- 03話 -
驚異
- 前 回
- 次 回
目次
~新英雄の裏側~
おんぼろな服を着た青年 有馬要人(アリマ カナト)が、
code-0-の アルバチャスとして APCに所属してから数日が経過する。
新たな街の英雄に成るための日課は 少しずつ日常に変わり始めていた……。
…………。
「 本日より、実動班 Resist-A-の訓練に参加させて頂きます。
よろしくお願いします。 」
…………。
青年は アルバチャスとしての先輩、丹内空護(タンナイ クウゴ)と同様に
実動班 Resist-Ace-の 1人として身を置いており……。
…………。
「 ……よし出来た !W.C.Pナントカの分解と……。
……結合 完了っと。
………部品 余ったぞ ? 」
…………。
基礎訓練として 実動班に混じっては、
体力の錬成や 1人 1人に 貸与される 携行武器 W.C.P.Sの取り扱い等も反復した。
……並行して行われる 特別 スケジュールとしては 2つ……。
…………。
「 隙ありだ !有馬 !! 」
「 空護さん !!
ちょっ……まっ !!……ぶへぇ !! 」
…………。
1つ目が……。
丹内空護を 相手に行う、生身での実戦的な 格闘戦。
2つ目が……。
特務開発部の A.B.C.S開発課に所属する人物……。
天瀬十一(アマセ トオイチ)を講師に、アルバチャスの性能等の知識面を 補填する座学。
この どちらかを 日替わりで こなす日々が続く……。
…………。
「 良いかい ?有馬 君……。
アルバチャスは 略称であって正式名称は、Arcana Barrage Chase System……。
名前の意味としては、Arcana(アルカナ)の脅威に対処し
職滅行動の Barrage(バラージ)、及び追跡や追撃の Chase(チェイス)を行う System(システム)ってな感じかな。
……これは記念館のアナウンスや、
広報用のパンフレットにも記載が有るから 見たり聞いたりしてるかもね。
専用の device内に格納されている systemを起動すると、
適性の有る者だけが 起動できるように設計されていて……。
身体能力向上や 生命維持装置の他に、
正式名称の通りの 各種機能が 基本的な能力として備え付けられているんだ。
簡単に言うと 索敵機能、武装機能、滑走機能の3種類。
これらは専有 code……つまり、有馬君なら-0-、空護なら-7-が codeなんだけど……。
codeを 使って起動しないと アルバチャスの機能は
完全には引き出せないから気を付けて。
基本機能の話に戻るけど……。
武装機能に当たる Barrage Armed(バラージ・アームド)は、
実動班に 配備されている 特殊小銃 W.C.P.Sと 同様に、タロットカードの 小アルカナをコンセプトに設計されているんだ。
異なる点としては 状況に合わせての使用を想定して、
4つに細分化させる事で、用途に特化させた 有効的な戦闘処理を行えるように……。って事だね。
具体的に言うなら………。
近接特化の 刀剣型武器 B.A.Sword………。
銃射撃に用いる拳銃型武器 B.A.Cup………。
打撃と中距離放射や射撃の汎用武器 B.A.Wand………。
瞬間的な出力強化の B.A.Pentacle………。
どれも W.C.P.Sとは比較にならない程の強力な性能を有している。
使用に あたっての射程距離や 得意な状況は それぞれに適性が有るから上手く使いこなせば……。
…………有馬君、起きてる ? 」
「 ……て…ます…………………。
……寝……ダメ…だ……も…少し…がんば……。 」
…………。
最初 こそ……。
常態的な筋肉痛に悩まされていた基礎訓練には、驚異的な早さで慣れた 青年だったが……。
毎日 2時間程行われる 日替わりのスケジュールには悪戦苦闘しているらしく、
格闘戦は決め手を 逃して 終始吹き飛ばされ……。座学では知識の補填よりも眠気と戦う毎日が続く……。
これには、丹内空護も 天瀬十一も 個別に頭を悩ませているようだった。
…………。
……。
そんな日々の中の とある日……。
青年は、いつものように 座学では 睡魔と戦い……。知識の補填を無事に終わらせる。
そして、いつものように……。
APCの敷地内にある息抜き用の緑地に訪れていた。
緑地の散歩は、青年にとっての ちょっとした ルーティンとなっていて、
2~3週間前は予想すら出来なかった 現在の非現実を 整理するには調度良かった……。
何しろ、人間とは異なる 謎の存在を相手に戦う役割を担う事に成ったのだ。
既に 数日前の あの瞬間……。
始めて アルバチャスとして戦った あの日……。
目の前に迫った 脅威を相手に 腹を決めたが、
当時は 無我夢中で 今のように長期的なものに成るとは、とてもじゃないが想像出来なかった。
記念館で流れていた映像で……。
白いアルバチャス……。code-7- として戦う、丹内空護の猛々しさに惹かれる気持ちにも 嘘はない。
それでも、外側から見る景色と 内側から見る景色とでは、
同じ筈の 世界でも見え方が異なっていた……。
いつ現れるかわからない 脅威へのプレッシャー。
戦いを 生業とする役割への 心構えは未だに、しっかりとしたものは用意出来ない。
青年が 悶々とした 気持ちで、この日のルーティンを始めてから数分後。
緑地の中の 道中のベンチに、見覚えのある ニヒルなミドルが座っているのを見つける。
その人物 巻健司(まき けんじ)とは、怪人と戦った日にも何度か面識が有った。
ある 1人の女性を 助ける為に、青年が 協力してもらった 希少な顔 馴染みだ。
巻健司は 怪人に襲われてからは、APCが持つ医療施設で治療を受けており……。
以来……。青年も お見舞いとして何度か足を運んで 顔を合わせていた。
どうやら、その人物も 青年にに気が付いたようで、挨拶がてらに 会話を始める。
…………。
「 よお、要人。
もしかして……。今日も 様子見に来てくれたのか ?
