルバチャスが 光の球に 飲み込まれるよりも、少しだけ前から 物陰から覗いていた者が 2人いた。
一連の様子を 見届けていた者達が いたのである。
…………。
……。
1人は 彼誰五班(カワタレゴハン)の第三班を 任される人物。第三班 班長 伊世伝次(イセ デンジ)であった。
…………。
彼は、セドネッツァとの戦いで 何者かに窮地を助けられた後……。
他の班 同様に、副指揮長の 天瀬十一からの指示で、部下を無事に避難させては医療班へと引き渡したのだった。
…………。
自身の部下の安全が確認された事で、どうにか自分にも出来る事は無いかと思い立ち……。
激戦が繰り広げられている この一角に戻ってきたのである。
…………。
伊世伝次は、この場で見届けた もう 1人の方に話しかけた。
…………。
「 界……。お前 信じられるか ? 」
「 信じるも何も……。情報源は エイオスだぞ ?……本気か 伝次 ? 」
…………。
恵花界(エハナ カイ)もまた、同様に この場に駆け付けていたのだ。
2人は、ウロドと セドネッツァに 気づかれるかどうかの距離から様子を見定めていたのである。
…………。
現状を どうにかしたいものの、段違いの強さを その身で知ったばかりで 勇気だけでは下手に動けない。
何か糸口は無い物かと……。
そんな風に考えていた時に聞こえてきた話の内容で、2人は耳を疑ったのだ。
…………。
……。
エヌ・ゼルプトが 話す内容が真実ならば……。
自分達が所属する 組織のトップが、この街の為に戦い続けてきた人物を手にかけた事に成る。
…………。
2人が実動班に所属するようになってから まだ日は浅いが……。
世間的に 神地聖正と言えば、APCを創設して 日樹田の復興に貢献してきた人物で……。
経済的にも物理的にも過去の大災害から、地域全体が立ち直る為の 偉大な貢献をし続けた人間なのだ。
…………。
そして……。そんな 神地聖正とは別に……。
丹内空護(タンナイ クウゴ)は、APCが誇るアルバチャスを使いこなし 怪人と戦い続けてきた人物である。
こちらの方は 公に されている情報が限定されており……。特務内で働かない限り 知りえない部分ではあるが……。
…………。
どちらにしても、この地に住む人々の 一般的なイメージとしては、英雄である事には違いは無い。
神地聖正も、世間的には正体不明の戦馬車も……。英雄である事には違いは無いのだ。
…………。
2人の英雄の衝突は……。判断を鈍らせる。
伊世伝次も 恵花界も共に困惑気味なようだった。
…………。
「 確かに 社長は嘘だって言ってるけど……。俺も 二班長も たぶん……。
有馬さん に 助けられてるんだよ。社長が前に 話してたような風には思えなかった。
有馬さん と 丹内 班長が エイオスに肩入れしてただなんて……。俺には見えなかった。
どっちかが間違ってるとしても……。俺は 直接 助けてくれた人を疑えないよ。 」
「 伝次……。けど さっきまで 戦ってた 3人は……。 」
…………。
恵花界が先程、この辺りに起こった出来事に 焦点を合てて 深刻そうな声を出す。
…………。
空気を振動させる 光の球が、強く輝いたのと同時に 3人は姿を消していたのだ。
有馬要人……。神地聖正……。天瀬十一……。3人の アルバチャスの姿は 何処にも確認できない。
…………。
この変化と同じ頃合いには、灰翼の天使すらも見当たらないのだが……。
残されているのは 怪しげな光の球と、その近場から離れない 2体の エヌ・ゼルプト だけである。
…………。
……。
伊世伝次と 恵花界は 2体のエヌ・ゼルプトと距離を置いたまま話し合いを続けた。
…………。
明らかに蚊帳の外に立っている立場の都合上……。
現状の把握をしようにも、思うようには方向性がまとまらない。
…………。
……。
先程の 撤退時 以降に、副指揮の 天瀬十一から共有された情報を基にするのならば……。
2体の強力な エヌ・ゼルプトは……。
片翼の天使型 吊るし人の ウロド……。獣頭の遺物型 運命の輪 セドネッツァ である。
どちらも 相対した際の交戦データは 厄介そうな強敵だ。
…………。
そして……。黒翼の天使をも 消した光の球。
恐らく、3人のアルバチャスと 灰翼の天使も その光の球によって 姿を消したのだろう。
…………。
他にも気がかりなのは……。未だに生死も、所在も不明の 戦馬車のアルバチャス。
…………。
つまりは……。4人の アルバチャスが 生死不明と言ってもいいのだ。
…………。
エヌ・ゼルプトも 1体は 減ったが、残りの 2体を 自分達で どうにか出来るものなのか ?
戦うのは現実的な手段なのか ?
多くの疑問や現状が 2人の 脳内で飛び回る。
…………。
光の球によって 姿を消した者が、どうなるのかは わからない……。
それでも 先程の灰翼の天使の発言から、希望を見出す……。
神地聖正との言い合いで飛び出していた、光の球による 影響のヒントだ。
…………。
俺は 邪魔なジジイを少しの間、ある場所に閉じ込めただけだ。
只の時間稼ぎ……。その内、自力で出てこられる……。
…………。
もし、只 閉じ込める為の手段なら……。
有馬要人……。神地聖正……。天瀬十一……。の 3人も生存している可能性が有るのではないか…… ?
…………。
2体の エヌ・ゼルプトが、光の球から離れようとしないのも それならば頷ける。
光の球は無関係ではないのだろう。
ならば 問題は、3人が自力でどうにか出来る類のものなのか どうかだ。
…………。
2人の青年の間で 少しずつ道筋が 明るくなっていく。
…………。
「 界……。俺達 彼誰五班の残りの人員で倒せると思うか ? 」
「 あの 2体を僕達で ?……無理だ。
情けないけど、断言するよ。今以上に 被害が大きくなる。 」
「 だよな……。俺も そう思う……。
アレは 少なくとも今の俺達じゃ……。手に負えなかった……。
情けないとは俺も思うけど……。俺達で手に負えないならだ…… ! 」
「 伝次、君は まさか……。 」
…………。
伊世伝次は、何か考えに辿り着いたようで……。恵花界も これに感ずいた。
それは、極めて僅かに残された可能性……。
…………。
……。
エヌ・ゼルプトとの 交戦経験を持ち……。
先程消えた 3人の アルバチャスと同程度か、それ以上の実力を持つ人物を探し出す事……。
…………。
丹内空護の捜索だ。
…………。
上手く事が運ぶ可能性は 限りなく少ないが、その人物の生死が判明すれば 多くの謎の答えさえもが 絞られる。
…………。
伊世伝次は 呼吸を整えて、現状への打開策の 1つと向き合った。
…………。
「 もしかしたら……。エイオスと戦うよりも勇気が要るかもな……。
けど 界……。俺達でやろう。 」
「 捜索している途中で……。丹内 班長の遺体を 見つける場合も有るだろうからな。
有馬さん が、話した 山中のトンネル周辺にはいなかった。
本当に亡くなっていたなら、多少は山の動物に荒らされてるだろうし……。痕跡が残る。
そこに触れないって事は 有馬さん か……。エリアイズが 何らかの嘘をついているのか……。
それとも……。 」
「 界……。お前 たまに怖い事 言うよな……。
もしかしたら、丹内 班長は 生きてるかもしれないって事だろ ?
