- 08話 -
征服と劣勢そして
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目次
~神の知~
有馬要人(アリマ カナト)と 丹内空護(タンナイ クウゴ)の 2人が……。
C-02 地区の ヒキダ・ブリッジで、複数のピップコートと交戦している一方で……。
APCの特務棟 社長室では……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)が 静かに紅茶を口に含む。
この日は、白衣の青年 天瀬十一(アマセ トオイチ)が
以前より気に成っていた出来事について 何かしらの回答を貰える事に成っていたのだ。
C.E.Oは、頭の中で言葉を選び話す順序を思い浮かべているのだろう、特に焦った様子もうかがえない。
…………。
白衣の青年が気に成っていた事……。
それは……。空飛ぶ銃騎士の怪人が出現した頃から気に成り始めていた事……。
膨れ上がった疑問の根幹について知る機会を、この日まで待ち望んでいたのだ。
神地聖正は、天瀬十一の心情や疑問を推測しているようで 念押しの確認をする。
…………。
「 ……気になる事が有るのだろう ?
それは、これと関係が有るんじゃないか ? 」
…………。
今回の要件の たたき台としてだろうか。
神地聖正のデスクの上には、何枚かのタロットカードが無作為に並べられた。
天瀬十一の表情が、正解の意味を示す。
気さくな壮年の男 神地聖正は、白衣の青年の表情を察して 続きを話し始めた。
…………。
「 未知の怪人 エイオスや……。
対抗手段として戦う英雄 アルバチャス。……それどころか 携行用特殊武装 W.C.P.S。
これらの全てが、タロットカードに類似……。
もしくは 限りなく近い特徴を持つ理由。
それが君の持つ 疑問なのだろう ? 」
「 その通りです。
何故、怪人達も アルバチャスすらも 似通った特徴を持つのですか ? 」
「 ……順序立てて話そうか。
君は、W.C.P.Sの名前の由来は 理解しているのかね ? 」
…………。
気さくな壮年の男は、本題に入っていく前に……。
天瀬十一が 知っている情報の、基準を確認した。
この問に対して……。白衣の青年が 返答を返していく。
社内で 一般的に知られている限りの 知識と、自身の記憶を元にして……。
…………。
「 W.C.P.Sが……、
いや、アルバチャスの Barrage Armedも含めて、
タロットカードの 小アルカナを模している理由ですよね ?
かつての、22災害から 2~3年程 経過した頃でしょうか……。
緩やかながらも、復興の道を進む日樹田に再び怪人が現れました。
たった 1体のピップコートが相手とはいえ、対抗策が無い絶望的な状況。
そんな中で、勇士を集めて撃退したのが 神地さんです。
この時に扱われた改造小銃が W.C.P.Sのベースに成った……。
……以降。
神地さんを中心に、未知のエネルギー Arcanaの研究は進み……。現在までに至る訳です。
確か、何度かインタビューも受けていましたね。 」
…………。
白衣の青年は……。
日樹田市で、初めて怪人を撃退した 無名の神地聖正が受けた、当時のインタビューを思い起こす。
この頃の受け答えは、APCが企業として発足してからも
文書として記録が残されており、社の広報誌にも掲載されたものだった。
…………。
「 1枚のカードに 裏と表が有るように……。
トランプや、タロットのカードに複数の図柄や意味が込められているように……。
どんな時でも、同じ状況は続かないと私は信じている。
だからこそ、怪人達への対抗策には 願掛けとしてタロットカードのイメージを取り入れたいと思っています。
私が作り上げた 対抗策に込める願いは、小アルカナの頭文字です。
タロットカードの 小アルカナには、身近な概念の解釈が有るのだとか……。
必ず訪れる 日常的な平和を、そこから連想したい。
創造力のある活動を司る、英知の杖と始原の棒 Wand(ワンド)……。
誠実な心と 愛を蓄え満たす聖なる杯は Cup(カップ)……。
物質的な豊かさを示唆する 貨幣や護符の Pentacle(ペンタクル)……。
正義と理性を象徴する真実の剣こそが Sword(ソード)……。
まさしく、怪人達と相対する私達の志だ !
W.C.P.Sは必ず、人類の未来を豊かさで満たし、新たな英知を切り開く一助に成るだろう。
私は そう確信しております。 」
…………。
これを皮切りに……。
神地聖正は、Arcana(アルカナ)研究の第一人者としても名をはせていき……。
世界的に見ても、3本の指に入る企業グループ W.E.Bをスポンサーにすると……。
Arcana Barrage Chase System 推進 Project……。
(アルカナ バラージ チェイス システム)
いわゆる A.B.C.S Projectの躍進を目指す企業として……。APCを設立した。
1日足らずで多くの資源すらも失った日樹田で、復興の先駆けとしての顔も持つようになっていく。
神地聖正は、荒廃した日樹田の飛躍的な復興に大きく関わり……。
日樹田市が、名前をニューヒキダに変えた後も、この地域で最も著名な英雄として知名度を上げていく事となる。
…………。
……。
天瀬十一は、自分が 現在知りうる 全てを思い起こして、それを前提に話を進める。
…………。
「 当時の神地さんは……。
すがるものの無い日樹田に、1つの拠り所として……。
あらゆる不条理な鬱憤を向ける矛先として……。
ある種のオカルト的なイメージを取り入れた。
当時は 私も母を失い、父と幼い妹とで食つなぐ生活で手一杯でしたから、
気持ちの指針が有るだけで、大きな助けに成ったのを実感しましたよ。
ですが……。
あくまでも偶像としての願掛けに、どうして こうも近い特徴を持つのです ?
