- 09話 -
おめでとう
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目次
~単独崩壊~
ニューヒキダの北北西の郊外に大挙して現れた怪人エイオスの群れは……。
着実に南下し、通り道を瓦礫に変えていく。
その魔手は、ニューヒキダの中心 APCの社屋付近にまで迫っていた。
…………。
怪人達の凱旋は、アルバチャスの連携をもってしても、多くの被害を出しており 22災害の再来を予見させる。
そんな中……。2人の青年が 起死回生の勝利を掴もうと 地上と空中からの 2段構えの奇襲を行い……。
四目の皇帝 マーへレスに 強力な一撃を見舞う事に成功した。
…………。
愚者の アルバチャス code-0-……。有馬要人(アリマ カナト)。
戦馬車の アルバチャス code-7-……。丹内空護(タンナイ クウゴ)。
怒れる激情を表層化させる エヌ・ゼルプトとの戦いが 苛烈を極めていく……。
…………。
……。
白衣の青年 天瀬十一(アマセ トオイチ)は、戦いの生末を 特務棟の中から モニター越しに確認していた。
内心では 焦りの色を腹に隠しており、ある物に視線を移す。
視線の先には、天瀬十一のパソコンと 接続された、とあるデバイスが置かれている。
そのデバイス……。A-device(エー・デバイス)には 何かがインストールされているらしい。
パーセンテージを表す 英数字が 忙しなく数値を増やしていく……。
…………。
白衣の青年は、小さな声で 心の内を言葉にした。
…………。
「 ……空護。有馬 君。……持ちこたえてくれ。 」
…………。
有馬要人と 丹内空護は、これまでの度重なる戦いと 訓練で手に入れた経験の全てを、還元して戦う。
目の前の 皇帝と相対する為の 全力である。
それでも……。
ピップコート種の怪人……。杖騎士の ワンド・ナイトや、剣斥候兵の ソード・ペイジの数は多い。
マーヘレスの隙を埋めるように立ち回り、捨て身の攻撃を行っている。
皇帝の怪人もまた……。捨て身の特攻兵達が生み出す絶好のタイミングに呼応しているようだった。
剣撃や光弾を繰り出しては、アルバチャスを 間髪入れず 追い詰めていく……。
…………。
……。
皇帝は 荒ぶった強い語気で、怒声を吐き出すと長剣を振るう。
…………。
「 浅ましき愚者よ……。余に向かって 何か口をきいていたな ?
全てを ?ひっくり返す……。
戯言を抜かすのは その口か !! 」
…………。
マーヘレスが 重い剣圧の 唐竹割を 放つ。
青年 有馬要人は、自身の正面からくる攻撃に、B.A.Swordを 横一文字に構えては、頭上で受け止めた。
只でさえ大柄な皇帝の剣は……。体格と長剣の重量も載せて、絶大な威力を発揮する。
有馬要人の全身には、潰されそうになる程の圧力が加わっていた。
…………。
……。
有馬要人は、自身の握る刀剣に込める力を強めるが……。
数秒も経たずに 自分の両足が 路面の中に陥没していくのを実感する。
アルバチャスの装甲と、身体機能の向上をもってしても……。
全身が軋むような過重と剣圧を 思い知らされる。
…………。
青年から軽口を叩く 暇を奪い、その代わりに 悲痛な唸り声を上げさせた。
…………。
「 下衆な愚者よ。このまま潰れるがいい !! 」
…………。
マーヘレスが更に力を込める。
四目の皇帝の 扱う長剣は 今にも 愚者の青年を両断しようと 押し込まれていく。
…………。
……。
丹内空護は、劣勢の 有馬要人を助けようとするが……。
……ピップコートの総攻撃に手を焼き、思うように対処が出来ないでいた。
偶に……。
猛攻の合間を縫って、自傷覚悟での攻撃を マーヘレスに挑むものの……。
完全に力を取り戻した 皇帝の実力は、伊達では無かった。
掌からも放たれる光弾は ピップコートの捨て身の攻撃よりも 破格の威力を持っているようだ。
直撃しなくても掠めるだけで 体勢を崩す程の威力で、大きな失点を呼び込む きっかけにされてしまう。
これまで、マーヘレスが指揮する凱旋を止めようと考え……。
決死の覚悟で 懐に入り込んだ 2人のアルバチャスだったが、
今の状況を作るまでに 消費し続けた体力は、荒ぶる怪人達の猛襲で 更に摩耗させられていく。
…………。
……。
白衣の青年 天瀬十一は、2人の窮地を目の当たりにして……。
焦燥感を抱く。
この心情が 心の声を小さく吐き出させた。
…………。
「 まだか !? 」
…………。
天瀬十一が 目視する デバイスのスクリーンには、未だに 変化の少ない表示が映されている。
……先程よりは、進捗率の進んだ パーセンテージでは あるが 目指しているゴールには届いていない。
100%……。この数値に辿り着くには まだまだ時間を要する……。
…………。
……。
青年 有馬要人は、言葉に成らない唸り声を上げた……。
ますます 力を込めて 押し込んでくる マーヘレスの剣圧を、諦めずに B.A.Swordで受け止め続けている。
