- 18話 -
希望は…
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目次
~幻想~
この日……。彼誰五班(カワタレゴハン)を 伴って行われた 2つの任務は……。
エイオスの 戦闘処理任務と……。丹内空護、有馬要人、天瀬慎一の捜索である。
…………。
この 大きく分けて 2つの任務は……。3体の エヌ・ゼルプトの出現以降 波乱を迎えた。
…………。
新たに 新設された 実動班の被害は著しく、各地での戦闘も激化する中で……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)と 有馬要人(アリマ カナト)の参戦が 戦いの方向を少しずつ変遷させていく。
…………。
太陽のアルバチャスは……。突如として現れた 愚者からの殴打を 片方の掌で受け止めた。
掌からは 確かな 衝撃の残滓が感じ取れる。
…………。
未知の怪人の反応は 辺りには出ていないが……。
つい先ほどまで この場にはいなかった者が現れたのだと、情報武装から うかがい知れる。
…………。
「 これは……。
エヌ・ゼルプトの反応では無いな。もしや アルバチャス……。なるほど 有馬 君か。 」
…………。
未知の動作音で この場に出現した相手に対して……。神地聖正は 即座に予測を付けた。
…………。
到着と同時に 3体の怪人に 打撃を与えたアルバチャス……。
ストゥピッドが 拳を固く握って構える。
…………。
黄色と水色 2種類の輝きを身に纏い、新たな戦い方を身に着けたであろう青年が 口を開いた。
…………。
「 神地さん……。何となく、ついでに パンチしちゃいましたけど……。
俺が 貴方に加勢します。あのエイオス……。手強いんでしょ ?
そのかわり、俺にも 協力してもらいます……。
この地の不毛な戦いを終わらせたい。知ってる事、全部 話してください。 」
…………。
愚者が太陽を睨み、肩を並べる。
今さっき 現れたのは……。愚者のアルバチャス code-0- 有馬要人だったのだ。
…………。
神地聖正からすれば……。計画の外から 場当たり的に あてがった実験体 と言っても差し支えない 愚者である。
…………。
「 何を言うのかと思えば……。有馬 君が、私に加勢を…… ?
流石、愚者だ。息をするように 冗談を言える訳だな。
その力は、慎一の切り札か。
良いだろう……。今だけは 共に戦ってやろう。 」
「 もう少しで 空護さん も 到着します。
さっきのパンチと、この言葉の意味が わかりますよね ?
それを踏まえて共闘しましょう。
正直、貴方には……。言いたい事も聞きたい事も山積みだ。
けど今は……。このエヌ・ゼルプト達を退ける。
復興が進んでいる この地域を、これ以上 戦場にしていたくはない。
こんな、殺意の塊みたいな奴らを……。野放しになんて してられるか。 」
…………。
愚者のアルバチャスが 戦いの場で 動き出す。
少しずつ 変わっていく状況下で……。神地聖正は 静かに状況に目をやった。
…………。
……。
何を考えている 有馬要人……。
半年以上前までは 只の、放浪者だった何も持たない人間が……。
偶然だったとしても、あの状況から 天瀬と接触したのか ?
……出来過ぎている。それに、丹内空護が遅れて合流を…… ?
いや……。ここは少し……。
…………。
「 有馬 君。あの エヌ・ゼルプトには気をつけろ。
私の見立てでは……。例え マーへレスを倒した君でも 手を焼くだろう。
灰色の翼を 持った 天使型は なかなかに厄介だぞ ?
黒翼とは 異なる強さを持っている。丹内 君にも 連絡が着くなら共有すべきだろうな……。 」
「 神地さん。情報ありがとうございます。
早速 共有しておきますね。
空護さん は 強い。きっと 俺 以上に活躍してくれますよ。
けど 俺も……。只 待ってるつもりは 無いんですけどね !! 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Cup !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・カップ !! ) 』
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
愚者のアルバチャスは、慣れた手つきで 馴染みの武装を起動して、滑走機能も同時に使用する。
ホバー移動で疾走し、打撃と射撃 両方に対応した組み合わせの武装で果敢に戦った。
…………。
果敢に奮闘する 愚者の様子からなのか……。神地聖正は 静かに笑う。
…………。
「 ……そうか。フフ……。それは 確かに心強いな。
私も早く、丹内 君には 会いたいものだ。 」
…………。
やはりな……。杞憂だったか……。
…………。
……。
誰にも悟られずに、太陽の英雄は 含み笑いを隠した……。
そして、自身の含んだ部分を かき消すようにして、果敢に戦う愚者と足並みを揃える。
…………。
2人のアルバチャスと 3体のエヌ・ゼルプトは、互いに入り混じった戦いを繰り広げ始めた。
…………。
「 なるほどな……。てめぇが、マーへレスを ?
ついでに、あの堅物とも戦ったのか。……ならよぉ。
多少は 見込みが有るんだろうなぁ !?……何度か目こぼし されてるんだろうが !!
セドネッツァ !!ウロド !!
この派手な色の小僧は 俺様が相手をする。英雄 様と遊んでやれ !! 」
…………。
灰翼の天使 エリアイズは、この場で 最も後から参戦した人間の戦士に興味を向けた。
…………。
腹の底では 息の合わない 2人のアルバチャス。
何かを狙い、連携を強める 3体のエヌ・ゼルプト。……両者の 激しい戦いが 大口を開ける。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
これは……。
…………。
愚者のアルバチャス code-0- ストゥピッドとして 戦う青年……。
有馬要人が、激戦に 乱入するより僅かばかり前の事だった。
…………。
L 地区の何処かに存在する隠された場所。カムナ・ベースでは……。
メインホールで、2人の人物が 次回の補給物資の準備を進めていた。
…………。
準備を行う人物の内、 1人は 壮年の男性で、もう片方は その男と親子程度には年齢が離れた 若い女性である。
…………。
「 これで 後少しか……。助かるよ 真尋ちゃん。 」
…………。
いずれにしても、どちらも青年 有馬要人と見知った人物だった。
…………。
「 気にしないでください。……出来る事をしてるだけですし。
昨日は、要人さん に 届けてきたんですよね ?
どんな感じでした ? 」
…………。
有馬要人が、カムナベースを出てから 何日かは経過しており……。
予定されていた 物資の補給も 既に幾度か行われていたのだ。
…………。
無用な事故を避ける為……。基本的には、場所も時間も一定には定めず……。
規則性を排除した形式で 補給は行われ、カムナ・ベースの場所を後追いされないように工夫が成されている。
…………。
直近の補給は、昨日の某時刻に行われていた事から、女性は青年の様子が気に成っていたのだろう。
作業の合間に 起き上がった ささやかな疑問に対して……。壮年の男は応答した。
…………。
「 まあ、こういうのも変だけどよ……。アイツは……。
要人は 元気そうだったぜ ?
伊達にアレでも 各地を 歩いて回るだけは有るんだろうな。
それに どうやら……。もう、いろんな所の捜索も済ませてるらしいし……。
もしかしたら 今頃、班長さん も 一緒なのかもな。 」
…………。
壮年の男が 明るい口ぶりで話した。備品の確認を行う動作でさえも 軽快だ。
…………。
女性……。天瀬真尋は……。作業の傍らで これまでを思い出し……。思案していた。
…………。
何日か前の、ある日の明朝……。
たった 1人で歩き出した 青年が成そうとしている事は、決して簡単では無い。
…………。
もしかしたら、本人すらも手探り状態で、明確な終着点も見えていないのかもしれない。
だからこそ、直接 うかがい知れない現状が もどかしいのだろうか。
…………。
その一方で……。壮年の男が持っていた ある資料の事についても 気に成った……。
…………。
……。
光の試練……。アルベギ族……。カシュマトアトル……。
…………。
資料の内容が 見間違いじゃなければ……。
恐らく、父 天瀬慎一(アマセ シンイチ)が 話していた内容と 何らかの繋がりがある筈だ。
…………。
それは、22災害とも根強い関連性を持つ 地下遺跡に残された名前……。
光の試練と、他の 2つが意味するものとは……。
巻健司(マキ ケンジ)は どういった形で結びついているのだろうか。
…………。
考え込み過ぎたのか……。乾パンの入った 缶を持つ手が止まっていたようだった。
これに 何かを察知したらしい 壮年の男が……。声をかける。
…………。
「 真尋ちゃん……。気に成るのか ?