エイオスも……。
……それどころか アルバチャスすらも。 」
…………。
白衣の青年の中で 渦巻く謎は、言葉として吐き出されて 神地聖正に納得のいく答えを追及した。
気さくな壮年の男は、静かに目を瞑り 口元を触り何かを考える。
数秒の熟考の後に 瞼を上げて、ゆっくりと疑問を解消していく。
…………。
「 何故……。
ニューヒキダを取り巻く 全てに、タロットカードが関わるのか……。
確かにこれは、APCで多くを 知れば知る程、募る疑問だろうな。
納得できるかは別にしても、私が知りうる全てを君に……。
私の旧友、天瀬慎一(アマセ シンイチ)を
父に持つ君だからこそ話そう。
そうだな……。簡潔に言うのであれば……。
W.C.P.Sや アルバチャスが、エイオス同様に タロットカードに関連する理由については……。
正直な所、私にも わからない……。 」
「 わからない ?
どういう 意味です ? 」
「 文字通りの意味さ。
私にも意図は、完全には わからない。
確かに、タロットカードを関連付けたが……。
実を言うと、どの発想も 突如として 頭の中に浮かび上がった幻視だからだ。 」
…………。
天瀬十一は、怪人エイオス への対抗手段の発端に、僅かに混乱した。
思いもよらない答えだったのだ……。
全てを知っていると踏んだ相手の不明瞭な回答は謎を深めるが、今の話から新たな疑問を拾い上げる。
神地聖正は、拾い上げた それ を紐解いていった。
…………。
「 聞き違いじゃなければ、完全には わからない。
神地さんは、そう言いましたね。
この話には続きが有るのですか ? 」
「 もちろんだ。
むしろ、ここから本題と言っても良いだろう。
……22災害から程なくして、私は日樹田の復興を願い エイオス達への打開策を追い求めていた。
そんな時だ……。
最初は、少し頭の中に 雑念が纏わりつくだけだと 思っていた何かが……。
日を追うごとに 輪郭を強めていった。
気が付けば……。
W.C.P.Sや アルバチャス……。
他にも、エイオスに関する知識 だけ が、明確に脳内に映り込んでいたんだ。
当時は、頭が可笑しくなったのかと、自分の不甲斐なさに呆れ果てたさ。
だが……。
それ以降 見る様になった夢が、妙な説得力を生みだしていく……。
夢の中では、黒い翼の怪人と 真紅の戦士が戦う姿が 何度も繰り返された。
まるで、現実のように 五感が研ぎ澄まされた夢だったよ。
記憶に無い光景を、何度も繰り返し見るうちに……。
私は 眠る事が 怖く成っていき、何度も眠らないように抵抗するように成った。
だが……。
どんなに、自身の眠気に抗おうとも 気が付けば……。
黒い翼の怪人と 真紅の戦士の戦いは 私の脳内に鮮烈な後継を焼き付けたんだ。
Arcanaに関する知識も、比例するように以前よりも色濃く成り……。
いつの間にか、私は抵抗する事をやめていた。
夢で 現れた光景を、研ぎ澄まされた五感で 注意深く観察し……。
脳内に 浮かび上がる知識を、繋ぎ合わせる事にしたんだ。
こうして最初に作り上げたのが、W.C.P.Sさ……。
実際に、ピップコートを撃退すると……。
確信めいた予測を持つようになった。
脳内に湧き上がるイメージは、天からの 啓示であると……。
そして、迷う事無く アルバチャスを作り上げたんだよ。 」
…………。
神地聖正が話す全ては……。
端的に見れば絵空事のような内容ばかりだった……。
だが……。
先程 社長室のモニターからの映像で確認した、黒翼の怪人と白翼の怪人の存在は絵空事を現実に結び付ける。
これに加えて……。
現存する 怪人への対策武装等が、空想とは異なる要因として大きな裏付けとなった。
全くの方便では あり得ない現物による裏付けだ。
天瀬十一は、自身の頭の中で整理するが、現実離れした事象に驚愕し 思わず言葉を漏らす。
…………。
「 これが本当なら まるで……。
アカシックレコードですね。 」
「 精神世界のデータバンクか。
確か、君の父も似たような反応をしていた。
やはり親子だな。 」
…………。
白衣の青年は、神地聖正からの切り返しに少し表情を複雑にすると、無理矢理に先の話へと促した。
…………。
「 腑抜けた 父の話は、やめてください。
只、血がつながっているだけです。
……私は父とは違う。 」
「 ……そうか。
確かに彼は 昔とは大きく変わってしまった。
いつも彼の後ろを ついて回った君には、耐えがたいのかもしれないな。
若い頃の 慎一は、とても気持ちの良い奴だったよ。
私が 今も こうして日樹田の復興に着手出来るのも……。
その頃の慎一のお陰だからね。
彼は、私の話す根拠のない話を、少しも疑わずに信じてくれた。
そして、共に怪人に対抗する手段の開発に身を注ぎ、
W.C.P.Sを 完成させる大きな助けとなったんだ。
慎一の お陰で、私 1人では実現が不可能な、
Arcana Barrage Chase Systemは遂に完成し……。今も どうにかエイオス達の侵攻に対抗できている。
だが……。
その過程で、彼は少しずつ変わっていった。
私が気が付かないどこかで 何が有ったのか知らないが、気が付けば今のように成っていた。
いつも及び腰で口数も少なく……。
コソコソと何かを隠すような、陰の有る人間にね。
……きっと私のせいなのだろう。
君にとっては 大切な実の肉親なのに、申し訳ない。 」
…………。
目の前で深々と頭を下げる C.E.Oの低姿勢な様子に……。
白衣の青年も、申し訳なさそうに返答した。
というのも……。
天瀬十一にとって 神地聖正は、自分が伸び悩んでいた とある時期に助け舟を出してくれた身近な恩人だったからだ。
今回の時間を作ってもらった手前も有るが……。
意図的に 恩人に頭を下げさせたようで、あまりにもバツが悪かった。
…………。
