- 13話 -
夜明け
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目次
~蒼天の和~
某日の特務棟……。
気心が知れた 2人の青年が語らう……。
丹内空護(タンナイ クウゴ)は、日樹田西揚水機場内での戦いを思い起こした。
…………。
当時 印象的だった、謎の言葉が……。
女型の怪人……。白翼のエヌ・ゼルプトが口にした言葉が 呼び起される。
…………。
「 ……まもなく太陽が昇ります。
悪魔や死神に気を付けて 隠れた陰を探してください。 」
…………。
白い翼のエヌ・ゼルプト……。ナティファーの言葉だった。
…………。
坊主頭の青年……。丹内空護が知る 怪人エイオスのイメージとは何かが異なる……。
皇帝 マーへレスや、黒翼のドゥークラとも……。
ピップコートと呼称される他の怪人達とも……。
知っている どの言動からも大きく離れているように思えたのだ。
具体的に何が異なるのかと突き詰めると、その先には辿り着けないのが もどかしい。
…………。
戦馬車の青年 丹内空護は、昔馴染みの友人に意見を求める。
…………。
「 あのエイオスは、これまでの種類と何かが違う気がするんだが。
俺には確証が無いんだ。……わからない事が多すぎる。
十一……。何か気がつく事は無いか ? 」
「 ……確かに、かなり抽象的な言葉だね。
けど、もしかしたら タロットの 大アルカナが関係しているんじゃないかな。 」
…………。
天瀬十一(アマセ トオイチ)は、提示された疑問に向き合った。
……助け船を求めていると察したのだろう。
思い当たる何かが有るようで、糸口を交える。
…………。
丹内空護は、友人が辿り着いているであろう 糸口の先へと進もうと 催促の言葉を挟んだ。
…………。
「 わかるのか ? 」
「 エイオスの種別を共有した時の資料に、タロットの事を参照した項目もあっただろ ?
あの中に 大アルカナの一覧も添えた筈だよ。 」
「 たしか……。
20種類くらいの図柄の資料だったか ? 」
「 そう。大アルカナといって、主に 0から21番までの数字が当てられている。
タロットカードの中でも 大きな意味を持つ 切り札の事だね。 」
…………。
白衣の青年 天瀬十一は 話を進める。
…………。
円滑に進める為だろうか……。
言葉だけでは イメージが難しそうな ものには……。
パソコンのディスプレイに適切なイメージやデータを用意して……。
その都度、丹内空護の表情から 理解力の許容量を探るようにして、情報の整理を補助した。
…………。
「 良いかい ?空護……。
大アルカナの中には、太陽、悪魔、死神が存在するんだ。
数字を若い順序に並べるなら……。13が死神、15が悪魔、19が太陽。 」
「 なるほど……。 」
「 ちなみに……。
俺のアルバチャスの由来は、16番の塔のカードから来ている。
カードの意味合いは、良いものじゃないけど……。
どんな敵にも、破滅をもたらせるようにって感じかな。
似たような目線で見るなら……。
空護の チャリオットは 7番のカードを……。
有馬君の ストゥピッドは 0番のカードに当てはめられるね。
只、開発経緯を見ると、こっちの 2つは 開発順序の号数らしい。
殆ど こじつけになっちゃうから、願掛けだと思ってくれても良いかな。 」
「 俺と有馬の方は、図柄との数字の一致が偶然って事か ? 」
…………。
白衣の青年は、タロットについての説明に アルバチャスとの関りを混ぜ込む。
話の全容をイメージしやすいようにと、身近な例題を出したのだろう。
…………。
天瀬十一は、興味を惹かせた所で 横道に反れた話を本道に戻す。
…………。
「 ……みたいだね。
話が反れたから戻して進めようか。
白翼のナティファーが残した言葉は、大アルカナを示唆しているのなら……。
これを踏まえて解釈してみた。 」
「 聞かせてくれ。 」
「 今から話す解釈は、大アルカナが持つ意味に注目している。
まず前提として……。
太陽は成功や勝利を……。
悪魔は破滅や悪循環を、死神は破滅や全滅の意味を持つ。
これらの意味を思い当たる順序で当てはめると……。
過去の大災害の上に復興を進めて、俺達は今 勝利や成功を確信している。
だが、ここから先は破滅を示唆する出来事に気を付けないと ならない……。
かなり抽象的だけど意味を当てるなら、
こんな風に成るのかな。 」
「 そうなると、宣戦布告に近い言葉をわざわざ残したって事か ?
挑発する意味が奴らに有るのか ? 」
「 そこなんだよね。
知能が有って徒党を組む以上は何かしらの目的が有るんだろうけど……。
何を目的に動いているかで、言動の全ての意味合いが変わっていく。
例えば、今の解釈もカードの意味の正位置で繋げただけだからね。 」
…………。
意味がつながるように整理されているが……。
これを行った当人にとっても確信に至る程ではないようだ。
…………。
天瀬十一も思案した……。
…………。
タロットカードと何処まで関りがあるのかが 現段階は不明だ。
因果関係を示す情報源は……。
C.E.Oの神地聖正(カミチ キヨマサ)が体験した幻視によるものだが……。
その先の由来が不明な事実は変わらない。
…………。
その反面……。
幻視によって アルバチャスの開発が進んだのも事実で、復興の下支えとしての実績は有る。
…………。
どうにも判断に困り、全ての謎に切り込む意欲が揺らぐ。
天瀬十一が短時間で思考を巡らせていると……。
ある単語に丹内空護が飛びつく。
これを皮切りに、説明が足りなかった事に気が付いて続きを話した。
…………。
「 正位置 ?
もう少し詳しく教えてくれ。十一。 」
「 ああ……。それは……。
殆どのタロットには……。
相反する意味合いが 相乗りしている状態になっているんだよ。
絵札の名前が正しく読める向きが正位置。
基本的には、これが それぞれの正しいイメージを象徴している。
太陽のカードなんかは、こうすれば空に太陽が輝いて、
その下で 2人の子供が手を取り踊っているような朗らかな絵柄に見えるだろ ?
成功や祝福を連想させる趣旨の構図なんだろうね。
逆位置は文字通り、この向きを半回転させて上下を逆さに見た状態。
天地が逆さになって太陽は地面に落下しているし……。
その上では、頭を地面に向けた子供が中空に巻き上げられているように見える。
こうなると、元の意味も正は負に変わるんだ。
太陽の場合は衰退や落胆とかになるかな。
当然、元々の意味合いが負の側面を持つ場合は、
良い意味合いに変わるから 一概に逆位置が悪いとは言い切れないけど……。
意味合いが、全く異なるって事には変わらないから、
さっきの解釈も逆位置としての意味合いで受け取ると解釈が難解になるね。
だから……。身も蓋もない解釈をしてしまえば……。
意外と何も意味のない事を口にしているパターンも 有るのかもしれない。 」
「 つまり……。
今も判断に必要な情報が足りないという訳か。 」
「 そうなるね。何かを断定する程の情報には足りない。
得意気に持論を述べた身としては恥ずかしいけど……。
さっきのは、タロットの意味が関連している前提と……。
何かしらの意図を エイオスが持っている前提での仮設だからね。
……仮設と言うのも大げさか。
空護が相手だから話したけど、曖昧すぎて公には出来やしない。 」
「 ……歯がゆいな。 」
…………。
エイオスの目的や出現経緯の根幹がわかれば……。
未だに不明確な敵の輪郭は、どうすれば捉えきれるのか……。
漂う謎が 今も 存在感を示す。
…………。
白衣の青年は、少しだけ目を細めて 等身大の心情を言語化したようだった。
…………。
「 ……情報面でも現場を支える役回りとしては 力が及ばず本当に申し訳ない。 」
「 俺の方こそ すまん。
精神干渉能力を持つ相手の言動を気にする事が、間違ってるのかもな。 」
…………。
丹内空護は、友人に伝播させたであろう不安材料を 明るい調子で引き上げる。
……答えが見えない事に時間を使っても仕方がない。
今、目の前にいる心強い友人達と、これからも協力すれば乗り越えられない事など無いだろう。
…………。
「 ……まあ、それでも。 」
「 ああ。これからも何か気になれば互いに共有しよう。
必ず前には進んでいるはずだ。 」
…………。
2人の昔馴染みは互いに、信頼関係を厚くする。
そんな折、丹内空護は ある資料に目がいった。
…………。
「 これは……、
量産型の筆頭者リストか。 」
…………。
紙の資料には……。
今後の量産型実装に向けて新設される班編成の班長候補者の名前が連ねられていた。
新設班 彼誰五班(カワタレゴハン)班長リスト。
木田郷太(キダ ゴウタ)、大代大(オオシロ マサル)……。
伊世伝次(イセ デンジ)、荒井一志(アライ カズシ)、恵花界(エハナ カイ)。
…………。
丹内空護が、候補者の名前を目で追っていると……。
白衣の青年が 情報を言葉で総括して簡潔に伝える。
…………。
「 前に実動班へ共有した物と同じだよ。
いよいよ実現するんだ。……初の量産型 レヴル・ロウが。 」
「 反逆者の法。
……たしか そんな意味合いだったな。
この 5名を筆頭に……。
5つの班に分けた 量産型だけで編成された班が新設されるわけか。 」
…………。
戦馬車の青年は、何度か目を通した事の有る各項目の要点に、改めて視線を あてがう。
…………。
量産型のアルバチャス。Rebel Law(レヴル・ロウ)。
簡易表記は、-R.L-……。
既存のアルバチャスとは異なり、
2種類の専用武装型デバイスの片方を使用して起動する。
…………。
汎用性を追求されている事から……。
起動時に使用した専用武装の 1つを、主にして戦いに望むのが基本仕様である。
…………。
中遠距離における戦いで真価を発揮する 光弾小銃 R,R,G……。
接近戦特化型の切り札となる小剣 L,L,E……。
これらの中から どちらか片方を 個癖や編成状況に応じて事前に取捨選択する。
…………。
ホバー走行や索敵能力等の、据え置きで採用されている機能も常設された汎用的な system……。
……それが レヴル・ロウである。
…………。
……。
天瀬十一は、しっかりした眼差しで今後の意向と紐づく未来を想定した。
…………。
「 ここから俺達の反撃が始まる。
空護や 有馬 君は、別個の単独班として……。
必要に応じて、次世代班のフォローアップについて貰う事になる訳だ。 」
「 量産型か……。
まだ実感はわかないな。 」
「 仕方 ないさ。
ここまで事が進むのは、誰もが想定の範囲を超えているだろうから。
けど、現実になる。
きっと前みたいな多勢に無勢な戦況には成らないよ。
また俺も、戦えるようになる。 」
「 そうか。頼りにしている。
お前が 現場でも 一緒に戦ってくれるなら……。
俺も もう少し無茶な戦い方をしても良いのかもしれないな。 」
…………。
丹内空護が、冗談らしく軽い口ぶりで話す。
天瀬十一は、困ったような表情で首を竦(すく)めた。
…………。
「 まさか、有馬 君の影響を受けてるのかい ?