アイツは……。要人は 何かやってくれる 大丈夫さ……。有馬要人だから、きっと何か しでかす。
もちろん 良い意味でだ。
俺達は その証人みたいなもんだしな ! 」
…………。
巻健司の明るい表情に嘘は無さそうだった……。
女性は、あの資料を 見て以来、心に残る謎を直接 聞き出さずに仕舞い込んだのだろう。
…………。
「 うん 大丈夫。私も、要人さん の 事は信じてるから。
きっと、皆そうなんだよね。自分の信じてる ものの為に……。
命がけで頑張って……。それで上手くいかない人もいるけど、他の誰かがが 必ず次に繋いでいく。
私……。偶に思うんだ。
巻さん や 要人さん が いなかったら、今こうして、呼吸する事も 出来なかったんだなって。
半年前の あの日……。2人が いたから助かって……。
この前だって 特務棟から避難できたのは……。
偶然でも 巻さん と キッチンカーで買い出しに行くって 決めてた日だったから。
それだけじゃない……。きっと、いろんな人に助けられて こうしてられる。 」
「 真尋ちゃん……。 」
「 ……だからね ?
ええっと……。うまく言えてないんだけど。
皆の事、私は信じてる。これから先も ずっと……。 」
…………。
女性は、自分自身に誓いを立てる。
真っ直ぐな眼差しは、壮年の男性の目にも しっかりと映り……。生半可な気持ちで結んだ言葉ではないのだと知らせた。
…………。
……。
私は……。身近な人達の事……信じなくちゃ !
要人さん や お父さん だけじゃない……。巻さん だってそう……。お兄ちゃん だって きっと…… !
…………。
……。
………………。
…………。
……。
戦地では……。刻一刻と その激しさを増していく。
愚者と 太陽が共闘し……。3体の エヌ・ゼルプトを相手に 戦いは苛烈を極める。
…………。
愚者のアルバチャスとして戦う青年は、灰翼の天使 エリアイズに幾度となく 打撃と銃射撃を叩き込んだ。
エリアイズもまた、予想以上の立ち回りで挑む 青年 有馬要人に、嬉々として極上の拳で持て成す。
…………。
灰翼の天使の、周囲を回遊する 2色の聖杯からは、これまでに何度か光弾が放たれていた。
…………。
その都度……。
青年 有馬要人は、巧みな動きで立ち回り 致命傷を避け続けたのである。
身体と頭が 過去の戦いの記憶と経験を伝播させているのだろう。
…………。
遥か上空から 狙撃する騎士や、黒翼の天使が操る無数の羽根による死角からの攻撃……。
…………。
人間離れした怪力で 大剣を振り回し暴れる皇帝……。
…………。
優れた体躯を持つ底知れない真紅の戦士……。
…………。
隙ありだ !!有馬 !!
…………。
そして、研鑽を積む手助けをしてくれた 恩師との日々……。
青年が考えるまでも無く 数多の経験が身体を動かし続ける。
…………。
最小の動きで いなし……。反撃を繰り出す。一挙手一投足を 最良の手段で出力して 戦いを組み立てる……。
そんな鋭く……。侮れない 青年の動きに……。灰翼の天使は歓喜しているようだった。
…………。
「 良いじゃねぇか !!クソガキ !!
最高だぜ……。そこまで マルクトを使えるとはな !!
俺としては 名残 惜しいが……。てめぇも 他も節制しなくちゃならねぇ。
そろそろ仕留めねぇと……。楽しすぎて 終われなくなっちまう。 」
…………。
エリアイズは、両手で ストゥピッドの胴体を しっかりと掴む。
何かを狙い、赤と青の聖杯が焦点を合わせた。
…………。
「 俺も……。お前との勝負は、そろそろ終わらせたかったんだ。
そのまま、俺を離すなよ ? 」
…………。
青年 有馬要人は……。微細な同様も見せない。
…………。
B.A.Cupの 銃口は、エリアイズの顎の裏側に力強くあてがい……。
B.A.Wandは、先端を 怪人の片腕の付け根に添える。
…………。
青年は両手に持った武装で、至近距離からの攻撃を注ぎ込んだ。
一切の迷いも無く、エネルギー弾の連射と、エネルギー放射を同時に行う。
…………。
灰翼の天使は、おびただしい量の 至近距離射撃によって、頭部と肩を断続的に揺らす。
B.A.Wandによる エネルギー放射の影響からなのか、少しずつ 青年の胴を掴む 片腕の握力が弱まった。
…………。
エリアイズの操る 聖杯からは光弾が発射され、螺旋の弾丸に変化すると弾丸は 愚者を目掛けて跳んでいく。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
青年は、頃合いを見て 両手の武装を手放して解除し アルカナ粒子へと還元した。
エリアイズの 弱まった片方の手を 殴打で払いのけて、自身の身体の向きを反転させるようにして 距離を作る。
…………。
「 ああ……効くぜ クソガキ。
けどな……。やり逃げなんてさせるかよ !! 」
…………。
灰翼の天使は、この時も放していない片方の手の握力を強めた。
それと同時に、払いのけられた方の腕を即座に戻そうと 魔手を伸ばす。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
有馬要人は、刀剣型武装 B.A.Swordを起動し、刃に護符の恩恵を上乗せした。
少しだけ開いた、エリアイズとの距離は 逃げる為ではなく、新たに武装を展開し充分な効力を発揮する為のようだった。
…………。
「 …………俺が 逃げるかよ !! 」
「 ハハ。……クソガキが !! 」
…………。
少しだけ開いた、エリアイズとの距離を ホバー滑走で戻し、助走の重さを剣に乗せる。
…………。
愚者のアルバチャスは、光の刃を発する B.A.Swordで 眼前のエヌ・ゼルプトに、一閃の斬撃を叩き込んだ。
青年は、振り下ろした剣を返して、自身の背後に迫る 螺旋の弾丸に、B.A.Swordを 投擲する。
…………。
一連の攻防で、灰翼の天使は 後方へよろめき……。
螺旋の弾丸が爆散すると、この機を逃さずに 青年は 2色の聖杯の射線上から 今度こそ離脱した。
…………。
……。
有馬要人の渾身の斬撃の威力は、天使型の怪人に確かに効果を示していた……。
この影響によるものだろうか……。
先程 エリアイズと交戦していた 彼誰五班の第一班が受けた、螺旋の弾丸による捕縛攻撃の効果が遠くで解除される。
…………。
……。
灰翼の天使が片手で自身の顔に触れる。
確かに今 受けた裂傷が刻み込まれていた。
…………。
「 良いぜ……。天晴だ。けど これだけの奴が 試練の英雄じゃねぇとはな……。
ウロド !!セドネッツァ !!いつまで遊んでやがる !?
こいつら 丸ごと……篩(ふるい)にかけるぞ。
招待してやるよ……。 」
…………。
灰翼の天使が 号令を掛けると、残りの 2体のエヌ・ゼルプトが呼応して動き出す。
…………。
運命の輪 セドネッツァと……。 吊るし人 ウロドが 号令に呼応したのか行動を変え始めた。
力を高めて……。何かを狙っているようだ。
…………。
2体のエヌ・ゼルプトと戦っていた 神地聖正は、これらの動きを 一切の妨害もしない。
…………。
「 神地さん…… ?まさか…… !! 」
「 すまない 有馬 君。共闘はしたが……。不意に取り逃がしてしまった。 」
…………。
神地聖正が、悪びれることなく笑みを含む。
…………。
3体の エヌ・ゼルプトの能力によるものなのか……。アルカナの光が 一点に集約し、光の球体が生成され始めていた。
光の球体は、力場を作り出しているようで、辺りの空気を振動させる。
…………。
流石の青年も、適切な対処を 思い当てられずに判断を遅れさせた。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
力場を生み出す光の球に、極大の雷が落下する。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
少しの間を置いた落雷の轟音と 殆ど同じ頃合いで、雷の弾丸が飛来した。
雷の弾丸は、3体のエヌ・ゼルプトを捉える。
…………。
これによって 制御が崩れたのか、力場を発生させる光の球は 跡形も無く消滅した。
…………。
「 すみません。合流が遅れました。今の空間干渉は危険です。
神地さん。俺も戦線に加わります。
彼誰五班 第二班と第三班……。第一班と第四班も 被害の拡大は有りません。 」
…………。
エヌ・ゼルプトの行動を阻んだのは 天瀬十一が扱う、バベルの雷だった。
…………。
「 天瀬 副指揮長か……。彼誰五班の状況確認と各員の掌握 ご苦労だった。
実は、有馬 君と共闘していてね……。
お陰で、ここまで押し戻す事が出来た。君が加われば 心強い限りだよ。 」
…………。
不敵な英雄は、誠実な物言いで 天瀬十一に呼びかける。
…………。
愚者と太陽に次いで 塔のアルバチャスまでもが 戦線に加わった。
これには、エリアイズも意外な反応をして見せる。
…………。
即座に攻勢に移ろうとした セドネッツァとウロドを、片手の指示で静止すると 何かに合点が言ったように語り始めた。
…………。
「 成程な……。今回の英雄 様は、そういう算段か。
危うく、俺様が担がれるとこだった。
お前らは……。その力がマルクトによる恩恵だってのは知ってんだろ ?
