- 14話 -
仲介者
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目次
~純粋な本質~
ニューヒキダ南西方面……。
とある一角では 大量に出現した怪人達、ペイジ型のピップコートとの戦いが繰り広げられている。
一糸乱れぬ まとまった動きで立ち回る 複数の戦士達は……。
赤色の眼光を持つ 量産型……。レヴル・ロウだ。
…………。
……。
怪人達は、ニューヒキダを主に現れる謎の存在で、エイオスと総称されている。
…………。
エイオスは大きく分けて 2種類に 大別されていた。
…………。
兵の役割を持ち、同一個体が複数出現する事も有るピップコート と……。
それらを指揮し、単独でも 高い戦闘能力を発揮する 無二の怪人 エヌ・ゼルプトである。
…………。
この時に跋扈(ばっこ)している ピップコートは……。
ペイジ型と呼称される 斥候や歩兵に近い存在で、単眼の爬虫類のような特徴を持つ。
過去の大災害と同然に ひしめく が、レヴル・ロウ達によって次々と倒され爆散していった。
…………。
……。
それでも ピップコートの数も勢いも決して衰えず……。
数多の ペイジ型を指揮する存在の後押しで、勢いを増していく。
真紅の体表を特徴に持つ戦士のような怪人が 低く凄みのある声で呟いた。
…………。
「 ……ついに始まる。 」
…………。
この怪人は……。
片手に木剣を持ち、その反対の片手には 木製にも見える盾を携行しており……。
外見上の特徴として、部族のような印象が目立つ。
…………。
ニューヒキダに残された情報によれば、過去の大災害において あらゆる怪人を 単独で撃破したとされている……。
最も謎の多い エイオスの 1体だ。
…………。
真紅の戦士……。と呼称される異質な怪人に……。
数発の火球が飛来した。
…………。
火球は、どれもが直径にして 1m程度の大きさだったが……。
真紅の戦士によって 全てが容易く切り払われる。
…………。
両断された火球が爆発し、真紅の戦士の視界を短時間の間だけ奪った。
爆炎を囮に仕立て上げた火球の射手は、真紅の戦士の懐に飛び込み拳を打ち付ける。
…………。
真紅の戦士に拳を ぶつけた者も色彩は鮮やかで……。
赤色が目立つ外見と、背中には太陽を彷彿とさせる円環が輝いていた。
…………。
太陽のアルバチャス……。神地聖正(カミチ キヨマサ)である。
…………。
「 見つけたぞ。カシュマトアトル……。
本来の名前は ログ……。だったか ?
私は 人々を導く英雄として、アルカナ最強の戦士を超える !!
貴様を倒そう !!真のアルバチャスの力によって !! 」
…………。
真のアルバチャスと、カシュマトアトルの力量は互いに拮抗しているのか……。
周囲のピップコートを巻き込み、爆風で蒸発させながらも、激戦を加速させていった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
そんな中、各地で舞い上がる戦塵や、黒煙から遠ざかるようにして……。
ひたすら郊外へ向けて上空を飛翔するピップコートがいた。
…………。
このピップコートは 騎士の特徴を持ち、ピップコートの中では唯一の飛翔能力を持つ種に属した 1体である。
…………。
本来ならば、両手に双剣を携えて 風のように縦横無尽に切りすさぶ個体でもあり……。
簡単に被弾するような怪人では無い。
…………。
ピップコートの中でも指折りの実力を持つ怪人だ。
…………。
それ程の実力を持った騎士が、激しく消耗しながらも 上空を飛翔していく。
…………。
身体中に亀裂が走っている現状には訳が有った。
飛び交う銃撃で、避けきれないものは 自ら被弾している……。
…………。
まるで……。
両手に抱えた 2人のアルバチャスを銃弾から護る為の 動きのようだった。
…………。
2人のアルバチャスは、白色の鎧が特徴的な 戦馬車と……。
赤と黄色の色彩が鮮やかな愚者のアルバチャスである。
…………。
2人のアルバチャスは ある理由によって、戦おうにも身体が動かせず窮地に陥ってしまったのだ。
…………。
……。
つい、先ほど……。
…………。
……。
愚者……。戦馬車……。塔……。太陽の……。
4人のアルバチャスが……。戦い……。1つの結果を迎えた。
太陽のアルバチャスが、背面の円環を より強く赤々と輝かせる。
…………。
「 ……まったく。物分かりの悪い愚か者どもめ。 」
…………。
円環から放出される光の粒子は、膨大なアルカナの光を産み出していた。
太陽のアルバチャスが何かを行った……。
…………。
これによる状況の変化を……。
戦馬車のアルバチャスも、愚者のアルバチャスも 即座に察知する。
丹内空護(タンナイ クウゴ)も……。有馬要人(アリマ カナト)も……。
この事象には成す術がなかった。
2人は 指の 1本すらも動かせない……。
これを行ったのは、恐らく 背中に円環を抱く 太陽のアルバチャスだろう。
…………。
「 法とは絶対の摂理。
誰もが これに服従する。
マルクトを扱えても、それだけならば……。
無慈悲に嬲(なぶ)られるしかない。 」
…………。
身体を動かせずに困惑する 2人に、実力を示した太陽の化身が ゆっくりと迫っていく。
…………。
絶対的な窮地を救ったのは……。
これまで、問答無用で戦ってきた謎の怪人の中の数体だった。
…………。
2人のアルバチャスを抱えて 今も飛翔する剣騎士は……。
地上から飛び交う 銃撃から 庇いながら……。ニューヒキダの郊外を目指す。
太陽のアルバチャスがいる位置から離れようと飛び続け……。
すっかり、穴の開いた風船のように成ってしまい……。至る所からアルカナの光の粒子をこぼしている。
空路による離脱も終わりが近い事を示唆していた。
…………。
少しずつ高度を落とし……。
被弾する銃弾も増え始めるが、尚も 全ての銃弾を全身で受け止めた。
…………。
戦馬車のアルバチャス……。丹内空護は 今も身動きが取れないままだったが……。
窮地から救い出してくれた 剣騎士の身を案じる。
…………。
「 お前……。消滅するぞ…… ?
