- 06話 -
逆位置、正位置
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目次
~阻むため穿つため~
地方都市ニューヒキダ……。
商業施設が密集する K-02 地区の広場には……。
四目の皇帝と、ピップコートと呼称される数体の怪人を相手に……。
……2人のアルバチャスが 敗北から立ち上がり、対峙していた。
…………。
……。
今日この日から数日前……。
…………。
……。
code-0-のアルバチャス……。有馬要人(アリマ カナト)……。
code-7-のアルバチャス……。丹内空護(タンナイ クウゴ)……。
2人は、特務開発部と同じ階に在る、ミーティングルームに訪れていた。
これは、日を追うごとに 敗戦での傷を癒し、徒手格闘による組み手を 日常としていた合間の出来事……。
白衣の青年 天瀬十一(アマセ トオイチ)から、朗報が有ったのだ……。
そういった事前の連絡を受けており……。
戦馬車のアルバチャスとして 戦ってきた 男は、どこか期待を膨らませているようだ。
…………。
ミーティングルームには、白衣を着た人物が 2人……。
白衣の青年の方は、特務開発部内の A.B.C.S開発課に所属する天瀬十一……。
白衣が似合う 女性の方は、A.O’s(エイオス)研究課に所属し特務開発部部長の補佐役も兼任する人物……。
夢川結衣(ユメカワ ユイ)である。
それぞれに、業務用の端末を携えて 2人のアルバチャスに 朗報を伝える用意をしてきているようだった。
白衣の青年は、有馬要人と 丹内空護が 揃った事を認識すると、室内の モニターを見ながら 早速 話し始める。
モニターには タブレット端末の映像が映し出されているようだ。
…………。
「 2人とも、だいぶ傷も癒えたようだね。
安心したよ。
今日は、2人に共有したい事が有って来てもらったんだ。 」
…………。
白衣の青年は、簡単に前口上を述べる……。
本題に向けた情報整理を前提として出しつつ、順序立てて話を進めていった。
…………。
「 空護や、有馬 君は……。
専用の systemが プログラムされた端末を 使用して、アルバチャスとして戦う訳だけど……。
結論から話すと 出力強化は現在でも非常に難しい。
……というか不可能に近い。
その 専用端末 A-device(エー デバイス)には、 それぞれに適用されている 専有 codeによる 出力強化が成されているんだ。
もちろん、これには理由が有って……。
簡単に言えば……。
今現在、2人が使っている状態こそが それぞれの強化形態みたいな状態だからなんだ。
Arcana Barrage Chase System……。
(アルカナ バラージ チェイス システム)
これは……。
専有 codeを割り当てていない、code-less-と呼ばれている基礎形態が元に有って……。
その基礎形態の上から、
専有 codeの情報を組み合わせる事で 性能の向上を図っているんだ。
そのお陰で……。影響力や効果が控えめな基本機能を底上げや、補填なんかをして……。
生身で戦うよりも、破格の 高い戦闘能力を実現しているって感じかな。 」
「 ……らしいな。
俺も code-less-での 戦闘試験や耐久試験は何度か受けた事が有る。
確かに code-7-を起動した時よりは、控えめな性能だったが……。
それに見合った 負担の軽さを覚えている。 」
…………。
天瀬十一が 説明する前提情報の整理に、丹内空護が 経験則を元にして付け加えた……。
2人の会話を聞いていた 青年は、今日の本題を待ちきれずに催促する。
こらえ性が無い 青年の反応に……。
夢川結衣は、本人も気が付かない程に小さく笑みを零す。
そして、天瀬十一に 目で合図を送ってから、今回の本題について丁寧に話していく……。
…………。
「 では……。
続きを 私の方から説明させて頂きます。
天瀬さんの お話にもあったように……。
code-7-にしても、code-0-にしても 既に強化された状態なわけです。
現状から 更なる強化を考える……。
これは、もはや完全に新しい codeの開発に等しい……。
単純な出力強化が 難しい理由の大本が こういった理屈です。
それなら……。
今 以上に、現在の私達が例の怪人達 エイオスに対抗しうる手段は無いのか……。
……というと、そうでは有りません。
方法は幾つか有りますが……。
その中の 1つは既に行っていますね。
アルバチャスの性能を、より高い 水準で引きだす 要因に繋がるのは、自力の向上……。
つまり、お 2人が 最近励んでいる格闘訓練も効果的です。
ケガさえ しなければ、今後も 続けて損は無いでしょう……。
経験はの積算は、多くの差異を 埋める、希少で 着実な手段ですから。
そしてもう 1つが、今回の本題に成ります。
端的に言えば……。アルバチャスの基本武装の強化です。 」
「 ……んん ??