お陰様で 明日か明後日には退院できるってよ。
この辺で 怪人絡みの怪我なら、
自己負担ゼロなんだってな APC様様ってところか。 」
「 ごめん 巻さん。
俺があの時、巻さんに協力してもらったから キッチンカーが……。 」
「 もう気にすんな要人。
それに、他人行儀な呼び方するなよ 寂しいだろ。
マッキーでも、マッケンジーでも……。
健司さんでも良いから、もっと砕けた 感じに してくれて良いんだぜ ?
……つっても、健司さんは、ちょっと砕けてないか。
俺の 商売道具は御釈迦だけどよ、俺達は助かったんだろ ?
良かったじゃねぇか。
別に怨んじゃ いないし 気にしてねぇよ。
途中までしか覚えちゃいないけど、
新型の アルバチャス達からの 救助が間に合ったのも運が良かった。
キッチンカーは保険が効くらしいからな、
新しい商売道具が 仕上がったら 今度こそ荒稼ぎしてやるさ。
命あっての物種って言うしな !!
それにな要人……。
実は、当面のバイトも みつかったから退院後の生活の心配も無しなんだ !!
持ってるぜ !!俺の運も捨てたもんじゃない。
商売道具 2号の納車が済んだら、
その時はまた食べに来い。 」
「 ………巻さん。
俺、絶対食べに行くよ ! 」
…………。
要人の中で曖昧だった何かが静かに芽吹き始める。
………………。
…………。
……。
~記録と暁光~
天瀬十一(アマセ トオイチ)は、座学が苦手な 期待の新星への
特別スケジュールを終えると 特務開発部のフロアに戻った。
自分のデスクの上に置かれた 資料に軽く目を通す……。
資料の中から 何枚かを抜粋して 持ち出して、
同フロア内の A.B.C.S開発課とは 異なる部署、A.O’s(エイオス)研究調査課の区画に足早に移動する。
そして、眼鏡と白衣の似合う 同年代の 1人の 女性職員に声をかけた。
…………。
「 お待たせ夢川さん。 」
「 50秒の遅刻です。
遅刻は相手の時間、即ち寿命を奪う行為です気を付けてください。 」
「 ……ごめん許して ? 」
…………。
この女性は、夢川結衣(ユメカワ ユイ)……。
特務開発部部長の 補佐も務める 優秀な人物で……。
常に淡々と仕事をこなす。少しだけ近寄りがたい人物である。
時間にも厳しく……。今回のような事が有ると……。
白衣の青年 天瀬十一は、度々 冷や汗を流す。
…………。
「 許しましょう。
私も 50秒の遅刻をさせて頂きます。
……はい。終わりました。
では、今週末の ミーティングに向けた
相互意見の擦り合わせを始めましょうか。
A.O’sの傾向等と、その対策を これまで出現した個体を元に……。
という事でしたね。
……場所を移しましょう。 」
…………。
A.O’s研究調査課の女性は、
宣言通りの時間内に用事を済ませて 準備が整った旨を 天瀬十一に伝えた。
2人は 今回の予定に合わせて 確保した ミーティングルームに到着すると、
持参した 資料に 目を通しながら、今までの戦いの記録を振り返っていく。
白衣の青年の 発言を皮切りにして、
互いに 紐づくレスポンスを 返して 意見交流を深めていく。
…………。
「 ……そうだな。ええと……。
まずは、code-7-が 導入されてからの Arcana Origin’s(アルカナ オリジンス)……、
通称……。怪人 A.O’s(エイオス)……。
奴らの 出現頻度の増加も 負担の増加と関連しているんだけど、
1ヵ月程 前から 散見されるようになった形質変化……。
これによる、エイオスの個体の強化によって W.C.P.Sでは完全に時間稼ぎすら難しくなっているのが現状だ。
理論上の話では……。
W.C.P.Sの銃剣による刺突や斬撃、装甲による殴打なら多少の効果は期待できる……。
とはいえ……。
父さんや 夢川さんを筆頭に A.O’s研究調査課が算出した分析では、
エイオスの身体能力は、並みの人間を大きく凌駕する。
そんな相手に肉弾戦は非常に危険で、今後は ますます推奨すら出来なくなる。 」
「 ……その対策として、
C.E.Oは W.C.P.S以上の汎用武装の開発を目指しています。
天瀬部長は 前段階の対処策として、かつてのテストモデルの改良を……。
つまり……。
code-0-の実戦導入によって、対処手段の増員を提案されていましたね。
しかし……。
systemの改良だけで済むと 思われた天瀬部長の提案は、
code-0-の度重なる起動試験の失敗によって、一時は 無期凍結の 可能性が強くなりました。
code-0-のアルバチャス……。有馬要人……。
結果としては……。今のところ 悪くは無いでしょう。
記憶に新しい 実戦試験では、推定以上の性能を 発揮していたように思われます。
総合的に安定した性能を持つ code-7-……。 通称 チャリオットと との、相互のフォローアップが期待 出来ます。
code-0- ストゥピッドは、脚力、走行性能、滑走時の機動力等が優れており……。
今後の戦闘処理の幅は 確実に広がるのでは 無いでしょうか。 」
「 そうだね、ただ……。
逆の見方をすると ストゥピッドは、チャリオットよりも 耐久面や腕力が劣っている。
役割が明確な反面、
接戦した環境下では 弱点に つながるだろう。
特に、機動力を活かせない状況が 発生すれば最も危うい。
他にも 上げるなら……。
アルバチャスとして活動する以前から 実動班としての実績を有するかどうかの有無も大きい。
有馬 君 自身の経験の差も 当面は楽観視出来ないね。
今後、エイオスの出現頻度が増え続けて、
22災害と同様の状況が発生する事でもあれば、まだまだ 安心出来ないのが正直な所だろう。 」
「 22災害ですか……。
被害状況が甚大だったので 映像記録等も残っていませんが……。
口伝による記録通りで あれば、現在確認されるようなエイオスが無数に出現し、
