- 07話 -
黒と白 勝利を呼ぶのは
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目次
~日常~
青年は、少し眠そうにして片手に持ったブリトーを齧る。
この日は、ある理由から 半休を浪費していた所だった……。
マーヘレスを退けた戦いから日も浅く、身体中の至る所には戦傷が目立つ……。
特に 平穏な日々を過ごす中で、口の端に出来た傷は致命的な影響を常に主張する。
ブリトーのスパイスが鋭い痛覚を感じさせた。
味を楽しむ前に 眠気が吹き飛ぶ……。
…………。
「 ……っ……つう !!けど ウマッ !!
巻さん勝てますコレ ? 」
「 マズいなこれ……。
確かにウマすぎてマズいぞ……。
肉の処理に拘ってるな、臭みがない……。本当にジビエ肉か ?
こっちの方はトルティーヤの代わりにライスペーパーを使ってる……。
鮮度の高い魚介サラダが手巻き寿司を彷彿とさせて具材としても申し分ない。
さすがに反則だろ…………。 」
…………。
青年 有馬要人(アリマ カナト)に続いて……。
ニヒルなミドル……。巻健司(マキ ケンジ)も 直ぐに率直な感想を述べる。
巻健司の表情は強張り、いつになく真剣で深刻そうな表情が張り付いていた。
…………。
……。
マーヘレスの打倒は……。
APCどころか、ニューヒキダに住む人々にとっても快挙だった……。
その為……。連日にわたって、APCやアルバチャスへの感謝祭と銘打ったキャンペーンが所々で催されている。
この日の 2人は、感謝祭を単なる娯楽として楽しむ以外の崇高な目的を持っていたのだ……。
数多のグルメを口に運び意見を交差させていく。
…………。
「 ですよね……。
どのブースのグルメもハイレベルで……。
あ……。こっちの方も俺は好きですね。 」
「 んん ?要人……。
お前、それは………。
完全にブリトーじゃないな。俵型カツか ? 」
…………。
2人が共有する、崇高なる目的とは……。
…………。
「 ……ですね。
美味しそうな香りに完全に負けました。
今回の趣旨とは違いますけど、かなりイケますよ ? 」
「 イケるもなにも……。
川島精肉店の俵型カツは、ここらの御当地グルメの筆頭だぞ ?
……よく買えたな。 」
…………。
2人が共有する、崇高なる目的……。それは……。
……今後の、巻健司の キッチンカー再開に向けた、ライバル店舗の偵察だった。
キッチンカー MAKI★MAKIは、未だに納車こそ されてはいないが……。
折角の ちょっとした お祭り騒ぎだ……。
巻健司の発案で、現地調査をしない手は無いとの結論に辿り着き……。
大活躍しているアルバチャス とは裏腹に、訓練で生傷が絶えない有馬要人 を誘って今に至る。
若干の挙動不審はあるが……2人は感謝祭ブースを練り歩いていたのだ。
…………。
会場には複数のモニターが設置されいる。
元々の 平常 設置型のモニターとは別にして、今回の催しに合わせて 用意されたモニターも 多数設置されているようだ。
それらの 殆どのモニターには、マーヘレスと アルバチャスとの戦いが適度に編集されており……。
広報用のキャッチーな テイストで リピート上映されていた。
否が 応でも 目や耳から入る陽気なムードは、
2人の挙動不審者の会話を、自然な流れでアルバチャスに連なる話題へと促す。
…………。
「 それにしても……。
正体不明の 謎のヒーローか……。
わかっているのは、APCが管理下に置いている事だけ……。
本当にお前も知らないのかよ ?
実動班なんだろ ? 」
「 ぉおうっふ…… !?
……俺だって知りませんよ。
例えば……ほら。アレ。……ええと。
会社の規模が 大きかったら、直接でも関わりなきゃ……。
役員とか社長も、誰か わからないでしょ ? 」
「 要人……。
……お前それは、流石にダメ過ぎるだろ。 」
…………。
何気なしに、巻健司から 始めた ニューヒキダの英雄への話題は……。
有馬要人の、とんでもない切り返しによって、ニヒルなミドルを絶句させた。
巻健司は、呆れた様子で 話の方向を切り替える。
アルバチャスの正体から APCやアルバチャスそのもの………。そして謎の怪人へと移行させていった。
青年は、先程の比喩で ピンと来ない巻健司に、疑問符を浮かべる。
小首を傾げながら、ブリトーの続きを無心で齧り 腹に入れた……。
…………。
「 まあ。ああは言ったけどよ。
俺もわかるんだぜ ?