エイオスが何故、俺達を助ける ? 」
…………。
当然の 疑問だったが……。望むような返答は 怪人からは返されはしない。
…………。
愚者のアルバチャス……。有馬要人も 今の状態に納得していないようだった……。
…………。
「 俺達の身体が 動けば…… !!
……何が起きているんだ。 」
…………。
直近の記憶から紐づく苦い思いが言語に成る。
…………。
……。
剣騎士は 2人の言葉に反応する事もなく飛翔を続けていき……。
…………。
何かに気がついたのか……。気が変わったのか……。
高度を落として、戦馬車と愚者のアルバチャスを山林の茂る方角へと放り投げた。
…………。
何本もの枝が 重力で引っ張られる 2人の位置エネルギーと ぶつかり……。
次々と しなっては折れて天然の緩衝材となる。
その お陰で……。
致命的な衝撃も受けずに、2人のアルバチャスは地面に戻されたものの……。
戦傷からくる激しい消耗によって、システムを解除してしまう。
…………。
……。
剣騎士は、2人の無事を確認したからなのか……。
高度を戻して上空へと昇ると、今 来た方角へと急旋回した。
風を両手に集めて、アルカナの光によって 双剣を作り出しては握りなおす。
両手に携えた武器を しっかりと握って、銃撃の激しい区画へと向き直り、彗星のように飛翔する。
…………。
……。
遠くの方角で、青白い綺麗な光が爆散するまでに 少しの時間も掛からなかった。
…………。
……。
山林の中では……。
見るからに痛々しい身なりの 2人が、どうにか立ち上がる。
…………。
青年 有馬要人は、身体が動かせる今を確かめて掌を動かした。
指の付け根や 手の甲等……。至る所に生傷が見える。
…………。
「 こんな事になるなんて……。
特務の皆、無事ですかね。
それに ここは……。どの辺りなんでしょう。
空護 さん わかります ? 」
「 ここは恐らく……。L 地区近郊の山の中だろう。 」
「 たしか、街の中心から西側の……。
けど 何故わかるんです ?
デバイスは圏外表示だし、近くに目ぼしい建物も無いですよ ? 」
…………。
丹内空護から、現在地の おおよそを提示されるが、青年は合点がいかない。
…………。
周囲を軽く見渡しても、目印になるような大型の建造物は見えないし……。
唯一視界に映るのは……。少し離れた位置に見える瓦礫同然の あばら屋だけである。
…………。
山林が茂る景色の中では……。電波塔も遠いのだろう。
多機能ツールの側面を持つ アルバチャス起動用端末……。A-device(エー・デバイス)も圏外表示を示していた。
…………。
有馬要人は 少し困惑気味に、現在地に関する情報が無い由来を開示するが……。
丹内空護は 現在地を示す根拠を口にした。
…………。
「 ここに来る途中、道路表札が見えた。
アレは L 地区周辺の国道につながる道の物だった。 」
「 ……てことは。 」
…………。
現在地の根拠によって、有馬要人の頭の回転速度が少しだけ早くなる。
青年は、緊張感を本能的に取り戻したのか 表情には真剣な色が混じった。
…………。
……。
ニューヒキダの全体には、非常時用の呼称として……。
実際の地名とは別に、一定の区分けが成されている。
対エイオス戦を想定した 戦闘処理においても活用される 非常時用の区分けだ。
…………。
それこそが、A から N の 13のアルファベットで区切った非常用特区なのである。
…………。
非常用特区によれば ニューヒキダの最中心部は……。
A 地区と呼称されており、APCの社屋も含めて主要施設が特に多い。
…………。
最中心部を時計回りで囲むようにして、存在するのが……。
B から E までの4つの地区である。
北東区域は B ……。南東区域が C に割り当てられ……。
南西区域は D ……。北西区域は E といった具合だ。
…………。
そして、最も外周部に位置するのが 残りの 9つの区域である。
こちらも時計回りに アルファベットで区切られており……。
F から N 地区までが存在する。
最北端の区域が F ……。最東端が H ……。最南端は J ……。
そして、最西端こそが L 地区なのである……。
…………。
L 地区は D 地区から見て西側の郊外に当たる方面と隣接しており……。
つまる所、先ほど乱戦を行っていた D 地区からは、そこまで距離が離れていない事になるのだ。
ニューヒキダの外周部へ進んではいるが、まだまだ安心は出来ない。
…………。
……。
青年 有馬要人が、現在地の概算に辿り着いたのを見越したのか……。
丹内空護が 今後について触れていく。
…………。
「 そいう事だ。
少しでも早く周辺の状況を探ったほうが良いな。
明確な位置は 知られていない だろうが……。
方角を知られているなら……。追手が来るのも時間の問題だろう。
この機に、一度態勢を立て直さなくては。 」
…………。
窮地を一時的には脱したものの……。
当初の目的でもある APC社屋の特務棟とは逆の方角に居る事にもなる。
機を うかがって特務棟の安全を確認するにしろ……。
宛てのない助力を外部に求めるにしろ、拠点は必要だ。
…………。
「 空護さん。アレ見てください。 」
…………。
有馬要人が何かに視線を誘導した。
それと同時に、提案を持ち掛ける。
…………。
「 ……廃墟 ですよね ?