良いぜ。俺が ここらで一発 フェアな状態にしてやる。
なんせ俺様は、均衡と節制を象徴する平等主義者だ。
良いか ?まず、光の試練は……。 」
…………。
灰翼の天使が、上機嫌に話し始める最中……。
上空から黒い羽根が降り注ぎ、別の天使型が舞い下りる。
黒い翼を持つ エヌ・ゼルプト……。ドゥークラだ。
…………。
ドゥークラは……。何を意図して現れたのか、灰翼の天使の前に舞い降りた。
…………。
「 汝……。天使でありながら均衡を崩すのか ?
試練の対局は既に変わらぬ。 」
「 出たな、ジジイ…… !!俺様は 均衡を取り戻させるだけだ。
どれだけ歪んだ試練か、てめぇも知ってるんだろうがよ !!
本来なら……。こうもマルクトを持った戦士がいる訳がねぇ !! 」
「 どんな歪みも……。英雄と世界に適合して産まれる節理。
なれば この度の試練に、致命的な不和は存在しない。 」
…………。
エリアイズとドゥークラは、互いの主張を曲げない。
…………。
「 ふざけてやがる……。解釈違いの範疇って言いてぇのか ?
そんな不平等 !!俺様は認められねぇんだよ !! 」
…………。
灰翼の天使が、黒翼の天使の懐に踏み込んで 強打で腹部を殴り上げる。
水面下に沈んだ、多くが 鎌首を もたげて浮上していく。
………………。
…………。
……。
~隠された悪報~
愚者と太陽に次いで 塔のアルバチャスまでもが 戦線に加わった。
これには、エリアイズも意外な反応をして見せる。
…………。
即座に攻勢に移ろうとした セドネッツァとウロドを、片手の指示で静止すると 何かに合点が言ったように語り始めた。
…………。
「 成程な……。今回の英雄 様は、そういう算段か。
危うく、俺様が担がれるとこだった。
お前らは……。その力がマルクトによる恩恵だってのは知ってんだろ ?
良いぜ。俺が ここらで一発 フェアな状態にしてやる。
なんせ俺様は、均衡と節制を象徴する平等主義者だ。
良いか ?まず、光の試練は……。 」
…………。
灰翼の天使が、上機嫌に話し始める最中……。
上空から黒い羽根が降り注ぎ、別の天使型が舞い下りる。
黒い翼を持つ エヌ・ゼルプト……。ドゥークラだ。
…………。
ドゥークラは……。何を意図して現れたのか、灰翼の天使の前に舞い降りた。
…………。
「 汝……。天使でありながら均衡を崩すのか ?
試練の対局は既に変わらぬ。 」
「 出たな、ジジイ…… !!俺様は 均衡を取り戻させるだけだ。
どれだけ歪んだ試練か、てめぇも知ってるんだろうがよ !!
本来なら……。こうもマルクトを持った戦士がいる訳がねぇ !! 」
「 どんな歪みも……。英雄と世界に適合して産まれる節理。
なれば この度の試練に、致命的な不和は存在しない。 」
…………。
エリアイズとドゥークラは、互いの主張を曲げない。
…………。
「 ふざけてやがる……。解釈違いの範疇って言いてぇのか ?
そんな不平等 !!俺様は認められねぇんだよ !! 」
…………。
灰翼の天使が、黒翼の天使の懐に踏み込んで 強打で腹部を殴り上げる。
…………。
黒翼の天使 ドゥークラは、腹部への打撃を受けて 後方へと小さく よろめいた。
エリアイズの激情は、これだけでは静まらない。
…………。
凄まじい 勢いで、殴打を繰り返していくと 力を貯めて更に強い一撃を、時間差で撃ち込んだ。
その一撃に 合わせるように、これまで収納していた翼を迅速に展開する。
…………。
6枚の翼で 力強く羽ばたき、怒りを天高く押し上げるかのように、拳を突き出した。
ドゥークラは、これによって乱雑に空中へと連れ去られてしまう。
…………。
黒翼の天使も 対抗しようと 翼を広げては、触れると爆発する無数の羽根を操った。
…………。
しかし、ドゥークラの 繰り出した 爆発する羽根は すべからく撃ち落される。
エリアイズが操る、赤と青の聖杯から放たれた光弾が 反撃の手段を潰していくのであった。
…………。
赤の聖杯も……。青の聖杯も……。それぞれが、散弾のように大量の光弾を吐き出している。
それでいて、機銃掃射のように 射撃間隔の短い速射が 黒い羽根を捉えたのだ。
…………。
流石の黒翼の怪人も……。同胞からの怒涛の猛襲には圧倒されたのだろうか……。
巻き返しに大きく遅れを取っているようにも見える。
…………。
ドゥークラは、エリアイズからの 苛烈な攻撃で 上空から落下し、尚も光弾の雨に晒された。
…………。
黒翼の天使は、赤い双眼を光らせて 大きな翼を広げる。
全身には仄暗い色の暗雲が漂っており、反撃に転じたのだろう。
中空から落下する 一定の途上で、しゃくりあげるような軌道で飛翔し直したのだ。
…………。
2つの聖杯からの光弾を、低空飛行で潜り抜けるように回避すると……。適度なところで 急激に高度を上げた。
中空で 停滞している 灰翼に目掛けて……。足元から懐に飛び込んでいく。
…………。
……。
これが誤算だった。
聖杯からの光弾を避けようと 地表に近づいた事で、ウロドの鞭に 片足を絡めとられていたのだ。
…………。
……。
灰翼の天使と 黒翼の天使の戦いは 立体的な軌道で迅速に繰り広げられるが……。
迅速に変わる戦況だからこそ 気がついた頃には、小さな失点が致命的な要因へと急成長する。
…………。
ドゥークラの拳は エリアイズに届かず……。地上に引きずり戻された。
…………。
空中から落下させられた 大天使に……。今度は大量の光の針が襲い掛かる。
光の針を避けようにも セドネッツァの能力で、その場で旋回させられて 平衡感覚を狂わせてしまう。
立ち上がっての移動も難しい。
…………。
……。
何秒もない……。一瞬での戦況の変化だった。
エリアイズからみても、これらは間違いなく誤算だったようだ。
…………。
灰翼の天使が ひといきに攻勢に出て……。流れをつかんだ。
…………。
偶発的に発生した僅かな隙……。
狩りを行う隼のように 上空から 急降下して、仰向けの ドゥークラの下腹部に膝蹴りを行った。
…………。
この時の灰翼の膝は、黒翼の下腹部に添えられたまま……。
片方の拳を、黒翼の天使の頭部の直ぐ隣に突いて 自身の主張を示す。
あらゆる おおよそを想定して、思案を重ねながら……。黒翼の怪人に話始めた。
…………。
「 悪いな……。ジジィ……。舎弟に手を出させちまった。
だがよ……。今回の試練は間違いなく狂ってる。本来なら俺が先で アンタが後だ。
順序が 滅茶苦茶なんだよ。なんでだ ?ログの奴か ?
……まだ トーラの奴も 見つからねぇんだろ ? 」
…………。
普段ならば、別段 指示が無ければ 勝手な援護などする筈もない。
日々 そう言いつけてあるのだ。
…………。
だが……。恐らく 今回のエリアイズの激高や 天使型の中でも同程度の強力な個体通しの衝突が……。
言いつけを無視させる 緊急性を感じさせたのだろう。
…………。
「 節制の 俺様が舗装した道で……。残った奴を 判定するのがアンタだろ。
ジジイは、少し寝てろよ。俺様が正道を作ってやる。
得体のしれない ログよりも まともにな……。 」
…………。
エリアイズは 全てを承知した上で、結末を勢いに任せているかのようだった。
灰翼の天使は、地面に突いている拳とは 逆の掌で、光の球体を作り出す。
…………。
光の球体を 成長させると、そのまま作動させて ドゥークラに あてがい 包んだ。
黒翼の天使を 包み込んだ光は 次第に散らばって消えていき、ドゥークラは跡形もなく姿を消す。
…………。
その光は どうやら……。
先程 天瀬十一が バベルの雷で 動作を阻害したモノと同質で、力場を発生させた結果らしい。
…………。
ドゥークラとエリアイズの交戦は、相当に激しく それでいて短い時間で決したのだ。
エヌ・ゼルプト通しの戦いは……。何よりも別格で……。激しいものだったのである。
…………。
青年は、異様な空気の中でも これを切り裂いて、灰翼の天使に問いを投げた。
…………。
「 アイツと お前は……。仲間じゃないのか ?
お前達は いったい……。 」
「 ああ ?俺様と ジジイが仲間か ?
ふん 良いだろう。教えてやるよ。そうだな……。何から話すか……。
いや……。その前に ひとまず は……。ちょっと待ってろ クソガキ。
おい !!おめぇら !!……もう 勝手に手出すなよ ?……次やったら どうなるか わかるよな ?