毎日の忙しさに 忙殺されれば ?
どんなに 楽しい仕事だって、興味を注ぐポイントが変わっていくもんだ。
それにしても……、それを別にしてもだ……。
気に成らないか ?
後、何カ月かすれば……。19年になるな……。
過去の大災害で 現れた怪人達が、生き物なのかすら未だに公にされちゃいない。
皆とっくに 新鮮味を無くして 慣れちまったけど、
あいつらが 特異な能力を持ってる事には 変わりは無いんだ……。
怪人エイオス……。
手始めに 名前が付けば……。
なんとなく、わかった気に成っちまよな。
ほんで、どんな脅威も 誰かが対処してくれる事が わかれば慣れちまう。
警報がなったら……。避難するのも、皆 すっかり慣れてる感じだ。
けど、謎の怪人とも 対等に戦える手段を持っている企業について……。
守ってもらっている身では有るが、俺は気に成っちまうね。 」
…………。
巻健司……。日常的に掴みどころのない人物……。青年からの印象はこうだ……。
そんな人物が、珍しく真面目な様子を覗かせる。
青年は、租借を繰り返す中で考えを巡らせた……。
確かに……。一理ある……。
当たり前の ように 今日まで戦っているが、アルバチャスとは……。エイオスとは……。何なのだろう……。
……ブリトーを 完食して、更に考えを巡らせた。
そもそも あの日、初めて戦った夕日の綺麗な あの日……。
得体のしれない筈の自分の存在を、APCは快く受け入れた。
しかも、自分が あの日以降から使用している端末は何故、他に使用できる者がいないのか……。気に成る点は少なくない。
巻健司は、青年が無心で聞き入る気配を感じ取ったようで……。
モニターに視線を移して更に続けた。
…………。
「 なあ要人……。
こんな噂を 聞いた事あるか ?
あまり……。大きい声では言えないが……。
過去の大災害は 大規模な軍事実験で……。 」
「 エイオスが、その時に脱走した生物兵器だった……。
……ありましたね そんなのも。
今どき 信じる人なんていませんよ。
もしかして巻さん。日樹田の七不思議とか ?
いろいろ話のネタ集めてるんですか ?
都市伝説 好きな 胡散臭いオッサンが、食堂で働いてるって噂に成ってますよ ?
巻さんて、意外とピュアな タイプなんですね ? 」
…………。
途中までは……。真面目に、巻健司の話を聴き入っていた 青年だったが……。
巻健司が、得意気に話す都市伝説によって……。肩の力が抜けてしまう。
……漂った真偽の不確実さを値踏みして、より身近な話題へとシフトさせた。
…………。
「 俺は……。
都市伝説よりも 楽しい食堂での時間が最近のハイライトですかね。
真尋ちゃん 素敵ですよね。 」
「 ……要人。
お前って実は、ムッツリ系の野獣 だったんだな。
たぶん一番嫌われるぞ そういうの。
あの日の雄姿も 霞む ギャップ萎えも 良いところだろ。
……てか。たぶん無理だぞ ?
前も話しただろ。真尋ちゃんは お前の所の班長の方が……。 」
…………。
巻健司は、砕けた雑談の途中で……。
青年の方へと視線を戻すが、ある事象で面を食らい言葉を詰まらせてしまう。
青年 有馬要人は、巻健司の様子にも気にするでもなく 反論を述べる……。
…………。
「 野獣だなんて……。随分 酷い言い回ししますね。
全然、年相応の健康な感覚でしょうが。
それに、俺の好意は最近芽生えたものなんで、
あの日は 純粋な気持ちで たたか……人助けしただけですよ ?
前も言いましたけど……。 真尋ちゃんとの再開は偶然で、これから 少しずつ時間をかけて関係を作ろうと……。
……巻さん どうしました ? 」
…………。
青年は、大真面目な表情で 反応を鈍らせている 巻健司に視線を合わせる。
ニヒルなミドルの反応は 意外なもので……。巻健司は、笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。
…………。
「 ブハハハハ !!!!