さっきは、新規の開発に近いから 強化は不可能に近いって話だったんじゃ……。 」
…………。
青年は、夢川結衣の言葉に疑問符を浮かべる。
先程までの 天瀬十一の話しと 反する印象の内容を耳にしたからだ……。
有馬要人 程では 無いものの、丹内空護も 本題の続きが気に成るようだった。
言葉は発さずとも腕を組み次の説明を心待ちにする。
まだ完全に要領を得ない 2人の反応に 答えるように、白衣の似合う女性が 本題について話を進めていく……。
ミーティングルーム内の モニターの情報が、具体的な説明の記載された情報へと切り替わった。
視覚的にも情報を整理しやすいように、夢川結衣が タブレット端末を操作しようだ……。
夢川結衣は、モニターに映されている データ資料について 解説を始める……。
…………。
「 厳密には……。
元々の 設計を 利用した増設です。
技術的な話に成ると難解なので、
便宜上 強化という表現を使わせて頂きました。では、本題に入りますね。
アルバチャスにとっての 基本武装の 1つ……。
Barrage Armed……。
(バラージアームド)
今回の本題に関わる武装がこれです。
御存じかと 思われますが、腰部側面のセンサーから起動し……。
状況に合わせて 使い分ける、アルバチャスの代表的な武装機能ですね。
起動後には、4種類のホログラムが出現するので……。
その中から 3種類の武器と 1種類の限定的な 出力強化の恩恵の いずれかを選択する。
これまでは……。
4種類の恩恵の中から 1種類ずつしか 発動出来なかったので、
状況に合わせて 使い分けるのが 大前提でした。
ですが……。
技術的な部分を掻い摘んで言うのなら……。
システム内の 既存のセクションを増設する事で、
同時に 2種類の併用が可能に成ります。 」
「 じゃあ……。
……えっと。
つまり これからは……。
例えば……。
B.A.Sword(ソード)と B.A.Cup(カップ)の同時利用も可能に成るって事か。 」
…………。
青年 有馬要人が、具体例を口に出しながら情報を飲みこむ。
天瀬十一は、解釈がズレないように補足を加えた。
…………。
「 併用できるのは武器だけじゃないよ……。
例えば……。そうだな……。
B.A.Swordの 使用時に、追加で B.A.Pentacle(ペンタクル)を使用すれば……。
身体能力や 出力の 一時的な強化に使われていた恩恵を、
B.A.Swordにも適用して、強力な斬撃も繰り出せる。
1度の発動で 永続的に……。とはいかないけど……。
どの武器を強化しても……。
文字通り 必殺の一撃に成りうる程に強力な筈さ。
有馬 君は B.A.Wand(ワンド)で似たような経験を既にしているから想像しやすいかもね。 」
「 ……あの時は、推奨されていない 危険な使用方法だ……。
そんな感じで 言ってませんでした ?
これからは 安全に使用出来るように成ったって事ですか ? 」
…………。
白衣の青年が 補足を終えると……。
その中にあった 1つの例題と、最も関りの強い 青年が、更なる疑問符を思い浮かべて質問した。
この質問は、想定されていたようで……。 モニターの映像を切り替えた 白衣の似合う女性が、回答する。
…………。
「 その通りです。
実は元々の開発記録を見ると、
アルバチャスの あらゆる機能を 併用して 使いこなす戦い方は、想定されて いないんです。
お 2人が、あたり前のように滑走機能を……。
Hover Chaser(ホバーチェイサー)を戦いに取り入れる事すら、本来の設計思想から外れているんですよ……。
当初の設計では……。
完全に移動だけに用いる想定が正規でした。
エイオスとの戦闘は、常に 状況の変化が 予見されていたんです。
ですので……。
車やバイクのような速度で、アグレッシブに動き回るには リスクが高いと思われたのでしょう。
常に開けた場所で戦えるとは限りませんからね。
ですが……。
今では戦闘時の間合い調整や立ち回りで、巧みに使いこなしています。
これは つまり、身体機能の動作補助があるとはいえ……。
生身の人間では 対応に難しい 旋回速度を、感覚的に見極めているという事です。
そこに気が付いた私達は……、
本来の設計では 安全基準を満たす為の 制限項目を中心に洗い直しました。
結果として、武装機能の拡張性に辿り着いたんです。 」
…………。
有馬要人と 丹内空護は、温度差こそあれど……。
意外な形の 強化方針と、その根拠に驚いた様子をみせた。