それと アンタもだ。英雄 様……。ズルは良くねぇよなぁ ? 」
…………。
エリアイズは、自身の取り巻きの 2体に強く言葉で釘を刺した。
また、何故か似たような言い回しを 太陽のアルバチャスにも向ける。
…………。
灰翼の天使は 無機質な顔だちで、それでも尚 感情が滲んでいるような 怪しさを漂わせた。
背中の翼を綺麗に収納し、両手を広げては 飄々と語りだす。
…………。
「 ……まずは 導入だ。光の試練を 成せば莫大な恩恵を自由にできる。
んで、俺達エヌ・ゼルプトは……。その道程を行く者に 立ちふさがる障害。
そして、導き手だ……。細かく言えば役割は分かれるがな……。
……試練を始めた英雄には力が与えらる。
その力が、マルクト……。いわゆる御祝儀みたいなもんだわな。
これが使えなきゃ 俺達は倒せない。だからこそ、最低限の知識を覗く事も許される。
知った上でどうするかは そいつ次第……。ここまでは 良いな ?クソガキ。今回は 俺様の優しさで特別だ……。
本来 ルール説明は俺様の仕事じゃない。 」
…………。
エリアイズは、独自の感覚で あらゆる事象に関わる言葉を並べていく。
その数々は、この地で起きた多くの出来事に関わるようで……。
本来の話の中心に、これに関連していると思われる人物が 引っ張り出される。
…………。
「 ……それでだ。
ここからは 俺様からの 質問タイムだ。英雄 様よぉ……。マルクトは 4つ有るよな ?
当然 アンタは ルールを知っている。試練の英雄だからな。
……けど マルクトの件で明らかに変なんだよ。
1つはアンタが 英雄として 自分用に 選別し終えた。ここまでは良いさ。
俺が気に成ってるのは こっから……。この後だ……。
本来なら マルクトを扱る戦士が、マルクトと同数 揃い立つ事はねぇんだよな !!
戦える程の力を 発揮するのは 選ばれた マルクト 1つだけだ。
残りの 3つは……。選別の後に力を弱めるからなぁ。
なあ、英雄。俺様の見間違いかい ?
少なくとも、今現在 3つのマルクトが戦える程度の能力を ここで発揮している 答えてもらうぞ ?
……返答によっては、この世界は終わりだ。 」
…………。
灰翼の天使からの 質疑の矛先が向けられた人物……。
神地聖正は 僅かな痛手も無さそうに返答する。
…………。
「 フフフ。くだらないな……。
節制の エリアイズ……。私は何も ルール違反等していない。
与えられた力を、創意工夫して組み立てて立ち向かう。只それだけさ。
人間は これまでにも あらゆる苦難を……。知恵と自由な意思で乗り越えてきたのだ。
君らが提示するルールを逸脱していないさ。
マルクトは 4つ与えられ 英雄の私が選んだ 1つで戦う。
確かに……。その通りだ。
残りの 3つは力を弱めているが、技術で打破し 弱体化したままでも扱う分には問題は無い。
大昔の ある一族も 全ての マルクトを使用していたのだろう ?
只 文明水準による 当時の事情は、今と異なっていたようだ……。
お陰で まともに戦えたのは 1人だけだったそうだね。
だが、彼等も 与えられた全てを活用したからこそ、試練を達成 出来たのでは無いか ?
過去の実例は 確かな事実として存在し動かない。
私は……。それを今の やり方で なぞっているだけさ。 」
…………。
灰翼の天使と 神地聖正の間で飛び交う言葉は 青年を驚かせた。
言葉通りならば 光の試練は……。既に始まっていた事に成るのだ。
…………。
「 そんな……。今の話が 本当なら 光の試練は 始まっていたのか ?
22災害が 光の試練では無いのか !?
神地さん が……。試練の英雄 !? 」
…………。
青年は……。過去の厄災こそが……。22災害こそが 光の試練なのではないかと……。
多くの相手と戦ってきた中で、端的に組み上げていたのだが……。未知の情報での再構成が 大きな衝撃になった。
…………。
有馬要人の心情を 気にするでもなく 話は更に進められていく。
灰翼の天使 エリアイズは……。太陽のアルバチャスを しっかりと視界に納めて 問い詰めていった。
…………。
「 そうかい。創意工夫ね……。
なら、質問を少し変えようか……。なあ、英雄 様。
1つのマルクトは お前が使っているよな ?……まあ オーケーだ。
そんじゃあよ……。残る マルクトは全部で 3つ有る筈だ。
1つは、そこの最後に出てきた雷野郎が……。
1つは、俺様に傷を負わせた 派手な色の クソが……。
後の 1つは何処だ ?……風のマルクトはどうした ? 」
「 残る 1つは……。私の手元を完全に離れている。
生憎だったな。
それに……。お前は 節制のエヌ・ゼルプト……。
天使型でも 審判では無い。試練が進んでいる今、何の強制力も持たない筈だ。
これから先は、只の エヌ・ゼルプトとして私に倒されるのみ。
……質問は以上かな ? 」
…………。
太陽の英雄は……。灰翼の天使からの執拗な追及を 簡単に切り捨てる。
…………。
神地聖正は 腹の底で静かに考えた。
…………。
光の試練や マルクトについて、知っている人物が増えてしまったが……。
……この程度どうにでもなる。
…………。
……。
エリアイズは、これを見越していたのか笑い声を上げた。
程なくして、ここまで広げた会話の 本来の意図を ぶちまける……。
…………。
「 クククッ……。ハハハ……。笑わせるじゃねぇか……。
驚いたぜ……。英雄 様は 随分、嘘が上手いんだな ?
風のマルクトは、お前が持ってんだろうがよ ?
そうやって、自分だけで戦わなくても良いように 欺いてきたって訳だ。
試練の内容も自分の中に留めて……。達成した後は、恩恵を独り占めでもする気だったのか ?
本当に 素晴らしい英雄 様だ。
どっかの 山ん中だったかなぁ……。お前は、同族の戦士から 風のマルクトを奪い取った。
お節介かもしれねぇが……。あの白い鎧の戦士は元気かい ? 」
…………。
青年 有馬要人の耳が、これまでで 最も注意深く反応する。
灰翼の天使が 語る聞きなれないルールに混じって、身近な人物を 連想させる文字の組み合わせが飛び出した。
…………。
……。
あの日、規定の時間に 山中で合流できずに……。
今日までも 未だに痕跡すら見つけられなかった人物だ……。
考えたくは無かった。完全に決定づけたくは無かった。
…………。
エリアイズと 神地聖正は、周りの人間の内面が追いつくかどうかは 留めていないのか、更に話を進める。
…………。
「 まさか、あの山ん中で 俺様に 気がつかなかったのか…… ?
俺様は、均衡と節制を重んじる。平等主義者なんでね。
この情報もコイツらに開示してやるよ。
創意工夫で 頑張るんだろ ?……マルクトの所持者には 平等な視点を持たせてやる。 」
…………。
灰翼の天使が 言い結ぶと、太陽のアルバチャスは 自身の片手に握られた武装の引き金を握った。
…………。
アポロンの B.A.Cupが 銃口から火球を噴き出す。
エリアイズは これを軽く手の甲で殴り落とすと、意気揚々と続きを話していった。
…………。
「 ……ハハハッ。まさか 本気だったのかよ ?
同族から ぶん殴って奪ったのか ?
とんでもねぇ外傷だったが……。あの後 どうなってんだろうな !?
いや、それ以前に……。格好悪すぎるだろ 英雄 様。
何が 与えられた全てで 達成する !……だ ?
小物が凄んでんじゃねぇよ !!みみっちい雑魚がよぉ !! 」
「 貴様も同族を手にかけていただろう !!
エリアイズ !!……何を偉そうに。 」
「 俺は 邪魔なジジイを 少しの間、ある場所に閉じ込めただけだ。
只の時間稼ぎだろうが !!その内、自力で出てこられるさ……。
だが てめぇはどうだ ?
アレは 人間が直に耐えられる外傷の度合いを 超えてるんじゃねぇの ?
有機物の生命体は脆いからな、だから試練の最初に 御祝儀が配られるんだわ。
ていうか……。認めてんじゃねぇよ !!