後は……。チャリオットのデバイスが 何処に有るかだ。
本人が持ってるなら、有馬さん と 一緒に、この場に出てきそうなもんだけど……。本当に社長がデバイスを ? 」
…………。
大災害を起こす脅威の怪人に 直接は敵わなくても……。
もしかしたら、自分達にも何かが出来るのだとしたら……。希望を捨てずにはいられない。
何故なら……。自分達は 彼誰時に戦い、夜明けを呼ぶ戦士 レヴル・ロウなのだから。
…………。
「 なあ 伝次……。君が話す内容は穴だらけだ。
けど、身の振り方を決める為に行動を起こすって意味なら……。僕も賛成だ。
一度 大代さんや、木田一班長にも相談しよう。僕達だけじゃ流石に手に余る。 」
「 ああ。俺達で見極めるぞ 界 ! 」
…………。
レヴル・ロウの 2人が今後の動向を固めて静かに動き出す。
………………。
…………。
……。
~勝利を~
3体の エヌ・ゼルプトが作り上げた仮想未来……。
濁った黄金色の空の下では、世界の行く末を左右する攻防が 繰り広げられていた。
…………。
青年 有馬要人は、先の見えない状況でも アルバチャスとして、灰色の砂地の上で戦いへと身を投げる。
死と静寂だけが平等に蔓延する未来を回避する為に。
…………。
……。
この仮想未来での戦いが、誰の行動を発端にしたのかは 既に曖昧だった……。
…………。
それ程に戦況は 入り乱れている。
…………。
愚者のアルバチャスは……。刀剣型武装 B.A.Swordと 魔道杖型武装 B.A.Wandを駆使して 距離をいとわずに立ち回った。
中距離からは 杖の先端から 火球を飛ばし……。近距離では両方の武装を使い分けて、打撃と斬撃と刺突を使い分ける。
…………。
太陽のアルバチャスは……。拳銃型武装 B.A.Cupのみで 打撃か射撃のみで戦い続けている。
表向きの 建前としての狙いは、エヌ・ゼルプトである エリアイズのみだが……。
偶然による流れ弾が 何度も 愚者へと跳んだ。
…………。
節制のエヌ・ゼルプト……。エリアイズはと言えば、この世界での戦いを皮切りに いよいよ戦い方を変えていた。
6枚 3対の大きな翼を広げては 立体的に飛翔して……。
高所からの 位置エネルギーすらも利用した 殴打や蹴りで暴れている。
…………。
灰翼の天使の攻撃は 三者の中でも 特に激しく、打撃の合間には 2つの聖杯からの光弾も飛び交っていた。
エヌ・ゼルプトの攻撃は、等しく 3人の人間に向けられているようだ。
…………。
……。
青年 有馬要人の見立てでは、まだまだ 底を残しているようにも見える。
…………。
恐ろしい事に 先程の……。
エリアイズと ドゥークラの 2体による、天使通しの戦いとは 少しだけ見劣りさえ感じさせるのだ。
…………。
奥の手の 1つであろう、螺旋の弾丸も 未だ放っては来ない。
赤と青の聖杯からの光弾は、射出の間隔も段数も膨大ではるが、このエヌ・ゼルプトの強さは この程度では無い。
…………。
理由は 恐らく……。
青年は、ある人物を 目視した。
…………。
ある人物は、この仮想未来に来る前から戦意を衰弱させてたのだ。
…………。
友人の身に降りかかった出来事に、強く衝撃を受けてしまったのだろう。
それも仕方がない。……正直なところ、これについては 青年自身も 深く考えたくはない。
…………。
最悪な状況も頭の中に連想されるが 完全に決定づけるにしても……。
…………。
自分が見た限りでは、何の痕跡も無かったのだ。
ならば……。その最悪だけに気持ちを引っ張られる訳にはいかない……。青年は絶えず動き回った。
…………。
「 十一さん……。すみませんでした。
俺が もう少し しっかりしていれば、今とは違う形に成っていたかもしれない。
けど、空護さん は……。きっと生きてます !!
あの 空護さん ですよ ?……どんだけタフか 十一さん なら知ってるでしょ ? 」
「 ……いいんだ。
もう 良いんだよ。有馬 君……。悪いのは君じゃない。
だから もう……。いいんだよ。 」
…………。
武装を駆使して……。天瀬十一を護り、呼びかけ続ける。
青年は 戦いの中で……。少しずつ 考えをまとめていった。
…………。
……。
灰翼の天使が、実力の全てを出さないのは……。
恐らく……。この場にいる 全ての アルバチャスが戦う 気概を持っていないからだろう。
…………。
基準は不明だが、独自の解釈で 平等や均衡に執着しているのが 関係しているのかもしれない。
…………。
理由はどうあれ……。エリアイズ自身は、全力では無いのだろうが……。
大気が振るえてると錯覚 出来る程度には 殺意に満ちている。生半可な戦いは 命取りだ。
…………。
……。
青年 有馬要人は、B.A.Swordで 数発の光弾を切り払う。
太陽からの偶然の流れ弾には、B.A.Wandでの火球をぶつけた。
…………。
死角からの凶弾や挟撃に、幾度となく対処し続けたのだ。
…………。
……。
2つの聖杯は、太陽と愚者に 絶えず多量の光弾を注ぎ込み。
灰翼の天使は、急転直下の滑空で容赦なく、生身の人間を狙った。
…………。
アルバチャスを起動していない 天瀬十一の身に、直接的な危険が迫る。
…………。
「 ……十一さん !! 」
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスが 水色の輝きで 咄嗟に滑り込んだ。
…………。
ストゥピッドは、エリアイズの只の拳を その身で受け止めるが、大きく吹き飛ばされてしまう。
呼吸が少しの間出来なかった……。直撃の威力は……。思考を 一瞬 途切れさせる。
…………。
アルバチャスの解除こそ 免れるが、その威力の強さに DEFは解除されていたようだ。
…………。
「 ほらほら !!どしたぁ !!
ヤル気あんのか ?……いい加減にしねぇと、仲良く皆殺しだ オラァ !!
そんで、ダラダラやってると……。晴れて 時間切れ……。
わかってんだよなぁ !? 」
…………。
灰翼の天使 エリアイズが 声を荒げる。
…………。
一定の場所に 留まる様に 羽ばたいて……。
片方の拳を もう片方の掌に何度か ぶつけては 激しい気性を表しているのだ。
…………。
……。
青年は、灰翼の天使が提示した内容を思い出す。
…………。
今 自分達が戦っている殺風景な場所は……。
光の試練が何らかの影響を及ぼした後の仮想未来らしく……。
…………。
残り時間こそ わからないが、一定の時間が過ぎると時間切れと見なされ、この景色が現実に成る。
…………。
防ぐ手段は 2通り提示された。
エリアイズを倒す事は 前提としても……。
…………。
1つは、アルバチャス 3人が協力し生存する事。
1つは、誰か 1人だけが生存する事。
…………。
つまり……。全員で あの天使を倒すか、1人だけで生き延びるかだ。
…………。
……。
現実世界を護り、この仮想未来から脱出する為の選択肢は 複数 用意されては いるようだが……。
3人共 ここに来る前に大きく心を乱されている。
…………。
それでいて、制限時間が伏せられる形で存在するのだ。
……残りの時間は どれほどなのか わからない。……判断を急がせる為の計らいだろう。
…………。
「 ……負けてたまるか。 」
…………。
1人だけで 生き延びる選択なんて最初から無い……。
なら、どうにかして……。もう 1つの勝利条件を形にしなくてはならない。
…………。
青年は 張りつめた精神を崩さず 思考を巡らせる。
…………。
……。
一方で……。
打開策を模索する青年とは裏腹に、太陽の英雄には余裕が有った。
…………。
光の試練を こなす英雄からすれば……。天使型の エヌ・ゼルプトも、試作の アルバチャスも……。
苦戦するような相手ではないのだ。
…………。
神地聖正は、B.A.Cupから無数に火球を射出しては 人知れず ほくそ笑む。
…………。
太陽の英雄が 独自の切り口で ロジックを組み立てた。
…………。
……。
残りの時間には 恐らく まだ余裕は有るだろう。
灰翼の天使 節制のエリアイズか……。
エヌ・ゼルプトの中でも 上位の実力を持つ 天使型の 1体に該当する。
…………。
幻視によれば……。三柱途(サンチュウト)と呼称される 3体の特殊な エヌ・ゼルプトの リーダー格だったな。
…………。
節制……。吊るし人……。運命の輪……。この 3体は、いずれもが 空間干渉能力や 位置干渉能力を 個別に持っている。
三位一体の能力で 特殊な空間を 時限性で生成する事も 可能なのだとか……。
言葉で 発破をかけてはいるが……。今の この仮想未来こそが そうなのだろう。
…………。
エリアイズ単独での 本来の能力は、座標の擬似固定。
…………。
地上だろうが 空中だろうが、被弾した者を 特定の座標に節制しては 縛り付ける強制力を発揮できる。
厄介ではあるが……。
2色の聖杯からの 螺旋の弾丸さえ気にかければ 大した事は無い。
…………。
……単純な武力でさえ 勝っていれば どうにでもなるだろう。
…………。
気に成るのは 慎一が用意した DEFの性能か……。いや 違うな。
…………。
只の範囲強化と 高速化だ。使い手にしても 流れ物ならば、何の脅威でもないな。
…………。
後は、未だに立ち直れない、天瀬十一か……。
独り勝ちする前に 少しだけ、太陽神としての 動作確認でもしようじゃあないか。
…………。
フフフ……。折角の仮想未来だ……。アポロンの性能テストは、何度しても 溜飲が下がる。
………………。
…………。
……。
~破滅と衰退~
仮想未来での混戦で……。
灰翼の天使が 立体軌道で飛び回り、天地も問わずに暴れ回っている。
…………。
戦いの渦中で……。太陽の英雄は、俯瞰的に 冷めた目線を向けていた。
…………。
……。
空から降り注ぐ光弾や強襲には、愚者が健気に応戦し 未だに立ち尽くす腑抜け者を護っているのだ。
…………。
愚者は……。武装だけで払いきれない攻撃を、自身の身を挺して防いでいるのだろう。
馬鹿の真意は理解に苦しむ……。
身を削ったとしても、実らなければ全てが徒労に終わるというのに……。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
太陽は全身に護符の恩恵を乗せた。
高められた 熱エネルギーは、太陽の身体を 蜃気楼で揺らす。
太陽のアルバチャス code-19- アポロンが、現在の戦況に自身の主導権の強さを示そうとして動き出したのだ。
…………。
「 時間は有限……。人の命にもまた 限りがある。
……フフフ。隙ありだぞ ?……有馬 君。 」
「 何を……!? 」
…………。
太陽の英雄は、愚者の背中に赤熱した拳を叩き込んだ。
…………。
青年は、太陽からの 熱拳に気がつくが 回避が間に合わず……。爆風に飲まれる。
拳の接点から火球が膨らみ爆発したのである。
…………。
愚者のアルバチャスが、爆炎を包まれて 吹き飛んでいった。
…………。
天瀬十一が、それを見届けるよりも早く……。神地聖正は 別の行動も同時に行っていた。
…………。
炎熱で作った障壁を頭上に広げたのである。
日輪の天蓋とも言える 炎熱での障壁は……。見事に エリアイズからの無数の光弾を防いで見せた。
天瀬十一と 神地聖正だけを 雨宿りさせたのだ。
…………。
「 そんな……。有馬 君にまで……。
神地さん……。まさか本当に……。空護を 手にかけたのか ? 」
「 ……十一 君。
仮に、そうだとしたら どうする…… ?