やめてくれよ。
今以上に無茶な戦い方なんて。
空護が本気で なりふり構わない手段を選んだら……。
振り回される側は たまったもんじゃない。 」
「 そうかもな。
有馬の軽口が移ったのかもしれない。 」
…………。
戦馬車の青年は 軽く釘を刺されて、朗らかな表情で肯定した。
少しだけ時計の秒針を聴いた後、話題を変える。
…………。
「 ……なあ。十一。 」
「 なんだい ? 」
「 こちらから、
探りを入れるってのはどうだ ? 」
…………。
丹内空護が難しい選択を提案した。
…………。
「 エヌ・ゼルプトから情報を引きだすって事か……。
上手くいくかどうかは未知数だね。 」
「 未知数でも今以上に情報が必要なら……。
何もしない訳にも いかないだろう ?
これまでは、俺も有馬も 何かしらの謎かけをされている。 」
「 ……だから、こちらから問いを投げれば収穫が見込める可能性も有る……。
そういう考えか。 」
「 そうだ。どう思う ? 」
「 策を考えるなんて、戦闘処理中の 有馬 君みたいだね。 」
「 だが、俺達が 今までのまま後手で動くようじゃ、望むような進展は無い。
そうじゃないか ? 」
「 ……かもしれないね。
けれど、想定通りに欲しい情報を引きだせる保証も無い。
それに、相手は精神干渉能力を持つ。
嘘の情報で誤魔化される危険性とも隣合わせだ。
俺に話せるくらいの 勝算は有るのかい ? 」
…………。
天瀬十一は、直ぐに考えられる危険性を提示して意志の固さや確実性を確かめる。
…………。
「 ああ。俺に考えがある。 」
「 聞かせてくれるかい ? 」
…………。
2人は少しでも現状を前に進めたい一心で意見を交わす。
戦馬車の青年と、塔の青年は更に相互の考えを打ち明け合う。
………………。
…………。
……。
~レッド・リーパー~
特務棟の食堂では……。
治りかけの生傷を気にしながら 食事をする青年に、1人のミドルが話しかける。
…………。
「 相変わらず傷だらけで、食べづらそうだねぇ。
お前のランチは。 」
「 ……まあ、かなり慣れましたよ。 」
…………。
巻健司(マキ ケンジ)の声に、青年は 何気ない様子で受け答える。
青年 有馬要人(アリマ カナト)の返答は 何気ない様子だが……。
恒例に成りつつある口元の傷後は 鋭い痛みを走らせているようで……。
青年の表情を 時折 引きつらせた。
…………。
「 本当かよ ?
さっきから 汗が凄いぞ ?
要人 お前。今日のはミスだろ。
ジョロキア入りのスープカレーとか選ぶか ? 」
「 いいんですよ。
食べたいときに食べたいものを選ぶのが俺のポリシーです。 」
「 まあ、好きでやってるんなら……。
ほらよ。箱ティッシュ 近くに置いてやる。
鼻水も汗も涙も全部拭けよ ? 」
…………。
日常的な光景だった。
互いに平常運転を確かめるかのように言葉を交わす。
ニヒルなミドルは、青年の近くに優しさの証明をわざとらしく置くと……。
いつものように社内の事情に首を突っ込んだ。
…………。
「 ……ところでよ。要人。アレ本当なのか ? 」
「 何がです ? 」
「 アレだよアレ。
なんだか新しい アルバチャスが導入されるって噂だよ。
量産型 ?だか何かが出るんだろ ?
お前も謎のヒーローの仲間入りか ? 」
「 毎回、誰に聞いてるんです ?
公式の発表はされてかったと思いますけど。 」
「 そりゃあ、お前……。
風の噂に聞いて、お前の反応見たら確定だろ。
で、どうなんだ ?お前も選抜されるのか ? 」
…………。
青年は痛みを伴う、栄養摂取を続けながら手短に思案した。
巻健司の相変わらずな 耳の早さにも、噂好きな性分にも手を焼きそうだ。
…………。
「 …………。 」
「 成程、ノーコメントか……。
世の中には沈黙が肯定を意味する場合もあるんだよなぁ ? 」
「 …………。 」
「 まあ……、
どちらにせよ、命あっての物種だ。
仮に謎のヒーローの仲間入りをしても、無理はするんじゃねぇぞ ? 」
…………。
話しの方向性は、思っていたものと違っていたようだ。
苦手な誤魔化しの手段を思案している間に、完結したようで幸運だった。
いや……。形はどうあれ こうして気に掛けてくれる ?事は有りがたいのかもしれない。
…………。
「 ……なんか、いつも以上に変ですね。
どうしたんですか ? 」
「 んん ?失礼な奴だな、お前。 」
…………。
どうにも調子が狂い、怪訝な口ぶりで返す。
年の離れた友人が困ったように笑っていると、その後方から 1人分の足音が近づき……。
女性の声が聞こえた。
…………。
「 巻さんが期限良い理由……、要人 さん にも教えましょうか ? 」
…………。
その声の人物は……。
巻健司と同様に、食堂で働く人物……。天瀬真尋(アマセ マヒロ)だった。
…………。
「 真尋ちゃんには 悪いんだけど……。
まぁだ、秘密にしてほしいな。俺としてはさ。 」
「 ……なら、油売ってないで、仕事してくださいね。
実動班の人が来るたびに、
こんな事してたら苦情きちゃいますから。 」
…………。
女性が釘を刺すと、油売りの壮年は そそくさと仕事に戻り……。
空いたテーブルから食器を下膳し厨房の奥に消えていった。
…………。
巻健司は 厨房側から視線だけで合図を送り、有馬要人に何かを促している。
青年から見ると、ニヒルなミドルの表情は どことなく腹立たしく見えてしょうがない。
…………。
有馬要人は、年の離れた壮年の友人が意図する何かを察するが……。
不意に心情が言葉に成っていた。
…………。
「 ……いや、無理でしょ。 」
「 要人さん、なんか言いました ? 」
…………。
巻健司の合図は、恐らく……。
後押しだ。
…………。
橋渡し役をした気でいるのだろう……。
しかし、そのハードルを飛び越えるのは簡単には見えない。
…………。
思わず、この一連の心情が言語化されてしまい……。
とんでもない墓穴を掘ってしまった。そんな気分だった。
…………。
「 ……あ、いや。……えっと。
…………やっぱ、ちょっと無理しすぎたかなって !! 」
「 辛いと痛いですよね ?
大丈夫ですか ? 」
「 うん !!大丈夫。ダイジョブ !!
モーマンタイ!!! 」
…………。
有馬要人は、不意な疑念を誤魔化そうと躍起になった。
スープカレーに入っている 大き目にカットされた野菜を、口の中へと乱雑に放り込む。
気持ちが上がってしまったのか……。
どうにも慣れないせいか……。
自分が今、何を話したかも頭の中に残っていない。
どうかしている……。そんな気さえする。
鼻の奥に辛味が昇って来た錯覚を覚えた。
…………。
「 …………。
……ぶっほぁ !! 」
「 ちょっと !
