- 05話 -
皇と法
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目次
~苦渋の一撃~
…………。
……。
聞き取りやすい音声と速さで、女性のアナウンスが流れる。
既視感の有る ぼやけた 知覚に、ノイズが混じった……。
…………。
『 Arcana Barrage Chase System……。
( アルカナ バラージ チェイス システム )
……略称 Arbachas 。
(アルバチャス)
Arcana(アルカナ)の脅威に…………、
職滅行動の…………、…………を行う System(システム)。
最新鋭の…………ヒーローとして、…………最後の切り札。…………。
…………が誇る…………復興の道を…………をご堪能下さい。…………お越しいただきまして、誠に…。 』
………。
「 俺の名前は……………だ!!
頼む。俺に力を貸してくれ !!
アルバチャス !!
起動 !! 」
…………。
……。
混濁した奥底で、あらゆる景色が垂れ流される。
無感情に、ただ時流を流される状態……。
正直……。そんな自覚すらも無い……。
…………。
……。
『 Arbachas code-0- !! The Stupid Function !!
( アルバチャス コード ゼロ !! ストゥピッド ファンクション !! ) 』
…………。
……。
「 ………少し話し込んじまったな。
病み上がりは ちょっくら避難してくるわ。
お前も気をつけろよ ?
またな ……。 」
「 …………。
俺も ちょっと 行ってくる。 」
…………。
……。
「 隙ありだ !!………… !! 」
『 緊急速報です。J-04 地区に……。………。…………大変危険ですので……。 』
…………。
……。
「 …………から…………が !全てを………… !! 」
…………。
……。
五感は曖昧で……。
一切 定まらない……。ピントのズレた記憶……。
…………。
……。
「 流れ者め。まだ懲りて無いな ?
…………。貴様の考え方が常に…………なら惨事を招くぞ。
そもそも…………は……。 」
…………。
……。
定まらないながらも……。
少しずつ、この状態が薄く成っていくと 意識も記憶も精度を取り戻していく…………。
…………。
……。
「 余の剣による介錯を手向けに逝くがいい。
マルクトの贋作共よ……。
貴様ら前座に、これ以上の用は無い。 」
………………。
…………………………。
…………………………………。
………………………………………………。
1人の青年が眼を覚ます……。
……真夏の熱帯夜のように寝苦しい嫌な汗にまみれて。
どこかの病室の寝台の上に横たわっているようだ……。
自分の上体を起こそうとするが、身体中に痛みを覚える……。
意識が未だに朦朧としており本能が何か……。情報を欲っした……。
無理にでも上体を起こす……。
…………。
……まるで、大きな氷塊や岩等の硬質なものが ひび割れる時の音が、全身から鳴っているような錯覚を覚える。
……痛覚や疲労による一種の麻痺症状に悪戦苦闘した。
自分自身の身体すらも、まともに動かせない。
そんな寝台の上の青年の様子に、同室の誰かが気が付いた。
同室にいる誰かは、青年の上体を起こす補助を行う……。
青年は その人物の顔に見覚えがあった、……次第に 頭の中で整理が付いていく。
これまで判然としなかった意識が更に輪郭を帯びていった……。
青年よりも先に、その人物が 言葉を発する……。
…………。
「 ……やっと目を覚ましたか。
今日までで、丸 2日は眠っていたんだ。心配したよ有馬 君。
私の事が わかるかい ? 」
「 ……っつぅ。……ってて……………………神地さん…… ?
えっと…………。俺は……。 」
…………。
青年 有馬要人(アリマ カナト)の上体を担ぎ起こす補助を行ったのは……。
APCの C.E.Oを務める人物。神地聖正(カミチ キヨマサ)だった……。
…………。
「 まだ痛むだろう ?