本当に面白れぇな……。
折角だ。このまま英雄 様と遊びながら……。
そこの戦士 2人にも、もう少し詳しく教えてやる。何が有ったのか、結果だけをな……。
それを知った前提で……。どう進むのか俺が見てやるよ 平等にな。 」
…………。
灰翼の天使は 心の底から嘲笑した。
多くの事を 白日の下に晒されて 苛立つ太陽は、エリアイズとの交戦を再会させる。
………………。
…………。
……。
~失敗と脱却~
………………。
…………。
……。
これは……。
有馬要人と、丹内空護が ソード・ナイトによって、空路から離脱し……。
L 地区の山林に 逃げ延びた頃よりも、少しだけ後の出来事。
…………。
白い鎧の戦士として戦う 青年が辿った 1つの脇道。
…………。
……。
当時……。丹内空護は 行く宛ての無い現状から警戒を強めて、自分達が居る場所周辺の情報収集を急いだ。
ニューヒキダを取り巻き、幽かに蠢く謎と戦う為に……。
…………。
……。
丹内空護と有馬要人は 山中で朽ちた あばら屋で、今後の行動を示し合わせる。
…………。
土地勘の無い 有馬要人は、あばら屋 周辺を 離れ過ぎないように……。
最低限 道の痕跡が残っている通路を移動し、情報の収集と遭難の回避を両立。
…………。
丹内空護 自身は 土地勘を持っている事から、有馬要人の行動範囲よりも外周を哨戒。
必要に応じて 道の無い斜面も移動経路とし 情報の量を優先。
…………。
哨戒時に 異変が有った際の行動も、事前に取り決めた。
…………。
「 ……特記事項は、さっき話したモノで全てだ。
デバイスで正確な時間だけでも、確認できるのが幸いだったな。
わかってると思うが、今の俺達は出来る事が限られている。
少しでも異変を見つけたら……。 」
「 直接的な 身の危険に晒される前なら、合流を急いで可能な限り手がかりを共有する。
それが難しい場合は……。
片方の身の安全を優先して定刻での合流を見送る。
了解です。覚えました。
偵察は危険が隣り合わせですからね。お互いの無事を願って……。 」
「 要人……。 」
「 どうしました ? 」
「 俺は、お前を 1人の人間として信頼している。 」
「 空護さん ? 」
「 ……何が有っても自分の信じる事を信じろ。
それだけだ……。また後で合おう。 」
「 もちろんです。また後で。 」
…………。
2人の青年は、最終確認を終える。
あばら屋の中で話し合い、取り決めた内容を最終確認の言葉として互いに交わした。
…………。
……。
丹内空護が、哨戒行動を続けていると 少し開けた所に辿り着く……。
今は使われていない古道に辿り着いたようだった。
…………。
近くには 廃れたトンネルや、植物に覆われたレンガ壁が見える。
かつての建物の残骸だろう。
…………。
気にかかるのは 近くのトンネル……。
このトンネルには……。何かを吸い込むように 引き付けられているような錯覚をさせられる。
…………。
数秒の間を置いて……。警戒心を強めるべき 異変を体現する声が聞こえた。
…………。
「 汝……。まさか、こんな所に居るとは……。 」
…………。
警戒を緩めずに 哨戒を続けていた 丹内空護の頭上から、黒い羽根が舞い降りてくる。
黒井は羽根の主の声には 聞き覚えのあった。
…………。
「 お前は 黒翼の…… !! 」
…………。
丹内空護は 即座にその正体に気が付く。
黒翼の怪人 ドーゥクラ……。エヌ・ゼルプトと呼称される 怪人が降り立ったのだ。
…………。
相対する目の前の怪人が 視界に納まると……。まだ新しい鮮明な記憶が関連して蘇る。
…………。
決定的な証拠など無いし、関連性が強くなるほどに辛く、怒りも湧きあがってしまう。
それでも、何か知っている可能性を……。完全には捨てきれなかったのだ。
…………。
この時に始めて……。丹内空護 自身も 執着がある事を自覚する。
…………。
……。
最近の記憶から……。
それらに関連する記憶が紐づいて、頭の中を 走り抜けていく。
…………。
自分自身でも 思いもよらない……。大きな執着に関係する記憶だ。
…………。
……。
ある怪人との 戦いの中で……。太陽の英雄が 駆け付けて……。戦いの流れが決した。
この時……。白色の鎧のアルバチャスと戦っていたのは……。白翼のエヌ・ゼルプトである。
…………。
大きく戦局が決まったのは 戦いの中で……。何かしらの意図を くみ取り 問答を繰り返していた 少し後だった。
…………。
瞬く間に 白色の身体が焼けていく。
白翼の天使が 極熱の炎に飲み込まれた。
…………。
「 …………丹な…………さ……。自分の意志で考え……。決断し……。 」
…………。
何かを伝えようとしていた。
そんな風に、丹内空護が感じ取る頃には……。
…………。
太陽のアルバチャスからの 中段蹴りが、突出した紅炎を作り 跡形もなく エヌ・ゼルプトを焼失させた。
…………。
……。
あまり 良い記憶ではない。
焼き払われたのは エヌ・ゼルプトだったが、無性に負の感情を駆り立てる。
…………。
「 ……元気そうで良かった。 」
「 そう見えますか ? 」
「 ああ。前よりも表情が違う。……そんな気がする。 」
…………。
関連する出来事の全てで……。
どれほど……。どれほど 自分は愚鈍だったのか……。思い知らされた感覚さえする。
…………。
別の日の事を考えても……。多くの記憶の中で 自分は察しが悪かった。
…………。
「 遠慮しないでくれ。今度、何か埋め合わせは するよ。 」
「 ……………。本当にお構いなく。 」
…………。
それでいて 今更になって 過去の行いを 悔やんでも……。
巻き返すには あまりに遅すぎた。
…………。
「 ……急に 変な話題ふらないでくださいよ。
……報告は私がしておきます。お昼行ってきて良いですよ。 」
…………。
自分自身の行いに……。これ程、頼りの無さを感じた事は無かった……。
普段ならば、気に成らないような事にさえも 恐怖を覚える。
…………。
「 貴方も もう少し 俯瞰的になるべきです。先程の愚者と同様に 何も見えていない……。 」
…………。
確証など 一切なくとも……。何故か確信めいたものがあった。
…………。
「 ……もう時間が ありません。ごめんなさい。
私が もっと早く気が付いて、決断できていれば……。 」
「 ……何を言っている ? 」
「 ……まもなく太陽が昇ります。
悪魔や死神に気を付けて 隠れた陰を探してください。 」
…………。
重なる筈の無い二者が……。重なってしまう……。
…………。
「 言ってくる。じゃあ またな夢川。 」
「 ……はい。また……。プレゼント大切にしますね。 」
「 そうか。良かった。 」
…………。
きっと そういう 事なのだろう……。
だが 知ったところで 今から自分に 何が出来るものか……。
…………。
一巡り……。頭の中で蘇った多くを 連想し終える。
…………。
坊主頭の青年は 眉間に大きな溝を作っては、静かに長い時間を掛けて 無意識に息を吐きだしていた。
そして この時の 眼前に存在するエヌ・ゼルプト……。ドゥークラに意識を集中させる。
…………。
……。
これまでの戦いで 黒翼の怪人は 白翼と共に出現する事も多かった。
…………。
全く何も知らない事は無いのだろう……。これからの自分は 確証も無い事の為に 掛けに出る。
誰かの為に……。自分とは正反対の 誰かのような行動を取らずには いられない。
…………。
自分の馬鹿さ加減が 始めて良くわかった。
……そんな気がした。
…………。
数秒の間を置いて……。警戒心を強めるべき 異変を体現する声が聞こえた。
…………。
「 汝……。まさか、こんな所に居るとは……。 」
「 お前は 黒翼の…… !! 」
…………。
丹内空護は、臨戦態勢を整えて 黒翼の怪人 ドゥークラに 身構えた。
…………。
「 んん ?贋作の戦馬車だな…… ? 」
「 ドゥークラ……。お前には聞きたい事がる。
力づくでも答えてもらうぞ !!アルバチャス 起動 !! 」
…………。
丹内空護は 戦馬車のデバイスを 力強く動作させる。
…………。
『 Arbachas code-7- !! The Chariot Function !!
( アルバチャス コード セブン !! チャリオット ファンクション !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
…………。
戦馬車のアルバチャスは、両手に武器を握って 烈風のように仕掛ける。
…………。
黒翼の怪人は 冷静に身体を動かして初撃を避けると、固く握った拳で反撃した。
エヌ・ゼルプトの拳と、チャリオットの刀剣が火花を飛ばして押し合う。
…………。
「 汝……。ナティファーに逃がされたのだな ?