本当に大丈夫ですか ? 」
…………。
強めのスパイスが……。
青年の鼻腔の奥で暴れた。
ジョロキアの強い刺激にも、ガラムマサラの香味にも耐えきれず……。
野菜やスープカレーを 飲みこんだ直後に、咳き込んでしまう。
…………。
どうかしているのは錯覚じゃなかった。
完全に やらかしてしまった。
…………。
天瀬真尋から おしぼり と水を受け取り、顔を赤くしながら対処する。
…………。
「 実動班の皆さんって、早食いが多いですけど……。
食事くらいは ゆっくりとか 出来ないんですか ? 」
「 …………はあ。……ふう。
大丈夫。取り戻した……。よくやった自分。……はふ。
ありがとう真尋ちゃん。
……俺達は、いつ収集が有るかわからないからね。けど大丈夫。
早食いは慣れたし、これでも しっかり味わってるからさ。 」
…………。
我ながら、ここまで説得力の無い切り返しもなかなか無い。
会話だけでの不甲斐なさに萎縮しそうだった。
…………。
それでも、女性の様子は大きく変わっていなさそうだ。
…………。
「 そうなんですね。 」
…………。
たぶん、気を使わせているのだろう。
青年の心情とは裏腹に、女性からは更に言葉が贈られた。
…………。
「 巻さん じゃないですけど……。
無理はしないでくださいね。
さっきの話、実は聞こえちゃったので……。 」
…………。
記憶の中で、初めて怪人に襲われた日の事が思い起こされる。
もう 半年以上は過ぎた頃だろうか。
…………。
口元を ヒリヒリさせる香辛料を おしぼり で拭きなおす。
…………。
「 無理はしないよ。ありがとう。
それに 俺は 只の班員だから大丈夫。
どんな時でも、美味しい料理で元気を充電しにくるよ。 」
…………。
青年は最大限の安心材料を控えめな笑顔で伝えた。
………………。
…………。
……。
~ルビーエクリプス~
突き抜けるような鮮明な青色が空に広がる某日だった……。
D-01 地区 日樹田西公園……。
水場も近い 豊かな公園の一角、段階的に すり鉢状の窪地に成っている広場に……。
…………。
白翼の怪人ナティファーが 3体のピップコートを伴って出現する。
近隣の人間が避難する様子を、意図的に見過ごしているのか……。
エイオス達は待ち合わせでもしているように、その場所で静かに待機しているようだった。
…………。
程なくして……。
速やかに この場に現着した 2人のアルバチャスが対峙すると……。
白翼の怪人が、何かしらの意向を伝えた。
…………。
「 戦馬車と愚者ですね。
貴方達の全てを 私に示してください。 」
…………。
白色の鎧のアルバチャス……。戦馬車の青年 丹内空護と……。
派手な装甲のアルバチャス……。愚者の青年 有馬要人……。
2人の青年が、簡単な言葉だけで 相互の行動の足並みを揃える。
…………。
「 有馬……。 」
「 了解。アレですね。 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Wand !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ワンド !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
アルバチャスが、不適な様子のエイオス達を相手に動き出す。
…………。
戦馬車にしても、愚者にしても 両者が ホバー滑走機能を動作させるが……。
武器を その手に握ったのは片方だけだった。
…………。
愚者 ストゥピッドは、2種類の武器で援護の用意を整えると……。
戦馬車 チャリオットが 武器すらも手に持たずに ホバー機能で疾駆した。
…………。
丹内空護が向かう先は、白い翼のエヌ・ゼルプトの方角だ……。
…………。
3体のピップコート……。射撃の女王、護符の女王、剣騎士 も動き出すが……。
こちらの方も、戦馬車のアルバチャスには目もくれず、愚者のアルバチャスを狙う。
…………。
丹内空護は 白翼の怪人に接近して 問答を投げ込んだ。
…………。
「 白翼のエヌ・ゼルプト……。
名を ナティファーといったか。 」
…………。
肉薄した距離に迫るよりも 少しだけ早い頃合いだった……。
チャリオットは、滑走機能でナティファーとの距離を詰めていく。
手が届く距離でも尚も、武装機能を使わない。
…………。
丹内空護からの問いかけには、沈黙が続く……。
…………。
「 …………。 」
「 単刀直入に聞く。
お前達の目的はなんだ ? 」
「 …………。 」
…………。
沈黙への返答に 難度でも問いただす……。
…………。
「 俯瞰的に成れと……、俺達に行っていたな ?
俺には聞く準備がある。答えろ。 」
「 ……まずは、武器を手に取っておくべきです。
不意に足元を すくわれたくないのなら……。 」
…………。
問いを投げた成果としてなのか……。
白い翼のエヌ・ゼルプトは、片方の手にアルカナの光を集約させて赤色の弓を握った。
丹内空護は無言で応じて、B.A.Cupを片方の手の中に呼び出すが、引き金には指すらかけない。
…………。
……。
数日前……。
戦馬車の青年と 塔の青年が、この日に備えて言葉を交わした日……。
白衣の青年 天瀬十一が、呆れた口ぶりで友人に苦言を刺す。
…………。
「 ……あのね、空護。そんなので正直に答える訳が無いよ。
相手は謎の怪人だよ ? 」
「 だろうな。だから聞くんだ。
何かしら話し始めたら その後は……。
APCの技術チームで真偽の有無を詮索出来たりしないか ? 」
「 怪人を相手にプロファイリングを試みるって事か。
そして、敵の謎に迫っていく……。簡単じゃないぞ ? 」
「 やる価値は有るだろ ? 」
「 ……こちらの意図がバレたら、どうなるか想像も出来ないな。 」
…………。
そして 今……。
…………。
……。
丹内空護は、情報を引きだすための問答を繰り返す。
その間……。
…………。
少し離れた場所では、赤と黄色のアルバチャスが 3体のピップコート相手に戦っていた。
2種類の武器を呼び出し、滑走機能を駆使して攪乱(かくらん)し続ける。
B.A.Wandと B.A.Cupによる中距離射撃は、code-0-ならではの敏捷性と相性が良い。
…………。
……。
愚者の青年 有馬要人は、心の中で 今回の趣旨を思い起こす。
今回は……。
より多くの情報を エヌ・ゼルプトから引き出す動向が念頭に置かれていた。
…………。
愚者のアルバチャスは、囮(おとり)として 多くの怪人の注意を惹きつけて……。
戦馬車のアルバチャスは、情報を引き出す上で エヌ・ゼルプトに接近し、問答をぶつける。
…………。
2人の役回りを割り当てた理由は 当然ながら存在していた。
…………。
戦馬車の青年は、強敵への対処や 不意な強襲への対処に余力の有る為、前線へ赴くには最適であり……。
愚者の青年は、回避行動を主軸にして ピップコートを引き付けるには適しているのだ。
無理な決定打さえ 取りに行かなければ……。時間稼ぎには向いている。
…………。
青年 有馬要人は、今回の主題と概要を思い浮かべて……。
改めて 意思を固めた。
…………。
「 ……俺は 役回りを全うする。
こいよ ピップコート。……俺が相手だ。 」
…………。
愚者のアルバチャスが 静かに呟いて集中力を高める。
…………。
戦馬車のアルバチャスと 白翼のエヌ・ゼルプトは……。
いつの間にか相互の武器を接触させて交戦していたが、まるで 示し合わせたような拮抗した戦いだった。
2つの意思が 少しずつ入り混じる。
…………。
「 変わらず力強い気迫ですね。戦馬車……。
やはり、迷いは見えない。
流石は英雄と呼ばれるだけの 戦士といった所でしょうか。 」
「 お前達は何を知り、お前は俺達に何をさせようとしている ? 」
…………。
光の矢じりが、チャリオットの盾を掠めた。
殆ど同じタイミングで、ナティファーの足元にも光弾が着弾する。
肉薄した距離での白兵戦でも、矢じりも弾丸も相互に飛び交った。
…………。
「 ……それが 貴方の意志で考えた結果ですか ?
私が答えられる 最大限度は貴方にも託しました。 」
「 なら、何故ここに現れた ?
黒翼しかり、お前達は意図して手加減を しているな ?