丹内君からの報告によれば、君は言っても聞かない性格らしいからな……。
話しやすいように身体を起こす手伝いはしたが、
本来はまだまだ絶対安静の身だ。
無理はするな。 」
「 そうだ !!空護さんは…… !? 」
…………。
今も生傷が痛々しい青年は……。
……病院の個室で 身を案じてくれている壮年の男と、これまでの経緯を振り返っていく。
有馬要人は、少しずつ記憶を遡り……。マーヘレスと名乗る遥かに強力な怪人との激闘を思い出した……。
…………。
……。
あの日……。
突如現れた皇帝の強襲に、有馬要人と 丹内空護は 追い詰められた……。
皇帝マーヘレスの放った斬撃の衝撃波は……。
code-7-の、渾身の殴打でも阻むことは出来ず、凶刃の直撃によって歴戦の戦馬車を沈黙させた。
…………。
……。
有馬要人もまた、最初の強襲によって 消耗させられていたが……。
目の前で奮起した 班長の覇気に 触発されており……。
やるかやらないかの 二者択一を目の前にして、起死回生を狙った B.A.Pentacleを起動したのだった……。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
「 空護さんの分も 俺が…… !! 」
…………。
code-0-の頭部には、普段よりも荒々しく……。
……青白い光の粒子が円環を作り、膨大な放流が頭上に光の柱を作りだす。
青年 有馬要人の荒々しい 激情が 可視化でもされたかのような様子だ……。
この様を見届けた皇帝は、道化が行う催し物に機嫌を良くして 自慢の長大な剣を強く握った。
…………。
code-0- 赤と黄色のアルバチャスが、先に仕掛ける……。
滑走機能 ホバー・チェイサーで、瞬時に接近し 反時計回りの回し蹴りを迅速に見舞う。
青年にとっては、渾身の一撃だ……。手加減などしていない……。
だというのに、マーヘレスにとっては……。
……予定調和のようで、長剣の腹で この一撃は受け止められていた。
この皇帝が 力を抜いているが、わかった……。
拮抗するように競り合ってはいるが……。
この怪人にしてみれば、戦いを楽しめる程度の一撃だったらしい。
…………。
青年は直ぐに、次の手に移る事を決める……。
有効打に繋がらないのならば……。意味が無い……。
そう判断し、即座に軸足側だけで ホバー走行を動作させて、自分自身が押し負けた風な 挙動で距離を取る……。
皇帝の周囲を、変則的な軌道で走り回り攻勢に適した隙を探す事にした。
どんな相手にも、必ず死角は有る筈だと……。一縷の望みを模索して……。
…………。
青年の滑走軌道は、丹内空護が エイオスを追い詰める際の、動きを 青年が独自に変化させたものだった。
戦馬車のアルバチャスが、エイオスを スラローム射撃で追い込む時の円を描くような動き……。
……これを格闘戦に、織り交ぜやすいように 単純な真円軌道では無く、
攻勢に移る頃合いを 読まれにくくするようにアレンジしたもの……。
変則的な走行軌道から、多方面からのヒット&アウェイを繰り返して行う。
マーヘレスの死角を狙った強烈な中段蹴り……。
電動ノコギリの刃ように自身の身体ごと 横回転させた低い姿勢で滑走を行う足払い……。
…………。
だが、青年の躊躇の無い猛撃は、マーヘレスを歓喜させるだけだった……。
…………。
「 ほう……。
先の 戦馬車の力押しとは また趣向を変えてきたか……。
実に小賢しく、道化らしい良い動きだ。 」
…………。
有馬要人は、更に苛烈に ホバー走行からの スラローム多連脚を繰り出す。
青い光の粒子が、code-0-の蹴りの数に比例するように増加し周囲を漂う……。
青年の、攻勢が激しくなるほど 辺りを 幻想的な情景に変化させていく。
マーヘレスは既に 連脚を何十発……、もしかすると何百発以上は叩き込まれていたのかも知れない。
青年の感情は激しくなっていく……。
…………。
「 お前が !!