それらを統率する 特殊個体も何体か存在した事に成ります。
その他にも……。
同士討ちを行ったとされる 個体の存在……。
真紅の戦士と呼ばれる その個体は、
エイオスを統率した とされる特殊な個体とも互角以上に渡り合ったそうですね。
複数体 目撃された 特殊個体に共通している特徴としては……。 」
…………。
映像記録が無い故の 未知の可能性は、
何とも言えない不安を 煽っていき 饒舌に会話を進める 2人を無言にさせる。
口伝に尾ひれ がついたものでなければ……。
これまでの 戦闘処理によって対処されてきた エイオス以上に、
強力な怪人が 複数 存在していた事に成るからだ。
単独でも強力無比な 真紅のエイオスや、無機質なエイオスを統率する特殊なエイオス……。
いずれにしても、現在の APCが持つ 最大戦力だけでは
足元にも及ばない現状が簡単に思い浮かんだ。
白衣の青年 天瀬十一は、場の空気を仕切り直そうと思い立ち……。
自身のデスクにあった資料から抜粋して持ってきた資料の 1枚に目をやる。
そして、特殊個体の共通項の予測リストを 軽く黙読した。
…………。
特殊個体の共通項……。
1.外見的特徴が人間に近い。
2.個別の武器を携行している。
3.言語を解する知性を持ち、他のエイオスを牽引 統率する。
4.特殊な無二の能力を保持している。
5.原因は判明していないが、これらの特徴はタロットカードのアルカナに関連している可能性が高い。
…………。
白衣の青年は、黙読を終えると これを 読み上げていった。
…………。
「 ……共通項についは 以上だ。
どこまでが正確なものかは、流石に検証のしようも無いな。 」
「 ………そうですね。
着目するのであれば……。
前回の 2体のエイオスは共通項の中でも、
項目4. の特徴を持っていた……。
……そんな見方は出来ませんか ?
これまでにも 形質変化は確認されていますが……。
エイオスが纏うアルカナの粒子が 疑似的な物質に変化するだけに留まっていました。
影響としては 極短時間の間だけ、強度が多少向上する程度です。
それと比較して……。前回の 2体……。
F-04 地区の個体は 片腕から火球を撃ち出す能力を……。
A-15 地区の個体は 特殊な力場を……、
まるで バリアでも 作り出しているかのような 持続的な耐久力を後天的に獲得しています。
今後 類似のものが存在すると仮定した場合、
苦戦するのは間違いは無いでしょう。 」
「 未だに手探りで 対処を進める事には変わりは なさそうって事か……。
なんだかな……。
今後は C.E.Oの 進言通りに 既存の 戦闘 dataを集めて、
アルバチャスに相当する戦力を、より多く用意する必要が有るか……。
……有馬 君には、少しでも早く アルバチャスを使いこなしてもらう必要が有るけど……。
間に合うかどうか……。 」
「 間に合わせるしか ないですよ ?
こんな状況です……。
code-0-を導入できた現実を 幸運に、
思った方が 少しは気持ちが楽になる筈です。 」
「 ……それも そうだね。
よし…… !とりあえず……。
今週末の 総合ミーティングでは、
A.B.C.S開発課と A.O’s研究調査課で 意見が割れる事は無さそうだ。 」
…………。
それぞれの課の意見の 分散を防ぐ為に行った事前の擦り合わせは 想定以上に上手く進んだ。
今回の 意見交流は、相互の視点の確認や 今後における 可能性の洗い出しも兼ねていたが……。
不明点と現状の 整理によって、方向性の焦点が定まっていき 良い影響を期待させた。
だが、それとは裏腹に……。
2人が思っていたよりも早いタイミングで、次の局面を呼び込む兆しが発生してしまう。
ニューヒキダ全体に、数日前に鳴ったばかりの警報が響く。
エイオスの出現を知らせる警戒音である。
…………。
……。
要因は 郊外 F-02地区の 上空……。
そこには 新手のエイオスが出現していた。
怪人は 上半身のみの姿で、腰部から下には アルカナの光の粒子が漂っており それが少しずつ何かしらの形状を成していく。
まるで騎馬のような形状が仕上がると、
新手のエイオスの風貌は 長尺のマスケット銃を携行した 騎士のようにも見えた。
アルカナの光の粒子に跨った 銃騎士は、飛翔能力を持っているようで……。
しばらくの間 出現したエリアの空域を立体的に走り回る。
空を駆ける銃騎士が、マスケット銃と思しき武器で 遥か上空まで届く弾丸を数発撃ち放った。
弾丸は烈風の塊であり、容易く 雲に 大穴を開ける。
試運転のような行動を取って満足したのだろうか……。
空を駆ける銃騎士が、APCの 社屋がある A 地区に向き直り 障害物の無い上空を一気に前進する。
………………。
…………。
……。
~騎士と姫と戦馬車と~
上空に出現した脅威によって 警報が鳴り響いた。
街中に 常設されているモニターには、
今までに無い 真っ赤な画面が映し出されておりに視覚的な印象でも非常事態を知らせる。
これは、前回のエイオス出現以降に導入されたもので、
その緊急性を より強く示唆していた。
空を駆ける銃騎士の危険度は決して低くはない……。
何故ならば、行動範囲と攻撃範囲の広さが
今までの怪人を軽く超えると瞬時に予測されているからだ。
地上では 実動班の案内によって 最寄りのシェルターへの案内も同時に行われた。
…………。
……。
APCの敷地内にある緑地で、馴染みのミドルと話し込んでいた青年は、
1週間も 経たない間に 耳にした 警報によって、表情を僅かに引き締める。
巻健司は、有馬要人の 僅かな変化を 感じ取ったらしく、
確証は無くとも優しくエールを送った。
…………。
「 ………少し話し込んじまったな。
病み上がりは ちょっくら避難してくるわ。
お前も気をつけろよ ?