声が枯れる程の唸り声も……。
全身の筋肉が痙攣する程の疲労も……。
有馬要人の身体に、人体の限界を絶えず知らせるが……。
…………。
ここで気を緩めれば どうなるか 容易に想像が出来た。
考えるまでもない 一択の選択肢を、必死に掴み続けて絶対に離さない。
…………。
青年にとっての 窮地は……。ある事に紐づくからである。
今までに、戦い すらも しなかった皇帝を、引き付ける最大の隙に直結するのだ。
決して 緻密な作戦では無い、姑息的な 付け焼刃ではあるが……。
事前に、丹内空護と 決めた 作戦を実らせる為に耐え続ける。
…………。
1人が上手く 注意を引き付けられた瞬間……。もう 1人が有効打を狙う……。
無数の敵が捨て身で妨害をするのなら、こちらも捨て身の連携で間隙を突く。
…………。
阻むため、穿つための最大限の戦果を期待できる唯一の手段だった。
ならば……。青年は、これを絶対に逃すわけにはいかない。
…………。
満身創痍の愚者と、攻め あぐねてている戦馬車……。
この両者の姿を見て 察しているのか……。四目の皇帝の溜飲は下がったようだ。
…………。
「 実に愉快だ。この程度で よくも……。よくも大口を叩けたものだ。
誰が誰の相手を すると言ったのだ ?
余の片手の一振りで この有様ではないか !!
大口を叩く愚か者には、誉れ高い介錯を与えようぞ……。
これで……。終わりだ !! 」
…………。
マーヘレスは、片手で握っていた 長剣の柄に……。
もう片方の空いた手を添えると、しっかりと握り込んで 両腕と全身で 剣圧を強めていった。
…………。
……。
………………。
………………。
………………。
…………。
『 Device Error Factor !! Function !! 1 Second !!
( デバイス・エラー・ファクター !! ファンクション !! 1 セコンド !! ) 』
…………。
誰にも聞き取れない動作音で何かが起動する。
…………。
皇帝が握る長剣の唐竹割によって、有馬要人が 両断されそうになった寸前……。
……あらゆるものの 動きが鈍化する。
…………。
周囲を漂う戦塵すらも例外ではなく……。
この異様な光景を 唯一、知覚していた人物は……。何が起きたのか戸惑った。
丹内空護は……。自分だけが スローモーションの世界で 普段通りに動ける事に気がつく。
現状の未知の出来事には、ほんの少しだけ驚いた。
しかし、直ぐに 自身の やるべき事を履行する。
…………。
『 Hover Chaser Function !!
( ホバー・チェイサー ファンクション !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
腰部側面の ホバー用のセンサーと、武装機能用のセンサーに触れる。
戦馬車のアルバチャスが、マーヘレスに接近すると 拳鉄の嵐を ありったけ叩き込む。
皇帝の上体と、長剣を狙った渾身の殴打だった。
ホバー滑走による速度も乗せた 戦馬の突進を彷彿とさせる 猛襲……。
…………。
……。
たった 1秒間だけの 不可解な事象である。
…………。
……。
およそ、時速 3600kmで ぶつかる戦馬車による乱打は、マーヘレスを 数メートル吹き飛ばした。
重厚な外殻に身を包む怪人を、殴り飛ばしたのだ。
この 1秒間は……。
丹内空護からしても、何が原因なのか 掴み切れていないようだが……。
四目の皇帝にとっての自慢の長剣は 砕け散って、マーへレスにすらも 強い効力を示したようだった。
…………。
誰にも、原因が わからない 1秒間が過ぎ去ると……。
マーへレスだけが、予測を立てる。
…………。
「 ……これは。
戦馬車のものではないな ?
貴様、君主型では無く遺物型の力を扱うか……。 」
…………。
アルバチャス code-7-の全身からは、湯気のように アルカナの光が噴出していた。
マーヘレスは、何かしらの原因に当たりをつけたような言い回しをする。
…………。
先程の音速の猛襲で、丹内空護 自身も大きく消耗していた。
有馬要人の身に迫った危機は脱したが……。
丹内空護も 限界点の淵に立っており、マーヘレスの優位性は変わっていない。
…………。
幾つかの致命打を受けても尚……。
皇帝は、戦闘の継続が可能なようだった。
アルバチャスを目指して、ゆっくりと雄大に距離をつめていく。
歩調は緩やかでも、地面を掴む脚は力強く……。全身から漂う気迫は空気を 重苦しく 震えさせる。
…………。
丹内空護は 有馬要人に肩を貸して、
路面に埋まった脚を引き抜く手伝いを済ませると、その身を案じて戦意を確かめた。
…………。
「 大丈夫か ?有馬。 」
「 お陰様で……。なんとか。
空護さんて、あんな事も出来るんですね。 」
「 ……そうらしい。 」
「 ハハッ。火事場の なんとかで アレですか ?