マジか !? マジなのか要人 !!
何歳だ お前 !!
今なら、成功するぞ 行ってこい !! 」
…………。
巻健司は、直ぐに 自身のスマートフォンで 青年も無自覚な その原因を写真に収める……。
程なくして……。
有馬要人が、所持する 専用端末に何かが受信された。
A-deviceには、巻健司から デジタル写真が送信されており……。その反応の由来を知る事が出来た……。
有馬要人の 鼻や口の周りが、ブリトーのソースで見事に彩られていたのだ。
青年は、自分自身が映るデジタル写真で……。初めて 事の 恥ずかしさを自認する。
あまりの羞恥心から、トイレを目指して足早に走り去った……。
…………。
……。
青年が 駆けて行ってから、少し経過すると……。
ニューヒキダに 怪人の襲来を知らせる 警報が鳴った。
…………。
『 緊急速報です。 C-02 地区にエイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 C-02 地区にエイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
現在、APCの実動班が対処に向かっております。大変危険ですので…… 』
………………。
…………。
……。
~旧知の積算~
有馬要人が、緊急警報に反応する数時間前……。
APCの 特務開発部に在籍する人物は……。普段通りに自身のパソコンで業務を行う。
天瀬十一は、出勤者が少ない A.B.C.S開発課で 黙々と 自身の業務に向き合う……。
普段は賑やかな デスク周辺には 殆ど人がいない。
それもそのはずで……。
マーヘレス打倒 以降は それ以前の、業務から続いた激務の影響も有り……。
交代で溜まっている有給休暇の申請が進められていたのだ。
Dual Function Systemの構築やらで……。疲れも有休も溜まっていた各職員には都合の良い日だったのだ……。
この日は……。ニューヒキダの どこに行っても行われている イベントや、キャンペーンも重なる祝日である。
APCの特務も最低限の人員を残す程度だった。
…………。
……。
白衣の青年 天瀬十一は、パソコンのディスプレイを眺めながら 淡々とキーボードを叩く。
パソコンと 接続された 1つの deviceの設定を進めていった。
これは……。以前、神地聖正から 渡された A-deviceである。
2時間以上……。ひたすら、集中力を高めて作業を進めた……。
少しだけ休憩を挟もうと思い立ち……。パソコンをスリープモードに切り替える。
パソコンに接続されている A-deviceを 白衣の内ポケットに しまい込むと、自信のデスクを後にした。
…………。
……。
特務棟のバルコニーで、風を感じ珈琲を飲んでいると……。
眼下には……。祝日にも関わらず、熱心に訓練に励む何人かの実動班員が見える。
なんとなく 視界の中心に入れるが、今日はもう例の青年は居ないようだ。
ある意味では規格外の、あの青年には謎が多い……。
誰も適合しなかったアルバチャス。code-0-を使いこなし、その後も次々と戦果を上げていく。
最近では……。
四目の皇帝と呼称された、特殊な怪人を打倒して見せた。
細かい点を上げれば快勝では無いし、むしろ満身創痍の辛勝ではあるものの……。
この街の英雄と呼ばれた code-7-だけでは絶対に無しえない功績だろう。
…………。
……。
四半世紀と 数年しか生きてはいないが……。
偶に ああいった想像超える 逸脱した人間が存在する事を経験則として実感している。
あの青年を除けば、真っ先に列挙出来るのは 1人……。いや……。 2人だろう。
そういう人間は惹かれ合うのか、自然と互いに近い世界に集約されていく。
だが、不思議と嫌な気はしない……。
勝手に ステージを変えてくれるのなら、身近で変な気に成らないで済む……。
ステージや世界が変わるだけで、精神的に健全な状態を取り戻せる。
だが、一度だけ自分から……。
それを変えた事が有った。……今更、後悔は無い。
…………。
……。
白衣の青年は、飲み残した珈琲の冷めた分を片付けてから、特務開発部の自身のデスクに戻っていった。
デスクに戻ると 見慣れた人影が待っていた。
坊主頭で、眉が太い友人が……。待っていたようだ……。
何の用事か心当たりは無かったが、いつものように話しかけてくる。
…………。
「 祝日なのに、仕事か ?
