- 02話 -
愚者と神
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目次
~愚者vs~
ずんぐりした怪人 相手に 生身で戦う青年 は……。
謎の端末によって 赤と黄色の派手な装飾の道化のような鎧を身に纏う……。
青年 有馬要人(アリマ カナト)は、目の前の怪人エイオスを相手に、戦闘態勢を整えると未だに折れない強い意志を言語化する。
…………。
「 ここから俺が !全てをひっくり返す !! 」
…………。
力強く宣戦布告して 生身で挑んだ時と同様に走り出す。
肉弾戦を仕掛けると 先程とは異なる感覚を 青年は感じ取った。
打撃や 殴打の 1つ 1つが確実に、怪人への有効打として効果を示していたのだ。
変化は それだけには留まらない……。
先程までは 立ち上がる事でさえ、荒い呼吸をしてしまうような青年の身体は軽くなっており、ささくれ程度の僅かな痛みも感じない。
恐らくこれもアルバチャスの基礎的な機能の 1つなのだろう。
…………。
「 いける !!
……これなら 戦える !! 」
…………。
アルバチャスを起動した 青年の頭部を覆うマスクの内側の視界には、
生身の人間と同様の 視覚情報の他に 怪人エイオスとの戦闘処理を考慮した、あらゆる情報が視覚化されて表示されている。
他にも 視覚化された情報群は、使用者である要人の意志に呼応するように、
適切な情報が 選出されているようにも思えた。
記念館の映像で 白いアルバチャスの強さに熱いものを感じた影響からか、
展示物や パンフレットで 知りうる情報を 夢中で飲みこんだ自分ならば……。
目に見える全てを 有効的に扱う事で、初めて起動した アルバチャスだとしても 使いこなせるだろう。
有馬要人は 最大限の確証を持って 気を引き締める。
軽い身のこなしで 小さく跳躍し、
怪人との 立ち位置を巧みに切り替えては 打撃を叩き込んでいく。
程なくして、自分達を追い詰めた 驚異の怪人が 弱り始めている事に気が付くと、
白いアルバチャスの戦闘映像を思い起こした……。
怪人の様子を 伺いながら バックステップで距離を取り、
記憶を頼りに 自身の腰部側面の センサーから 武装 systemを起動する。
狙い通り 武装 systemが動作して、
センサーが設置されている側面と同方向の空中に、4種類のホログラムが投影された。
…………。
「 ……正解。なら この中から……。
確か……これか ? 」
…………。
4種類のホログラムの中から【P】の文字に似ているロゴを選び、人差し指で触れる。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Pentacle !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ペンタクル !! ) 』
…………。
作動音の アナウンスが流れた瞬間 この効果を実感した……。
青年を包む 神秘の力が 今まで以上に 膨れ上がり 高まっていく。
身体中から吹き出る 神秘的な青白い光の粒子は、
アルバチャスの頭部に 光の円環を作り出していき、最大限に高まった 神秘の放流が 頭部から 光の柱となって立ち昇る。
光の柱は おびただしい 光の量で、螺旋を描いていた。
ペンタクルの言葉が意味する 護符としての莫大な恩恵は、
青年の身体中を駆け回り 目の前の戦いの全てを、終わらせるモノだと本能的に知覚させる……。
…………。
……。
これまでの様子を 街中の監視カメラで観測していた APC内部では、
多くの職員が code-0-を使いこなす謎の青年に驚愕する。
一方で、その感情とは別に怪人との戦闘の終息を願い、顛末を見守った。
その中には 謎の青年に助けられた女性の兄妹に あたる白衣の青年の 姿も有った。
白衣の青年は、可愛い妹が 赤と黄色のアルバチャスの お陰で、
九死に一生を得た事には安堵するが、同時に 別の心配事を気にかける……。
…………。
……。
赤と黄色のアルバチャスは、大量のエネルギーを内包し これを全身に行き渡らせる。
貯えた力の 一部を使い 一蹴りで怪人の懐へ入り込むと、
神秘の力の放流を全て ぶつける様にして 残像が見える程の鮮やかな蹴りを左足のみで何十発も叩き込んだ。
怒涛の 連脚の最後には 身体を回転させて 回し蹴りで牽制すると、
小さくステップを踏んで 軸足を切り替えて 即座に右足で 怪人を上空へと 蹴り上げる。
青年は上空で 自由を失った怪人に更なる追撃を加えようと即座に動き出した。
先程の 蹴り上げた右足を 返すように地面を踏みしめて 大きく跳躍し、
身体に残る ペンタクルの恩恵の全てを 右足の一撃に注ぎ込む。
赤と黄色のアルバチャスが 護符の恩恵を使い果たして着地した頃……。
……その後方の空中では怪人が青白い光を散らしながら爆散していた。
…………。
「 ……倒したのか ?