「 頭を上げてください 神地さん。 」
…………。
神地聖正は、ゆっくりと姿勢を戻すと、真面目な面持ちで口を開く。
…………。
「 十一 君。実はね……。
私が君に伝えたいのは、ここから先の話なんだ。
エイオスと……。
天瀬慎一(アマセ シンイチ)について……。 」
…………。
この後に開示された数々は、白衣の青年を唖然とさせた。
…………。
「 これが……。私の知りうる事実だ。
君の父、天瀬慎一(アマセ シンイチ)も知っている筈だが、
過去を 君に教えないのは、彼が裏で良からぬ事を企てている証なのだろう。 」
…………。
白衣の青年は、いずれ来たる 未来に 覚悟を決める。
この日を境に、神地の元へ何度か足を運ぶようになっていくのだった……。
………………。
…………。
……。
~隠遁者~
C-02 地区の ヒキダ・ブリッジで行われた、翼を持つ怪人との激闘から……。
数日が経過した……。
あの日……。
黒翼の男型怪人 ドゥークラと……。
白翼の女型怪人 ナティファーが姿を消した後に 現れた 10体のピップコートは、2人の アルバチャスによって難なく撃退される。
…………。
時間の経過は 着実に戦傷を癒しており……。
マーヘレスに辛勝した日から比べると、2人のアルバチャスは 本来の調子を取り戻しつつあった。
…………。
特務棟の食堂では……。
青年が ガパオライスを注文し、大量に盛り付けられた鮮やかなパプリカとピーマンを、口の中に放り込んでいく。
今週に入ってから 何度目からの昼食を 堪能しているようだった。
…………。
「 ぁあ……。今日の昼も最っっ高だ。
野菜が美味しい。 」
「 いつも以上に 気持ち悪い顔して どうした要人。
今日は口の まわり綺麗だな。 」
…………。
恍惚とした表情で 白目を 引ん剝く 有馬要人に、馴染みの 巻健司(マキ ケンジ)が声をかける。
巻健司は、連日のように 手隙な時間を見つけるては 油を売り歩く常習犯だった。
年齢が離れていても似通った空気感を身に纏う 2人は、冗談が言い合える程にウマが合う。
激しい訓練や、人知れず アルバチャスとして戦う青年にとって……。
……食堂は、すっかり憩いの場に成っていた。
…………。
「 巻さんも しつっこいですね。
至福の時間に水を差してまで言う事ですか ?それ。
まあ……。でも ?
俺は、こうして 美味しいランチ食べられるなら……。
……気にしませんけどね。寛大なんで。
ぁパプリカ旨っ !! 」
「 おい要人……。
お前、もう少し静かに食べろよ。
もう殆ど他の客が居ない時間でも、俺まで恥ずかしく成って来るだろ。 」
…………。
青年の口先三寸の過大な リアクションに……。
巻健司が 指摘するものの、当人はどこ吹く風で……。独自の理論を構築して見せる。
…………。
「 そうは言っても……。そうなんですけど…… ?
やっぱ、こうして健康な状態で食べるランチって 美味しいじゃないですか。
声も出ますよ。
良いですか ?巻さん……。
元気な身体で食べたら 2倍。
更に身体動かした後なら そこから 3倍。
親しい誰かが作った料理なら おまけに 4倍。
美味しいランチで俺は、いっぱい いっぱい ですよ。
あっ……。すみません。その ゆで卵 貰っても良いですか ? 」
「 要人……。お前。
なに言ってるのか、俺には全然わからねぇけど……。
今日も健やかそうで 安心するよ。俺は。 」
…………。
青年の 底抜けな口ぶりに、巻健司は毒気を抜かれたのか 気持ちを緩ませたらしい。
そんな中……。
1人の女性スタッフが、常態化しつつある巻健司の談笑に気が付いたようで、注意喚起を行う。
…………。
「 巻さん またですか ?
これ以上、サボってると 他のスタッフから 苦情きちゃいますよ ?
ちゃんと時間みて動かなきゃ。 」
「 げぇ !真尋ちゃん !!
今の無し !許してプリーズ ! 」
…………。
女性は 天瀬真尋(アマセ マヒロ)……。
食堂で管理栄養士として働く人物で……。巻健司を チクリと正す 希少な人物である。
巻健司は、冷やりとした心情を 飄々とした態度に包み隠すようにして、ダメな大人の代表的な一面を見せた。
軽い雰囲気は変わらない。
青年が、混沌とした風景でも 幸せそうに食事を取っていると……。少し困った表情で 女性が声をかける。
扱いにくい ニヒルなミドルは、長々と構っていられないのだろうか……。
…………。
「 要人さん……。
巻さん直ぐに調子に乗っちゃうんで、あまり甘やかさないであげてください。
いつも訓練で 生傷作って頑張ってるのに……。 気を使わせたら 大変ですよね ? 」
…………。
青年にとっては……。思いもよらない僥倖(ぎょうこう)であり……。
1つの天啓(てんけい)のように感じられた……。
嬉しい 流れ弾が 命中してしまった。
天使の階段が降り注いだ 特別な景色に視界は彩られていく。
そして、微弱な 弾丸は……。
心構えが間に合わない 愚者に、甚大な被害を出す。
気持ちが追い付かずに 嚥下(えんげ)で咳き込み、
数秒の不本意な酸素不足によって 有馬要人の顔を、生理現象として赤面させていく。
このままでは、全身の皮膚が 紫色に変色してしまう……。
血液中の酸素濃度の低下による、脱酸素ヘモグロビンが増加した状態に……。
…………。
つまり、チアノーゼ である……。
…………。
もっとも……。こんな現象が起こらなくても 青年は 女性を前にすれば……。
脳内の 働きは低下し、極々 自然な流れで 脳内麻薬とも呼ばれるエンドルフィンを分泌させて 多幸感の中に沈んでいく……。
青年は、意識の船を座礁させないように踏み止まるが、思考は朧気で……。
微弱な弾丸の射手から 発せられる声を、しっかりと聴き取り……。心配させまいと親指を立てて示す。
…………。
「 ップハ !!