お前達が、どんな存在か俺は知らない。
……けど、お前は俺が仕留めてみせる !! 」
…………。
青年の認識として、アルバチャスが どれほど重要な戦力なのかは、最低限 理解しているつもりだった……。
自身よりも 優れた 人物が駆る 戦馬車が沈黙した状況で、何を成すべきなのかも……。
だからこそ、こんな状況を簡単に作り出す 目の前の脅威は、
自分が どうにかする 選択肢しか無い事も……。
……理解していたからこそ、手加減を するつもりは微塵も無かった。
…………。
しかし、皇帝は微動だにせず 寧ろ アルカナの粒子が煌めく絶景を 楽しんでいるようだ……。
一心不乱に攻撃を続ける青年は、焦りを募らせていく。
……B.A.Pentacleの恩恵の終わりが近づいているのだ。
渾身の連撃にも微動だにしない相手に、自身に残った全てのアルカナを注ぎ込もうと賭けに出る。
狙うのならば……。これまでの猛襲の中で、最も不得手にしてそうな一点だろう……。
マーヘレスが長剣を握っている手と、同じ側の足の後方を見定めて機を窺った。
…………。
「 人間の愚者よ……、良い芸を持っているな……。
だが、そろそろ飽いた……。
余の自慢の剣で撫でてやろう。
この剣の名は……。
黒山羊聖十字ノ蹄(クロヤギセイジュウジノヒヅメ)。
これこそが偉大な皇の剣なのだ。
覚えておくがよい。 」
…………。
青年が意を決した……。
完全に 警戒が緩んでいるように見えた 今が、仕掛ける うってつけの……。
code-0-の アルバチャスが、矢じりのように強烈で鋭い入射角で、一点突破を試みる……。
地表を滑る 低い位置を目掛けた 鋭利な蹴りだった……。
…………。
マーヘレスは、ぐるりと向き直り……。
四つの眼で、しっかりと 愚者を捉えると 振り返った時の動作から流れるような動きで、長剣を振り下ろす……。
…………。
「 やはり そう来るか……。
道化とは本当に浅ましく愚かなものよな……。
……さらばだ。 」
…………。
マーヘレスの握る長剣は、これまでに無い変化を見せる。
鍔に施された 2頭の黒山羊の意匠が妖しく目を光らせて……。
黒山羊の目の色と同じ金色の粒子が、2又に分かれた剣の刃を埋めるように流れ込み 禍々しさを増大させていく……。
皇帝の足元を狙い、限界まで接近した 有馬要人に長剣が迫る……。
…………。
……。
この長剣の金色の一閃を受け止めたのは、丹内空護だった……。
ギリギリの所だった……。
ギリギリの所で、システムを強制解除されないようにと 丹内空護は耐え忍んでいたのだ……。
お陰で 身動き一つも難しく、戦線に戻るのが遅くなってしまった……。
なんとか、体勢を立て 青年の窮地には間に合った……。
有馬要人と、入れ替わるようにして間に割り込んで、残る全てで乱入したのだ……。
丹内空護は、息も絶え絶えだったが 未だ心が折れてはいない……。
…………。
「 間に合ったか……。
このエイオス……。
まだ、こんな隠し玉を持っていたとは……。 」
…………。
戦馬車のアルバチャスが、肩で息をしながらも 片手に備え付けられた盾で 攻撃を受け止める……。
皇帝の剣撃に耐える為、盾の裏側では もう片方の腕も補助として加えて持ちこたえていた。
白色のアルバチャスは、至る所に 亀裂がはしっている……。
…………。
……。
その後方では、青年が体力の限界を迎えたのか 生身の姿に戻ってしまっていた……。
B.A.Pentacleの時間切れによって先に体力が限界を迎えたのだった。
何度か……。再度、アルバチャスの起動が出来ないものかと……。
デバイスの 動作を試みるが 青年が 愚者のアルバチャスに姿を変える事は無かった……。
…………。
「 手ぬるい戦馬車よ。
貴様こそ、未だに息が有ったか……。
ひび割れた鎧と盾では長く持たんぞ。 」
「 それでも 良い……。
俺が繋いだ数秒、数分は……。
必ず お前達を……。
……倒す !! 」
…………。
皇帝の長剣を、戦馬車が一瞬だけ押し上げる……。
丹内空護は、これによって 生じた隙を逃さず、武装機能を展開すると 出力を限界まで高めた……。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
丹内空護が、作りだした隙も虚しく 長剣が戦馬車に振り下ろされる……。
有馬要人の目の前で、code-7-の白い鎧と 盾が砕け散った。