これが アルバチャス……。
けどこれ、どうやったら元に戻れるん……。
……それよりも、2人を病院に連れてかないと !! 」
…………。
青年 有馬要人は 自身が行った 戦いの成果に驚愕するが、
直ぐに それよりも必要な出来事に気を回した。
意識を失ったままの 巻健司や 名前も知らない女性に 向き直り 歩み寄る……。
青年の足元の地面に 見た事の有る 青白い光の銃撃が 数発被弾した。
…………。
「 止まれ !!
貴様 APCの人間ではないな !?何者だ !! 」
…………。
記念館の映像や パンフレットで見た事の有る 戦馬車のアルバチャスである。
この街の 象徴は、青年に銃口を向けて 遠方から急接近して来たのだった。
白いアルバチャスは 直ぐに距離を詰めて 青年に隣接すると 銃口を背後から接触させる……。
青年は 事のあらましを説明しようと、両手を上げて弁明を急いだ。
…………。
「 待ってくれ !!
俺は、俺達はさっき怪人に襲われて……。 」
「 A-15 地区の怪人なら報告が上がっている。
だが お前は誰だ ?
実装配備されている codeでは無いな ? 」
…………。
……。
F-04 地区で戦っていた 白いアルバチャス……。
丹内空護(タンナイ クウゴ)は、火球を放つエイオスに 一度は苦戦するが、青年よりも早く その地区での戦いを終わらせて A-15 地区へ急行していた。
というのも、彼我不明(ひがふめい)の若い男が アルバチャスを起動し、
戦っているとの情報が APCからの音声通信で入ったからである。
アルバチャスは APCが保有する独占戦力であり、社外秘の技術も多数使われている。
実動班の 丹内空護には専門的な事はわからないが、
特務開発部に在籍する旧友からも アルバチャスがどれ程 重要な技術によるものか くらいは何度も聞いた。
それを狙う産業スパイの存在も想像に容易い……。
謎の怪人エイオスへの 対策兵器として使うからこその技術も 人間の争いや私欲に利用させてはならない。
万が一にも起きてはならない悲劇を未然に防ぐ為、
丹内空護はアルバチャスの 足裏に備え付けられている 滑走機能で A-15 地区へ急行したのだった。
幸いな事に A-15 地区周辺の戦闘は APCの判断によって、途中から市街地モニターへ放映されていないようだ。
丹内空護が 現着すると、A-15 地区に出現した怪人の姿は見当たらず、
アルバチャスの索敵機能でも 該当するような 情報は得られない……。
白色のアルバチャス が現在得られる情報は 目視による 彼我不明(ひがふめい)の存在……。
遠方からも 視認可能な 赤と黄色の道化のような存在が立っており、
道路わきに倒れる 2人の民間人に近づいている。
丹内空護は 躊躇せずに威嚇射撃を行い、
滑走機能 を巧みに使いこなして 道化の背後に回り込み 銃口を向けた。
…………。
「 正直に答えろ !!
貴様は誰で、ここで何をしている。その姿は何だ !? 」
「 答えるよ。俺は只の……。 」
…………。
彼我不明の 赤と黄色の道化が、
言語を発する途中で APCの C.E.Oから緊急を要する知らせが入る。
…………。
「 アルバチャス code-7-。
丹内 君。聞こえるかな ?