だいぶ崩れてますけど、一時的に身を隠す程度なら……。 」
…………。
2人は、あばら屋の中を注意深く確認し、万が一の不備も無いように警戒した。
…………。
「 ……只の住居だった みたいだな。 」
「 そうですね。
少し広いだけで誰もいないようです。 」
…………。
建物は長い年月を感じさせており……。
所々から植物が逞しく浸食しているだけだった。
…………。
各所に積もった土埃や枯草の欠片は、人の出入りが極端に少ない事を証明しているようだ。
適度に崩れた屋内は、壁の抜けた箇所の お陰で 屋内に限っては見通しも良い。
…………。
少しだけ警戒を緩めて、古いあばら屋を一時的な休息地に見繕う事にした。
それぞれに 頑丈そうな建物の梁(はり)に腰をおろして座り込む。
…………。
「 ……大変な事に成りましたね。 」
「 ああ……。そうだな。 」
…………。
一息ついた有馬要人が、これまでの出来事を一括にまとめると……。
丹内空護も 同意するように言葉を返した。
…………。
坊主頭の青年は、何かしら思案しているのか……。真地面な様子で切り出し始める。
…………。
「 要人……。
俺は今後、十一や C.E.O……。
いや……。神地とも本格的に戦う事になる。間違いなく状況は良くない。 」
「 ……空護さん。 」
「 お前が本当に、只の観光客だったなら……。
今からでも郊外へ身を隠す選択も有る筈だ。
故郷が有るなら、この地を離れたって良い。
仮に、その選択を選んだとしても 俺は咎めるつもりも無い。
まだ、間に合うぞ ? 」
…………。
いつも以上に、真面目な感情を中心に添えた眼差しだった。
丹内空護から自由な選択を委ねられる。
確かに、この先の顛末には なんの保証も無いだろう。
…………。
「 何を言うかと思えば……。
らしくないですよ ?空護さん。
それに、さっきも話したでしょ。 」
…………。
青年 有馬要人の頭の中では……。
先程の戦いが呼び起される……。愚者と戦馬車が 太陽と塔に対峙した戦いだ……。
…………。
……。
記憶にも新しい、1時間も経過していない直近の出来事である……。
…………。
……。
少し前の景色の中で……。
丹内空護が 青年に呼びかける。
…………。
「 ………有馬 !!
お前は 俺を信じるか ?
俺は お前を信頼している。
今 起きている状況よりもな。 」
…………。
有馬要人は、B.A.Wandを片手に握り、丹内空護に答えた。
…………。
「 ……空護さん。
俺、本当に馬鹿かもしれません。 」
「 大丈夫。俺もだよ。 」
…………。
愚者と戦馬車は、肩を並べて太陽と塔に戦意を向ける。
不可解な全てに向けられた戦いを始めたのだ。
…………。
……。
この後の攻防は 長くは続かず……。不甲斐ないものだったが……。
その時の決断も結果も……。既に青年の進む先に大きく影響を及ぼしている。
太陽のアルバチャス……。神地聖正は一筋縄ではいかず 手強い……。
…………。
……。
太陽と塔は圧倒的な強さで優位な戦況を保持すると……。
神地聖正は、温和な口調での打診を 有馬要人に持ち掛けた。
…………。
「 さあ アルバチャスを解除して、デバイスを渡すんだ。 」
「 このデバイスにも……。
エイオスとの戦いにも……。まだまだ秘密が有る !!
だから、今 これを手放す訳にはいかない…… !! 」
「 ……なに ? 」
…………。
愚者の青年 有馬要人が……。何かを決めて啖呵を切った。
強い意志が伝わったからなのか……。
太陽のアルバチャスは、この後に嫌悪や怒りを漂わせる。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
青年 有馬要人は、現在に連なる出来事を反復し終える。
掻い摘んで思い浮かべた今までの あらましだ。
出来事と記憶は今も真新しい……。
…………。
これから自分達が、やるべき事にも関わる重大な出来事だった。
恐らく……。
丹内空護は、土壇場のところで逃げ道を用意してくれているのだろう。
これからの戦いは、それ程に勝算が見いだせない。
…………。
「 空護 さんって……。本当に馬鹿ですか ? 」
「 なんだと ? 」
「 弱気になりすぎですよ ?……さっきも言いましたけど らしくない。
俺達はアルバチャス。ニューヒキダの ヒーローなんでしょ ?
半年前の俺は ただの観光客でした。
なんの目的もない浮草みたいに、平気そうな顔で各地を回るだけだった。
……けど、あの時の俺は確かに憧れたんです。
白い鎧のアルバチャスが 平和の為に戦う姿に 熱いものを感じました。
ちょっとした事でも良い……。俺も誰かの為に戦いたい……。そう思えたんです。
そのヒーローが 今は劣勢で不利な状況なら……。答えは決まってる。
俺も一緒に戦いたい。
これは、俺の自由意志です。良いでしょ ? 」
「 ……要人。 」
「 それに……。
今の俺はもう観光客じゃない。半年間、この街で戦ってきたんだ。
住んでる場所への情だって、もう出来てます。
……この デバイスだって 謎だらけだ。
空護 さん 1人だけじゃ、どうにもならないでしょ。 」
「 ……確かに。そうだったな。
俺もお前も、劣勢に飛び込む馬鹿だった。 」
…………。
有馬要人からの力強い言葉の数々は、力みすぎた丹内空護に余裕を蘇らせる。
本人も気がつかない程度の、微細な笑みが産まれていた。
…………。
「 そうそう。
……えっ俺も馬鹿 ? 」
「 俺に加勢してくれた時、自分で言ってただろ。 」
「 ハハハッ……。ですね。馬鹿 2人だ。 」
…………。
少しずつ和らぐ空気の中で、方向が定まっていく。
…………。
「 要人……。状況は決して良くは無い。
俺は かつての仲間とも戦う覚悟で、全ての謎を明るみにしようと考えている。
アルバチャスは……。
この戦う力は、何も知らないままにする訳にはいかない。
……そう思うからだ。
もちろん、結果的に俺が間違っている可能性も完全にゼロでは無い。
改めて聞くぞ ?