またな 要人……。 」
「 ……巻さん。
俺も ちょっと 行ってくる。 」
…………。
青年は 歳の離れた友人に背を向けて 走り出す。
緑地の 第 1ゲートを抜けた 辺りで 足も止めずに、
専用の端末機器 A-deviceを取り出すと、自分宛てに届いている 出動要請を確認し 黙読した。
…………。
A.O’s出現 !出現地区は……。
……全域 !?
個体数は1体……。APCの社屋を目指して上空を飛翔中……。
…………。
青年は、予想外の突飛な 怪人の情報に 思わず驚愕するが、続きを読み進めた。
…………。
特記事項……。
現在出現中のエイオスは飛行能力と、遠方からの射撃能力を保持している。
アルバチャスは 滑走機能や銃射撃で対処せよ。
尚……。code-0-は code-7-より優れた跳躍力を活用するなどして打開策を……。
…………。
…………。
「 俺が……。戦うんだ…… ! 」
…………。
APCの屋外の開けたところに到着すると、
北側の 上空の遠方に エイオスと思われる影が見えた。
アレが 飛翔する能力を持ったエイオスで 間違いは無いだろう。
まだ 距離は遠く 小さく見えるが……。
近づいてくるのが わかる程度には飛翔速度があるらしい。
先程の 情報によれば F-02 地区の上空から 南下し、APCの社屋が在る A 地区に進行しているのだとか……。
青年は 完全に 接近される前に 迎撃しようと 腹を決めるて デバイスを起動した。
…………。
『 Arcana Barrage Chase System!!Anytime, please...
Arcana Barrage Chase System!!Anytime, please... 』
「 code-0- 起動 !! 」
『 Arbachas code-0- !! The Stupid Function !!
( アルバチャス コード ゼロ !! ストゥピッド ファンクション !! ) 』
…………。
A-deviceから 動作音が成り 青白い光が端末から溢れていく……。
光の粒子は瞬時に 青年の身体に 赤と黄色の道化のような装甲を展開した。
有馬要人は 巻健司と話したことで、戦いに向けた心の有り方が固まりつつあった……。
頭の中で これを再認識する。
code-0-は 空を駆ける銃騎士を目指して、
滑走機能 Hover Chaser(ホバー・チェイサー)で疾走した。
…………。
……。
丹内空護(タンナイ クウゴ)は、有馬要人の様子を実動班の 待機室用モニターから確認していた。
青年と同様に出動しようと待機室から飛び出すと、
その背後から C.E.Oの神地聖正(カミチ キヨマサ)が声を掛けて、これを静止する。
…………。
「 code-7-の出動は まだ、待ってくれないか ?
ストゥピッドに とっては、希少な 正規の初陣だ……。
APCの 正式な アルバチャスとして、
何処 まで やれるのか……。少々 dataを収集したい。
たった数日とは言え、君も愛弟子の成長は見たいだろう ?
調度、エイオス側も 新手の型だ。
最初 から 2人で挑んでしまっては、充分な dataを取れない可能性が高い……。
私の方から 指示が有るまで、
準備だけ 済ませて 待機していてくれないか ? 」
「 ……承知しました。 」
「 ありがとう。
いつも 物分かりが 良くて助かるよ。丹内君。
私の事を信じて 待機していてくれ。 」
…………。
神地聖正は 実動班の待機室を後にした。
code-7-の出動が C.E.O権限で、待機に変わった事は 特務開発部にも連絡が行き届く。
code-0-と 銃騎士のエイオスの戦闘を 分析する業務が 正式な指示として降ろされた。
特務開発部では 正式な初陣にして、初の飛翔型と 交戦する 青年を案ずる声も散発的に こぼれる……。
というのも……。
アルバチャスには 対空攻撃手段が乏しいからだ。
code-0-が 脚力に優れており、高い走行性能や、跳躍力を保持していようとも、
自由に飛翔し 立体軌道で 制空権を 掌握した怪人と戦うと成れば、その優位性には雲泥の差が有る。
しかも、相手は射撃を行える空飛ぶ銃騎士である。
近接的な手段を取る怪人ならば、カウンターを狙う目も有るが……。
もし、エイオス側の射程距離が
アルバチャスの B.A.Cupによる銃射撃 武装の 射程距離を 上回る場合……。……完全に打つ手が無いのだ。
これを予見できる技術者達によって、空飛ぶ騎士の危険性が散発的に飛び交う。
しかし、時間の経過と共に これを覆す意見が増えていった。
今回の戦闘処理の 主戦力は、code-0-の アルバチャス……。
C.E.Oと 特務開発部部長が 秘密裏に 導入レベルまで 引き上げて 用意した新たな戦力なのである。
それならならば……。
前回のように code-7-を 遥かに上回る 跳躍力で なんとかするのでは ?との意見や……。
まずは C.E.Oからの指示通りに、情報収集に集中するのが先決だ……。など……。
本当に危険度が高いのであれば、丹内空護が 待機の指示に従ってない筈だ……。
C.E.Oも こんな指示を 出さないだろう……。
と……。いった具合に、多くの声に埋もれていき、