特に お前からは殺意どころか敵意すら感じない。
マーヘレスが発していた気の欠片ほどもな……。 」
…………。
チャリオットは急接近し、B.A.Cupの握把(あくは)で赤色の弓に打撃を与える。
この時の衝撃は、先程の射撃よりも迫力めいたものを帯びており……。
武器越しに伝わる振動が、白い翼のエヌ・ゼルプトに強い意志を伝播させた。
…………。
「 ……簡単な話です。貴方達は所詮 贋作。
真作に至る 彼の者には遥かに及ばない。
手加減されていると……。そう感じているのは……。
……貴方だけでは有りませんか ? 」
…………。
白翼の怪人は、片手に伝わる強い意志に触発されたのか……。
直近の問答を否定する為なのか……。強力な反撃の一撃で応答した。
…………。
ナティファーは、赤色の弓に 光の刃を形成して……。
身体を大きく旋回させて回転の勢いを乗せた斬撃を繰り出す。
…………。
戦馬車のアルバチャスが、これへの対策を咄嗟に取った。
…………。
チャリオットは 後方に身を引いて、赤色の弓から繰り出される斬撃を回避する。
ホバー滑走による 間合いの調整である。
…………。
「 ……こんな鋭い攻撃も出来たのか。
だが……。お前が本当に敵意を持った奴なら、俺達は既に命を取られていた。
……違うか ? 」
…………。
回避行動の合間にも 問いを続けた。
これまでの戦いで感じた違和感を 1つの仮定になぞらえて確かめる。
裏付けを交えた設問だ。
…………。
「 だから ? 」
「 俺には断言できるほどの材料も頭も無い。
だが、お前が 只のエヌ・ゼルプトにも到底見えない。
だから、こうして聞くしかない……。
何度だって聞くぞ ?何を知っている ?
俺は……。お前を知っているのか ? 」
…………。
語気に合わせて戦いの熱も上がる。
比例するようにして 激しく舞い始める戦塵の中で……。チャリオットが問う。
丹内空護の奥底で曖昧な輪郭を持つ可能性が ざわついた。
…………。
「 戦馬車のアルバチャス……。ならば、まず……。
以前の貴方は、誰の使いかわからない相手を信じるに値しない。
そう話していましたね。
……これは何故です ?
私も、貴方が この言葉を返した存在と同質の……。人ならざる者ですよ ? 」
…………。
ナティファーは、丹内空護の過去の発言を引き合いに出す。
黒翼の怪人に応答した時の言質だった……。
…………。
丹内空護は、熟慮とも即答とも言えない絶妙な間を置いて答える。
…………。
「 出所の知れない情報など……。
伝聞する者の意図が介在しない訳が無いからだ。
ならば、混ざりものの情報に望むような真偽は無い可能性が高い……。 」
「 仮に今 私から 情報を得たとしても……。
それが当てはまるのではないですか ?
……私の意思が介在する。 」
…………。
ナティファーが、そこから連なる今の矛盾を突く。
…………。
丹内空護は、いくつかの過去と今とも向き合いながら 見えている限りの言葉で返答した。
…………。
「 それでも常に何かを主張していたのだろう ?
俺の気質を、そこまで知っていながらだ……。
何を伝えようとしている。
いや……。質問を変えよう。
少なくとも お前は、俺達に敵対するつもりはないんじゃないか ? 」
「 …………。 」
…………。
少しの間だけだった……。
無言で組み手のような白兵戦が続く。
致命打を最小限度に留めた攻防による打撃音だけが辺りに鳴った。
…………。
「 有馬要人を……。
鍵を持つ愚者の戦士を、逆位置の太陽に渡してはなりません。 」
「 どういう事だ ? 」
…………。
疑問を浮かべて攻撃の手を緩めた チャリオットに合わせて……。
いつの間にか ナティファーも肉薄した攻撃を取りやめていた。
…………。
白い翼を はためかせて、大きく後方へ飛びのく。
数秒の間を置いて……。
明確な答えを提示しようとしたのか、掻い摘んだ説明を始めた。
…………。
「 今の戦いでの太陽は 2つ有ります……。
ですが、1つは数字すら持たない愚者に……。
もう 1つは名前を持たない……。 」
…………。
轟音が鳴り、白い翼のエヌ・ゼルプトを爆炎に包んで後方へ吹き飛ばす。
…………。
爆炎の発端となった大火球が飛んできた方角には……。
アルバチャスの武装、B.A.Cupを握った何者かが立っていた。
…………。
何者かの姿は 真紅の装甲に身を包み、頭部に金色の冠を抱く……。
背中には神々しく輝く光の円環を背負っていた。
…………。
何者かの周辺には、約100体程の 新型でもあり量産型に該当する、レヴル・ロウが大挙している。
特務内で共有された資料や、何度か実施された稼働試験での姿と同一の量産型だった。
…………。
量産型を先導したのは、神々しい円環を背負った 何者かで……。
その何者かが……。2人のアルバチャスに声をかける。
…………。
「 待たせたね。
私が太陽の英雄として加勢しよう。 」
「 この声って……。神地さん…… ?
けど、そんな色のアルバチャスは……。 」
「 有馬君や空護が知らないのも無理はない。
C.E.Oのアルバチャス code-19-……。
Apollon(アポロン)は、今日まで秘密裏に開発されていたから。 」
「 十一…… ?お前まで出てきたのか ?
手筈とは違うだろう。 」
…………。
赤色のアルバチャスは神地聖正だった。
…………。
初めて見る、アルバチャスの姿と意外な人物の声に 有馬要人が小さく困惑する。
即座に、困惑を解消する人物が説明を加えるが、これには丹内空護すらも驚きの声を出した。
…………。
「 空護……。落ち着いて聞いてくれ。
APCが真紅の戦士と 黒翼が先導する 大量のピップコートに襲撃された。 」
「 ……なに ? 」
…………。
僅かな時間の間に、多くの情報が飛び込む。
有馬要人にしても丹内空護にしても、耳を疑った。
…………。
「 空護や 有馬君が出動した少し後の事だった……。
特務棟の社屋は大きく損壊。
秘密裏に開発していた次世代型で、俺達も反撃に出たってわけさ。 」
…………。
神地聖正と天瀬十一によって 事のあらましを知らされた直後だった。
あらましの現実味を補填するようにして、大量のペイジ型ピップコートが出現する。
量産型のレヴル・ロウが 乱戦を繰り広げていく……。
…………。
ペイジ型のピップコートは、殆どが変質前の単一のスートしか持たない形態だったが……。
数は多く……。過去の大災害を連想させる。
…………。
新設班……。彼誰五班(カワタレゴハン)に属する、レヴル・ロウ達は……。
2種類の専用武装を駆使して戦っている。
小剣型武装や、対エイオス反応銃型武装は、至る所で戦うピップコートを各個撃破しているようだ。
…………。
神地聖正が駆るアルバチャスによって 爆炎に飲まれたエヌ・ゼルプトが、体勢を立て直す……。
先程の火球による攻撃からは、翼を盾にして辛うじて直撃を避けていたようだった。
…………。
「 あれは……。
名前を持たない もう 1つの……。 」
…………。
加速度的に混戦する状況を前にして……。
白翼のナティファーは 静かに身構えた。
…………。
……。
神地聖正は 涼しい口ぶりで、これまで戦ってきた歴戦の 2人のアルバチャスを労う……。
…………。
「 2人には 今まで大きな負担を背負わせていたが……。
これからは全てが大きく変わっていく。断言する。
手始めに……。
私の太陽の力で、エヌ・ゼルプトを打倒してみせようか。 」
…………。
神地聖正が駆る、太陽のアルバチャス アポロンは……。
いつの間にか、白い翼のエヌ・ゼルプトに肉薄した距離にまで接近し、数発の打撃を加えていた。
…………。
打撃は一撃 毎に、爆風を起こしており、白い翼を散らしている。
エヌ・ゼルプトを相手に防戦すらさせない。
…………。
「 これが 真なるマルクトの……。実力 ? 」
…………。
アポロンが繰り出す、爆風を起こす徒手空拳は たった数発で……。
白い翼のエヌ・ゼルプトの片腕や翼を欠損させていく。
…………。
「 白翼の怪人……。ナティファーか……。
巧みな言語と 精神干渉能力を操り……。
人心を惑わす疑天使は、太陽の熱で焼き払ってしまおう。
粛清だ……。 」
…………。
瞬く間に、白色の身体が焼けていく。
…………。
「 …………丹な…………さ……。自分の意志で考え……。決断し……。 」
…………。
ナティファーが、チャリオットに向けて何かを伝えようとした。
丹内空護が、そんな風に 感じ取る頃には……。
…………。
太陽のアルバチャスからの 中段蹴りが、突出した紅炎を作り 跡形もなく エヌ・ゼルプトを焼失させた。
…………。
白い翼のエヌ・ゼルプトが立っていた場所は……。
地面の石材を黒々と焦がすだけで、初めから誰もいなかったかのように煤(すす)だけを残す。
…………。
迅速に決した戦いには、この場に居た殆どを圧倒させた。
…………。
特に量産型で編成された新設班の面々は……。
皇帝と同等程度の怪人を簡単に倒した C.E.Oの姿で士気を向上させた。
高まる士気の波が、残りのピップコートへと向けられる苛烈な攻撃に変わる。
…………。
ペイジ型のピップコートに紛れて、とある 3体のピップコートがレヴル・ロウに激しく抵抗した。
…………。
聖杯の女王、護符の女王、剣騎士……。
白翼のエヌ・ゼルプトの隷属達だ。
女王型による、飛び交う水流弾も 水流壁も……。
騎士型による 滑空して切りすさぶ 2本の剣による突風のような斬撃も……。
単独通しでの戦いならば、量産型の手には余る絶大な威力を持つが……。
…………。
徒党を組む レヴル・ロウと、
量産型の間隙を埋めるバベルの雷撃によって、ますます混戦していく。
…………。
戦況を見渡す人物……。
神地聖正は、今以上に全体を鼓舞した。
…………。
「 私達は戦う力を手にした !!