それでも、俺に協力してくれるか ?
いや……。俺を助けてくれるか ? 」
「 当然でしょ。班長。 」
…………。
あばら屋には隙間風が常に入り込む。
だというのに 適度に差し込む陽光の お陰で暖かく、寒さを感じさせなかった。
………………。
…………。
……。
~◯の予兆~
あばら屋から 少し離れた山林の物陰で……。
2人の青年が、今後の行動内容を すり合わせた。
丹内空護は 確定事項を整理して まとめていく。
…………。
「 ……特記事項は、さっき話したモノで全てだ。
デバイスで正確な時間だけでも、確認できるのが幸いだったな。
わかってると思うが、今の俺達は出来る事が限られている。
少しでも異変を見つけたら……。 」
「 直接的な 身の危険に晒される前なら、合流を急いで可能な限り手がかりを共有する。
それが難しい場合は……。
片方の身の安全を優先して定刻での合流を見送る。
了解です。覚えました。
偵察は危険が隣り合わせですからね。お互いの無事を願って……。 」
「 要人……。 」
「 どうしました ? 」
「 俺は、お前を 1人の人間として信頼している。 」
「 空護さん ? 」
「 ……何が有っても自分の信じる事を信じろ。
それだけだ……。また後で合おう。 」
「 もちろんです。また後で。 」
…………。
2人の青年は、最終確認を終える。
あばら屋の中で話し合い……。
取り決めた内容を 改めて言語化して、互いの行動に移った。
…………。
……。
あばら屋から 離れて……。
少し時間が経過する。
…………。
青年 有馬要人は……。
最も近くの山道を進み、廃れ切った古い廃村の残骸を目にした。
…………。
どの残骸も、先程の倒壊しつつある家屋と 似たり寄ったりな規模で自然からの浸食を受けている。
何重にも成る蔦植物の重さで壁が剥がれ、屋根が抜けた建物も多い。
…………。
あらゆる人工物が 自然に回帰している途上の景色は……。
廃れ果てる寂しさと 植物の力強さが逞しく並び立っているようだった。
…………。
幻想的にも感じられる廃村を、慎重に哨戒していき……。
村の出入り口だろうか、麓(ふもと)の方に伸びる舗装された道に辿り着く。
…………。
……。
この廃村を中継地として、さっきまで身を隠していた 古いあばら屋が在るのだろう。
簡単な予測を思い浮かべて……。
廃村から ニューヒキダの中心部に つながると思われる道路を観察した。
有馬要人は、ほんの数秒で気を引き締める。
…………。
……。
道路は 苔や落葉で覆われていたが……。
数人分の足跡が確認できたのだ。
…………。
この足跡は、実動班に支給される靴の形に酷似している……。
…………。
追手が既に、直ぐ近くまで来ていた ?
こちらの場所を知られる前に……。
情報の優位性を持っている間に、丹内空護と合流し場所を移す必要がある。
…………。
青年は、事前に取り決めた特記事項に従って……。
急いで切り上げようと、来た道を遠巻きに引き返しながら走りだす。
…………。
……。
この場を離れなくては…… !!
言葉として発せずとも、真剣な顔つきで現在地からの離脱を試みるが……。
…………。
聞き覚えのある、誰かの声に捕まった。
…………。
「 有馬 さん……。ですよね ?
丹内班長は 一緒じゃないんですか ? 」
…………。
青年の 後方から聞こえた声は、男の声で……。
有馬要人は足を止める。
声の主を確認しようと、ゆっくりと 振り返ると……。
青年 有馬要人の目には、2人の人物が映った。
…………。
「 なんで……。真尋ちゃん !?