情報収集や分析を粛々と始める者が増え始める。
…………。
……。
青年 有馬要人は、丁半博打と同然の戦いの背景を知らないままに……。
空飛ぶ騎士との距離を詰めていた。
その距離は、エイオス側からも code-0-のアルバチャスが 明確に目視可能な距離にまで達する。
code-0-の片手には、銃射撃用の武装 B.A.Cupが握られていた。
ここまで接近する道すがら 途中で準備したのだろう、
記念館の映像の code-7-のように、滑走を継続し スラローム射撃の準備を整えていた。
…………。
……。
空飛ぶ騎士と code-0-の距離が 2000mを切る……。
1500…1200…と更に距離が縮まっていく……。空駆ける銃騎士の 直下に 更に接近する。
青年の心の内では 1つの決意が用意されていた。
エイオスの危険性は高く……。
このままでは数日前のような 直接的な被害がでるかもしれない。
だが、今の自分が戦う手段を得たのなら……。これを未然に防ぐ役割を担えるだろう……。
本格的な意志は今日固まったものだが、
それでも充分な 理由だと納得して B.A.Cupと、視界の中のエイムシグナルに 意識を注ぎ込む。
アルバチャスの 頭部装甲内部に投影されている 射撃補助用のエイムシグナルが、適性距離を意味する緑色に変化する。
目標との距離は先程 1000mを 切っており……。
これは、現在の 青年が 補助機能込みで 狙える判定基準を意味していた。
シグナルの色の変化に合わせて 2発、3発……計 5発の射撃を行い、騎士の注意を引き付けよう試みる。
空飛ぶ銃騎士は、5発のエネルギー圧縮弾を 容易く避けて見せた。
瞬間的な 急加速で弾丸を 置き去りに するような動きである。
それだけには留まらず……。
銃騎士は 急上昇し高度を上げると、
code-0-の頭上 3000mから 手痛い凶弾を同数の 5発撃ち込んで 全てを命中させる。
青年が放った 弾丸の弾速が 安定しない高度を見透かしたような、射程距離の外からの攻撃だった。
青年は、常に ホバー滑走で動き回り 攪乱していたにも関わらず、被弾してしまったのだ……。
これには、code-0-として戦う要人本人はもちろん、
それを観測していた 特務開発部の 職員全体を 驚愕させた。
恐らく、初めに APCの社屋を目指して ゆったり と前進していたのは……。
code-0-か code-7-の アルバチャス もしくはその両方を 引きずり込む揺動だったのだろう。
この 一瞬の 攻防は、最悪の予想が的中した瞬間を示した。
空を掛ける 銃騎士のエイオスは、全てのアルバチャスに一方的に攻撃できる天敵だったのだ。
…………。
……。
成す術のない 危機的状況下に、特務開発部は 戦慄し最悪の事態を想定する。
唯一 この出来事に動じなかったのは、自室のモニターから 事態を観測する人物……。
神地聖正だった……。
気さくそうな壮年の男は、狼狽えることなく 1人呟く……。
…………。
「 ペイジの次は ナイトか……。
ならば、次は クイーンや キング……それとも……。
いずれにせよ、天瀬の隠し玉が何処までやれるのか……。
期待だけは、させて貰おう……。 」
…………。
……。
青年 有馬要人は、今も尚 心が折れることなく 戦いを組み立てていた。
これまで以上に変則的な軌道で 滑走し、先程の自分と同じ轍を踏まないように対処策を講じる。
幸いな事に 銃騎士からの手痛い銃撃は 圧縮された烈風の塊らしく、
アルバチャスの流線型の装甲によって致命的な外傷を避けていたのだ。
痛みは有るが 生身で受けた傷には及ばない。耐えられるだろう。
依然として、不利な戦況に変わりはないが 少しは安堵できる。
何故なら……。青年にとっての最初の目論み……。
注意を APCの社屋から自分自身に変更させる策は成功したのだから……。
だが、このままでは 追い込まれて一方的に消耗させられるのは 火を見るよりも明らかで……。
付け焼刃だったとしても次の策に移る必要がある。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Wand !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ワンド !! ) 』
…………。
武装機能 を再度起動して 即座に B.A.Wandを呼び出した。
杖の先端から青白い光を継続的に放ち、自身の姿を大きな光の陰に隠して精密に狙えないように攪乱してみせる。
…………。
「 こうすれば精密な狙撃はできないだろう ?
……近づいて来い !俺はここだ !! 」
…………。
……。
実動班の待機室では……。
モニターを観測する 1人の班員が 鼻息を荒くしていた。
鼻息の荒い班員は、未だに 待機を継続する 班長を相手に、意見具申を行う。
…………。
「 丹内 班長 !!
まだ 加勢しないのですか ?
自分は、まだ 配属されて 2カ月程の新参ですが、
敵は 高い機動力と 高水準な 射撃手段を持っている 新手のように見えます。
C.E.Oや 天瀬部長が秘密裏に作り出した新型だとしても、
単独で戦うには荷が重すぎるのでは無いですか ?