大丈夫 !!大丈夫です。
ちょっと スパイスが 鼻と喉の奥に……。ハハ……。 」
「 本当に大丈夫ですか ?
顔の色とか ちょっと……。 」
「 ……大丈夫。ダイジョブ……す。 」
…………。
青年は、終始そんな様子で 返答した。
女性 天瀬真尋は、そんな青年とは反対に 身を案じる……。
再三の確認でも、
大丈夫とだけ返す 青年の受け答えで、そこまで言うのなら。と 深堀りすることなく気持ちを切り替えたようだった。
…………。
「 お水 入れておきますね。
閉店時間は近いけど、落ち着いて食べなきゃ体に悪いですよ ? 」
…………。
自分自身が 原因とは知りもしない射手は……。
青年が 小さく咳き込む傍らで、空いたグラスに水を注いだ。
女性 天瀬真尋は 水を注ぎ終えると……。
何故か ほくそ笑む巻健司を捕まえて、残りの仕事の中でも 巻健司が担当するタスクを、幾つか列挙して改めて釘を刺す。
……そして、パタパタと厨房の奥へ戻っていった。
…………。
……。
青年が チアノーゼから脱出して、平静な呼吸を取り戻すと……。
終わりじまいが見える 和やかな昼の食堂に……。ある人物が 来訪した……。
……慢性的に眉間に シワを作り、深刻そうな表情の壮年の男だった。
いつも背中を丸めており、小心翼々とした言葉を体現したような立ち振る舞いで、有馬要人と巻健司に近づき話しかける。
…………。
「 ……昼食を食べたいのだが、まだ間に合うかい ?
この席に 相席させてもらうよ。 」
…………。
影を帯びる壮年の男……。
胸元の名札には、特務開発部長の天瀬慎一(アマセ シンイチ)と……記載されている。
が、しかし……。青年からは この名札は見えなかった……。
天瀬慎一は、巻健司に声をかけて……。メニューの中から、適当に注文を済ませる。
青年 有馬要人が、続きのガパオライスを口に運び、至福の時間を再開させていると……。
小心翼々とした壮年の男は、青年に目を合わせて……。
懐から 取り出した、有るものを 青年の目の前に置いて語り始める。
…………。
「 ……キミが 有馬要人 君だね ?
私は 勝手に話すから、そのまま聞いてくれていいよ。
このメモリー端末を キミに預ける。
今後も アルバチャスとして戦うのなら……。
気持ちが固まった時に A-deviceへ 差し込んでみると良い。 」
…………。
それだけ言い終えると……。
小心翼々とした壮年の男は、席を外し食堂を後にした。
巻健司が 入れ違いのように、注文されたばかりの日替わり定食を配膳しに来るが……。
……姿を消した注文客の不在に気がついたのか、……思わず事の あらましを 青年に問いかけた。
…………。
「 なあ要人……。 さっきの 人は、どこいったんだ ?
ん ?なんだ ?そのメモリー端末……。
まさかお前のじゃ……。無いよな。
今いた人の 忘れもんか ? 」
「 ……いやこれは、
俺の忘れ物を 届けてくれたみたいです。 」
…………。
青年は、巻健司の 疑問を打ち消すように 言葉を重ねて、メモリー端末を手に取った。
D.E.F とだけ記載された、謎の小型メモリーである……。
有馬要人は、先程の人物に捉えきれない何かを感じ取るものの、その正体を掴み切れずに悶々とさせた。
天瀬慎一は、食堂の出入り口から 数歩程度しか離れていない 辺りで、目を細めて軽く振り返るが 直ぐに前を向き立ち去っていく……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
小心翼々とした壮年の男とは別に……。
1人の男が食堂を目指す。
この日は、少し恒常的な業務とは 別に行ったタスクに時間を取られて、普段よりも時間が押してしまった。
白衣の青年 天瀬十一は、特務棟の廊下を歩く足を止めずに……。
……最近になってから 社長室で聞いた 多くの事を思い起こす。
…………。
……。
天瀬十一の 記憶の中で、神地聖正が 語った多くの言葉が反芻(はんすう)される。
…………。
「 十一 君。実はね……。
私が君に伝えたいのは、ここから先の話なんだ。
エイオスと……。
天瀬慎一(アマセ シンイチ)について……。
慎一は もしかすると……。私達にとって敵なのかもしれない。
何故かは わからないが彼は、只の一度も エイオスに狙われた事が無いんだ。
どんなに錯綜(さくそう)したような状況で……。
エイオスと物理的な距離が近かったとしても、彼だけは標的に成った事は無い。
その様は まるで、エイオスから見えていないようだった。
でなければ……。敵視されない 明確な理由が有るのかもしれない……。
初期型の W.C.P.Sの配備数が 少ない頃でも……。
ピップコートを撃退 出来たのは、彼のお陰でも有る。
これと 同時に……。
私ですら 知りえない何かが 慎一には有るんだろう……。
……本人は否定しているがね。
他にも、彼が敵である可能性を示唆する要因は有るが、そっちは別の機会に話そうか。 」
…………。
あの日の 神地聖正の話した数々は……。
……過度に現実離れしており、気持ちの整理に時間を要した。
他にも、神地聖正は 特務の人間ですら 知らない エイオスについての新たな知識も開示したのだ……。
天瀬十一の足は、人通りの無い 廊下に差し掛かった。
両の目には、デスクワークによる眼精疲労が、じわりと存在感を出している。
思わず 足を止めて、両目の瞼を瞑り……。
自身の片手の人差し指と 親指とで、目頭をつまむ。そのまま、付け焼刃の解消方法として ゆっくりもみほぐした……。
天瀬十一は、手持無沙汰になった脳内で 再度 記憶を呼び起こしていく。連日の眼精疲労はこの内容にも関わっていた……。
…………。
……。
まだ……。
解像度の高い鮮明なの記憶の中で……。
……神地聖正が、エイオスについて語りだす……。
…………。
「 今日は エイオスについて話そう。
エイオスには、大きな 2種類のカテゴリーがある……。
1つは ピップコート。
そして……。もう 1つは エヌ・ゼルプト……。
ピップコートはつまり……。
同種の怪人も複数存在する、いわゆる……。兵士のようなものでね……。
何故か、小アルカナのスートを特徴として持ち合わせている。
直立した単眼の爬虫類のような個体は、この中の 1種類ペイジ型でしかない。
ペイジは小姓……。もしくは見習いを意味する。意味は異なるが斥候兵のようなものだと思ってくれて差し支えはない。
他にも……。
ナイト、クイーン、キングの全部で 4種類の素体をベースにしているらしく……。
私達が 形質変化と呼称している現象は、小アルカナのスートを混ぜ合わせる 強化形態にあたるようだ。
この時に 追加されるスートは……。
ワンド、カップ、ソード、ペンタクル……。
つまり……。
ベースとなる役割のスートと……。
持ち物に該当するスートを、強化特性として定着させる事で、
理論上は 20種類程の個体が 存在する事に成る。 」
…………。
神地聖正が、ピップコートについての説明を終える。
白衣の青年の 反応を確認しているようで、少しの時間を挟んでから 続きの話を進めた……。
…………。
「 大丈夫かな ?