流石に笑えますよ。それ。 」
「 まだ……戦えるか ? 」
「 もちろんです。 」
…………。
2人のアルバチャスは、ピップコートの隊列にすっかり取り囲まれているにも関わらず……。
拳を硬く握った。
…………。
マーへレスは、自慢の長剣を 破壊されてしまったが、攻勢に出る。
これを合図に、ピップコートの軍勢も動き出した。
…………。
愚者と 戦馬車……。そして 皇帝の 三者は、徒手格闘で渡り合う……。
そこへ、数多のピップコートが 飛び込んで来る乱戦だった。
2人のアルバチャスからすれば 圧倒的に不利な混戦である。
…………。
それでも……。負ける訳にはいかない。
愚者は、蹴りを中心に戦いを組み立てて 身軽に立ち回り……。
戦馬車は、籠手や盾での殴打も取り入れて、拳、肘、肩、あらゆる 全身での打撃を叩き込む。
…………。
2人のアルバチャスの連携に対して……。
…………。
皇帝は、恐るべき反応速度で対処し、拳や 掌からの光弾によって カウンターすらも狙う。
その激しさは、過去の大災害の驚異を体現していた。
マーへレスは、自慢の長剣を失ってはいるが、数の利は揺るがず 単独でも強い……。
…………。
また……。
…………。
剣を携えたペイジ型の怪人達……。ソード・ペイジは 剣のような形状の片腕で……。
ナイト型の怪人達……。ワンド・ナイトは 中距離からの火炎弾によって……。
目ざとく、アルバチャスに致命傷を与えようとしては、何度も水を差す。
1体の極まった 強者と、これを援護する 捨て身のピップコート達の人海戦術は、恐ろしく手強い。
…………。
……。
長期化した戦いと、武装機能の連続使用による負担は……。
2人のアルバチャスに 着実に のしかかり……。極限状態に追い込んでいく。
……考える間もなく、無心で戦いを組み立てた。
…………。
剣斥候兵型の ソード・ペイジには、
剣の刃に触れないように腕や胴体や剣の腹を狙った打撃を……。
杖騎士型の ワンド・ナイトには、地上のペイジ型のピップコートを吹き飛ばして ぶつけるか……。
火炎弾を避けて 別の怪人への同士討ちの材料にする等の対処を取った。
…………。
愚者も戦馬車も、柔軟に 数の不利を 利用しながら立ち回る。
度重なる混戦は、心が折れずとも 肉体的な限界に限りなく近づけていく。
…………。
……。
四目の皇帝 マーへレスは、愚者と戦馬車の武闘には、心底 感心したようだった。
…………。
「 余の凱旋をここまで阻んだのは褒めてやろう。
だが、得意の武器も無しに……。
これを捌き切れるか ?見せてみよ !! 」
…………。
マーヘレスが後方に飛びのき 合図を送る……。
すると……。
ソード・ペイジ達が、一定の距離を置いて アルバチャスを緻密に取り囲む……。
剣斥候兵は、壁を作り 完全に退路を塞いだようだった。
この上空では……。
複数の ワンド・ナイトが 狙いを定めて、杖の先頭を向けて 火球を打ち出す用意を済ませている。
有馬要人と 丹内空護は、怪人達に すっかり囲まれて 上空からの集中砲火に晒される寸前だった。
…………。
四目の皇帝 マーへレスが 攻撃の合図を送る……。
…………。
「 撃て。 」
…………。
皇帝の号令によって、一斉射撃が行われる寸前……。
2人のアルバチャスの上空では、杖を構えていたピップコートに落雷が降り注いだ。
落雷を浴びた 杖騎士達は 爆散してしまう。
…………。
雷鳴を呼んだ存在が、ホバー滑走によって 2人のアルバチャスに接近する。
…………。
「 やっと間に合った !!