自分は 22災害で祖父を亡くしました……。
当時 5歳で何も出来ませんでしたが……。
家族の中で 塞ぐ事の出来ない、大きな穴が空いたような遺失感を 子供ながらに感じました。
C.E.Oからの指示で待機を命じられている事はわかります。
………ですが !!
このままでは、有馬さんに 勝機は 見えないのでは無いでしょうか ?
敵の侵攻を 許せば 新たな惨事を 生むのでは無いでしょうか ?
丹内班長の力が 有馬さんに必要なのでは 無いでしょうか ? 」
…………。
新米の直訴によって ピりついた空気が包む。
そんな中で 丹内空護が口を開いた……。
…………。
「 ……荒井。
貴様の御祖父さんの事は……残念だったな。
突如訪れる不幸事は、残されたものの心に楔を残す。
実動班の 1期生だった俺の恩師が、そう話していた。 」
「 ……それなら !! 」
「 だからこそだ。
だからこそ……。C.E.Oの判断を疑ってはならない !!!
俺達が、今 復興の進む この街で暮らせるのは、
C.E.Oが考案し、特務開発部部長が 共に作り出した 特殊小銃 W.C.P.Sが有ったからだ !!
そして、数多の 先人達が 血を流し命がけで戦った !!
その末に 完成したのが 今のアルバチャスだ。
俺達の使命は 戦闘処理だけではなく、後世に戦いの記録を残す事でもある。
実動班には、後に続く者が新たな驚異に立ち向かえるように、
命がけで 手がかりを 残さなくてはならない 局面も有るんだ。
荒井……。熱意や志の高さは班長として頼もしく思う。
だが今は、辛いかもしれないが耐えてくれ。
交戦後の現場処理にしろ 加勢するにしろ、指示は C.E.Oか 特務開発部から降りてくる筈だ。
今は、いつでも動けるように 心構えだけを 用意して 静観するんだ。 」
…………。
班長が 初々しい若者に、自分達の任務についてを説く。
しかし、その内心では任務への理解とは別にして……。
新入りの アルバチャス……。有馬要人の 戦況は気にかけており、
特務開発部に在籍する 旧知の友人である 天瀬十一からの合図を待ちわびていた。
…………。
……。
特務開発部では……。
情報収集にあたる人物が 仕上がったばかりの 第 1次データに目を通す。
第 1次データに目を通していたのは、白衣の青年 天瀬十一だった……。
このデータは、code-0-と銃騎士のエイオスとの戦闘を分析して、簡易的に取りまとめられたものである。
白衣の青年は 第 1次データを叩き台にして、白衣の似合う女性 とも 2点 3点 話し合った。
白衣の似合う女性 夢川結衣が まとめ上げた、怪人側の分析も迅速に精査する。
空駆ける銃騎士は、天瀬十一と 夢川結衣が 話し合ったばかりの、
特殊個体の特徴を より一層 持ち合わせていたように感じたからだ。
話し合いの後も、白衣の青年は 思考を巡らせた。
…………。
白衣の青年 天瀬十一は、短時間の熟慮の中で……。幾つかの疑問に行きつく……。
…………。
空飛ぶエイオスは……。特殊個体の共通項を少なく見ても 2つ持っている……。
2.専用の武器を携行し、4.特殊な無二の能力……、つまり 今回ならば 自由飛行能力の 保持だろうか ?
これを踏まえて考えると……。エイオスの特殊個体に備わっているとされる、特徴の 1つ……。
タロットカード への関連……。
今回のエイオスの外骨格は、鎧を模しているようにも見えた……。
タロットカードであれば、小アルカナ……。騎士のカードがある……。
小アルカナと言えば……。
アルバチャスの武装 systemの中の 1つ……。B.A.Cupも 聖杯の意味合いを持っている。
小アルカナ…………。騎士……。聖杯……。
アルバチャスにしても、エイオスにしても……。
何故 こうまでして、タロットカードと関連が強いのか……。
白衣の青年は 身近な 2人の人物に、糸口が眠っている可能性を 睨んだ……。
父の 天瀬慎一(アマセ シンイチ)……。
そして、もう 1人は APCの C.E.O……。神地聖正(カミチ キヨマサ)……。
アルバチャスの開発にも関わった 2人が 何を知っているのか……。
…………。
気になる事は尽きないが……。
今回の戦闘処理においては、及第点とも言える 情報が集まったように思えた。
父である特務開発部部長に、一定段階のデータ収集の完了を知らせる。
幾つか言葉を交わした後、
天瀬十一は 足早に自身のデスクに常設されている 専用のマイクの電源を入れた。
白衣の青年は 今も気持ちを押し殺して 待機しているであろう友人に合図を送る……。
…………。
「 空護 !
こっちはもう大丈夫だ。有馬 君の 加勢に向かってくれ !
今回のエイオスの 第 1次データを 君の systemにも送っておいた。
遠距離からの 攻撃を主にしている 難敵だ。
それでも 射撃能力と 近接戦闘能力の高い君の code-7-で、
有馬 君と 上手く連携して 戦えば 充分勝機は有る。
同じ情報は、有馬 君にも 共有済みだ 2人の健闘を祈る。 」
「 まかせろ !! 」
…………。
白い戦馬車が 道化への加勢に急行する。
有馬要人にも 同様の連絡は行われており、間違いなく朗報だった。
…………。
……。
青年 有馬要人が、天瀬十一からの 連絡を受け取るまでの間……。この間の奮戦歴は散々なものだった。
最初の B.A.Cupによる 5発の威嚇射撃は、同数の狙撃でカウンターを返され……。
B.A.Wandによる 狙撃妨害による誘い出しは、バラまかれるような 掃射で行動範囲を絞られてしまう……。
得意な B.A.Pentacleによる 起死回生を 狙った空中での連脚も、
ダメもとの B.A.Swordも、自在に飛び交う銃騎士が相手では、懐に入る事すら出来ない状態が続く。
飛翔能力が厄介で 立体起動の動きを読み切れない……。
こんな状況だ……。
不甲斐ないが、丹内空護の加勢は ありがたい。
にも関わらず、万策尽きて 回避行動に専念する 青年の中で ある考えがチラついた。
ストゥピッドの 滑走速度でも、銃騎士の持つ飛行速度には僅かに及ばない……。
丹内空護は歴戦の英雄で、
射撃能力が高いアルバチャスでは あるものの、滑走速度等の機動力ではストゥピッドには劣る。
ならば、立体軌道を持つ相手には 2対 1でも 対等とは言い切れないのでは無いか ?