丹内空護もまた、皇帝を目の前にして 強制解除させられて膝から崩れてしまう……。
青年の記憶は、ここで途切れていた……。
………………。
…………。
……。
青年は、これまでの経緯を完全に思い出した……。
記憶に残る限りの全てを 神地聖正に話すと、丹内空護の身の安全を口頭で確かめる……。
…………。
「 ……俺が覚えているのは、ここまで です。
あの後……、何が有って今助かっているのかは まったく覚えていません。
空護さんは……。
無事ですか !? 」
「 そうか……。
最初の きっかけは、突発的な事の連続だったかもしれないが、
大変な環境に放り込んでしまったな。
多くの要因に関わる者として謝らせてもらうよ。
すまなかった。
ひとまず、丹内 君も 君と同様に無事だ……。
よくぞ生きて戻ってきてくれた。 」
…………。
神地聖正は、有馬要人の心の内を汲み取っったようにして、言葉を贈ると頭を下げる。
…………。
「 そんな……。
神地さん頭を上げてください。
俺の方こそ役割を……。果たせなかった。
……すみません。 」
「 あまり気に病まなくても良い……。
先日の皇帝のような怪人……。マーヘレスは……。
実は、22災害でも目撃された強敵なんだよ……。
一朝一夕にはいかないのも仕方がないさ。
蒼の皇帝……。もしくは、四目の皇帝……。……そんな風に呼称する事が一般的かな……。
今から話す事は、君が眠っている間に、特務の全体にも共有した事なのだが……。
君にも知らせなくてはな……。
少し、長くなる……。 」
…………。
APCの C.E.O 神地聖正は、アルバチャスの成り立ちや、ニューヒキダ全域の復興にも関わる原点の出来事に触れた。
今から……。18年と 半年ほど前に起こった出来事……。
怪人エイオスによる、未曽有の大凶変……。22災害……。
…………。
「 ……災害当時、奴は無数の怪人を統率して現れた。
君も丹内君も、嫌という程実感したのだろうが その強さは飛びぬけている……。
22災害当時の 怪人達の侵攻は……、
少なくとも 5時間以上は人間の持つ あらゆる 武器や兵器……。手段をもってしても阻む事すら出来なかった。
私も当時は 後から知った事だが……。
世界各国から 日樹田に向けて核ミサイルの使用が、検討される程に 人類は追い詰められていたそうだ……。
だが……。その怪人達の侵攻を止める者が現れる。
……謎の怪人。真紅の戦士。
当時を知る者の間で、そう呼ばれる 怪人は、未だに謎の多い存在なんだが……。
真紅の戦士は……。
民族的な盾と剣を思わせる武器を自在に使いこなしては、数時間に及ぶ激戦を戦い続けた。
そして、単身で全ての怪人を次々と撃退していき、あのマーヘレスとも互角以上に渡り合ったらしい……。
気が付けば……。
エイオスの出現から、約 22時間が経過し……。
……大凶変の始まりから 翌日の明け方、戦塵が晴れると全ての怪人が姿を消していた。
以降……。私は……。
……志を共にする仲間を集めて、真紅の戦士のように戦う……。
いや、戦える手段を模索して 今日に至る……。
だが 仮に……。マーヘレスがピップコートと呼称する種が……。
これまで戦ってきたエイオスを意味するのなら、奴らの驚異はまだまだ天井が有るという事だ。
事態は私が思っていた以上に危険なのかも知れない……。
この際だから言っておくが 有馬 君。
……君は元はと言えば只の観光客だった。外部から来たものだ。
今以上に関りを持つには辛い事も有るだろう。
傷が癒え次第、元の観光客の 1人に戻っても良いだろうと、私は思っている。
身勝手で つくづく申し訳ない。
急かす訳では無いが、分かれ道は いつ迄も有るわけじゃない。
考えておいてくれたまえ……。 」
…………。
神地聖正は、更に幾つかの言葉を交わすと 青年が療養する病室を後にする……。
有馬要人は、病室で 1人に成ると 未だに満足に動かせない身体を自覚した……。
そして、痛みに軋る全身を震わせながら すすり泣いた。
………………。
…………。
……。
~顛末と動向~
マーヘレスとの交戦から 1週間以上が経過する……。
新たなエイオスの出現報告は無いが……。APCでは周期的な判断から、次の襲撃に警戒を強めていた。
これまで出現頻度が最も多いとされるピップコートならまだしも……。
四目の皇帝マーヘレスは、アルバチャスを初めて敗北させた存在で有り……。