だが 君も……。彼の事を 煙たがっていたのだろう ?
ならば 持ちつ持たれつだと思わないか ?……私が 君を護ろう 今のようにね。 」
…………。
太陽の英雄は 決して悪びれない。自信に満ちた抑揚で応答する。
…………。
「 そうだとしても……。俺は……。
いや……。違う……。そうじゃない。
俺の しがらみは 俺自身のものだ……。自分自身で 決着を付けないといけなかった。 」
「 なあ 十一 君……。生きていれば 自分自身で触れたくない事も有るものさ。
それを助けるのは、身近な者にしか出来ない……。
私は 君の弱さを理解している けど、それで良いんだよ。弱くていい。
内面の弱さを 持っていても良いんだ。
しがらみを 持たないで 生きられる人間なんて いないのだから。そうだろう ?
自身の弱さが……。それが 何かしらの不幸を生じさせたなどと……。考えるのはまやかしさ。
全ては……。君を苦しめる 周りの偶然が悪いんだ。君には一切の非は無いのだから。 」
…………。
太陽の英雄からの声は、慈悲に満ちた形を成そうとしていた。
だが この言葉は、愚者の青年の行動と 太陽の英雄の行動が 同じ範囲で並ぶほどに……。
神地聖正の言葉の意味と相反しているようで……。時間が経過する程、浮き彫りに成っていく。
………………。
…………。
……。
太陽が直々に 破壊の塔を照らし続けた。
…………。
だが……。天瀬十一が 気がつくと……。強く思い出されるのは……。烈風のような豪胆な友人との日々だった。
愚者の青年の言葉と行動から……。ここにはいない友人との日々を思い出していたのだ。
…………。
もしも……。童話であれば 風を選ぶ事は無いのだろうが……。
今 見えている 太陽に手を伸ばすのは……。間違いなのだと……。近づくほどに深くなる陰に 目を向けた。
…………。
天瀬十一が 言葉に強さを宿す。
…………。
「 ……そんな筈はない。
自己の弱さを 有耶無耶にして 他人を犠牲にしていいだなんて……。そんな筈はないんだ !
俺は 自分自身の問題を 先送りにし続けたからこそ 呼び込んでしまった。
自分でも望まない結果を……。呼び込んでしまった。
俺の弱さが招いた……。大きな間違いだ。
空護は 自分の信じる者の為に決断していた……。俺は自分の 間違いを戒めとして受け入れる。
貴方は いつも こんな風に 人の弱みに漬け込んできたのか ? 」
「 人助けだよ……。純度 100%の善意さ……。変な言いがかりは やめてくれ。
言っただろう ?
君の気持ちは、私が最も理解できるのだと。
心の負荷は 無い方がいい。苦しかったんじゃないか ? 」
…………。
太陽の英雄は 両手を広げて、自身の包容力を全身で表す。
声には偽りが漂よわせないが……。それでも、そこから伝わる印象は真逆のようだった。
…………。
太陽が照らす 破壊の塔は、影を帯びても尚 どっしりと自立し始める。
…………。
「 冗談じゃない……。貴方は そうやって利用してきただけだ。
例え、疎ましく思ったとしても、相手の短所も尊重し 何度でも ぶつかりたいと思える。
それが……。それが友だ !!
神地さん……。貴方にも わかるでしょう ?
俺の父と 親しかった貴方なら……。わかるんじゃないですか ? 」
…………。
塔の青年は、言葉に熱が籠り 無意識に半歩踏み込んでいた。
…………。
瞳には ハッキリと目の前のアルバチャスを映す。
先程までの 虚空を彷徨う視線は既に無く、今は光が灯っている。
…………。
「 わかるさ……。
だがな、十一 君。だからといって 辿り着く答えは 1つではないのだよ。
私は……。私の道しか歩けない……。今の慎一は 只の腑抜けだ。
さっきの君と同じさ……。腑抜けた奴は 私に必要ない。
動くべき時に、動けない奴は全てを失うのだ。だが……。そこまで言うなら 見て置くんだな。
今 有馬 君も葬ってやろう……。君は きっと、何もできないだろうさ。 」
…………。
太陽の英雄は、悠々と背を向けた。
…………。
滑走すらも 使わずに……。緩慢な足取りで歩き出す。
片方の腕を 赤熱させて、先程 愚者の青年が吹き飛ばされていった方角へと進んでいった。
…………。
愚者のアルバチャスは、先程の爆風によって吹き飛ばされた後……。灰翼の天使に狙われたのだろう。
先程、太陽の英雄が作り出した 炎熱の障壁から 離されたから だろうか。
…………。
この瞬間も、エリアイズと 肉薄した攻防を仕掛けられており、気がついていないようだった。
太陽のアルバチャス code-19-からの 極熱の魔手には、対処 出来そうに無い。
…………。
天瀬十一は……。自身のデバイスを握り……。code-16-を起動させる。
…………。
「 有馬 君を やらせはしない……。神地さん……。俺は 貴方を……許さない。
俺の親友を 手にかけたのが貴方なら……。俺が貴方を倒す !!
アルバチャス !!起動 !! 」
『 Arbachas code-16- !! Function !!
( アルバチャス コード シックスティーン !! ファンクション !! ) 』
『 Destruct All !! Babel !!
( デストラクト・オール !! バベル !! ) 』
…………。
天瀬十一が バベルのデバイスを起動した。
…………。
A-deviceが 光り 微細な霧状の粒が出現する。
霧状の水分の粒からは 雷が発生して、天瀬十一の全身に 紺色の外骨格が形成させていく。
外骨格が行き渡ると、更に上から白衣のような形状の 追加装甲と、巨大な塔のような腕が両肩にに装着された。
…………。
塔のアルバチャス code-16-は、即座に武装 systemを起動する。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
護符の加護によって エネルギー密度を高めては、滑走速度を向上させたのだ。
…………。
道中……。アポロンに 補助アームで打撃を加えて疾走し、ストゥピッドと エリアイズの間に割り込む。
灰翼の天使は、状況の変化に気がつき、追撃されないうちに上空へと退避した。
…………。
「 有馬 君……。本当に すまなかった。
……君と 空護が繋いだ未来に 俺も手を伸ばしたい。
虫のいい事を 口にしている自覚はある。それでも 許してくれないか ? 」
「 十一さん。許すも何も……。
初めから 何か事情があるんだって……。思ってましたよ。
俺も 空護さんも。
慎一さん も 真尋ちゃん だって、誰も 十一さん を咎めるような人はいなかった。
世界を こんな景色にしちゃダメだ……。
一緒にやりましょう !!……ここから 打開策を探すんです。 」
…………。
愚者と 塔は 拳を軽く ぶつけて、互いの意思を証明した。
…………。
「 有馬 君。本当に ありがとう。
空護の事は、全てが終わったら……。必ず向き合う。
君は 今の俺の決意の承認だ……。まずは、ここを出よう。
3人が 生存している間に、エリアイズを倒せば条件を満たせる筈だ。
神地さん は 俺に任せてくれ。邪魔はさせない。 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Cup !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・カップ !! ) 』
…………。
塔のアルバチャスは、片方の手に握った B.A.Wandで愚者の消耗を和らげる。
それから直ぐに、太陽のアルバチャスを目掛けて動き出した。
…………。
腹に座った気持ちは 決してブレない。
滑走機能で移動する最中、上空の灰翼の天使にも B.A.Wandと B.A.Cupによる射撃を行った。
…………。
愚者のアルバチャスも この機を逃さずに動き出す。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
魔道杖型武装 B.A.Wandに護符の恩恵を組みわせて……。
いつの日かのように 杖に立ち乗りをすると、灰翼の天使 目掛けて飛翔した。
…………。
その姿は相変わらずで、まるで原動力が付いた サーフボードやスノーボードでも 乗りこなすかのようだ。
…………。
……。
青年 有馬要人が、上空で 灰翼の天使と 空中戦を行う傍ら……。
…………。
天瀬十一は、神地聖正を相手に殴り合いの戦いへと移行していた。
…………。
ホバー滑走で 接近し……。巨大な 補助アームでの打撃を行う。
合間には……。両手に持った B.A.Wandと B.A.Cupでの銃撃も絶やさない。
…………。
有馬要人が エリアイズとの戦いに集中できるように、太陽のアルバチャスを 逃がす訳にはいかないのだ。
…………。
戦いの折……。
太陽のアルバチャス code-19- アポロンとして 交戦を続ける 神地聖正が 口を開く。
…………。
「 腐っても 次世代型か……。良いパワーだ。
だから……。君は ダメなんだよ。慎一にも及ばない 出来損ないめ……。 」
「 負け惜しみを…… !!