次は……。奴らを束ねる特殊な個体についてだ。
特殊な個体の名前は………。
N-Zerpt(エヌ・ゼルプト)……。
名前の由来は 私にも わからないが、
どうやら、アルカナの怪人達の 切り札に 相当する役回りを持っているようだ。
ピップコートとは異なり、大アルカナと類似の特徴を持つ……。
どのエヌ・ゼルプトも 完全に同一の個体は存在しない。
その強さも、特殊な能力も 非常に強力でね……。
22災害で脅威の中心になった マーヘレスも、
私の夢に現れた黒翼の怪人ドゥークラも……。この中の 1体なのだろう。
まだまだ先は見えないが……。
エイオスに 切り札が存在するのならば……。
アルバチャスは 人類にとっての 切り札に 成って欲しい……。
私は、そう願わずには いられない。 」
…………。
要点を抑えて簡潔に進む 情報の中で……。
白衣の青年 天瀬十一が、率直な所見と疑問を挟んだ。
神地聖正は、予測も交えて答えを提示する。
…………。
「 小アルカナの 能力を 持つ 20種類のピップコート……。
そして恐らく……。
22種類の強力な個体……。エヌ・ゼルプト……。
ピップコートは、言わばエイオスの兵隊。同じ個体が同時に存在する事もある……。
逆に エヌ・ゼルプトは、エイオスの中心となる指揮官達……。
なんとなくは、イメージも出来ました。
しかし父の件とは 別に、これを 特務全体の共有事項へ入れていないのは何故です ? 」
「 ……理由か。そうだな。
君が 私の幻視を、アカシックレコードと例えたのは覚えているかい ?
あの日は 慎一の話をして、話が流れてしまったが……。
もしも、私の幻視が天啓では無く、エヌ・ゼルプトによって見せられていたとしたら……。
……どう感じるかな ?
当時の私達は、天啓だと思い込みアルバチャスの素となる
systemを 完成させた。
だが、この頃から私の頭の中には、
エヌ・ゼルプトや ピップコートに関する知識も詳細に湧き上がり始めた……。
その中にはね……。今の私が、君に話した 内容も 有ったのだが……。
この後に 湧き上がった知識が、大きな問題だった。
エヌ・ゼルプトには特殊な能力が有ると言ったね。
私の脳内に 投影された知識から、その何体かの能力も知る事が出来た。
その中で 私は見つけて しまったんだ……。
他者へ偽りの感覚を与える存在を。 」
…………。
神地聖正が 話すエイオスの特性は……。
人類が相対するには非常に強力で……。
天瀬十一に大きな衝撃を与える。険しい表情で言葉を零すと、神地聖正が結論へと進めていく。
…………。
「 偽りの……。感覚……。 」
「 その通りだ。
それを知るまでは……。
未知の怪人への 対抗手段を 確立しているものとばかり思っていた。
だが……。もしかすると……。
エイオスに踊らされているだけの 愚か者だったのかもしれない。……そう思わずにはいられなかった。
この事がきっかけで、恐怖心が膨らんでしまってね……。
幻視で得た知識を元にして作った全ては……。
必ず結果を残していた。
事実が、恐ろしさを育てるだけだったんだ。
対抗策だと思った物の全ては……。
人類に仇を 成した怪人達が 見せた意図の有る情報で、何かを先導するものだとしたら……。
このまま、アルバチャスの systemを完成に導いていいものか……。
杞憂か どうなのかも 私には判断が付けられず、その時の A-deviceは凍結したんだ。
それから数年が経った。
ピップコートへの対処は 勇士を集めて、
W.C.P.S のみで 行うようになっていたのだが……。少しずつ限界が近づく。
エイオスも日に日に強力に成っているようで、ピップコートとはいえ苦戦するようになってしまう。
無駄な抵抗をするな。
幻視に移る物を作れ……。
そう 言われているようで……。精神的にも私は追い詰められていた……。
この時に 私を 鼓舞したのは、慎一だったよ。
私は、慎一と共に 数年の歳月をかけて 新たな A-deviceを作り上げる事にした……。
……code-7-の完成だ。
この後は 君も知っての通りさ……。
丹内空護は 見事に使いこなして、多くのエイオスを打破していった。
本当に頼もしかったよ。
だが、慎一は いつの間にか
過去に凍結した 負の遺産に 固執していたようだった……。
本来ならば、完成させない筈だった アルバチャスを作り上げてしまったんだ。
これが、以前も話した 慎一が敵かもしれない可能性に繋がる……。
天瀬慎一が何を知り、何を隠しているのか私にはわからない。
以上が私の知りうる事実だ。
君の父も知っている筈だが、
過去を教えないのは彼が裏で良からぬ事を企てている証なのだろう。
エイオスの種別については、今後の戦いで きっと必要になるだろう……。
特務の現場で働く君が 精査して、まとめた情報を 好きなタイミングで共有事項へ加えて欲しい。
かつての旧友を 父に持ち……。背中を追いかけて育った 君の 判断ならば、私は信じられる。
私は情報と 新たな力を、託す事しかできない。
どうか 何も出来ない 無力な私を助けてくれないか……。 」
………………。
…………。
……。
白衣の青年 天瀬十一は……。
……記憶の整理を終えて、目頭を揉んでいた 自身の片手を下ろし 瞼を開けた。
そこから数秒間……。
数秒間だけ、廊下に立ったまま考えを巡らせるが……。
空腹で栄養が不足した脳内では思うように進展を見出せず、妹の手料理を食堂で食べる事に意識をシフトさせる。
待ち望んだ食堂の目の前に辿り着くと……。
営業時間を大幅に過ぎたせいで、食堂は閉まっていた。
………………。
…………。
……。
~凱旋する災い~
ある日の早朝……。
空は高く……。気持ちのいい快晴……。
どこまでも突き抜けるような青空を……。