そんな 2人の様子に、天瀬十一が 説明を包括して、強化の背景での心情も吐露する。
…………。
「 実装してみると……。凄く単純な事なんだけどね。
有馬 君が以前、B.A.Wandと B.A.Pentacleを強引に併用したのも、
今回の件に関わっているんだよ……。
当時は、過負荷によって 有馬 君が爆発しないか……。
冷や冷やしてたんだけど……。
お陰で事象としては、不可能では無い事が 判明した実例に成ったんだよ。
だから、さっきも触れたけど……。
2人が 連日の徒手格闘なんかで、地道に基礎を積み重ねているのも大きな要因だね。
どんなに技術的に問題が無くても、使い こなせる者が いなければ意味がない。
俺達も安心して託すことが出来ないんだ……。
過去の 設計内容の洗い出しにしても……。
全ての 武装機能に行った 新たな安全基準の計算にしても……。
部内の人間 総出で行う程の作業量だった……。
でも、なんとか無事に仕上がったよ。
デバイスに 正式な適用を進めるのは……。
これからに 成るけど、上手く使いこなして雪辱を晴らしてほしい。 」
…………。
有馬要人と 丹内空護は、四目の皇帝への反撃を固く誓う……。
天瀬十一と 夢川結衣から、説明を受けた新たな可能性に強く励まされたのだ……。
特務開発部全体からの、最上級のエールを受けた。
いつか来る再戦の瞬間に備えて更なる戦闘訓練を繰り返し行った。
2人のアルバチャスは、この日 以降も 互いに拳をぶつける……。そして……。
…………。
……。
それから数日後……。
K-02 地区で 弧を描くような設計で商業施設が立ち並ぶ広場に……。
因縁の怪人マーヘレスが出現する。
…………。
……。
先に現着した code-7-のアルバチャス……。丹内空護は……。
マーヘレスの剣撃から 放たれた衝撃波を B.A.Swordで数秒間 受け止めた後に、
上空へ 受け流せるようになるまで 使いこなし……。
時間差で 現着した code-0-のアルバチャス……。有馬要人は……。
両手に携えた B.A.Cupと B.A.Wandによって、
スラローム射撃で牽制し マーヘレスを含む数体の怪人を爆風に包み込む……。
2人のアルバチャスの数週間ぶりの戦いが始まる。
………………。
…………。
……。
~1つの結果~
青年 有馬要人が放った掃射は……。
早くも数体の怪人を仕留めたようで、着弾時に綺麗な 青色の爆発が起こった。
B.A.Cupと B.A.Wandを用いた、
光弾と火球による 集弾性を意識した スラローム射撃の効果は確かに有ったようだ……。
少しの時間が経過すると、エイオス達を包んだ戦塵が少しずつ晴れていく……。
…………。
「 おのれ道化め……。 」
…………。
沈下していく粉塵から姿を現したのは……。
四目の皇帝として、APCから識別名で呼称される怪人マーヘレス……。
そして、ピップコートと呼称される直立した単眼の爬虫類のような怪人が 2体……。
これに加えて、今回 初めて目撃された 1体の新手の怪人 だった。
…………。
新手の怪人は、マーヘレスと類似の特徴を 幾つか併せ持ち、それでいて対照的な様相が目立つ。
身の丈程の 長剣を振り回す 四目の皇帝に比べれば小ぶりだが……。
アルバチャスが扱う B.A.Swordと 同程度の大きさの剣を持っており、頭部には歪な形だが冠を抱いている。
青年が 放ったスラローム射撃は、確かに 2体のピップコートを爆散させたのだが……。
マーヘレスは もちろん、歪な冠の新手には通用せず、残る 2体のピップコートすらも無傷だった。
歪な冠の新手は、ピップコートと同様に無感情に立ち尽くしている。
有馬要人が 行った先程の掃射は、恐らくこの怪人によって対処されたのだろう……。
粉塵が晴れる頃には片手に握られた剣を だらりと下ろしていた……。
謎の新手の功績を、マーヘレスが褒めたたえる……。
…………。
「 大儀であったな。
剣の王(ツルギノオウ)よ。 」
…………。
皇帝は、歪な冠の新手に簡単な礼を済ませる。
すると、最も近くに立つ人間の戦士……。戦馬車のアルバチャスへの攻撃命令を下達した。
歪な冠の新手は、無感情に code-7-との距離を詰めて切り結ぶ……。
マーヘレスは 自慢の長剣を地面に突き刺すと、code-7-と 歪な冠の新手の切り合いを傍観し、単なる娯楽として楽しんだ……。
これに、気を良くしたのか得意気に語りだす。
…………。
「 どうだ……?
