- 17話 -
絶望からの煌めき
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目次
~約束された見通し~
ニューヒキダの A 地区。
以前、倒壊した APCの特務棟が 在った区画から離れた 同 地区内。
…………。
ある男が 現在 拠点とする施設の中の 一室で、街全体の状況に意識を向けた。
太陽のアルバチャスとしての顔と……。この街での復興を牽引する英雄としての顔を持つ 男……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)である。
…………。
APCの C.E.Oを務める 太陽の英雄は、パソコンのディスプレイと……。
室内の壁面に備えられたモニターから、今 この時も 猛威を振るっている 怪人達の存在を 認識しているようだった。
…………。
「 全てが……。全てが 私の意のままに……。 」
…………。
男は 口角を上げ 満足げに眼を細めては、工芸茶の香りを楽しんだ。
長い時間を掛けた仕込みが、優美で魅惑的な時間を作り上げているのだろう。
…………。
「 何事も……。手間暇を惜しんでは、味気の無い 間に合わせにしか成らない。 」
…………。
今を堪能し……。男は思案する。
…………。
現状において 不純物が無いわけではないが……。微細なホコリは何処にでも有るものだ。
残りの工程は、既に終わっているに等しい。
…………。
神地聖正は……。心地よい香りと 湯気を 鼻腔の奥にまで行き渡らせる。
…………。
「 これほど良い事は無い……。だが、それでも現状の あらましには眼を向けてやろうか。
自分自身が作り上げた軌跡をなぞるのも悪くはない。 」
…………。
太陽の英雄は……。現在の状況の核心部分においても 優越感を浸らせた。
…………。
光の試練は既に始まっている。
まず……。それに挑んでいるのは自分自身……。つまり、私 自身が あらゆる中心に位置する。
…………。
太陽の英雄に立ちふさがり……。苦難を差し向けては 試練の終わりに導く案内人こそが……。エイオス……。
…………。
「 私は これを打破し続けるだけでいい。実に単純だ。
ただし……。マルクトの力の大小に 関わらず……。有用性が高いのも事実か……。 」
…………。
実に単純……。不純物のホコリは 取るに足らない。
只、より理想を追うのならば……。マルクトの回収は完遂させても 損はないだろう。
…………。
男は 勝利の象徴……。向日葵の香りを ゆっくりと楽しむ。
…………。
「 ……太陽は常に輝き、全ての中心となる。 」
…………。
神地聖正は 満足げに、自身のデスクの引き出しに何かを仕舞い込んだ。
ゆっくりと瞼を閉じて、花の香りを吸い込んでは 残りの工芸茶を 口に運ぶ。
勝利は 既に掴んだも同然。
…………。
「 慎一……。私は お前とは違う。 」
…………。
モニターに映し出されている映像から、現在のニューヒキダの状況を 再度 汲み取った。
…………。
神地聖正が扱う デバイスにも、救援要請を知らせる 連絡が届いている。
新手の エヌ・ゼルプトの対処に追われる 各地の光景は、活躍の場を約束しているようだ。
…………。
「 英雄は……。遅れて現れて……。自分自身で戦う事が出来るのだ。
望むように愚衆を導いていこそ……。英雄 足りえるだろう。全ては意のままに 整っている。 」
…………。
新手のエヌ・ゼルプトは 3種が 別々の場所で猛威を振るっているようだ。
…………。
大アルカナになぞらえるのならば……。節制、吊るし人、運命の輪……。
種別としては 天使型が 2体、遺物型が 1体。
…………。
C 地区には 運命の輪……。
D 地区には 節制……。
E 地区には 吊るし人……。となれば 狙うべきは……。
…………。
「 良いだろう……。太陽の輝きは 何物にも勝る……。 」
…………。
英雄の男は、意気揚々と 身ぎれいな背広に 腕を通して自室を後にする。
直々に赴き、照らすために。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
レヴル・ロウで 編成された 彼誰五班(カワタレゴハン)は、ニューヒキダの各地で活動していた。
…………。
活動内容は 出現頻度が急増した ピップコートの 掃討処理と、旧型のアルバチャスの捜索……。
特に この日は、ピップコートの出現頻度も高く、立て続けに新手が出現していたのだ。
…………。
彼誰五班の中でも、特化した編成を持つ 第一班と 第三班は、それぞれに得意な立ち回りで戦闘処理を円滑に進める。
…………。
……。
第一班は……。小剣型の武装デバイス L,L,E による 近接格闘で切り込み……。
第三班は……。小銃型の武装デバイス R,R,G による 銃撃戦闘を軸に……。
…………。
各地で 同時に現れた 新手のピップコート群にも 早期に 対処を完了させたのだった。
…………。
しかし……。そんな 2つの班の元に 新たに現れた 新たな強襲者は、手に余る難敵だったのである。
…………。
……。
難敵は エヌ・ゼルプトと呼称される怪人だが……。
未だに 目撃例の少ない種で、どういった行動を 取るのかも明確に判明していない 未知の怪人達。
…………。
第一班と……。班長の 木田郷太(キダ ゴウタ)が交戦している怪人は……。
灰色の翼を持ち、至る箇所には 鮮やかな黄色が特徴として目立つ。
…………。
第三班と……。班長の 伊世伝次(イセ デンジ)は……。
獣のような 特徴の頭部を持った 怪人との 戦闘を強いられていた。
…………。
数の上では 優位な 彼誰五班だが、エヌ・ゼルプトとの交戦経験は無いに等しい。
仮に……。戦闘経験の多い 旧型のアルバチャスを もってしても、エヌ・ゼルプトの驚異の度合いは異質である。
…………。
今日この日は 間違いなく 非常事態だったのだ……。
…………。
頼みの綱である 天瀬十一(アマセ トオイチ)の元にも、同様の新手が襲来しており……。
特異な エヌ・ゼルプトによって戦闘は長引いていく。
…………。
第一班と 第三班への救援には、第二班と 第四班が向かい、合流こそ完了するが 決定的に戦況を覆すには至らない。
各地で戦う 彼誰五班の 防戦と窮地が、時間の経過と共に加速していく。
………………。
…………。
……。
~一欠五芒~
節制のエヌ・ゼルプト……。エリアイズと 交戦しているのは……。
第一班と 第四班である。
…………。
エリアイズが 出現するよりも数分前……。
…………。
第一班と 一班長の 木田郷太によって、順調にピップコートが職滅されており……。
近接格闘に 重きを置いた 猛々しい雄姿が 光っていたのだ。
…………。
レヴル・ロウに 2種類 用意された 武装型デバイスの中の 1つ。
小剣 L,L,Eを 駆使して……。怪人側の 歩兵 ソードペイジを刺し貫き、切り伏せて、柄頭で殴り砕いていく。
…………。
実動班の中でも 白兵戦が 得意な者だけで 構成しただけは有る戦況が、顕著に現れた筈だった。
…………。
「 第一班長。増援の八割は 撃破 完了です。 」
「 了解 !!このまま 俺達でなぎ倒すぞ !!!