code-16-も code-19-と 同様に次世代型だ……。貴方が相手でも負けはしない !! 」
…………。
上空では 愚者と 節制が……。
地上では 塔と 太陽が 白熱した戦いを繰り広げる。
…………。
愚者のアルバチャスの 猛攻は激しく、節制が 継続して行っていた光の雨はいつの間にか止んでいた。
…………。
塔が 太陽に 何度か打撃を与えた時……。太陽の英雄が、人知れず含み笑いをするが……。
これを認識していたのは……。恐らく 当人だけのようだった。
…………。
太陽のアルバチャス code-19- の 背面にある 日輪型ジェネレータが、妖しく 鮮やかな赤色で輝いたのだ。
…………。
『 -Twins And Sun- !! event !! Precepts !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! プリーセプトゥ !! ) 』
…………。
動作音が鳴り……。塔のアルバチャスが 即座に動きを止める。
神地聖正が 声の抑揚に 笑みを交えさせて 言い結ぶ。
…………。
「 言っただろう。君は何もできないのだと……。
慎一なら、私の眼から逃れた場所で だけ、念入りに対策を講じるだろうな。
能動的な 馬鹿 程……。悪手を立て続けにするものさ。十一 君。
破壊の塔にも、アポロンの強制制御は 効き目が有るんだよ。
君は致命的な ミスをしたんだ。七光り……。
code-16- を起動した瞬間から、私の勝ちが盤石になったのさ。 」
…………。
強制制御で 指揮下に置かれた塔は、B.A.Cupでの銃撃を……。静かな動作で上空に向ける。
複数の雷の弾丸が広範囲に乱射され、上空で戦う 愚者と節制に襲い掛かった。
…………。
両者は完全に避けきれずに、被弾した愚者のアルバチャスは 地上に落下してしまう。
…………。
青年 有馬要人は……。
B.A.Wandの 残りの出力をもってして 落下の衝撃を相殺し、辛うじて着地すると 現状の事態に気がついた。
…………。
「 卑怯だぞ……。そうやって 十一さん を…… !!
これが英雄の やる事なのか…… !? 」
…………。
青年の眼には、無感情な塔が見えた。
太陽のアルバチャスの制御機能で、完全に自我を抑制されているのだろう。
…………。
鎮めても冷静さを押しのけて 憤りが湧きあがる。
…………。
青年の声にも現れる怒りなど 素知らぬ様子で……。太陽の英雄は 愚者に相対していた。
…………。
「 なんとでも言え……。全ては 結果を出せるか どうかさ。
これも私の計算の内……。そこの彼が、バベルを起動すれば 駒が増える。
献身的に 呼びかけて正解だったよ。
後は 私が制御する手駒と共に、目の前の馬鹿を……。君を倒し……。飛び回る害虫すらも払い落す。
そして最後に、ここで自我を無くした馬鹿を 消して終了だ。
安心しろ……。
残りの エヌ・ゼルプトも 慎一も……。不穏分子の全ては、太陽神の足元にも及ばない。
私は 真なるアルバチャス。今 時代の 英雄なのだ。
世界は 救われるだろう……。私のお陰でだ……。
私は……。限りなく近い未来で……。新たな秩序の頂きに君臨する。 」
「 何が 神だ……。人の営みを 壊し続けて何も感じない奴が…… !!
そんな お前が…… !!
何を 救えるって言うんだ !!……俺は もう認めないぞ !! 」
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
愚者の青年は、託された力を一挙に動作させて 奮起した。
…………。
目的の最終的な指針は これまでと変わらない……。
だが先に……。なんとしても、あの制御機能を 解除させて……。塔と 共にエヌ・ゼルプトだけを倒す。
当初の目的を……。今も変わらない目指したい行き先に向かう為にも……。今の状況を 打破しなくてはならない。
…………。
青年 有馬要人が 戦意を高めて動き出す。
…………。
神地聖正は……。この瞬間でさえも 余裕が崩れないようだった。
…………。
「 馬鹿とは……。会話が出来ないな……。良いさ ねじ伏せてやろう。
慎一の 仕込んだ切り札など 太陽には届かない……。ここから出られるのは 私だけで良いのだ。 」
…………。
太陽の英雄の奥底は とても静かで……。1秒でさえも 熟慮できる平静さが残っている。
…………。
……。
慎一の DEFか……。
やはり、仕掛けが有るな……。チャリオットのデバイスとは異なる機能か ?
恐らく……。私の切り札への抗体……。
ストゥピッドに -TAS-の Preceptsが、効果を示さないようになったのも それによるものか。
波長のチャンネル係数を 変えたか……。完全に遮断できるようにしたのか……。だが……。
だが、私の奥の手は まだまだ有る……。良い実証試験に成るだろう。
…………。
……。
太陽のアルバチャスが、片手で わざとらしく指示を出す。
これに合わせて……。塔のアルバチャスが 滑走し、愚者に向けて接戦を仕掛けていった。
…………。
青年 有馬要人は、これにも応戦し アポロンを直接 狙おうと動いているようだったが……。
code-16- バベルからの 雷鳴が 広範囲攻撃として立ちはだかり、思うような戦況へと運ばせない。
…………。
敏捷性では 勝るのは……。愚者のアルバチャスである。
何度か 塔のアルバチャスを 振り切るが、そこを狙った 太陽のアルバチャスから、鋭く射撃が注ぎ込まれてしまう。
…………。
決められた 限定的な脱出路を……。神地聖正に予測されていたのだろう。
…………。
「 諦めるんだ……。有馬 君。平々凡々な愚者が 太陽神の私に逆らうな。
君には……。この状況の 打破など出来ないさ……。 」
「 出来ないか どうかじゃない……。俺は……。俺達は負けられないんだ……。 」
「 どうにもならんよ 残念だけどね……。
威勢がブラフとして 役に立つのは、優位な状況を覆されるまでさ。わかるだろ ? 」
…………。
青年は 体力と時間だけを消耗し……。いよいよ焦りが積み重なっているようだった。
…………。
3人のアルバチャスの間での 1 対 2 の劣勢を……。
ある存在が 空中から見下ろす。
…………。
見下ろしているのは……。灰色の翼を持つ 存在である。
…………。
「 おいおい……。クソども……。今の現状わかってんのか !?
ホームパーティーじゃねぇんだぞ ?
仲良く出てぇのか。抜け駆けしてぇのか……。総意が ハッキリしねぇな。俺様を無視しやがって……。
だが……。面白れぇ 良い度胸だ。 」
…………。
さっきまで、止んでいた 光の雨が 再び降り注いだ。
光の雨の勢いは……。先程よりも 数段強くなっている。
…………。
これと時を 同じくして……。灰翼の天使が 太陽の英雄に 迅速に飛来して 拳を振り下ろした。
…………。
上空から滑空して叩き込まれた強打は 只の一撃で、太陽のアルバチャスを大きく吹き飛ばす。
…………。
「 オラァ !!隙ありだ可燃ゴミが !!
随分、ふざけてくれるじゃねぇか !!簡単に俺様の試練を終えるだと ?
足元救ってやるぜ 英雄 様……。
そういう事だ……。俺様が もう少し状況を 動かしてやる。……文句ねぇよな ?クソガキ。 」
…………。
この場にいた 誰もが 予想外だった。
特に 青年 有馬要人は、これを機に……。冷静さを取り戻す。
満身創痍と 怒りによって 曇っていた視野に 気がつけたのである。
…………。
「 エリアイズ…… !!
お前 みたいな奴と共闘だと ?……背中を 預けられる訳が無い。
けど……。お互いに利用するって事なら、好きにさせてやる。 」
「 流石だぜ 良い根性だ。クソガキ……。俺様が 俺様によって 俺様の為だけに、今から暴れてやる。
精々、俺様に不意打ち されんなよ ? 」
…………。
愚者の青年は 呼吸を整えて 静かに現状に向き合う。
自棄を起こしたら それこそ終わりだ……。
…………。
厄介な相手は……。灰翼の天使 エリアイズと……。太陽のアルバチャス 神地聖正……。
目指したい脱出条件に 関わるものの……。これ以上の油断はしてられない。
…………。
愚者のアルバチャスと 灰翼の天使 エリアイズ……。
そして……。太陽のアルバチャスが 塔のアルバチャスをも伴って 戦いの流れを見極める。
…………。
「 十一 君。アレを見たまえ……。敵は エヌ・ゼルプトと協力関係にある悪党だ。
英雄が 征伐するに相応しい相手さ。
……と言っても。聞こえちゃいないか。この木偶の坊は。 」
「 ……………………。 」
…………。
太陽は相棒の塔に親しげに話しかけるが、特に反応は帰ってこない。
天瀬十一の自我は完全に制御下に置かれているのだろう。
…………。
怪しく輝く太陽と、沈黙した塔……。
大胆不敵な 節制……。
戦意を新たにした 愚者が……。激しい戦いの兆しを感じ取る
…………。
「 ……………………。 」
…………。
凶事の塔は 沈黙して……。静かに太陽からの斜陽に晒されていた。
………………。
…………。
……。
~約束~
濁った黄色の空……。灰色の砂地……。
風も吹かない 閉じられた未来の中で……。戦いの音が鳴る。
…………。
3人の アルバチャスと 1体の エヌ・ゼルプトが戦っているのだ。
…………。
当初は 節制のエヌ・ゼルプトに 相対する為と思われた戦いは……。少しずつ角度を変えていき……。
今となっては 塔を従える太陽に、愚者が挑み……。
これに 節制のエヌ・ゼルプトも 交えた乱闘へと 変化していた。
…………。
灰翼の天使 エリアイズが、太陽のアルバチャスに 幾度となく 肉薄した戦いを仕掛けている。
…………。
「 ハハハッ !!今どんな気分だ 英雄 様よぉ。
全ての人間が お前の思い通りには動かねぇんだ。驚きだよな !?