いつもハードワークだな 十一。 」
「 空護には負けるよ。
今も訓練 終わりだろ。どうしたの ? 」
…………。
白衣の青年は、普段よりも 控えめな心持ちを 隠しながら、応答する。
坊主頭の青年は、少し困った様子で本題に入った。
…………。
「 実は……。
近々、特務開発部と実動班で 合同の食事会を開く話が班の中で発案されたんだ。
俺は開発部も多忙だから、そういうのは反対したんだが……。
有馬を 中心に多数が賛成派でな。
俺よりも、こういう話はお前の方が 上手く考えられるだろ ?
相談に乗ってくれないか ? 」
「 ……仕方ないな。
もう少し 詳しく教えてくれるかい ? 」
…………。
まるで、得意と不得意を完全に知った気で、割り切った風な清々しさを持つ旧友だ……。
何かが馬鹿馬鹿しくなる。
天瀬十一は、出来る限り普段通りに務めて 目に見える貧乏くじを引く。
…………。
……。
1時間以上は話しただろうか……。
旧友が持ってきた話が 輪郭を帯びる頃、例の怪人の出現を知らせる警報が鳴った。
…………。
『 緊急速報です。 C-02 地区にエイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 C-02 地区にエイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
現在、APCの実動班が対処に向かっております。大変危険ですので…… 』
…………。
丹内空護は、警報の後のアナウンスが 一言目を言い終えるよりも 早く 走り出す……。
天瀬十一は、旧友の 後ろ姿を見送った……。
そして、白衣の内ポケットから -16-とナンバリングされた A-deviceを取り出す。
電源こそ ONに成ってはいるが……。
アラートが同期されていない端末には、今回の怪人の出現を知らせる通知は届かない。
…………。
「 勝利の王と破滅の塔か……。 」
…………。
高い位置の太陽が、APCの特務棟の影を色濃く伸ばし始める。
………………。
…………。
……。
~潜む輪郭~
C-02 地区にはビル群や商業施設は少ないものの、この地域で唯一の大きな鉄橋が有る。
橋の主塔は地域のシンボルに成るほど立派なもので……。
ケーブルが 綺麗な流線型を作って 橋の上空を縁取っている。
鉄橋の名称は、ヒキダ・ブリッジ……。
この鉄橋は、2層構造を特徴として持つ。
下層には電車が……。上層には車や歩行者が通れるような道路が伸びている……。
ヒキダ・ブリッジは、今年に入ってから改修工事を行う期間に差し掛かっていた事で、近くには誰も居ないようだった。
祝日には 補修を任されている業者すらもいない……。
ブリッジの上層に、code-0-を起動した状態の青年が到着した……。
…………。
「 良かった。誰もいない。
けどエイオスは……。
……あれ ?
また特務との通信が切れた……。 」
…………。
救助対象が見当たらない様子や……。
破損箇所も 未だ見受けられない状況に安堵の声を漏らす。
……一方で、不調な索敵機能の影響からか、位置の把握が困難なエイオスの姿を目視で探した。
青年 有馬要人が、警戒を強めると……。ある異変と共に何者かの声が聞こえた……。
…………。
「 得意の曲芸で杖にでも乗らなければ空も飛べないか ?
…………難儀だな。人間は。 」
「 黒と白の……羽根 ? 」
…………。
青年の目の前を、何かが上下に通過した。
2種類の羽根……。黒色の羽根と、白色の羽根だった……。
羽根は、地面に触れる前に青白い光へと変わり霧散する。
青年は、声の発された方角へと 視界を移す。
そこには、黒い翼の怪人と……。白い翼の怪人が……。中空に存在し……。ゆっくりと青年の数メートル前方に降り立つ。
黒い翼の怪人は、低い声と落ち着いた早さで 自己紹介を行う……。
…………。
「 人間の戦士……。
名をアルバチャスと言ったな。
黒翼の我はドゥークラ……。
白翼の其はナティファー……。
我らは 至る道の徒……。
汝らが戦った マーヘレスとも類似の存在だ。 」
…………。
青年は最初こそ 出方を静かに伺うが……。
……悪戦苦闘して、日も浅い 皇帝の名前が出た瞬間から 思わず気を引き締めた。
黒い翼の男型の 外見的特徴を持つ怪人……。ドゥークラ……。
間違いなく 只ものでは無い……。
いつ 戦いが始まっても良いように、腰部側面の走行機能のセンサーと、武装機能のセンサーに神経を向けた。
有馬要人から、滲む敵意に気が付いたのだろうか……。
黒翼の怪人ドゥークラは更に話を続けた……。
それに引き換え……。
白翼を抱き 女型の特徴を持つ怪人は、未だに沈黙しており……。
ドゥークラの流暢な口ぶりが益々、緊張感のある空気を生み出していく。
…………。
「 そう構えるな。
戦いに来たわけじゃない。
汝は文字通りの愚か者では無いだろう ? 」
…………。
青年は、半信半疑だったが……。
黒翼の怪人が 内に秘める何かを、引きずり出そうと考えて 疑問を投げる。
…………。
「 ……至る道 ?