空護も 有馬君も、無事かい ? 」
…………。
轟音と共に上空の杖騎士を爆散させた存在……。
ホバー・チェイサーによって、滑走できる存在……。
思いもよらない人物は、巨大な補助アームを持った特異な姿をしていた。
…………。
「 今から俺も 2人と一緒に戦うよ。俺のアルバチャスは……。
code-16- Babel……。
( コード シックスティーン バベル )
破滅を呼ぶ塔を 象徴する。 」
…………。
その人物の声は、白衣の青年 天瀬十一。
皇帝 マーへレスとの戦いに 加わったのはアルバチャスにとっての援軍だった。
…………。
……。
特務棟の社長室では、一連の様子を観測する人物が 紅茶を口に含む。
神地聖正(カミチ キヨマサ)は……。
大詰めを迎える エヌ・ゼルプトの戦いに口角を上げた。
………………。
…………。
……。
~傲岸不遜の向こうへ~
突如として駆け付けた増援は、この場にいた全てに意表を突いた。
新型のアルバチャス……。
Arbachas code-16- Babel……。
( アルバチャス コード シックスティーン バベル )
身の丈程の 強大な補助アームが両肩から伸びており、大きな外見上の特徴に持っている。
天瀬十一は、有馬要人と 丹内空護の窮地を救うべく……。
大きな補助アームの片方によって、皇帝を 一振りで殴り飛ばす。
…………。
「 俺のアルバチャス……。バベルは相対する全てに破滅をもたらす。
現存するアルバチャスの中で最も頑強な身体を持ち、
強力な雷と 大型の拳が武器の新型さ。 」
…………。
マーヘレスにとって歪な誤算が次から次へと発生したようだった。
…………。
多勢に無勢でも臆する事なく、凱旋する軍勢に 攻撃を仕掛ける 2人の贋作……。
僅かに素早いだけで 力不足だった筈の愚者が繰り出す 強力な剣撃……。
豪胆さしか無い鈍足だった 戦馬車が放つ 遺物型の異能……。
そして、今 目の前で自分自身を殴り飛ばした 新手の遺物型の贋作……。
…………。
「 ……下衆な贋作共が。 」
…………。
ピップコートの数は潤沢に有るが……。
贋作の戦士は 減るどころか数を増やしている。
……マーヘレスの怒りは臨界点に触れた。
…………。
……。
天瀬十一は、code-16-として善戦していた。
常に滑走機能で間合いを調整し、有利な距離を離さない。
補助アームによる重い攻撃で、相手を押し出すように後退させる。
その都度 直ぐに距離を詰め直し、再び殴打を繰り返す。
バベルの 強大な腕で繰り出す殴打には、マーヘレスも反撃しているが……。
皇帝の打撃も、光弾すらも……。バベルの頑強な身体には効果が薄い。
白衣の青年は、皇帝と殴り合い優勢のようだった。
…………。
青年 有馬要人が、難を逃れた中で 疑問符を浮かべる。
…………。
「 ……強い。
普段は訓練なんてしてない筈なのに……。
それに、いくら相手が 万全じゃなかったとしても、
マーヘレスの攻撃に怯まないなんて……。 」
…………。
丹内空護が、青年の疑問に 知りうる範囲で答える。
ついでに緩んだ気持ちを引き締め鼓舞した。
…………。
「 あいつは 元々、実動班を志望していた。
当時、俺と同じ時期に試験を受けて、俺が首席で……。
十一は次席で 共に、合格基準を満たしていたんだ。
配属時には 本人の希望と適性とかで今の技術屋をやっている。
だから、あいつが弱いはずが無いんだ。
十一は 俺とは違って頭も良いからな……。俺に出来ない事を、やれる奴なんだよ。
有馬……。
俺達も へばってられないぞ。 」
…………。
丹内空護は、どこか満更でもなさそうに上機嫌な様子を覗かせた。
天瀬十一が 作り出した好機を逃すまいとして、愚者と 戦馬車も 動き出す。
正直、強制解除すれすれの現状だった。
それでも、数の多い ピップコートに向けて果敢に 挑んでいく。
…………。
……。
社長室内のモニター越しに観測する人物……。
神地聖正は……。
手元の資料の草案に記載されている性能概要欄へと視線を移した。
…………。
草案には、発案者である 天瀬十一の名前と、
件のアルバチャス code-16- Babelと 記述が有る……。
視界の末端で ピンボケする程度には、モニターの映像を残して……。
筋の通った構成で 情報が まとめられている 各項目に、改めて目を通していった。
中でも………。
特定の項目に注目する……。
気に入った項目に心酔すると 優越感に浸り、これを読み上げた。
…………。
「 次世代型アルバチャス……。
code-7-と code-0-からの戦闘データをフィードバックとして組み上げていき……。
使用にあたっての 必要な ノウハウを、最小限に推移させる。
つまり……。
歴戦の猛者で無くとも、高水準の動作補助機能により 高い戦闘能力を獲得できる。
これに加えて……。
起動後の使用者への負担も少ない。
良いな……。実に良い。
これならば、
今後は エヌ・ゼルプトにも本格的に対抗していけるだろう。
実現して見せるとはな……。
流石 天瀬慎一(アマセ シンイチ)の息子だ。 」
…………。
神地聖正は、心地よく 戦況の観測に意識を戻す。
モニターに映し出されている映像へと視界のピントを合わせた。
…………。
……。
白衣の青年 天瀬十一は……。
丹内空護よりも 長身で大柄な 怪人……。皇帝 マーヘレスと激しく殴り合う。
そして、ついに 拳闘の果てに 左右の補助アームで掴み上げて、身動きを完全に封じた。
…………。
バベルの 補助アームの握力は凄まじく、マーヘレスですら自力では脱出するには至らない。
白衣の青年は、高々と持ち上げた皇帝を狙って 武装機能を動作させた。
…………。
「 俺の友人達と、大切な故郷を痛めつけた報いは受けて貰うぞ !!