戦馬車の戦士よ……。
余の従属 剣の王は、貴様より小柄でありながら手強いであろう ?
余が 従えるピップコートの中でも、選りすぐりの強者であり……。
最も 道に立つ者に近い従属の 1体だ。
先程は、迅速に現れては 余の剣を受け止め、受け流していたな…… ?
どんな勝算が有るのか知らぬが 精々楽しませよ。
戦馬車を関するなら、勝利の王を体現して見せるがいい。 」
…………。
マーへレスをもってして、剣の王と呼称されるエイオス……。
その剣技は……。
旋風のように素早く、変幻自在な太刀筋と確かな剣圧をあわせ持っていた。
幾度となく 太刀筋を変えて、荒々しく打ち付ける剣圧は 着実に、丹内空護の体力を奪う……。
剣の王の苛烈な太刀筋に、満悦気味なマーヘレスが 再度爆風に包まれた。
…………。
「 よくしゃべる奴だな お前。
隙ありだ……。
皇帝だか 王だか わからないけど……。
もっと 風格あるもんじゃないのか ?
指導者ってのはさ……。 」
…………。
青年は、牽制と挑発を交えた スラローム射撃を何発も加える……。
マーヘレスと、その近くで棒立ちしている 指示待ちの ピップコート 2体にも銃撃を浴びせた。
有馬要人は、更に挑発を続ける……。
…………。
「 見てるだけじゃ暇だろ ?
銃弾と、火の玉のお得セットだ ! 」
…………。
これまでの青年ならば……。
半ば、乱雑に掃射する所だが……。
今日 この日に備えて、銃射撃の訓練も念入りに行ったのだろう。
その軌跡が伺える集弾率の高い銃射撃は……。先程よりも激しい……。
マーヘレスと 2体の ピップコートを、長時間に渡って爆風に包んだ。
有馬要人は、銃射撃を行いながらも……。
剣の王と 激しい切り合いを 繰り広げる 丹内空護の勝利を信じて、得意の軽口を叩く……。
…………。
「 空護さーん !!
まだまだいけますよね ?
こっちは任せてくださーい !
空護さん のお陰で……。射撃も得意に成っちゃったんで。
邪魔はさせませんから。 」
…………。
相も変わらず、愚者のアルバチャスは……。
どこか飄々とした空気を漂わせる……。
戦馬車のアルバチャスは心地の良い怒りを覚えたのか……。
怒りの矛先は……。手っ取り早く、ある対象に向けられる……。
丹内空護が、目の前の剣の王からの一太刀を 真正面から受けとめると、鍔競り合いに持ち込んでいく。
力の限りに押し込むと……。剣の王は、押し込む力を利用して後方に飛び跳躍した。
この跳躍は……。愚者の青年に比べれば……。遥かに手ぬるい たった 1度の跳躍だった……。
丹内空護は、人知れず 声色だけで 極々 僅かに笑みをこぼす……。
…………。
「 ……隙を 見せたな ? 」
…………。
白色のアルバチャスが、反撃の瞬間を掴んだ……。
自身の腰部側面のセンサーから素早く、新たな切り札を動作させる。
…………。
『 Hover Chaser !! Function !!
( ホバー・チェイサー !! ファンクション!! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Sword Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ソード・ペンタクル !! ) 』
…………。
丹内空護は、剣の王が 後方に跳躍して体制を立て直すよりも早い速度で急接近した……。
剣の王は、未だに跳躍の後に 地面に着地できていない……。
そこへ、戦馬車が攻め込む……。
瞬間速度は凄まじく……。
素早い身のこなしで 丹内空護を圧倒した 歪な冠の王すらも反応に遅れる程だった。
推進力を活かしたままに、刀剣型武器 B.A.Swordを振りぬく……。
B.A.Pentacleの恩恵によって 強力なアルカナの光を纏った、強力な一閃……。
…………。
有馬要人のスラローム射撃も、丹内空護の疾風の如き斬撃も……。
確かに 2人の成長を 体現しているようだった……。
…………。
だが……。
これでも 安堵するにはまだ早いようで……。
一矢報いた 2人のアルバチャスに、四目の皇帝が予定調和の様子で声を上げる。
青年が行った 豪雨のような掃射によって、2体のピップコートは爆散したようだったのだが……。
……流石に、マーヘレスを 打倒するには及ばなかったようだった……。
これに加えて……。
剣の王も、未だ爆散するには至らず……。激しく損傷する程度に留まっていた……。
歪な冠の王は、満身創痍のようだが 突如として奇行に走る。
マーヘレスに向き直ると、自身の胸の裂溝に 剣の刃をあてがい、深々と切り付けたのだ……。
剣の王が 自らの身体を切り裂くと、開かれた裂溝からアルカナの光が溢れだし ある一点を目指す……。
光りが向かう一点は、マーヘレス であった……。
その アルカナの光は……。
余すことなく、黒山羊の意匠を持つ長剣に吸収される。
すると長剣から、底知れない強さを示すような……。
膨大な量のアルカナの光が噴出した。
…………。
皇帝 マーへレスは、心底感心しているような口ぶりで……。次の手段に移る。
…………。
「 よもや……。剣の王を降すとはな……。
実に見事。今度は直ぐに膝をつくなよ ?