太陽神にも相応しい絶大な庇護の下……。
かつての憎き敵に……。
数多のエイオスに……。
反撃の狼煙を上げようじゃあないか !!
正当なる法の摂理はこちらに有る……。
君達、次世代のアルバチャスは新世界に太陽を呼ぶ。
言わば、彼誰時(かわたれ どき)に戦う新たな英雄だ !!
さあ、私に続け !!新時代の夜明けを呼ぶ勇者達よ !! 」
…………。
神地聖正が号令を終えると……。
アポロンの背面の光輪が、赤熱した配色で発光する。
…………。
すると、全てのレヴル・ロウの顔面のスコープアイが同様に赤熱した色で輝いた。
文字通り目の色が変わり……。
直接的な戦闘経験は乏しい筈の班員達さえも、卓越した動きで連携を取るように成る。
さっきよりも迅速にペイジ型のピップコート群を職滅していった。
…………。
太陽のアルバチャスと、レヴル・ロウの戦い様に……。
既存型のアルバチャスの 1人、有馬要人が 驚愕の声を漏らす。
…………。
「 これが 次世代型……。 」
…………。
青年の言葉には、心情が現れていた。
…………。
はたからみても……。無駄の無い動きで戦う光景に圧倒される。
レヴル・ロウ達が戦況を塗り替えていくのだ。
…………。
驚く青年に、情報面での補填を行っているのか……。ある人物が声をかけた。
…………。
「 凄いだろ ?
これも全て、有馬 君や 空護が蓄積してくれた データが有ったからこそなんだ。 」
…………。
塔のアルバチャス……。天瀬十一が、戦塵を抜けて 近くまで滑走して来る。
量産型の根幹の一部を得意げに語ったのだ……。
天瀬十一に呼応したのか、神地聖正が音声通信で更なる強みを説く。
…………。
「 Rebel Law(レヴル・ロウ)は……。
単体での強度は code-0-や code-7-と同程度か……。
僅かに下回る程度で まとまっているが……。
扱いやすく……。
経験の浅い者でも最小の負荷で起動 出来る。
仮に 新たな強敵が出現したとしても……。
私や 十一 君からの制御補助によって、実力以上の集団戦闘も可能だ。
タイムラグの無い意志疎通は、限界以上の成果を出すだろう。
Arcana Search(アルカナ・サーチ)の演算によって、
高い次元まで引き上げられた結果だからね。 」
…………。
……C.E.Oの声は上機嫌で 自身に溢れていた。
…………。
青年 有馬要人は、何かが気になったのか……。違和感に意識を向ける。
…………。
「 ………本当に淀みが無いですね。
意思の疎通の補助だけで、こんなにも戦いに没頭できるなんて……。 」
…………。
レヴル・ロウ達の挙動は まるで……。
機械兵のように 無駄が無さすぎるようにすら見えた。
…………。
ここまで、無感情に戦えるものなのか……。
…………。
日々の 訓練を共にした実動班の面々とは別人のようにも見間違う程だ。
全てが 1つの意識すら持たないような……。微細な個々人の癖すら感じられないような……。
…………。
青年が困惑しているのを見かねたのか……。神地聖正が更なるカラクリを明かした。
何が起きているのか掴み切れるように 動作補助の仕組みを 開示する。
…………。
「 彼らが使用するシステムは……。
私からの統制で、あらゆる迷いを排除している。
恐怖による迷い、怒りや遺失感による迷い……。
本来であれば、人が持つ強さとは切り離せない裏側だ。
戦闘処理において不要な あらゆる 感情すらも私が統制しているんだよ。
恐らく……。
レヴル・ロウ達は、一切の苦悩も無く戦えている筈だ。
素晴らしいだろう ?
君達 2人のお陰だ。ありがとう。
あらゆるデータは有効活用させてもらったよ。 」
…………。
神地聖正が カラクリを成立させられた理由と 御礼の言葉を口にするが……。
青年 有馬要人は 絶句してしまう。
…………。
そこへ、丹内空護が近づき……。
レヴル・ロウ達が戦う横で、4人のアルバチャスが会する。
…………。
「 C.E.O……。先程のエヌ・ゼルプトは……。 」
…………。
戦馬車のアルバチャスが、感情が抑えられた声で 何かを言い含めた。
…………。
4人は誰もが戦わずにいるものの……。
赤眼に成ったレヴル・ロウ達によって、次々とピップコートは数を減らしていく。
先程とは変わり、白翼のエヌ・ゼルプトの隷属達も手を焼き、防戦に回っているようだ。
…………。
……。
……何かが変だ。
……間違いなく まともではない。
…………。
……。
神地聖正は、丹内空護の接近に気がついたようで……。
いつものように、気さくそうな声で挨拶代わりの声をかける。
現状の心身を気に掛ける 部下思いの 優しい言葉だ。
…………。
丹内空護の友人……。天瀬十一もこの 後に続く……。
…………。
「 丹内 君か……。
精神干渉は受けていないね ?
あの個体は、人心を惑わす危険なエイオスだった。
私が 間に合ってよかったよ。
もう安心してくれて良い。見ての通り 私が倒した。 」
「 空護も 驚いているようだね。
……でも 仕方が無いか。
神地 さん のアルバチャスは、1つの到達点といっても良いからね。
俺達 3人のアルバチャスとは世界が違う。 」
…………。
神地聖正の所作も、天瀬十一の言動も……。
普段なら何も気にならない 穏やかな 一コマだ。
……だというのに。
丹内空護の頭の奥で 何かが引っかかる。
…………。
……。
……なんなんだ。
……まさか、アレは現実だったのか ?
…………。
意識して考えるまでも無い 無意識下の予感めいたものが強い現実味を感じさせる。
これは自分自身でも納得できない程、説得力を持っているように感じた。
……物的証拠こそ無い、感覚だけが何かを示唆する。
…………。
一方では、丹内空護の心情等 そっちのけなのか……。
神地聖正が、天瀬十一の言葉に応じた。
…………。
「 相変わらず 十一 君は お世辞が上手いな。
だが 全てが事実だ。
さあ、有馬 君も 丹内 君も 戦線に加わると良い。
このまま 奴らを掃討し……。
犠牲に成った人達への 弔い合戦と いこうじゃあないか。 」
…………。
太陽のアルバチャスが 号令をかけるが。
戦馬車のアルバチャスは 動き出しはしない……。
…………。
……。
珍しく……。速やかに行動に移れない 丹内空護だった……。
そんな中……。有馬要人が 心情を代弁するかのように口を開く。
…………。
「 どうして……。
どうして そんなに嬉しそうなんです ? 」
…………。
語気は靜かでも、強い意志を忍ばせた疑念だった。
…………。
愚者の青年が ぶつける疑念は……。太陽のアルバチャス 神地聖正によって解答が成される。
…………。
「 何も不思議に思う事は無い。
外から来た君は……。実感が無いかもしれないが……。
故郷を奪った根源を打ちのめす支度が整ったんだ。
これ程、嬉しく感情が動く事は無いだろう ?
これで、理由は わかっただろう ?
有馬 君も 丹内 君も 単独班として、新設班と連携してくれないか。 」
「 ……俺は 今までの戦いを、楽しんだ事は 一度も有りません。 」
…………。
愚者の青年からしても、どこかで ズレが有った。
これまでに、見ていた方向が違っているような……。
……そんな感覚は、C.E.Oの言葉に同意しがたいように 踏みとどまらせる。
…………。
神地聖正は、異を唱える 愚者に更なる応答をした。
…………。
「 ……まあ。君は そう なんだろう。
だが、それを実感してるならば……。
レヴル・ロウの優位性は 理解できるだろう ?
戦いは 人の心を 少しずつ蝕んでしまう。
丹内 君……。君の 愛弟子が迷っている。
戦地での 優先順位の切替は、とても重要だ。
助言してあげなさい。 」
…………。
戦馬車の青年 丹内空護は……。
何かを決意したようで片方の掌を見返してから 握りこぶしを作る。
…………。
「 C.E.O……。白い翼のエヌ・ゼルプトは、何かを伝えようとしていました。
本日の作戦は、承諾されていた筈では無いですか ? 」
…………。
丹内空護の内心では……。
……取り返しのつかない何かが。
横切ったような……。見過ごしてしまったような……。
ざわつく嫌悪感があった……。これを確かめなければならない。
自分の意思で……。見つけ出さなくてはならない……。
そんな考えと心持が 形を成していたのだ。
…………。
神地聖正は、戦馬車からの質問にも応じる。
…………。
「 ……丹内 君もか ?