俺様もだよ !!……ドキドキと ワクワクが 止まらねぇぜ オラァ !! 」
…………。
この状況に成ってからの 何度目かの強打である。
太陽の英雄 神地聖正は、平静を保ったまま 片方の掌で拳を受け止めた。
エリアイズの拳を 掴んだ手は赤熱し、継続的な 熱量で攻撃を備蓄させているようだ。
…………。
「 私も 同じような気分だ……。天使 如きが太陽に歯向かうのだから……。
……パターンは 読めたぞ。腹部が隙だらけだ エリアイズ !! 」
…………。
アポロンは、もう片方の手に握った射撃用武装 B.A.Cupから、高熱の光弾を放った。
太陽のアルバチャスが 操る炎熱を込めた、至近距離からの炎熱弾だ。
…………。
言動から察するに……。神地聖正は この機会を狙っていたのだろう。
…………。
灰翼の天使 エリアイズは……。射程距離に囚われずに 戦う手段を持っている。
ならば……。
この エヌ・ゼルプトには、攻撃をされた直後の カウンターが 最も確実で 有効だと考えられるのだ。
…………。
……。
灰翼の天使の顔に残る裂傷の後が、戦いのさなかでの炎熱や爆炎の光で 照らされる。
これは、仮想未来に飛ばされる以前に……。愚者のアルバチャスが付けたものである。
…………。
その時の裂傷がつけられた要因は、肉薄した戦いの末の、愚者のアルバチャスによる 捨て身の一撃だ。
つまり、縦横無尽に飛び交う天使にも 隙はあったのである。
この事実は 灰翼の天使と相対する上で 有益な情報として、神地聖正の記憶にも とどめられているのだろう。
…………。
この瞬間の アポロンには 未だ 護符の恩恵による 高密度エネルギーが内在していた。
…………。
B.A.Cupに 込めた高められた 炎熱の弾丸は、当てる場所さえ吟味すれば 更なる致命傷に つながる筈なのだ。
…………。
「 目障りにも飛び回る 羽虫を弱らせれば、その間に愚者を始末するのも容易い。
塔が 愚者の侵攻を防いでいる 今が私の好機だ……。ニューヒキダに帰還し 名実ともに 私は英雄に成る……。 」
…………。
神地聖正は 静かにつぶやく。
…………。
太陽の英雄の 腹の底で……。強く熱意が盛り上がっていった。
…………。
……。
つまり……。簡単な話だ……。
今の数秒が有れば、英雄は作れる。
今の数秒が有れば、新世界は作れる。
今の数秒が有れば、太陽神は 直ぐにでも顕現する !!
…………。
「 私こそが……。正しく……。聖らかに…… !!
愚衆を束ね 光の試練を全うするのだ…… !! 」
…………。
だが……。戦況の行方を急いだ この瞬間だった。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
今の数秒で……。
月の公転速度にも迫る 愚者が 太陽に急接近し、乱打を叩き込んだのだ。
水色の輝きで身を包む ストゥピッドは、自分以外が スローモーションになった世界で 太陽に打撃と蹴りを入れる。
…………。
灰翼の天使の拳を掴んでいた 太陽の手も緩み、愚者は これを見逃さない。
…………。
エリアイズを 引っ張り寄せて、炎熱の弾丸の射線上から脱出させる。
……ここまで終わらせてから、青年は 月の恩恵を中断させて 星へと 戻した。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
…………。
太陽は 打撃の残滓を 全身で体感し 吹き飛ばされた。
炎熱の弾丸は 空中へと放られて 程なくすると 真球型の爆風を巻き起こす。
…………。
この時に 意表を突かれたのは、節制のエヌ・ゼルプトも 同じだった。
…………。
「 この感じは まさか 鍵を……。なるほどな 今のは……。てめぇか クソガキ。 」
「 まあな。流石に危なかったろ……。これで貸し借りは無しだ。 」
…………。
青年 有馬要人は 乱れそうな呼吸を隠して応答する。
DEFの 月の恩恵は 相変わらず 負荷が強いのだ……。
…………。
とにかく今は 上手く立ち回って、神地聖正の戦意だけを削がなくてはならない。
エリアイズを倒そうにも、太陽と塔の総出で 隙を狙われてしまっては どうにも難しいのだ。
…………。
流れを掴むまでは 大きく出られないが……。焦らずに 流れを 組み立てる必要が有る。
…………。
青年 有馬要人は 静かに思案して……。灰翼の天使にも警戒を解かない。
…………。
「 ……余計なお世話だ。クソガキめ。
あんなもんじゃ……。俺達は 少し焦げるだけだろが……。 」
「 そうかよ……。 」
…………。
節制のエヌ・ゼルプトとの間で 言葉を幾度か言葉を交わすと、雷鳴が轟いて 電荷の柱を何本も発生していた。
code-16- バベルが放った 無数の雷だ。
…………。
有馬要人と エリアイズは、有無を言わさず 雷鳴の柱を 回避する。
…………。
未だに自我を抑制された塔は、神地聖正の傀儡として動作しているようだ。
機械的な挙動で滑走し、無差別な雷によって 作り出される密林を発生させては 暴れまわっている。
…………。
……。
エリアイズは 早々に上空へと退避し……。
愚者のアルバチャスは 滑走で雷の密林による影響範囲からの脱出を試みた。
…………。
雷鳴は 絶えず轟いており、バベルから放たれても 影響範囲からの脱出が困難を極める。
…………。
これ程の景色の中でも……。雷鳴の密林を作り出している 塔のアルバチャスは……。エリアイズの事も狙っているようだ。
塔が 握る B.A.Cupと B.A.Wandからは、雷の弾丸や 放射が 上空に放たれている。
どうやら……。エリアイズの操る 聖杯の光弾と 撃ち合いをしているらしい。
…………。
有馬要人は、この隙に 愚者のアルバチャスの機動力の高さを信じて……。ホバー滑走で駆け抜けていく。
青年が 雷の密林からの脱出するまでは 後少し……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
動作音が鳴ると……。遠くから 高密度の炎の塊が飛来する。
神地聖正の 操る炎の弾丸だ……。
…………。
「 薄暗い森から出れば……。太陽の光りが 冷えた身体を温めてくれる。
素晴らしいだろう ?……私からの 慈悲だよ 有馬要人。 」
…………。
青年の視界を 加速度的に 太陽の如き火の玉が覆っていく……。
…………。
一連の様子は、灰翼の天使からも確認できたようだが、地上の 塔からの弾幕も激しい……。
自我を無くした為か……。自傷行為も気にしない捨て身の猛襲が、code-16-から 行われているのだ。
…………。
青年には この 大火球弾を 避ける選択肢は無かった。
…………。
……。
巨大な火球の進路上には……。青年の後方には……。
塔のアルバチャス 天瀬十一がいるのだ。
…………。
「 神地聖正 本当に嫌らしい事を…… !! 」
…………。
この火球を避けるしろ、避けられないしろ……。
1人だけでも仕留められれば、仮想未来からの脱出条件は 1つしか残らなくなる。
…………。
どちらか片方が生き残ったとしても、神地聖正は 精神的に優位な状態で戦況を進められるのだ。
ならば……。
…………。
「 このまま……。終われない…… ! 」
…………。
青年は出来るだけ 短時間で 酸素を吸い込んだ。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスは 起死回生の 大勝負に出る。
魔道杖型武装 B.A.Wandから 噴出するエネルギー放射と、ホバー滑走の推進力で 地上を滑走した。
驚異的な速度で 地上を滑走し……。青年の眼前に迫る 大火球弾に迫っていく……。
…………。
直接触れなくても汗が噴き出す程に 熱を感じる距離でも、青年は 進路はブレさせない。
…………。
熱の塊に極限まで接近した危ういところで……。
有馬要人は、推進力にも使っていた B.A.Wandを 前方に投擲した。
…………。
……。
B.A.Wandは 推進力を残しているからか、弾道ミサイルのように飛翔を続ける。
しかし……。DEFの 星の恩恵を 維持していた 愚者からの影響が 途中から及び始めた。
…………。
エネルギー放射を 推進力に飛翔する B.A.Wandが……。複数に増えていくのだ。
魔道杖型武装が、複数の質量を持った残像の群に姿を変えていき……。巨大な火球に突き刺さっていく。
…………。
B.A.Wandは、大火球弾に突き刺さった後も……。完全に消滅するまでの間は 推進力をもって衝突している。
結果として……。幾本もの B.A.Wandが、少しずつ 火球の軌道を 上空へと逸らし始めたのだ。
…………。
青年 有馬要人は……。
投擲した直後、巨大な 火球が上空へと角度を変えた頃合いを 見届けて……。反撃を試みる。
DEFを 月の恩恵へと切り替えて……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
この機を逃ささない手は無い。
…………。
巨大な火球弾に 自分自身の身体が隠れて、発射した側からは 出方が見えない今こそ……。
本当の意味での 起死回生が狙える筈なのだ。
…………。
愚者のアルバチャスが、上昇を始めた 巨大な火球弾の下を潜り抜けるように疾走する……。
こんな攻撃を出来る太陽を 早々に止める 必要が有った。
…………。
スローモーションの世界での ホバー滑走は、護符の恩恵も相まって普段以上に速く疾駆する。
太陽のアルバチャスの姿が 間近にまで見え始めた。
…………。
『 -Twins And Sun- !! event !! Accelerate !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! アクセラレータ !! ) 』
…………。
アポロンの背面の ジェネレーターが怪しく煌めく。
すると……。太陽のアルバチャスに ある変化が起こったのだ。
…………。
「 ……やはり来たか。有馬要人。
慎一の DEFに何が出来るのか……。私には 大方の予想がついている。
全ての性能は 私の方が上だ……。 」
…………。
……引き延ばされた時間からの強襲が 読まれていた !?