マルクトの贋作共よ。 」
「 回りくどい話し方ばかりしやがって……。
お前が言う贋作に本気に成るなよ。 」
「 愚者の小僧……。安い挑発は慎め……。
自身の寿命を縮めたいのか ? 」
…………。
これまで以上に 鬼気迫るマーヘレス……。
それに気圧される事無く 軽口を返す青年 有馬要人……。
静かに呼吸を整えて機を見極める 丹内空護は……。
……それぞれに臨戦態勢を取った。
実を言うと……。2人のアルバチャスは……。
予期せずして、マーヘレスを 前後に挟み込める 位置取りをしており……。
数秒の間 三者三様に出方を探り合う。
先に動いたのは、マーヘレスの後方 背面側で構える 愚者のアルバチャス だった。
躊躇することなく、B.A.Cupと B.A.Wand 掃射を注ぎ込む……。
この機に……。
戦馬車のアルバチャスも、滑走機能で動き出す。
有馬要人の 射線上から 一時的に外れて、側面から間合いを詰めては B.A.Swordで 接近戦を仕掛けていく……。
丹内空護が 切り込む頃には、銃射撃は緩んでおり……。
2人のアルバチャスの連携による、緩急のある強襲を成功させた。
…………。
……。
マーヘレスは、ぐるりと身体を半回転させる……。
愚者が放った 何発目かの火球を、拳の甲で殴り落として 自身の身体に届く前に爆発させて見せた。
更に すかさず、火球を爆発させた方とは逆の手で……。
未だ地面に 刺したままだった 自慢の長剣の塚頭に 手をかざして力を込める。
マーへレスの長剣の塚頭には、神聖なアンクのような意匠が存在しており、これが 光りを強め始めた……。
…………。
「 流石、贋作共よ……。
こらえ性が無く品も無い。
皇の偉大な力を味わうがいい。 」
…………。
力を込められた塚頭のアンクから極大の光弾が飛び交った……。
光弾は禍々しい 金色の輝きを帯びており、マーヘレスの周囲に向けて放射状に放たれる。
丹内空護は、滑走と自信の装甲の盾を使い分けて致命打を避ける。
有馬要人も、即座に反応しては滑走により回避行動に移った……。
回避と防御に専念する アルバチャスを、マーへレスが嘲る(あざける)……。
…………。
「 動き回るのが得意なのだろう ?
……避けて見せよ。 」
…………。
マーヘレスは、冷淡な口ぶりで言葉を捨てた。
……と同時に、地面に刺さったままの長剣を即座に引き抜いて、
愚者のアルバチャスだけを狙うと 十字に切った剣撃の波動を飛ばした。
愚者のアルバチャスは……。鬼気迫る状況に、冷や汗を流す……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
青年は 反射的に 武装 systemを起動した。
空飛ぶ騎士との戦いで見せた、超速の推進力で前進し……。
……マーヘレスの剣撃と すれ違うようにして、急ごしらえの離脱を成功させる。
急ごしらえの離脱を成功させたものの……。
姿勢を崩した事で、低い体勢のまま 四目の皇帝の足元に飛び込んでいた。
青年は この時の勢いを利用して、B.A.Wandの塚頭を地面に突き刺す……。
すると……。
杖の先端から 立ち昇る、激しいエネルギーの放出が、継続的にマーヘレスの上体に浴びせられる……。
……そんな辺鄙な状況が整った。
マーヘレスの足元で、強力な攻撃エネルギーを放射し続ける 間欠泉のような 杖型武装を、地面に刺したまま……。
愚者の青年が、丹内空護に合図を送った。
…………。
「 ……何ぃ ?……いやっ !! ……よっし !!
狙い通りだ…… !!
空護さん 今 チャンスです !! 」
「 ヌウウウン !!
猪口才で……。愚かな道化め !!