とっとと片づけて、ビビり撃ちの 伊世を助けにいかないとなぁ !!! 」
…………。
近接格闘を 任せられれば 負け知らずの精強な集団。
彼らが 場のピップコートを殆ど 爆散させた頃合いで流れが変わる。
…………。
……。
いつの間にか 出現していた。灰色の翼を持った 天使型の 1体……。
その 1体の出現で、状況は 目覚ましく変わっていく。
…………。
「 ああっと……。はじめまして。俺様は 節制のエリアイズ。……よろしく。 」
…………。
気だるげで 簡素な 自己紹介だった。律儀なのか そうでもないのか……。そんな新手の登場に……。
精強な 近接班は 動き出す。
…………。
最初は 力量を見誤って 単独で仕掛けた 1人が、たった 一撃の殴打で 戦闘不能に陥ったのだ。
反撃で打ち込まれた 拳鉄の一撃である……。
…………。
過信した班員が招いた結果を覆そうと、5人が速やかに取り囲んでは 一斉攻撃に移る。
…………。
正面からは 3人 背後から 2人。これに限っては 油断など 排除された動きだった。
滑走機能で走行し、小剣の刃先を向けて 5人が迫っていく。
…………。
灰翼の天使は、無機質で変わらない表情でも……。
高揚したかのような 空気をまとって、片方の拳を もう片方の掌に軽く打ち付けた。
…………。
「 ハハハッ !そうこなくっちゃ……。 」
…………。
機嫌の良さを 言葉にして 即座に背中の翼を折りたたむ。
…………。
そして 降参でもしたかのように、わざとらしく両手を上げて……。
軽く開いた 左右の掌を、誰からも見えるように拳へと握り変えた。
…………。
これと 殆ど同じタイミングで、踊るような足さばきを見せる……。
…………。
身体の向きを 反転させて 両脇を閉じると、流れるように 短い距離を跳躍し 左右の拳で一撃ずつ。
軽快なリズムでの 殴打を繰り出していく。
…………。
背後から迫っていた 2人の レヴル・ロウは、これに対処できずに意識を飛ばし、頭を地面に打ち付けてしまった。
…………。
異様に場慣れした 灰翼の天使の挙動で、この場の殆どが恐怖し 面を食らう。
…………。
戦慄させる要因は 場慣れした動きだけではなく、拳の一撃で 戦闘不能に陥らせる、あまりにも怪人らしい 打撃の強さだ。
…………。
「 どうした !?そんなもんか ? 」
…………。
エヌ・ゼルプトには ピップコートには 無い特異な能力が有ると知らされているが……。
灰翼の天使は 翼をたたみ、拳だけで 第一班の班員を仕留めていく。
…………。
浮足立ったのは最初の数秒。
それでも たった数秒は、絶えず 動き続ける怪人を暴れさせるには充分だった。
…………。
全てが 只の一撃で片付いていく。
時間が経過するにつれて、一帯の景色は様変わりしていった。
…………。
……。
拳だけで 縦横無尽に暴れる 灰翼の天使の暴挙を阻もうと、1人のレヴル・ロウが立ちふさがる。
灰翼の天使の拳に 小剣の柄頭を ぶつけて……。その 1人が組みついた。
…………。
「 貴様 !!好きに暴れてくれたな !!! 」
…………。
この男は……。実動班の中でも大柄で、丹内空護(タンナイ クウゴ)に負けず劣らない頑丈な体躯を持つ。
…………。
彼誰五班の 班長の中でも、強靭な肉体故の 高い水準での 格闘適性が特に顕著で……、
過去には、チャリオットの候補者としても 期待された経歴を持つ古株。
…………。
もしかしたら、レヴル・ロウとして ではなく、アルバチャスとして 戦っていたかもしれない男なのだ。
…………。
「 ああ ?それがどうした ?……誰だてめえ ? 」
「 俺は この班の班長 !!木田郷太だ !!! 」
…………。
並大抵の エイオスならば……。この男が居れば、何の問題も無かった。
問題が有るとすれば……。
…………。
「 予選落ちの 雑魚がよ……。早く !!英雄 様を 出せってんだ !! 」
…………。
只々、相手が悪かったのだ。
…………。
木田郷太は、数秒間の押し合いに耐えたものの、戦局を そこから先へ押し戻すには至らない。
勇猛な レヴル・ロウが、エヌ・ゼルプトによって 殴り飛ばされる。
…………。
「 雑魚が しゃしゃりやがって。……まあいいや。
温まってきたし 良いもん見せてやるよ。
……喜べ。欲深い有機物共の大好物だ ! 」
…………。
エヌ・ゼルプトの実力を 前にしては……。
チャリオットの 起動負荷に、どうにか耐えうる程度の身体能力など 足元にも及ばなかったのだ。
…………。
ここからの エリアイズによる猛襲は……。格闘戦に長けた第一班を、瞬く間に追い詰めて切り崩していく。
…………。
灰翼の天使が、自身の周囲に呼び出した 2色の聖杯は……。
中空を回遊して 盃の中から光の弾丸を撃ち出した。
…………。
「 聖なる盃には 莫大な恩恵を授ける力が有るもんだ。
……だがな。
その 莫大な恩恵は、単純な破壊にも 流用出来るんだぜ ?
ハハハハハッ !!どうにか出来るか ?出来ねぇよな ?してみろよ !!
予選落ちの雑魚には、俺様の肩慣らしでも 本番って訳だ。
雑魚が雑魚を庇ってどれだけ 耐えられるってんだ。 」
…………。
中空を浮遊する 2色の聖杯から 光の雨が降り注ぐ。
木田郷太は、滑走機能を使い 退避出来ない班員の救護に走り回った。
…………。
第一班の中でも 動ける者は 木田郷太と同様に行動し……。
戦闘不能に陥っている者、あるいは システムを解除している班員の救援を行う。
…………。
灰翼の天使 エリアイズが、更に何かしらの能力を使ったのだろう、辺りの景色は異様に変化していった。
…………。
しばらくして……。多少の距離は 有るものの 第四班が到着する……。
恵花界(エハナ カイ)の視界には 悲惨な状況が映っていた。
…………。
「 これは……いったい……。 」
…………。
当初の目的は……。
第一班と 第四班の 2班で協力して 前線を下げながら後退する……。天瀬十一に促された時間稼ぎも兼ねた前線の後退。
…………。
しかし、第一班の状況は思いの外 酷く……。
人知を逸脱した景色が、恵花界の思考を 一時的に止めた。
…………。
……。
現状では、第一班の 戦闘可能な人数は 半数程度にまで激減し、戦闘不能な班員の何名かは既に絶命。
これに加えて、所々で 第一班の班員が一定の場に 文字通り 囚われている。
…………。
エリアイズの 能力によるものだと思われるが、どういった理屈なのか 一目では判別がつけられない。
…………。
意識を 失っているのか、生存しているのか……。
レヴル・ロウを 起動しているのか、何かを持っているのか……。
…………。
あらゆる 有無に関わらず、中空で落下もできずに 留まりもがく者。
地に足がついていても、その場から進むことも 戻る事も出来ない者。
…………。
どんな条件でも等しく、行動範囲が最小にされたような……。異様な事象が 第一班の殆どに適用されていた。
…………。
……。
身体が 硬直している訳ではなく、手足は 自由に動かせるが……。その場から離れる事だけが出来ない。
…………。
地面の上に設置している者は、無理やりにでも 進もうとしているが……。
元々いた場所に強く引き戻されて 戦いどころではない。
…………。
何の制限も無く動けるのは 第一班でも少ないようで……。
班長の 木田郷太は何度も エリアイズに組みついているようだった。
…………。
一班長が単独で 灰翼の天使と交戦する その裏では……。
完全に 自由の利く 第一班の何人かが、囚われていない負傷者を 仮設の安全圏まで 運ぼうと動き回っていた。
…………。
恵花界は 視界に納めた状況の概算から、緊急性の高さを 汲み取って 自身の班に命令を下達する。
…………。
「 彼誰五班 第四班は……。これより 第一班の撤退を援護する。敵は 目の前の 天使型 1体……。
敵は 未知の能力を持っている 可能性も高い。
射撃編成を主軸に行動し、近接編成は負傷者の救助を優先する。
各員、微細な変化に気を払って行動しろ。かかれ !! 」
…………。
第四班の加勢に気がついているのか いないのか……。
木田郷太は、エリアイズからの重い殴打を、自身の腹に受けとめると、その片腕を両手で 掴み捕縛してみせる。
…………。
咄嗟の行動だったのだろう。
傍らには 木田郷太の 小剣型武装 L,L,Eが 打ち捨てられて 転がっていた。
…………。
「 ……おいおい。予選落ちの雑魚が 頑張るじゃねぇか。
雑魚は 雑魚らしく、数に頼ったらどうだ ?
確かに 俺様の片腕は動けねぇが……。格上 相手に 足 止めたら、終わるのは てめえだろ ?