汝の迷いには……。我が答えられるだろう……。 」
「 なら 話は早い……。何故……。どうしてアイツは…… !! 」
…………。
丹内空護が 核心に迫ろうとして、言葉を吐き出す途上で……。
この時に 求めた返答とは 異なる言葉が返される。
…………。
「 汝……。冷静に成った方が得策だ。
先程の我は……。汝に呼びかけたのでは ないのだから……。 」
「 …………何を !?……ぐぅあっ !! 」
…………。
言葉の真意を整理するよりも先に 痛覚が届いたのだ。……後方から何かの先端が突き刺してくる感覚。
…………。
丹内空護は 何も考えず身体を反回転させて、致命傷を免れる。
何かしらの刺突武器が 突き出される方角に 逆らわず……。身体の向きを変えて それ以上の 深手を避けた。
…………。
危なかった……。辛うじて 反射的に 回避行動が成功したのだ。
…………。
何者かは 脇腹を背後から狙い、刺突しようとしたのだろう。
現状は 少し深いだけの掠り傷だ……。咄嗟の立ち回りがなければ 致命傷は避けられなかった。
…………。
背後を 目視で確認すると……。これを行った 強襲者は……。既知の存在では無い事が わかる。
短剣程度の長さの刺突武器を握った……。獣のような頭部を持つ 新手の怪人だ。
…………。
「 ほほほほ……。
背後からの凶刃を 逃れるとは 愉快な輩じゃ。
運命は 未だ、お前を手放さずに回っているという事かのう。
何奴じゃ ?この度の英雄ではあるまい。朕に名乗れ。 」
…………。
獣のような頭部の怪人は、いつから いて 何を目論んでいるのか……。
瞬時には判断が付けられないが 間違いないのは……。
…………。
「 新手か……。俺も 焼きが回ったか。 」
…………。
間違いなく 冷静さを欠いていた。
危うく何も果たせずに、掛けるべきではない相手に 命を取られる所だったのだ。
…………。
脇腹の後方に出来た 小さな裂傷の痛みは、頭に上った血を鎮める。
…………。
頭の中には、ほんの少し前まで行動を共にした……。ある人物の言葉が連想された。
…………。
「 空護 さんって……。本当に馬鹿ですか ? 」
「 なんだと ? 」
「 弱気になりすぎですよ ?……さっきも言いましたけど らしくない。
俺達はアルバチャス。ニューヒキダの ヒーローなんでしょ ?
俺は……。白い鎧のアルバチャスが 平和の為に戦う姿に憧れたんです。 」
…………。
先程まで行動を共にしていた人物との やりとりが瞬時に過ぎ去る。
目的の為ならば、身の危険を無視した 軽率さを持つ 若者からの言葉が、自分自身が何者だったか思い出させた。
…………。
「 エヌ・ゼルプト……。よく聞け…… !!
俺は アルバチャス……。戦馬車のアルバチャスだ !! 」
…………。
丹内空護が 力強く名乗り上げた。両の拳を固く握って 目には闘志を灯す。
…………。
前方には 黒翼の怪人が……。
後方には 獣頭の怪人が……。
白い鎧のアルバチャスを、挟み込むようにして立っている。
…………。
「 有馬との合流は もう無理だろうな……。
だが 俺は……。こんな場所で 命を捨てるつもりも無い !! 」
…………。
戦馬車のアルバチャスが 静かに構えて、力強い奮起の言葉を 吐き出した。
…………。
緊迫した状況で 先に動き出したのは 獣頭の怪人だった。
俊敏な動きで 片手に持った、短剣のような針の先端を向けてくる。
…………。
針先は 一切 ブレていないらしい。
刺突の挙動は 安定しているのか……。丹内空護の 視界の真正面から迫っても 判断に迷う。
どれ程 近づいているのか 判別がつきにくい 刺突は……。敵対者の視点を意識した熟達した業なのだ。
…………。
しかし、丹内空護の精神は 先程より 遥かに安定していた。
…………。
……。
ホバー滑走で、前後のエヌ・ゼルプトから 均等に距離を置いて B.A.Cupで反撃をする。
…………。
例えば……。自分自身を挟み込むように 位置取りをしている怪人通しを直線で結んだと仮定して……。
その直線の間から、垂直に線を引くように離れて 両者を側面側から 視界に入れなおしたのだ。
…………。
俊敏な凶刃による刺突を避けて……。迅速な対処で早撃ちを行う。
…………。
黒翼の怪人はともかく……。獣のような頭部を持つ エヌ・ゼルプトは、強い殺意を漂わせている。
…………。
戦闘が長引かせる理由は……。無い……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
B.A.Cupの銃口から、怒涛の連続射撃が放たれた。
集中豪雨か はたまた 角度の強い暴風雨を思わせる勢いの光弾で、獣頭の手元と胸部を捉え続けたのだ。
…………。
この程度で片付く相手では無いだろうが……。射撃を継続したまま、次の手に移る。
丹内空護は、ホバー滑走で 再度接近し 別の武装機能を起動した。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
先程まで 片方の手に握られていた拳銃型の武装を、速やかに解除して 別の武装に 握り変える。
刀剣型の B.A.Swordに、力を込めて一閃 また一閃と 鋭い斬撃で何度も切りつけたのだ。
…………。
豪快な斬撃を続けた後には B.A.Swordを片手で 小さく放り投げて……。
逆手持ちに切り替えると、柄頭を 押し込むように 伸びのある打撃に移行した。
…………。
この時の打撃には、滑走による推進力を利用して 継続的な負荷を乗せ続ける。
…………。
度重なる猛襲は……。獣頭のエヌ・ゼルプトを驚かせたようだった。
怪人は 後方へと大きく、よろめいて 納得できない現状に憤る。
…………。
「 英雄とは異なる戦士が 何故こうも……。贋作のマルクト如きで……。
下賤な輩め……。朕は、そのような飛び道具 認めぬぞ。 」
…………。
獣頭のエヌ・ゼルプトが 全身に光を吸い寄せて、動き出そうとするが……。
黒翼の怪人が これを静止させた。
…………。
「 汝……。今は、まだ下がるのだ……。エリアイズの元へと戻るがいい。
カシュマトアトルに後退を促されたばかりだろう ?
それとも……。役割を果たさず 今ここで散らすか ? 」
…………。
獣頭のエヌ・ゼルプトは 黒翼の怪人からの助言に 苛立ちを見せているようだったが……。
渋々 怒りを飲み込んだのか、気がつくと姿を消していた。
…………。
エヌ・ゼルプトの行動には 真意が読めないが……。必ず 意図がある。
丹内空護は これを確信し、自身が知りたい事の糸口を 黒翼の怪人に 改めて求めた。
…………。
「 ドゥークラ お前は……。お前達は何を知っている ?……何故、この地に現れた ?
前に話していたな……。お前は 使いなのだろう ?
天啓とは……。刻限とは何の事だ…… ? 」
…………。
これまでに何度か交戦して知った 相手の言い回しで問いを投げる。
数ある問いの 1つでも明かされれば上等……。数秒の間を置いて 更に投げかけた。
…………。
「 答えろ ドゥークラ……。
ナティファーは……。他の エヌ・ゼルプトとは異なっているように見えた。
どうして……。只の ピップコートすらも 俺達を助けた ?
知っているんじゃないのか ? 」
…………。
山林の枝葉を すり抜けた風が 樹木から剥がれた落葉を運んだ。
本人も気がつかない 小さな涙の欠片がこぼれる。
…………。
風が音を鳴らすが……。しばらくすると 茂る木々の間隙にも陽光が入り込んだ。
…………。
誰かの足音が わざとらしく鳴った。
足音の主は 背中に日輪を抱く……。赤色のアルバチャスである。
…………。
「 こんなにも早い再会は 嬉しい限りだよ。
新手の エヌ・ゼルプトを追ってきて良かった。
さっきは心配したんだ。騎士型の ピップコートに連れ去られてしまったのだからね。
丹内 君……。無事だったかい ?
私が助けに来た。
真のアルバチャスの力で 君を救おう。この私……。神地聖正が……。 」
…………。
神地聖正は 善意を前面に押し出している。後ろめたさなど微塵も含まれていない声だ。
これに対して……。丹内空護は沈黙を続けた。
…………。
「 大丈夫かい ?……丹内 君。
無理もない……。君は最も、この地で戦いに身を置いてきた。
きっと、疲れているんだ。黒い翼のエヌ・ゼルプトは 私に任せて構わない。
君を見ると 七郎太さんを思い出す……。
君の お義父様には……。私も随分 助けられてね。
その恩を君に返していきたいと思っているよ。
だからね……。デバイスを こちらに渡してくれないだろうか。
少しの間だけでも 君を戦いの重責から遠ざけたいんだ。どうかな ? 」
…………。
神地聖正は 饒舌だった。耳心地の良い 速さで呼びかける。
本当に心地が良い……。
…………。
黒翼の怪人は、未だに 大きくは動かない……。根本的に戦意が無いのか、様子を見ているのか……。
赤色のアルバチャスが、この場に来てからは静かに傍観しているようにさえ見えた。
…………。
……。
神地聖正は 更に何か話しているようだったが、耳が音を滑らせる。
…………。
本当に心地が良い……。丹内空護の心の奥底からは、清々しい程の怒りが湧きあがっていたのだ。
…………。
心地が良い……。純粋な怒り……。
怒りをぶつけても良い、正統な矛先が……。目の前に立っている。
数秒間、呼吸を整えても変わらない感情だった。
…………。
「 ……C.E.O。俺は出来れば貴方を信じたかった。
故郷の復興に身をささげる貴方を……。なんの疑いも 間違いもなく 尊敬していた。
だが 俺は貴方を許せない。
貴様は……。
貴様には……。俺の私情で 剣を向けさせてもらう。俺と戦え……。聖正……。 」
「 残念だ……。君には、こちら側に来てほしかったが……。
受けてあげようじゃあ無いか。馬鹿な戦馬車の突進を……。 」
…………。
丹内空護の決死の攻撃も……。暴風のような力強い乱打も……。太陽には届かない。
…………。
B.A.Swordによる 突風のように鋭い斬撃も……。
B.A.Cupによる 起死回生の銃撃も……。爆炎や紅炎に飲み込まれていく。
…………。
白色の鎧は……。黒く焦げ……。装甲や盾は打ち砕かれていった。
…………。
……。
戦馬車は限界を遥かに超えて挑み続ける……。
盾と篭手に 護符の恩恵を乗せて 殴りかかった戦馬の突進は、太陽からの猛襲で 大きな隙を許してしまう。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
太陽のアルバチャスが、拳を赤熱させた。
白翼の怪人を 蒸発させた時と同様の 炎熱の高まりを感じさせて……。
…………。
『 Device Error Factor !! Function !! 7 Second !!