……その時の街中の定点カメラや、収音装置の記録も損傷が激しく 普段よりも情報量も少ないからだ。
情報量の不足は、他の弊害にも繋がっており 警戒を強める要因としては充分だった……。
前回の戦闘処理において……。
2人のアルバチャスが 命を落とさずに済んだ理由にしても、マーヘレスが姿を消した理由にしても……。
その両方が 不明瞭であり……。
……マーへレスが、今も 健在なのかすら判明していない。
不穏な状況が続く中……。
…… 2人のアルバチャスの回復は貴重な明るいニュースとなっていた。
…………。
……。
完全とは 言えないが、有馬要人も 丹内空護も、なんとか歩けるようになるまでは回復する。
人並外れた治療速度の向上は、とある手法が取り入れられたからだった。
以前から……。
某人物によって、その 1つの方法が発案されていた。
これを 取りまとめていたのは、A.O’s(エイオス)研究調査課所属……。夢川結衣(ユメカワ ユイ)。
これまでは、臨床結果が伴わず 机上の空論とされていたのだが、背に腹は代えられない差し迫った状況下で この手法が取り入れられた。
端的に説明するのであれば……。
アルバチャスの基礎機能に組み込まれている生命維持機能による 応用である。
生命維持機能を A-deviceから引きだして非起動時も生身の人間に適用する手法だ……。
これによって、継続的に自然治癒を高められる事が 高い精度で 予測できた。
もちろん、臨床実例の無い手法を試すには非常にリスクが高く、最初こそ選択の余地は無かった……。
にも関わらず、これが成された理由は 2つ……。
ある人物から、無理に頼み込まれた事……。そして、この強行に 神地聖正の許可が下りたのだ……。
これを無理矢理 頼んだ人物は、丹内空護 本人だった。
丹内空護は、有馬要人よりも 1日早く 一瞬だけ 意識を回復したのだが……。
この時に、馴染みの 天瀬十一や 夢川結衣の腕を、重傷者とは思えない迫力で掴み……。言い放った……。
…………。
「 ……頼む !!
どんな方法でも良い…… !!身体を動かせるようにしてくれ…… !!
前例が無い方法でも良い……。望みが有るのなら……。
俺の身体で 前例を作ってくれ…… !!
どんな結果でも 恨みはしない !!
頼む……。俺を戦える状態にしてくれ…… !! 」
…………。
そのまま意識を失った後も、天瀬十一と 夢川結衣の 腕を掴む、丹内空護の 握力は 長らく緩まなかった……。
鬼気迫る 友人の覇気に 心を動かされた 2人の元に、神地聖正が訪れると 程なくして承諾が降りた……。
神地聖正は、この時 確かに数秒程 考えたようだが……。
全ての責任を、神地聖正 自身が受け負う事……。
数日の安全管理の精査を特務で行った末に決行する事……。
以上の 2点を抑えた前提で 決行するに方針を固めたのだった。
…………。
神地聖正の 指示で、最初は 丹内空護に……。そして、次に 有馬要人に……。
A-deviceによる 自然治癒の向上が行われる……。
…………。
……。
数日が経過し 確実に効果を示した事がわかった……。
そして、マーヘレスとの交戦から 1週間以上が経過した この日……。
…………。
……。
有馬要人は、既に数日の経過観察を残す程度で……。
丹内空護は それよりも何日か長く療養すれば復帰しても問題ないようだ。
それを良い事に 片方は、今も病室で堂々と筋力トレーニングを行っては医療チームを困らせているらしい。
白衣の青年 天瀬十一は、最近では恒例に成りつつある 丹内空護 絡みの苦情を、治療状況等の情報の共有のついでに 内線電話で聞き終える。
…………。
医療チームから 小言には、返す言葉も無く 通話の後には 腕を組み自身のパソコンに視線を移した。
パソコンのディスプレイには、code-0-と code-7-のデータが、しっかり まとめられているようだ……。
天瀬十一の 脳内には 1つの懸念が浮かぶ……。
有馬要人は ともかく、丹内空護が 完全に復帰したら 出力向上の直談判を必ず行うだろう からだ。
白衣の青年は、ため息混じりに 心の内をこぼす……。
…………。
「 ……ふぅ。……直接的な出力強化は 難しいんだよなぁ。
けど、アレを倒すには 現状の アルバチャスじゃ 力量差が有り過ぎるのも……。
確かに わかるけど……。 」
「 心の声ですか ?天瀬さん……。
大きい独り言ですね。