騎士型の怪人が複数体、飛翔しては 集まっている……。
飛翔するピップコートの全ては、杖のような形状の片腕を 特徴として持っていた……。
杖と騎士の特徴を持つ エイオス……。ワンド・ナイトが上空で隊列を組む……。
…………。
……。
無数の 空飛ぶ 杖騎士の直下には……。
同程度の数で、剣の特徴を持つ 斥候兵のピップコートが ひしめていた。
名前を付けるのであれば……。ソード・ペイジ……。
優秀な歩兵達が ニューヒキダの郊外から 進軍する用意を済ませている ようにも 見える。
地上と空の怪人群は、1体のエヌ・ゼルプトによって指揮されており、全てが同じ方角を向いていた。
1体のエヌ・ゼルプトは……。
ソード・ペイジの中心に紛れて地上から、全てを統率しているらしい……。
世界中を振動させるような声を響かせて凱旋の意思を示した。
その怪人は……。四目の皇帝マーへレス……。
黒色の雄山羊の意匠が特徴的な 身の丈ほどの長剣を 軽々と扱う……。驚異の怪人……。
…………。
「 ついに。余の念願の凱旋だ。
数多のピップコート達よ !!さあ 進めい !!
道を阻むものは 全てけちらし、この世の全てに踏破するのだ !!
真なるマルクトを 必ず手中に収めよ !! 」
…………。
マーヘレスの号令は 無数のピップコートを進軍させた……。
ニューヒキダ全体が 破壊され始める。
…………。
……。
上空の ある一点には……。
その様子を傍観する 2体の怪人の姿が有った……。
2体の怪人は、どちらも背中に大きな翼を抱き……。それぞれが、羽ばたき中空に留まっている。
片方は、黒翼の怪人 ドゥークラ。
もう片方は、白翼の怪人ナティファーだ……。
黒翼の怪人は、白翼の怪人に これから起こる出来事を占うような口ぶりで話しかける。
白翼の怪人は、これまでと変わらずに 無言で聞きとり傍観した……。
…………。
「 マーヘレスに 訪れるのは、再起不能か敗者復活か……。
分かれ道は必ず どちらかへ流れる。
我らは使いとして 見届けようか……。 」
…………。
……。
謎の洞、光溜まりの淵には……。
真紅の戦士の 姿が有り、光溜まりに マーヘレスの侵攻を映し出しては様子を伺っていた。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
N-01 地区……。
ニューヒキダの中でも山岳地帯にも近く、普段は のどかな 景色なのだが……。
無数に押し寄せた ピップコートによって 既に荒れ果てていた。
…………。
多数の 空を飛ぶ騎士が……。
杖の先頭から火球を放つと、建築物は倒壊し 街路樹は燃焼してしまう。
……空を飛ぶ杖騎士は、あらゆる物を強襲し 焼損させている。
…………。
地上においては……。
剣を扱う歩兵 ソード・ペイジが、乗り捨てられた自動車すらも切断し……。
マーヘレスの凱旋に伴って 通り道を作っていく。
…………。
……。
22災害を彷彿とさせる戦慄が進軍する……。
…………。
……。
マーヘレスの通り道は……。
逃げ惑う人々の悲鳴が聞こえており、皇帝が完全に過ぎ去る頃には 虫の声すらも聞こえない静寂が君臨した。
四目の皇帝は 雄大に闊歩するのみで、全ては周囲を固める無数のピップコートが次々と手を下していく。
…………。
「 今日は実に良い日だ。
余の凱旋をもっと称えよ。 」
…………。
上機嫌な マーヘレス目掛けて……。精密な複数の光弾が迫った。
この 光弾は、ソード・ペイジが 素早く身を挺して割り込むと……。
身代わりに 銃撃を受けた 5体程が そのまま爆散した。
…………。
「 やはり来たか。贋作ども。
だが、残念であるな。
まともに 余と剣を 交える事も出来ぬだろう……。 」
…………。
マーヘレスが 光弾の飛んできた方角に 顔を向ける……。
そこには アルバチャスが 2人並び立ち……。 B.A.Cupの銃口を皇帝に向けていた……。
赤と黄色の愚者……。有馬要人……。
白色の戦馬車……。丹内空護……。
2人のアルバチャスは、即座に武装機能を動作させて、滑走機能で連携攻撃を仕掛けていく。
疾駆する途中で、それぞれの 空いた手にも追加の武器を展開した……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Cup !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・カップ !! ) 』
…………。
code-7-のアルバチャス……。丹内空護が 先に仕掛ける……。
戦馬車の青年は、片手には刀剣型武装 B.A.Swordを、もう片方の手には 拳銃型武装 B.A.Cupを握り……。攻撃能力の高さを発揮した。
ホバー走行を利用した流れるような軌道で、
地上の ピップコートは切り払い……。空中のピップコートは銃撃による掃射で……。
冷静に 戦いを組み立てて 怪人を撃破していく。
…………。
code-0-のアルバチャス……。有馬要人は 少しの時間差を作ってから動き出した……。
同様に ホバー走行を行っているが、丹内空護とは比較して 変則的な動きで暴れまわる。
拳銃型武装 B.A.Cupと、杖型武装 B.A.Wandによる スラローム射撃だ。
B.A.Cupからは 光弾が、B.A.Wandからは 火球が射出される……。
それでいて、スラローム射撃を基調にしつつも、杖による殴打も取り入れて 皇帝の凱旋を出来る限り阻もうと奮戦した。
…………。
丹内空護は 何かを危惧して、有馬要人に通信システムで話しかける。
…………。
青年は 現状から推察できるコンディションを、直ぐに返答した……。
…………。
「 大丈夫か ?有馬。
本当に何ともないんだな ? 」
「 もちろんです。
空護さん 心配しすぎですよ ?