2人とも、どうしてしまったんだ。
これから、皆で一丸と成って エイオスを倒す。
まさしく、今は悲願の時だ……。
さっきの個体は跡形もなく 私が焼き払った。
精神干渉でも されている訳じゃあるまいに……。
大丈夫さ。
例え プロファイリング等しなくとも問題は無い。
次世代型の 戦力が有れば、どんな相手にも負けはしないだろう……。
このまま、誰もが望む未来へ進むだけなんだ。 」
…………。
太陽のアルバチャスが、軽く両手を広げて 優先順位を示す。
神地聖正の言い分は……。利にはかなっていたようだった……。
それでも……。
…………。
青年 有馬要人から見れば 異質さが強く残り、すんなりとは飲み込めなかった。
…………。
「 ……確かに俺は余所から来た流れ者です。
反撃に移る念願の機会な事も理解は……。出来ます。
ですが、やはり変ですよ。
APCが襲撃されたなら、今さっき被害に あった人もいるんでしょう ?
何故 心底楽しそうにしていられるんです ?
神地 さん も……。十一 さん だって、どこか変ですよ ! 」
「 有馬 君……。
君も わからない奴だな。
いつも楽観的に振舞っていた君が……。
何故、そんなにも食い下がる ?
仮にだ……。私が君の言葉通りだと譲歩したとしようか……。仮にね……。
仮に私が譲歩したとして……。
君の振る舞いと ?……私の振る舞いの何が違う ?
落ち着いて考えてみると良い。
むしろ 私は……。
これまでにも 日樹田を牽引し、復興を推し進めた実績がある。
ならば、実績のある私が牽引するんだ。私達は正しい。
君が疑問に思う余地なんて何も無いだろう ? 」
…………。
執拗に食い下がる 青年に……。神地聖正が まくし立てた。
怒涛の言葉の猛襲に、愚者の青年は気圧されたのだろうか……。数秒の沈黙が発生する。
…………。
「 …………。 」
「 まあ、少し私も言い過ぎたかも知れないが……。
理解は出来たかな ?有馬 君。
悪く思わないでくれたまえ。判断の迷いは危険だ。
陣頭指揮が乱れれば 命を落とすのは戦いの場にいる者 自身なのだから。
さて……。
……いずれ 新手のエヌ・ゼルプトも出現するかもしれない。
レヴル・ロウ達の戦線に加わるんだ。有馬 君も 丹内 君も……。良いね ? 」
…………。
神地聖正の言葉に言いくるめられたのか……。
青年は 沈んだ様子だったが……。丹内空護が ある人物に向き直った。
…………。
ある人物は、丹内空護とも付き合いが長い人物……。天瀬十一である。
…………。
友人が大切にしている人物の安否も気に掛けて……。
全ての違和感の根幹を目指す。
…………。
「 ………十一。真尋 ちゃんも 親父 さんも 無事か ? 」
「 空護。今の話を聞いていなかったのかい ?
そんな事よりも 今は やる事が有る。
APCは 襲撃されて、特務棟は大きく損壊しているんだ。
俺達は 神地 さんと 反撃に出たんだよ ? 」
…………。
戦馬車の青年にとって 気心の知れた友人からの返答は続く……。
…………。
「 十一、覚えているか ?
俺と有馬が マーヘレスと交戦した 1度目の戦いを……。
俺も 有馬も 手も足も出なかった戦いだった。
あの時、何故 生き延びたのか……。未だに明確な理由は判明していない。 」
「 そういうのは後にしない ?
空護も 有馬 君も 優先順位を切り替えないと。
今の所……。ピップコートは新設班が対処しているけど……。
真紅の戦士と黒翼を探し出さなきゃ。 」
…………。
丹内空護は 行く先を見定める……。
最後の確認として、友人に だから話せる証拠の無い確信を 放り込んだ。
…………。
「 ……1つだけ、つじつまが合う理由が有る。
ある人物がエヌ・ゼルプトにも通ずる異能を持っていた。 」
「 何を言っているんだい ?空護……。
今まで そんな事、知ってる素振りすら見せなかったじゃないか。
神地 さん と、残りのエヌ・ゼルプトを探そう。
今は これが最優先だ。 」
「 ……お前は、それで良いんだな ?十一。
……わかった。 」
…………。
丹内空護は、白い翼のエヌ・ゼルプトが見せた幻視を思い出す。
その光景には……。
以前 戦った強敵が……。とある人物によって行動を阻まれている。
…………。
「 貴様……。
何故、法の光を扱える。
協定とは異なる……。 まさか、違反者だったか。 」
「 二度は言わないぞ ?
退け、不完全な皇帝。
それともこのまま、硬直させ続けてやろうか ?
身動きが取れなければ、今の お前も 人間に負けるんじゃないか ? 」
…………。
恨めしそうに憤る皇帝は、その人物を知っていたような口ぶりだ。
これを行った人物の声は、日樹田の復興を加速させた人物の声と合致していた。
…………。
丹内空護が 何故か知っている幻視に登場した声……。
四目の皇帝 マーへレスの動きを容易く阻害した何者かの声は……。
この場にいる人物とも合致する。……まったく遜色がない声の人物が 今の感情を上機嫌気味に発っする。
…………。
「 やはり友人からの言葉は違うな。
……丹内 君の事は、十一 君に限る。
私の言葉よりも耳に届くわけか。さあ、共に行こうか。 」
…………。
何故……。この人物の声が 幻視の中の声と一致し……。
エヌ・ゼルプトを人間の独力で抑えられるのかは……。現段階では理由も知りえない。
神地聖正は……。何かしらの重要な情報を隠し……。
一定の目的を持って多くの人間を先導しているのだろう。
これが、丹内空護が現段階で辿り着いた答えだった……。
多くの協力者は まだまだ望めないが、進むしかない。……そんな気がした。
…………。
戦馬車の青年は、ある人物に呼びかける。
…………。
「 ………有馬 !!
お前は 俺を信じるか ? 」
「 ……空護さん ? 」
「 俺は お前を信頼している。
今 起きている状況よりもな……。 」
…………。
戦馬車の青年は、簡単に自身の心情を言葉で結び、ホバー走行機能を起動させた。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
急加速した戦馬車が……。
接近時の移動エネルギーをも 上乗せして、太陽に向けて拳を振るう。
太陽のアルバチャス 神地聖正は少しも動じないが……。
戦馬車の拳は、塔のアルバチャスが 補助アームを稼働させて受け止める。
…………。
「 空護……。
神地 さんに 殴りかかるなんて、何かの作戦かい ? 」
「 ……悪いな 十一。俺なりの考えだ。
このまま 全ての謎を 自分自身で追及する事にした。
もしかしたら……。
只々、納得できない だけ なのかもしれないが、後悔しない自信が有る。
……要人 お前も何か有るんだろ ?
俺は、お前に背中を預ける。好きな道を選べ。 」
…………。
丹内空護は、天瀬十一に受け止められた拳を微動だにさせず……。
力を込めたままに、全ての決意をも込める。
許容出来ないのなら……。やる事は決まった。
…………。
愚者のアルバチャスは、無言で武装機能を起動させる。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Wand !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ワンド !! ) 』
…………。
有馬要人が、B.A.Wandを片手に握り、丹内空護に答えた。
…………。
「 ……空護さん。
俺、本当に馬鹿かもしれません。 」
「 大丈夫。俺もだよ。 」
…………。
愚者と戦馬車は、肩を並べて太陽と塔に戦意を向ける。
………………。
…………。
……。
~調和への灯火~
愚者のアルバチャスと……。戦馬車のアルバチャスが 身構える。
当ての無い 道へと踏み出して肩を並べたのだ。
…………。
敵意を向ける歴戦の 2人に対して……。
腑に落ちない様子だったのは、太陽のアルバチャスである。
務めて平静に疑問を投げ込むが、沸々とした感情が潜んでいそうな不自然さがあった。
…………。
「 君達は、何をするつもりだい ?
まさかとは思うが……。
この神地聖正に 疑心を抱くだけに留まらず……。
良くない事を、実行に移すつもりじゃあ ないだろうね ? 」
…………。
一定の範囲で 柔らかい言い回しに変換されているが……。
憤りは 確かに潜んでいるようだ。
…………。
丹内空護は、神地聖正の疑問に答える。
…………。
「 ……今 思えば C.E.Oの言動は、常に何かを含んでいた。
それが発端で、一度は有馬とも戦い……。
一度は、救援に遅れる失態をしてしまった。 」
「 アレは丹内 君 自身も承諾して行った事だろう ?当時の総意だ。
まさか責任転嫁かい ?
逆恨みで 人のせいにしちゃあ いけないな。
背信行為も 度を過ぎると冗談にもならなくなってしまうぞ ? 」
「 だから失態だと言った。
俺は いつのまにか、貴方を妄信していた。
……いや、俺だけじゃない。
この街に住む殆どが 今もそうだろう。
大災害から今まで、誰しもが すがりついて気にもしなかったが……。
……異常だったんだ。
やっと気が付けたよ。あの力は、人間技じゃ無いな ?