意表を突いたつもりが……。逆に意表を突かれたからか……。青年は 面を食らってしまう。
…………。
DEFの 月の恩恵で……。あらゆる物理法則すらも遅延する今の瞬間を 何の影響も活動できるのは……。
…………。
「 ……どういうことだ !? 」
…………。
青年 有馬要人が、滑走で接近し困惑気味に 格闘戦へと移行する。
拳鉄を突き出して……。困惑の中でも 肉弾戦を仕掛けるが、太陽の英雄は これにも応戦し 語り始めた。
…………。
「 困惑しているね。DEFに 出来る事を予想してみようか……。
まずは、私の アルバチャスによる 強制制御への自動 耐性。
そして……。多勢に無勢でも戦えるようにする為の 広範囲攻撃の拡充……。
後は、アルカナの光を利用した 高速化能力の実現。こんな感じ なんじゃないのかな ?
フフフ。なにも驚く事は無い……。DEF の機能も アポロンに組み込まれる予定だったのだ。
初期の設計思想から分岐しただけなら……。大本は変わらない。
本当に残念だ……。
緻密に作り上げた太陽と、急ごしらえの愚者と DEFと じゃあ 使用者に還元される負荷も異なる。
……君は もしかすると、立っているのも やっとなんじゃあないか ?
突貫工事で 作られた物は デメリットの方が大きいものさ。
……仕方がないね。
本当に悪い奴だよ。慎一は……。 」
…………。
アポロンが ストゥピッドの腹部に赤熱した拳を 打ち込んだ……。
…………。
青年の喉の奥では、血の味が広がる……。愚者の腹部に当てられた 太陽の拳は熱を爆発させたのだ。
爆風と強打を 少しも受け流せずに……。減退させずに受けてしまった。
…………。
青年は大きく吹き飛ばされ、月の恩恵を解除させてしまう。
気がつくと 後方の上空では 先程の巨大な大火球弾が爆発し 轟音を上げている。
…………。
有馬要人は、太陽のアルバチャスが繰り出せる DEF以上の奥の手に身構えて 異変に気がついた。
反射的に周囲を確認しただけ だったのだが……。それに気が付けたのである。
…………。
異変が起こっているのは 塔のアルバチャス バベルだった。
…………。
何故か、先程までの おびただしい量の雷を解除しており……。
情報武装 アルカナ・サーチを使い、青年に 声を掛けてきたのである。
…………。
「 有馬 君。……無事か ?……今の状況は いったい。 」
…………。
天瀬十一の自我が 解放されているのだ。
朗報だった。
…………。
しかし、その理由を静かに 精査するにしても 今は時間が無い。
俊敏な速度の 熱の弾丸の猛襲が 愚者に命中しているのである。
…………。
青年は直観に従って、突き進む腹を決めた。
…………。
「 十一さん。……後は頼みます。 」
「 わかった 任せてくれ。 」
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
青年は 簡単に伝えると 直ぐに DEFの恩恵を月に切り替えた。
…………。
有馬要人の知覚は 再びスローモーションの世界に戻る。
愚者 目掛けて飛来する更なる 熱の弾丸を避けて、武装 systemで立ち向かった。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
B.A.Wandを 両手で鮮やかに振り回し、太陽から放たれる弾丸を打ち払う。
愚者は ホバー移動で疾走し 太陽の懐に飛び込んでいった。
…………。
アポロンと ストゥピッドは……。互いが 手に持った武器をぶつけて白兵戦を激化させる。
…………。
「 有馬要人……。実に恐ろしい執念だ。
満身創痍の中でも 私を執拗に狙うとは……。まだ理解できないのか ?
君は 私のアルバチャスには勝てない。
私は 命が続く限り、歩みを止めるつもりはないからだ……。
ともなれば……。この仮想未来からの脱出条件が 1つに絞られるだろう。
そして、それは君が 望まない条件になる……。潔く諦めろ。君が目指す先に勝機は無い。 」
「 ……俺も止まりませんよ。
どんな可能性も執念深く追い続けて見せる。
お陰で見えました。太陽のアルバチャスの弱点が…… !!
DEFと根幹が同じなら、2つの機能を 同時には扱えないんじゃ無いですか ?
強制制御と 高速化は 同時には使えない……。それなら、俺が貴方を逃がさない。
……それだけで 3人での脱出は 絶対に狙える !! 」
…………。
太陽の英雄は、背面のジェネレーターを輝かせて、全身に安定したエネルギーを定着させる。
…………。
安定したエネルギーは 腕部や B.A.Cupにも行き渡っており……。
赤熱する拳や 火炎弾となって、愚者へと向けられた。
…………。
愚者のアルバチャスは、滑走機能で立ち回り B.A.Wandによる打撃や エネルギー放射で反撃する。
…………。
「 驚いた……。君の嗅覚は野生動物のようだ。
確かに……。それは認めよう。
-TAS-は、強制制御能力の Preceptsと……。
高速化の Accelerateの片方を選択して 起動するのが基本の機能だ。併用は出来ない。
短時間で看破した 君の勘の鋭さ……。慧眼は称賛に値する。
だが、君の考えは誤算だらけだ……。
まず、自分自身が可能な継続 戦闘時間を甘く見ている。
そして、あの 慎一の出来損ないの七光りを……。自分以外の不穏分子を 信頼しすぎだ。
天瀬十一 程度が……。節制の エヌ・ゼルプトを単独で倒せる筈がない。
君にとっての希望は、杜撰な計画と只の過大評価に過ぎない……。
その判断では 命を捨てるぞ ?愚か者め。 」
「 自分自身しか信じられない貴方には、そう見えるんでしょうね。
十一さん は 貴方が思う程 弱くは無い。
空護さん や 俺なんかとは違う事を やれるのが 十一さん なんです。
だから俺は、絶対に貴方を逃がさない……。 」
…………。
愚者の連脚が 太陽の上体に叩き込まれていく……。
太陽は 何発目かの蹴りで後方へ飛び退くと 衝撃を減退させた。
…………。
アポロンが この瞬間の反撃に、B.A.Cupを腰の高さで放った……。腰撃ちである。
腰撃ちは……。
狙いを定める時間を省略した 都合上 即効性が高く……。自身の機動性を殺さずに プレッシャーを与えるには打ってつけの手段だ。
…………。
太陽の英雄が 行った この手段は、扱いなれているからなのか 命中精度も 悪くはない。
自身の腰の高さで どこに弾丸が飛んでいくのか 理解しているのだろう。
…………。
本来ならば威嚇と牽制に近い用途でも……。瞬間的に攻撃方法として使いこなし……。愚者のアルバチャスに命中させている。
…………。
「 逃がさないだと ?……君が この私を !?
フフフ……。冗談が過ぎるな。それにも 認識に誤りがある……。
逃がさないんじゃあないさ……。君は このまま 逃げられないんだよ。
とどのつまり……。君達 2人は この仮想未来から帰れないんだ !!
私が、君達を ここで葬るのだからね。 」
…………。
愚者と太陽の戦いは、ますます激しさを増していく。
杖で戦う愚者と 銃で戦う太陽は、どちらも譲らずに 勢いを衰えさせない。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
引き延ばされた時間の中で、苛烈な戦いが激化する頃……。
エリアイズの近辺を 飛び回る 2色の聖杯は依然として、標的の死角から光弾をバラまいている。
光弾の雨が降り注ぐ中で、節制と塔もまた 肉薄した戦いを行っていたのだ。
…………。
灰翼の天使が 滑空して……。塔のアルバチャスに打撃を叩き込む。
…………。
「 ……なあ、お前 俺様が殴り合いしにきてラッキー !……とか思ってるだろ ?