……まあ、いいや。俺様は 節制と調和の化身。平等主義者だ。
雑魚でも 無慈悲に潰してやるよ !! 」
…………。
エリアイズの周辺を 回遊する 赤と青の聖杯が、盃の内側を 木田郷太に向ける。
この場で戦う者ならば、これには見覚えが有った……。短い間に何度も目にした 危険な攻撃だ。
…………。
直接 身体に受けるべきではない……。灰翼の天使の 特殊な搦め手……。
…………。
「 なあ、予選落ち。お前 勝ち誇ってるだろ ?
あわよくば……。自分自身が囮に成って、俺様の攻撃に 俺様を巻き込む……。
そういう 頭 で動いてるよな ?
自分の素の能力が 雑魚だから 相手の力で起死回生……。泣けてくるね。
悪いけどさ、俺には俺の攻撃は効かないんだわ。
当たり前じゃん ?
聞いたこと有るか ?……その辺の健気な虫だって、自分の毒じゃ死なねぇじゃん ?
……馬鹿な奴だ。それじゃ ごちそうさん。 」
…………。
2色の聖杯から 同時に射出された 光の弾丸は……。
空中で交わると 螺旋の軌道に変化し 2つで 1つの弾丸に変わった。
…………。
赤と青の螺旋弾は……。瞬く間に 木田郷太へと近づいていく。
…………。
『 Law's Function !! Pentacle !!
( ロウズ ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
レヴル・ロウの 武装型デバイスに 唯一 組み込まれている、出力強化機能……。
それを 起動させた 動作音が成った。
…………。
小剣型 武装 L,L,Eによる 動作音が鳴ると……。
木田郷太の隣に割り込んだ 別のレヴル・ロウが、螺旋弾を 小剣の刃で受け止めている。
…………。
「 木田一班長……。御無事ですか…… ? 」
…………。
L,L,Eを 構えて 割り込んだのは 恵花界だった。
遠方から 滑走機能で急行し、木田郷太の L,L,Eを 広って 出力強化を起動したのだ。
…………。
「 恵花…… !!直ぐに L,L,Eを捨てろ !!! 」
…………。
木田郷太の 一言で 恵花界は 即座に武器を手放す。
鬼気迫る声に 反応し 反射的に身体を動かしたのである。
…………。
滑走機能で後退し……。元から携行していた小銃型武装……。R,R,Gを腰部の後方から取り出して……。
エリアイズに 打撃と銃撃を器用に加えては 距離を置いた。
…………。
恵花界の 速やかな 行動によって 隙が生まれると、木田郷太も エリアイズから 一定の距離を置く。
…………。
「 予選落ちが…… ⅹ 2 か……。少しはマシな動きだが……。
お前も 俺様の目当てじゃなねぇな。 」
…………。
灰翼の天使は、片方の拳を もう片方の掌に何度か打ち付けて 恵花界を値踏みした。
…………。
恵花界は、自身が先程まで握っていた 小剣の現状を目視して……。
今の惨状が どうのようにして 出来上がったのかを理解する。
…………。
先程まで 使用していた L,L,Eは、螺旋弾を受け止めた位置に留まり 落下せずに中空に残留していたのだ。
…………。
「 木田一班長……。これは……。 」
「 あの螺旋の弾丸は、アレを受けた場所に 被弾した対象を固定する !! 」
「 重力操作 でしょうか。いや、それならそれで 不自然だ……。 」
…………。
先程まで 使用していた 小剣型武装が、この一帯の不可解な現象の正体を仄めかす。
それでも 何が起きているのかまでは 断定するには難しい。
…………。
一班の班員の中には 負傷していない者も何名かが、同じ状態で中空に囚われているが……。
恵花界の目には、重力変化とは何かが違って見えた。
…………。
防戦を繰り広げるにしろ 敵の手の内を明かさない事には、根本的な状況は変えられない。
…………。
恵花界は 自前の小銃武装 R,R,Gの握把(あくは)を握った。
…………。
相手はエヌ・ゼルプト……。万に一つでも ピップコートのように 倒す事は考えられないだろう……。
副指揮長の バベルが 到着するか……。総指揮長の アポロンが 到着するか……。
…………。
どちらかの救援まで、持ちこたえつつ……。あわよくば 戦線を下げる。
今は それ以外の選択肢は 存在しない。
…………。
レヴル・ロウの 性能を 加味すれば……。それ以上を望んでは 最悪の事態を招くだろう……。
許容戦力を 遥かに超える エヌ・ゼルプトを相手に、今 以上の負傷者を出さずに 耐え抜く。
…………。
恵花界が 短い間に 行動指針を整えると……。灰翼の天使が 何かに気がついたのか、急な動作で 動き出した。
…………。
「 良いねぇ……。予選落ち ⅹ 2じゃ退屈だったんだ !!
まとめて相手してやるよ。平等にな !! 」
…………。
エリアイズは 流れるように 軽快な跳躍で、何かに近づいていく。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
第一班と 第四班が エリアイズと交戦しているのと 殆ど同じ頃。
…………。
運命の輪を司る エヌ・ゼルプト……。セドネッツァを相手に、第二班と 第三班は なんとか持ちこたえていた。
とはいえ、第三班も 勢いを大きく摩耗させ……。負傷者の増加に 難色を示している。
…………。
セドネッツァの 特殊な能力によって……。第三班が 得意とする 立ち回りは瓦解したのだ。
…………。
第三班は 隊列や陣形を整えてからの 集団射撃が 主軸の編成なのだが……。
第二班による 救援が 駆け付ける前に 多数の負傷者を出してしまったのである。
…………。
数人は吹き飛ばされ……。数人は セドネッツァの元へ引き寄せられ……。
引き寄せられた何人かが 針のような武器で 刺し貫かれてしまった。
…………。
第三班長を 努める 伊世伝次は、特化型の班を取り仕切る実力者である。
恵花界と 同程度に年齢も若いが 射撃の技能は高く……。その腕前では、群を抜いている若者だ。
…………。
だが、それも 射程距離を自在に調整できる 環境が整っていればこそ……。
…………。
只の 射撃訓練ならば 実動班でも指折りの若者も……。
滑走機能で 抗いきれない 未知の手段を操る怪人には、自身の実力を存分に発揮できない。
…………。
そんな 窮地で 合流したのが……。
第二班長 大代大(オオシロ マサル)が率いる 彼誰五班 第二班だった。
彼誰五班の中でも、複数存在する バランス型の編成が 成されている班の 1つが、壊滅寸前の 三班と 共闘する。
…………。
大代大は……。第三班の班長 伊世伝次や、第四班の班長 恵花界よりは 年長者に該当する人物で……。
年齢と経験に裏打ちされた 穏やかな気質で、安定した行動を得意としており……。実動班で 最も調整役として向いている男だ。
…………。
気質のせいか 特に苦手な武装等も無い。
恵花界が 年齢に反して、冷静で器用に立ち回れるのは、大代大の影響に よるものでもある。
…………。
崩れ始めた 第三班の救援に駆け付けた 調整役の青年は……。
セドネッツァが 扱う 針型の武器を、逆手に握った 小剣で受け止めて 格闘戦へと移行する。
…………。