何故 エヌ・ゼルプトを足止めできる ?その力はなんだ ? 」
…………。
丹内空護は確信を持って断言した。
神地聖正の隠す何かが……。常に絶望的な状況でも余裕を匂わせる要員なのかもしれない……。
まるで、全てを思い通りに進めているような足取りが……。異常な何かを裏付けるのだろう。
エイオスに関連した重大な何かを知ってる事は揺るがない。
…………。
太陽のアルバチャスは、数歩程 歩を進めてつぶやく……。
…………。
「 ……旧型を相手に 次世代型の試験が出来るな。
十一君。見せてあげなさい……。
レヴル・ロウを 10体貸し与えよう。編成は好きにすると良い。 」
…………。
塔のアルバチャス……。バベルが、無言で補助アームの両肩の王冠を明滅させる。
10体のレヴル・ロウが呼応するようにして 滑走機能を使用して集まった。
…………。
その中の 6体のレヴル・ロウが、チャリオットを取り囲む……。
量産型達は、専用武装の銃口を向けた。
…………。
戦馬車のアルバチャスは 動じる様子でもないが、友人に呼びかける。
…………。
「 十一……。これが、お前の真意なのか ? 」
「 空護……。俺は今、清々しいよ。
そっちが 勝手に裏切ってくれるなら、少しの罪悪感も不要だ。
本当は知ってたんだろ ?
俺が実動班への配属を取りやめた理由を……。
お前が邪魔だったんだよ !! 」
…………。
塔のアルバチャスから、爆発するような語気が溢れ出る。
…………。
「 十一……。 」
「 君が いつも、俺を器用だと褒めるほど……。
君が たった 1つの事だけで 駆け上がって行くほど……。
俺の劣等感は増していった。
……何故か わかるか ? 」
『 Barrage Armed !! Function !! Cup !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! カップ !! ) 』
…………。
鬼気迫る様相の バベルの片手には 拳銃型武装 B.A.Cupが呼び出される……。
引き金に指を滑り込ませる途上で、更なる怨嗟が流た。
…………。
「 わからないだろう ?
たった 1つの手段だけで居場所を作れる お前みたいな人間に !! 」
…………。
決壊した心情が込められた弾幕は、強い敵意となってぶつかっていく……。
…………。
丹内空護は 数体の レヴル・ロウと、バベルからの銃撃を正面から受け止めた。
…………。
愚者のアルバチャスは 戦馬車のアルバチャスに加勢しようと、即座に動き出すが……。
残る 4体の レヴル・ロウからの、執拗な足止めが これを阻む。
小剣型の武装で、近接攻撃に持ち込ませると その場から逃がさない。
…………。
「 空護さん !!
これじゃ 近づけない……。皆さん 止めてください !! 」
…………。
青年 有馬要人は、仲間からの攻撃に いつも通りの戦いが出来ない。
反撃にも戸惑ってしまい……。回避だけに専念するが……。
塔のアルバチャスからの銃撃も数発 飛んでくる。
…………。
「 無駄だよ。有馬 君……。
統制下の レヴル・ロウには一切の雑念が無い。
目標を制圧するか、指揮官型が 指示内容を変えるか どうか……。
どちらにしろ 空護にも 有馬 君にも、与えられていない権限だからね。
……君も目障りだったよ。
後から来て、稀少なデバイスを使いこなすなんて……。
どうかしてる。
まあ、今にしてみれば……。
ストゥピッドが 文字通りの 馬鹿だったのは痛快だけどね。
君の弱点は 至近距離に限定された乱戦。
相手が見知った人なら、迷いだらけの君じゃ何も出来ないだろう ?
……そこで待ってなよ。
仮にも敵対するなら、君達のデバイスは回収させてもらう。 」
…………。
有馬要人が レヴル・ロウに手を焼く姿に……。
天瀬十一が 冷めた口ぶりで言い放つ。
…………。
太陽のアルバチャス 神地聖正は……。
旧型と新型の実戦試験を傍観するついでに、設計思想にも関わったコンセプトを補足した。
…………。
「 元来、塔は儀礼的にも特別な場所だ。
神の意向を意味する太陽の熱線も、塔に降り注ぐ雷も……。類似の意味合いを象徴する。
タロットカードに おいてはね……。
神の意志を取り持ち……。
地上に届かせる様は、こんな景色なのだろうな。 」
…………。
神地聖正は、満更でもないらしく ゆっくりと腕を組む……。
…………。
戦馬車のアルバチャス……。丹内空護は、ホバー滑走で立ち回り……。
数発の弾丸を盾や篭手で防ぐと……。見知った友人に呼びかけた。
…………。
「 十一、お前は本当にあんな奴の下で……。
あんな奴の言い分を全て信じられるのか !? 」
「 ……黙りなよ。
勝算は無いんだろ ?
そして俺すら説得する材料がないから見切り発車をしたんだ……。
諦めるんだね……。
次世代型に 太刀打ち出来る訳が無いんだからさ。 」
…………。
塔のアルバチャス……。バベルの補助アームの片方が……。
ホバー滑走で動き回る戦馬車を捉えて。鷲掴みにする。
身の丈程の強大な掌は獲物を捕縛して離さない。
…………。
「 ……さてと、この補助アームでアルバチャスを殴るのは初めてだ。
きっと稀少な試験に成る。耐えてくれよ ?空護。 」
…………。
バベルは、強大な補助アームを振りかぶり……。
中空に チャリオットを放り投げると、逃げ場のない状況下で剛列な勢いを載せて殴り飛ばした。
…………。
蓄積された戦傷が、丹内空護を消耗させていたらしく……。
遠方の平垣にぶつかると、そのまま瓦礫を作り アルバチャスを強制解除させてしまう。
…………。
天瀬十一が、希少な試験結果の感想を述べる。
…………。
「 ……相変わらずの腕力だ。
良いデータが取れたよ。やはり利便性は高いな。 」
…………。
深々と関心した様子で補助アームの片方を眺めながら呟くと……。次の行動へと動き出す。
次の矛先は、愚者のアルバチャス……。有馬要人である。
天瀬十一が、宣戦布告のような言葉と共に近寄っていく。
…………。
「 さて 次だ。有馬 君。 」
…………。
青年 有馬要人は、気が付いていながらも……。
レヴル・ロウ達との乱戦から 未だに脱せずにいた。
塔のアルバチャス……。バベルの手には、しっかりと B.A.Cupが握られる。
…………。
塔のアルバチャスに、何者かが強く呼びかけた。
何者かは、瓦礫の中から身を起こして 傷だらけでも立ち上がる……。
…………。
坊主頭の人物だ。
…………。
「 ……まて、十一 !!
あんなパンチで……。俺を倒した気でいたのか ? 」
「 空護……。君は あんなパンチで、そこまでボロボロになってるんだ。
虚勢にも成らないよ。 」
…………。
生身に戻った、丹内空護の身なりは……。
衣服も所々が破れ、身体にも裂傷や青痣が至る所に出来ている。
…………。
「 虚勢なものか……。俺は戦える。 」
「 君のデバイスは、過剰な調整がされている……。
例え、万全の状態でも起動には身体的負担が大きい。
……知ってるだろ ? 」
「 それが……。どうした……。
お前だって知っているんじゃないか ?
俺が自己への 負荷を気にしない人間だと !!
これくらいの状況、何でも無いさ……。
アルバチャス……。code-7- 起動 !! 」
『 Arbachas code-7- !! The Chariot Function !!
( アルバチャス コード セブン !! チャリオット ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Wand !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ワンド !! ) 』
…………。
丹内空護が、戦馬車のアルバチャスに姿を変える。
即座に B.A.Wandからアルカナの光を練り上げて、愚者のアルバチャスに譲渡した。
…………。
「 ……有馬 !!
量産型にも 使用者を保護する最低限の治癒機能は有る。
まずは、落ち着いて自分の身の安全を優先しろ !!
十一は……。俺が抑える !! 」
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
…………。
丹内空護は、愚者のアルバチャスに助言を飛ばして……。
塔のアルバチャスと 交戦した。
…………。
ホバー滑走で急加速する戦馬車には、塔の周りで取り巻く 6体のレヴル・ロウが行く手を阻む。
混戦した状況だったが、丹内空護は最小限の重心移動だけで すり抜けていき……。
完全に潜り抜けると、塔のアルバチャスと肉薄した戦いを勃発させた。
…………。
疾駆する戦馬車は……。
…………。
膨大な量の アルカナの光をエネルギーに変えて……。
戦馬の突進の如き 殴打で、バベルの補助アームにも真っ向から打ち込む。
…………。
塔のアルバチャスが少し押されたように見えたからなのか……。
別の理由からなのか……。
太陽のアルバチャス……。神地聖正が 不機嫌そうな声で、天瀬十一に呼びかけた。
…………。
「 ……十一 君。
まだまだ、攻め方が甘いんじゃないか ?