マーヘレス !! 」
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
武装機能によって展開された B.A.Swordを自身の片手で しっかりと握る。
刀剣型武装の B.A.Swordには、護符の恩恵によってアルカナの光が 充填され青白く光り輝く……。
天瀬十一は、オーラを纏った剣先を 頭上に突き上げた。
その剣先は、補助アームで身動きを封じている 怪人 マーへレスの姿が在り……。
補助アームによって マーヘレスを引き寄せると、胸中に切っ先を当てて一気に刺し込んだ。
四目の皇帝の外殻は硬く、数秒の間は火花を散らす……。
しかし、これまで戦いで 消耗した影響だろう、刺突の一撃が効果を示した。
…………。
……。
22災害で甚大な被害を もたらした、エヌ・ゼルプトが 雄たけびを上げる。
塔のアルバチャスは、天を突くように より深く B.A.Swordを刺した。
そして……。
護符の恩恵……。B.A.Pentacleが薄れるよりも前に引き抜くと……。
補助アームで 掴んでいる マーヘレスを、地面に叩きつけるように投げ飛ばした。
…………。
四目の皇帝 マーへレスの胸中には剣で貫かれた裂孔が 出来ているが、爆散には至らないようだ。
裂孔からは、アルカナの光が漏れ出ている。
怒れる皇帝が 立ち上がって 4つの目を妖しく光らせた……。
…………。
「 おのれ贋作共 !!
よくも !!余の身体に !! 」
…………。
よろめきながらも立ち上がる四目の皇帝は……。
……近くのピップコートを次々と吸収していく。
周囲のピップコートをアルカナの光に還元しては、その身に取り込み………。
今までの戦傷を癒し、更に自身の全ての強度を高めようと試みたようだった。
…………。
「 下衆な輩に !!皇帝である余が !!
降されて成るものか !! 」
…………。
多くのピップコートが分解されて、アルカナの光が 大渦を作り出す。
うねる光は 中心に鎮座した マーヘレスの元へ吸い寄せられいる……。
その渦の螺旋を広げて、地上と空中のピップコートを只のエネルギーに変えては取り込んでいった。
…………。
戦況の劇的な変化……。
3人のアルバチャスが、これを即座に察知した。
そして……。それぞれに、この戦いの終わりが近い予感を感じ取る。
…………。
青年が 現状への 反応を見せると、丹内空護が空気を引き締めて……。終わりを目指す。
…………。
「 げぇ……。あいつタフ過ぎるでしょ……。
けど もう これ……。 」
「 ここで仕掛ければ勝機は有る。
B.A.Pentacleで、同時攻撃を叩き込むんだ。 」
「 了解……。 」
…………。
愚者のアルバチャスと 戦馬車のアルバチャスが、総攻撃を仕掛けようとした その時……。
もう 1人のアルバチャスが ある理由で 一時的に静止させる。
…………。
「 有馬君も 空護も ちょっと待った……。 」
『 Barrage Armed !! Function !! Wand !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ワンド !! ) 』
…………。
天瀬十一は、B.A.Wandを即座に起動した。
杖型武装を動作させると……。普段は火球を生成する杖の先端部分で ある行動を取る。
先頭からアルカナの光を練り上げる様に集めて、激しく消耗した 愚者と 戦馬車に分配したのだ。
塔から 譲渡されたアルカナは、code-0-と code-7-の消耗した出力を幾ばくか補填する。
…………。
有馬要人と 丹内空護は、攻撃と移動以外に使用された B.A.Wandの扱いに 驚いた……。
何故今まで教えなかったのか疑問に思う。
特に、青年は 奔放な口ぶりで この事を話題として拾い上げる。
…………。
「 B.A.Wandでこんな事が出来るだなんて 知りませんでしたよ。 」
…………。
愚者の青年の 気の抜けた声……。
白衣の青年 天瀬十一は、やっぱりか……。とでも言いたいような様子だった。
とびきりに呆れた風では無いが……。
この仕組みについての 補足説明を簡単に済ませて、この日の戦いに意識を戻させる。
…………。
「 少なくとも 10回以上は 教えている筈だよ。
一番丁寧に教えたのは座学の時だったかな……。
B.A.Wandは打撃と中距離攻撃……。
そして 自分自身のアルカナの光を練り上げて、純然なエネルギーとして受け渡せる。
杖は器用貧乏だけど、1つで他の 3種の武装に似た使い方が出来るんだ。
有馬君は 座学でいつも寝てたし、
空護も 得意な武装しか使わないから 忘れてたんだろ ?
それに何度かは……、
これを利用した 作戦も実行しようとした事は有るんだけど……。
今は マーヘレスの対処が先だ。
2人とも 確実に Dual Functionを使えるだろ ?