「 伊世 君。助けに来たよ。僕と君なら きっと持ちこたえられる。 」
…………。
穏やかな口調とは正反対の 苛烈な近接格闘が、獣頭の怪人 セドネッツァに 繰り広げられた……。
…………。
戦いの最中……。大代大は、事前に共有された 情報を思い起こす。
…………。
……。
エヌ・ゼルプトには 大きく分けて 3つのカテゴリーが存在するという事だ……。
…………。
1つ目は……。マーへレスのような 君主型。
基本的に 身体能力が優れており、ピップコートを 交えた行動を得意とする。
兵を指揮し、それに付随する能力を持っている事が多い。外見も含めて 人間に近い特徴のカテゴリー。
…………。
2つ目……。ドゥークラやナティファーが属する 天使型。
単独での能力も高く、最も何かしらの意図をもって行動する。
固有能力も特殊で、共通項は 外見的特徴に 翼が確認できる事。
…………。
3つ目が……。遺物型……。
人らしい特徴も、天使らしい翼も持たない。
あらゆる面で 謎が多いらしく、情報の少ない エヌ・ゼルプトが 該当するようだ。
…………。
獣頭としての通称を持つ 今回の怪人が……。これに該当する……。
…………。
……。
以前……。
レヴル・ロウと アポロンの 初陣となった日から 目撃されている 新手のエヌ・ゼルプトは 2体が天使型。
残る 1体が 遺物型なのだとか……。
…………。
大代大は 穏やかな心根で、天瀬 副指揮長からの 共有事項を 思い出した。
…………。
接近戦を 請け負える自分は……。
伊世伝次と 第三班の総員が、第二班と共に 立て直しを行うまでの時間を稼いで、あわよくば……。
…………。
あわよくば……。2つの班の総力で、遺物型を倒し情報を得る。
不在に成ってしまった 2人のアルバチャスが 開けた穴の補填を……。これが最も理想の行動指針だろうか。
…………。
……。
大代大が 考えを巡らせたまま……。尚も近接戦闘の主体となって、セドネッツァと切り結んだ。
奮闘の お陰か……。
伊世伝次と、何名かの 銃射撃型 レヴル・ロウは、射撃の適性距離で隊列を作り直し始めていた。
…………。
足並みが揃い始める 戦況の中……。
この場で 最も強力な驚異を呼び込む怪人が 口を開く。
…………。
その声に……。大代大は 意外性を感じ取り 僅かに面を食らう。
…………。
「 下賤な 反逆者共め。よくも 朕に 刃を向けたな ! 」
「 女の声 ?驚いた。エイオスにも 性別が有るのか……。 」
「 そのような口、いつまでも叩けると思うな。 」
…………。
セドネッツァが、針を持っている手とは 反対側の掌で 針の柄頭に手をかざす。
すると、僅かに針の柄頭が輝いた。
…………。
「 二班長 !!アレが来る !!気をつけてください。 」
「 伊世 君。もう少し 具体的に言わないと……。
わからな……。……ぅうおう !? 」
…………。
セドネッツァが 彼誰五班 第三班を 追い詰めたソレが 発動する。
…………。
「 朕は 軽い輩など 好かぬ。……少し離れるのじゃ。無礼者め。
飛び道具使いの 童(わらべ)らよ。……こちらに来やれ。 」
…………。
大代大は 光の波紋によって 大きく吹き飛ばされた。
これとは逆に、入れ替わるようにして……。伊世伝次と 数名の射撃型は再度、セドネッツァの足元まで引き寄せられてしまう。
…………。
獣頭の怪人は、この機を逃さずに 針を何人かへと突き刺した。
…………。
伊世伝次は、小銃型武装を振るって 咄嗟に 受け流す……。
どうにか 迫りくる刺突から身を護るが、判断が遅れていれば命は無かっただろう。
…………。
「 ……ぁあ、あぶ。あぶぶ……………怖っ。 」
「 ほほほほほ。また避けたか。お前は実に愉快じゃ。
こちらに来て正解だったのう。ほれほれ。 」
「 ……んん !?嘘だろ……… !!
なんでだ !!なんで俺ばっか狙うんだよ !? 」
…………。
伊世伝次は、連続で繰り出される刺突から 逃れ続ける。
距離を取ろうと試みるが、一度体勢を崩している都合上 立ち上がる隙を 上手く見いだせない。
…………。
セドネッツァの武器は、射程範囲が広い武器では無いが……。
急激に引き寄せられてから 転倒している 伊世伝次にとっては、想像以上の脅威となった。
…………。
獣頭のエヌ・ゼルプトが操る能力は、位置取りを無為にしてしまう。
…………。
伊世伝次は 銃の扱いに長けているが……。接近戦は苦手だったのだ。
小銃型武装の基本動作にもある、握把(あくは)や 銃床部(じゅうしょうぶ)を使った打撃も込みで……。
格闘戦が不得手なのである。
…………。
訓練としては 履修していても、どうも気が引けてしまう。
…………。
「 もっと 朕を楽しませよ。愉快な 童(わらべ)め。
ここか ?こっちか ?ほほほほほ。そうら。そうら。 」
…………。
伊世伝次の 長所と短所は、彼誰五班の班長 皆が周知しており……。
大代大も これを知る人間として、戦況を上手く組み立てれるように 気には止めていた。
…………。
だからこそ、格闘戦を請け負うのが最善と捉えていたが……。セドネッツァの未知の能力が 連携を阻害する。
…………。
もう一度、接近戦を仕掛けるにしても、不可能な距離ではないが……。
やはり、少し遠い……。
これに加えて 戦況は絶えず動くものだ……。上手く間に合うか どうかは……。確証は無い。
…………。
大代大が ホバー滑走で 最接近を試みる途上……。
伊世伝次が 痺れを切らした。
…………。
「 チクショウ !!……んだよ。このエイオス。……こうなったら。
第三班 総員に下達する。いつものアレだ !! 」
「 ほほほほ。何を するつもりか 童(わらべ)よ……。
お前は、串刺しに成るのじゃ。
飛び道具を使えなければ、どうにもならんのじゃろ ?
それに、先程から……。兵に命令を下すのが旨いとは言えぬ。諦めよ……。 」
「 ダメだ……。怖すぎて無理だ……。いろいろ 出てきそう……。
けど……。諦めるのは お前だ !俺じゃない !
ああ。よいしょお !! 」
…………。
伊世伝次が、セドネッツァの針を R,R,Gで受け流す。
…………。
素早く上体を起こして……。足を縮めたままの かがみこんだ姿勢で 転がる様に起き上がった。
滑走機能を動作させて、しゃがんだままで 後方に進み 牽制射撃をバラ巻く。
…………。
セドネッツァの特性を 使用されないように 低い位置から片手を狙った。
…………。
ある程度 距離が開くと、伊世伝次は しゃがんだままで膝撃ちの姿勢を取る。
安定感を維持できる 射撃姿勢の 1つだ。これを行いつつ 後方へと滑走していく。
…………。
狙いは この時も変わらず、セドネッツァの 特異な能力の源と思われる 針を持っている手。
…………。
伊世伝次と セドネッツァの距離が 更に離れると……。
いつの間にか 隊列を組んでいた 第三班が、集団射撃を撃ち込んだ。
…………。
集団射撃に混じって、伊世伝次も絶えず スラローム膝撃ちを続けるが……。
先程から 全てのスラローム射撃を 1発も外さずに命中させている。
…………。
『 Rebel Function !! Pentacle !!