余に何をした !! 」
…………。
偶然の事故か……。必然の作戦か……。
何かを企てようとした愚者は……。激情した四目の皇帝に蹴り飛ばされてしまう。
マーヘレスの上体は、目立った損傷こそ無いが……。
思いがけない 愚者による反撃を、全身で受けたせいなのか……。初めて痛手を受けているようにも見えた……。
一方で……。マーヘレスに蹴り飛ばされた 青年は……。
軽々と吹き飛ぶが、丹内空護に横抱きで受け止められて、どうにか立ち上がる。
……蹴り上げられた腹部には、重い痛覚が残っており 皇帝の一撃は足枷のように響き続けた。
…………。
「 ……ってぇ。
只の蹴りでこれか。……けど。 」
「 ああ、効いている。
Dual Functionなら勝機を見出せる。
いけるか ?有馬。 」
「 聞く必要ないでしょ。それ。 」
「 無理はするな。
援護を頼む……。 」
…………。
2人のアルバチャスは、互いに意志を確認すると 眼前の皇帝を打倒するべく。同時に 託された切り札を切った……。
…………。
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Cup Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! カップ・ペンタクル !! ) 』
『 Barrage Armed !! Dual Function !! Wand Pentacle !!
( バラージ・アームド !! デュアル・ファンクション !! ワンド・ペンタクル !! ) 』
…………。
2人の アルバチャスから 起動音が成る……。
有馬要人は、B.A.Cupによる無数の射撃を撃ち出し マーヘレスに集中攻撃を浴びせる……。
丹内空護は、B.A.Wandを推進力にして近づくと 打撃武器としての杖を振るい、強力な一撃を叩き込んだ……。
2人のアルバチャスによる、渾身の攻撃は確かにマーヘレスを捉えた。
皇帝の身体には亀裂が入る。
……しかし、皇帝の逆鱗がそれを良しとしない。
…………。
「 ヌゥアアアアアア !!
下衆な贋作共 !!
余の身体に……… !!何をした !! 」
…………。
四目の皇帝は、怒りのままに 自身の長剣から アルカナの光を爛々と輝かせる……。
……最も近い位置の code-7-の丹内空護を 殴打の 1つで遠方まで 吹き飛ばした。
虚を突かれた code-0-の有馬要人には……。剣撃の波動を飛ばしてから接近する……。
少し遅れて……。反射的に杜撰な回避行動に移ろうとした愚者だったが……。
……怒れる皇帝に片足を掴まれて、地面に叩きつけられてしまう。
戦馬車のアルバチャスは、遠くに吹き飛ばされた事で……。
愚者のアルバチャスは 片足を掴まれたまま 手痛い痛恨の反撃を貰い……。
それぞれに大きく消耗してしまった……。
2人のアルバチャスは、意識は残したまま アルバチャスを強制解除してしまう程の痛手で表情を歪ませる。
生身の状態に戻ってしまい、身じろぐ事にすら 痛みを覚えていた……。
荒ぶる皇帝の脅威が迫る……。
…………。
……。
マーへレスは 次の行動に移ろうとしする……。
だが、全身に走る亀裂が更に大きく裂傷を作った事で苦しみ、青年の片足を掴んでいた手を放してしまう。
…………。
「 グウウ !!ガアアア !!!
贋作如きがぁ…… !!!!
余は……!!
あまねくピップコートを束ねるの道の皇……!!!
マーへレスであるぞ……!!!
グギギギギギギギギィ……ガアアアアア……!!! 」
…………。
マーヘレスは……。
うめき声をあげたまま 数歩後退し……。
恨めしそうに 言葉を吐き出しては、長剣から青白い光の粒子を放出させて、そのまま姿を消していた。
…………。
その様は、エイオスが出現する時は逆の順序で……。マーヘレスの跡形すらも無い……。
有馬要人も 丹内空護も……。
等しく ボロボロで……。生傷が痛々しく快勝とは程遠いものだった……。
だが、確かにこの時……。自力で強者を 退けた大きな一歩だったのだ……。
…………。
「 …………。
消えた ?勝てたのか ?