( デバイス・エラー・ファクター !! ファンクション !! 7 セコンド !! ) 』
…………。
以前、マーへレスを相手に戦った中で作動した何かが起動する。
…………。
誰にも聞き取れない動作音は、丹内空護を 時間が止まったような スローモーションの世界へ引き込む。
…………。
眼前には 灰燼を漂わせて拳を握る、太陽のアルバチャスが見えるが……。
この瞬間だけは、炎すらもが ゆっくりと 揺らめいているようだった。
…………。
何故 こうなっているのか理由はわからない。
…………。
だが、その原因の究明は 後回しでも良いだろう。
約 時速 3600kmの拳を……。絶え間ない陣旋風のような乱打を……。力の限り、打ち込む !!
…………。
太陽の英雄に、戦馬車の拳が迫る直前、アポロンの背面の円環が 不気味にも赤々と輝いた。
…………。
『 -Twins And Sun- !! event !! Precepts !!
( ツインズ・アンド・サン !! イベント !! プリーセプトゥ !! ) 』
…………。
太陽のアルバチャスから 起動音声が流れると……。
チャリオットの身動きは 完全に取れ無くなり、7秒間が無為に過ぎ去った。
…………。
8秒目からは、丹内空護が自身の身体を動かせるように戻っていたが……。先程までの負荷が身体中に押し寄せる。
強い虚脱感で こちら側に 数秒の隙を生み出してしまっていたのだ。
…………。
これを……。敵対者は 見逃さない。
…………。
「 残念だったね……。丹内 君……。 」
…………。
スローモーションの世界は元に戻っており、身体に重い疲労感が執拗に伸し掛かる。
…………。
神地聖正は、目の前に迫る拳を軽く振り払い……。赤熱した拳を一撃だけ放った。
…………。
丹内空護は辛うじて防御の姿勢を取ったが……。
殆ど形が残っていない盾で……。太陽の拳を 受け止めるのがやっとである。
…………。
……。
太陽の赤熱した拳が 盾に触れると、強い衝撃が響いて 傷だらけの戦馬車の全身を軋ませた。
…………。
赤熱した拳は その先端で熱が集まり、球体型の塊へと成長する。
極熱の火球が、瞬時に縮んで爆発した。
…………。
……。
丹内空護の意識は ここで途切れた。
…………。
……。
坊主頭の青年は 爆炎に吹き飛ばされたからか……。仰向けで倒れており、横には デバイスが落ちている。
…………。
神地聖正は これを拾い上げて 口角を上げた。
…………。
「 本当に残念だよ……。君 程の逸材を迎え入れる事が出来なくて……。
だが 仕方が無い。
従わない者は。この先には 必要ないのだから。 」
…………。
神地聖正が 語りかける相手は、何の反応を示さない。
全身は血だらけで、薄っすらと開いた眼も虚空を見ている。……まともな状態ではないようだ。
…………。
太陽の英雄は……。ふと これまでを見届けていた存在に視線を移す。
黒い翼の エヌ・ゼルプト……。ドゥークラである。
…………。
「 ドゥークラ……。流石は、試練 最後のエヌ・ゼルプトだ。
私さえ動くなら 水を差さないという訳か ?
私が、ナティファーを消滅させた時も、そんな風に無感情だったのかい ? 」
「 ……正道が進行するのなら。我もカシュマトアトルも、無碍な手出しはしないだろう。
汝……。試練の英雄よ 停滞させるな。刻限は近い……。 」
…………。
ドゥークラは、簡単に告げると アルカナの光に自身の身を包み、姿を消した。
それから程なくして 神地聖正も この場から立ち去る……。
…………。
これは……。白い鎧の戦士として戦う青年が辿った 脇道であり……。
貫き通すべき正道……。
………………。
…………。
……。
~未来へ~
灰翼の天使が、知りうる出来事を語り終える。
ある山中での出来事……。その場に集っていた殆どの詳細な経緯も 意図も……。
…………。
エリアイズの 知る所ではないが、白い鎧の戦士が 太陽の英雄に敗北し マルクトを奪取されたのだ。
…………。
「 俺様も驚いたぜ……。
自分(てめぇ)の舎弟を探して、気配の場所に辿り着いて見れば……。
英雄 様が、同族を仕留める瞬間だったんだ。
いくらなんでも、ぶっ飛んでやがる。
ここまで 私欲が強いもんかね ?……人間ってのはよ。 」
…………。
神地聖正は、エリアイズの言葉を聞き流す。
言葉での返答はせずに、片手に握った B.A.Cupの引き金を握った。
…………。
エリアイズは 飛来する火球を拳で振り払うと、わざとらしく追及を続ける。
…………。
「 英雄 様よぉ……。
人間が自身の知恵と技術で、マルクトを有効に使おうとしている事には感心したぜ。
けど、あそこまで するか ?
まったく容赦がねぇ……。本当に素晴らしい志しだ !! 」
…………。
エリアイズからの度重なる開示によって、神の怒りが噴き出したらしい。
嘲り笑う不躾な口に……。赤熱する火球と 拳が迫った。
…………。
「 口を慎め 使い 風情が……。
私は……。世界を統べる英雄として頂きに君臨するのだ !!
導き手の分際で 私の道を無用に阻むつもりか !?
太陽の英雄である私に…… !!生意気にも意見をするつもりか !?