お前達の目的はなんだ ? 」
…………。
期待こそ してはいなかったが……。ドゥークラからの返答は 青年にとって、納得のいく内容では無かった。
…………。
「 我らは只の使い……。
まずは、汝の全てを我に見せろ。 」
…………。
ドゥークラは、朧気な言葉を結ぶ。
そして、青年の直ぐ目の前に瞬時に移動すると、片方の掌を code-0-の頭上 目掛けて伸ばした。
謎の多い黒翼の怪人が行った行動に……。
有馬要人は、底知れない何かを感じ取り 反射的に身体を動かす……。
ドゥークラの 掌を、自身の手で乱雑な反時計回りに振り払う。
これと ほぼ同時に、反対側の手で……。滑走機能 Hover Chaserも発動させた……。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
…………。
有馬要人は 姿勢を変えずに、ドゥークラとの距離を後方に数歩分取った……。
そこから 滑走機能を発動させた側と 反対の手……。
今、黒翼の怪人の片手を 払った方の手で、流れる様に武装機能を動作させる。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Sword !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ソード !! ) 』
…………。
黒翼の怪人 ドゥークラが、漂わせる仄暗い余裕が 青年の判断を焦らせる……。
青年は、自分自身の焦燥感に気が付かないまま……。
……刀剣型の武器を片手に 握り、俊敏な動きで剣撃を仕掛けていった。
有馬要人が 行った鋭い剣撃は、ドゥークラには通じない。
実動班での訓練や、実戦で培った立ち回りも 見切られているらしく……。
黒翼の怪人は、素手のみで対処しては殴打による反撃を決めた。
ドゥークラの繰り出す打撃は……。
3発程度だが、全てが重い……。重機で突進されたかのような……。振動が愚者のアルバチャスを揺らす……。
……特に 3発目は、青年が 滑走機能を使わずに後ずさる程の衝撃だった。
黒翼の怪人が、またも無感情で声を発する……。
…………。
「 ……正当防衛だ。
汝もまた、会話の出来ない類いか ? 」
…………。
抑揚のない、低く単調な声……。
有馬要人は 目の前の怪人が、マーヘレスと近しい存在ならば、戦いを ためらう余地は無い……。
現時点での答えを導き出す……。
今は……。自信の判断に従う……。
数日前の戦いから 日も浅く……。
小康状態の身体に 負担も大きいが、特務開発部から託された機能を動作させようと、腰部側面のセンサーに手を伸ばした。
…………。
「 戦いに来たわけじゃない……。
そう言ってたな ?それから、全てを見せろ ?