それに、荒井……。 」
…………。
2人の人物の両方は、見知った人物だったのだ。
1人は……。いつもの社食で顔を合わせる頻度が多い人物……。
実動班の防護ジャケット等の装備を着用し、見慣れない装いをしている。
天瀬十一(アマセ トオイチ)の妹でもある……。天瀬真尋(アマセ マヒロ)……。
…………。
1人は……。実動班にも所属している人物で……。
量産型 レヴル・ロウで編成された新設班の班長候補に選ばれていた人物でもある。
荒井一志(アライ カズシ)。
…………。
新設班 彼誰五班(カワタレゴハン)の班長候補ともなれば……。
次世代型の中でも手強い 2人のアルバチャス……。
神地聖正や 天瀬十一とも近しいのだと容易に想像がついた。
…………。
荒井一志は、特殊小銃 W.C.P.Sを手にしており……。
跳ね上がる危険度が、有馬要人の表情を強張らせる。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
丹内空護は 別の場所を哨戒していた。
有馬要人とは異なり、土地勘を頼りに哨戒し……。
時には、道ですら無い斜面も通り抜けて、周囲の状況を探っていった。
…………。
わかった事としては……。
近くに川が流れており、飲み水には困らない事。
数キロに渡って 岩肌の断層による壁が続き、天然の袋小路が存在する事だった。
…………。
戦馬車の青年は、時折 しっかりと観察しては 地形を見比べて、頭の中で地図を作っていく。
基本的には人の手が、入っている場所が限りなく少ない自然林だ。
念押しとして……。
土地勘の無い有馬要人に、あばら屋 周辺の哨戒を割り当てて正解だった。
些細な目印が減るほど、山道は迷いやすい。
…………。
……。
しばらく進むと、少し開けた所に辿り着く……。
今は使われていない古道が見える場所に辿り着いた。
…………。
近くには廃れたトンネルや、植物に覆われたレンガ壁が見える。
恐らくかつての建物の残骸なのだろう。
…………。
この トンネルには……。
何故か引き付けられる気がした。
…………。
理由もわからない何かに、既視感のような何かを感じていると……。
丹内空護の耳に聞き覚えのある声が届く。
声の主と最初に遭遇したのは、ヒキダ・ブリッジだった……。
その時は、愚者のアルバチャス……。有馬要人が苦戦を強いる中での救援として、丹内空護が駆け付けたのだ。
…………。
黒い羽根が舞い降りてくる。
…………。
「 汝……。まさか、こんな所に いるとは……。 」
…………。
戦馬車の青年は、警戒を緩めずに身構えた。
…………。
「 お前は 黒翼の…… !! 」
…………。
黒翼の怪人ドーゥクラ……。
エヌ・ゼルプトと呼称される怪人が、丹内空護の目の前に舞い下りる。
………………。
…………。
……。
~境界を超えて~
有馬要人と丹内空護は、2手に分かれて周囲の状況を探っていた。
…………。
L 地区の中の山林の中の あばら屋から、山道を使って離れると……。
青年 有馬要人は 廃村を見つける。
…………。
廃村の出入り口と思われる 舗装された道路には、雑草や落葉の中に まだ新しい足跡が残っており……。
自分達以外の存在に気がついて 警戒心を強めた。
…………。
青年は、この事実を速やかに 丹内空護に共有しようと思い立つ。
あばら屋の方角を目指して、来た道を引き返し始めるが……。
とある人物の声に呼び止められた。
…………。
「 有馬 さん……。ですよね ?
丹内班長は 一緒じゃないんですか ? 」
…………。
青年の 後方から聞こえた声は、男の声で……。
有馬要人は足を止める。
声の主を確認しようと、ゆっくりと 振り返ると……。
青年 有馬要人の目には、2人の人物が映った。
…………。
「 なんで……。真尋ちゃん !?
それに、荒井……。 」
…………。
2人の人物の両方は、見知った人物だったのだ。
1人は……。いつもの社食で顔を合わせる頻度が多い人物……。天瀬真尋……。
実動班の防護ジャケット等の装備を着用し、見慣れない装いをしている。
…………。
1人は……。荒井一志……。
量産型 レヴル・ロウで編成された新設班の班長候補に選ばれていた人物でもある。
…………。
新設班 彼誰五班の班長候補だ……。
神地聖正や 天瀬十一とも近しいのだと容易に想像がついた。
…………。
荒井一志は、特殊小銃 W.C.P.Sを手にしており……。
跳ね上がる危険度が、有馬要人の表情を強張らせる。
…………。
「 ……荒井。俺達を追って来たのか ?
どうして真尋ちゃんまで……。 」
「 ……要人さん。
私達、ここまで避難してきたの。 」
「 自分達は謎のエイオスからの襲撃で、APCから避難してきました。
先程は驚かせてしまい 申し訳ございません。
自分が持っている W.C.P.Sは、殆どハッタリです。
ここに来るまでに、かなり消耗してしまいました。 」
「 ……荒井、真尋ちゃん。……どういう事 ?
特務棟は今どうなって……。 」
…………。
青年 有馬要人の警戒心は、幾分か ほぐれる……。
完全に今までの緊張が解消されたわけではないが、見知った 2人が何を知り……。
どういった いきさつで、この場にいるのか 意識が向いた。
…………。
有馬要人の心情と足並みを揃えるかのように……。
荒井一志と天瀬真尋は、これまでの事を思い起こし 話し始める。
…………。
……。
まだ、特務棟が倒壊する前……。
突き抜けるような鮮明な青色が広がる 今日の某時刻……。
…………。
……。
白翼のエヌ・ゼルプトの出現によって……。
丹内空護と有馬要人が、D-01 地区の 日樹田西公園に向かって 少しばかり時間が経過する。
…………。
しばらくすると……。
APCの特務棟周辺に、エヌ・ゼルプトの出現反応が確認された。
…………。
真紅の戦士と呼称される怪人……。カシュマトアトルが近隣の監視カメラで観測されたのだ。
離れた位置には黒い翼のドゥークラも現れている。
…………。
カシュマトアトルが携行する片手剣からは、赤い霧が立ち込めていき……。
赤い霧からは、多数のペイジ型のピップコートが大挙して這い出ると、APCを目指して進行し始める。
…………。
特務内では、愚者か戦馬車のアルバチャスのどちらかを 呼び戻す 案も提案されるが……。