資料 まとめて おきましたよ。 」
…………。
白衣の似合う女性 夢川結衣が、煮詰まっている様子の 白衣の青年に 声をかけた……。
白衣の青年は 今の一言で 我に変えり、
話題に上がった資料に ついて 軽く御礼をする。
…………。
「 ありがとう夢川さん。
あーっと、なんだっけな……。確か…………。
……そうそう。
アルバチャスの損傷記録や交戦記録から洗い出した……。
マーヘレスの想定戦力 とか が、まとめられてるんだっけ ? 」
「 とか…………とは何です。
アルバチャス 改善案の模索についても 共通する事ですけど、
頭が回らないなら少し休んだら どうですか ? 」
「 エイオスの連中も 待ってはくれないでしょ。
出来るうちに 出来る事は したくなっちゃうんだよね……。 」
「 ……休んでください。
睡眠不足は全てに響きます。
考えても 進まないなのなら、休む方が有意義でしょう。
村野さんや 平手さん 辺りに引き継げば少しは休めるでしょう ? 」
「 …………。
……それも そうか。
ごめん、今日は半休をさせてもらうよ。 」
…………。
夢川結衣からの 指摘に 軽快に返せない事実が、的を射ているようだった……。
天瀬十一は、自身の身に 疲労が蓄積されている事実を実感をする。
簡単に引き継ぎを済ませて、久しぶりに早めの帰宅をする事を決めた……。
…………。
白衣の似合う女性 夢川結衣は、天瀬十一の退社後……。
ふと、アルバチャスの改善案について……。ある可能性について思い当たった。
しばらくして 手隙の時間を見つけると、そこから気に成る点を下調べしていく……。
………………。
…………。
……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
ニューヒキダの何処かに存在する謎の洞では……。
アルバチャスを 容易く追い詰めた 怪人が、光溜まりの淵に立ち いつの日かのように憤りを爆発させている。
憤りを爆発させている怪人は、四目の皇帝……。マーへレスだった……。
…………。
「 腑に落ちん……。
奴め……。余の邪魔をしてくれおって。 」
…………。
それは、1週間以上前の出来事……。
マーヘレスは、自慢の長剣を嬉々として振り上げ 2人の人間の戦士を仕留めようとしていた……。
目の前の大柄な方は……。
……弱者の盾と成る 軟弱な精神を持ちながらも、それを除けば胆力が優れている戦士だった。
もう片方の小柄な方は……。
……見た目通りに 派手に動き回る身軽さを持つ 愚かな戦士。
……どちらも 久しぶりの娯楽としては中々悪くは無かった。
そのまま仕留める事が出来たら、どれ程 心地よかっただろうか。
だというのに、長剣を振り下ろそうとした時に 見合わせたようにして、邪魔が入ってしまう。
マーヘレスは、自身の身に起きた出来事を直ぐに理解した。
……それを出来る相手を知っていた。
…………。
「 余の身体が……。動かぬ……。
さては法の光か……。 」
…………。
感づかれた何者かが、そのまま 不機嫌気味の皇帝と物怖じせずに言葉を交わす。
…………。
「 マーヘレスよ 悪いが……。
まだまだ 彼らには役立ってもらいたい。
久しぶりの肩慣らしは 充分楽しんだ だろう ? 」
「 貴様……。
何故、法の光を扱える。
協定とは異なる……。 まさか、違反者だったか。 」
「 二度は言わないぞ ?
退け、不完全な皇帝。
それともこのまま、硬直させ続けてやろうか ?
身動きが取れなければ、今の お前も 人間に負けるんじゃないか ? 」
…………。
後方から話しかける声には聞き覚えも有り……。
憤りも覚えたが、自身の復活が不完全な事実を、見透かされている事も理解出来る。
マーヘレスは、自慢の剣撃による介錯を行えない苦渋を味わった……。
それからは……。
完全復活を果たそうと 優先順位を切り替える。
……ひたすら光溜まりからアルカナを吸い上げ自身の身体に定着させ続けた。
弱体化した身体を元に戻すには、多少の時間は 必要だ……。
というのも、18年と半年程前に 真紅の戦士との戦いによる影響で、大きく本来の力を削がれているからだ。
…………。
「 おのれ忌々しい奴め……。
……だが、完全に復活を果たした時、余を止められる者は いないであろう。
人間どもよ…… !!
精々それまで 待っているが良いわ……。
最早 法の光 ごときでは、余を止められん !!