( レヴル ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
レヴル・ロウの 小銃型武装に用意された 出力強化機能が動作した。
通常の光弾の充填率が 変化して……。伊世伝次の握る 小銃型武装から 炸裂弾が射出される。
…………。
セドネッツァに 炸裂弾が届くよりも 少しだけ早く……。集団射撃による 弾幕は止んだ。
…………。
すると 今度は……。
先程まで 弾幕を張っていた 第三班の各班員も、伊世伝次と同様に 出力強化を起動させて 炸裂弾を撃ち込む。
…………。
伊世伝次が放った定点射撃と……。三班の班員が行った援護からの……。流れるような連携 射撃だった。
炸裂弾による 波状攻撃が 見事に決まったのである。
…………。
「 ……俺は ビビりだからさ。事前に 一定の隊列と 作戦を決めてるんだよ。
例えば今回みたいな時……。
俺が リアル低姿勢の時は……。
しゃがんだまま 滑走した 瞬間から、集中砲火の撃ち方 待機って感じでね。
状況で決めてるから、全部アレ で通じるんだよ。段取り十割……。
犠牲に成った班員の借りは 返させてもらう。 」
「 伊世 君。……やるねぇ。 」
…………。
第三班長の 伊世伝次の起点で……。
全ての炸裂弾が 時間差で飛翔していくと、程なくして セドネッツァが 複数の爆風に包まれる。
…………。
第二班長の 大代大も 変わっていく戦況に 深く感心した。
………………。
…………。
……。
~M2の黄色と赤色~
ニューヒキダの 各地で……。
3体の エヌ・ゼルプトとの戦いが 少しずつ移ろっていく。
…………。
C 地区では 運命の輪……。セドネッツァと 彼誰五班の 第二班と 第三班が……。
D 地区には 節制……。エリアイズと 第一班と 第四班が……。
複数の レヴル・ロウが 奮起する頃……。残りの 1体と交戦する人物もまた、戦いの中にいた。
…………。
E 地区……。吊るし人のエヌ・ゼルプト……。ウロドと 交戦しているのは……。1人のアルバチャス……。
凶事の塔をも意味する存在で……。彼誰五班の副指揮長も担う人物である。
…………。
……。
塔のアルバチャス code-16- バベル……。天瀬十一は……。
この時の エヌ・ゼルプトを相手に、焦燥感を募らせていた。
…………。
エヌ・ゼルプトは、吊るし人を司っており……。
天使型に属する種のようだが、他の天使型 水準の知性は 感じられない。
外見的な特徴も、どことなく みすぼらしく……。他の天使型よりも 翼も片翼で貧相だ。
まるで……。エヌ・ゼルプトよりも ピップコートに似た 細身の外見。
…………。
片手に持った 四つ又の鞭を 振るうにしても……。終始 野性的で 単純な動作が目立っている。
アルバチャスが 射撃武装と滑走機能を保持していると鑑みれば……。隙だらけの 強敵とは言えない筈の相手だ。
だというのに……。未も戦闘は継続されていた。
…………。
戦いが始まってから……。10分以上は 経過しているだろうか……。
天瀬十一が……。このエヌ・ゼルプトに 与えた攻撃は、八割以上が 命中している。
…………。
……。
逆に……。ウロドからの 攻撃は 軒並み 対処されて……。有効打にはなっていない。
例えば……。鞭の一振りは 刀剣型武装 B.A.Swordで 切り払われ……。
バベル特有の 補助アームをもってして 殴り落とされて、優勢なのは 怪人の側では無い筈だった。
…………。
それでも……。ウロドの動きは 一切鈍らない。
底知れない 耐久力なのか……。他の要因なのか……。吊るし人のエヌ・ゼルプトの挙動は 変わっていなかったのだ。
…………。
天瀬十一が ウロドから仕掛けられた 不意打ちは……。
吊るしあげられた ような 謎の搦め手を 一度 受けた だけ。
…………。
この時も……。塔のアルバチャスが取りうる 最善策が失敗は していないのに、吊るし人は 意に介さない。
…………。
相対する者にとって、これ程 気持ちの悪い事は無いだろう。
…………。
……。
現在……。他にも 2体の エヌ・ゼルプトが現れているのだ。
天瀬十一は……。交戦経験の浅い、彼誰五班の安否が気に成った……。
…………。
「 ……こいつ 耐久力が異常 過ぎる。 」
…………。
吊るし人のエヌ・ゼルプトは、片手間で相手をするには手強く……。
ピップコート 程度ならば まだしも……。
情報武装 アルカナ・サーチで 現状の詳細な確認を行う隙が どうにも作れない。
…………。
「 オマエ ザイニン。オマエ ザイニン……。
ウロド 二 カテナイ……。カテナイ ノハ オマエ……。
エリアイズ サマ ハナシテタ。
ウロド ヨリ ヨワイ ヤツ イラナイ。ウロド ヨリ ヨワイ ヤツ イラナイ。
イラナイ ヤツ ザイニン オナジ。
ザイニン ハ イラナイ SHI・NE。
ザイニン ハ イラナイ SHI・NE。ザイニン ハ イラナイ SHI・NE。 」
…………。
天瀬十一は、焦りや苛立ちを 抑え込んで、立ち回りと 戦いの行き先を 精査し続ける。
…………。
……。
アルバチャスの中でも、バベルは次世代型の先駆けに該当する。
使用者への負担も 飛躍的に軽く、既存の武装システムや 滑走機能も備え……。
新しい試みとして、アポロンに搭載する 機能の試作を も合わせ持っているのだ。
…………。
情報武装の発展型。
…………。
Arcana Search ver 1.6
( アルカナ・サーチ バージョン 1.6 )
主に レヴル・ロウの動作を、これまでの 戦闘データで補助する機能……。相手の意識を残して適用可能な 戦闘補助 機能だ。
…………。
この他にも、膨大な演算を可能にする 出力強化機構と、その応用による武装が 1つ存在しており、回路の名前は……。
…………。
Element Core 弐式
( エレメント・コア・ニシキ )
…………。
これによって デバイスに組み込まれた マルクトの素養に合わせた エネルギー生成を行い……。
継続的に出力強化を行っては、耐久能力向上や 攻撃面での転用にも役立てている。
…………。
従来型の code-0-や code-7-にも 搭載されている、Element Core 壱式を 発展させた回路なのだ。
…………。
バベルの場合は 電気エネルギーを……。
アポロンの場合は 熱エネルギーを増幅し、既存のアルバチャスには 実現できない性能の 動力として賄っている。
…………。
エネルギーを増幅した際の トルク調整の為に、専用のジェネレーターも用意されており……。
アポロンは背面の 日輪型の意匠が これに該当していた。
…………。
バベルは 補助アームの 片方に取り付けられた 雷型の意匠が 主要ジェネレーターであり……。
顔面部に取り付けられた 雷型の意匠も この機能の補備として動作している。
…………。
膨大な量の エネルギー増幅は 最大で……。
ストゥピッドの B.A.Pentacleを 常時使用しているのと 同程度にまで迫るとされているのだ。
…………。
……。
つまり……。情報武装の発展型も搭載し……。
精強な エネルギー生成回路にしても破格の性能を 発揮できるのが……。code-16-と code-19-なのである。
…………。
補助アームこそ、code-16-にしか採用されなかった 天瀬十一のアドリブに近い おまけのようなモノだが……。
それ以外では アポロンと 似たような性能を誇る バベルなのだ。
…………。
だからこそ、バベルが手こずる程に ウロドの異質さが 際立っていく。
…………。
……。
そんな時だった……。あらゆる手段を試しても 長引く戦闘に変化が起きた。
…………。
これまでは……。
何をしても 怯みすらしない 片翼の怪人が、翼を広げて何処かへと飛び去ったのである。
…………。
この機に……。飛翔する途中の ウロド目掛けて……。
塔のアルバチャスから……。雷鳴の弾丸が B.A.Cupでもってして注ぎ込まれるが……。怪人は これに対しても 微動だにしない。
…………。
「 なんだ……。どうして急に……。 」
…………。
ウロドの行動は 気に成ったが……。
天瀬十一は……。急いで アルカナ・サーチから 情報を引き出して、各班の状況に目を通した。
…………。
全体にも及ぶ戦況の変化が……。人知れず動き出す。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
彼誰五班の 第二班と 第三班は……。
両班の班長を 中心にして、エヌ・ゼルプトを爆風に包んだ 筈だった……。
この 両班が相対するのは……。運命の輪……。セドネッツァ……。遺物型とされる怪人だ。
…………。
「 伊世 君……。さっき、いい感じに倒せそうな雰囲気 出してたよね。 」
「 ……それ言わないでくださいよ 二班長。
とりあえず……。うっは !!怖っ !