天瀬十一が 塔のアルバチャスと、量産型のレヴル・ロウを即時導入できる優位性を開示した。
…………。
塔のアルバチャス……。バベルは……。
複数の レヴル・ロウによる編成を指揮して、多数の ピップコートの戦闘処理を始める。
…………。
……。
最初に呼び出された ペイジ型のピップコートが軒並み数を減らす頃には……。
カシュマトアトルは姿を消していたらしい。
…………。
その為……。索敵を兼ねた哨戒行動と……。
愚者と戦馬車への救援も兼ねて、天瀬十一と彼誰五班は 特務棟を離れて進軍していったのだった。
…………。
……。
APCの特務棟が崩壊した原因の襲撃は……。
この少し後に起こる。
…………。
……。
戦線に復帰した バベルと……。
新たに導入された量産型 レブル・ロウの活躍は、目覚ましかったようだ。
…………。
誰もが より良い未来の到来を予期せずにはいられない……。
見方を変えれば、特務棟の殆どが気を緩めていたのかもしれない。
勝利の喜びを先取りする中で……。件の襲撃が発生した。
APCの特務棟が、何者かによって大規模に破壊されたのだ。
…………。
……。
この時……。
天瀬真尋は、ある人物との用事で屋外に出ていた事で、巻き込まれずに助かり……。
荒井一志は、近隣の警邏中(けいら ちゅう)に、実動班の数人と共に避難誘導や救助に駆け付けたのだった。
…………。
……。
又聞き同然の噂になるが……。
…………。
……。
この襲撃を行った存在は、赤い色をしていたらしい……。
当時は、粉塵も酷く それ以上の情報は わかっていない。
…………。
救助や避難誘導は、錯綜し混乱した状況が続いた。
…………。
どれ程の時間が経過したか わからないが……。
しばらくすると混乱に追い打ちを掛ける事態が発生する。
…………。
十数体の ピップコートが出現し、無差別に暴れ始めたのだ。
…………。
……。
全て 形質変化前のペイジ型の個体だったが……。
アルバチャスや レブル・ロウが いない状況下では、余りある脅威となって襲い掛かる。
…………。
特殊小銃 W.C.P.Sで、残存する実動班の数人が交戦するが……。
数体を爆散させた程度で、次々と 班員が吹き飛ばされてしまう。
乱戦によって、実動班や他の避難者も散り散りに逸れてしまい……。
荒井一志と天瀬真尋も、自身の身の危険を間近で感じ始めた頃に 新たな変化が起こる。
…………。
ある 1人の人物が駆け付けたのだ。
…………。
……。
天瀬真尋と荒井一志は、その人物から ひとまずの避難を強く促される。
心残りは あるものの、葛藤の末に その場からの脱出を優先させた。
…………。
……。
そして……。
ある場所を目指して、現在も移動中だったのだが……。
空中を飛翔する エイオスに運ばれる アルバチャスが視界に入った。
…………。
2人のアルバチャスは、何故か廃村付近に放り投げられたようで……。
…………。
荒井一志は……。有馬要人と丹内空護の生存に当たりをつける。
多くの情報と事態の好転を願って、合流を試みようと思い立ったのだった。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
天瀬真尋と 荒井一志が……、事の あらましを話し終える。
有馬要人は、無意識にだったが 息苦しさから解放されていた。
…………。
「 そんな事が……。
けど 荒井は確か……。新設班の候補者だったんじゃ ? 」
「 自分は辞退したんです。
直接的な戦闘よりも、避難誘導や 後方支援を主軸に活動したい……。
どうしても、そんな考えを捨てきれませんでした。
自分は、そっちの方が向いていると思っています。
それに……。自分よりも戦闘処理の訓練成績が優れている者は いますから。 」
「 そうだったんだ。 」
…………。
青年 有馬要人は 目を細めて 少しだけ深く考え込む。
…………。
……あまりにも情けない。
多くの人達を助けられなかった事も……。
何も わからないまま戦い続けている事も……。
情けない感情と同時に、これまでの出来事を どう伝えるべきかも 上手にまとめられない。
…………。
それでも……。今 話せる事から……。伝えなくては……。
青年は、気持ちの向きを改めてから 口を開く。
…………。
「 こっちは、空護 さん も無事だよ。
とりあえずは 今の俺みたいな状態では有るけどね。 」
…………。
冗談っぽく、困った笑顔で同行者の無事を共有する。
ほんの少しでも、厳しい状況下を明るくできるようにと、振る舞った。
…………。
続けざまに、エイオスに運ばれた流れを説明しようと言葉を続けそうになるが……。
直ぐに言葉が詰まった。
…………。
これを誤魔化そうとして……。
先に丹内空護との合流を提案する。
理由付けの後押しとして、激戦で錯綜していた事や、予定 時刻の有無を付け足す。
…………。
天瀬十一は、天瀬真尋にとっての家族であり……。
神地聖正は、ニューヒキダの住民にとっては英雄なのだ。
…………。
実の兄妹や、この街で英雄視される著名人と交戦した事実は伝えるには難しい。
…………。
その時の、人が変わったような、有様も……。
ここに居る全員が不安の中に有るのなら……。
事実で不安を煽りかねないなら、情報の共有にも順序が必要に思えた。
…………。
幸いな事に丹内空護の安否には 2人も表情を明るくしている。
…………。
……。
有馬要人は、再度 自身の記憶をたどった……。
まず……。丹内空護との合流場所は、先程の あばら屋だ。
…………。
決めていた時刻に集合し、相互に哨戒行動で得た情報を すり合わせる。
これは 哨戒行動に出る前に取り決めたルールだ。
…………。
……。
3人は話せる範囲での情報を相互に共有する。
有馬要人は 天瀬真尋と共に、あばら屋で丹内空護との合流を待ち……。
荒井一志は、避難時に助力をしてくれた人物の安否確認も兼ねて……。
一足先に、その人物の元へと向かう方向で話の流れが整った。
…………。
……。
合流地点の あばら屋では……。
有馬要人と 天瀬真尋が、無事に辿り着く……。
間も無く……。哨戒行動を終えて 丹内空護も合流する筈なのである。
…………。
青年 有馬要人は、念には念を入れて 普段以上に周囲を警戒した。