けど残念……。単純な力 比べじゃ……。
俺様を 超えられる奴は…… !!
そんなに いねぇのよ !! 」
…………。
エリアイズは 上空から強襲をかけた 直後に……。翼を器用にはためかせて 低空飛行からの格闘戦を仕掛けている。
脇を閉じては 俊敏な動きで、軽快な調子の殴打を何発も繰り出しているのだ。
…………。
殴打と言葉の調子を合わせて、まだまだ 余裕のある立ち回りを見せる。
…………。
塔のアルバチャスは、補助アームで反撃するが……。
灰翼の天使は 足さばきも素早く、適度に地上を蹴っては 間合いの調整を 行っており、塔からの有効打には繋がせない。
天瀬十一の攻撃は避けられ、エリアイズの殴打は避けられない状況が続いた。
…………。
「 お前のそれ……。贋作のマルクトで 塔の力を再現してるんだってなぁ ?
確かに雷の力は 大したもんだが……。
お前の動きは遅すぎる……。貧乏くじ だろ てめぇは !! 」
…………。
節制からの鋭い殴打が塔の下腹部を突いた。
…………。
雷を周囲に発生させて 反撃に移るが、灰翼の天使は 素早く遠のいて行く。
それに比例するように聖杯からの光弾が 激しく降り注いだ。
…………。
次世代型のアルバチャスは……。code-16にしても -code-19-にしても 等しく頑強で耐久性が高い。
とは言え……。エヌ・ゼルプトの攻撃力は それぞれが エイオスの中でも別格。
…………。
耐久力に頼り過ぎた、勝ち筋など考えるものではないのだ。
…………。
塔は 寡黙に戦い続ける。
有馬要人から頼まれた狙いを……。灰翼の天使との戦いを完遂する為に……。
…………。
「 ……だんまりかぁ ?……もう くっちゃべってる余裕もねぇのか ?
もう直ぐ 終了か ?
……まあ どっちにしろ、そろそろ時間切れも見えてくる。
今回の試練は 英雄に恵まれなかったな……。人間。 」
…………。
灰翼の天使が 何度目かの強襲を仕掛ける……。
2色の聖杯からの光弾が 少しだけ止む合間……。
…………。
大翼で加速し……。速度を重さに変えた 深く伸びのある威力の 強打が撃ち出された。
エリアイズの拳が砲弾のような速度と重さで バベルの顔面に ぶつかる。
…………。
寸前で……。天瀬十一が 反撃を狙った。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
エリアイズは……。確かに破格の強さを持っているが……。
その強さへの 絶対的な自身が 一定のリズムとして 焼き付いているのだ。
…………。
天瀬十一は、灰翼の天使の拳がぶつかる寸前に……。護符の恩恵と滑走機能を動作せて踏みとどまった。
…………。
灰翼の天使の鉄拳に 頭突きで かち合い……。自身の身体を前方に押し込む。
鋭い攻撃への自信に比例して……。
エリアイズが さらけ出すノーガードの 伸びきった身体を 狙うのは 今なのだ。
…………。
節制のエヌ・ゼルプトの胴体を……。
バベルの 巨大な 補助アームの両手で、しっかりと鹵獲(ろかく)する。
…………。
「 ……捕まえた。このまま 消滅させる !! 」
「 ああん ?……俺様には まだ攻撃の手は残ってんだぜ ?
てめぇら有機物には 効果覿面(こうかてきめん)……。聖杯からの一撃がよぉ。
食らいやがれ……。アイテール !! 」
…………。
塔のアルバチャスが、強烈な雷撃を発生させて、鹵獲したエリアイズに電荷を注ぎ込む。
…………。
バベルの後方からは、エリアイズの声に呼応して螺旋の弾丸が迫っていた。
螺旋の弾丸は 何発も放たれて、全てが 塔のアルバチャスに 命中する。
…………。
「 ヘへッ。少しはやるじゃねぇか。貧乏くじ……。
だが俺様の勝ちだな……。10発くらいか……。アイテールで ここまで手こずったのは快挙ってもんだ。
最後は 追悼を込めてぶん殴ってやるよ。1匹 ここで脱落だ。 」
…………。
螺旋の弾丸と 出力を高めた捨て身の電撃によってなのか……。
塔のアルバチャスの 補助アームは、握力を弱めていたらしい。
巨大な掌から 灰翼の天使が脱出する。
…………。
……。
流石のエリアイズも 全身の至る所が電熱で焼け焦げており、灰色の大翼にも欠損が見られる。
未だに身体の中に電荷が残留しているのか 動きも鈍い。
…………。
節制のエヌ・ゼルプトは 空高く飛び上がり、塔のアルバチャスの脳天を目掛けて滑空した。
高所から狙いを定めた、隕石のように威圧的な 拳が、塔へと近づいていく……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
愚者と 太陽のアルバチャスは 引き延ばされた時間の中で拳と拳を……。
蹴りには蹴りを……。武器による打撃には 同じように打撃をぶつけて、苛烈を極めていた。
…………。
相も変わらず……。杖で戦う愚者と 銃で戦う太陽は、どちらも譲らずに 勢いを衰えさせない。
…………。
そんな激しい戦いの後方では……。
節制と塔が戦っており、隕石のような威圧感を放つエリアイズが バベルに着弾していた。
…………。
節制が 塔に渾身の一撃を叩き込んでから、引き延ばされた時間軸では 既に数十分の時間が経過しているのだ。
塔のアルバチャス code-16-は、エリアイズに押し込まれて 後方へと押され続けている。
…………。
「 見たまえ 有馬 君。……君の算段は 今 潰えるぞ。
あの七光りは本当に だらしがない……。
勝手に劣等感を抱いて、勝手に潰されて消えていくのさ。
君も 徒労だったな……。同情くらいは してやってもいいが……。
どうだい ?
して欲しいか ?……私は どちらでも良いのだが。 」
「 結構です。……貴方が 今 話した事は 全て嘘に変える。 」
…………。
神地聖正は上機嫌なようだった。
…………。
心の内で 先んじて 喚起する。
…………。
やはり、愚者の目論見など成就しないのだ。
塔はもうじき 倒れるだろう。
引き延ばされた時間軸では まだまだ時間を要するが、実際の時間軸では既に絶命している筈だ。
…………。
やはり -TAS-で操った際に……。捨て身の攻撃を主体にさせて正解だった。
-TAS- プリーセプトゥで 行動を完全に掌握できるとはいえ、アポロンの試作たる耐久力は面倒だ。
…………。
幸運な事に、エリアイズも適度に消耗している。
格段に動きの鈍った状態では、太陽の敵ではない。そして もちろん……。
目の前の愚者もまた……。等しく虫の息……。こちらは まだまだ余力が有る。本当に笑いが止まらない。
…………。
「 嘘に…… ?変えるだと ?
どうやって ?土台無理な話だ……。フフフフフフ……。
本当に笑わせてくれる。君は確かに 愚者としての素養は随一だよ。
口数すら減らした君が何を言う ?
誰が どうやって 現状の事実を嘘に変えると言うんだ。
君も 七光りも……。世界の不純物は 私が燃やし尽くしてやろう !! 」
「 俺と 十一さん が 今の状況をひっくり返す…… !!絶対にだ !!
まだだ……。まだ、終わっちゃいないぞ神地 !!
さっきは、DEFの出来る事は予測済みだと……。そう話していたけど……。
なら……。今から 俺と我慢 比べだ……。
どっちが先に燃え尽きるかの…… !! 」
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE SUN !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! サン !! ) 』
…………。
青年は 意を決して DEF 3つ目の機能に手を出した……。
愚者のアルバチャス code-0-を取り巻くオーラが 蜃気楼を作り出して……。赤色に変わる。
…………。
……。
まるで……。全身の血液が沸騰するような激しい力の高まりが……。青年を包んでいく。
呼吸をしているのか どうかも今の青年には わからない。
…………。
……。
異様な気配に 神地聖正は気圧された。
本能的な寒気が 恐怖を知らせる。眼を離していなかった筈だった……。
…………。
太陽の英雄を……。真なるアルバチャスを……。赤いオーラの愚者が B.A.Wandで殴りつけているのだ。
…………。
その動きは 引き延ばされた時間においても迅速で……。
一振りで 何十発もの攻撃に変換されている。
…………。
神地聖正は どうにか 分析材料を探して思案を続けた。
…………。
……。
DEFは……。全ての能力を同時に動作させられるのか ?……それこそが 慎一の切り札。
…………。
……。
青年の意識は 普段よりも朧気だった……。
熱い……。
ハッキリしているのは目の前の相手を戦闘不能にする事。
…………。
身体が熱い……。B.A.Wandで殴り……。
喉が熱い……。
何度も蹴り飛ばし……。眼球が熱い……。
…………。
B.A.Wandで 無数の火球を至近距離からぶつける……。ハッキリしているのは 目の前の相手を戦闘不能にする事。
脳髄が熱い……。
…………。
相手を戦闘不能に…… ?して……。良いのか…… ?