空護さん 生きてます ? 」
「 よく無事だったな……。
……お前も。 」
「 ハハ……。空護さん……。
……どんな顔で言ってんですか ?それ。 」
「 お前こそ……。
……どんな姿勢で 言ってるんだ。 」
…………。
緊張感の抜けた 2人が、互いに安否を確認する。
………………。
…………。
……。
~近づく選択 表裏の空虚~
どこかに確かに存在する謎の洞では……。
青白い光が収束すると、人間と戦い 2度に渡って撤退を余儀なくされた 皇帝が姿を現す。
皇帝は 屈辱に濡れて……。
身体中には、ますます広がった亀裂から青白い光を噴出し弱り果てている。
謎の洞の窪地に 潤沢に満たされた青白い光を、少しずつ疎らに 取り込み……。
傷を癒し……。膝をつく……。
憤怒の皇帝に、後方から何者かが話しかける。
……この声は 低く落ち着いた声で、傷口に塩を塗るような 言葉選びをしているようにも聞こえた。
…………。
「 君主型が聞いて呆れる……。
強い意志で 支配し 権威を持とうとも、
横暴で未熟ならば 人に及ばず 従属を失う…………か。 」
…………。
手負いの皇帝マーヘレスは……。
自信の背後に立つ不躾で面白みのない声の招待に 直ぐに気が付く。
……地鳴りのように 迫力の有る声で怒りをあらわにした。
…………。
「 ……余を愚弄するか。
只の使い風情め。
生温い貴様ら如きが 皇帝を見損なえると思うな。 」
…………。
マーヘレスが振り返り 2体の怪人を視界に入れる。
22災害で 多大な被害を出し……。
多くの人間から畏怖された皇帝を相手にしても……。
物怖じせず 対等に話しかけた存在は……。
背中に 黒い翼を持ち……。腰には異様な形のラッパを ぶら下げている。
その怪人の斜め後方には、もう 1体の怪人が立っていた。
その怪人も背中に翼を持っていたが、黒翼の怪人とは異なる特徴を持ち、白翼の翼と全体的に 女型を思わせる特徴が目立つ。
黒翼の怪人が マーヘレスに淡々と言葉を返した。
…………。
「 如何にも……。
我らは只の使い……。
君主型とは異なる。 」
…………。
怒れる言葉も……。空を切るように手応えが感じられず、マーヘレスの鬱憤は更に膨れ上がる。
…………。
「 貴様らと 話したところで 何の面白みも無いわ。
だが……。良いだろう児戯は終わりだ。
次の攻勢で、文字通りに数多のピップコートと共に凱旋を果たしてやろう。
未熟さを 捨てて 完膚なきまでに支配する様を見せてくれるわ !! 」
…………。
マーヘレスは、片手に自慢の長剣を出現させて 力強く地面に突き刺す。
そして……。
光溜まり から、吸い上げたアルカナを 循環させるようにして……。
亀裂だらけの身体の全身から、闘気を 視覚化させるようにオーラを放った。
すると、謎の洞内の広大な窪地に漂う光溜まりの表面が、妖しく蠢く……。
妖しい蠢きには……。無数の何かが その存在を仄めかしていた……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
有馬要人と 丹内空護が、マーヘレスを退けてから数日……。
ニューヒキダの 復興にも多大な影響を与える企業……。
APCの一室 社長室では……。
C.E.Oである 神地聖正(カミチ キヨマサ)が、
自身のデスクで ある日の映像に目を通し、紅茶を楽しむ……。
映像には……。
APCが誇る 2人のアルバチャスが……。
新たな systemを駆使して、22災害で 被害の中心に成った怪人に対処している様子が映っていた。
この systemによって、これまでの脅威に 辛くも勝ち星を挙げた所で映像は止まり、映像を持ってきた人物が口を開く……。
…………。
その人物は白衣を着用している ある男性だった……。
…………。
「 以上が……。
新たな武装 systemの使用感と、その実戦結果に成ります。
ご覧の通り これまでは不可能だった、
Barrage Armedの 2種類 同時 使用も 問題は無さそうです……。
汎用性を考えれば……。
まだまだ、負荷の軽減や動作の短縮化等……。
調整の余地は有りますが、今後の Arbachasにとっては……。
標準的な 規格の 装備になるでしょう。 」
…………。
白衣の青年 天瀬十一は……。落ち着いた調子で、説明を済ませる。
C.E.Oの神地聖正が、紅茶を一口飲んでから反応を示す……。
…………。
「 Dual Function System……。
(デュアル ファンクション システム)
確か……。
そういった名前だったな……。
威力も汎用性も申し分無さそうだ。
よくここまで仕上げてくれた。流石だよ、やはり私が見込んだだけは有る。
だが、もう 1つ……。試したい事が有るんだが……。
……頼んでも良いかな ?十一 君……。 」
…………。
神地聖正は……。
簡単そうな物言いで、別の何かを付け加える。
そして、code-0-や code-7-とは異なる……。別の A-deviceを取り出す……。