機動力が優れた自信のアルバチャスですら、射程外からの攻撃には防戦に回るしかなかった……。
仮に、code-7-と銃騎士が 同程度の射程能力を持っていたとしても、
機動力が高く 行動範囲の広い方が 優位な事には変わりはないだろう……。
それに、あの銃騎士の行動は アルバチャスの存在を 初めから 知っていた ように見えた……。
もし片方を弱らせて、もう片方を誘き出す 狙いが有ったとしたら……。
数分後……。丹内空護の現着は、エイオスにとっては標的が出揃う絶好の機会を意味する。
最前手のヒントを探す中で 1つの賭けを思いつく……。
…………。
……。
天瀬十一は APCの 特務開発部から 青年の 行動の変化に気が付いた。
直ぐに 音声通信を入れて 無茶をしないように、強く注意喚起を行う。
データを集める だけ の状況とは異なり、今は単身で 無理な戦い方をする必要は無い……。
APCの誇る 手練れの 戦馬車が直ぐに合流するからだ。
…………。
……。
有馬要人は 音声通信に 応答するが 新たな策の実行は止めない。
滑走によって 空飛ぶ騎士の下を並走し、B.A.Cupの銃撃のよって 今まで以上に苛烈に銃騎士を挑発する。
ニューヒキダで 最も高さの有る 高速道路を ホバー走行で目指した……。
疾走する傍ら チラリと上空を目視し 空飛ぶ銃騎士が 未だに自分を狙っている事を確かめる。
青年は 自分自身に向いている 銃口を 目視で捉え、
自分にしか 聞こえない程度の声量で 心の内を 呟いて、行動に反映させてた。
…………。
「 俺とお前の どっちが勝つか……賭けだ !! 」
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
ホバー走行で 疾駆する code-0-を、アルカナの光りが包み込む……。
白衣の青年は、再度 青年の 無茶な行動を諫めた……。
…………。
「 有馬君 !!聞こえているか ?
さっきも話したと思うが直ぐに……。 」
「 丹内さんが来るんですよね ?
十一さん。
けど、その前に打開策が見つかりそうなんです。
機動力の高い 俺のアルバチャスで、
今からこの状況を……ひっくり返します !」
…………。
青年の意思は揺るがない。
道化のアルバチャスは 更に加速していった……。
B.A.Pentacleによる 護符の恩恵で、加速度的な速さで滑走する……。
青年は 頃合いをみて B.A.Wandを 起動して 杖の先端を地面に向けると、
自分自身に 貯め込んだエネルギーを、滑走を続けたまま注ぎ込んだ……。
けたたましい量の青白い光の放流は、
まるで大型のジェットエンジンのような 轟音を周囲に撒き散らし空気を震えさせる……。
…………。
白衣の青年は、青年が何をしようとしているのか 完全に察知した。
…………。
「 有馬君 !!まさか……。
ダメだ 危険すぎる !!
そんな 使用方法は 推奨されていない !!
教えてないぞ !? 」
…………。
光の放流によって B.A.Wandが 異音をまき散らす……。
青年は 何度目かの音声通信を受けるが……。
意思疎通を行う前に 光の放流の源によって 既に空中へ飛び出していた。
code-0-を 空中に攫うほどの 強い推進力で、大空に向かう……。
…………。
……。
異様な密度の アルカナの光は、銃騎士に危機感を与えたのか……。
銃騎士のエイオスは、即座に旋回して楕円のような軌道で 青年から離れていく。
…………。
……。
青年 有馬要人は、初めて 逃げ腰に成った 銃騎士の背中を目視すると完全に勝機を見出した……。
狙いを形にしようと、ミサイルのように飛翔する B.A.Wandを無理にでも 自身の両足の支配下においた。
何度か足を滑らせそうになるが……。
どうにかバランスを取ると、
まるで原動力の付いた サーフボードにでも乗るような 具合に銃騎士を追跡する。
…………。
……。
アルバチャスと エイオスによる ドッグファイトは、誰も想定はしていなかい……。
赤と黄色の派手な色のアルバチャスは、ニューヒキダで モニターを観覧する全ての人の目を奪った。
この様子は、シェルター内部のモニターにも移されており……。
シェルターから 観覧する人の中には天瀬十一の妹、
天瀬真尋(アマセ マヒロ)の姿もあった。
真尋は 朧気ながら赤と黄色のアルバチャスに既視感を覚える……。
…………。
……。
青年の身体は ペンタクルの恩恵によって、普段以上に 身体能力が強化されているのだろう。
決して 搭乗する想定で設計されていない杖を 巧みに乗りこなして、空駆ける銃騎士に少しずつ迫っていく。
…………。
……。
800…600…300…、
速度が乗った 戦闘機を思わせる音が鳴る……。
code-0-のアルバチャスは 白い空気の輪を 空に作り出し これを潜り抜けて……。銃騎士の背に迫った……。
そして、いよいよ 残り 50mを切った辺りで、
杖の柄の上に 立ったまま、自身の身体を捻って ドリフトする車やコマのように 杖もろとも横向きの回転を繰り出す。
杖の先端から 放出され続ける 高密度のエネルギー放射は、
バネのような 綺麗な螺旋を描きだして、怪人の背に向けて そのまま距離を詰めていった。