…………。
このま……。ま……。 ?燃え尽きても……。良い……。のか…… ?
…………。
……。
怒りで焼損していく意識の中で……。
何日か前に言葉を交わした人物の声が蘇った……。
…………。
この街に来て 最初に戦うきっかけとも つながった 人物の 1人……。
…………。
「 要人さん。今更だけど、あの日……。
助けてくれて、ありがとう。
きっと、今までに 要人さん が 助けた人は 沢山いるんだと思う。
だから……。
思いっきり戦って、思いっきり お腹空かせて 帰ってきて ? 」
…………。
帰るんだ。……そうだ 帰るんだ。……このまま燃え尽きちゃ ダメだ。
…………。
青年は憤怒の意識に飲み込まれていた自我を取り戻す。
…………。
太陽のアルバチャスに 何度目かの、一方的な蹴りの猛襲を入れた直後だった。
DEFを解除すると 度重なる身体への負担からか片膝をついてしまう。
…………。
……。
赤いオーラの愚者に 強烈な連脚の嵐を叩き込まれた事が原因なのか……。
太陽のアルバチャスも……。青年から少し離れて位置で少し呼吸を荒くしている。
どうやら こちらも 引き延ばされた時間軸での行動を解除していたようだった。
…………。
青年 有馬要人は、激しく消耗しており アルバチャスを解除しないように踏み止まるだけで 精一杯の様子だ。
…………。
太陽の英雄が……。愚者に B.A.Cupの銃口を向ける。
どうやら B.A.Cupには、護符の恩恵で高密度の熱エネルギーが貯えられているらしい。
…………。
この先程までに……。一方的に 愚者のアルバチャスからの猛攻を受けながら 反撃の機会を探っていたのだろう。
…………。
「 有馬 君。……流石の私も 驚いたよ。
アレが……。慎一の奥の手なのだな。
だが 君は使いこなせていなかった……。十一 君の所に 送ってやろう。ゲームセットだ。 」
…………。
太陽が ゆっくりと引き金を握った……。
愚者の青年は 何かを悟り小さく笑う……。
…………。
「 …………わかりました。 」
…………。
B.A.Cupから 発射された火球は、確かに着弾し爆風を起こした。
…………。
通常の時間軸 換算での 十数秒前……。
愚者と太陽が、引き延ばされた スローモーションの世界での行動を解除するよりも ほんの少し前。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
節制のエヌ・ゼルプトは 空高く飛び上がり、塔のアルバチャスの脳天を目掛けて滑空した。
高所から狙いを定めた、隕石のように威圧的な 拳が、塔へと近づいていく……。
エリアイズの拳は、塔のアルバチャスを捉えて 凶悪な一撃を押し込んだ。
…………。
座標固定されている塔への強打は、押し込むほどに 衝撃を強めていく。
先程の螺旋弾丸によって、固定された座標へと引き戻される力が……。塔のアルバチャスに働いて いるのである。
…………。
節制の拳鉄が めり込んでいく 一方で……。
塔のアルバチャスは 引きずられるように強引に後退させられ続けた。
…………。
座標に戻される力と……。強引に拳を押し込む エリアイズの攻撃によって……。塔のアルバチャスの腹部は強力な圧を受ける。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
「 俺も……。まだ 戦えるぞ……。エリアイズ !!
君の固有武器による能力は、木田 一班長や……。恵花 四班長から聞いている。
特定の座標への固定といったところか……。それも擬似的なものだろう。
完全な固定なら 俺は今頃 地球の外に放り出されている……。
アイテールは たしか……。天界を満たし回転し続ける物質を意味するんだったか……。
有馬 君じゃないが、俺も ここからひっくり返してやるさ。
座標へ引き戻す力を……。こちらも利用させてもらう !! 」
…………。
エリアイズの拳が 更に深く差し込まれるが、補助アームの両手で辛うじて受け止めており……。どうにか持ちこたえている。
完全には……。灰翼の天使の拳が 攻撃として成立していないのだ。
…………。
バベルの外装は 至る所が欠損し、火花を散らしているが 天瀬十一の精神は 揺るがない。
塔のように空を目指して 真っ直ぐ突き抜けているのである。
…………。
天瀬十一は……。腰を落として、小さい角度で前傾姿勢を 取り、足元を安定させた。
…………。
……。
侍が 居合抜きを狙うような 持ち方で……。魔道杖型武装を構えたのだ。
魔道杖型武装の B.A.Wandの、エネルギー放射が可能なメイス側の先端を 後方へと向ける。
…………。
B.A.Wandによる 大量のエネルギー放射にタイミングを合わせて……。
足元では ホバーによる滑走を使い 前へと進もうと抗う。
…………。
ホバー滑走と B.A.Wand、そしてエリアイズの固有能力による 引力が相乗効果を生み出した。
…………。
塔のアルバチャスは 最も機動力が劣り 唯一の弱点は そこにあったのだが……。
その最も鈍足な アルバチャスは 今……。驚異的な速度で疾走し 灰翼の天使を 押し戻していく。
…………。
「 ……こんの死にぞこないめ !!ハハハ 面白れぇな。
のろまの貧乏くじ が !!……この程度で何が出来るってんだ !! 」
「 なんとでも言え。俺は 塔のアルバチャス !!
塔は 凶兆を意味する破滅の切り札だ。……貧乏くじ なんて幾らでも引いてやるさ。
大切な ものの為なら 俺が今を壊す !! 」
…………。
塔のアルバチャスが 節制のエヌ・ゼルプトを押し戻した。
推進力を乗せて……。極まった一撃を叩き込んだのだ。
…………。
居合抜きの構えから 対角線の上方に向けて、魔道杖型武装による 切り上げを繰り出す。
B.A.Wandで渾身の攻撃を行い……。
灰翼の天使の身体を、無防備な姿勢で浮き上がらせかせて、続け様に 補助アームによる豪快な拳を打ち込んだ。
…………。
天瀬十一は 急いで音声通信を送った。
送り先は 愚者のアルバチャス 有馬要人である。
…………。
引き延ばされた時間から帰還した 太陽が……。同じ状態の愚者に向けて B.A.Cupの銃口を向けていた。
…………。
「 有馬 君。……ゲームセットだ。 」
…………。
太陽が ゆっくりと引き金を握った……。
急激に押し戻され 強打で吹き飛ばされた 灰翼の天使が、太陽のアルバチャスの方角まで迫っていく。
…………。
愚者の青年は 何かを悟り小さく笑う……。
有馬要人は、天瀬十一からの音声通信を耳にしたのである。
その内容は とてもシンプルだった。
…………。
「 その場で留まれば 状況が整う。最後は 君に任せた……。 」
「 ………わかりました。 」
…………。
太陽と愚者の間に節制が吹き飛ばされて来る。
B.A.Cupから 発射された火球は、確かに着弾し爆風を起こした。
灰翼の天使は未だに消滅には至らない。
…………。
「 ハハハ……。
これは 中々 クるな……。バカみてぇな こんな 状況……。狙ってやがったのか ?
てめぇら……。違うな……。狙ったのは……。
クソガキ……。てめぇか ? 」
…………。
節制のエヌ・ゼルプトは、太陽からの火球を受けたのを機に その場に踏み止まった。
…………。
激しく消耗し、全身は大きく損壊している箇所も有る。
バベルの雷の影響なのか 今も少量の電荷が残っているようで 時折 帯電している音が鳴っているようだ。
…………。
今しがた受けた、太陽による炎熱の影響も出ており、背面を中心に焼損や焦げが見える。
…………。
至る所に みられる亀裂や裂肛からは、アルカナの光の粒子が漏れだしていた。
青年は この状態には見覚えがあった……。
かつての マーへレスが 完全に消滅する直前の兆候だ。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
「 エリアイズ……。
お前 本当に強いな……。正直 こっちもギリギリだった。それに 十一さん との共闘は望んでいたけど……。
完全に 今の状況を狙えていた 訳でもない。
俺達は ここから出ていく……。じゃあな……。 」
…………。
青年は不思議な感覚を覚える。
敵でありながらも……。
殺意の塊のような存在で有りながらも、大きな恩を受けた相手だったように感じる。
……かと言って未練はないが、敬意の念を込めて片足に意識を集中させた。
…………。
ストゥピッドの蹴りが、エリアイズに炸裂する。
…………。
滑走機能によって、急速に距離を縮めてから浴びせる スラローム移動での 中段蹴りだ。
この蹴りは……。星空のような無数の残像を発生させて、灰翼の天使に浴びせられた。
…………。
正面から 愚者の蹴りを受けた節制は、全身が霧散し始める直前に 愚者に話しかける。
満身創痍ながらも両足で立ち……。言葉を残した。
…………。
「 ……ハハッ。そうかよ。
やるもんだなぁ……。まさか最後は 英雄でもない このガキに……。
鍵を持ってるだけは アるぜ……。俺も……。ここデ 終わりか……。
……おい クソガキ。……せいぜい 足掻け。 」
…………。
エリアイズは 最後の言葉を言い終えてから 爆散した。
爆散した 光の膨張は、周囲を飲み込んでいき 3人のアルバチャスも これに飲み込まれていった。
………………。
…………。
……。
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