俺は すこぶる 快調です。 」
…………。
実は数日前……。
有馬要人の A-deviceは 誤作動を起こしていた。
青年によれば、どうやら その直前には、あるメモリー端末を接続したらしい。
その時に接続した端末は D.E.Fと記載されており……。
丹内空護や 天瀬十一からの言及で、青年にとっては 面識のない人物 から受け取った物だった事が判明する。
その D.E.Fを、有馬要人が 自身の A-deviceに接続すると……。
直ぐに デバイスのスクリーン上の表示が変わり……。
そこからしばらくの間……。Arbachasが動作不可に成ってしまったのだ。
…………。
……。
そして現在……。
2人のアルバチャスの会話を、特務開発部フロアから 聞いていた天瀬十一も、この時の事を思い出す。
白衣の青年は、自分にしか聞こえない程度の声量で 呟いた……。
…………。
「 D.E.F……。たしか表記は……。
Device Error Factor だったか……。
(デバイス・エラー・ファクター)
直訳するなら デバイスを誤作動させる因子……。
有馬 君に 聞いた特徴や、監視カメラの映像を見ると アレは……。
父さんが 渡した物なのか ? 」
…………。
天瀬十一は 特務開発部のフロアから、アルバチャスと エイオス達の戦いを見届ける傍ら……。
周囲を軽く見渡すが、この日に限って 父の天瀬慎一は見当たらない。
それどころか、ここ数日の父は 自宅にも帰らない日すらも有った……。
天瀬十一の脳内には 自然な流れで、神地聖正が危惧した内容が呼び起こさていく……。
…………。
……。
2人のアルバチャスが、マーヘレスの凱旋を阻もうと 動き出してから……。
1時間程が経過する。
有馬要人も……。丹内空護も……。
これまで 以上に奮戦し、既に数えるのも 億劫になる程の ピップコートを撃破していた。
それでも 終わりが見えない怪人の群れは、進軍速度が 多少 緩やかに成る程度で、完全には止めきれない……。
マーヘレスに 先導される 無数のエイオスの隊列は……。
ニューヒキダの山岳地帯から進攻し、N-01 地区から真っすぐに南東方向へと進んで行く……。
その先には……。
ニューヒキダの中心部 A 地区が有り……。
A 地区には、APCの社屋となる高層ビルが地域の象徴として そびえ立っている。
四目の皇帝の凱旋は、破壊の限りを尽くして 緩やかに APCの社屋に近づいていく……。
………………。
…………。
……。
~力あるもの~
愚者のアルバチャスと……。戦馬車のアルバチャスが……。
気の遠くなるような数の 怪人を相手に戦い続け……。奔走していた……。
code-0-……。愚者のアルバチャス……。有馬要人が、剣歩兵のような怪人を蹴り飛ばして爆散させる……。
…………。
「 こいつらの数、尋常じゃない……。それにマーヘレスまで……。
前に倒したはずじゃ……。 」
「 気を緩めるな。有馬 !!
仮に 何体 いたとしても……。 」
「 俺達が やる事は変わらない。……でしょ ?