俺は 残りのピップコートを全て狙う。
2人はマーヘレスを……。 」
「 十一……。お前のアルバチャスだけで あの数……。
任せても良いのか ? 」
「 もちろんさ……。
塔のアルバチャスは パワーも影響範囲も絶大だからね。 」
…………。
天瀬十一からの手痛い説明の後に、丹内空護が事前の確認を済ませる。
もっとも……。
その言葉には 一切の疑念は無いようで、只の世間話程度の確認のようだった。
…………。
青年 有馬要人に至っては、ここに来て 座学中の居眠りがバレている事を初めて知ってしまい……。
背中に 冷たい汗を流す。
戦馬車と 塔の 会話を尻目に、人知れず気持ちを整えると……。
何食わぬ顔で 戦意が高まっている 様を言葉にした。
…………。
「 なるほっどぉ……。
なら後は、3人で決めるだけですね。
俺達で 全てをひっくり返す !! 」
「 フフフ……。
有馬 君は、お調子者だね。 」
「 へま踏むなよ。流れ者。 」
…………。
緊迫した空気にも飲み込まれない 愚者の青年に、戦馬車と 塔が少しだけ笑った。
3人は武装機能を動作させる センサーに手を伸ばす。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
杖を構える愚者……。
剣を携える戦馬車……。
聖杯を掲げる塔……。
3人のアルバチャスが 各々の手に、護符の恩恵を乗せた武装を展開させた。
…………。
四目の皇帝 マーヘレスも また……。
これを迎え撃とうとして身構え、膨大に膨れ上がったアルカナの光を開放した。
…………。
「 下衆な贋作が !!
高貴なる皇帝の !!あまねくアルカナを束ねる余を !!
愚弄するか !!……歯向かうというのか !! 」
…………。
皇帝が アルバチャスに向けて駆け出す……。
これを合図に、現存する ピップコートも総攻撃に出たようで、隊列が入り乱れた攻勢に変わった。
四方八方から飛び交う捨て身のピップコート達を、天瀬十一が迎え撃つ。
…………。
「 破滅の塔は強力な雷を操れる……。 」
…………。
片手に握られている B.A.Cupには護符の恩恵が充填されているが……。
まだ……。解放しない……。
2つの巨大な補助アームを 斜め後方に動作させて、がっしりと 地面を掴んだ。
これによって 身体を支えると……。
電荷が 内包されていく B.A.Cupの銃口を ピップコート達の方へと向けた。
数発の稲光の弾丸を放つ……。
轟音と共に撃ち出された雷撃弾は、変則的に枝分かれして 広い範囲に枝葉のように広がった。
雷の枝葉が ピップコートに被弾する度に、次々と電流が広がっていき 至る所で 怪人が爆散していく。
…………。
『『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』』
…………。
有馬要人と 丹内空護は……。
天瀬十一が 雷鳴で開いた道を通り抜けて 一直線に滑走した。
…………。
四目の皇帝は、2人のアルバチャスを迎え撃とうとしているようで……。
両の掌から禍々しい黄金色の光弾を無数に撃ち出す。
限界以上に集約されたアルカナの光の粒子は、
マーヘレスの掌から極まった光弾として打ち出されているのか……。被弾した地面で爆発している。
まるで、世界の全てを破壊しうる無尽蔵の数の弾丸へと変化されているようだった。
…………。
2人のアルバチャスは、マーヘレスの猛襲を阿吽の呼吸で対処しては、無心で進んでいく。
進行方向の先に見える、アルカナの光の大渦の根源を只ひたすらに目指した。
…………。
有馬要人と 丹内空護の頭上には……。
天瀬十一が 先程 作り出した、雷鳴の鳴り響く天蓋が広がっている。
この天蓋は、深い森の枝葉のように行き渡って、ピップコートによる 捨て身の妨害を 完全に遮断した。
そのお陰で、これまでのように アルバチャスの攻勢を邪魔する者はいない。
…………。
2人のアルバチャスは、黒翼の怪人と戦った時のように 相互に立ち回った……。
……目の前に迫る光弾は 丹内空護が切り払い。
……有馬要人は 身軽な体躯と 杖による推進力で回避する。
いよいよ 2人のアルバチャスが、皇帝の懐に飛び込んだ。
ありったけの一撃を叩き込む。
愚者の B.A.Wandによる打撃と、戦馬車の B.A.Swordによる斬撃が マーヘレスに直撃した。
渾身の一打と 一閃を行い、皇帝の後方に通り過ぎる。
…………。
……。
四目の皇帝は 立ったままに硬直し……。
……数秒後に断末魔の雄たけびを上げる。
マーへレスの全身には、亀裂が広がっていき その間隙から、アルカナの光を噴出させて爆散した。
…………。
愚者のアルバチャス……。有馬要人と……。
戦馬車のアルバチャス……。丹内空護は……。systemが強制解除され 生傷だらけの身体で強敵の撃破を感じ取る。
皇帝と 名乗るエヌ・ゼルプトを……。
22災害で最も多大な被害を出したとされる怪人を倒した瞬間だった。
………………。
…………。
……。
~秘匿に灯す~
四目の皇帝として畏怖された怪人。マーヘレスの撃破から数週間程が経過していた。
以前の撤退とは異なり……。
ピップコートの撃破時と同様で、それ以上に大規模だった爆発は……。
謎に包まれた怪人の 中枢の 1体を撃破した事を示す。
…………。
この事象は、ニューヒキダに住む多くの人々から 1つの負の感情を 解消させる。
一方で……。
今回の マーヘレスがもたらした被害も決して小さくは無かった。