若気の至りだな。下がりなさい。
何事も流れが肝心だ。続きは 私がやろう。 」
…………。
この一言による影響は、まるで潮が引くようだった。
10体の レヴル・ロウは散開し……。
さっきまでと同じように 滑走機能で速やかに ピップコートの戦闘処理に戻っていく。
天瀬十一も同様にホバー滑走を使用し、丹内空護から距離を置いた。
離れた位置から全体を視界に納める。
…………。
「 ……申し訳ございません。神地 さん。 」
「 仕方がないさ。
未熟さは若者の特権だ。
今は、しっかり見ていると良い。 」
…………。
太陽のアルバチャスは、ホバー走行で速やかに バベルと入れ替わる。
…………。
「 丹内 君……。
君は、私に反旗をひるがえしたな……。
何を根拠に そうした ? 」
「 C.E.O……。貴方は重大な事を隠している。
そして、それは エイオスとも アルバチャスとも通ずるものだ。
俺達に知られたら困る何かが ある……。 」
…………。
神地聖正は、何を考えているのかすらも漂わせない。
静かに……。応答する。
…………。
「 私が知っている事は……。
以前、十一 君が まとめ上げて開示しただろう ?
幻視で得た貴重な……。奴らの秘密さ。
可笑しな物言いをする。
それだけで、この私に敵対するのか ? 」
「 仮に そうだとしても……。
それを 最近まで秘匿していた意図が潜んでいる。
エヌ・ゼルプトに詳しすぎる 貴方が、多くの人々を先導する様は……。
あまりにも不自然だ。もし……。マーへレスを足止めしたのが貴方なら……。 」
「 ……まるで、エヌ・ゼルプトのようだとでも 言いたいのかな ?
カリスマ性を持つ人間への暴言だよ。それは。
あまりに脈絡のない稚拙な物言いだ。
丹内 君。疲れているんだな ?
君には長い休暇を与えよう。
彼誰五班(カワタレゴハン)が居れば、それが出来る。
もちろん、丹内君だけじゃない。
只の世捨て人だった有馬 君 にもね……。 」
…………。
神地聖正は あらぬ疑いから避けて、寛大な提案をした。
2人の背信者に、最後の恩赦を提示したのか選択の自由すらも示す。
その一方で……。
有馬要人の経歴について触れた。
思いもよらない情報は、青年 本人を驚かせる。
…………。
「 この半年間……。
悪いけど調べさせて貰ったよ。
結果、君は只々 各地を歩き回る根無し草だと判明した。
どうして只の放浪者である 君だけが、その デバイスを扱えるのかは知らないが……。
もう君に デバイスを預ける意味はない。
両親は健在な ようだし ここらで手を引くと良い。
条例違反は、君の所在を調べるまでの方便に過ぎない。
悪く思わないでくれたまえ。 」
…………。
寛大な提案と その理由を更に 押し込む……。
…………。
「 今まで大変だったね。
2人の頑張りが、今の APCの新たな戦力を担保してくれたんだ。
もう、休んでも良いだろう。
一過性の感情で敵対した事は、目を瞑ろうじゃあないか。
さあ アルバチャスを解除して、デバイスを渡すんだ。 」
…………。
最後の救済措置だろうか……。
アルバチャスを起動する為の デバイスを放棄するように提案する。
…………。
この提案に先に返答したのは、愚者のアルバチャス 有馬要人だった……。
…………。
「 ……神地さん。
俺、わかりました。 」
「 そうか……。
物分かりが良くて助かるよ。さあ、デバイスを……。 」
「 このデバイスにも……。
エイオスとの戦いにも……。まだまだ秘密が有る !!
だから、今 これを手放す訳にはいかないって !! 」
「 ……なに ? 」
…………。
いつになく低く憤る声が 太陽から漏れていた。
…………。
その一方で、青年が示した拒絶による影響か……。
2人のアルバチャスは完全に吹っ切れたようだ。
…………。
「 ……空護さん。
俺達に、やる事が出来ましたね。 」
「 ああ。多すぎるくらいだ。
まずは、ここを突破して 特務棟の被害状況を現調する。
へばるなよ ? 有馬。 」
…………。
有馬要人と丹内空護は互いに、今後の行動をすり合わせた。
…………。
太陽のアルバチャスが、背面の円環を より強く赤々と輝かせる。
…………。
「 ……まったく。物分かりの悪い愚か者どもめ。 」
…………。
円環から放出される光の粒子は、膨大なアルカナの光を産み出していた。
太陽のアルバチャスが何かを行った……。
…………。
これによる状況の変化を……。
戦馬車のアルバチャスも、愚者のアルバチャスも 即座に察知する。
…………。
「 ……これは !? 」
「 身体が動かせない……。 」
…………。
指の 1本すらも動かせない不可解な事象だった。
…………。
「 法とは絶対の摂理。
誰もが これに服従する。
マルクトを扱えても、それだけならば……。
無慈悲に嬲(なぶ)られるしかない。 」
…………。
身体を動かせずに困惑する 2人に、実力を示した太陽の化身が ゆっくりと迫っていく。
…………。
「 私は優しいな…… ?
なあ、十一君。
こうして間違いを痛みとして教え込んでいる。 」
「 おっしゃる通りです。 」
…………。
怒りを含ませた、神地聖正の言葉に天瀬十一が肯定した。
…………。
「 さっきのエヌ・ゼルプトと同じように炎で清めてやろう。
マルクト だけ は簡単には壊れない。 」
…………。
これから、何を行うのか……。
その場に居合せた者ならば、直ぐに予想がつく……。
…………。
有馬要人の頭の中には 圧倒的な威力の炎が 思い浮かんだ。
…………。
「 ……こんな…… !!
……くっ !!……動けえええええええ……!! 」
…………。
無力さと悔しさで、声を荒げる有馬要人だったが、自分の身体が思うように動かない。
太陽のアルバチャス……。アポロンは、滑走機能も使わずに悠長で緩慢な歩幅で歩み寄り……。
その途上で、片方の掌に紅炎を漂わせて拳を握った。
…………。
「 ……五月蠅い、愚者だ。
叫んで どうにかなるもんじゃあない。無駄だよ。
じゃあね。 」
…………。
轟音と共に辺りに蒸気が立ち込める。
…………。
アポロンの紅炎を纏った拳は護符の女王が、割り込んで身を挺して受け止めていた。
身動きすら取れない、戦馬車のアルバチャスと愚者のアルバチャスは……。
剣騎士に抱えられて 空路で、ニューヒキダの郊外へと飛び去っていく。
…………。
「 白翼の隷属か……。
死に体で、くだらない真似を……。2人の馬鹿を逃したか。 」
…………。
アポロンの拳や上体は……。
流動する護符の女王が羽交い絞めにして動きを阻害する。
…………。
レヴル・ロウや バベルが中空の剣騎士を銃撃しようとするが……。
今度は聖杯の女王が、先んじて広範囲に水流弾を掃射し牽制した。
…………。
聖杯の女王は、更なる一手に移る。
…………。
周囲に水で形作られた聖杯型の砲台を複数作り出し、一斉に水流砲弾を放った。
大量に撃ち放たれた水流砲弾は、レヴル・ロウの装甲に浸透し直接、機能を解除させていく。
バベルや アポロンにも命中し、確実に動きを鈍らせた。
…………。
「 ……これは !!
けど、耐久性も捻じ伏せる出力も……。 」
「 その通りだ。十一君。私達の方が上だよ……。 」
…………。
バベルの周りには電荷が……。
アポロンの周りには 熱気がバリアのような半球型で瞬間的に広がっていく……。
電荷と熱気は……。大量の水流砲弾や滴を吹き飛ばす。
最も近くで これを受けた護符の女王が 吹き飛ばされる……。
類いまれなる耐久力を持っていたにもかかわらず、すっかり弱り果てていた。
…………。
太陽のアルバチャス……。神地聖正が ある事について述べる。
…………。
「 ……有馬君が言っていたアレは正解だよ。 」
「 なんの事です ? 」
「 ……火でも水に有効打を与えられるって事さ。
ただし、大切なのは力だ。
どんな機転も 技量も……。
力が足りなければ意味がない。 」
「 ……なら、2種類の女王は お任せしても ? 」
「 君は、現存するレヴル・ロウと共に 騎士を追ってくれ。
即刻、撃ち落とすんだ。 」
「 承知致しました。 」
…………。
塔のアルバチャス……。天瀬十一は、指示通りに ホバー機能で滑走する。
レヴル・ロウを伴って スラローム射撃の掃射も行い……。
地上から上空に向けた弾幕を張りながら剣騎士を追跡していった。
…………。
神地聖正は、弱り果てた 2体の女王に狙いをさだめる。
…………。
「 太陽は 水程度じゃ 消せやしないんだよ。
貴様達の主人と 同じように、蒸発させてあげよう……。 」
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
アポロンが放った極熱は、2体の女王を瞬時に気化させた。
地上に立つ太陽の化身が陽炎に揺れる。
………………。
…………。
……。
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