望み通りに見せてやる。
お前達みたいな怪人を相手に……。今の俺が出来る全てを !! 」
…………。
黒翼の怪人は、アルバチャスの手の内を知っている様子で……。
青年の予備動作に気が付いたような動きで、青白い光を集約させると ラッパのような物を空間から取り出す。
…………。
「 所詮は贋作……。
言葉を交わす頭を持たないか……。
汝、愚者にも 劣るのならば神罰を……。 」
…………。
ドゥークラがラッパを握り、何かを掻き立てる神聖な曲を奏でる。
演奏と共鳴するように、黒い翼から抜け落ちた羽根が 多方面から飛び交う……。
飛び交う黒い羽根は、青年に襲い掛かった。
黒い羽根が 1枚ぶつかる度に、その箇所で爆発が起こった。
code-0-のアルバチャスは、武装機能を動作出来ない程に怯み、直立したまま痛手を受ける……。
黒い羽根は……。ラッパの音色に併せるように 立体的な軌道で飛来する……。
上空や 後方等……。
前面以外からも同時に……。何枚もの羽根が、赤と黄色のアルバチャスを目掛けて飛び交う……。
羽根による爆発は、その場からの離脱すら許さない。
…………。
……。
青年に襲い掛かる脅威は、それだけで留まる事は無かった……。
…………。
……。
有馬要人の耳には……。
何故か 爆発音よりも、ドゥークラが奏でているで あろう旋律だけが届き、精神を直接 消耗させた。
どれだけ時間が経ったか曖昧だが……。
平衡感覚を失う程に、精神をすり減らす。……直接精神を 何かで磨り潰されるような 直観的な苦痛だった。
黒い羽根による襲撃もラッパの旋律も止まない……。
青年は、自身でも気づかないまま 悲痛な声を上げていた。
…………。
……。
ドゥークラが演奏を続けていると、ラッパを持つ手に 精密な掃射が断続的に加えられる……。
遠方から、白い鎧のアルバチャスが精度の高いスラローム射撃を行っていたのだ……。
…………。
「 しっかりしろ !!有馬 !! 」
…………。
愚者のアルバチャスは、幅の広い 鉄橋の上の道路の真ん中で、絶え間ない爆発に包まれていたが……。
やっと、黒翼の怪人の攻撃から解放される。
青年は、意識こそ失っていないが……。
激しく消耗し……。膝から崩れるように倒れて、アルバチャスを解除してしまう。
姿勢は うつ伏せで……。突っ伏したまま……。
有馬要人の 霞む視界には、戦馬車のアルバチャスの雄姿が映った。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
…………。
丹内空護は、黒翼の怪人への射撃を緩めない。
B.A.Cupの銃口を向けたまま……。新たに B.A.Swordを展開し、滑走によるスラローム射撃も継続した……。
2体の怪人に接近すると、それぞれに 一閃ずつ 切り付けて すれ違う……。
最も青年に近い位置に直立する黒翼の怪人を横切った瞬間……。
進行方向は変えずに、身体の向きだけを 滑らかに半回転させる。
有馬要人を背にして、2体の怪人に対峙する姿勢を整えた。戦馬車のアルバチャスが愚者を護る盾のように立ちはだかったのだ……。
2体の怪人への弾幕は決して緩めない……。
丹内空護が 有馬要人へ呼びかける。
…………。
「 立て !!有馬 !!
今の お前の実力は、こんなもんじゃないだろ ? 」
…………。
青年 有馬要人は、発破と激励によって、少しずつ 頭の中の靄を払う。
……意識を固めて、地面に拳をついて起き上がった。
有馬要人の身なりは、いつの日かのように ボロボロに成っているが……。
外見とは対照的に強い心で戦意を取り戻している……。
…………。
「 ……あと 1秒。
あと 1秒……。遅かったら危なかったですよ。
けど、ありがとうございます 空護さん。
……助かりました。
気を付けてください。黒い方は かなりの手練れです。
マーヘレスの 仲間っぽいですけど、至近距離でも打撃が強くて、中遠距離も得意な厄介な奴です。
白い方は 未だに実力も謎ですが、
恐らく どちらもマーヘレスと同等か、それ以上のエイオスかもしれません。 」
「 そうみたいだな……。
だが、2対 2だ。
Dual Functionで 一気に叩くぞ。 」
「 了解です。 」
…………。
有馬要人と 丹内空護は、互いに決意を交わす。
そして、目の前の 翼を持つ怪人との戦いを 終わらせようと、意思を強固にした。
愚者の青年が、戦意の復活を声に乗せる……。
…………。
「 起動 !! 」
『 Arbachas code-0- !! The Stupid Function !!