あばら屋の周辺や屋内を再度哨戒し、安全性を確信してから、屋内の土間に 天瀬真尋を通す。
…………。
今は、エイオスにしても……。C.E.Oと天瀬十一の狙いにしても……。
多くが不明瞭で、不確定事項が散乱している。
…………。
山中では 鳥や虫の鳴き声が、平穏な日常を裏付けているが……。
警戒するに越したことはない。
…………。
……。
丹内空護の到着を待ち続けるが……。
予定の時刻を過ぎても周囲の物音すら微細な変化も見せなかった。
…………。
……。
青年は、鮮度の高い記憶の中から、哨戒行動と合流時のルールを思い起こす。
…………。
記憶の中で……。丹内空護が 取り決めについて話始める。
…………。
「 ……特記事項は、さっき話したモノで全てだ。
少しでも異変を見つけたら……。 」
「 直接的な 身の危険に晒される前なら、
合流を急いで 可能な限り手がかりを共有する……。
……それが難しい場合は、片方の身の安全を優先して定刻での合流を見送る……。 」
…………。
悪い冗談だ。
記憶の中で青年自身が、復唱した内容は……。悪い冗談にしてしまいたかった。
…………。
合流を見送る理由……。
片方の身の安全を優先して合流を見送る……。
あの班長が合流を見送る程の出来事なんて有る筈が……。
…………。
……。
いや、丹内空護だからこそ忠実に遵守するだろう。
…………。
……。
もし、片方が合流できなかった時は……。
優先的に 状況の悪化を避ける行動に移る。
無事な方は 別の拠点を探して移動し、可能な限り協力者を得るまで動かない。
…………。
合流を見送る程の危険な要因に接触した方は……。
ニューヒキダの中心部側へ移動して、囮として陽動を行い、無事な方が再起を図る時間を稼ぐ。
…………。
……。
こうなったら……。自分自身がやるべき事は決まってしまった。
決断する勇気が青年に のしかかり……。直接 首を絞められていると思える程に息苦しい。
…………。
「 ……ごめん。真尋 ちゃん。
後で俺が話せる事は全て話すから……。
空護 さん との合流は……。中止しよう。
ここも安全じゃない。 」
…………。
どんな表情で伝えたのかさえ、自分でも想像できなかった。
良い表情では無かったのだろう。
…………。
罪悪感は重く……。
別の呼び名が有っても良いと思えた……。
…………。
青年は、今 同行している女性の表情すら記憶に残せていない。
…………。
あばら屋を足早に離れて、廃村に辿り着き……。
廃村から繋がっている道路を抜けて、荒井一志に会うまでは……。
五感のどれかが、ランダムに失われたような感覚が続いた。
…………。
合流を はたすと、避難移動用に使っている車に乗り込む。
…………。
車は特殊な車両なようで……。
大人でも 5~6人は乗り込める程度の大き目な改造車だった。
何処でも見かける形の流行りのキッチンカーだ。
この車両も、ある人物の持ち物なんだとか……。
…………。
……。
偶然だったとしてもありがたい。
……だとしても、適当な所で 自分だけ下ろしてもらう必要が有る。
今の自分に出来る事を 全うするには……。避難者として混じるわけにはいかない。
一緒に居続ければ……。不意な不幸に巻き込む可能性もある。
見知った 2人の安全な避難先を確認 出来たら、その後は 1人での活動が望ましい……。
…………。
……。
車内は空気が沈み、窓の外は似たような景色が続く。
車の持ち主は 山道を慣れたように運転しており……。
気がつくと 古い荒廃した宿泊施設の地下駐車場へと降りて行った。
…………。
昔 建てられたリゾート用のホテルか旅館の跡地だろうか……。
キッチンカーが 地下駐車場の中に停車すると、ある人物が運転席から顔を覗かせる。
…………。
……。
巻……。健司だ……。
…………。
……。
キッチンカーの持ち主は巻健司(マキ ケンジ)で……。
運転していたのも巻健司だった……。
…………。
つまり……。天瀬真尋と 荒井一志の 2人に避難を促したのも……。巻健司なのか……。
……青年 有馬要人は 酷く混乱していた。
…………。
混乱の元凶でもある キッチンカーの持ち主……。巻健司は……。青年に話しかける。
…………。
「 ここで到着だ。要人。
いや、今は愚者のアルバチャスか…… ?
俺の新しい商売道具の乗り心地、悪く無いだろ ?
納車したての車に乗れるなんて、ラッキーだったな。 」
「 ……巻さん !?……なんでアルバチャスの事を !!
それに じゃあここは…… ? 」
…………。
流石に今日は、いろいろ有りすぎて……。
頭の中が 追いつけない。
…………。
「 要人……。お前も いろいろ 大変だったな。
安心しろ。お前が知りたい事は殆ど……。
そこの 博士が答えてくれるよ。
会った事あるよな ?
天瀬慎一(アマセ シンイチ)……。
天瀬十一や真尋ちゃんの父親さ。
だから デバイスを握って身構えなくても大丈夫だよ。
俺も博士も、たぶん味方だ。
少なくとも敵じゃない。 」
…………。
地下駐車場に停車しているキッチンカーの直ぐ近くには……。
何度か見知った程度だったが、顔を合わせた事が有る人物が出迎えている。
マーへレスとの最終決戦の前の、いつかの食堂で話をした人物……。
白衣を着た 50代程の男性が立っていた。
………………。
…………。
……。
~2色の杯~
どこかに存在する、仄暗い洞……。
…………。
ぼんやりと洞内を照らす 青白い光が溜まる窪地の淵には……。
真紅の戦士が立っており……。
少し前まで行っていた英雄との戦いを思い起こしているようだった。
…………。
……。
先程の ニューヒキダの南西方面……。
大量に出現した ペイジ型のピップコート群と、赤々と輝く目のレヴル・ロウ達が激しく交戦している。
…………。
ペイジ型のピップコートが 密集する中で……。
エイオスを先導していた 真紅の戦士に、数発の火球が飛来した。
…………。
木剣で両断された火球が爆発すると、爆炎を囮にして……。
太陽の英雄が現れる。
背中には太陽を彷彿とさせる円環が輝く。
…………。
爆炎を放ったのは……。
太陽のアルバチャス……。神地聖正だった。
…………。
「 見つけたぞ。カシュマトアトル……。
本来の名前は ログ……。だったか ?