……人の たゆまぬ 努力をなんだと思っている ? 」
…………。
灰翼の天使と 太陽の英雄が激しく争い、聖杯の光弾と火球が飛び交う。
…………。
この光景の外側で……。バベルは、微動だにせず立ち尽くしている。
ある男が 1つの事実に衝撃を受けていたのだ。
…………。
天瀬十一には……。元々 考えが有った。
…………。
……。
父と……。父の友人関係にあたる神地聖正。両者の間柄を知って……。
関係の変遷を知って……。
尊敬する父の助けを 自分が出来ればと……。いつの間にか思うようになっていたのだ。
少年の頃に、朧げに浮かんだ最初の支柱だった。
…………。
……。
チャンスは、少しずつ形を成していく。
まずは、実動班の試験を受けて 実力で内部へと潜り込む。
学生の頃からの友人……。丹内空護 程ではないが 体力試験では優秀な成績を残した。
…………。
……。
父と同じように 何かを追い求める職にも 強い憧れはあったが……。
高すぎる身近な目標は、どうにも尻込みさせたのだ。
…………。
今にして思えば……。若さゆえの 根拠のない全能感よりも……。実績の差が 大きな壁になったのだと思う。
…………。
そうして、辿り着いた全く別の道が実動班だった。
人知れず、支柱には 1本の亀裂が走る。
…………。
……。
同年代の気心が知れた友人の身近で……。
優秀な成績で真っ直ぐ進んで行く 自慢の友人の身近で、父への助けに成りたいと振る舞う。
…………。
建前に調度良い大義名分を腹に隠して、自己満足に浸る浅ましさが……。
少しだけ心地よかっただけだったのかもしれない。
…………。
だからこそ……。ある人物からの、甘言に いつの間にか飛びついてしまったのだ。
支柱には日に日に 亀裂が増えていった。
…………。
……。
自分は、身近な自慢の陰ではないと……。次第に増えていった 比較対象との違いが欲しくなっていた。
…………。
名実共に、これを裏付ける証明が欲しくなってしまったのだ。
支柱は いつの間にか亀裂だらけで 微細な裂孔には影が走る。
既に自覚もあったし……。見慣れていた。
…………。
……。
肥大化する浅ましさには 気がついていたのだ。
…………。
それでも……。だからこそ、父の友人の足元に しがみつき続ければ……。
自分にしか、取れない高得点を得られる機会が巡ってくるんだと……言い聞かせた……。
…………。
手段も変わり、目標も微妙に変わりつつ有った。
…………。
……。
自慢の友人は、気がつけば ヒーローとして戦う毎日を送る様になり……。
更に、月日が流れると 所在の知れない誰かが 隣に並んで戦っている。
…………。
取り戻せない称賛が、そっちに向いている感覚だった。
いつの日かの昔……。諦めずに 歩んでいれば……。あそこで肩を並べていたのは 自分だったのかもしれない。
…………。
この街で脚光を浴びる 2人と、その裏側に立つ影……。
影は支柱の亀裂に、深みを増していくばかりだ……。見慣れている筈だ。
…………。
……。
ここまで来れば逆に 未練も無い。
…………。
もっともらしい現実は受け入れやすい……。それでも……。
少年の頃の立派な志と、輪郭がブレ始めた今の自分に……。
…………。
チャンスが巡ってきたんだと……。ある日 気がついてしまった。
一度 手放して、諦めていた光が 目の前でチラついているのだ。
…………。
目の前で揺れている恩恵に 手を伸ばさない人はいないだろう。
…………。
影は子供の頃よりも 大きくなっている……。きっと 大人になった証拠だ。
…………。
……。
APCが誇る、怪人と戦うためのシステム 単独武装対策兵器 アルバチャス。
…………。
code-0-はともかく……。現行型の筆頭 code-7-は……。
更なる 先のシステム開発の為に、データ収集を行う前提に作られたというのが実情である。
…………。
量産型と並行して、その本命を組み上げていく……。神地聖正の野心には心底 驚かされた。
…………。
……。
どうやら、その本命には 余程 念入りに保険を掛けて用意したいようで、熱意が伝わってきた。
…………。
この時期に、これを理解し……。意見の具申が 出来る唯一の 人間からなら……。
…………。
別の保険を先に作る案を……。承諾してもらえるのでは無いだろうか。
…………。
……。
本命に導入する初の機能の……。β (ベータ)版を 組み込んで データ収集を行う。
本命を作る為の最後の試作型……。
…………。
これを扱うのが、信頼のおける人物なら 理解が得られる筈だ。
太陽が昇る前に 神の意向を伝達する 塔を作ろう。
…………。
塔のアルバチャス code-16-を……。自分なら作れる。
…………。
……。
父には 反対されてしまった。
簡単ではないのだと……。自分でも、そんな事はわかっている。
…………。
だが、それを知っているからこそ 尚更 踏み込める。自分が踏み込むべきだ……。
…………。
……。
友人には、打ち明けられなかった。だが、自分が友人と敵対する側にいるなら……。
こちら側から、匙加減の調整も出来るだろう……。問題はない。
…………。
……。
そんな卑しい甘さが……。自分の手が届かない所で……。
友人の身に発揮されてしまったのだ。
…………。
……。
手段と目標を変えながらも……。
駆け上がり続けた塔は 至る所から亀裂が走って、毒々しい影が こびりついている。
いつでも瓦解する 不安定な残骸と遜色は無い。
…………。
「 すまない 空護……。俺は 俺は……。なんて事を…… !! 」
…………。
凶事の塔は 微動だに出来ず立ち尽くしているようだ。
…………。
……。
愚者の青年は、塔に起こった異変に気がついて呼びかけるが反応は無かった。
原因は恐らく、この場にいない人物の事だろう……。
灰翼の天使が開示した出来事が、あまりにも悲惨だったのだ。
…………。
しかし、今の現状は 青年にとって悪い知らせだけでは無いように感じられた。その根拠を……。伝えなければ……。
…………。
「 ……十一さん。
俺 安心しました。十一さん は 心底 空護さん を恨んでいなかったんだ。
そうじゃなきゃ……。さっきのエヌ・ゼルプトの話でショックを受ける訳が無い。
希望は……。きっと有ります。
俺は、あの日から今日まで……。空護さん の 事 探してました。
日樹田建設の所有地とかも探したりして……。正直、全然 見つかりませんでした。……けど 希望は有る。
さっきの話の トンネルの周辺にも 俺 見に行ってたんです !
あの場所に 空護さん は いませんでした。
経緯もわからないし……。
完全には 確証も無いですけど……。まだ、望みは有るんです !!ゼロじゃない !! 」
…………。
青年の呼びかけは、立ち尽くす塔に少しずつ光を灯しているようだった。
…………。
「 ……有馬 君。 」
「 十一さん。俺に手を貸してくれませんか……。
この地での戦いを 終わらせる方法を模索したいんです。お願いします !! 」
…………。
有馬要人の呼びかけを きっかけに、考え込む天瀬十一だが……。
……太陽の英雄が、割り込んで優しく言葉を掛ける。
…………。
「 十一 君。私は 君の葛藤を……。自責の念を知っていた。
君が抱く 全ての感情には、私も覚えが有るからね。
私には 君が必要だ。……そして私は、君を最も理解できる。
確証の無い戯言に惑わされるな。
私と 君は、今まで共に歩んできたじゃあないか。
エヌ・ゼルプトも……。余所者の有馬 君も、事実を話しているとは限らない。
おおかた ブラフ(嘘)だろう……。
私としては……。挫折を知らない人間と、君が並び立つ事の方が残酷だと思うがね。
さあ、私と共に……。マルクトを回収し、試練を進めよう !!
これまでのように私を助けてくれ。
私には 君が必要だ……。試練の果ての恩恵は、あらゆる望みを叶えられるだろう。
君が望む全てが 私と進む先に必ずある !! 」
…………。
太陽から塔へと暖かい陽光が差し込んだ。
…………。
3人のアルバチャスの言動は、灰翼の天使からすれば可笑しくて仕方がないようで……。
これを機に……。事態は 更なる変化を呼び込んだ。
…………。
「 ハハハッ !!楽しいな !!人間 !!
これでこそ、平等で均衡が取れた世界だ……。
互いが裏を知って……。全てがゼロに成ってからが、スタートラインってもんさ。
よおし……。俺様が ここらで もう一押し してやるよ。 」
…………。
エリアイズが満足げに笑った。
混沌とする 錯綜した状況に、更に 一手間を 加えようと、自らが動き出す。
…………。
灰翼の天使が、自身の 2体の舎弟に号令を掛ける。
すると……。先程の力場を発生させる 光の球が 急速に成長していった。
3体のエヌ・ゼルプトが、光の球に アルカナのエネルギーを注ぎ続けているのだ。
…………。
……。
青年は これを静止させようと動き出すが、太陽のアルバチャスによって妨害が続く……。
時間の経過と共に、周囲の空間は振動を続けた。
…………。
しばらくすると ブラウン管テレビの 電源がオフになったように、3人のアルバチャスの視界が暗転する。
………………。
…………。
……。
青年 有馬要人の視界には、先程までとは異なる景色が広がっていた。
見渡す限り 広がる灰色の砂地。くすんだ黄金色の空。
…………。
四方の遠方には さっきまで いた場所からも見えていた、遠くの街並みが幽かに見える。
…………。
「 一瞬だけ……。意識が……。ここは さっきと同じ場所か ?
けど 空も地面も……。さっきは こんなんじゃ……。
ニューヒキダの中心部が……。砂漠に 変わったのか !?……いったい何が !? 」
…………。
先程の光の球が……。それ程の影響を及ぼしたのだろうか……。
これ程の範囲を 砂漠に変える 影響は……。直ぐには 思い当たらない……。
よく見れば 生身に戻っており、アルバチャスが解除されている。
…………。
仮に……。大型の爆発があったとして……。砂地に変えるほどの規模なら……。自分自身が生きていられる筈もない。
状況の把握が 即座に出来ず困惑するが、青年の視界には自分以外の人影が見えた。
…………。
どうやら この場には……。
天瀬十一と 神地聖正も 存在しているようで、等しく アルバチャスを解除されているようだ。
何が有ったのかを、捉えようと思案を続けて 身構える。
…………。
……。
灰色の砂地に 同様の色の羽根が降り注ぎ、この件の首謀者が舞い降りた。
…………。
「 俺様の固有空間に ようこそ。
ここは、仮想未来。光の試練が最悪の形で成された未来……。そう解釈してくれていい。
遅かれ早かれ てめぇらはこの未来を辿るわけだ。
どうにかしてぇなら……。この空間から出るしかねぇ。
条件有り、時間制限有りの単純な お手軽 試練だ……。もちろん。やるよな ? 」
…………。
灰翼の天使が、中空から現状についての情報を開示する。
愚者と太陽は デバイスを手に身構えるが、塔だけは 静かに佇んでいた……。
………………。
…………。
……。
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