私だ 神地(カミチ)だ……。
急を要する為 君だけに直接、音声を飛ばしている。
至急、目の前のアンノウンを撃破してくれ。
22災害の残党が アルバチャスの能力を模倣し、
擬態している可能性が極めて高い……。
先程の怪人が 倒されたのも……、
過去の大災害同様に同士討ちを行う習性によるものだろう……。武運を祈る。 」
…………。
知らせを最後まで聞き終えると、
戦馬車のアルバチャスは 即座に戦闘態勢に移行した……。
ホバー走行で ぐるり と旋回すると、道化と 怪我人 2人の間の位置に入り込む。
そのまま 自分の身体を盾にして、背後の怪我人 2人を護る態勢を整えると、
打撃と銃撃を組み合わせた 流れるような猛襲で、赤と黄色の道化を怪我人から後退させていった……。
丹内空護は 一気に勝負を決めようと動き出す。
武装 systemを起動し、中空に投影された 4種類のホログラムから
Swordを意味する【S】の文字のロゴを選んだ。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Sword !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ソード !! ) 』
…………。
作動音のアナウンスと共に 丹内空護の手に握られていた 銃が消えると 刀剣型の武器が出現する。
新たに出現させた武器を片手に握り、
反対側の手で作動させた ホバー滑走によって無音で間合いを詰める、そして そのまま容赦なく剣撃を浴びせていく。
…………。
……。
青年は 困惑した……。
記念館で見た映像から 憧れのような念を抱いていた 戦馬車の英雄が 目の前で 自分自身に攻撃を仕掛けている……。
確実に仕留め為なのか 隙の無い攻勢が続き……。
怪人との戦闘体験が霞むほどの感覚を覚える。
相手は戦いに慣れた歴戦の英雄なのだ……。
少なくとも……。
強力無比な 刀剣の斬撃を防ぐ手段が無ければ 長くは持たないだろう。
戦馬車の攻撃は 吹き飛ばされる隙すら与えない……。
青年 有馬要人は 今を生き残る事だけを模索し、気が付けば武装 systemを起動していた。
…………。
『 Barrage Armed !! Function !! Sword !!
( バラージ・アームド !! ファンクション !! ソード !! ) 』
…………。
赤と黄色の道化は 刀剣型武器を呼び出し、白い戦馬車の剣を受け止める。
どうにか 火花を飛ばすほどの鍔競り合いに持ち込んだ……。
…………。
「 まってくれ !!
俺は只の観光客だ !!人間だ !! 」
「 貴様……。本当に人間なのか ? 」
…………。
丹内空護の 頭の中には 疑問が浮かんでいた……。
……新型のアルバチャスが実装された……。そんな話は聞いたことが無かった。
……仮に 新型が 実装されるとしても……。
実戦に導入するのであれば 実動班の班長であり、
アルバチャスとして 職務に当たる自分自身に 何の情報も降りてこないのは不自然だ……。
少なくとも、特務開発部で 働く 友人達からの情報が秘匿される理由も 思い当たらない。
…………。
……。
これまで、半年間程 怪人エイオスの戦闘処理を行ってきたが、言語を発する怪人など遭遇した事も無かった。
かといって……。
廃墟同然にまで壊滅した この地域を復興させた立役者であり、最初に街の英雄として親しまれた人物が……。
……APCの C.E.Oが嘘を ついているとも思えない。
只の人間だったとしても……。
怪人を単独で打倒し……。
剣撃に臆する事無く アクロバットのような 身のこなしで立ち回る 人物は 只の観光客とも思えない……。
それこそ、何かしらの目的を持った 訓練された産業スパイとでも考えた方が信憑性が高いだろう……。
…………。
……。
戦馬車のアルバチャス 丹内空護は、
あらゆる疑念を精査しながら 戦いを組み立てた。
白いアルバチャスは目の前の道化への 1つの対処を見つけ出す……。
アルバチャスならば 使用者の負担を和らげるために、
規定値の外的負荷や損傷を与えられる事で 強制解除が出来るはずなのだ。
荒っぽい手段に成るが 一気に大技で弱らせる手段に移る……。
…………。
……。
青年 有馬要人は、自分より体格が上回る相手との鍔競り合いに押し込まれ始めていた。