今一度……。
この地に我がピップコートの軍勢を作り、凱旋を果たそうでは無いか !! 」
…………。
皇帝 マーヘレスは、謎の洞内で憤りを晴らす場を思い描く……。
底の無い怒りの発散を 先送りにした。
………………。
…………。
……。
~決意の雄~
更に数日が経過する……。
この日の早朝……。
坊主頭の青年 丹内空護は、療養生活で滞った全てを取り戻す為……。
……それ以上の全てを得る為……。以前より激しい自己鍛錬に勤しんだ。
日が昇る前の 早い時間から、どれ程 身体を動かしたのか……。
APCの社屋の屋上で 東雲を視界に入れて、正拳突きと共に汗を飛ばす。
小康状態の身体で 出来うる限りに 全身に負荷をかける。
身体中に乳酸が蓄積されていき、この感覚に懐かしさを覚えた……。
首から下げた スポーツタオルで、瞼に流れそうな汗を拭う。
小さく開けた口から、長いブレスで 二酸化炭素を吐き出して、特務棟にある訓練所に向かっていった……。
…………。
訓練所には早朝にも拘わらず……。
一心不乱に打ち込む何者かが、実動班 Resist-Ace-の数人を 相手取っては、乱戦を想定した徒手格闘を行っていた。
これは……。
何者かが、ここ数日で継続してる日課らしい。
実動班からは何人かが半ば強引に巻き込まれたようで、
その巻き込まれた班員の 1人から 助けを求められて、丹内空護は この日 ここに訪れた。
丹内空護が、乱戦等の徒手格闘を 日課にした人物に声を掛ける……。
青年 有馬要人は、丹内空護から 声をかけられて 意識を向けた。
調度、今の 乱戦を 青年が納めた瞬間だった……。
…………。
「 少し見ない間に、ずいぶん変わったな有馬……。 」
「 ……空護さん。
まだ 休まないと身体に悪いんじゃないですか ? 」
「 お前の相手が必要だろ。
1 対 1の組み手の相手がな……。 」
「 病み上がりでしょ。 」
「 それはお互い様だ。
軽口は相変わらずか。流れ者。 」
「 手加減しませんよ。 」
「 お前が 俺に 手加減出来るように成る日は、
まだまだ先だ。 」
「 …………なら、尚更 期待には答えますよ。
今の俺の全力で。 」
「 そうか。
…………それは楽しみだ。 」
…………。
有馬要人と 丹内空護は、約 2週間ぶりの言葉を交わした。
既に息が上がっている 実動班の数人に見届けられながら、肉薄した徒手格闘を始める……。
2人の戦いは、互いに全力で打ち込み 今までで最も長い間 続く……。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
同日、昼過ぎ頃……。
特務棟……。
人払いが成されたミーティングルームでは、2人の男性が 少し荒げた様子で話し合っていた……。
1人は、特務開発部部長 天瀬慎一……。
1人は、天瀬十一……。
……珍しく 感情的な 2人は、互いの意見が すれ違っているようだった……。
天瀬慎一は、息子に 何かを静止させようと促すが、天瀬十一の心は決まっているようだ……。
…………。
「 父さん……。
何度話し合っても 俺は考えを変えるつもりは無い。 」
「 お前は甘く見ている。
そんな簡単にはいかないぞ !!十一…… !! 」
「 それは、父さんの場合だろ ?
自分が失敗で得た 萎縮した感情を 俺に重ねるなよ。 」
「 なんだと ?
私は お前を心配して……。
ただ、同じ失敗を繰り返させたくないだけだ……。
お前の身に何かあれば 母さんに示しがつかない……。 」
…………。
家族の団欒とは程遠い刺々しい空気……。
緊迫した中、何度目かの言葉のラリーの合間に何時間にも似た数秒の沈黙が訪れる。
沈黙の間は、相互に視線をぶつけた。
片方は腹の底を探ろうとして……。
片方は決意を示そうとして……。それぞれに強い意志を目に灯す。
…………。
息子の 天瀬十一が、静寂が沈殿してしまいそうな数秒を終わらせる。
…………。
「 またそれか……。
母さんや真尋を 引き合いに出さないと何も言えないのか ?
真尋は無関係だし……。母さんは もういない。
……さっきも話したけど、何を言われようと気持ちは固まっている。
それに、過度な心配は 相手を信頼していない事と変わらないと俺は思うけどね。
俺はチャンスを逃すつもりはない…… !