ニューヒキダの北北西から始まって、APCの社屋が在る中心地区を目指した凱旋は……。
道中で あらゆる破壊活動を繰り広げて、アルバチャスの抗戦をもってしても大きな痕跡を残してしまう。
…………。
……。
N 地区……。
瓦礫と残骸に埋もれた地区に……。
青年 有馬要人が 1人で訪れる。
…………。
N 地区は、既に APC主導で複数の建築業者が出入りしており……。
災害廃棄物の処理や 復興に向けたインフラの整備を目指して、忙しなく錯綜した様子だった。
見渡す限りの荒廃とした戦場の跡地は……。
所々で 全てが乱雑に積み重なっており……。
何度見ても見慣れる事は無い何かを、青年の心の内に刻み込む。
…………。
瓦礫の広がる景色の恥に設置された献花台に……。
白色の花を供えると、数秒間 程 瞬きもせずに全てを視界に収める。
様変わりしてしまった景色は、視界の中でも刻々と移ろっていく。
…………。
……。
件のエヌ・ゼルプトの撃破から 1カ月以上が経過すると……。
加速度的に進む戦後処理によって……。
インフラ工事を行う各企業が往来を可能にする程度には整地作業も進んだ。
ニューヒキダは少しずつ日常を目指す。
マーへレスとの激闘以降から、エイオスの出現は無くピップコートの影すらも見当たらない。
…………。
……。
とはいえ……。
全貌の見えないエイオスの動向は APCが常に警戒しており……。
その一環として……。
今も 謎の多い、翼を持った黒と白の怪人や、
22災害時に現れた 真紅の戦士の存在も含めて、エイオスに関する情報が大幅に更新された。
APCの特務棟内では 情報が共有され、認識を一定水準に平均化する動きが顕著になる。
…………。
この動きを主導した人物は……。
先日の戦いでも大きな成果を残した ある青年だった。
白衣の青年 天瀬十一が作成した資料によって、これまで形が曖昧だったエイオスの輪郭が明確に成っていく。
そして……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
某日の この日……。
アルバチャスとして 最も戦歴が長い人物は……。
特務開発部の人間に直接話を伺い 見聞を広めようと思い立ち、早速 足を運んだ。
…………。
普段通りの錯綜した特務開発部内のフロアを……。
首にスポーツタオルを引っ掛けた 坊主頭の大柄な青年が進んでいく。
アルバチャスとして 最も戦歴が長い人物……。丹内空護である。
…………。
凛々しい眉毛の大男は普段通りに上手に人を避けて歩く……。
視界の中で、今日の要件に最も関わる旧友を探した。
…………。
しかし……。
友人は席を外しているようだった……。
パソコンも ロックされているようで、
この時の ディスプレイの表示から 直ぐには終わらない類の要件で 不在な事がわかる。
丹内空護の視界には、旧友とは別の ある人物の姿が映った。
その人物は 友人と遜色なく……。
もしかすると友人以上に目的の情報について理解の深そうな人物である。
坊主頭の青年は、フロア内に在籍している その人物に 声をかける事にした。
…………。
「 お疲れ。今 大丈夫か ? 」
…………。
夢川結衣(ユメカワ ユイ)は、
丹内空護の声に気が付くと、手に持った紙の資料から視線を外して要件を確認した。
…………。
「 ……はい なんでしょうか。丹内さん。 」
…………。
白衣の似合う女性 夢川結衣は 要件を簡単に確認すると……。
丹内空護が 来訪した理由について、特務開発部の人間として知りうる内容を丁寧に説明していく。
エイオスに関する新たな共通認識について……。
……最後には全体の情報を要約して補足として付け加えた。
…………。
「 ……つまり。今の話をまとめると。
ピップコートは、エイオスの中でも下級の怪人です。
タロットカードの小アルカナに沿った、
4 × 4の合計 16種類に 渡るバリエーションが存在するようなので……。
性質や差異は異なるようですが、
基本的には種類が豊富な兵隊としての役割を持った怪人って事に成ります。
……いえ、すみません。
厳密には 20種ですね。
ベースに相当する スートだけの 4種類を……。
ペイジ、ナイト、クイーン、キング だけ の形質変化前を個別で換算する場合に限りますが……。 」
「 なるほどな。
そして、最近 俺達が戦った マーヘレスやドゥークラが、
エイオスを束ねる首魁に相当する可能性が高い訳か。 」
「 そうなります。
エヌ・ゼルプトは すべからく言語を 扱う知能も 有しているようですし、
先の凱旋でも、同型の個体が 他に確認出来なかったので……。
エイオスの中でも上位種に相当する特別な存在と見て間違いは無さそうです。 」
…………。
夢川結衣からの 要約した説明によって……。
丹内空護は全体像を掴んでいく。
単体でも 甚大な影響力と 高い戦闘能力を持った エヌ・ゼルプトの存在は……。
APCの今後の方向性へと話題の変化を促す。
…………。
「 夢川の お陰で 理解しやすかった。
ありがとう。
にしても……。マーヘレスと……。
奴と同等の驚異が予測されるとなれば確かに、汎用的なアルバチャスの導入は急務だろうな。
仮に量産型のアルバチャスが制作されるとしたら……。
実戦導入は近いのか ? 」
「 残念ながら……。
そこまでは 私も知らされていないんです。
丹内さんの御友人の方の 天瀬さん なら、御存じだとは思いますよ ?