その力強い剛剣の圧力は流石この街の英雄と言った所だが、
こんな状況にも関わらず 自分でも不思議な程に絶望感が無いと気がつく……。
むしろ英雄としての職務を全うし戦う 素顔も知らない目の前の誰かに、
妙な安心感を感じた気がした。
とはいえ、このまま誤解されたままの 現状については不本意である事に変わりは無い……。
白い戦馬車との戦いを終わらせる方法を模索し これを狙った。
相手が剛力で 押し込んでくるタイミングを見図ると、
相手の押し込む力を利用して大きく後方へ跳躍した……。
更に そこから 2度 3度と後方へ飛びのき、相手が使いなれている ホバー走行による追撃を警戒する。
…………。
……。
有馬要人と、丹内空護の 読み合いが 重なった……。
…………。
大技を仕掛けるなら……。
仕掛けてくるなら……。
……この瞬間だろう。
…………。
戦馬車と道化が、ほぼ同時に ペンタクルによる恩恵に手を伸ばす。
その瞬間だった。 現在の交戦地区のアナウンス用スピーカーが 2人のアルバチャスに呼びかける……。
…………。
……。
「 そこまでだ 2人とも……。
どちらも戦う必要はない。
知っているとは思うが私は、APCの C.E.O……。
神地聖正(カミチ キヨマサ)だ。
まずは、お疲れ様。
君達のお陰で新型のアルバチャスの公開型実証試験として良い データが取れた。
今回の あらまし については、私の方から後程 説明しよう。
まずは それぞれメディカルチェックを受けてくれ。
尚、エイオスによる被害については 事後処理班が既に活動している。
先程の怪我人も 搬送済みなので安心してくれていい。
code-7-は新入り君をいつも通り、
アルバチャスを解除せずに APCのメンテナンスルームまで案内してやってくれ。
……以上だ。後でまた会おう。 」
…………。
2人のアルバチャスは予想外の状況や、
C.E.Oのアナウンスに腑に落ちない部分もあったが、すっかり緊迫していた空気を吹き飛ばされてしまっていた。
……ひとまずは 思い思いに気持ちをの落としどころを探す。
…………。
……。
APCの 社長室では……。
C.E.Oの男 神地聖正が、2人のアルバチャスに 事後説明の旨を伝え終えて、
1人の人物に視線を移した。
…………。
「 ……あっちは、これで良いだろう。
真尋ちゃんも命に関わるような怪我はしていないそうだ。
良かったな 慎一……。
ところで、どういう事か教えてもらうぞ ?
私達が先程……。
叩き台として話し合った前回の試験結果とは 大きく異なる状況がエイオスを退けた訳だが……。
そもそも code-0-を起動した人物は どこの誰かな ? 」
…………。
C.E.Oが同年代の壮年の男を捕まえて、赤と黄色の道化の存在について言及する。
特務開発部部長としての役職を持つ 1人の男は、
娘の安否を知り 安堵した一方で 事の発端をどう説明するべきか頭を抱えて嫌な汗をかいていた。
………………。
…………。
……。
~神の采配~
C.E.O 神地聖正(カミチ キヨマサ)からの指示を受けて……。
APC 特務棟へ帰還した 丹内空護(タンナイ クウゴ)は……。
メンテナンスルームに 謎の青年を 早々に預けて、一足先にメディカルチェックを済ませる。
普段以上に手早く マニュアル化された検診を終わらせると、足早に特務開発部を目指した。
…………。
……。
丹内空護は 歩きながらも考える……。
今回のような重要度の高い試験であれば、昔馴染みが何か知らされている可能性が高い。
特務開発部は APCの成り立ちや存在意義に最も影響するせいか、C.E.Oの意向を 社内で一早く通達されている事も多い。
特に 丹内空護の昔馴染みは、
C.E.Oとも付き合いの長い 特務開発部部長の長男であり 最近は C.E.Oにも気に入られている 天瀬十一(アマセ トオイチ)だ……。
もし、天瀬十一が 何も知らされていなくとも……。
特務開発部部長の 補佐役を務める 優秀な女性技術者 夢川結衣(ユメカワ ユイ)も居る。
この 2人の何れか もしくは両方が、
今日 起こった 一連の出来事の背景を 知っている可能性は 決して低くない筈なのだ。
C.E.Oの行動は普段からも、サプライズ好きのエンターテイナー気質を垣間見せるが、
今回のような民間人を巻き込んだ 杜撰な戦闘処理は どうにも引っ掛かるものが有った。
…………。
「 十一 !!