神地聖正が、自身のデスクの収納から取り出した それの 背面には、code-16- と記載されていた。
…………。
C.E.Oは、要件を伝え終えると ティーカップを掴み、
口先に近づけてから目を瞑っては じっくりと紅茶の香りを楽しんでいる。
…………。
天瀬十一は、表情を変える事なく了承した。
更に幾つか 言葉を交わすと、渡された物を受け取って社長室を後にする……。
…………。
……。
物分かりの良い 白衣の好青年が 社長室から退室した後……。
神地聖正は、1つの計画書に目を通す……。
その計画書には、code-0-や code-7-とは異なる、複数の アルバチャスと思われる 設計案等が記載されている。
…………。
「 間もなくか……。
最も理想的な大アルカナ……遺物型の導入も近い。 」
…………。
ポツリと呟き、紅茶を口にゆっくりと含む。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
白衣の似合う 1人の女性が……。
この日も APCでの膨大な量のタスクを こなして、遅い時間の退勤を済ませる……。
女性は 特務開発部に努めており……。
普段は 22災害以降から出現した 怪人エイオス関する業務を主にしている……。
具体的には、個体別の情報解析や分析……。
それを元にした 自社で製作されている対策用の武装等での、有効な dataの選定……。
他にも必要に応じて、多岐に渡る業務をに携わっている……。
しかし……。
昨今、加速度的に新たな種類の怪人が散見されるようになった事と……。
22災害で目撃された 強力な個体の出現も確認され……。タスク量が日増しに増えていた……。
1日の頑張りは……。
目や肩や背中に感覚的に現れており……。自宅に帰る途中でもピリピリと疲労を知らせる……。
只 この日に関しては 連日と変わらず、
すっかり遅い時間になってしまったものの、大仕事を終えた達成感で充実感が膨らんでいた……。
というのも……。
それは 今日の日中の出来事なのだが……。特務開発部全体で取り組んだ業務が 1つの形に成り……。
Arbachasの新たな武装を無事に導入するに至ったからだ。
現状では 導入後の 誤作動も無さそうな点も、精神的に安心できる。
使用方法の説明も滞りなく終わったので、後は連日のように徒手格闘を行っている 2人を信じるだけだなのだ。
きっとあの 2人なら 新たな武装、Dual Function Systemを上手に使いこなしてくれるだろう……。
…………。
……。
そうこう 考えている内に 夢川結衣は自宅に辿り着く……。
普段なら……。
帰宅後には、少しだけ ゆっくりするのだが……。
この日は疲れが溜まっており、早々に休みたい気持ちが強かった……。
……真っ先にシャワーを済ませる。
過度な疲労が溜まっている時は、少し座るだけで身体が気を許して睡魔に襲われてしまう。
どうせ休むのなら、1日の汗と疲れを洗い流して スッキリした状態で横に成りたい。
シャワーを手短に終えて、喉の渇きを潤し髪を乾かす。
帰宅後のノルマを終えた頃には 既に眠気は頂点に達しており、今月のスケジュールを確認している間に眠りに落ちていた……。
…………。
……。
…………。
……。
懐かしい感覚だけを感じる……。
誰かと楽しそうに話す小さい女の子が見えた……。
これは……たぶん 子供の頃の自分自身なのだろうか……。夢を見ている時の独自の視点……。
凄く懐かしく……。微笑ましい……。
けど……。この先は……。
朧げな感覚で自分自身の意思とは 無関係に映像のような記憶だけが移ろう……。
急に嫌な感覚が強くなり、視界には黒いモヤが増える。
…………。
……。
さっきまでは 見た事も無い直立した爬虫類のような怪人が、大好きな街を練り歩き徘徊してまわる……。
……建物。……道路。……いろんなものを壊している。
街中の家屋は 燃えており……。平垣も崩れている場所が殆どだ……。
道路もメチャクチャになり……。足が痛い……。私の足は血だらけだった……。
足元は、その後からは 見なくなった……。
だが……。
空を見ようと視界を上に向けても良い事は無い……。
見慣れた 気持ちのいい青空は無く、日樹田の空を飛び交う無数の騎士が……。沢山の飛行機を襲撃している……。
黒煙が至る所で上がり呼吸が苦しい。
……喉が熱い。
常に、どこかで爆発が起こっている。
お父さんも……。お母さんも……。見当たらない……。
誰もいない……。
…………。
……。
気が付けば いつも、懐かしい面影と遊んでいた川沿いに辿り着く……。
橋が落ちている……。綺麗な音楽が聞こえる……。
……まただ。
……黒いモヤが 幾つか視界に移る。
……背中に翼が生えている何かが、……近づいてくる。
……あれは、天使…… ?
夢川結衣は朝まで、目を覚ませずに……。べた付く寝汗を纏わりつかせて涙を滲ませた……。
………………。
…………。
……。
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