最近は頻繁に 社長室に出入りしてますから……。 」
…………。
天瀬十一の最近の動向から、推測できうる可能性に触れた所で……。
白衣の似合う女性が、丹内空護から顔を反らした。
口元を片方の掌で隠し、薄っすらと涙で潤う目を瞼で隠す。
…………。
無理矢理にも 欠伸を押し込めた 夢川結衣の行動は非常に珍しかった。
普段から凛とした表情で業務に取り込む姿とは かけ離れた 不自然な所作だった……。
…………。
とりわけ 些細な変化には、無頓着な 丹内空護ですらも 何かしらの事由が有る背景を感じ取る……。
…………。
よく見ると……。
うっすらと 目の下にも睡眠不足の兆候が現れており……。
室内での業務が多く 只でさえ 白い肌が 心なしか病的な程に白い。
…………。
業務量の過多による睡眠不足なのか……。
それとも他に何か問題を抱えているのか……。
どちらにせよ 体調が芳しくなさそうな状態の夢川結衣が気に成った。
半ば お節介とも思いつつ、丹内空護は話題として拾い上げる。
…………。
「 もしかして、
最近は体調が あまり良くないんじゃないか ? 」
「 ……恥ずかしい所を見せてしまいましたね。
少し寝不足なだけです。
……あまり覚えていませんが眠りが浅いようで。
……けど、電子機器に触れる機会が多いと、
脳が 活性化しすぎて、睡眠の質に影響するのは良くある事ですから気にしないでください。
ありがとうございます。 」
…………。
白衣の似合う女性 夢川結衣の返答には、引っ掛かりを探り当てる隙は無かった。
この後も 他の話を幾つか済ませて、丹内空護は特務開発部を後にする。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
仄暗い謎の洞では……。
アルカナの光が満ち満ちる光溜まりの淵に数体の影が立っていた。
影は 3つ存在し………。
1つは、黒い翼を持つ男型の怪人ドゥークラ。
そしてもう 1つは、白い翼を持つ女型の怪人ナティファーだった。
翼を持たない 1つの影は静かに傍観しているようだ。
…………。
ドゥークラの片方の掌には……。
アルカナの光を発する、小さな霞のような塊が納まっており 口うるさく尊大に苛立っている。
黒翼の怪人 ドゥークラは……。
その荒ぶる残滓となった マーヘレスの主張を 途中まで聞き入れると、
低く声の通る 落ち着いた口ぶりで 論じ、ある帰結へ誘った。
…………。
「 離せ !! 使い風情が !!
余の真価は こんなものでは断じてない !!
今こそ あの違反者の首を打ち取るのだ !!
邪魔をするな !! 」
「 本来ならば……。
汝のような君主型の役割は終わりだ。
かつての英雄 カシュマトアトルと 切り結んだ時点でな。
だが最早、敗者である汝の復活は無い。
汝に恩赦を与えよう。永劫たる再起不能を……。 」
…………。
マーヘレスだった最後の残滓は……。
ドゥークラの身体中から 滲み出た 暗雲が、棺のような形状を成すと……。
瞬く間に、これに吸い込まれていき 次の瞬間には散りすらも残さず消え去った。
ドゥークラは何くわぬ様子で通過儀礼を終えて、ナティファーとは異なる もう 1つの影に向き直る。
…………。
「 奴も これで満足でしょう。
敗者復活の機を 幾度となく与えられたのですから。
……ですが、刻限は近づいております。
イェルクス様、次は どのように なされますか ?
……カシュマトアトルの……成程。 」
…………。
エヌ・ゼルプトの名を冠する存在達は……。
未だに謎を孕み、アルカナの光のによって妖しく照らされ続ける。
………………。
…………。
……。
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