お前は今日の試験について何か聞いていたのか ?
俺の記憶 違いじゃなければ、
新しい codeの開発も 導入も……。
今週のレポートの段階では、
進捗状況は芳しくない事に成っていたはずだ。 」
「 ごめん空護。
俺も今日の事は殆どわからないんだ。
……というか 少なくとも特務開発部の全員が そうだと思う。
F-04 地区のエイオスとは 別の個体が A-15 地区に出現した時は、
恐らく全職員が虚を突かれて動転していたよ。
今までに無い事例だったから、
22災害の再来を心配する声も聞こえていたくらいだ。 」
…………。
……。
白衣の青年は 鼻息を荒げる戦馬車の英雄に、
自分が答えられる 最大限の不明瞭な現状を 明確に伝える。
天瀬十一は、自分の無力さを腹の底に沈めて 成るべく普段通りに務めた。
英雄と呼ばれる友人が、自身の身体をひたすら鍛え上げ、
安全基準スレスレの域で 調整された アルバチャスで戦う姿を間近で見てきたからだ。
…………。
……。
ざわつく部内に 特務開発部部長 天瀬慎一が姿を表す……。
異例の事態をどう取りまとめるか、C.E.Oとの話し合いを終えたであろう人物に視線が集まる……。
注目を集める 壮年の男性は 数分間で 一気にに老けたような焦燥した様子だった。
…………。
……。
謎の道化、有馬要人(アリマ カナト)は、
戦馬車の英雄より 十数分遅れて メディカルチェックを無事に済ませる。
何枚かの書類への記入を終えると、聞き覚えのある 壮年の男性の声に気が付いた。
壮年の男性は、気さくな様子でメディカルチェックや
それに関する書類仕事を行う職員達と言葉を交わし、自然体で無理の無い労いの言葉を送りながら 青年に近づいていく。
…………。
「 君が、有馬要人 君だね ?
初めまして。私が APCの C.E.Oを務める 神地聖正(カミチキヨマサ)だ。
さっきは音声のみの不躾な挨拶ですまなかったね。
君の お陰で、ニューヒキダも我社も
取り返しのつかない 被害を出さずに済んだよ 本当にありがとう。
心ばかりの御礼として、もてなしをさせて頂きたい。 」
…………。
青年 有馬要人は予想外の人物が表れて 内心大きく動揺するが、
申し出を素直に喜び案内を受ける事にした。
気さくな C.E.Oは、先程 青年が 記入した書類から、
観光に訪れた事を知ったようで……。
当面の滞在先や 食事等の生活に必要な手配を済ませてくれたらしく、青年が好きなだけ滞在するようにと打診した。
調度、キッチンカーでの食事を中断させた事も有って 非情に有難かった。
青年は 昼食の事と紐づいて今日の出来事を思い出す。
巻健司や名前も知らない女性の事が 改めて気にかかり、
2人の安否についてを 気さくな C.E.Oに問いかける……。
…………。
「 君の勇気ある行動の お陰さ……。
2人とも無事だよ 良かったね。
流石に何日かは検査入院しなければならないが、
大事にはならなそうだ 安心しても良いだろう……。 」
…………。
青年が今日 会ったばかりの 2人の知り合いの無事を確証していると、
どうやら 気さくな C.E.Oが案内したかった場所に到着したようだった。
一旦、隣り合う簡素な個室に通される。
神地聖正は、個室に続く大部屋に 準備が整っているのか確認に行く旨だけを言い残し、
大部屋に繋がっていると思われる扉に姿を消した。
去り際に言い残した言葉によれば、最終確認が済んだ後に合図をくれるらい……。
青年 有馬要人は 空腹と濃密な一日の疲労に刺激され、もてなしの豪華な料理を心待ちにする。
さっきまでは 夕焼けを背に怪人と戦い、
その後は誤解が有ったとはいえ、この街の英雄とも戦ったのだから無理もないだろう……。