( アルバチャス コード ゼロ !! ストゥピッド ファンクション !! ) 』
…………。
ボロボロだった青年が、再び A-deviceによって姿を変える。
黒翼の怪人は、2人の戦士の様子を 傍観して 不敵に言葉を紡いだ。
…………。
「 ……存外しぶとい。
マーヘレスが手こずる筈だ。
戦馬車が加われば、どう変わるか見せて貰うとしよう。 」
…………。
ドゥークラは人知れず 今から行う趣向を取り決める……。
戦馬車からの銃撃を、自身の翼で 即座に振り払った。
抗戦の用意が出来ている合図を、片手で送り挑発してみせる。
白翼を持つ女型の怪人ナティファーは、未だに無感情に立ち尽くし指示を待っているようだった。
黒翼の怪人が、ラッパの旋律を奏でると……。
再び、尽きる事のない無数の黒い羽根が周囲を飛び交った……。
戦馬車のアルバチャスは、ドゥークラのラッパを狙い B.A.Cupによる銃射撃を集中させる。
しかし、先程とは異なり 1秒も怯まない……。
…………。
「 なるほどな。さっきのはブラフか。
ならば !!B.A.Swordで !!
有馬 !!俺に続け !! 」
「 了解。 」
…………。
この様子から、近接戦闘へと切り替えようと滑走機能による急接近を試みる……。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Sword !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ソード !! ) 』
『 Barrage Armed !! Function !! Sword !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ソード !! ) 』
…………。
青年 有馬要人も、即座に B.A.Swordを展開して、同様に滑走機能で距離を詰めていった。
2人は、無数の黒い羽根を かいくぐって進んでいく……。
自分達の身体に着弾するよりも前に切り落としながら疾駆した……。
丹内空護に至っては……。
銃射撃が 得意なだけは有り、B.A.Cupでも黒い羽根への攻撃を行う……。
1枚に数発ずつ 連続で命中させては、2人にとっての死角を 飛翔する羽根を撃ち落としている。
…………。
……。
黒翼の怪人……。ドゥークラが ポツリと 所見を述べた……。
2人の人間の戦士が、多角的に飛び交う 無数の黒い羽根を、怯まずに切り払い……。
そして、撃ち落として進む様子から、何かを感じ取ったのだろうか。
演奏は取りやめられたが……。
既に飛翔している状態の羽根は依然として猛威を振るい続けた。
…………。
「 こちらも 再起不能には至らないか……。
敗者の復活……。ここから、どこまでの結果を見せるのか。
……ナティファー、よく見ておけ。 」
…………。
ドゥークラは、初めて 白翼の怪人へと具体的な指示を出す。
そして、自ら赴いて 2人のアルバチャスに 徒手格闘での、接近戦を仕掛けていく……。
…………。
……。
丹内空護は、自身のアルバチャスの硬く頑丈な鎧や盾を活かして 安定した一撃を繰り出して見せる。
実直な戦い方を基調にして B.A.Swordと B.A.Cupによる隙が少ない戦い方だ……。
それとは逆に……。
有馬要人は、B.A.Swordのみで戦いを組み立てるが、軽い身のこなしは 神出鬼没の鋭い遊撃が目立つ……。
まるで……。
2人の動きは……。
重戦車が歩兵を守り戦線を維持し……。歩兵が重戦車に不可能な手段で強襲を仕掛けるように……。
……互いが互いをフォローして戦った。
2人の アルバチャスが、勝利の流れを掴みとろうとして 何度目かの武装機能を動作させた。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
…………。
有馬要人は、護符の恩恵を注いだ エネルギーを纏った刀剣を構える……。
丹内空護は、必殺の一撃となる 強力なエネルギー弾を 静かにチャージしていく……。
…………。
……。
黒翼の怪人ドゥークラは 軽く両腕を広げて その場に留まった……。
2人の戦士の 渾身の一撃の前兆を目の当たりにしても、行動を変える事は無い。
……むしろ、よく狙えと言わんばかりの 様子で 微動だにしない。
…………。
……。
愚者のアルバチャスが、高密度なエネルギーを集約させた B.A.Swordで……。
素早い斬撃を、右から左へ一閃、左から右へ一閃 切り込んで……。速やかに後方へ滑走機能で離脱する……。