全員、逃げろぉ !!ダメだ 俺達みたいな 量産型に出来る相手じゃない……。
こんな状況は 冗談だけにしてくれよ。
んだよアレ……。倒せたと 思うじゃん……。なんで無傷なんだよ……。 」
「 伊世 君。
実は僕さ……。さっきまでは 君の班の救援 必要ないかなって 思ってたんだけど……。
必要だった……。副指揮長の見立て通り、合流して良かった。
目的は果たしたし、このまま 逃げよっか。撤退だ。 」
…………。
第二班長 大代大と……。第三班長 伊世伝次は……。滑走機能で並走し言葉を交わした。
…………。
大代大の指示によって、第三班の死傷者は 既に搬送状況が整えられて、最前列で 退避ルートを目指して進んでいる。
殿(しんがり)として、最後列を 両班の班長が並走している状況だ。
…………。
戦闘行動が とれる班員の殆どは、最前列の警護用の編成として 随行させている。
…………。
……。
つい 先程……。
…………。
……。
多数の レヴル・ロウで 行った集中放火だったが 甘くは無かった。
…………。
爆風は 途中で光の波紋に 吹き飛ばされて、熱風が瞬時に沈下すると……。続けて何度も 波紋が噴出する。
…………。
光の波紋は、獣頭の怪人を中心にして広がっているようだった。
一定の間隔で、水面に小石を落とし続けるように、幾つもの数の光の波紋が広がっていく。
…………。
セドネッツァを 中心にして 光の波紋が 何重にも発生し……。
綺麗な光の真円が 樹木の年輪のような様相で 周囲に行き渡ったのだ。
…………。
1度に出される波紋が そのまま 大きな 1本の光のリングと成って、これに触れた者を拘束した。
波紋から変化した 光のリングは……。その大きな光のリングの軌道上で 触れている 全員を等しく捉えている。
…………。
光の輪が 複数のレヴル・ロウを巻き込むと……。発生源の怪人を 中心軸にして 回転し始めたのだ。
…………。
光のリングは 幾層分も存在するが……。どれもが バラバラの速度で回転している。
まるで……。樹木の年輪の 1つ 1つが、時計回り もしくは……。反時計回りで 動き続けるような光景だ……。
…………。
これに捉えられた 実動班の面々は……。
自分自身が 惑星の衛星にでも 成ったかのような……。逃れられない強制力のようなものを叩き込まれる。
…………。
遠心力を持って 遠方に弾き出される者……。逆に渦の中に引き寄せらるように 回転範囲を縮小される者……。
セドネッツァは……。自身を中心にして……。周囲を回転させ続ける奇妙な能力を扱えるようだった。
…………。
……。
運命の輪を司るエヌ・ゼルプト……。セドネッツァ……。
…………。
……。
この 1体の怪人を中心に、見えない強制力で振り回され続けるのである。
…………。
交戦時の 最初に行っていた 単純に吹き飛ばした技も……。
第三班の隊列を 急激に崩して 引き寄せる能力も……。この片鱗に過ぎないのだろう。
…………。
どうやら……。何層も 存在する光のリング毎に、回る向きもスピードも異なるらしい。
…………。
一度 運命の輪に組み込まれた者は……。当人の自由意志にも関係なく……。
いつまでも回され続けて……。いつ弾き出されて しまうのかも 引き寄せられるのかも わからない。
…………。
先程まで、セドネッツァを取り囲んでいた、レヴル・ロウは皆……。
これに巻き込まれて 平衡感覚を狂わされたまま 吹き飛ばされた。
…………。
……。
以降……。
辛うじて 立て直すが 戦意は削がれ……。士気が大きく下がってしまう。
…………。
両班の班長は 咄嗟に話し合い 今後の行動を決めた。
第二班の班員の合流によって、今なら動ける班員が多い事に着目した結果だ。
…………。
長期戦は避けて、速やかに死傷者を護送し撤退……。相手との実力差が大きいと わかった際の戦略的な損切である。
…………。
……。
そして 今……。
撤退を行う 両班の背後を……。獣頭の怪人が 追跡し……。怪人は 後方からの追撃を狙っている。
…………。
「 逃さぬぞ。串刺しにしてくれる。
運命の輪からは、誰も逃れられぬぞえ。 」
…………。
後方からの追撃を、両班の班長が防ぎながら……。どうにか撤退戦を繰り広げているのだ。
…………。
セドネッツァが 片手に持つ針の先端から、鋭い光の針先が 数本 射出される。
…………。
これで何度目になるのか……。
大代大は ホバー移動を継続しつつ……。小剣型武装で切り払う。
後方の セドネッツァの方向に 身体の正面を向けて行う、飛び道具による追撃への対処だ。
…………。
「 まいったな……。このままだと 逃げるにしてもキリがない。
かと言って……。戦っても 勝ちは無いのと同然。……少し ヤバいか。 」
「 少しじゃ 済まないですよ。
こっちからの銃撃も、光の波みたいな アレで受け止めちゃうし……。
あの光に取り込まれたら、銃弾も遠心力みたいなので 方向まで変えられちゃうなんて……。
最悪だと。こっちに返品してくるとか……。反則だ。
副指揮長か 総指揮長とかじゃなきゃ 絶対無理な奴でしょ。アレ……。 」
…………。
伊世伝次は 不意に後方を目視する。
視界に映ったのは、今にも追いつきそうな勢いで 迫る怪人だった。
…………。
「 …………怖っ。 」
…………。
伊世伝次が、後方から迫るセドネッツァに戦慄し、視界を前方に戻す瞬間……。
赤色と黄色の……。見覚えのある何かと すれ違う。
…………。
その何かは、ニューヒキダで 半年程 戦い続けてきた……。
現在。捜索任務の対象にも成っている存在……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
赤色と黄色の何かは、伊世伝次と すれ違う瞬間に起動音を鳴らす……。
大代大が、口を開いたのは この直ぐ後の事だった。
…………。
「 総員。止まれ……。
これは何が起きたんだ ?……僕達は エヌ・ゼルプトに追われていた。 」
…………。
後方に 身体の正面を向けたまま 後ろ滑りで滑走していたからこそ……。大代大は 急な変化に驚いたようだ。
いつも、動じない人物の反応は特に強い説得力を持たせる。
…………。
「 二班長 ?……三班も待機だ。状況が変わった 可能性が高い。
あのエイオスは何処に……。 」
…………。
伊世伝次も また 撤退の為の移動を停止し、大代大と同様の方角を目視した。
…………。
軽く周囲を見渡しても、セドネッツァの痕跡は見当たらない。
静かだった……。
…………。
この場から 発生している音は殆ど無く……。
注意を払って 耳を澄ましたとしても……。聞こえてくるのは、遠くの区画での 戦闘による音だけだろうか。
…………。
何かがあった筈だが 何もわからないままに……。静かになっていたのだ。
…………。
「 なあ……。伊世 君。ほんの一瞬だけど、何かが少しだけ見えた気がするんだ。
もしかして……。 」
「 たぶん。正解だと思います……。それ。
俺達は 助けられた……。あんなのを相手に戦えるなんて、反則ですよね。 」
…………。
恐らく助かったのだろう。
恐らく……。第二班と第三班は……。何者かに助けられたのだ……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
大代大と 伊世伝次が、駐留している場所から離れた物陰では……。
赤色と黄色の 派手な外見を持つ アルバチャスが、全身を包む水色の輝きを解除させた。
…………。
水色の輝きが霧散して消えると、程なくして アルバチャスすらも解除して、身体に残った疲労感を落ち着かせる。
…………。
あらかじめ、この場所に隠しておいた衣納(いのう)から、携行水と 簡単な携行食を取り出して 短い休息を取った。
…………。
……。
短い休息を取っている この青年は 先程……。
ストゥピッドの アルカナサーチによって 周辺で勃発している エヌ・ゼルプトの猛威を感知したのだ……。
…………。
最も近い 交戦地域まで 駆け付けて 戦ったのが直近の出来事だったのである。
青年は 静かに考えを巡らせた。
…………。
今さっき、交戦したのは、新手の エヌ・ゼルプトだろう。
でなければ、レヴル・ロウが手痛い状況に追い込まれるにしても 説得力が弱い。