扉の向こうから聞こえる大勢の賑やかな声に期待が膨らんだ。
…………。
……。
焦燥した様子の 天瀬慎一が特務開発部のフロアで、
本日の出来事を順をおって説明しようとした矢先……。
……C.E.O 神地聖正が姿を見せる。
神地聖正は、部内フロアにいる多くの職員の注目を 集めた事を目視で確認すると、
特務開発部部長に代わって、今日起きた多くの不確定事項への説明を始めていく。
天瀬慎一は 内心穏やかではなく脂汗をぬぐい静かに目を瞑った。
父の変化に気が付いたのは 白衣の青年 天瀬十一である……。
C.E.Oと父が何を知り、これから何を知らされるのか心構えを新たにした。
…………。
「 皆、遅くなって 本当に すまない。
どうしても 今日 起きた全てを説明するには準備が必要だったんだ。許してほしい。 」
…………。
神地は申し訳なさそうに断りを入れて、深々と頭を下げる。
普段は気さくな C.E.Oの誠意ある態度と言葉によって、部内全体の散らかった心情が整理されていく。
頭を上げた神地は部内の 1人 1人に目を合わせながら更に説明を続けた。
…………。
「 皆も知っているように 半年前から怪人エイオスの出現頻度は日を追うごとに増加し……。
昨今では 1~ 2週間に 1度は出現する程に成ってしまった。
18年と半年前、この街一帯を廃墟同然にまで破壊し、
故郷だけではなく我々の大切な人達の命すらも、たった 1日足らずで奪ってしまった忌むべき怪人。それがエイオスだ……。
そんな奴らへの 対処を君達に支えられて 今日まで行い、
昨今ではアルバチャスを旗印に 地域を大々的に宣伝し 復興出来るまでに回復した。
皆のお陰だ本当に感謝している。
しかし、遂に過去の大災害以来の 異常事態が起きてしまった……。
先程の複数の怪人による同時刻の襲撃だ。
皆が 過去の災禍を思い出し、心に不安や怒りの影を落とすのも無理はない。
だが、安心して欲しい。
実は私と天瀬部長は以前から、複数の怪人が出現する可能性を想定していたんだ !
これまで以上に ニューヒキダの安全を担保する目的で 1つの対策を進めていた……。
それが、先程 君達もモニター越しに見た新たなアルバチャス !
code-0-だ !
流石に 怪人が出現するタイミングだけは、これまでと変わらず 精密に測定するまでにはいかないが……。
今回の実戦を通した起動試験では、
天瀬部長が 私に逐次相談し 地道に改良を繰り返したからこそ 今日の勝利を得られたと言っても過言ではない !!
アルバチャスの増員は、我々の故郷の安寧をますます保証するだろう !!
今後は code-7-と code-0-の 2体から データを集めていき、
画一化された新たな防衛力を増やし、過去の災害を再発させない強固な街と組織を作っていきたい !!
皆には、これからも私に力を貸してほしい。 」
…………。
1人 1人に寄り添うような説明を行い、
再び深々と頭を下げる神地と 新たな英雄を作り出した特務開発部部長に部内全体から拍手が送られる。
多くの職員はそういう事か。と今日 1日の不可解な事象に落としどころを見つけた様子だ……。
神地は拍手喝采が止む前に、
今回実証試験に協力してくれた主役を登場させる旨を付け加えると、青年が待機する個室の扉を開けて皆の前で 紹介した。
…………。
「 さて、そろそろ気に成っている者も 多いだろう……。
今日から我々の心強い仲間であり……。
新たな英雄として APCに所属する人物を紹介したいと思う。
彼が初陣にして エイオスを倒した期待の新星。
code-0- stupid(ストゥピッド)のアルバチャス!