戦馬車のアルバチャスは、現在可能な 最大限度の密度を持つ エネルギー弾を 1発 充填し……。
青年が離脱するタイミングを見越して……。すれ違うようなタイミングで、弾丸を ドゥークラに着弾させた……。
…………。
……。
2人の渾身の連携は……。
これまでの集大成を感じさせる、強力無比な破壊力を生みだす。
特大のエネルギー弾が着弾すると、エイオスを打倒するには充分な爆発が起こった。
だが……。
…………。
……。
爆発は、映像を巻き戻すように 鎮静化していく……。
膨大な爆発エネルギーは……。
ドゥークラの周囲で 漂い浮かぶ、曇天のような黒雲に吸い込まれていった。
……爆発の余波すらも 完全に吸い尽くすと、何事も無かったように無傷の姿で黒翼の怪人ドゥークラが 語り始める。
白翼の怪人も変わらず立ち尽くし。こちらも無傷だった。
…………。
「 汝ら……。
なかなかの実力を持っている。
代理の贋作にしては上等だ。だが……。我にすら 未だ遥かに及ばない。
これは啓示だ。
良い知らせか 悪い知らせか、マーヘレスは今も尚 健在だ。
汝らの言葉で例えるならば……。22災害。
少なくとも、当時と同等の規模での戦いが近いだろう。
……これから先、どんな選択と 顛末を迎えるのか見ているぞ。 」
…………。
2人のアルバチャスからすれば、自分達の最大限の攻勢にも、ものともしない未知の存在……。
これに加えて、あれ程 苦戦した四目の皇帝との再戦……。
そして、口伝でしか情報の無い過去の大災害が再発する知らせ……。
どれを切り取っても……。
2人のアルバチャスの精神に 絶大な衝撃を与える。
…………。
青年 有馬要人は、エイオスに対する疑問をぶつけた……。
…………。
「 お前達は……何者なんだ !?
何故こんな……。
いや……。
何をしようとしているんだ ? 」
「 我らは只の使い……。
全ては汝らの望みだ。行き詰る事なかれ。 」
…………。
青年は、思考を無理矢理まとめて言葉を絞るが、明確な形を作るには不足な部分が多すぎる返答しか得られなかった……。
丹内空護から見ても、情報の時系列や正誤の混同等、情報が不足しすぎている事しか断定づけられない……。
…………。
……。
だというのに……。黒翼の怪人は、多くの疑問を残し……。
幾つかの 大きな課題を残す……。
…………。
「 確かに伝えたぞ。人間よ……。刻限は近づいている。
これは天啓に至る汝らへの贈り物だ。 」
…………。
ドゥークラは ピップコートを、10体召喚して見せた。
単眼の爬虫類が直立したような 目撃例の多いピップコートと呼称される怪人は、2人のアルバチャスに無感情に向かってくる。
愚者と戦馬車は、この 10体の新手に即座に対処せざるを得なくなってしまう……。
ドゥークラは、果敢に戦う様子を数秒程、見届けた後……。ナティファーを伴い青白い光となって跡形も無く霧散した。
…………。
……。
2人のアルバチャスには、まだ底力は残っているようで新手との戦いの中で 相互の意見を交わす……。
先に口を開いたのは、愚者のアルバチャス……。有馬要人だった。
…………。
「 空護さん。今の 黒い翼の怪人……。 」
「 ああ。
まだまだ、余力が有るだろうな。
もう 1体の方も手の内が知れない。 」
「 ……手強い相手に成りそうですね。 」
「 そうだな。だが今は……。
目の前のピップコートを掃討する。
直ぐに終わらせるぞ有馬 !! 」
「 了解。 」
…………。
10体のピップコートを相手に 乱戦を繰り広げ……。時間の経過と共に怪人達は 爆散していった……。
………………。
…………。
……。
…………。
……。
神地聖正は、社長室のモニター越しに、一連の戦いを観測していた……。
同様に……。
モニター越しに観測していた人物……。天瀬十一に、話しかける。
…………。
社長室の 2人が幾つかの言葉を交わし……。
数分が経過している間に モニターの向こうでは、アルバチャス達が 10体ピップコートを容易に掃討した。
神地聖正が、天瀬十一に 聞かせた数々の事象は……。
戦況の確認が後回しになる程の内容だった。
…………。
「 これが……。私の知りうる事実だ。
君の父、天瀬慎一(アマセ シンイチ)も知っている筈だが、
過去を 君に教えないのは、彼が裏で良からぬ事を企てている証なのだろう。 」
…………。
C.E.Oのデスクには何枚かのタロットカードが並べられていた。
………………。
…………。
……。
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