青白い光の螺旋は 銃騎士の背中を 何度も撃ち伏せて、
自慢の 飛翔速度を 緩める痛手を 銃騎士に与える……。
要人は、その瞬間を逃さずに 躊躇せず 杖から踏み出して跳躍した。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
今日の戦いで何度目かの B.A.Pentacleを起動し直す……。
自信の頭部に エネルギーの光冠を作り出すと、空跳ぶ道化は銃騎士の背面上方から、
降り注ぐように鮮烈な連脚を 両足で叩き込む。
最後には、ダメ押しの ニーキックで銃騎士の脳天を捉えた。
爆散する銃騎士を上下に通り過ぎる。
自身の快進撃を実感した……。
上空からの ニューヒキダの景色は絶景で、
暫くの間 感動を噛みしめる……。
ふと……。ある大事な見落としに気が付く。
恐らく……。
青年が 銃騎士との賭けを始めた時に、天瀬十一が何度も賭けを止めたであろう理由とも合致する。
戦いに集中しすぎて、安全に地上に 帰還する方の手段を 一切考慮していなかった。
銃騎士を倒した 派手な彩色のアルバチャスが、自由落下に身を任せて 遥か上空から高度を落としていく。
…………。
「 ……まずい !!考えてなかった。
このまま落ちたらどうなる ?アルバチャスの装甲なら……。
……流石に この高さはまずい か !?
……後 何秒 有る ?
助けてーーーーーーーー !!!!
ぅあああああああ…… !! 」
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
断末魔を上げる道化が、地表に叩きつけられる直前……。
そこへ 滑走で駆けつけたのが、白い鎧のアルバチャスだった……。
タイミングよく滑り込み、道化を両腕で抱え込むように横抱きする。
……いわゆる お姫様抱っこである。
丹内空護は、自由落下の重力を 滑り台のような要領で横軸方向の推進力に力技で転換させたのだ。
…………。
「 ……あああああぁぁぁ !?
ぁありがとう !!!!空護さん !!!!!! 」
「 ッフー !!……馬鹿かお前は !!!! 」
…………。
青年は 救出された 御姫様のように戦馬車に抱えられるが、
狼狽を誤魔化すように 満面の笑顔を彷彿とさせる声色で感謝の気持ちを伝える……。
丹内空護からすれば、間に合うか間に合わないか ギリギリの瀬戸際だった……。
有馬要人は 快進撃を 叩き出すが、丹内空護からの大目玉も頂戴する。
青年は アルバチャスを解除せずに、横抱きのままワザとらしく耳をふさいで見せた……。
これが 益々、丹内空護の怒りに油を注ぐ事に成るが……。
坊主頭の青年が 戦闘処理の真っ最中に 感情を表に出す姿は 只々 珍しかった。
…………。
「 有馬 !!何故、俺の 現着を待たなかった ?
どうなるか 誰の予測もつかない手段は 2度と選ぶな !! 」
「 ……けど勝てました。
それに次にそうなっても、また 空護さんが助けてくれますよね ? 」
「 流れ者め。まだ懲りて無いな ?
貴様の考え方が 常に誰かからのフォローを 期待している見切り発射なら いずれ惨事を招くぞ。
そもそも俺達 Resist-Ace-は……。 」
…………。
青年の軽い様子に苛立ち、横抱きをしたままに上司として叱責する。
珍妙な光景を静めようと、天瀬十一が 2人のアルバチャスに 音声通信で話しかけた。
どうやら、銃騎士による被害状況の調査や戦後処理として、Resist-Ace-が code-7-に遅れて出発したようだ……。
…………。
……。
殆どの群衆は、銃騎士と 道化の綱渡りのような戦いを 観戦してみて、
今回の戦いも APCによって想定された安全なもの として認識する。
……が しかし、社長室から 1人で 観戦していた 人物……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)は、別の何かを見据えて僅かに口角を上げる。
…………。
「 やはり底が知れないな。
初期型とはいえ 双子の片割れは 伊達じゃないか。
ならば次はどうなる ?
次の相手は……。 」
…………。
不敵な笑みを 浮かべる 壮年の男は 小さく呟き、
自身のパソコンのディスプレイと 紙の資料に目を移した……。
ディスプレイには、特務開発部によって解析されて、作り上げられた今回の 解析データが映し出されており、
紙の資料には既存のアルバチャスとは 異なる姿の 2種類の別のアルバチャスと思われる図案や名前が記載されている……。
…………。
「 それにしても天瀬の奴め。
いつまでも私の足を引っ張る気か……。 」
…………。
C.E.Oは資料に目を通しながらも、
先程、社長室に訪れた身勝手な特務開発部部長への憤りを思い出す……。
天瀬慎一 は、code-7-の出撃を事後報告として行ったのだ。
これは C.E.Oの陣頭指揮を阻害するもので、相手が付き合いの長い古い間柄だったとしても許されるものでは無かった。
静かに湧き上がる怒りは声色に反映されており、只ならぬ因縁を内包し怨嗟を燻らせる。
………………。
…………。
……。
- 前 回
- 次 回