…………。
獣のような頭部を持った 小柄なエヌ・ゼルプトだった。
少しだけ、交戦して直ぐに 何処かへ姿をくらませてしまったようだが……。
…………。
DEFの 機能の 1つ……。タロットでは 月のカードに相当するモードの超加速で……。
数発の殴打や蹴りを叩き込んだが……。倒すには至らなかった。
…………。
確かだったのは、明確な殺意と 状況を切り分ける冷静さだ。
白翼の天使とは異なる、猟奇的な刃物のような気配。
…………。
あれ程の意思を 持つなら、単純に逃げたとは考えずらい。
…………。
……。
青年 有馬要人(アリマ カナト)は、ペットボトルの水を 口に含んで 喉を潤す。
そして、一呼吸を 置いてから 携行食のプロティンバーを口の中に放り込んだ。
…………。
口元と、手指についた 携行食の欠片を軽く払い落して 更に考える。
…………。
「 DEFか……。 」
…………。
それは、神地聖正の暴挙を防ぎたい一心で、天瀬慎一が作った切り札。
太陽のアルバチャス code-19……。アポロンが行う、強制制御機能への対抗手段。
…………。
たしか……。
アルバチャスの機能を 外側から保護し、それに併合して 3つの新たな武装を使用可能にするのだとか……。
…………。
……。
DEF THE STAR。
あらゆる挙動を部分的、瞬間的に複製する 群のモード。単独で多を相手にする上で 適した機能だ。
…………。
DEF THE MOON。
超速度での行動を実現する 速のモード。最大限界値は 月の公転速度にも 匹敵するらしい。
…………。
どちらも、使用してみたが STARはともかく、MOONの負荷は 想像以上に大きかった。
恩恵が強力な程……。とでも言った所なのかもしれない。
…………。
この機能を 新たに追加されたデバイスを 受け取った時に 言われた事は……。
…………。
……。
本来の性能を引き出す。
…………。
愚者のアルバチャス code-0-の……。本来の……。
…………。
……。
青年は しばらく考え込むが……。これらかの事にも 改めて考えの照準を合わせた。
…………。
誰かから 何かを聞き出す時に必要なのは、前提として 相手を その気にさせる事……。
しかし、圧倒的に有利な立場の……。恐らく……。その気に成る必要が無いであろう相手だ。
…………。
もしかしたら……。
たぶん 味方とも 思われていないような相手に対して、善意で そうする望みは 限りなく薄い。
……なら、少なくとも対等な力関係でもなければ、好きなように誤魔化される。
…………。
その為にも……。DEFを 使いこなせるようにならなければ……。
…………。
「 そうすれば……。神地さん や 十一さん から、何か聞き出せるか……。 」
…………。
青年は 一巡り 思案を終えて……。アルカナサーチを起動すると、周囲の状況を確認する。
深く 深呼吸をして、青年は 次の行動に移行した。
………………。
…………。
……。
~ピルグリム~
彼誰五班の 第一班と班長の 木田郷太と……。
第四班と班長の 恵花界が合流し……。節制を司る エヌ・ゼルプト エリアイズと相対してから……。
…………。
さほど時間も経過せずに、次なる状況の変化が 次々と来訪してくる。
…………。
……。
灰翼の天使 エリアイズは……。
彼誰五班の中でも 白兵戦が得意な第一班に 容易く大打撃を与えて……。
2色の聖杯で 搦め手すらも見せつけたのが 先程までの事だった。
…………。
……。
エリアイズと 捨て身で組み合った 木田郷太の窮地を救ったのは……。
救援として現れた 第四班と 四班長の恵花界である。
…………。
第四班は……。近接編成と、銃射撃編成を 混成させて作られた バランス型でもあり……。
第一班が 苦手としている分野への 補助が期待された。
…………。
数だけを見れば……。木田郷太と 恵花界が 有利に見えるが 相手はエヌ・ゼルプト……。
それも、単独で武闘派の 第一班を 半壊まで追いやった化け物だ。
…………。
この化け物には 余力が有るようで、未だに全力な訳でもない。
…………。
更に 厄介な事に……。
エリアイズが操る 赤と青の聖杯は、特殊な効果の螺旋弾すらも発射する。
中空の死角から 赤と青の聖杯を用いて、単純な攻撃としての光弾と……。特殊な螺旋の弾丸を 使い分けて操るのだ。
…………。
螺旋の弾が命中すると……。強い衝撃に加えて被弾対象を一定の条件に従って 捕縛する効果が発揮されるらしい。
…………。
この条件も、どういう原理で捕縛され……。
行動を制限されているのかも未知数で、言い知れない圧力を感じずにはいられない。
…………。
灰翼の天使は、片方の拳を もう片方の掌に何度か打ち付けて 恵花界を値踏みしている。
…………。
……。
相手はエヌ・ゼルプト……。万に一つでも ピップコートのように 倒す事は考えられないだろう……。
副指揮長の バベルが 到着するか……。総指揮長の アポロンが 到着するか……。
…………。
どちらかの救援まで、持ちこたえつつ……。あわよくば 戦線を下げる。
今は それ以外の選択肢は 存在しない。
…………。
レヴル・ロウの 性能を 加味すれば……。それ以上を望んでは 最悪の事態を招くだろう……。
許容戦力を 遥かに超える エヌ・ゼルプトを相手に、今 以上の負傷者を出さずに 耐え抜く。
…………。
恵花界が 短い間に 行動指針を整えると……。灰翼の天使が 何かに気がついたのか、急な動作で 動き出した。
…………。
「 良いねぇ……。予選落ち ⅹ 2じゃ退屈だったんだ !!
まとめて相手してやるよ。平等にな !! 」
…………。
エリアイズは 流れるように 軽快な跳躍で、何かに近づいていく。
…………。
……。
灰翼の天使が、これまでとは 比べ物に成らない勢いで拳を繰り出した。
殴打は、何かに ぶつかり空気を振るわせる。
…………。
「 待ちくたびれたたぜ !!……たしか、お前だったよな ?
今回の !!英雄 様は !! 」
…………。
エリアイズの拳を 掌で受け止める何者かは、背中に日輪のような円環を煌めかせていた。
…………。
頭部には王冠を模した意匠を持つ、体表が紅いアルバチャス……。
この地で復興活動を取り仕切る企業の頂点に立つ男……。
…………。
太陽のアルバチャス code-19- アポロン。……神地聖正である。
…………。
「 ……節制のエリアイズ。私に 会いたかったかい ?
私もさ……。君達と、こうして戦う時を 心待ちにしていた !! 」
…………。
アポロンの背面の 光冠型ジェネレーターが 輝きを強める。
エリアイズの拳を 掴んでいた方の 掌が 腕部 諸共 赤熱した。
…………。
灰翼の天使が 更に力を込めて押し込んでいるようだが……。
紅蓮の掌は 握力を強めているのか……。決して離さず、反対側の拳がエリアイズの脇腹を捉えた。
…………。
先程まで 自由に暴れていた エヌ・ゼルプトが、ここにきて始めて殴り飛ばされる。
…………。
「 第一班も 第四班も……。よくぞ 耐え抜いた。怖かっただろう ?
無理もない。アレは 22災害の主犯共だ。
……だが、私が来たからには安心してい良い。
安心して 被害状況の洗い出しと、負傷者の搬送作業に当たってくれたまえ。 」
…………。
圧倒的な強さは、張りつめていた緊張感を緩めていく。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Cup !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! カップ !! ) 』
…………。
神地聖正は すぐさま 武装機能を 起動して、無数の火球を発射した。
火球が放たれた矛先も……。太陽が歩く方向も……。エリアイズの方角へ向いている。
…………。
この時の動きは、彼誰五班の 第一班と 第四班が、被害状況の確認に移り始めるよりも迅速で……。
少しずつ戦地を移動させていった。
…………。
灰翼の天使は 地面を軽く蹴って 初速を出すと、火球が向かってくる方角へ跳躍する。
…………。
「 随分 余裕だな !!……知ってるぜ ?
今まで 引きこもってたんだろ ?自分で戦うのが怖くて !!
ビビってたんだよな !?