私は 人々を導く英雄として、アルカナ最強の戦士を超える !!
貴様を倒そう !!真のアルバチャスの力によって !! 」
…………。
真紅の戦士と、背中に円環を持つアルバチャスは、爆風起こしながら激戦を繰り広げる。
…………。
円環を持つアルバチャスは……。
殴打も蹴りも高熱を帯びており、単純な肉薄した格闘戦でも凄まじい威力を簡単に打ち出した。
真紅の戦士をもってしても、この攻撃を払った手に衝撃の残滓を感じる。
…………。
「 真のマルクトを持つ英雄か……。
待ちわびたぞ。だが、至るには まだだ……。
まだ先の道に立つ者は多い。 」
…………。
真紅の戦士は、その豪快な一振りによって 真のアルバチャスを吹き飛ばし……。
数秒の隙を作り出す。
この合間にも、木剣からは赤い霧が吹き出していき……。
青白い光の収束が 3つ作り出されて、新たなエイオスが呼び出される。
…………。
太陽のアルバチャスは、何が起こったのか直ぐに理解したようだった。
…………。
「 新手のエヌ・ゼルプトか……。なるほど。
運命の輪、吊るし人、節制……。
ついに君主型のいない段階か……。だが……。
私の計画に狂いは無い !! 」
…………。
力強い意気込みだった。
真紅の戦士は、わずかに意識の焦点を現在に戻す。
…………。
……。
光溜まりの淵に立つ 真紅の戦士に、何者かが話しかけた。
声の主は、先程の赤い霧で呼び出された エヌ・ゼルプトの 1体である……。
灰色の翼を持つ天使型で……。素行の悪さが まぶされている声だ。
…………。
「 おい !!カシュマトアトル様よぉ !!
どうしてだ !?
俺を顕現させておいて、チラ見せで撤退だと !?
しかも !!俺の舎弟達も まとめて !!
久っしぶりの !!この状況下で !?
あっりえないだろ !?
今の今まで停滞してたんだ。時間切れになっちまうぞ !? 」
…………。
灰翼の天使型からは 不満げな印象が前面に押し出される。
その気質は他の エヌ・ゼルプトとは異なり、どこか血気盛んな口ぶりだ。
何かを危惧した言い回しに、真紅の戦士が反応を示す。
…………。
「 そう成るなら……。それが……。 」
「 それが……既定の流れだ……。
とか言うんだよな !?聞き飽きたね。俺は !!
只の記録の塊が言う事なんて知ってんだよ !!
ああああああ !!クッソ !!!
考えてもみろ。
そんなんで何回 時間切れになったよ !?
それが本当に平等なのか !?
同じ天使でも旧式のアイツは、やり方が固すぎるしよ !!
時間 かけすぎなんだよ !!
今回も俺らが暴れられないまま終了とか ?全然あったぞ !?
けどな、もう俺がいるって事は 手加減しねぇぞ !?
俺らは、どっかの旧式みたいな……。
誰でも彼でも 3~4回助けるとか しねぇからな !? 」
「 カシュマトアトルは あらゆる道を正道へと正すだろう……。
汝……。相変わらず 騒々しいな……。エリアイズ。
君主型の マーへレスでさえも、粗野の上には気品の薄皮を被るというのに。
仮にも天使型だろう ? 」
…………。
灰色の天使型が、真紅の戦士の落ち着き払った反応に苛立ったのか……。
まくし上げるようにして 言葉を次々とぶつける。
…………。
この微妙に噛み合わない やりとりを見かねた別のエヌ・ゼルプト……。
黒翼の天使型 ドゥークラも 会話へと加わった。
…………。
灰翼の怪人は勢いを衰えさせない。
…………。
「 マーへレスで さ え !?
単純な武力闘争に準じれるだけ、お前みたいな旧式よりはマシだろ !!
さっきは、セドネッツァが世話になったみたいだが……。
英雄を また逃がしたな ?
俺様は、堅物の骨董品よりも最新で !!
完璧なわけよ !!
相手に手加減して、育てるとかしないの !!
そんな訳でだ……。早速行ってくるわ !!
セドネッツァ !!ウロド !!行くぞ !!
久っしぶりだ。
お前らの本気の調子も見とかないとな !?
……じゃあな !!堅物 ⅹ 2(カタブツ バイツー)!! 」
…………。
灰翼の怪人は、別の意味でも波長の合わない相手の出現で、より一層 主張を強める。
自身の主張を裏打ちする為なのか……。
自分自身と同時に顕現した 2体のエヌ・ゼルプトを引き連れてどこかへと去っていく。
…………。
3体の エヌ・ゼルプト達が、どこかへ姿を消すと……。
これを見届けた真紅の戦士も また……。短く呟いて洞の中の暗闇に姿を消した。
…………。
「 試練が進む、か……。 」
…………。
その場に残った黒翼の怪人は しばらくして……。
光溜まりの淵で主の気配に気がつくと、速やかに礼節を払い頭を下げる。
…………。
「 イェルクス様。
ついに、彼の者も英雄として動き始めました。
それに併せて、エヌ・ゼルプトも……。
節制のエリアイズ、運命の輪 セドネッツァ、吊るし人 ウロド……。
あの 3柱が 表舞台に出ると成れば 試練は、滞りなく進むでしょう。 」
…………。
ドゥークラが 主とする者の姿は、暗闇に紛れて全容が見えない。
それでも、そこには確かに何かが存在しているようだった。
………………。
…………。
……。
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