父さんは これからも社内で買い殺しにされてれば良いさ……。
……形だけの部長としてね。 」
「 ………。
十一、お前 !! 」
「 じゃあね父さん。
俺は忙しいんだ。もう行くよ。 」
…………。
芳しくない重苦しい父子の会合は……。
これを境に 決裂すると、天瀬十一は ミーティングルームを後にした。
…………。
……。
………………。
…………。
……。
翌日……。
少しずつ、日が高く昇り始める……。
ニューヒキダの全域に脅威を知らせる警報が鳴り渡った。
…………。
『 緊急速報です。 K-02 地区にエイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
緊急速報です。 K-02 地区にエイオスが出現しました。近くに居る方は直ちに避難してください。
現在、APCの実動班が対処に向かっております。大変危険ですので…… 』
…………。
K-02 地区の商業施設の開けた広場には……。
人が ごった返しており、休日ならではの人波が警報によって戦慄の渦に変化していった。
近くを警邏していた実動班 Resist-Ace-の数名は、少しでも混乱を治めようと、避難誘導と哨戒にあたる。
アルバチャスの到着までに 被害を最小限度に留めようと 動き出す……。
…………。
戦慄の渦中からも 視認できる距離に、先の怪人マーヘレスと 数体の怪人が姿を見せる。
数体の怪人は、まるで皇帝に従属するように 随行していた……。
随行する怪人の殆どは 目撃例の多い、単眼の爬虫類を思わせる型だった。
それとは異なる ある 1体だけは完全に新手のようで……。
姿は、マーヘレスとも異なる王を思わせる風貌が目立つ……。
…………。
怪人達の行脚に気が付いた数名の悲鳴は、更にその場を混乱させていく。
マーへレスは、阿鼻叫喚の声に心酔しており、高ぶった気持ちを吐き出すように禍々しく光る斬撃を一閃 撃ち放った。
人波に迫る斬撃は、白い鎧のアルバチャスが 握る刀剣型武装によって、数秒間 受け止められる……。
しばらくすると……。斬撃の軌道は上空に逸らされて 中空で霧散した……。
不思議な事に……。
この時の code-7-は、まるで code-0-並みの 滑走速度で、この場に割り込んでいた……。
マーへレスは、戦馬車の奮闘を見届けて まだまだ楽しむ余地が有ると確信したのか、友人のように戦馬車に話しかける。
…………。
「 相も変わらず、良い豪胆さを持つ。
人間の戦馬車よ、貴様との再開を 嬉しく思うぞ。
今日は 余の完全復活を祝う 再誕祭を存分に祝ってもらうとしよう。 」
「 そうか……。
悪いが全力で邪魔をさせて貰う。 」
「 ほお……。
お前達 人間には、礼儀の概念は無いのか ?
不躾な奴らよ。 」
…………。
マーヘレスは、戦馬車の言葉に皮肉を返して威圧する。
戦馬車のアルバチャスは、避難する民衆を背にして 気圧されない雄々しい姿を見せた……。
皇帝は、高ぶる殺意を表す。
これを体現する為に、今回 引き連れてきた従属の怪人に 片手で攻撃の合図を送った……。
従属のピップコートが動き出す直前……。
銃弾と火球が数発 飛来し、マーヘレスをも 飲み込んだ爆風に包みこむ……。
爆風を起こした 人物が……。ホバー・チェイサーで 急接近してくる……。
赤と黄色のアルバチャスだ……。
…………。
「 お前達にとっては、非礼が礼儀だろ ?
……俺達が 相手だ。マーへレス !! 」
「 ……おのれ道化め。 」
…………。
有馬要人も 戦線に加わる……。
滑走機能で 一定の距離まで接近すると、周囲を回遊し 両手に握った 物を構えた……。
code-0-の両手には、これまでなら有り得ない変化が目立っている……。
本来は 1つずつしか起動しえない武装……。
アルバチャスにとっての 攻撃手段に該当する武装……。
Barrage Armedが 2つ……。B.A.Cupと B.A.Wandが握られている。
……先程の銃射撃と 火炎弾はどちらも、有馬要人が 1人で行った攻撃だった。
…………。
太陽の位置が少しずつ高く成っていく。
………………。
…………。
……。
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