わかってますよ。空護さん。
さっきのは 只の独り言です。 」
…………。
2人のアルバチャスの戦いの場は……。
マーヘレスを追従するように移動するが、圧倒的な 数の利を 持つ相手には 手が足りない……。
これにより、少しずつ前線は後退していき N 地区から始まった抗戦は E-10 地区に移っていた。
E 地区は、A 地区に隣接しており、ニューヒキダの中心部まで……。
残り 僅かな所まで、凱旋を許してしまう。
…………。
……。
2人のアルバチャスは……。
これまで 何度も、エイオスの陣頭指揮の中心へ向けて 攻勢に出ているのだが……。
……その都度、多数の ピップコートに邪魔をされて、マーヘレスに決定打を与えられないでいた。
隊列の中心を 雄大に闊歩する皇帝は……。
果敢に戦う 2人の人間に機嫌よく勝ち誇るばかりだ。
…………。
「 余の凱旋は、誰も阻む事は出来ぬ。
この度の貴様ら贋作共の武闘は、実に良い見世物だ。
いつまで続くものか、楽しませて貰うぞ……。
そして味わうがいい……。
個の力が 及ばぬ 故の屈辱を……。 」
…………。
アルバチャスが 絶えず行う妨害行動を……。
数多の騎士や小姓に一任し、マーへレスは まともに戦いすらもしない……。
只々 雄大に、A 地区を目指している。
四目の皇帝は 決して、歩調を緩めず……。逆に早める そぶり もない……。
その進行速度は、確実に何かしらの 目的を果たせる 自信の表れのようだった。
………………。
…………。
……。
神地聖正は、社長室からモニター越しに確認し……。
どこか落ち着いた様子で、お気に入りの ティーカップに 紅茶を注ぎ込む。
…………。
「 マーヘレス……。
ついに 完全に能力を 取り戻したか。
ペイジとナイトの 数を、自身のアルカナを糧に増殖させて、数で戦況を支配する畏怖の皇帝……。
code-0-と code-7-だけでは……。
いささか 厳しいのかも しれないな。 」
………………。
…………。
……。
未だに激しさが止まない E 地区では……。
青年 有馬要人の発案で、とある作戦が実行に移される。
簡潔に言い表すのなら……。
2人のアルバチャスは……。密集する ピップコートを掃討して 状況の好転を狙ったのだ。
Dual Function System……。
(デュアル ファンクション システム)
何度目かの 切り札を作動させた。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
愚者のアルバチャス……。code-0-が……。
いつかのような けたたましい推進力で、杖型武装 B.A.Wandに立ち乗りしては……。高度を上げていく……。
それが 通過した後の 中空では、杖騎士型のピップコートが次々と爆散する。
…………。
地上では……。
戦馬車のアルバチャス……。code-7-が……。
ホバー走行も 用いて疾走しており……。剣斥候兵型のピップコートを 切り払っていく。
強力無比な一撃は、すれ違いざまの一太刀で 怪人達を爆散させていった。
…………。
2人のアルバチャスの数時間に渡る 獅子奮迅の活躍は……。
ピップコートの総数が 半数近くまでに減衰していたようで、マーヘレスを もってしても 意外だったらしい。
それでも尚……。
空には 埋め尽くす程の 杖騎士達が残っており……。
離れた距離から 隊列を組んで 迎撃の姿勢を整えると、何発もの火球を 飛翔する愚者に放った。
青年 有馬要人は、杖を すっかり乗りこなして 複数の火球を綺麗な旋回で回避する。
…………。
……。
怪人の何体かが 避けられる事を、事前に想定していたのか……。
……回避した後の死角になるような位置へと、置きに行ったような火球を放っていた。
皇帝 マーへレスは、一部始終を地上から鑑賞していたようで、思わず ほくそ笑む……。
…………。
「 避けてみせよ。
浅知恵で道を化かす愚か者め。 」
…………。
青年は、先程の攻撃への回避行動によって 自ら、火球が密集する位置へ吸い込まれていく。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
「 ……避けられないなら。……撃ち落とす !! 」
…………。
愚者の青年は、空中で姑息的に杖を乗り捨てる……。
そして、即座に B.A.Cupを呼び出して、銃射撃に護符の恩恵を乗せた掃射を行い……。
自信の身に迫る……。もとい……。自身が迫っていく進路上の火球を全て爆散させた。
…………。
空飛ぶ愚者が、窮地を脱して 注目を浴びている間に……。戦馬車が地上を滑走する……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
「 ……隙ありだ !! 」
…………。
マーへレスは、愚者の行動に 気を取られたようだった……。丹内空護は、これを見逃さない。
皇帝に向けて、護符の恩恵を載せた 一閃の斬撃が飛来する……。
ほんの一瞬……。
四目の皇帝の 対処が遅れた……。
code-7-が放った跳ぶ斬撃には……。
ピップコートを身代わりにする暇も無く、やむを得ず 自慢の長剣で受け止めるに至った。
…………。
「 ヌゥン !!
この程度で、余を出し抜いたつもりか ?
浅いわ !! 」
…………。
マーヘレスは、戦馬車が放った 飛ぶ斬撃を 数秒受け止めるが……。
直ぐに競り勝ち、振り払うように霧散させてしまう。
丹内空護は、それよりも 少しだけ早く 合図を送った……。
…………。
「 有馬 !! 」
…………。
青年 有馬要人は、合図に応えて作戦に移る……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
「 お前の相手は……。俺達だ !! 」
…………。
愚者の青年が行った、上空からの唐竹割……。
空中から自由落下の衝撃荷重を乗せた 重く鋭い斬撃が、マーヘレスに直撃する……。
青年は、着地を済ませると……。
腰部側面のセンサーを即座に起動して、滑走機能を用いて 後方に移動し体勢を整えた。
四目の皇帝は、完全に歩みを止めて 今日で初めて、2人の人間に焦点を当てた……。
これまでで最も 強力な奇襲は、確かに効果を示したのだ……。
…………。
「 おのれ 人間ども……。どうあっても余を阻むつもりか ?
完全なる力を取り戻した余に !!
道の上に立つ者である余に !!!
立ちはだかるとは……。浅学無知にも程が有る…… !!
人間如きが勝てると思うな ? 」
…………。
四目の皇帝 マーヘレスは、怒気を強めて 身の丈ほどの長剣に力を込める。
怒れる皇帝に 呼応するように、鍔に施された黒山羊の瞳が禍々しい黄金の輝きを放った……。
塚頭から 延びる神聖なアンクも、本来の真っ当な印象とは相反して……。
ギラギラと明滅し、底知れないマーヘレスの強靭さを象徴する。
未だに 2人のアルバチャスを取り囲む 多くのピップコートと、いよいよ臨戦態勢へと切り替わった
四目の皇帝を相手にして……。
有馬要人が啖呵を切った。
…………。
「 その人間 如きに 1度は負けてるだろ ?
今回で最後にしてやる。
俺が……。俺達が全てをひっくり返す !! 」
…………。
22災害で最も 大きな被害を出した怪人と、アルバチャスが……。互いに闘気をぶつけて……。
眼光すらも かち合わせる。
………………。
…………。
……。
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