有馬要人(アリマ カナト)君だ !!
歓迎してくれたまえ !! 」
…………。
先程の言伝通りに、神地聖正からの合図を貰い 扉の向こうに進む 有馬要人は、
キラキラした喝采を浴びて 自身が歓迎されている事を確信する。
だが 不思議な事に、想像していたような豪華な料理等は一切見当たらない。 視界に映っているのは 味気のない特殊な機材が並ぶフロア内と……。
……APCの職員と思われる人達の 期待のこもった熱い視線だった。
…………。
「 紹介に預かりました、有馬要人です。
ニューヒキダには、観こ………。 」
「 有馬君には……。
私の伝手で秘密裏に来てもらっていた。
それに伴って、新たな英雄の平穏な プライベートを護る観点から、
正式な発表までは情報を伏せるように協力してもらっていたんだ。
彼には わからない事も多いはずだ、これから仲良くしてやってほしい。 」
…………。
要人の発言に神地が言葉を強引に被せるが盛大な拍手が巻き起こった。
この事態に困惑して、青年は 発言を正そうとするが……。
C.E.Oは 青年にだけ聞こえる程度の小声で話しかける。
…………。
「 有馬君。ここは私に合わせたほうが得策だ……。
実は……。君が使用したアルバチャスの deviceは、
特務条例として APC以外の者の使用は 違反と成り、本来ならば観光客の君には許されていない。
私としては ニューヒキダの善良な恩人を罪人にしたくはないんだ。
……わかるね ? 」
…………。
神地聖正の口から飛び出した 心臓に悪い言葉で、
有馬要人の緩んだ気持ちと表情が引き締まった。
青年は 引きつった表情で無言のまま頷く。
…………。
「 物分かりが良くて助かるよ。
頃合いを見て君を 1人の観光客に戻そうとは思っている。それまでは頼んだよ。 」
…………。
青年は これを了承し、
自分でも よくわからない心持ちを 誤魔化そうとして、この場に居る全ての人に向けて 定番の挨拶を行う。
…………。
「 こ、この街の新しい アルバチャスとして改めて、
よろしくお願いします !! 」
…………。
要人が空腹を満たし床に就くのは、ここから更に 2時間も後の事だった……。
………………。
…………。
……。
2人のアルバチャスが それぞれにエイオスを撃退してから数時間後……。
ニューヒキダの どこかに有る薄暗い謎の洞では、
アルバチャスが纏う青白い光のような神秘的な光溜まりが波立ち うねっていた。
青白い光溜まりは湖のように窪地に満たされており、ボンヤリと洞の中を照らしている。
そんな神秘の うねりの一部が人型に膨れ上がると 少しずつ形を明確にして 光溜まりの淵に勢いよく吐き出されて直立した。
神秘の人型は 末端のあちこちが光の粒子に成り霧散しており、本調子ではない不甲斐なさを恨めしく吐き出す。
…………。
「 ぬうん !!!
まだ、足りぬか !?
アルカナの力よ !!
我が形を成せ !! 」
…………。
人間では無い謎の存在は、光溜まりから更に光を吸い上げる様に
自身の片腕に青白い光を集めて一振りの剣を作り出した。
その荘厳な剣は 鍔に黒い山羊の意匠を持ち、柄頭には鍔とは正反対の印象の神聖な十字のアンクが目立っている。
謎の存在は長大な刃を持った大剣を握り力強く空を切り割く。
これによって 光の粒子の霧散が緩和され、
さっきまで青白い光で明滅していた人型は 皇帝のような冠を抱いた怪人として姿を安定させる。
謎の洞に突如として 現れた怪人は、自身の握る剣の刃を睨みながら 過去に受けた屈辱と 未だ完全ではない自身の復活に憤った。
…………。
「 おのれログの奴め !!
要らぬ邪魔を入れてくれる !!待っていろ人間どもぉ !! 」
…………。
人の手が入らない神秘の光溜まりの淵で、只ならぬ異様な皇帝が雄たけびを上げる。
………………。
…………。
……。
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