てめぇは格好つけられる程なのかよ ?英雄 様よぉ !! 」
…………。
エリアイズは 一瞬だけ翼を展開し……。
たった 1回の羽ばたきで 吹き飛ばされた分の距離を埋める。驚異的な速度で推進力を生み出した。
…………。
翼は直ぐに 再収納し、アポロンが放った B.A.Cupからの火球を 器用に回避してみせる。
…………。
最小限の跳躍。最小限の羽ばたき。
この 2つを 極短時間に組み合わせて、砲弾のように重い速度の拳がアポロンに届いたのだ。
…………。
神地聖正は、再度 掌で拳を掴み直撃を免れるが、衝撃の強さは しっかりと感じ取ったらしい。
…………。
「 流石、天使型だ……。
嬉しいよ 臆せずに、原始的な拳だけで挑んでくれて。
だが、太陽に自ら身を投げるなんて……。勇気と無謀を履き違えている。
……大事な翼も崩れ落ちるぞ ?……エリアイズ。 」
…………。
神地聖正は 片手で拳を掴んだまま、反対側の手で握った B.A.Cupの銃口を エリアイズの腹に添える。
アポロンと エリアイズは爆風に包まれた。
…………。
……。
灰翼の天使が、爆風から飛びのいて離脱する。
翼を素早く展開して、灰燼を払い飛ばした……。
…………。
「 なるほどな……。悪くはねぇが 雑な攻撃だ。
法の光……。アレは てめぇが頼りにする 奥の手の 1つなんだろ ?
法の光は、アルカナが及ぶ 意思有る者を 拘束する。
便利だよな ?俺達 光の使途にも 人間にも使えるんだ……。
どうして 今 それを使わない ? 」
「 必要が無いからさ……。それに、真なるアルバチャスの試運転には調度良い。
君のような、中流以上の エヌ・ゼルプトを相手に、どれだけ戦えるかが指標に成る。
今の、イェルクスの基準も見えてくるだろう。
天使等、前座に過ぎないのだから。 」
「 ハハハッ !!おもしっれぇ冗談だ……。
笑えるぜ……。嘘つきが。
必要ないんじゃない……。俺には使えないんだ……。そうだよなぁ ?
適当な事、抜かしてんじゃねぇぞ !! 」
…………。
灰翼の天使は、至近距離で 爆撃を浴びたとは思えない程、轟々と 乱打を打ち出して戦う。
神地聖正も、同様に 自身の最大限の実力を未だに露見させずに攻防を繰り広げた。
…………。
武闘派のエリアイズに、遅れる事なく渡り合い……。B.A.Cupでの殴打や銃撃を返していく。
…………。
灰翼の天使と 太陽の戦いは凄まじく……。
木田郷太と 恵花界には 付け入る隙すら見当たらない。
…………。
……。
激化する戦いの中でも……。全てが 勝敗の決め手には 未だ ほど遠い中で……。更なる変化が現れ始める。
…………。
アポロンが エリアイズに、何度目かの銃撃を叩き込んでいる瞬間だった。
光の針が 狙いを狂わせるように疎らに飛来したのだ。
…………。
もちろん、光の針を飛ばしたのは レヴル・ロウでも エリアイズでもない。
…………。
それは 獣のような頭部が特徴で、針型の武器を持つ エヌ・ゼルプトによる 介入だ。
…………。
「 こ奴が、この度の英雄かえ。
エリアイズ様。妾(わらわ)も、戦線に加わろるぞえ。運命の輪 セドネッツァ参る。 」
…………。
セドネッツァが 光の針先を 無数に飛ばし、火球を穿ち 貫き砕く。
太陽が放つ火球の全ては、エリアイズを目指す途中で削られていき、ことごとく微細な塵となってしまった。
…………。
戦況の変化は、まだまだ続く。
…………。
神地聖正が ホバー移動で絶えず動き回り……。
更に 火球を撃ち出すが、後方より気配を感じ取って 滑走の進路を変更する。
…………。
進路の変更は判断として正解だった。
先程まで滑走で移動する予定だった場所の地面が削がれていたのだ。
…………。
長さのある何かが命中したらしい。この原因と正体は アルカナサーチによって直ぐに判明する。
…………。
エヌ・ゼルプトが もう 1体……。
天使型でも 貧相で長身……。翼も小さく 片方にしか存在しない。
四つ又の鞭を振るう 刑死者……。もしくは……。吊るし人のエヌ・ゼルプト。ウロドによる仕業だ。
…………。
「 ウロド コンド コソ ミツケタ。
ザイニン ノ エイユウ ミツケタ。ウロド オマエ ヲ タオス。
ザイニン ヲ バッスル SHI・NE。
ウロド エリアイズ サマ ノ ヤクニタツ。ウロド エリアイズ サマ ノ ヤクニタツ。
オマエ エイユウ SHI・NE。 」
…………。
ウロドは その見た目以上に 頑丈な身体で……。
銃撃以外の攻撃さえも 身を挺して防ぎ、四つ又の鞭で 追撃すらも繰り出す。
…………。
流石のアポロンでも、3体の エヌ・ゼルプトの息の合った攻防には手を焼いているようだった。
…………。
中遠距離では、セドネッツァの光の針と エリアイズの聖杯からの光弾が……。
近距離では、ウロドの四つ又の鞭が……。
…………。
至近距離に飛び込んでも、それこそ……。
エリアイズの 適性 射程距離とも言えるからか、苛烈な拳が歓迎するのである。
…………。
「 単独では、私に敵わないと悟ったわけか。
天使型とは言っても、この程度という訳だ。光の試練の制覇も、思いの外 容易いのだな。
何体で来ようが 真のアルバチャスの敵では無い。
良いだろう……。太陽の輝きを見せてやろう。 」
…………。
3体のエヌ・ゼルプトの立ち回りには、以前 余裕が有る。
固有の特性は完全には出し切っていない筈だ……。
…………。
「 ハハハッ。何か見せてくれるのかい ?
奥の手が他にも有るなら、早く出さねぇと終わっちまうぞ ?
こちとら、光の試練の篩(ふるい)として、全力で狙わせて貰うからよ。
悪く思うなよ ?この世界も終わりだ……。 」
…………。
神地聖正は 人知れず ほくそ笑む。
…………。
先に仕掛けるのも悪くはない。それならば……、完膚なきまでに……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE MOON !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! ムーン !! ) 』
…………。
アポロンと 3体のエヌ・ゼルプトが 雌雄を決しようと身構えた矢先だった。
何かが割り込んで……。超速度での打撃を ある 2つのターゲットに叩き込む……。
…………。
エリアイズは 咄嗟に反応し、気がつくと片手で これを防御していた。
アポロンもまた、何かに気がついて 後方に飛びのいて殴打の衝撃を和らげる。
…………。
「 これは……。
エヌ・ゼルプトの反応では無いな。もしや アルバチャス……。なるほど 有馬 君か。 」
…………。
神地聖正は、即座に予測を付けた。
謎のシステムの動作音は、更に鳴り響く……。
…………。
『 Device Error Factor !! Cross Function !! THE STAR !!
( デバイス エラー ファクター !! クロス・ファンクション !! スター !! ) 』
…………。
水色の輝きの エネルギーで、全身を包んでいるアルバチャスは、黄色い輝きに切り替える。
その後からの攻撃は 宙に輝く星の光の様に、無数に撃ち出されて 殴打や蹴りが多量に繰り出された。
…………。
セドネッツァと ウロドは これを正面から受けてしまい、堪えきれずに後方へと吹き飛ばされる。
…………。
黄色の輝きを 一度解除して霧散させると……。小さく一呼吸を置いて、その青年が口を開いた。
…………。
「 神地さん……。何となく、ついでに パンチしちゃいましたけど……。
俺が 貴方に加勢します。あのエイオス……。手強いんでしょ ?
そのかわり、俺にも 協力してもらいます……。
この地の不毛な戦いを終わらせたい。知ってる事、全部 話してください。 」
…………。
愚者が太陽を睨み、肩を並べる。
神地聖正は、自身の掌から殴打の残滓を感じ取った。
………………。
…………。
……。
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